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約束を達成するために
アメリカにおけるメンタルヘルスケアの変革
(要旨)

変革後のシステムの目標:回復

全ての人に地域社会での生活を約束し、これを達成するために、新たなサービス提供方式及び奨励金によって、全てのアメリカ人が、最新の治療と最善の支援サービスを、容易にかつ継続して利用できるよう、保証しなければならない。その際、研究や技術の進歩、そして精神病の治療法に対する理解を進めることが、システムを変革する上で強力な手段となる。変革後のシステムでは、サービス利用者とその家族は、自ら学習し、自己監視し、責任を負うことを促進するために役立つ、時宜を得た正確な情報にアクセスすることができる。ヘルスケアサービスの提供者は、最善の結果をもたらすため、最新の知識に基づいて最適のケアを提供する。

重度の精神病或いは重度の情緒障害との診断が下ると、ヘルスケアサービスの提供者は、利用者と家族の十分な協力を得て、病気の管理に関わる個別のケアプランを作成する。この個別ケアにおける各関係者の連携とは、基本的に、誰が誰に対して、どのようなヘルスケアサービスを、どのような適切な方法で提供するのかを選択する際に、以下の3点によって協力しあうことを意味している。

  • どのメンタルヘルスケア専門家をチームに入れるかを選ぶ
  • 全員が決定に関わる
  • 治療計画に対する賛成・反対の選択をする

サービス利用者とその家族は、人種、性別、民族、言語、年齢、居所に関わらず、最高の質のケアと情報を入手できる。そして回復がメンタルヘルスサービスの一般的な成果として認められるようになるので、精神病を取り巻くスティグマは軽減し、精神病を抱える全ての人々が回復への希望を強める。

この最終報告書では、
スティグマとは、一般の人々の精神病患者に対する恐怖、拒絶、忌避、差別などを引き起こす原因となる、一連の否定的な態度や信念をいう。これはアメリカ合衆国及びその他の西欧諸国では見られる現象である参考文献16。そして、精神障害者との生活、交際、労働、精神障害者に対する家や土地などの賃貸、或いは精神障害者の雇用を避けることにつながる。特に精神分裂病などの重度の精神障害を抱える人々に対して、この傾向が見られる。その結果、精神障害者の自己評価の低下、孤立、絶望へとつながり、また一般市民はケアの費用の負担を望まなくなってしまう参考文献5。更に、このスティグマに反応して、メンタルヘルスに関わる問題を抱える人々自身も、一般市民の否定的な態度を自分の内面に取り入れてしまい、恥ずかしいと思ったり、肩身が狭いと感じたりするようになって、病気を隠し、治療を受けようとしなくなることが多い。

より多くの人々が助けを求め、友人や身内の人々と自分の体験を分かち合うようになれば、あざけりではなく、哀れみという応えが返ってくるであろう。

メンタルヘルスサービス提供システムの変革が成功するかどうかは、以下の2つの原則にかかっている。

  • 第一に、サービス及び治療は利用者及び家族を中心に行われなければならない。そして利用者が、治療の選択及び提供者に関して、官僚側の要求に従うことなく、真の有意義な選択ができるようにしなければならない。
  • 第二に、ケアは、単に症状に対応するだけでなく、利用者の生活課題をうまく処理する能力の向上、回復促進、回復力の育成に焦点を当てなければならない。

利用者のニーズに従って構築されたシステムは、スムーズに働き、使いやすいに違いない。

この最終報告書では、
回復とは、人々が生活し、働き、学び、地域社会に完全に参加できるようになるまでの過程をいう。ある人にとっては、回復とは、障害があるにもかかわらず、満足のいく生産的な生活を送る能力であるといえるが、また別の人にとっては、それが症状の軽減もしくは完全な解消を意味する。個人の回復には、希望が不可欠であることが科学的に証明されている。

回復力とは、災難やトラウマ、悲劇、恐れ、その他のストレスから個人やコミュニティーが立ち直り、それらを克服したことを感じながら、自分の能力に自信を持ちつつ、希望を持って生活し続けられるようにする力をいう。研究の結果、回復力は幸せな子供時代をすごすことによって育まれること、また回復力には、楽観主義などの肯定的な性格と優れた問題解決技術、そして治療が関与することが現在分かっている。人間関係が密接なコミュニティーや地域でも回復力は強く、そこに属している人々を支援する。

このように、利用者と家族の両方を中心に、回復志向のケアとサービスを提供する方向へシステムを変換することにより、新たなやりがいが生まれる。奨励金は、ケアを提供する機関において絶え間ない改善を進めるために支給されるよう変更されなければならない。また、関連分野の新たな研究結果は、第一線のケアサービス提供者が迅速に実践できるよう、系統的に伝えられなければならない。そして、革新的な方法により、利用者や家族及びケアサービス提供者が抱える疑問のうち、未回答の問題に関する情報が、研究者に伝達されなければならない。研究及び治療においては、同じアメリカ人とはいっても、共通する部分と異なっている部分とがあることを認識し、多様性に即したアプローチをとることが必要である。単にこれまでの慣例や時代遅れの規制に従った治療やサービスではなく、効果が実証されている、利用者の選択に基づいた治療及びサービスを、給付金支払いの基準とするべきである。

国は新たな技術の開発を支援するインフラストラクチャーに投資し、そのような新技術をケアシステムに取り入れていかなければならない。この新技術により、利用者はサービス提供者と協力して、病気の管理に積極的に関わり、回復に向けてより速やかに行動を起こすことができるようになる。

コミッションは、アメリカにおけるメンタルヘルスケアシステム変革の基盤として以下の6つの目標を設定した。これらの目標は互いに関連しあっており、どの一つをとっても、それだけではメンタルヘルスケアサービス提供システムの変革に必要な、根本的な構造改革を達成することはできない。

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