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愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所年報26号

No.3

愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所

平成9年度

7.治療学部

研究の概況

三田勝己

 愛知県心身障害者コロニーは、1968年こばと学園およびはるひ台学園の開所をもって始まりとすれば、満30年の歴史を重ねてきた。また、その4年後1972年発達障害研究所が開所され、満26年を経過した。この30年の間に、障害者の健康で自立した日常生活と速やかな社会参加を積極的にめざすトータルリハビリテーションの理念と実践が根付き始めた。一方、目前となった超高齢社会のピークには4人に1人以上が65歳以上の老人になる。そこでは加齢による障害の発生が加速度的に増加すると予測される。また、障害者の高齢化とそれによる二次障害の問題もクローズアップされている。もし、15歳から55歳を生産年齢としてとらえるなら、2人で1人の障害者や高齢者を支えることになる。障害者や高齢者の介護と援助を家族や地域の人的な奉仕に依存することはもはや困難となってきた。これまでの療育や福祉をブレークスルーし、次の時代を模索しなければならない時期がきている。その手がかりを示すかのごとく、ユニバーサルデザインなる理念と実践が広がりはじめている。ユニバーサルデザインとは、障害のある人にとっても、ない人にとっても等しく便利で快適なデザインという意味である。家 庭や地域に現存する障害を取り除くというバリアーフリーの考えをさらに前進させた理念である。今日、米国では強力なADA法によってユニバーサルデザインが街を建築を変えている。超高齢社会を間近にして障害発生が加速化する我が国で全ての人の健康と自立を支える生活と環境のデザインが問われている。
 しかし、自立への原点は機能や形態の障害を可能な限り取り除く努力にあることを忘れてはならない。多くの場合、障害を完全に克服することは困難である。それゆえ、リハビリテーションとともに自立を支える環境整備という両側面が必要とされる。治療学部では、時代の変遷に伴う障害の質的な変化と社会のかかわりに常に目をむけ、医療と健康を支える課題に取り組んでいる。以下に各研究室における本年度の研究の概要を述べる。
 第一研究室(人間工学)は、運動機能障害の測定・評価と治療方法の開発を目的として、ヒトの運動制御機構の基礎的研究を人間工学および運動生理学に基づいて進めている。また、基礎研究をもとにした臨床応用研究として、重度心身障害児・者のパソコン使用支援システムの開発を行っている。今年度の研究は、随意動作の開始に先だつ神経制御機構を解明する一環として、急速動作開始時の運動単位間の発射の同期性に対する動作前休止期の影響を分析し、動作開始時の同期性と運動単位の発射様相との関連を見出した。また、運動単位の活動が、筋力の時間変化率(dF/dt)と促進性の関係を示すことを明らかとした。さらに、一昨年度開発した単一ユニット活動電位分離プログラムを用いて、血管収縮神経の単一線維の圧受容反射における動員様式を分析した。一方、重度身体障害児・者のパソコン使用支援システムの開発に関しては、筋電図や筋力などの生体信号を利用できるスイッチを開発し、随意動作のほとんど認められない最重度の身体障害児・者にも使用できる機器の開発を進めた。
 第二研究室(臨床運動学)は、運動生理学における体力の概念を運動機能障害に適用できる形に修正し、その流れに沿って機能・形態障害や能力障害のメカニズムや背景の解明に取り組んでいる。本年度は体力を構成する要素のうち、柔軟性、筋力・筋パワー、神経調節に関する研究を進めた。柔軟性については、昨年度開発した非線形幾何学モデルによる関節可動域表記の実用化を図るために、健常児を対象に年齢にともなう関節可動域の変化を回帰分析し、年齢変容を考慮した正常域の設定を行った。筋力・筋パワーの課題では、筋音図トランスデューサーの機械的特性の比較分析を行った。その結果、筋音図のトランスデューサーとしてはその信号が物理量として容易に記述できる加速度計がより良いことが示唆された。筋音図法の応用研究として、思春期前児童の筋収縮特性の分析を行ったところ、速筋の未成熟性が明らかにされ、それは形態学、組織化学的な事実と一致するところであった。また、運動の調節で大きな役割を果たす筋粘弾性を推定するために、本年度はウェーブレット変換を用いた時変スペクトル解析を試みた。そして、筋粘弾性の時間的な変化を追跡できる可能性が示唆された。
 第三研究室(精神病理)では、自閉症やダウン症あるいはその他の症候群の子どもの認知発達や言語障害の特徴を臨床的に分析した。自閉症児については、幼児症例の言語の獲得過程、年長症例のコミュニケーション能力の変容について分析を行った。併せて、サイン言語によるコミュニケーション技能の形成の試みを行った。ダウン症児については、書字機能の形成や構音障害の改善を縦断的に観察した。また物の名称の理解と産出の過程を縦断的に観察して、ダウン症児における言語機能の発達を調べた。ウィリアムズ症候群やアンジェルマン症候群についても、そのコミュニケーション能力の特徴を健常乳児の前言語段階の伝達技能と比較検討している。障害児の発達が家候の支援に支えられていることは見逃せない事実である。障害児のいることが家族機能にさまざまな影響を与えるものと考え、昨年は兄弟たちの精神保健への影響を調べた。本年は、障害児の年齢段階ごとの家族機能への負荷の実態について検討した。
 人事面では、綿巻 徹主任研究員が能力開発部室長へ、中村みほ主任研究員が能力開発部から第三研究室に配置転換になった。

幾何学的表記法を用いた関節可動域障害の評価-正常域の規定-

三田勝己、赤滝久美、渡壁誠、鈴木伸治1、久野弘明2、伊藤正美3

 本研究では、関節可動域の変化を経年的に再考し、関節拘縮の予防、改善に資することを目的とした。研究の第1ステップとして、平成8年度プロジェクト研究において二関節筋の影響を包含した関節可動域(ROM)の幾何学的表記法を提案した。この幾何学的表記法は全く新しい手法であり、本年度は関節拘縮を診断・評価するうえで是非とも必要となる正常域の確立をめざした。対象は年齢8~14歳(11.3±1.6歳)の正常男児35名であり、右下肢を用いた。関節角度の計測は写真分析法によった。対象とした肢位は仰臥位での1-1点、1-2点、1-3点、腹臥位での2-1点、2-2点、2-3点とした(図参照)。統計解析では、正常小児の年齢に伴う関節角度の回帰分析を行い、p〈0.05をもって統計的に有意とした。図は低年齢児(8歳)と高年齢児(13歳)の股・膝関節のROMを幾何学的表記したものである。13歳児の辺A、E、Fは8歳児に比べて内部に移動したが、他の辺(股関節最大伸展、膝関節最大伸展および屈曲)は変化しなかった。これら3つの辺A、E、Fは8~14歳の間で年齢依存性の変化を示した。(1-1)、(2-3)点の股関節角は、膝関節角が年齢によって変化しなかったことから、辺E、Fを反映すると考 えられる。また、辺Aは(1-1)あるいは(1-2)点の股関節角によって規定しうる。回帰分析を行った結果、これら3点での股関節角と年齢との間に有意な相関が認められた。その回帰直線をもとにすると、8歳と14歳の間の股関節角に関する年齢差は(1-1)点が-21度、(1-3)点が-13度、(2-3)点が24度であった。この結果は正常児であっても年齢に伴って股関節最大屈曲の減少、ハムストリングおよび大腿直筋の短縮を示すものであった。なお、この回帰直線とその±2標準残差を手がかりに、年齢による変容を考慮した正常域の設定を行った。

股間接角度と膝間接角度との関係の図

 1伊豆医療福祉センター、2中部大、3理研

磁気刺激による運動誘発電位とdF/dtとの非線形的関係

青木 久,久野裕子,塚原玲子

 我々は、随意動作の開始に伴う神経制御機構を解明するために、大脳皮質磁気刺激による運動誘発電位から、皮質脊髄路の活動水準の推定を試みている。今年度の研究では、筋力の時間変化率(dF/dt)が、運動誘発電位に与える影響を検討するために、4名の健常な被験者に手関節背屈動作により等尺性筋力を発揮させ、正弦波信号追跡課題を実施した。その結果、図に示したように、動作中のMEPsの振幅とdF/dtの関係は、dF/dtが負の時はr=0.184であり統計的に有意ではなかった。これに対して、dF/dtが正の時はr=0.489であり有意な正の相関関係を示した。したがって、MEPsとdF/dtとの間には非線形性の関係のあることが明らかとなり、dF/dtが正の時に磁気刺激に対する運動誘発電位の感受性の高まることが示唆された。

dF/dtとMEPsの振幅との関係の図

図1.dF/dtとMEPsの振幅との関係

運動単位間の発射の同期性に対する動作前筋放電休止期の影響(2)

塚原玲子、久野裕子、青木 久、矢部京之助1

 持続的に筋を軽く収縮させた状態から、急速な動作を起こすと動作開始直前に筋放電が一時的に休止する。この現象を動作前休止期(PMSP)と呼んでいる。本研究では、PMSPが、急速動作開始における運動単位の発射の同期性に及ぼす効果を検討するため、同時に2個の運動単位の発射活動を記録し、その時間関係を分析した。
 被験者は健常成人で、等尺性の急速な足関節底屈動作を行わせ、下腿三頭筋の表面筋電図とともに16組(ヒラメ筋から4組、内側腓腹筋から12組)の運動単位の活動電位を導出した。各運動単位は、PMSP出現時には、動作開始と直前の発射との間隔が長くなり、また、動作開始時の発射潜時が短くなる傾向を示した。同時に記録された2つの運動単位の動作開始時の発射の時間差は、PMSPが出現した動作のほうが、PMSPの出現しなかった動作に比べて短い傾向を示した。PMSPは、持続的な運動単位の発射を、急速な筋収縮の直前に一時的に休止することにより、相動性放電開始時の運動単位の発射の集中性を高めることが示唆された。 本研究で分析した運動単位は、すべて最大筋力の20%以下の筋収縮で動員されるものであった。今後、急速動作において動員される閾値の高い運動単位の発射に対するPMSPの効果の分析が必要と考えられる。

 1名古屋大・保体センター

ヒトの血管収縮神経単一線維の動員パターン

塚原玲子、間野忠明1

 筋交感神経は、骨格筋内の動脈を支配し、血圧の低下に反応して血管壁の平滑筋を収縮させることにより、血圧の調節に寄与している。寝たきりや無重力状態で起きる血圧調節機能の低下には、筋交感神経の圧受容器反射のかかわりが示唆されている。本研究では、筋交感神経節後遠心線維の微小神経電図から単一線維の活動電位を分離し、心拍ごとの動脈圧や心電図R-R間隔の変動に対する発射パターンを分析した。
 被験者は健常成人5名で、安静仰臥位において微小神経電図を膝窩部脛骨神経より導出した。微小神経電図からtemplate matching法により活動電位を分離し、R波を基準としたタイム・ヒストグラム(PRTH)に心拍同期性が認められることから血管収縮神経として39の単一遠心線維を同定した。
 心拍ごとの筋交感神経節後遠心線維のスパイク数は、動脈圧が低いほど、またR-R間隔が長いほど多くなる傾向であった。1心拍に対する複数のスパイクは、約90%は複数の遠心線維の発射であったが、10%は単一遠心線維の繰り返し発射であった。
 個々の遠心線維の発射確率は、心拍ごとの拡張期動脈圧とは負の相関、R-R間隔とは正の相関を示した。発射確率の高い単一遠心線維は、発射確率の低い単一遠心線維に比べて、より高い拡張期動脈圧、より短いR-R間隔に対して発射し、発射閾値が低いことが示唆された。また、単一遠心線維の発射閾値はPRTHの抑制潜時(圧受容器反射の潜時)と負の相関(-0.422、p<0.01)を示し、閾値の高い血管収縮神経ほど伝導速度が高いと考えられた。
 心拍ごとの血圧の変動に対して血管収縮神経はサイズの小さいものから順に動員され、少なくとも安静仰臥位においては、筋交感神経のバーストの大きさは動員される血管収縮神経の数の増加によるものであることが示唆された。

