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社会の中で働く自閉症者 -就労事例集-

池田輝子記念福祉基金障がい者ジョブコーチ支援事業

事例3 職務再設計と障がい特性に配慮した就労支援

~給食センターで働く自閉症の吉田さん(仮名)~

窪田 篤人
社会福祉法人はるにれの里
札幌市自閉症・発達障害支援センター 

1.本人の状況

(1)本人概要

本事例の吉田さん(仮名、以下同じ)は、中度の知的障がいを伴う自閉症の方で、WAIS-R(VIQ 50 ・PIQ-・IQ 43)の療育手帳Bを持つ30歳の男性です。小・中学校と普通学級を卒業し、高校は受 験するも不合格となっています。特に変化に適応することが困難なため、事前にスケジュールや工程 等の確認・調整が必要な方です。うるさい人を好まず、不穏になると、暴力的な発言が多くなり、軽 い他害につながることも稀にあります。

(2)職歴

中学校卒業後に自宅から近いガソリンスタンドにアルバイト就労されました、個人経営者の理解ある環境の中で約5年働いていましたが倒産となり、社長の紹介により近隣のガソリンスタンドで再度就労しましたが、仕事が遅い、口げんか、いじめ等の理由により、1年弱で本人から辞める旨を伝えて離職しました。就職していた間は、特別なサポートはありませんでした。

(3)福祉施設の利用歴

離職後、約3年ほど在宅が続きましたが、自宅付近に知的障害者通所授産施設が新規開設されるに伴い、支援者側の働きかけにより通所利用することになりました。以来、約3年間通所利用していました。

(4)生活状況

29年間在宅でしたが、家族と一部不穏な状況も見られ、平成16年よりグループホームへ移行しました。グループホームでは落ち着いた生活をしており、休日は単独で自由な過ごし方と、単独では困難な外出は居宅介護支援を利用して楽しんでいます。また、月に1~2回は自分で日程を決めて実家に帰省しています。所得は障害基礎年金2級と現在の給与収入61,000円/月です。最低賃金除外は受けていませんが、学校用の給食センターですので季節毎の休み期間も多いため、月給は少なめになっています。

2.就労支援

(1)職場が決まるまでの経緯

吉田さんは、社会福祉法人はるにれの里のワークセンターポロレ就労援助室あるばに通いながら仕事を探しました。その際に就労援助室あるばで、会社より障がい者雇用の相談を受けたため、北海道障害者職業センターと連携し、その会社で職業センターの職務試行法による現場実習を2週間行い評価することになりました。その結果、会社より良い評価をいただき、嘱託社員として雇用につながりました。その会社の派遣先(職場)は学校用給食を作る工場でした。

(2)制度活用について

障害者職業センターの職務試行法を2週間利用しました。その他の制度活用はしていません。吉田さんの所属していた授産施設の支援者により、公的財源はありませんが、独自のジョブコーチ的支援を職務試行の期間と雇用後の1ヶ月間行い、現在はフォローアップを続けています。

(3)受け入れ先の状況について

仕事先は学校用の給食を作る給食工場ですが、雇用元は委託会社になっています。給食工場内には厨房内にパート調理員・用務員が合わせて約20名と、その他事務所に市職員等の事務・栄養士が約5名います。障がい者雇用は社長の方針であり、法定雇用率に関係はありませんでした。以前、自閉症の方がパート就労されていましたが、ある時期よりパニックによる物損等が増えて離職しています。当時、特別に自閉症としての理解はなかったそうです。

(4)支援のプロセス

1) 利用者のアセスメント

吉田さんは、作業所の簡易作業や清掃等の様子から、手順や時間の明確な仕事は、マイペースながらも丁寧に行なっているようでした。一方で、急な変更に適応できず依頼を断ることや、明確でない作業についてはマイナスな判断をしてしまう傾向にありました。たとえば「あれはわからないからやらなくてもいいんでしょ」「きょうはわからないからてきとうに置いておいたのさ」等。また、うるさい人を好まず「○○さんと□□さんはうるさいから嫌いなのさ」等の発言あり、避けることが多くありました。

