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1. 「発達障害チェックシート」ってどんなの?

1-1 作成チーム結成のきっかけ

 きっかけは、ある研修会の休み時間での養護教諭の一言だった。「学校に、発達障害の子っているよね」その声に「あ?いる!いる!」と反応した養護教諭たちで自然にひとかたまりのグループができた。「対応、こまるよね?」「うん。うちでは勉強会しようかって先生たちと話してるんだけど、なかなか…」「私、このまえADHDとLD、アスペルガーの特徴まとめたプリントつくって先生たちに配ってみたけど、『病気って教員がきめちゃいかんだろ』とか言われちゃった。むずかしいよ」「だよね。入試のときに、発達障害チェックとかもしたいくらい。とにかく、まず誰が発達障害なのか知りたいもん」…。とくに定時制高校に勤務する養護教諭たちが、ひときわ熱心だった。

 「ねぇ、自分たちで発達障害チェックシート、つくってみない?」私は、口をひらいた。これが、のちに『発達障害チェックシート できました』の著者"しーとん"のメンバーとなっていく。

1-2 勤務先での状況

 当時、私は定時制高校に勤務していた。定時制高校には、さまざまな子がくる。教員間で「うそつきくん」や「完璧ちゃん」とあだ名される子もひとりではない。「うそつきくん」は「うそをつくな」と教員に日常的に叱られている。しかし、私には彼が「うそをついている」と自覚しているようには思えなかった。衝動的に思いつくままを口走ってしまい、結果的にそれが「うそ」になっているのではないか、もしかしたら「うそつきくん」ではなくて、ADHDではと疑念をもっていた。「完璧ちゃん」は、「テスト白紙で出すってどういうことだ!ふざけてるのか」とよく叱られている。「どうして、わざわざ消しゴムで解答が消してあるんだ。消さんかったら60点はとれとっただろう!」「だって、ここから先がわからなかったんです。100点とれないなら、0点のほうがかっこいいです」その答えに、教員は怒り、彼女の思考のゆがみを論証しようと言葉をつくす。(彼女、アスペルガーかも。だとしたら、あの叱り方じゃ、納得しない)と私は、はらはらする。

1-3 作成指針の誕生まで

 「先生たちに、発達障害の可能性を考慮にいれた指導をしてほしい」そうねがうようになった私は、とりあえず、先生たちとともに客観的評価ができるようにと(軽度)発達障害、LD、ADHD、アスペルガーに関するチェックシートを収集した。もっとも学校現場で使用されている文科省作成のシートであれば教員も納得しやすいかもしれないと、職場にもっていったが「これ、すごい恣意的に○がつけられるじゃん」「そもそも、○がついてもどうしたらいいかわからんのなら、意味ないな」「これに○ばっかつくやつは、病院に先にいってもらったほうがいいぞ」などの反応であった。これらの反応から私は

  • 生徒が記入したものなら、先生たちはもっと関心をよせるはず
  • チェックシートをすることで、今後の支援方針がわかるようなチェックシートが必要だ

と思った。しかし、当事者がするためのチェックシートはみつからない。さらに収集過程で気づいたことは、既存のチェックシートが、スクリーニング目的であること。他者評価であること。「健常児」との比較の上で成立していることなどあった。(自分を「健常児」と比較するのは、つらいだろう)(これでは、生徒が自分のことを知るためには使えない)そう判断した私は、自分でチェックシートをつくりたいと考えるようになっていた。「生徒が自分を客観視でき、なおかつ自分を好きになれるようなチェックシートにしたい」という目標をかかげて。

1-4 脱「わるいところさがし」/脱「スクリーニング」のために

 その後、この研修会を契機に集まった仲間が「しーとん」に育ち、試行錯誤の末できたのが、今回刊行された『発達障害チェックシート できました-がっこうの まいにちを ゆらす・ずらす・つくる』(生活書院、2010 年)の第1部である。(2)
 第1部は、実施する教員むけての、私たちのメッセージ「使用上の注意」、こどもたちが自分のことをふりかえり、自分の状況を確認する「質問紙」、質問項目の意図、回答のよみとりからなどフィードバック用の「ふりかえりのプリント」、今後のヒントとしての「ひとくふう集」の4部構成とした。

 「質問紙」のメインの質問は、生徒が①先生に"注意される言葉"から、まず自分の状況を把握する。②"いわれたときの気持ち"で、その時の自分の気持ちを言語化し、整理する。③"それって、長所!?"で、「よく注意されているかもしれないけど、それは場面がかわれば、長所だよ」と自分でみなおすという手順をふむように作成した。それをうけた教員が④「ふりかえりのプリント」のコメントをとおして、はげまし、⑤生徒と話しあいながら、"ひとくふう集"を応用して、それぞれの生徒に個別のスキルを提供していければいいと考えたからだ。

 私たち教員は、これまでおおくの生徒たちと接している。「前もこんな子いたな」とおもうケースもすくなくない。それは、ときとして一足飛びに「こうすればいいの」「こうしなさい」といったアドバイス/指導につながってしまう。しかし、個々の生徒にとってはすべてが初体験である。教員のこうした一方的なアドバイス/指導を聞き入れる準備はほとんどの場合、できていない。教員たちの経験を最大限いかすためにも、まず生徒が「先生にひとりの生徒として認められた」と安心し、「自分は、こういう特徴がある」と自認する必要があるとかんがえた。自己の状況を客観視し、他者が自分を認めてくれていると実感できて、はじめて他者からのアドバイスが「そういうことか」と納得できるとかんがえたからだ。そんな、シート作成に関するさまざまな思いが、「使用上の注意」には、つまっている。ぜひ、シートに関心をもたれた方は、「使用上の注意」から読んでほしい。 以下、刊行以後、私たちに届いた声から、シートの活用方法や意義を考えていく。


(2) この1部は、本書を購入してくださった方の希望があれば、データを送付している。