 1名古屋大・環研

スプリントタイプのパソコン用スイッチの制作

久野裕子、青木 久、塚原玲子

 われわれは重度心身障害児・者を対象に、パソコン入力用スイッチを制作している。スイッチはリーチが困難であるため、操作可能な身体部位に装着するタイプを制作することが多い。しかし、変形や拘縮があるためにスイッチの固定ができなかったり、効率的な操作ができない場合がある。今回、このようなケースに対してスプリントタイプのスイッチの制作を試みた。
 スプリントとは熱可塑性樹脂などで制作する上肢装具で、整形外科疾患や中枢神経系疾患をもつ患者に対して、痛みの除去・関節の固定・変形の予防と矯正などを目的として使用される。このスプリントを応用して2例のケースにスイッチを制作した。
 1例めのケースは、中指の屈曲によりスイッチを操作していたが、手指の変形・拘縮が強く、誤操作することが多かった。そこでスプリントにより、中指の動きを制限する原因となっていた示指の尺側変位を防止し、かつ手関節の過剰屈曲を制限したスイッチを制作した。その結果、スイッチの操作性は向上し、スイッチ操作テスト(NIKOテスト)では、平均正答率が10点満点中、2.8点から6.2点と高くなった。
 2例めのケースは、手の把握によりスイッチを操作していたが、手掌に固定したスイッチと指との間に距離が、手の把握と同時に手関節の屈曲が生じることにより、操作するために過度な運動が必要であった。そこで、スプリントにより手関節を適度な屈曲位で支持し、軽い把握動作で操作可能なスイッチを制作した。その結果、過度な運動が抑制され、以前より操作に努力を必要としなくなった。
 このような結果から、スプリントを応用することで、手の変形や拘縮にあったスイッチを制作することが可能になり、手指機能を生かすことができると考えられた。

筋音トランスデューサーの機械的特性に関する研究

渡壁 誠、三田勝己、赤滝久美、伊東保志1

 筋音は筋線維の収縮に伴って体表面で発生する微細振動である。従来、筋音は加速度計、心音検出用の接触型振動センサー、一般的なコンデンサマイクなどによって導出されてきた。そして、この信号を利用して筋の収縮特性やその機能の分析などに関する研究がなされている。筋音の特性は導出に用いたトランスデューサーの機械的特性によって異なると考えられるが、これまでの筋音の分析では、トランスデューサーの機械的特性の相違に関する考慮がほとんどなされてこなかった。そこで本研究では、まずこれらのトランスデューサーの機械的特性を加振器を用いたモデル実験によって明らかにし、更にその機械的特性を生体より導出された筋音信号でも確認することにした。モデル実験では、加振器を用い既知の振幅、加速度、周波数を持つ振動をトランスデューサーに加え、これに対する出力を計測した。その結果、加速度計の出力は加速度に比例することが確認された。一方、接触型振動センサーの出力は加振器との接続方法によって加速度に比例したり、変位に比例することが明らかとなった。また、コンデンサーマイクはマイクの振動膜と体表面との間にできる空気層の圧力変化を検出してお り、これは変位に比例することが明らかとなった。次に、等尺性随意収縮において、これらのトランスデューサーによる筋音信号の相違を検討した。計測は被検者の大腿直筋上にトランスデューサーを貼付し、10%MVCでの随意収縮を維持させて行った。次に各トランスデューサーによって得られた信号のパワースペクトルを周波数分析によって算出した。その結果、同一周波数fについて、接触型振動センサー、コンデンサーマイクのパワーは何れも加速度計のパワーに対して(2πf)-4の関係を持つことが明らかとなった。これは接触型振動センサー、コンデンサーマイクの出力が体表面の変位に比例することを意味する。さらに、この結果は、導出された筋音の高周波領域における変化が過小評価される可能性を示唆している。

 1鈴鹿医療科学技術大

筋電図と筋音図による児童の筋収縮特性の分析

赤滝久美、渡壁 誠、伊藤晋彦、三田勝己、野中壽子1

 本研究では児童の筋収縮特性を機能的に評価するため、従来用いられてきた筋電図(EMG)に加え、筋の機械的活動を反映する筋音図(MMG)の応用を試みた。被験者は9~11歳の健常男児8名(児童群)と21~23歳の健康男性10名(成人群)を対象とした。実験では膝関節90度屈曲位における大腿四頭筋の等尺性筋収縮を行った。MMGとEMGはそれぞれ大腿直筋筋腹上より経皮的に導出した。発揮筋力は最大筋力(MVC)の10~80%を対象とした。EMG(rmsEMG)およびMMG(rmsMMG)の振幅と発揮筋力(絶対値)との関係は、両群ともに有意な直線関係が認められた。しかしながら児童群は、同一発揮筋力に対するrmsEMG値が成人群と比較して有意に大きかった。一方、rmsMMGでは両群間に統計的な有意差は確認されなかった。そこで、EMGに対するMMGの比率(MMG/EMG)を算出すると、全ての収縮力において児童群は成人群を有意に下回った。このことは、児童群における筋の電気-機械変換効率の低さを示している。また、相対的筋力(%MVC)とrmsMMGの関係についてみると、成人群では30%MVCを変曲点として急増する指数関数的な関係が得られた。速筋線維の機械的活動は遅筋線維と比較して有意に大きく、 発生するMMGも大きいことが知られている。すなわち、30%MVC以降の急増は速筋線維のリクルートメントを反映したものといえる。一方、児童群についてみると、30%MVCで変曲点が確認されたものの、その後の増加量が小さく、S字型の関係を示した。思春期前では、筋線維の径が成人と比較して有意に小さいことがこれまでに知られている。特にその差は速筋線維においてより大きい。MMGを用いた本研究結果は、これら組織化学的な事実と一致するところであり、児童における速筋線維の未成熟性が機能的に確認された。

 1名古屋市大

ウェーブレット変換を用いた筋弾性特性の測定

伊藤晋彦、三田勝己、赤滝久美、渡壁 誠、加藤厚生1  筋は発揮する力に応じて粘弾性特性を変化する可変的な力学特性を備えている。この粘弾性特性によって柔軟な運動が遂行されている。先行研究では、筋粘弾性特性は筋力と関節角度変化から推定を行っている。しかしながら、この手法は筋活動レベルが刻時変化する運動には適さないといった問題がある。そこで、運動中の筋特性をとらえるには短時間の情報(筋力、角度)で推定できる手法が必要となる。近年、短時間周波数解析法としてウェーブレット変換が注目されている。さらに、弾性体から発生する調和振動に着目し、その振動周波数から筋弾性特性を解明できると考えた。そこで、本研究では弾性負荷に対する筋運動を測定し、観測される調和振動の推移をウェーブレット変換を用いて解析し、これを手がかりとして筋弾性特性の周波数変化を明らかにすることを目的とした。実験では健常成人男性7名による弾性負荷に対する手関節屈曲運動のトラッキング動作を行った。ターゲットは筋活動レベルを連続的に変化させるために、-5degから35degまでを10deg/sで移動するランプ状とした。負荷強度は0~7N・m/radの範囲とし、各強度で10回の試行を行った。分析はターゲット角度とトラッキン グ角度の差である誤差角度を対象とし、ウェーブレット変換にはガボール関数(γ=8.69)を用いて、時間区分0.05sec、周波数区分0.1Hz刻みで演算を行った。その結果、誤差角度の時変スペクトルは全体として5Hzを境に2つの分布から構成された。特に、高域分布の周波数は外部の弾性係数が大きいほど高くなる傾向を示した。さらに、各試行内においても時間経過つまり筋活動レベルの増加に伴って、若干ではあるが振動周波数の増加傾向を観察した。したがって、本手法は運動中の筋弾性特性を時変的に得られる方法であるといえる。今後は、力学モデルを用いて振動周波数から筋弾性係数を算出し、運動中の筋弾性特性を定量的に得られれば筋の粘弾性調節機構の解明につながると考えられる。  1愛知工大

動作サインと文字の導入によって話しことばを獲得した1自閉症児の言語改善過程

西村辮作、綿巻 徹1、原 幸一  われわれは先に、話しことばの獲得の予後を不良と判定した10名の自閉症児に、動作サインと文字を用いた言語治療を行い、14歳の時点で、10名中5名が話しことばによる理解と表出の技能を獲得し、3名が文字の言語記号関係や動作サインよる理解と表現の技能を習得でき、残りの2名が動作サインでも文字でも言語記号関係は獲得できなかったことを報告した。本研究ではこのうち代表症例と思われる1名の言語改善過程を詳しく分析した。
 この症例は2歳7カ月に当所を受診し、以後18歳まで遊戯治療、訓練指導、保護者に対する助言指導を受けた。
 本症例の経過は、話しことばをもたない状態の時期(2歳7カ月~5歳2カ月)、サインド・スピーチの段階(5歳3カ月~8歳6カ月)、文字をとおした発語語彙の習得の段階(8歳7カ月~12歳5カ月)、そして安定期(12歳6カ月~18歳5カ月)の4期に区分できる。
 第1期では、コミュニケーションの改善を図って遊戯治療を行った。5歳3カ月から、動作サインを用いた「サインド・スピーチ」の訓練を行った。5歳6カ月で「バイバイ」と「やって」のサインをするようになり、そののち「ジュース」や「ハンバーガー」など、よく要求する物のサインを自分で考え出して使うようになった。自発産出できるサインは17個を習得した。本児の場合、動作サインの表出にともなって話しことばも発達するということはなく、音声語の発語に困難を示した。このため文字を用いて語彙を増やし、書いた字を追って発語する訓練を行った。8歳の後半から整った音形の発語がみられるようになり、その量は8歳半で7、9歳で19、9歳半で42、10歳半で124、11歳半で156に増加した。12歳後半からは言語発達が安定した。  1能力開発部

WILLIAMS症候群患児の精神発達面からの検討

中村みほ、原 幸一、西村辮作、熊谷俊幸1、松本昭子1、三浦清邦1、山中勗2、早川知恵美2  Williams症候群は7番染色体長腕の微細な欠失を伴う隣接遺伝子症候群であり、エラスチン遺伝子、視覚認知に関わるLIMK-1遺伝子等の欠失が証明されている。近年、IQに比して比較的言語の表出が豊富であること、視空間認知機能の特徴的な障害を来すことなど、認知能力のばらつきが指摘されているが、本邦では本疾患に対する精神発達面、神経心理面からの検討が少ない。我々は、将来的な社会適応を視野に入れた療育のためには正確な病態の把握が必須であると考え、本研究に取り組んでいる。具体的には、特徴的な臨床症状(大動脈弁上部狭窄、妖精様顔貌、精神発達遅滞等)らWilliams症候群と診断された児について、神経学的診察ならびに検査、心理、言語検査(WISC-R、ITPA、FROSTIC視知覚検査、K-ABC、S-S法言語発達遅滞検査)を施行した。  その結果、現在までに、 1)Williams症候群の特徴的な能力間のばらつきを検出するのには、K-ABCが特に有用かつ臨床場面での利用に適当と思われること、 2)言語については、語彙は豊富であり、かつ使用頻度の低い単語などの表出があるが、semantic及びpragmaticな問題は必ずしも少なくないこと、 3)視空間認知に関連して、漢字の(読字は可能であるにもかかわらず)書字において、各構造(偏とつくりなど)の配列ができないなどの症状を示す場合がある。これは、従来指摘されてこなかった点であり、療育場面での考慮が必要と考えられることなどの知見が得られた。  今後症例を増やし、また画像診断による脳の構造ならびに機能との関連にも研究を進めていきたい。
 我々は、精神発達遅滞児の診療ならびに療育においては、「遅れのある子」とひとくくりにして考えるのでなく、それぞれの疾患による特徴を的確に把握することが第一歩であると考えている。このような視点から、現在、さらに別の症候群等についても検討を開始している。またそのプレリミナルスタディとして前言語段階のコミュニケーション能力を測るESCS(Early Social Communication Scales)を健常乳幼児に適用し、有用性を検討中である。  1中央病院小児神経科、2中央病院小児内科

重度自閉症児の学習時での反応方略の利用について

原 幸一、西村辨作  健常児では学習時に既知の対象を未知の対象と対にして正反応を求めると既知の対象を手がかりにして未知の対象に反応することができる(Merriman & Schuster,1991)。障害児では同様の場合に正反応をすること自体に問題があり、たとえ正反応が可能となってもそれが学習には結びついて行かない。そこで、反応方略の利用が学習に影響を与えているのか、また反応方略を適切に使う方法が判らないために学習が困難であるかどうかを調べるために一重度自閉症の児童に対して準実験的に未知の対象に対する排他的状況での反応を見た。
 対象児は小学校2年より中等部3年まで当研究所において訓練を行ってきた話ことばをもたない一重度自閉症児。訓練期間中に音声反応が可能となった対象と反応が確立していない対象とを組み合わせて正反応を見た。
 対象児の嗜好性の高いものについて母親に評価を依頼し、その中から音節が短く身近なものを対象として選んだ。それらを音声提示に対する反応が可能となっている「くつ」と「コップ」についてそれぞれを対にして提示した。その結果、対象によって反応の偏りが見られた。「くつ」と「かん」では正反応が直ちに可能になり、排他的に反応していた。一方、「コップ」と「かん」を対にした場合には「かん」の正反応率は50%を越えず、機能性での干渉が考えられる。音の類似した「くつ」と「くし」では80%の正反応に達するまでに時間を要し、音韻での干渉が見られた。また、対象児が好んで用いている「はさみ」を「くつ」と対にした場合には「はさみ」に対する正反応はチャンスレベルを超えなかった。
 これらのことから本児ではいくつかの方略を用いることは可能だがそれらを適切に用いることができないこと、つまりメタ認知での問題が考えられた。

研究業績

著書・総説

著者 総説
三田勝己 歩行の運動生理学.窪田俊夫・大橋正洋(監)歩行障害の診断・評価入門.医歯薬出版,pp.95-105, 1997.
青木 久 障害児に役立つ科学技術,障害児・病児のための発達理解と発達援助,前川喜平・三宅和夫(編),別冊発達22, ミネルバ書房, pp.308-319, 1997
西村辨作 障害児教育大事典,「吃音」p.124,「言語中枢」pp.200-202,「言語発達障害」pp.203-205,「言語病理学」p.205,「構音障害」pp.213-214,「口唇・口蓋裂」p.217,「失語症」p.292,「早口症」p.683,茂木俊彦(編),旬報社,1997.

