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提言「障害者計画に求めるもの」

石丸晃子
日本自閉症協会

項目 内容
会議名 新・障害者の十年推進会議主催「新長期計画推進セミナー」講演より
(平成7年2月25日 会場:戸山サンライズ)
備考 新・障害者の十年推進会議「新長期計画推進セミナー」報告書(1995年3月発行)

 自閉症協会の石丸でございます。自閉症協会に、本日提言の機会を与えていただきましたことをお礼申しあげます。

 皆さん、自閉症という障害をご存じでしょうか。私どもはよく聞くのですが、「実は僕も昔は自閉症でして」とか「私は自閉的傾向があるんですよ」とおっしゃる方がいらっしゃいます。一昨年私どもは基本法の中に自閉症を障害として明確に認定していただきたいとお願いして多くの議員さんにお目にかかりましたが、「自閉症」を正しく知っている方は非常に少なく、また私たちも言葉で説明することが大変困難でございました。発達障害でありながら、誤解されたり、正しく理解されにくい障害であるため、本人たちはもちろん、私たちもこれまで大変苦しんでまいりました。

自閉症とは
 アメリカの児童精神科医カナーによって初めて紹介されてからまだ半世紀がやっとというところです。児童の精神分裂病であるとか、親の育て方が原因であるとかいろいろの説がありましたが、1960年代になってようやく、脳に何らかの異常があり、発達に障害をきたしているのだということが定説になりました。世界ではWHOやアメリカの精神医学会の診断基準で自閉症が明確にされているにも関わらず、日本では施策のうえで診断基準が認められていません。
 自閉症という障害がどういう状態像をもたらすかといいますと、社会性が育ちにくい、物事の関係がよくわからない、情緒や抽象概念の発達にも問題があります。それからこの障害をもつ人で自分の気持を伝える言葉、コミュニケーションの手段としての言語を持っている人は非常に少ないのです。社会適応、コミュニケーションに障害がある、一言で言えばそのようなことになるかと思います。
 IQで示される知的な能力は、正常な方から測定不能の方や最重度の方までおりまして、これまでの知的発達障害とは異なる障害概念であります。
 発生率は、日本では診断基準がありませんが、 1,000人に1人とも、最近の世界の情報では2人とも言われ、福祉的援助を必要とするか否かはともかく、障害をもつ人はかなりの数にのぼります。

自閉症者の置かれている現状、障害による問題点

 多くの自閉症の人は、私たちが全く言葉の分からない外国に一人でいるような状況に置かれています。私たちでしたらその場合、大変な不安やストレスも何とか解決する方法を探し出せるでしょう。けれども彼らはそういう手だてを自分では全く持てないわけで、そのような中で、自分がつかんだわずかな手掛かりを頼りに生活しています。ですからその手掛かりが少しでも壊されると不安の極致となり、大変なパニックに陥ります。その不安は教育や治療や生活体験、環境の構造化などで随分改善されますが、彼らは社会で生きていくうえで私たちの想像を越える大変さを抱えているのです。

1)高機能の人の問題

 基本法成立のときも、大学を出て就職したけれども社会生活がうまくいかず、家庭崩壊寸前の状況にいる方の例について訴えました。それに対して、「贅沢ではないか、入りたい大学に入れない人もいるのに」というようなご批判もあったわけです。けれども、高学歴ないしIQが高いため、療育手帳、障害基礎年金、雇用などのサービスが受けられず、また社会適応が悪いため就労しても解雇されるなどで在宅が続き、本人の精神状態が悪くなって、入院を余儀なくされているケースが少なくありません。

2)自閉症者施設

 また重度の人は強度の行動障害のある人が多く、障害への理解や対応が既存の施設では困難なため、なかなか受け入れてもらえません。昭和56年から自閉症を対象にした施設が30カ所余り、主に親たちによって設立されていますが、障害の特性から、居住空間、職員配置、施設修繕、職員研修など現行法の基準では対応できず、運営はどこの施設も非常に困難な状況にあります。

3)医療の問題

 自閉症をもつ人たちにとって、医療の関与は欠かせませんが、児童精神科の専門医や医療機関が少なく、適切な医療を受けるうえで問題があります。また思春期や成人期に特異な行動や発作を起こし、家庭ではもちろん、福祉施設でも対応が大変難しくなる場合がありますが、みてもらえる機関がありません。医療併設の第一種「自閉症児施設」は、児童施設であるため年齢制限がありますし、普通の精神病院は、発達障害があり言語やコミュニケーションに問題のある自閉症の人にふさわしい場とは言えず、制度上・処遇上の谷間で適切なサービスが受けられないまま、本人も家族も大変な状況に追い込まれるケースもあります。