言葉での指示よりも、文字に記された決まりを守る傾向にありました。混乱する環境にいると、頭が疲れる、頭が痛い等の発言が多くなり、帰宅後も眠る時間が多くなっていました。

2) 職場環境のアセスメント

仕事は、午前に給食工場内の清掃作業、午後に厨房内で洗浄補助作業となり、所属施設の支援者が事前に3日間の職場実習を行い、職場環境のアセスメントと職務再設計をしています。清掃箇所は明確に決まっていますが、順番は決まっていないため、所要時間と時間毎の清掃場所の一般使用状況から、AMとPMに分けてスケジュールを作成しました。また、急に使用していて清掃できない可能性も多々あり、彼の場合、時間通りにできないことが不安や混乱になるため、その際は次のスケジュールに進めるよう時間を指定せず、行なった作業をチェックして次に進むマグネット式のスケジュールを作りました。できなかった清掃箇所は、未作業の場所にマグネットが残り、最後に確認して行うことにしました。また、やり方は特別決まっていないため、支援者と担当社員にて話し合い手順書を作成しました。障がいの特性は以前雇用していた方の自閉症の理解がなかったとのことから、事前に勤務終了後にパートさん全員を集めて話し合いの時間を作っていただき、自閉症の特性についての説明をさせてもらい、質問の時間を作りました(図1)。

図1.掃除の指示書の一部
掃除機のかけ方の説明

3) 職場における集中支援(職務試行~雇用後1ヶ月)

吉田さんは、指示書を確認してその通りに仕事をこなしていましたが、記されていないことに困るポイントがありました。事務室の掃除機かけでは、電話が度々鳴るためその都度掃除機を止めることが決まりになっていました。それは問題なくできていましたが、他の場所で掃除機をかけている際も、小さな電話の音が聞こえると掃除機を止めて待ってしまい、 社員より事務室以外は大丈夫である旨を言われても、変わらず止めて待っていました。他のパートから見てもサボっているようにさえ見られてしまいました。

写真1 スケジュール
作業内容をロッカーにマグネットでスケジュールを掲示している

写真2 掃除用具入れに掲示した確認表
約束事や確認表を掃除用具入れの扉に掲示してある

写真3 食器洗浄作業の様子

そこで、言葉による説明にも「掃除機うるさくて聞こえないと怒られるんでしょ」と不安な様子が見られたため、指示書に、電話が鳴っても大丈夫であることを場所毎に加えて社員と一緒に確認することで、その後は守って掃除機がけをすることができるようになりました。

スケジュールは、1日の作業内容がマグネットで並べてあり、上から下へ遂行していきます。1つ終わる毎に右列へ移動し、使用中等でできなかった場合は残して次へ進み、最後に確認して行います。おおよそ職務試行時の吉田さんのペース(変動がほとんどなかった)に合わせて職務設計したため、確実にこなすことができています。また、終わった掃除箇所を「やってないしょ」「終わったの?」等の声かけに混乱しないためにも、他の社員やパートも彼の仕事の進行状況を確認できるため、不必要な吉田さんへの声かけ確認の軽減につながりました。

その他の約束事や確認表は、写真2のように掃除用具入れの扉にまとめて掲示してあります。特に分かりやすく写真を使用したのは、事務室掃除の際に移動して掃除機をかけた方がよい物品(例、イス・ゴミ箱・キャスター付きの棚など)と、移動しないでよい物品(例、机・PCデスク、その他分かりづらい物)です。担当社員から「置いてある物をよけないで適当にやっている」と誤解された苦情相談を支援者が受けたため、担当社員と話し合い、適当ではなく動かしてよい物と悪い物の判別ができなかったのかもしれないことを理解してもらって、担当社員と確認しながら指示書を作成して提示しました。午後の食器洗浄作業は、食器洗浄機のペースに合わせて流していく作業であり毎日ペースが一定のため、慣れた後は安定して作業することができるようになりました。(写真3)

3.移行支援(雇用後~3ヶ月)