原著論文

原著者 総説
三田勝己,赤津久美,高橋由美1,押田芳治1,佐藤祐造1,久野弘明2,安林幹翁2,伊藤正美31名古屋大,2中部大,3理研) 加齢に伴う自律神経機能の変化-心拍数変動による分析-.総合リハビリテーション25:1293-1297,1997.
Mita, K., Akataki, K., Itoh, K., Yoshida, M.1,Shinoda, T.2, Ishida, Y.31Teijin Fiber and Textile Res. Lab., 2Nagoya Univ., 3Ishida Orthop.Clinic) Physical characteristics of a new synthetic fiber mattress in relation to pressure sores. Frontiers Med. Biol. Engng. 8: 221-230, 1997.
伊東保志1,赤滝久美,三田勝己(1鈴鹿医療科技大) 疲労に至る持続性筋収縮における筋活動様式の変化-筋音図法による解析-.人間工学 33: 175-181,1997.
久野弘明1,伊藤正美2,三田勝己(1中部大,2理研) FDPS法(Fractal Decomposition of Power Spectrum)による心拍数変動のスペクトル解析.人間工学 33: 235-241, 1997.
鈴木伸治1,三田勝己,赤滝久美,渡壁誠,久野弘明21伊豆医療福祉センター,2中部大) 痙直型脳性麻痺児の関節可動域と筋短縮の病態-幾何学評価法による研究-.別冊整形外科 32: 172-176,1997.
Tsukahara, R., Mano, T1.(1Nagoya Univ.) The recruitment pattern of single vasoconstrictor neurons in human.J. Auton. Nerv. Syst. 66: 26-34, 1997.
伊藤晋彦,三田勝己,赤滝久美,渡壁 誠,添田敏視1,野中壽子2,加藤厚生31セノー,2名古屋市大,3愛知工大) 粘性負荷に対する筋収縮(等粘性収縮)の力学的特性―等張性および等速性収縮との比較―.体力科学46: 211-220,1997.
西村辨作,綿巻 徹,原 幸一 1ダウン症児にみられた構音障害の継時的分析.特殊教育学研究35: 21-31,1997.
中村みほ,鈴木 榮11名古屋大) うつ伏せ寝による乳児期の下肢の変形について.小児科臨床 50:1013-1018,1997.

その他の印刷物

著者 総説
三田勝己,赤滝久美,鈴木伸治1,中村博志21伊豆医療福祉センター,2日本女子大) 重症心身障害児の柔軟性の経年的変容とその対策.厚生省精神・神経疾患研究依託費「重症心身障害における病態の年齢依存性とその対策に関する研究」平成8年度報告書, p. 558, 1997.
西村辨作 ほんとうの賢さとは何だろう・・・考える力の衰退・・.げんき 40: 88-93, 1997.
西村辨作 テレビとテレビゲーム.げんき 41: 81-87,1997.
西村辨作 知性と情緒.げんき 42: 89-94,1997.
西村辨作 考える力は人とのかかわりから生まれる.げんき 43: 72-76,1997.
西村辨作 コミュニケーションと向かう姿勢.げんき 44: 90-95,1997.
西村辨作 読み聞かせの心理学.げんき 45: 76-82,1998.
西村辨作 発達に遅れをもつ子どもの統合保育.げんき 46: 76-81,1998.
中村みほ 言葉の育ち方育て方.岡崎医報 42: 32-34.1997

学会発表

発表者 内容
中村みほ,原 幸一,西村辨作,熊谷俊幸1,松本昭子1,三浦清邦1,山中勗1,早川知恵美11中央病院) WILLIAMS症候群患児の精神発達面からの検討.日本小児科学会東海地方会(名古屋)1997.2.1.
伊東保志1,赤滝久美,三田勝己,安藤幸司2,伊藤正美31鈴鹿医療科技大,2中部大,3理研) 筋音図に含まれるBulk Movementの影響とその分離.日本ME学会(松本)1997.4.16.
渡壁 誠,三田勝己,赤滝久美,伊東保志1,安藤幸司2,安林幹翁2,伊藤正美31鈴鹿医療科技大,2中部大,3理研) 筋音図(MMG)発生機序に関する生体力学的検討.バイオエンジニアリング学術講演会・夏季セミナー(東京)1997.7.21.
安藤幸司1,安林幹翁1,赤滝久美,渡壁誠,三田勝己,伊東保志2,伊藤正美31中部大,2鈴鹿医療科技大,3理研) Mechanomyogram(筋音図)に混入するBulkMovementの除去.計測自動制御学会学術講演会(徳島)1997.7.29.
伊東保志1,渡辺 瞭1,赤滝久美,三田勝己(1鈴鹿医療科技大) 筋音図パワースペクトルの分解.バイオメカニズム学会(鈴鹿)1997.8.18.
Kuno, H.1, Suzuki, N.2, Akataki, K., Watakabe, M., Mita, K., Ito, M.31Chubu Univ., 2Izu Rehabil. Welfare Centr., 3The Inst. Phys. Chem. Res.) Geometrical assessment of the range of motion of lower limb joints. XVI Congress of The International Society of Biomechanics(Tokyo)1997.8.25.
Itoh, K., Mita, K., Akataki, K., Katoh, A.11Aichi Institute of Technol.) Statistical estimation of force-velocity relationship during dynamic muscle contraction, XVI Congress of the International Society of Biomechanics.(Tokyo)1997.8.25.
Ito, Y.1, Akataki, K., Watakabe, M., Mita, K., Ando, K.2, Ito, M.31Suzuka Univ. Med. Sci. Tech, 2Chubu Univ., 3The Inst. Phys. Chem. Res.) Spectral decomposition of mechanomyogram (MMG)associated with lateral expansion and bulk movement. XVI Congress of The International Society of Biomechanics (Tokyo) 1997.8.26.
Tsukahara, R., Aoki, H., Yabe, K1.(1Nagoya Univ.) Effects of premotion silent period on synchronization of motor unit discharge at onset of a rapid contraction. International Congress of EEG and Clinical Neurophysiology (Florence, Italy) 1997.8.26.
青木 久,久野裕子,塚原玲子 重度身体障害児・者の使用する日常生活における自己決定支援ソフトウェアの開発. リハビリテーション工学カンファレンス(佐世保)1997.8.27.
久野裕子,青木 久,塚原玲子 スプリントタイプのパソコン入力スイッチ―重度脳性麻痺者への適用―.リハビリテーション工学カンファレンス(佐世保)1997.8.29.
渡壁 誠,三田勝己,赤滝久美,鈴木伸治1,久野弘明2,安林幹翁2,伊藤正美31伊豆医療福祉センター,2中部大,3理研) 下肢の関節可動障害に関する幾何学的評価法. 生体生理工学シンポジウム(東京)1997.9.4.
野中壽子1,赤滝久美,渡壁 誠,三田勝己,伊東保志2,矢部京之助31名古屋市大,2鈴鹿医療科技大,3名古屋大) 児童の筋収縮特性―筋電図と筋音図による分析―. 日本体力医学会(大阪)1997.9.21.
赤滝久美,渡壁 誠,伊藤晋彦,三田勝己,伊東保志1,野中壽子2,村地俊二31鈴鹿医療科技大,2名古屋市大,3日赤愛知短大) 筋音の発生機序に関する一考察. 日本体力医学会(大阪)1997.9.21.
Akataki, K., Oki, T.1, Mita, K. (1Cent. Hosp.) Mechanomyographic study of quadriceps muscle function in children with spina bifida. International symposium on spina bifida (Kobe) 1997.9.28.
原 幸一,西村辨作 話しことばのない重度自閉症児に対するサイン指導. 日本特殊教育学会大会(熊本)1997.10.10.
西村辨作 1ダウン症児にみられた構音障害の継時的分析. 日本音声言語医学会(神戸)1997.11.20.
青木 久,塚原玲子,矢部京之助 動的な筋力発揮が運動誘発電位に与える影響の解析. 日本脳波・筋電図学会(福岡)1997.11.21.
伊藤晋彦,三田勝己,金尾英樹1,加藤厚生11愛知工大) 弾性負荷に対する筋運動の制御. 自動制御連合講演会(金沢) 1997.11.21.
青木 久 随意動作に先行する筋放電休止黄の役割と出現機構. 予測制御の生理学研究会・生理学研究所研究会(岡崎)1997.12.5.
野中壽子1,赤滝久美,渡壁 誠,三田勝己,伊東保志2,矢部京之助31名古屋市大,2鈴鹿医療科技大,3名古屋大) 筋音図・筋電図を用いた児童の筋機能の評価. 日本体力医学会東海地方会(名古屋)1998.3.28.

講演など

講演者 内容
西村辨作 子どものことばの発達.浜松ダウン症児親の会(浜松)1997.4.13.
西村辨作 自閉症児の言語治療.愛知自閉症児・者親の会総会(名古屋)1997.5.28.
西村辨作 自閉症児にかかわる諸問題.愛知県教育委員会講習会(豊田)1997.6.10.
西村辨作 障害児の言語治療.岐阜県土岐市ウェルフェアセンター(土岐)1997.6.20.
西村辨作 自閉症児の言語治療.のぞみ発達クリニック公開セミナー(東京)1997.7.5.
西村辨作 家庭におけるコミュニケーションの留意事項.豊田市立豊田養護学校(豊田)1997.6.10.
西村辨作 幼児の思考力の基盤を育てる.東京成徳保育短期大学夏期セミナー(東京)1997.7.25.
西村辨作 ことばとコミュニケーション.名古屋市障害通園施設中堅職員研修(名古屋)1997.8.5.
中村みほ 言葉の育ち方育て方.岡崎市医師会館(岡崎)1997.8.24.
西村辨作 子どもの知性の発達.函館保育研究会(函館)1997.10.11.
赤滝久美 MMGの生理と臨床.タテシナハビリス夏期セミナー(茅野)1997.10.12.
渡壁 誠 MMGの計測技術.タテシナハビリス夏期セミナー(茅野)1997.10.12.
伊藤晋彦 動的筋力のウェーブレット変換.タテシナハビリス夏期セミナー(茅野)1997.10.12.
西村辨作 コミュニケーション.コロニー中堅職員研修2(愛知県コロニー)1997.10.16.
西村辨作 障害児の教育と教師の心の健康.愛知県教職員組合教育研究集会(名古屋)1997.11.1.
西村辨作 障害児施設における言語指導について.名古屋市障害通園施設中堅職員研修(名古屋)1997.11.6.
三田勝己 身体運動とリハビリテーションの生理工学.豊橋技術科学大学特別講義(豊橋)1997.11.10.
西村辨作 自閉症療育プログラムの紹介.自閉症者療育施設泰山寮保護者学習会(三好)1997.11.17.
青木 久 リハビリテーション工学の臨床への関わりについて.東三河リハビリテーション研究会(豊川)1997.11.22.
西村辨作 コミュニケーション.愛知県社会福祉協議会施設職員研修会(瀬戸)1997.11.27.
西村辨作 子どものことばの発達.あさみどりの会(名古屋)1997.11.28.
三田勝己,赤滝久美,鈴木伸治1,中村博志21伊豆医療福祉センター,2日本女子大) 重症心身障害児の柔軟性の経年的変容とその対策.厚生省精神・神経疾患研究依託費「重症心身障害における病態の年齢依存性とその対策に関する研究」平成9年度班会議(東京)1997.12.3.
中村みほ Williams症候群と診断された児の言語及び精神発達上の特徴について.エルフィン中部(ウィリアムス症候群の会)(名古屋)1997.12.7.
西村辨作 障害児のきょうだいについて.春日台養護学校親の会講演会(春日井)1998.1.9.
西村辨作 子どものことばの発達.東海市カトレア学園(東海)1998.1.16.
西村辨作 障害とは何か.稲沢市障害児療育ボランティア講習会(稲沢)1998.2.28.
西村辨作 ことばの遅れや兄弟関係について.大府市立大府学園(大府)1998.3.8.
久野裕子 障害の特性とコンピューター.パソコンボランティア入門講座(名古屋)1998.3.22.

