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社会の中で働く自閉症者 -就労事例集-

池田輝子記念福祉基金障がい者ジョブコーチ支援事業

事例17 スケジュールに不安のある人に対する就労への円滑な移行支援

~福祉施設に就職したBさんについて~

金子 毅司
横浜南部就労援助センター

1.本人の状況

(1)本人について

性別:
男性
年齢:
35歳(平成17年10月現在)
障がいの特徴:
知的障がいを伴う自閉症、療育手帳B2(軽度知的障がい)
教育歴:
小・中学校を経て、養護学校高等部を卒業

(2)福祉施設の利用歴

高等養護学校卒業後、神奈川能力開発センターに通所。その後、就労、離職後、社会事業授産施設川崎市わーくす大師(社会福祉法人 電機神奈川福祉センター)に在籍

(3)職歴

神奈川能力開発センターを経て、運送会社の倉庫での就労歴があります。

(4)本人の収入

障害基礎年金2級を受給。現職は、週30時間、最低賃金をクリアしています。

(5)生活状況

現在、グループホーム入居中です。平日は、グループホームで生活をし、週末は自宅に帰っています。月曜日のみ自宅から出勤し、それ以外はグループホームから出勤をしています。

2.就労支援

(1)職場が決まるまでの経緯

授産施設から新しい職場へ就労する段階から、横浜南部就労援助センター(社会福祉法人 電機神奈川福祉センター)が関わっています。以前から、他の知的障がい者の就労ならびに定着支援で関わっていた事業所より、別の部門において新たに障がい者雇用を考えたいとの意向を聞き、業務内容や労働条件等から候補としてBさんを推薦、実際に職場で実習することになりました。

(2)制度活用について

会社から特定求職者雇用開発助成金を申請しています。

(3)受け入れ先の状況について

業種:社会福祉法人の救護施設

障がい者雇用スタッフ体制:局長、次長、総務主任、現場スタッフ2名。通常は、現場スタッフ2名が本人の指導にあたっています。総務主任が障がい者雇用の採用ならびに実習受け入れ等の手続を行なっています。

障がい者雇用の動機:法人として既に知的障がい者を雇用しており、さらに障がい者雇用枠を拡大するために、これまでとは異なる事業所(施設)での採用を考えており、その可能性について就労援助センターに相談がありました。

(4)支援のプロセス

1) 利用者のアセスメント

前回の就労先での状況(他機関からの報告書)、授産施設での様子から、決まりきった作業であれば、丁寧に、指示された手順を守り作業ができると報告を受けています。作業種に関しては、特に得意不得意があるわけではありません。しかし、突然の作業の中止や変更、本人が予定した作業と異なる作業が急に決まるなど、作業スケジュールに関する融通がきかず、多少の混乱が見られます。

2) 職場のアセスメント

Bさんの実習を行うにあたり、援助センター職員が現場の視察を行いました。

仕事は、入所者の衣類、タオル等の洗濯がメインでしたが、洗濯後、衣類等は氏名を確認し、部屋別に仕分けする必要がありました。しかし、衣類等への氏名の記載が徹底されていない(記載されていない衣類等が散見される)、入所者の部屋別一覧が作業場所に存在しないなど問題点が見つかりました。衣類等への氏名記載の徹底と、入居者の部屋別一覧表の作成を職場にお願いすることが、Bさんの混乱を減らす環境設定の第一歩となりました。

3) 職場における集中支援(実習期間2週間)

実際に現場での実習を開始しました。職員も同行し「作業指示を誰から聞くか」などの調整を行いました。当初、職場に要望していた、氏名記載の徹底については、概ねクリアされていました。しかし、それでも氏名の判読が難しいものが出てくるときがあり、仕分け困難な衣類等を置くスペースを作り、現場責任者の手が空いたときにまとめて確認をするようにしました。

同時にロッカーの使用方法(貴重品管理等)、休憩時間の過ごし方など基本的な職場でのルールを確認しました。

4) 移行支援(雇用後~)

実習終了後、Bさんの採用が決まりました。

最初の課題は、実習終了から採用までの日程調整とそのスケジュールの伝達でした。Bさんに明確な予定が伝わるように1週間単位のスケジュールを作成し、提示を行なっています。

一週間のスケジュール表の写真

また、当面の課題として、職場における作業スケジュールの組み方と施設入居者との会話等のコミュニケーションにより発生する問題が考えられました。この課題を解決するため、採用当初は、現場責任者と一緒に仕事を行う(勤務シフト作成)こととなりました。この勤務シフトについては、採用前段階に調整し、個別のスケジュール表として書面で本人に通知しました。また、入居者との会話等によるコミュニケーションの問題点については、個別の話し合いの場でくり返し注意・確認をすることと、1日の仕事の組立の中で、入居者との接点を減らす工夫を職場に要望し、調整することになりました。

5) フォローアップ

就職後、約半年間は週に1度の巡回を継続しました。その後は、月に一度程度に回数を減らしていますが、必要に応じて巡回を行なっています。

スケジュールに対するこだわりについては、事前連絡の徹底でほぼ解消されました。

作業の都合上、どうしてもシフトの変更が必要な場合は、会社側からシフト変更依頼を書面で提示してもらっています。

文書理解力が高いため、下のような文書で理解することができました。

現在周4回 火、水、木、金で出勤いただいておりますが、10月16日(水)より勤務変更をいたします。16日より週4回 月、火、水、金でご出勤いただきます。日程変更につき さんに万が一不都合が生じた場合には、10月7日(月)までに次長の まで連絡をお願いいたします。

作業については慣れるに従い、自分で判断して行動をしてしまうことが増え、同時にミスも目立つようになりました。その都度、職員が訪問をし、指示の徹底(作業方法の統一)を行なっています。同時に、指導する現場スタッフ等によって指導方法が変わってしまう場面が見られたため、常に同じ指示をしていただくよう職場にお願いをしています。

コミュニケーション面に関しては、入居者だけでなく介護スタッフ等に対しても、徐々に注意獲得の言動が増え、作業に対する集中力を欠く場面が見られるようになりました。これについては、1日の作業スケジュールの調整と、作業量を明確にすることにより多少の改善が見られました。

3.まとめ

多くの職場では、仕事のスケジュールの急な変更が起こることがごく普通です。しかし、Bさんのように、このスケジュールの急な変更に対応できない自閉症の人がいるのも事実です。前職の離職理由や授産施設での様子から、Bさんがスケジュールの見通しがもてない、あるいは急な変更に対して混乱してしまうことが予測されました。実習から、採用当初の予定を詳細に計画し、本人には明確に書面で伝え、スムーズな移行を心がけました。特に採用前後の期間は、ハローワークへ手続きや会社面接等、通常経験しないスケジュールがいくつも存在しました。Bさにとってリフレッシュとなる休日(本人に予定のある日)も潰したくありませんでした。就労支援担当者としては、関係機関とのスケジュール調整に労力を割いた期間でもあります。

採用後、会社には本人の障がい特性をよく理解していただいており、柔軟に対応を行なっている点が、安定した継続就労の大きな要因になっていると思われます。