おおよその仕事の習得により、直接支援の時間を少しずつ減らしていき、1ヶ月経過時に担当社員との話し合いを行なった結果。週に1回(一番忙しい毎週木曜日)の定期訪問をしばらく続けて様子を見ていくことになりました。定期訪問時には、大きな問題ではなくても、担当社員からいくつかの相談は必ずありました。中でも窓拭きは見た目に汚れが分かりづらいせいか、吉田さんが自己判断できれいな時は拭かなくてもよいと決めてしまい、担当社員が注意してもしばらく拭かないことがありました。彼は仕事をして給料をもらうことの理解はあり、会社側に頼まれた仕事をして給料をもらっていること、窓拭きも会社が頼んでいる大事な仕事であることを説明し、それを書面にて明確にしました。

ダンボール運び等の仕事について書面で説明している

また、話し合いの中で、外窓(屋根有り)は天候によって拭く時と拭かない時の違いが分からなく、全部拭かなくてよいと判断していたため、「雨の時は拭く」「暴風雨の時は拭かなくてよい」ことを、雨の降り方の絵で記しました。それにより、言葉での注意や指示には改善はなかったのですが、その後は会社の要望通りに毎日窓ふきをしています。

また、季節が夏になり、パートさんから本人の体臭が臭いという苦情が上がりました。支援者はグループホームでの様子を確認し、入浴は確実にしていることはわかりましたが、Tシャツを替えていないことが分かりました。吉田さんは汗をかいても、見た目には汚れていないため、「これは新しいシャツできれいだから洗わなくてもいい」「これは(1度着たシャツを指し)汚れていないからまだ着れる」と話して、洗濯せずに続けて数日着ていました。絵や文字で記し、決まりとして昼休みに1回着替えをすることにしましたが、理解ができていないため、「替えなきゃダメなのかい・・」と若干納得した様子でも、やはりTシャツによっては替えないことがありました。その後、決まりとして掲示するのではなく、(写真1)の作業のスケジュールの中に「着替え」という項目を加えてみると、着替えをするようになりました。規則を作るというよりは、必ずこなすスケジュールの一つになっている方がスムーズにできるようでした。

4.フォローアップ

月2回のフォローアップを継続して1年が過ぎた頃、担当社員から事務室の掃除機かけについての相談がありました。掃除機かけに時間がかかりすぎていて、掃除機かけ中は、吉田さんがやりやすいようにできるだけ席を外す配慮をしてくれていましたが、遅いと事務員の仕事的にも支障があるようでした。吉田さんの話でも、電話が鳴って何度も掃除機を止めなくてはならないことや、電話が終わるまで事務所の雰囲気の中で黙って待っていることが苦痛なようで、「何回も電話鳴るから疲れる」「頭が痛くなる」と話していました。そこで、担当社員と支援者は双方のストレス的にも職務再設計の必要を判断し、吉田さんとも話し合いをして、電話の比較的少ない夕方の(16:00)時間に掃除機かけをするようスケジュール調整しました、そのために出勤時間を30分遅らせて、9時30分とし、今まで16:30だった終了時間を17:00にずらしました。その後は、本人もストレスなく安定して仕事を行うことができています。

5.まとめ

吉田さんは、施設内では仕事ができて高い評価をされていました(インフォーマルなアセスメント)。就労の際も、その仕事であれば彼なら全然大丈夫、と思った支援者も多かったのが実際です。しかし現場では、単に清掃といっても環境が異なり、汎化しにくい発達障がいの人にとっては、施設内の清掃と同じにはいきません。また、本人が理解しづらい一般の会社の文化もあります。単純に仕事を覚えるだけではなく上記してきたような問題や変化が必ずあり、また障がい特性故のトラブルがあり、理解できなかった、分からなかったことが、サボっていると誤解された評価にもなってしまう場合が多くありました。やはり、そこに支援が必要になり、吉田さんも、事前の調整と支援がなく施設内のインフォーマルな評価のみであれば、仮に就労はできても継続は困難であったと思われます。

会社と障がい者本人の双方が安心して働き続けるためには、支援者の継続的な支援により、必ず起きる変化や問題の芽を拾い、必要なタイミングで支援していく必要性があると思われます。