その他の研究活動

地域活動

活動者 内容
三田勝己,赤滝久美,渡壁 誠,伊藤晋彦 精神発達障害児の水泳訓練(中央病院プール)1997.4.~1998.3.
青木 久,塚原玲子,久野裕子 重症身体障害児のパソコン相談室 (こばと学園) 1997.4.~1998.3.
久野裕子 障害者・高齢者のパソコン利用支援グループ「SKIP」(名古屋)1997.4.~1998.3.
久野裕子 生活の道具相談室(名古屋)1997.4.~1998.3.
中村みほ 小児神経科言語発達外来(コロニー中央病院)1997.10.~1998.3.
中村みほ 岡崎市ひよこの会(言葉遅れの子供の会)講師(岡崎)1997.4.~1998.3.
中村みほ 乳幼児発達相談(名古屋市中保健所)1997.4.~1998.3.

教育活動

活動者 内容
三田勝己 生活環境論(名古屋大学医療短期大学部)1997.4.1.~1997.9.30.
三田勝己 人間工学(名古屋市大学芸術工学部)1997.10.1.~1997.9.30.
青木 久 運動学実習(名古屋大学医療技術短期大学部)1997.4.1.~1997.9.30.
塚原玲子 運動学実習 (名古屋大学医療技術短期大学部)1997.4.1.~1997.9.30.
久野裕子 運動学実習(名古屋大学医療技術短期大学部)1997.4.1.~1997.9.30.
西村辨作 情緒障害児教育特論(愛知教育大学)1997.4.1.~9.30.
西村辨作 言語障害特論(金沢大学)1997.12.17.~12.20.

8.能力開発部

研究の概況

小野 宏  当部門は、「障害をもつ者と障害をもたない者が平等に生活できる社会こそノーマルな社会である」というノーマライゼーションの理念にのっとり、心理学、教育学、精神医学の立場から、心身に障害をもった人々の能力と権利の拡大に関する研究を行っている。
 第一研究室では、これまで、知的障害を持つ人々のQOL(生活の質)の拡大について、それを精神論としてではなく具体的技術までを含む包括的な方法論の問題として捉え、様々な実践的研究へ適用することでその妥当性を検証してきた。そこでは、QOLの拡大は“本人自身の行いたい行動の選択肢の拡大”と捉えられ、実践の目的にも方法にも取り入れられるべき前提的方針となる。従って、仮に問題行動の対処という要請を受けた場合にも、単に当該の問題行動を矯正するreactive(反動的)な対応ではなく、新たな行動を成立させて問題を低減させるようなproactive(前進的)な方針を選択する(Foxx,1997)。その方針のもとでの作業は、行動成立のための新たな環境設定の準備(=援助)、援助を永続的に環境に設定するために社会に対して行う要請(=援護)、そして新たな環境設定で本人が十全に適応するための教育(=教授)、という3つのサービスに分類できる。
 本年度は、プロジェクト研究を中心としたコロニー内外の諸施設との共同研究である、「援助」「援護」についての実証的研究、そして地域に住む重度知的障害を持つ人が必要とする社会資源について検討する、「援護」に関する調査研究(科学研究費課題番号07451039代表:小野宏)が行われた。
 まず、はるひ台学園では、強度行動障害を持つとされる青年の問題行動の改善について施設の療育体制に関する実践的な研究が行われた(プロジェクト研究3B報告を参照のこと)。次に、授産所および職業訓練校で開始された「選択メニュー」の実施に関して、その導入時における問題点や、導入がもたらす利用者や職員の行動の変化についての研究が行われた。また授産所園芸科における「集会」に関する研究では、本人たちによって示された要求発言を実現するための研究が引き続き行われた。養和荘との提携で行われてきた聴覚障害と知的障害を持つ個人における、「まだ/おわり」といった時制文脈に関わる語彙獲得の「教授」型の検討も、周囲の職員の対応との関連を中心に日常的使用や維持過程について検討された。
 第二研究室は、発達障害の克服と軽減に役立てることを目的に、1)認知とコミュニケーションの発達と援助に関する研究、2)統合保育に関する研究、3)パソコンを使った学習環境の開発に関する研究、4)ハイリスク児の母子支援に関する研究を行っている。
 本年度は、これらのテーマのうち、言語コミュニケーション発達を評価するための道具の開発に集中的にとりくんだ。言語コミュニケーションの発達を測り、記述するための標準化された物差しは、言語発達に遅れや障害を引き起こしているメカニズムを知り、言語発達支援プログラムを開発するのに不可欠の道具である。残念ながら、日本語発達を評価するための道具の開発は、子どもの精神発達研究のなかでももっとも未開拓の分野である。
 当研究室では、言語コミュニケーションの評価道具の一つとして、言語行動をビデオ等で直接観察して得た発話資料をデータベース化し、パソコンで自動解析するための技術を開発、実用化している。また一つには、親からの報告によって、8か月から36か月までの言語コミュニケーション発達を捉えることを可能にするマッカーサー乳幼児言語発達質問紙日本語版の開発と標準化を、神戸大学発達科学部小椋研究室と共同で研究している。
 これらの研究成果として、本年度は、日本語の特性に合わせて開発した発話解析法JUPITAを利用して、1歳後半から4歳までに、対人関係を表現する語の使用がどのように発達するかを事例検討し、健常児では「心の理論」の言語的先行物がどのように発達してくるかを明らかにした。この研究は、自閉症児では、他者との情報や関心の共有、会話関係の成立、維持に関与していると考えられる終助詞「ね」が選択的に欠如しており、「ね」が心の理論のもっとも早期の言語的先行物である可能性を示唆したわれわれの既報を補強するために行った。このほか、助詞の発達が発話の平均的長さの増加発達とどのように対応しているかを検討した。これによって、30年前に大久保(1967)が事例研究で明らかにした助詞の発達順序を再確認するとともに、今回新たに、助詞発達と発話長の関係、語彙発達との関係を明らかにした。
 当部門の研究は、実践の場の協力なしには不可能なものである。研究遂行には、春日井市、名古屋市、刈谷市、松江市、神戸市、小田原市の福祉、保育行政に関係する方々、子どもとその家族の方々から、ご理解ある協力をいただいた。また、養和荘、コロニー内では、はるひ台学園、職業訓練校、授産所との共同研究を行った。多大な協力をいただいた関係諸氏にお礼を申し上げる。教育活動は、名古屋大学、名古屋市立大学、愛知教育大学、愛知県立総合看護専門学校、愛知県立春日井看護専門学校で講義を行った。人事面では、綿巻徹室長が治療学部より昇任(4月1日付)、望月昭主任研究員は立命館大学文学部教授へ転任した(3月31日付)。綿巻室長は平成9年11月九州大学より博士(教育心理学)の学位を授与された。

重度知的障害者の学校卒業後の粗暴化・無力化の実態と治療方法に関する臨床的研究(2)

小野 宏、望月 昭、渡部匡隆、野崎和子  本研究は、近年、愛知県コロニー中央病院精神科外来において、その主訴として急激に増加している青年期・成人期の重度知的障害をもつ人々の粗暴化・無力化といった重篤な問題行動と生活上の問題について把握し、それらの結果をもとに学校教育が終了した後の支援や援助方法について検討することを目的に平成8年度から実施している。平成9年度は、実態調査として行った「学校教育を終了した知的障害をもつ人の生活実態に関する調査」の集計及び分析を行った。調査は、愛知県内の各市町村の「手をつなぐ親の会」に所属している会員を対象に実施した。各地区の会員からすでに学校教育を終了した子女をもつ親を無作為で抽出し、各地区の会員の約1割に相当する318名に調査を依頼した。そのうち291名から回答があり、回収率は約92%であった。
 調査結果のうち問題行動の発生状況についてみると、現在何らかの問題行動を有しているとの回答が約半数の137名(47%)からあり、その具体的な行動特徴としては「暴力」「怒りっぽい」「自傷」「情緒不安定」がそれぞれ30件以上報告された。その他に「荒々しい態度」「物を傷つける」「こだわり」「パニック」が20件以上報告され、それらに続いて「通所拒否」「独り言」「無気力」「動きが少ない」などが見られていた。それらの行動の発生時期をみると学校卒業後に最も多くなるという傾向が見い出され、その結果は投薬の開始時期からも裏付けられた。以上の結果から、学校教育終了後に知的障害をもつ人々の粗暴化の問題が深刻化していることが明らかになり、それらに対して早急に対応方法の検討を実施する必要があることが示唆された。  本研究は、文部省科学研究費補助金(基盤研究B No.07451039)の助成を受けた。

高次条件性弁別課題による時制文脈の学習(6)

―日常場面への般化の促進― 望月 昭、野崎和子、杉本高子1  高次条件性弁別課題を用いた「まだ」と「おわり」という時制文脈の学習を行った3名の対象者について、日常場面での表出般化の測定を引き続き行った(手続きについては年報25号を参照)。その記録の総数は、各々の対象者で488件、863件、152件となった。対象者Aでは、学習場面での表出は完成しているものの、日常場面では「人」あるいは「出来事」に固定した回答が見られ、正答率はチャンスレベルのままであった。そこで、日常場面を写真に撮って学習場面で表出の確認を行ったところ、ある「人」のある「出来事」について、「まだ」「動作文脈」「おわり」の3枚をセットとして呈示されると正しい並べ換えが生じ、それに伴い表出も正解した。しかし、写真を1枚ずつランダムに呈示されると、「人」に固定した回答を表出することがわかった。この間の般化を促すことは未だできていない。対象者Bでは、学習場面で線画を使った刺激による条件性弁別課題で成績の上がらなかった「出来事」を、対象者自身の日常場面を写真撮影した刺激に差し替えて行ったところ、すぐに成績が好転したもの(洗濯)と一定しないもの(ふろ)に分かれた。対象者Bの場合、これらの写真刺激を用いた課題 で成績の良い「出来事」と、日常場面で正答する「出来事」とほぼ一致した。また、特別な行事についてはスケジュール表を指して質問すると、これもきわめて高い正答率を示すようになった。対象者Cの得意とする表出モードはサインである。時制文脈の学習には今年度より参加し、サインを用いた高次条件性弁別課題の学習については非常に早く完成した。しかし、「**、おわり」といったような2語のサインを用いた表出への般化が見られなかった。そこで、サインだけでなく、視覚的記号として「まだ」「おわり」の文字を取り入れた複数モードの学習課題を行ったところ、スムースに2語のサインが出現した。同時に、それまで日常場面での般化表出はすべて「おわり」と答えていたのが改善され、ほぼ100%に近い正答率を示すようになった。  1養和荘

「集会」における自己決定と作業環境の改善の援助(3)

―会計作業への新たな援助設定の導入の効果― 渡部匡隆  コロニー授産所の園芸科において、知的障害をもつ本人の自己決定を実現していくための援助技術の問題について検討してきた。そして、その具体的な方法として「集会」という場面を設定し、そこで知的障害をもつ本人が自ら作業環境を改善していくための要求や意見を表明することができるか検討してきた。ところが、「集会」において入所者から要求発言が行われてもさまざまな理由により対応が保留されている内容があった。その一つが販売における会計作業であり、会計作業への参加希望が表明されても本人の参加が検討されていなかった。そこで、この会計作業を中心に本人の要求発言が実現されるための方法について検討していくとともに、本人の要求表明を実現しようとする職員の要求実現行動の生起について分析を行った。
 本研究では、会計作業に新たに開発した簡易会計システム(デジスター)を導入した。デジスターは販売される商品が写真で提示され、商品が提示されたときに当該の写真をペンで触れることによって自動的に金額が計算されるようになっている。デジスターは、平成9年度に導入され、約1年にわたってその導入と入所者の販売従事機会との関係について調べた。その結果、デジスターの導入によって、それまで会計作業への参加希望が保留されていた人の会計作業への参加が増加するようになり、それらの人々への職員の要求実現行動が高まることが示された。以上の結果から、知的障害をもつ本人の自己決定が保障されるためには、本人の要求発言を実現していくための活動(援護)が必要であることが示唆された。