自閉症という障害をもつ人たちに必要なもの

 自閉症の人たちは、このように人との関係の中で生きていくことに最も重い障害のある人たちですが、やはり社会の一員として生きたいと望んでいます。障害は目に見えませんし、彼ら自身が訴えることはできません。私ども日本自閉症協会は30年近い歴史の中で、本人たちはどんなに苦しくても皆さんと同じように暮らしたい、地域社会で生活ができるようになりたいと望んでいるのだという代弁を続けてまいりました。基本的には、WHOの障害者の定義の原点に帰り、障害の種別・程度を問わず、社会生活に困難をきたしている人たち一人一人に福祉サービスの援助システムの確立がされるよう、現実的な具体策が講じられるよう願っています。

望まれる制度・施策

1)教育
 成長・発達の最も重要な学齢期に、本人たちの障害に見合った教育、社会で生きるために力となる教育をしていただきたいと希望しています。
 それから義務教育の9年、養護学校の高等部に行きますと12年、この大切な時期が意外に福祉や医療や地域の生活から切り離されがちになります。そのため学校という所属を離れて社会に出たとき、本当にバックがない、拠り所がないという状況が起きてしまいます。
 社会性の発達を促し、将来地域で暮らしやすくなるためにも、放課後活動の援助や養護学校高等部の適正配置を要望します。

2)家族サポート

 自閉症の人の幼児期は多動で片時も目が離せず、また成人後も一人にできない、家族以外の人に世話を頼めない場合が多いのです。「緊急一時保護制度」も、自閉症児・者に利用しやすいよう受け入れ体制を整えていただきたいのです。さまざまな家族サポート事業により、家族も健全な社会生活が送れることが必要です。

3)就 労

 自閉症の人はしっかりと療育や教育を受け、職場で良いパートナーに恵まれれば、仕事にはかなりの力を発揮することができます。彼らが生きがいのある人生を過ごすためにも、職業訓練の充実とともに、受け入れる事業所の開拓、援助つき就労、助成などを要望します。

4)専門家の養成

 先にも述べましたとおり、専門医が少なく医療面からの援助が受けにくいので、医療システムのうえで、児童精神科の設置を要望いたします。また併せて「発達障害療育センター」の設置や総合的な医療の保障も必要です。障害者医療はもっと充実されるべきではないでしょうか。これからは、大学の医学部や教育学部などのカリキュラムで障害についての教育にもっと重点を置き、専門家の養成や一般の理解の向上につなげてほしいと考えます。

5)生活の保障

 その他に、障害をもつ人が社会生活を保持していくためには、公営住宅の優先入居や公的助成などの住居の保障、無年金者の見直しを含む所得の保障、本人の財産管理、人権擁護などの問題があります。要望すべき項目は多岐にわたっていますが、障害者基本法で大きく前進した福祉サービスは私たちにとってこれからのものであり、提言の実現に向けて「障害者計画」の取り組みには大いに期待しています。

援助システムについて

 以上さまざまな要望の提言をさせていただきましたが、地域で障害者が安心して生活できるようになるためには、一人の障害者を囲む援助機関の縦・横の連携がどれくらいスムーズにつながるかにかかっています。
 私たちの要望に更に加えていただきたいのですが、障害者の社会参加を進めていくためにぜひとも必要なのが援助システムの実現です。一定の地域ごとに、障害を適切に把握できる専門的なケアマネージャーがいて、登録されている障害者の援助プログラムを作成し、責任を持ってサポートする機関、援助システムの整備が必要であると思います。そこには援助資源を適切に利用し、コーディネートできる臨床スタッフがいて、さまざまな相談を受けたり、障害者の必要なときに、必要な場所で現実的に役立つ援助を提供できるよう他の機関と連携を取ります。この機関ではボランティアなど社会的援助資源の育成を図ったり、入所施設とも連携して、施設の収容機能だけでなく処遇の専門性を生かした地域生活の支援を進めることもできます。
 現状はどうでしょうか。例えば保健所では0歳児から検診があり、医学も大変進みましたので、いくつかの地域では早期発見が可能になり、市のセンターなどで療育がかなり受けられるようになりました。ところが学齢期になるとその関係はポツンと急に切れてしまうのです。縦の連携は加齢によって途切れてしまい、横の連携は学校、治療機関、福祉、職場のあいだでほとんどなされていませんから、たいていは親がそのあいだを駆け回ることになります。それぞれの機関で応じていただいても、横の連携がないと、その成果が現実の生活では実を結ばないということにもなるのです。
 駆けずり回っている親がいなくなっても、「大丈夫生活できるよ」という援助システムの確立が望まれます。
 コミュニケーションに障害があるため、日常生活、社会生活に最も困難をきたしている自閉症者が、地域で暮らせるかどうかは、福祉のあり方と社会の連携を最も尖鋭に問いかけているように思われます。日本自閉症協会が提言する福祉サービスの実現にぜひご理解をいただきたいと思います。



主題:
提言「障害者計画に求めるもの」
著者名・研究者名:
石丸晃子 (日本自閉症協会)
出典:
新・障害者の十年推進会議「新長期計画推進セミナー」報告書
発行者:
新・障害者の十年推進会議
Promotional Council of the New Decade, Japan

発行年月:
1995年3月