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DSSにおける今後の課題

●渡部
先ほど河村さんもおっしゃっていたけれど、障害学生のために、障害を持っているということと、合理的配慮の権利を持っているという簡単な手紙を、教員宛てにDSSオフィスが書くんですよ。1ページの簡単なものなんですけれども。それを障害を持っている学生が教員に直接見せて、「私にはこういう権利があるから合理的配慮をリクエストします」と言うんです。それをずっとしばらくやっていたんですが、来年くらいからそれを変えてしまおうと私たちは言っているんです。 どのように変えるかというと、学生自身が自分で手紙を書く。障害があるからこういうバリアがあります、ですからこういう合理的配慮をリクエストしますという手紙を自分で書くようにしたらどうだと、今、考えているんです。 というのは、英語で言うとセルフ・ディターミネイション(self-determination)といって、自分で自分のリクエストをちゃんと申し出る、そういうことも養うべきではないかと。なぜかというと、大学では法律もありますから、ある程度バリアは少ないと思うんです。でも実際に社会に出て、それで本当に生きていけるか。社会人としてちゃんと社会に貢献できるかというと、そうじゃないと思うんですね。ですから、セルフ・ディターミネイションを養成するために、実際、学生に手紙を書かせて、学生が直接教員と交渉をして、DSSはバックアップしますよという方針にしようと思っているんです。 それを最近、何人かの学生に聞いたら大きな反響が来たんですよ。「それは困る」って。その反響からして、もしDSSがなくなったら、障害学生が自分の障害のことや合理的配慮のリクエストがちゃんと言えるという環境にまだなっていないのではと思います。ということは、私たちの課題は多くあると思うんですね。 ではオフィスとしてはどういうふうにすればいいか。もちろん、教員とのファカルティー・ディベロップメント(faculty development)というんですか、それをもうちょっと強調するとか、今までサービスしていたものが、もしかしたらセルフ・ディターミネイションの逆の効果を与えているのではないか。そういうことを実際に吟味していかなくちゃいけないと思います。それが私たちの大きな課題だと私は思います。以上です。

●河村
ありがとうございました。日本の現状からするとうらやましい次の一歩なんですけれども、でも方向としては最終的には社会に、キャンパスから出ていって、そこでちゃんとやっていける力を大学で身につけることを支援するんだというのは、すばらしい方向だと思うんですね。ご成功を祈っています。
それから、私のほうの立場で言いますと、今ずっと国連のサミットなんですけれども、社会情報社会サミット(WSIS)注釈1616、ワールド・サミット・イン・ジ・インフォメーション・ソサエティというものが、2003年と2005年にジュネーブとチュニスでありまして。私はこのチームでディスアビリティ・ポーカル・ポイントという。サミットでは他にディスアビリティを扱うところはなかったものですから、ディスアビリティについてはここで扱っているんだということでポーカル・ポイントの店を張って、それでやってまいりました。
何をやろうとしたかというと、国際的なレベルで障害者の権利というものを、特に今は情報社会なので、情報化からともすれば置き去りにされてしまういろんな障害、それを置き去りにするような進展ではなく、きちんと配慮をして情報技術が進化し、社会が成熟するにしたがってインクルージョンが進むような、そういうふうにベクトルを変えなくちゃいけない。そのベクトルを変えるためのいろんなポイントがあるはずで、それを国連サミットの基本文書に折り込み、そしてフォローアップのプランニング・アクションに乗り込むんだという目標でやってきたのです。

最終的に文言として折り込んだのは、ITのデベロップメントの中に、ユニバーサルデザインというコンセプト、すべての人がちゃんとアクセスできるIT。それから同時に、ユニバーサルデザインだけでは、ワン・フィット・オールということはないので、必ずその人に応じたアシスティブ・テクノロジーというのも必要になるのだと。ですから、正しくユニバーサルデザインを発展させるのと同時に、必ずユニバーサルデザインがアシスティブ・テクノロジーと協力し合って個別のニーズにマッチしていく、そういうIT発展、そのスタンダードの開発というのが、情報社会を本当の意味で人間を中心にした社会にし得るんだと。そういう提案をずっとしまして、幸いそれが受け入れられたんです。
ですからサミット・ドキュメント注釈1717には、「ユニバーサルデザイン・アンド・アシスティブ・テクノロジー」(universal design and assistive technologies)というのが文言として入りました。それについてちょうど私たち、障害コーカスのグループが権利条約の議論に非常に積極的に関わりまして、権利条約の中にそれがきちんと定義されて文言が入りました。今までの見えない権利障害によって、情報や知識から取り残されてきた人たちのニーズを、基本的にはカバーできる概念が、サミット・ドキュメントにも権利条約にも入っているという状態です。

これを、グローバルにインフラメントする過程で、やはり次の一歩を進めようということが、今、私たちが考えていることです。 そのため先日もブラジルに行って、飛行機の往復が79時間。途中19時間遅れがあって本当は60時間のところが79時間かかりました。
そこに行って、新しいインターネット・ガバナンス・フォーラム注釈1818という、インターネットをどうやって管理・運営するかという各国政府が参加したフォーラムがありまして、そこに障害のある人に出てもらって、最終的なまとめの中にも、障害者が一緒に使えるインターネットじゃなきゃいけないんだということが入りました。
これから、そういう意味でのインフラを作っていくというのが、DAISYのグループの役割だと。それを横目でにらみながら著作権法を改正して、ちゃんと生かせるようにしたり、あるいは具体的に個々の文献へのアクセスのところで活用するように図書館を改良したり、コンピュータラボをうまくつなぐようにしたり。そういう形で、それを先進国だけではなく、発展途上国でもグローバルにアクセスできるようにする。世界中どこにも見えない障害の人たちっているはずですので。途上国は何の検討もされていないですね、日本よりももっとひどい状態なので。そこの人たちと連帯をしてみんなで住みやすい次の社会を作っていくということに繋げられればと思っています。
今日ご紹介いただいたアメリカの取り組みというのは、非常にみんなが参考にできる。最後に渡部さんがまとめてくれたように、一人一人がそういう力を身につけていくという方向へ持っていくというのは、制度以上に、一人一人がそういう力を持つことで社会が変わっていくわけですから、すばらしい方向が、まずアメリカに見られている。アメリカが理想的だとは思わないんだけど、少なくともこの部分に関しては目標にするのにふさわしい。何とか日本でも追いついていきたい。

今日は予定を超えて長時間になって申し訳なかったんですが、本当に中身の濃いお話を聞かせていただきました。どうもありがとうございました。

研究会の写真。左手前から渡部氏、萩原氏、井上氏、右奥河村氏