コロニー内施設への選択メニューの導入

野崎和子、望月 昭、渡部匡隆、野田正文1、佐藤真由美1、渡辺浩志1、大澤イツ子2、太田元博2、原山康子3、村木幸子3  当研究は、プロジェクト研究3B「コロニーでQOL向上のための作業は可能か?」の対象となった第二の事例である。ここでは、コロニー内の2施設、春日台授産所と春日台職業訓練校への選択メニューの導入の過程に参与し、実施後の展開を検討した。
 選択メニューの導入過程では、当該の施設、給食課、療育部及び研究所の各スタッフで3回の会議が持たれ、選択の実施に関してミッションの共有が図られた。具体的には、全国の更生施設での「食」のアンケート調査の結果(1992年、研究所実施)を当該施設の職員全員に配布し、同時にコロニーでの「食」に関するアンケート調査を行って結果を集計しフィードバックした。この時点で、両施設の調査結果は、選択メニューの実施に関して「意味がない」という意見はわずかで、半数以上が「意味はあるが実施は難しい」と考えていることがわかった。また、現在の食事に関する問題点やその改善点として、授産所ではメニューのパターン化と適温給食の実施を挙げる意見が、職訓校では適温給食の実施と食事の体制や位置づけの見直しを挙げる意見が多く見られた。
 当年度の後半より、月に1回の主菜の選択と、同じくパンに添えられるジャムの選択が実施されるようになった。回数やメニューの内容については、専ら給食課の勤務状況に依存した。選択実施日とそうでない日の食事状況について、準備から終了までの利用者と職員の動きと残飯量を定点観測した。また、最初の選択実施直後に、利用者と勤務にあたった2施設の職員に聞き取り調査を行った。結果は、選択そのものについては初回からスムースに行われ、利用者の声も概ね良好であった。主菜の残飯に関しては、選択メニューの実施日の方が明らかに少なかった。さらに、選択メニューの実施に伴い、職訓校ではセルフサービスに始まり、席や喫食時間の自由化、食後のコーヒーの導入等、毎回新しい試みが行われた。授産所では、冬季にホットプレートで適温主菜の提供がなされた。これらはいずれも、最初のアンケートで問題点として挙げられているものであり、食事に関して個々の施設内で可能な限りのサービスの改善と前進が図られたといえる。  1療育部事業課、2春日台授産所、3春日台職業訓練校

平均発話長の伸びと助詞の発達

綿巻 徹、西野知子  助詞は、文法機能語と呼ばれる特殊な単語である。それは、内容語にくらべ、その使用に個人の生活環境の差異が出にくく、反復使用される確率が高い単語である。こうした特性をもつ助詞を測度にして、われわれは、ダウン症や自閉症の子どもの認知、社会性の特徴を明らかにする研究に取り組んでいる。しかし残念ながら、助詞、認知、社会性のいずれの発達も、言語の全般的な発達水準に依存しあっていると考えられるが、助詞の発達と言語の全般的発達との対応についてはまだ不明である。
 本研究は、助詞の発達と、言語の全般的な発達指標であるMLU(平均発話長)との対応関係を明らかにすることを目的として、健常女児の20か月から33か月までの各月1時間の縦断発話資料をパソコンで解析した。
 その結果、最も早くから優先的に使われ始める助詞は、感情や情報を聞き手と共有し対話関係を維持する終助詞「ね」で、文内の意味役割を表わす格助詞の使用はこれに少し遅れて発現することが確認された。つまり、言語発達段階1前期(MLU1.05-1.5、20-21か月)には、終助詞「ね」「と」(終助詞「の」相当の方言)が出現し、段階1後期(MLU1.5-2.0、22-25か月)には、四類以外の、格助詞、接続助詞、係・副助詞などが使われ始め、新たな終助詞も使われ始めた。また、助詞の成長速度が最も大きい月齢、つまり、新種の助詞が最も多く出現した月齢は、22か月と23か月だった。この月齢には、新しい助詞の種類数の急上昇にくわえ、語彙の急激な拡大が起こっていた。このほか、助詞使用量(延べ数)は、23か月以降、1時間当り150~250個で、全期間の累積使用量は約2,000個だった。また、使用量の多い上位10種は順に、ね(終)、が(格)、と(方言の終助詞)、の(格)、は(係)、って(終)、よ(終)、て(終)、も(副)、の(終)で、これらが助詞全体の累積使用量の73%を占めていることが明らかになった。

語彙使用からみた一女児の対人関係スキルの発達経過

西野知子、綿巻 徹  自閉症の子どもは、他者とのやりとりに困難をもっている。最近、こうした問題点は、他者の心を読みとり、理解する認知能力の障害から二次的に生じたとする「心の理論」仮説が出され、大きな関心をあつめている。われわれは、自閉症の子どもでは、聞き手と情報を共有したり、対話的関係を維持するのに役立つ共感獲得表現助詞「ね」が選択的に欠如していることをこれまでに事例報告したが、健常児の場合、この種の言語表現はどのように発達してくるのだろうか。
 本研究は、共感獲得表現助詞「ね」のほかに、対人関係にかかわる「見て」「ほら」「うん」などの10種の言語表現に注目して、これらが1歳後半から4歳までに、どのように発達するかを、家庭で録音した健常女児1名の縦断発話資料をパソコンで解析し検討した。
 その結果、終助詞「ね」の発現時期は、通常生後9ヵ月に現われるとされている非言語手段の指さしによる注意の共同化(joint attention)が発現する時期と、2歳半の言語「見て」による注意の共同化の発現時期との中間に出現していた。これは、終助詞「ね」が、言語による注意の共同化のうち最も早期に発現する先行物であることを示唆するものである。ダウン症の子どもを調べたTager-Flusberg(1993)の研究は、「Look at this !」のような注意の共同化発話が、平均発話長2.0~2.5の時期に発現し始め、その後、平均発話長が3.5以上になると減る、逆U字型の発達曲線をたどることを明らかにしている。本研究の健常事例も、「見て」の発達は、これと同じような経過をたどっていた。今後、ことば、コミュニケーション、認知の発達とその障害を理解するためには、人との関係を表すために使われることばの発達過程を詳細に明らかにしていくことがますます重要となるだろう。

研究業績

著書・総説

著者 総説
望月 昭 「コミュニケーションを教える」とは?一行動分析学によるパラダイムチェンジ.小林重雄(監修)山本淳一・加藤哲文(編)応用行動分析学入門.学苑社,pp.2-25,1997.
渡部匡隆 コミュニティ・スキル訓練-地域社会の中でコミュニケーション行動を実現する.小林重雄(監)山本淳一・加藤哲文(編)応用行動分析学入門.学苑社,pp.202-209,1997.
渡部匡隆 コミュニケーション行動の個体発生-乳幼児のコミュニケーション行動-.小林重雄(監)山本淳一・加藤哲文(編)応用行動分析学入門.学苑社,pp.244-255,1997.
野崎和子 非音声的コミュニケーション行動の日常での般化のために.小林重雄(監修)山本淳一・加藤哲文(編)応用行動分析学入門.学苑社,pp.175-185,1997.

原著論文

原著者 総説
菊谷浩子1,岡本圭子2,綿巻徹,小池敏英31都立府中養護,2東京学芸大附属養護,3東京学芸大) 精神遅滞児における数の一対一対応操作の指導に関する研究-対応づけを促す援助課題とその有効性について-.発達障害研究 19:81-88,1997.
綿巻 徹 自閉症児における共感獲得表現助詞「ね」の使用の欠如:事例研究.発達障害研究 19:146-157,1997.
西村辨作,綿巻 徹,原 幸一 1ダウン症児にみられた構音障害の継時的分析.特殊教育学研究 35:21-31,1997.

その他の印刷物

著者 総説
小野 宏,望月 昭,渡部匡隆,野崎和子 重度知的障害者の学校卒業後の無力化の実態と治療方法に関する臨床的研究.文部省科学研究補助金基盤研究B(2)研究成果報告書,pp.1-37,1998.
小野 宏 ケースカンファレンス研究会だより.コロニーだより,1997.4.~1998.3.
望月 昭 巻頭提言「教育とQOL」:消費者としての教育こそ早期から.実践障害児教育 292:1,1997.
望月 昭 コミュニケーション指導・再考:1コミュニケーション指導の基本的意味.実践障害児教育 298:50-51,1998.
綿巻 徹 パソコンを使って楽しく学ぶ-障害児教育へのパソコンの利用-.教育と情報3月号(No.480),pp.38-41,1998.
小椋たみ子1,綿巻 徹(1神戸大) 身ぶりと語彙の発達について-マッカーサー乳幼児言語発達質問紙から-.文部省平成9年度科学研究費補助金重点研究「心の発達:認知成長の機構」研究成果報告書,pp.198-205,1998.
小椋たみ子1,綿巻 徹(1神戸大) マッカーサー乳幼児言語発達質問紙の開発と研究.平成8年度~9年度科学研究費補助金(基盤研究(C))研究成果報告書,pp.1-145,1998.

学会発表

発表者 内容
望月 昭 自閉性障害への行動論的教育福祉援助(3)21世紀に向けての援助システムの検討(指定討論).日本特殊教育学会第35回大会(熊本)1997.10.10.
望月 昭 行動療法から一歩進んで(企画と司会).日本行動分析学会第15回年次大会(東京)1997.11.23.
渡部匡隆 重度障害をもつ個人の社会参加・地域生活の確立-「主体性」を発揮するための支援に向けて.自主シンポジウム企画.日本特殊教育学会(熊本)1997.10.10.
綿巻 徹,西野知子 平均発話長の伸びと助詞の発達.日本教育心理学会第39回総会(東広島)1997.9.24.
綿巻 徹 長崎,里見,大石発表へのコメント.自主シンポジウム「教えることと伝えること-ことばの指導における理論の知,実践の知-」日本特殊教育学会第35回大会(熊本)1997.10.10.
綿巻 徹 長期参与観察からみた「心の理論」の発達.ミニシンポジウム「こころの理論は教えられるか」.日本発達心理学会第9回大会(東佳)1998.3.26.
西野知子,綿巻 徹 言語使用からみた一女児の対人関係スキルの発達経過.日本教育心理学会第39回総会(東広島)1997.9.24.

講演など

講演者 内容
小野 宏 ケース検討の仕方.師勝町保母研修会(師勝町)1997.4.18.
小野 宏 理論と具体性.名古屋市立大学精神科研究会(名古屋)1997.4.22.
小野 宏 事例性について.愛知インシデント研究会(名古屋)1997.5.10.
小野 宏 自閉症とのお付き合い(1).さわらび学園公開研修会(名古屋)1997.6.5.
小野 宏 具体的に考えるには.愛知県愛護協会職員研修会(名古屋)1997.6.7.
小野 宏 自閉症とのお付き合い(2).さわらび学園公開研修会(名古屋)1997.6.12.
小野 宏 精神遅滞と自閉症.コロニー初級職員研修(愛知県コロニー)1997.6.18.
小野 宏 父親の仕事.大府学園保護者会(大府)1997.6.22.
小野 宏 インシデント・プロセス法について.安城市保母研修会(安城)1997.6.28.
小野 宏 '97 コロニー公開セミナー(西尾)1997.7.12.
小野宏 ニーズの把握と対応.名古屋市養護施設看護婦研修会(名古屋)1997.7.23.
小野 宏 障害を持つ人とのお付き合い.名古屋市ガイドヘルパー研修会(名古屋)1997.8.25.
小野 宏 療育におけるコミュニケーションについて.コロニー中級職員研修(愛知県コロニー)1997.10.16.
小野 宏 障害を持った人とのお付き合い.名古屋市施設職員研修会(名古屋)1997.11.11.
小野 宏 知的障害を持った人が大人になること.あかね荘保護者研修会(豊橋)1997.12.6.
小野 宏 インシデント・プロセス法について.愛知愛護上級研修会(名古屋)1997.12.23.
小野 宏 障害と育児.視覚障害を持った子の親研修会(愛知県コロニー)1998.1.14.
望月 昭 学校で教えること.岡崎市ボランティア協議会特別講演(岡崎)1997.4.12.
望月 昭 療育研究の取り組み方について.こばと学園平成9年度職員研修講演会(愛知県コロニー)1997.6.27.
望月 昭 一人一人のニーズに応じた教育の在り方:NIEPの作成・実現に向けて.名古屋市教育センター研究研修会(名古屋)1997.8.26.
望月 昭 FCと刺激等価性.国立特殊教育総合研究所特別研究「障害のある子供の書字・描画における表出援助に関する研究」.平成9年度第1回全体研究協議会(横須賀)1997.8.28.~8.29.
望月 昭 重度・重複障害児の指導の実際(10)-行動障害への対応-.国立特殊教育総合研究所平成9年度短期研修(重度・重複障害コース)(横須賀)1997.10.30.
望月 昭 研究に対するコメント.こばと学園平成9年度療育研究会(愛知県コロニー)1997.12.19.
望月 昭 コロニーの中のQOL向上.こばと学園平成9年度職員研修2(愛知県コロニー)1998.1.26.
渡部匡隆 障害が重い子どものコミュニケーションを高める指導について.愛知県教育センター養護・訓練研修講座(東郷町)1997.7.24.
渡部匡隆 発達障害児・者の生活支援をめぐって.筑波大学心身障害学系(つくば)1997.8.23.
渡部匡隆 自閉症児童の社会参加スキルの形成-自己決定と社会生活への組織的な援助にむけて-.Fuji教育研究会(春日部)1997.11.15.
綿巻 徹 言語発達測度としての発話長.名古屋大学国際留学センター(名古屋)1997.5.19.
綿巻 徹 コミュニケーションの力を育てる1.南部地域療育センターそよ風(名古屋)1997.7.2.
綿巻 徹 コミュニケーションの力を育てる2.南部地域療育センターそよ風(名古屋)1997.7.16.
綿巻 徹 山下,大嶋発表へのコメント.JCAT Japanes CHILDES 年次総会(東京)1997.8.2.
綿巻 徹 日本語における発話長の伸びと文法形態素の発達.JCAT Japanes CHILDES第3回年次総会(東京)1997.8.3.
綿巻 徹 遊び.春日井市障害児保育自主研修会(春日井)1997.9.10.
綿巻 徹 障害児との関わりについて.春日井市障害児保育担当者研修会(春日井)1997.10.8.
綿巻 徹 コミュニケーション.春日井市障害児保育自主研修会(春日井)1997.11.19.
西野知子 障害児保育について.障害児(者)地域療育研修会(名古屋)1997.6.27.

その他の研究活動

学術集会主催

活動者 内容
望月 昭・野崎和子 障害者の就労に関するミニ研修会(愛知県コロニー)1997.8.24.
望月 昭・渡部匡隆 知的障害を持つ個人への就労援助:行動分析はどのように貢献できるのか.日本行動分析学会公開講座(東京)1997.12.13.

地域活動

活動者 内容
小野 宏 ケースカンファレンス研究会(愛知県コロニー)1997.4.~1998.3.
小野 宏 名古屋市立大学医学部精神科症例研究会1997.4.~1998.3.
小野 宏 コロニーハビリ棟心理系職員研究会1997.4.~1998.3.
小野 宏 さわらび学園ケースカンファレンス1997.4.~1998.3.
小野 宏 愛知県愛護協会事例検討会1997.4.~1998.3.
望月 昭 障害児教育事例研究会(名古屋)1997.4.~1998.3.
西野知子 春日井市障害児保育自主研修会(春日井)1997.6.~1997.11.

教育活動

活動者 内容
小野 宏 児童精神医学(名古屋市立大学医学部)1997.4.1.~1998.3.31.
小野 宏 障害児の保健(愛知教育大学)1997.4.1.~1998.3.31.
望月 昭 障害児教育特論(愛知教育大学)1997.4.1.~1998.3.31.
望月 昭 発達療法治療学特論(名古屋大学医療技術短期大学部)1997.4.1.~1998.3.31.
望月 昭 心理学(愛知県立春日井看護専門学校)1997.4.1.~1998.3.31.
渡部匡隆 心理学(愛知県立春日井看護専門学校)1997.9.1.~1998.3.31.
綿巻 徹 人間発達学(名古屋大学医療技術短期大学部)1997.4.1.~1997.9.30.
綿巻 徹 教育学(愛知県立春日井看護専門学校)1997.4.1.~1997.7.31.
綿巻 徹 教育学(愛知県立春日井看護専門学校)1998.3.1.~1998.3.31.
西野知子 社会福祉学(愛知県立総合看護専門学校)1997.4.1.~1997.9.30.

9.社会福祉学部

研究の概況

渡辺勧持  「地域で共に生活する」方向がゆるやかではあるが施策の中に現れ、形となりつつある。これは、ノーマライゼーションの理念に基づいて障害者プランの第一の理念に掲げられている。
 ノーマライゼーションを提唱したバンク・ミッケルセンは、どのようにしてこのキャッチフレーズを思いついたのであろうか。知的障害者の権利擁護に長年関わり、今も罪を犯した知的障害者の友だちとして活動しているパースキー氏は著書の中で次のようにふれている。
 「行政官として知的障害のサービスを担当する職に私が初めてついた時、入所施設に行きました。私は自分が見た施設の生活と自分の生活を比較し始めました。自分はゆったりとした居間でソファーに座り、テレビを見ている。自分の寝室やトイレもある・・・。自分の生活と施設の人々の生活には大きな違いがある。この違いを正当化できる何んらかの理由があるのだろうか・・・。なにも見つかりませんでした。」この体験から彼らが地域の中で普通の人々の生活をできるようにすべきだ、というノーマライゼーションの考えが生まれた。
 日本でも障害の重い子どもたちが学校で学び、通所施設や作業所での日中の仕事の場が地域の中で増え、普通の住まいに近いグループホームも増えるなど普通の生活に向けて基本的なサービスが地域の中にできつつある。高度経済成長期に急激に増加した入所施設には、本来の入所機能に加え、ショートスティの実施、グループホームのバックアップ、コーディネーターや生活支援ワーカーの配備など、地域のサービスを援助する施策が次々と打ち出されている。
 高齢者、身体障害者の諸施策ではすでに見られるように、国から地方自治体へと権限が委譲され始め、市町村が自らの力で援助を必要とする人々を支援できる体制へとすこしづつ歩みつつある。これまでの「措置」を中心とした施策は介護保険に見られるように、一人一人が必要とするサービスを把握し、提供するサービスへと変わりつつある。地域の中でのサービスを考える方向が強まるにつれ、知的障害者へのサービスと高齢者や精神、身体障害者との福祉サービスが重なり合ってくるであろう。障害者プランで新たに導入された障害児(者)地域療育等支援事業の相談や指導を通じて地方自治体とこれまでサービスを提供してきた社会福祉法人は連携を深めることになろう。知的障害のサービス全体が、この数年で大きく変わることが予想される。
 このような状況では、地域でのサービスそのものを良くしていくことと同時に、サービス供給のための効率の良い仕組みを考えることが重要となる。「利用者」にとって使いやすい、安心して暮らせるサービスを築くには知的障害を持つ人々やその家族の声を聞くことがこれまでにも増して要求されよう。
 このような時代の要請の中で、社会福祉学部が今年すすめてきた研究は、具体的なサービスに関する研究としては、グループホームの全国的動向の把握、障害の重度の人、精神障害をもつ人の活動の場の展開を目指した調査、高齢の知的障害者の生活、心身面の基礎調査、生活環境と関連した問題行動の対応、高齢で知的障害をもつ人のグループホーム生活などに関する研究がある。サービス供給の仕組みについては障害児(者)地域療育等支援事業の他県での実施状況の調査、支援システムの展開について愛知県を一事例とし、例えば県が長年先駆的に行ってきた巡回相談事業等の実績が今後の障害児(者)地域療育等支援事業に与える影響等の特色を分析しようとしている。ノーマライゼーションの動きが進むにつれて知的障害をもつ人々自身の声を聞く方向が世界的に強まっている。フィンランドで行われた国際知的障害研究協会の大会では、知的障害者本人が一つの分科会を会期を通じて開催し、研究や活動への参加について活発な討論を行った。愛知県での当事者活動を進めながら昨年に引き続き、研究が続行している。
 社会福祉学部の研究は、現実のサービスと密接に関係している。そのために愛知県精神薄弱愛護協会を始め、多くの施設関係者や親との交流を持ち、シンポジウム等の機会に成果を公表しながら研究を進めてきた。特に障害児(者)地域療育等支援事業の調査については、県所管課との連絡を取り、資料提供を行っている。
 人事面では、第一研究室助手としてこばと学園、はるひ台学園勤務経験のある堀尾富美恵を迎えた。助手1名は空席のまま配置されず、嘱託の岩本郁子が週3日勤務した。これらの研究を進めるのに、援助をしてくれた文部省科学研究費、厚生省心身障害研究に感謝したい。

グループホームの全国的動向

渡辺勧持、堀尾富美恵、三田優子  知的障害者のグループホームは「地域で共に生活する」理念を住まいの面から実現してきている。その全国的な動向を明らかにするために、1987年10月の時点で把握したグループホーム1725カ所(国の補助制度950カ所と地方自治体の補助制度による775カ所)の分析を行った。グループホーム数は全体として増加している。人口10万人あたりのグループホーム利用者数と都道府県の関係を見ると、国の制度によって運営されているグループホームは県民所得の少なく入所利用者率の高い県に見られ、地方自治体の補助制度で運営しているグループホームは通所利用者率との関連が高く、大都市を有する県に集中している。国の補助制度を利用しているグループホームは、バックアップ施設に入所、通勤寮が多く、地方自治体の補助制度によるグループホームは運営団体等の多様なバックアップ形態を示している。これらのバックアップ形態の経年変化を見ると、国、地方の制度のどちらにおいても近年通所施設がバックアップしているグループホームが増えつつある。昨年報告した愛知県内のグループホーム調査では、通所施設がバックアップしているホームには重度の障害の利用者が多く全国的にも重度の障 害を持つ人が多くなっていると予想される。地方自治体の制度によるグループホームに入居する人は、家庭から直接入居する人よりも入所施設経由の人の方が多いが、家庭から入居している人の率が増加していると推定される。  本研究の一部は、平成9年度文部省科学研究費の援助を受けた。

知的障害者の生活の場の保障

大島正彦、高橋彰彦1、小邑弘光2  知的障害者(成人)の生活の場は在宅や入所施設以外に福祉ホーム、通勤寮、グループホーム、単身生活などと広がりをみせているが、それらを実現する制度についてはたち遅れている。量的にみれば相変わらず在宅か入所施設が圧倒的に多く、この二つ以外はまだ数パーセントにすぎない。
 この制度的な対応の遅れを克服していくために重要なことは、どこで生活しようと共通にみられる生活保障の水準の低さを実態として把握するとともに、その問題点、原因を明らかにする事である。
 本研究は以上の問題意識のもとに、生活保障という点で議論が集中している入所施設を研究対象として2年前から行っているものである。昨年は、1.他の分野の生活施設との比較、2.農山村での新しい生活施設建設を進めている例を研究対象として、政策主体、実践者、当事者の取り組みの事例分析、3.生活保障の実践分析、という3つの柱を立てて研究計画を作成するところまで行った。
 本年はまだ研究途上であるが、次のような中間結果が得られた。1に関しては、入所施設という住居形態の批判の強さは知的障害者の分野において特有の現象であること、知的障害者に対する人権侵害は入所施設に特異的に起こっているのではないこと、2に関しては、移住を決意した当事者の面接結果によると、都市部から農山村部への移住は普遍的に敬遠される事実はなく、不安と期待の両面を持っていること、現在深刻な生活問題を抱えている例が多いこと、移住を決意した大きな理由の一つに実践者に対する信頼があること、などであり、3に関しては長期的なフォローをしていくと同時に、他の既設の入所施設、グループホームなどの調査を企画中であり、今後の課題である。  本研究の一部は、平成9年度厚生省心身障害研究の助成を受けた。
 1文京女子短大、2ゆたか福祉会

急激退行を示したダウン症者に関する事例研究

―地域生活継続への課題― 島田博祐、渡辺勧持、篠塚加代子1  知的障害者に対する健康管理、福祉的処遇の改善に伴い長命化が進んだことで、重度化の問題に加え、高齢化に伴う問題が顕在化してきた。特にダウン症の場合、他の原因による知的障害と比較して、より早期から外見・体力・知的機能面における老化徴候が出現するとの報告も多い。また、アルツハイマー型痴呆との合併率が高いことも指摘されている。本研究では急激退行症状を示した42歳のダウン症女性を事例として取り上げ、諸機能面の退行に関する分析を行うと共に、地域生活を継続してい為の今後のケアの問題についても検討した。
 職員の日誌から既に1993年の段階で「仕事への集中力減退」、「字を忘れる」等の指摘が認められるが、諸症状の重篤化が進んだのは、1996~97年にかけてであり、模倣能力、見当識の喪失に加え、日常的な事物に関する語彙能力も大幅に低下した。知的退行は低下と一定の回復を繰り返しながら、漸進的且つ着実に進行していったことが日誌の記録分析からわかった。
 生活能力・適応行動面の変化に関しては、現在ケアに関わっている職員と退行前の様子に詳しい職員の双方に適応行動尺度(ABS)を評定してもらい、それらを比較した。全般的低下の中でも自立機能、身体機能の低下が著しく、本人の健康維持、介護面での困難化を招いており、頻尿・失禁の増加、風邪など体調不良を示すことも多い。
 本対象者の場合は、周囲の努力と他のグループホームが近接していた好条件等により、世話人の複数体制がとれたことで、昼間のケアが可能となり、現行の地域生活を続けているが、措置費が入所施設に比して少なく支援体制が十分でない現状ではむしろ、本人の希望があったとしても地域生活は困難となる場合が多いと思われる。今後の課題として、身体心理面の定期的なチェック体制の充実(巡回医療など)、関連施設やグループホーム間の情報交換、地域支援ネットワーク作りの必要性、就労における高齢化に合わせた作業時間・種目の工夫とデイセンターの充実、当事者の自己決定を尊重できるように老後の生活の場に関する選択肢を豊富にする等があげられる。  本研究の一部は文部省科学研究費(基盤研究C:09610229)の助成を受け、実施した。
 1ゆたか福祉会

在宅障害者の地域生活支援

大島正彦  知的障害者の生活の中心は、教育終了後は就労等を中心とした社会活動の場へと移る。しかし、実際には社会活動への参加の場は教育の場と比べて質、量ともにきわめて貧弱である。この傾向は重度障害者において著しい。全国4,000を越える無認可通所施設はこうした実態の反映であり、その予備軍が現在も養護学校の保護者の運動を中心として続々と誕生している。
 愛知県では、重度障害者の通所施設の制度化を求める草の根団体が約30団体集まり、「重度障害者の地域生活を考えるネットワーク愛知」が1996年に結成され、制度要求の検討をしてきている。
ここで検討された重度障害者の通所施設制度化案は、参加団体が所属する市町村へ要望を出す際の資料として用いられ、デイサービスの創設や市町村障害者施策検討のメンバーに加わるなどの成果を上げるところがでてきている。こうした市町村に直接働きかける行動が重要であるという認識から、1998年の2、3月に各参加団体の実状についての質問紙調査を実施した。この調査は、重度障害者の通所施設に対する切実な要望と、すでにこのような障害者を受け入れている無認可通所施設の経営と実践の矛盾をより具体的に明らかにし、各市町村に働きかけていく際の資料とすることにあり、現在集計中である。
 ショートステイ、移動、バリアフリー環境など通所施設以外の地域生活支援の事業については、重症心身障害児通所援護事業(2カ所)、小規模通所援護事業、ショートステイ事業、バリアフリーに関する研究会等の運営に参加しながら政策のあり方に関して検討を続けている。

精神障害者の共同作業所の役割と意義

三田優子、丸山由香1、杉本豊和2、藤井克徳2、宮内勝2  草の根に各地で展開してきた障害者の地域作業所は97年12月現在4500カ所を越えている。地域生活支援に関する新たな展開期である今、これまでの作業所の役割をまとめることによって、障害者への援助のあり方を考えることを目的に調査研究を行なった。本研究では精神障害者の作業所の、利用者である精神障害者本人を対象としたことが特徴である。利用者本人の経験や主観的な評価に焦点をあて、以下の2調査から生活支援のあり方をも考察した。
 (1)面接調査・・・北海道、東京、愛知、島根の5都道県15カ所の作業所で計27名の利用者を対象に面接調査実施(97年6~8月)。(2)配票調査・・・神奈川県K市内の全作業所の20カ所の全利用者を対象に質問票を用いた調査実施(97年9~11月)。
 主な調査内容は、作業所の活動内容、専門的援助・当事者相互援助等の実態把握、作業所利用についての利用者の意向、利用者が望む環境条件の意味、利用者の内面的な有用感・有意味性、将来の見通し、社会関係の広がりなどである。
 結果は、(1)利用者は作業所を「医療と異なる場」「個が憩える安心の場」「生活のペースメーカー」「自己を振り返る場」「自己を回復する場」等の表現で位置づけていた。デイケア等、他では得られない「居場所」となっていた。  (2)しかしながら作業所の運営状況、職員不足等を認識した上で、充分な相談や援助を期待しにくいと利用者のは考え、作業所の存続も含め厳しい運営の実態が援助の広がりを妨げていた。  (3)作業所でリラックスすることで「将来を少しづつ描けるようになった」り「対等な関係下での援助は有効」と評価し、作業所での経験が自信につながっていた。  (4)日常の人間関係の実態は密ではないものの、「いざというときには作業所を頼りたい」「職員に相談したい」等、作業所が地域での拠点となっていることが考察された。  1東京大・医、2共同作業所全国連絡会、3国立精神・神経センター

問題行動を持つ知的障害者の地域生活援助と入所施設援助(2)

渡辺勧持、島崎春樹1、吉田とき江1  昨年に引き続き、問題行動(Challenging Behavior)を隔離された入所施設の中でなく、地域生活を視野に入れ生活環境の改善のなかで対応する方法を検討した。
 べにしだの家の2事例が吉田によって検討された。事例1は、15歳で他施設に入所し、9年間ガラス割り、服・ふとん破り、放尿、自傷を行っていた知的障害が重度、自閉症の人である。現施設入所後、3ヶ月でガラス割りがなくなり、以後2年にわたって見られていない。入所初期に親が一緒に寝たり、宿直や作業の専属職員を配置した。行動が改善するにつれて、徐々に普通の職員配置、普通の施設日課に戻した。入所施設外の作業所に通所している。事例2は、自傷や他人に噛みつく行動を示す重度の知的障害、盲の人で現施設入所後は、自傷、他害行為は低減し、一定作業を長時間できるようになっている。島崎は、これらの問題行動の低減は、施設で「普通の生活」を提供できれば減少すると考え、生活環境の重要な要因に、父親、母親、兄弟を含む家族の援助、職員の受容的態度、ボランティアや親による対人援助の豊かさ、仕事の場、個室がある住まい、心地よい家具、親の家庭等の空間の質、生活、仕事、余暇が区別できる活動の場所をあげた。渡辺は、欧米のグループホームでの問題行動への対応に関する先行事例と島崎の生活環境要因および2事例の関係を分析し、1.運営者の理念 2.問題行動以外の活動への参加 3.生活全体の対応などから島崎の問題行動への対応について同種の要因が関与していることを見いだした。  本研究の一部は、平成9年度厚生省心身障害研究の援助を受けた。
 1べにしだの家

知的障害者の当事者活動

三田優子、河野和代1、河東田博2、小林繁市3、光増昌久4、花崎三千子5、本間弘子6  知的障害者の当事者活動はここ数年、年々活発になってきている。本研究では、全国的な当事者活動の実態の把握と当事者活動における援助のあり方、援助者の役割について明らかにすることを目的とした。現在分析中ではあるが、結果の一部は以下の通りである。
 都道府県政令指定都市の知的障害担当者、全日本手をつなぐ育成会、当事者活動に関する交流会・研修会参加者名簿等から把握した180グループを対象に調査票を郵送し、会組織、活動状況、支援の実態等を調査した。その結果、半数以上が過去5年以内に誕生しており、昭和30年代40年代に発足したと回答した数グループと大きく離れていた。会員が50人を越えている会も少なくなく、また支援者だけで30人を越えている会もあった。会の発足には支援者の呼びかけによるものが最も多く、その際には国内外の、特定の当事者グループをモデルとしているところも見られた。また育成会及び地方自治体から助成金・補助金を得ている会も少なくなく活動の重要な資金となっていた。
 支援のあり方は、当事者活動に関して重要な課題であるが、各当事者グループから充分なデータ収集はこれまでなかった。しかし、近年、当事者活動の支援者を対象とした研修会等がもたれるようになり、支援者側から支援のあり方を議論し始めてきている。当事者からは、支援者と知的障害者とが合同で研修する機会を希望している声や、当事者のリーダーを中心とした研修会への期待もでてきている。支援者の動き方で会の存続が危ぶまれたり、リーダーの育成が困難になっている現状もあり、支援者セミナー等の充実が求められている。
 当事者活動への支援論は生活支援論と重なるものも多く、地域における知的障害者の生活をどう支えるか、重要な視点の示唆が期待される。まだまだ活動し始めたばかりではあるが、当事者が主体となって展開する当事者活動のもたらすものはこれまでの専門家主導の福祉のあり方にもおよぶものと考えられた。  1若竹通勤寮、2四国学院大、3伊達市通勤センター旭寮、4松泉学院、5北の沢デイセンター、6城南生活援助センター

知的障害者における高齢化に伴う心身面、生活面の問題に関する研究

島田博祐、渡辺勧持、三田優子、谷口幸一1  前年度からの継続として、本年度は愛知県内の入所施設2ヶ所、グループホーム17ヶ所、通勤寮2ヶ所で生活する40歳以上の知的障害125名(体力検査に関しては試行可能な99名)を対象に体力面、生活適応面に関する調査を行った。
 体力面の調査はAAHOERD式体力テストから長座体前屈(柔軟性)、バランス歩行(敏捷性/動的平衡性)、缶置き換え作業(調整力)、腕屈伸作業(筋力/筋持久力)、804m歩行(持久力)の5課題、他に握力・背筋力(静的筋力)、開眼片足立(平衡性)、光音反応時間(敏捷性)の計10課題を行い、身長・体重・知能指数・改訂長谷川式簡易知能評価スケール等も併せて測定し、年代(40歳代・50歳代・60歳以上)、性別及び障害程度(重度・中軽度)別に分析した。
 結果として年齢差よりも、障害程度・性差の影響が大きいこと、大半の者が40~50歳段階で体力的には既に健常者の60歳代以下のレベルであることが明らかになった。
 生活の質、適応行動面の調査に関しては、14項目から成る「個人調査票」及び成人用適応行動尺度(ABS)を対象者と関わりの深い職員に記入してもらった。結果として、40歳代で既に85名中25名(29.4%)が何らかの疾病の為、定期通院しており、加齢と共にその割合が増加すること、125名中64名(51.2%)で行動変化が認められ、その中には病的老化の徴候も認められること等が明らかになった。詳細については学会発表、雑誌論文等で報告する予定である。  本研究の一部は、文部省科学研究費(基盤研究C:09610229)の助成を受けて実施した。
 1東海大・健康科学部

障害児者の地域生活支援システムの再構築に関する研究

―愛知県を事例対象として― 堀尾富美恵、三田優子、渡辺勧持  愛知県における「障害児者の地域生活を支えるための支援システムの再構築」について、1障害保健福祉圏の設定(人口30万人あるいは15万人規模)2障害児者施設および福祉サービスの適正配置3障害児者施設および福祉サービスのシステム化(利用者主体、有機的な)4システムの核として「障害児者地域生活支援センター」の配置。以上の視点により、分析を行っている。
 現状は、1障害保健福祉圏域はすでに設定され、2~4へ至るものとして、今年度は「障害児(者)地域療育等支援事業」(以下、「支援事業」と略す)の支援施設を5カ所、うち拠点施設が1カ所(コロニー)指定され、各々事業を展開しているが、基盤となる支援システム全体のビジョンは今のところ定まっていない。また、県単事業として行われてきた「巡回療育指導事業」から「支援事業」への移行が大きな課題となっている。および、重要な点として、拠点施設としてのコロニーが今年度より「支援事業」の市町村への啓発を始める、等である。
 本年は、県内の障害児者施設および福祉サービスの分布図の作成、県内の地域生活支援システムに関する諸事業の分析、他府県の先進的な事例についての資料収集と分析を行った。来年度は、「支援事業」5カ所の実施施設を核とし、1~4の視点に基づき、各障害保健福祉圏域ごとの地域生活支援システムの現状を比較する予定である。
 なお、この研究は、愛知県民生部障害援護課主催の「愛知県障害児(者)地域システム研究会」への資料提供という形でも進めている。

障害児(者)地域療育等支援事業の実施状況に関する全国調査

堀尾富美恵、三田優子、渡辺勧持  平成8年5月に創設された「障害児(者)地域療育等支援事業」は、障害児者の地域における生活を支えるための中核的事業として開始され、平成9年度には全国132カ所の施設において実施されている。始められたばかりの現段階では、事業はきわめて多種多様に展開されているが、その実施状況を詳細に調査・分析することにより、一連の方向性を見出し、「障害児者の地域生活を支えるための支援システム」における事業の位置づけをより明らかにしていくことが、本研究の目的である。
 調査は、平成9年度に事業の指定を受けた全国132カ所の施設を対象とし、3月23日に調査票の郵送を行った。調査内容は、実施施設の特性(種類、規模、医療機関の付設、地域との連携の状況、または、ショートステイ、デイ・サービス等の受け入れの有無、レスパイト機能の有無等)について、および支援事業の4つの基本事業の平成9年度における実施状況・課題・問題点・今後の展望等である。(4月27日現在回収率は、約54%)
 結果は、現在、整理・分析中であるが、これまでのところは、上記の実施施設の特性によって、各実施状況にいくつかの関連が見られる。また、すでに支援事業の4事業の枠組みを越えて、地域の障害児者の生活支援システムの核として、総合窓口機能およびレスパイト機能等をもつ「地域生活支援センター」として運営している例が散見されている。

研究業績

著書・総説

著者 総説
渡辺勧持 おもちゃ図書館の開設と組織化.日本精神薄弱者福祉連盟編「発達障害白書戦後50年誌」日本精神薄弱者福祉連盟,pp.386-387,1997.
渡辺勧持 愛光園.定藤丈弘,清水明彦(編著)「このまちにくらしたい」―重度障害者の地域生活支援システム―.朝日新聞厚生文化事業団,pp.40-46,1997.
三田優子 グループホーム.第7部生活支援,発達障害白書,―1998年版―,日本精神薄弱者福祉連盟,日本文化科学社,pp.132-133,1997.
渡辺勧持 グループホームの展開と生活援助.栗田広(編)精神遅滞の精神医学,精神医学レビュー,No.23,pp.115-117,1997.
大島正彦 ショートステイかレスパイトか.栗田広(編)精神遅滞の精神医学,精神医学レビュー,No.23,pp.112-114,1997.

原著論文

原著者 総説
渡辺勧持 「入所施設から地域へ」の移行に関する研究―知的障害者の入所施設設立が20世紀前半と後半の国との比較―.社会福祉学 38-2(57):53-66,1997.

その他の印刷物

著者 総説
渡辺勧持,島崎春樹1,吉田とき江11べにしだの家) 問題行動を持つ知的障害者の地域生活援助への移行を前提とした入所施設援助.平成8年度厚生省心身障害研究報告書,障害児(者)の治療教育法の開発に関する研究,pp.152-176,1997.
大島正彦 生活の場としての入所施設と治療教育.平成8年度厚生省心身障害研究報告書,障害児(者)の治療教育法の開発に関する研究,pp.200-202,1997.
三田優子,上原真治1,林 孝行2,多田宮子3,花崎三千子11札幌みんなの会,2徳島:ともの会,3東京:さくら会) 当事者活動を推進するための課題と展望,平成8年度厚生省心身障害研究報告書,心身障害児(者)の地域福祉に関する総合的研究,pp.13-20,1997.
渡辺勧持 地方自治体でグループホーム調査・世話人連絡会をすすめよう-愛知県グループホーム調査(1996). ノーマライゼーション 障害者の福祉(日本障害者リハビリテーション協会)17(5):66-70,1997.
Committee of the International Affairs(共同執筆) The Japanese Association for the Care and Training of the Mentally Retarded: Information on Welfare Service for People with Intellectual Disabilities in JAPAN. The Japanese Association for the Care and Training of the Mentally RetardedInformation on Welfare Service for People with Intellectual Disabilities,pp.1-25,1997.
島田博祐 地域で生活する知的障害者の高齢化問題について.職リハ通信TUBE,日本職業リハビリテーション学会,第17号,p.3,1997.
三田優子 暮らしを問う-当事者のスタンス-.日本精神薄弱者愛護協会,AIGO No.486,pp.20-25,1997.
榊原豊子1,渡辺勧持(1西尾作業所) グループホーム調査(愛知)と連絡会.愛護-精神薄弱福祉研究,9月号,No.488,p.64-73,1997.
渡辺勧持 みなさんにお会いして.障害者&ボランティア国際交流報告書,NHK厚生文化事業団,pp.15,1997.
日本精神薄弱者愛護協会国際委員会(共同執筆) 身近な国際交流を-海外からの研修生受け入れガイドブック-.日本精神薄弱者愛護協会国際委員会,pp.1-32,1997.
渡辺勧持,大島正彦,三田優子,島田博祐,堀尾富美恵,岩本郁子,秋田誠二1,井上昌和2,柴田秀夫3,谷本公子41わらび第一ホーム,2メゾン木馬館'95,3グループホームあすなろ,4宮の後ホーム) たんぽぽのように.グループホーム・スタッフ研修会参加者連絡会,朝日新聞厚生文化事業団,pp.1-273,1997.
渡辺勧持 安心して暮らせるグループホームをもっと多くの人々に.愛護-精神薄弱福祉研究,7月号,No.486, pp.63, 1997.
渡辺勧持,三田優子,堀尾富美恵 グループホーム・生活寮等の世話人連絡会資料集1997.愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所社会福祉学部,pp.1-108,1997.
三田優子,渡辺勧持,杉山克己11同朋大) 知的障害者の本人活動・自助活動の意義-愛知・仲間の会の活動から-.愛知県心身障害者コロニー実践と研究,No.23,pp.37-42,1997.
三田優子 普通の暮らしを知的障害者の当事者活動から考える.発達障害と施設援助,愛知県知的障害児者施設紀要12:95-105,1998.
大島正彦 コミュニティーケア.通信教育履修のための教科研究ガイド及びレポート課題・終了テスト,日本精神薄弱者愛護協会,pp.38-41,1998.

学会発表

発表者 内容
渡辺勧持 知的障害者の実態調査-市町村障害者計画を考えるときに-.日本地域福祉学会(沖縄)(第11回大会発表要旨集,pp.68-69,1997)1997.6.8.
渡辺勧持 これからの地方自治体と施設運営団体の役割「地域で共に生活できる」サービスの実現に向けて-ある市の実態調査からの一考察-.日本発達障害学会(函館)(研究大会発表論文集,pp.84-85,1997)1997.6.26.
大島正彦 重度障害者の通所施設試案.日本発達障害学会(函館)1997.6.26.
三田優子,渡辺勧持 知的障害者のグループホームの意義-入居者自身の評価から-.日本社会福祉学会(京都)1997.10.26
三田優子 精神障害者のグループホームに当事者が期待すること-入居者へのインタビュー結果から-.日本病院・地域精神医学会総会(帯広)1997.11.4.
島田博祐,篠塚加代子11ゆたか福祉会) アルツハイマー病による急激退行を示したダウン症者に関する事例報告.日本発達心理学会(東京)1998.3.27.

講演など

講演者 内容
渡辺勧持 生活援助と療育について.コロニー新任職員前期研修(春日井)1997.4.2.
渡辺勧持 施設福祉と地域福祉.福祉人材フォローアップ講習会(名古屋)1997.6.14.
渡辺勧持 施設福祉と地域福祉.福祉人材フォローアップ講習会(豊橋)1997.6.21.
渡辺勧持 障害者への援助.岐阜女子大学公開講座(岐阜)1997.7.2.
渡辺勧持 今、なぜ地域生活なのか.第37回日本精神薄弱者愛護協会東海地区研究協議会シンポジウム「ふつうのくらしをつくろう」(豊橋)1997.7.8.
三田優子 生活をゆたかにする取り組み.第8分科会コーディネーター,第37回日本精神薄弱者愛護協会東海地区研究協議会(豊橋)1997.7.8.
渡辺勧持 地域でともに暮らすために.第18回コロニー公開セミナー(西尾)1997.7.12.
三田優子 本人活動の支援者の役割.第2回自己表現を高めるセミナー,東京都社会福祉協議会(東京)1997.7.13.
三田優子 本人シンポジウム司会.第2回日本精神薄弱者愛護協会グループホーム等世話人研修会(熱海)1997. 9.1.
渡辺勧持 障害者福祉論.朗読協力員養成講座(名古屋)1997.9.9.
三田優子 第6分科会コーディネーター.第35回全国知的障害関係施設職員研究大会(仙台)1997.10.2.
渡辺勧持,三田優子 全国グループホームスタッフ研修会分科会助言者.朝日新聞更生文化事業団(大阪)1997.10.4-5.
Watanabe K. Social service of persons with intellectual disabilities in Japan.Friendship tour in Japan.The NHK Public Welfare Organization(Tokyo)1997.10.16.
渡辺勧持,島田博祐,三田優子,堀尾富美恵 分科会司会・助言・記録.グループホーム等地域生活支援研修会,愛知県精神薄弱者愛護協会通勤寮部会(名古屋)1997.11.7.
三田優子 第1回糸賀一雄記念シンポジウムシンポジスト.糸賀一雄記念財団主催(大津)1997.11.16.
渡辺勧持 知的障害者への生活援助-最近の動向から-.コロニー中堅職員研修(春日井)1997.11.19.
三田優子 精神障害者と共同作業所.第5回障害者地域リハビリテーションセミナー,共同作業所全国連絡会(東京)1997.11.30.
渡辺勧持 知的障害者の地域福祉を考える.名古屋市,名養連,愛知愛護職員研修(野間)1997.12.10-12.
渡辺勧持 グループホームと地域福祉.障害者の自立を支える会(埼玉)1997.12.20.
渡辺勧持 地域の中で共に生きる.西尾市特殊教育実践発表会(西尾)1998.2.6.
渡辺勧持 グループホーム.中部地区職業リハビリテーション基礎講座(名古屋)1998.2.21.
大島正彦 卒業後の進路.岡崎養護学校保護者懇話会(岡崎)1997.12.5.
大島正彦 障害を持つ女性.名古屋市女性会館講座(名古屋)1997.12.11.
三田優子 共に生きる-知的ハンディキャップをもつ人たちと-.知的障害者支援者養成講座,名古屋手をつなぐ親の会(名古屋)1998.1.17.
三田優子 在宅援助セミナーシンポジウム司会.日本精神薄弱者愛護協会(幕張)1998.1.20.
三田優子 当事者活動から見えてくるもの.名古屋手をつなぐ親の会職員研修会(名古屋)1998.3.7.
三田優子 地域で共に暮らす.地域精神保健福祉支援ネットワーク主催ハートフェスタ98(小牧)1998.3.15.

その他の研究活動

地域活動

活動者 内容
渡辺勧持 愛知県精神薄弱者愛護協会編集委員(名古屋)1997.4.~1998.3.
渡辺勧持 春日井市教育委員会就学指導委員(春日井)1997.4.~1998.3.
渡辺勧持 春日井障害児(者)グループ連絡協議会(春日井)1997.4.~1998.3.
大島正彦 社会福祉法人設立と施設作りをすすめる会(春日井)1997.4.~1998.3.(月数回)
大島正彦 心身障害者の療育作業施設を作る会「ぶなの家」(名古屋)1997.4.~1998.3.(月2回)
大島正彦 重度障害者通所施設「友の家」(西枇杷島)1997.4.~1998.3.(月1回)
大島正彦 重度障害者地域生活、実践する会「コンビニの会」1997.4.~1998.3.(月数回)
大島正彦 重度障害者の地域生活を考えるネットワーク愛知(名古屋)1997.4.~1998.3.(月2回)
大島正彦 バリアーフリー研究会(名古屋)1997.4.~1998.3.(月1回)
三田優子,島田博祐,渡辺勧持 愛知・仲間の会支援(名古屋)1997.4.~1998.3.

教育活動

活動者 内容
渡辺勧持 精神発達障害のための科学と教育(名古屋大学)1997.10.1.~1998.3.31.
渡辺勧持 地域福祉(筑波大学大学院心身障害学研究科)1997.11.16.~1998.3.31.
大島正彦 文化と障害(名古屋自由学院)1997.6.23.
渡辺勧持 コミュニティ・ケア(日本精神薄弱者愛護協会東京地区通信教育スクーリング)1997.8.21.
渡辺勧持 コミュニティ・ケア(日本精神薄弱者愛護協会北陸地区通信教育スクーリング)1997.8.27.
大島正彦 行動観察と記録・統計(日本精神薄弱者愛護協会通信教育スクーリング)1997.8.31.
大島正彦 行動観察と記録・統計(日本精神薄弱者愛護協会通信教育スクーリング)1997.11.27.
渡辺勧持 地域看護学(愛知県立総合看護専門学校)1997.4.1.~1998.3.31.
島田博祐 社会福祉学(愛知県立春日井看護専門学校)1997.4.1.~1998.3.31.
三田優子 社会福祉学(愛知県立春日井看護専門学校)1997.4.1.~1998.3.31

B プロジェクト研究

P2-A 神経系に特徴的なコンドロイチン硫酸プロテオグリカンNGCの機能解明

青野幸子(周生期学部)、安田陽子(大阪大・理)、時田義人(周生期学部)、岡部勝(大阪大・微研)、小野教夫(遺伝学部)、慶野宏臣、大平敦彦(周生期学部)  神経細胞に特異的に発現しているニューログリカンC(NGC)は、そのコアタンパクに一本のコンドロイチン硫酸鎖が結合している膜貫通型プロテオグリカンである。我々は1995年にラットNGCのcDNAをクローニングした。我々は1995年にラットNGCのcDNAをクローニングした。その推定アミノ酸配列より、NGCのコアタンパクはアミノ末端側から、コンドロイチン硫酸結合ドメイン、酸性アミノ酸に富むドメイン、EGF様ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内ドメインの5つのドメインよりなることが明らかになっている。しかし、その機能については未だ明らかにはなっていない。
 今回、NGCの機能を探るためにいくつかの試みを行った。最初に、細胞構築の明瞭な小脳を用いてNGCの組織内分布について検討を行った。ラットNGCのリコンビナントコアタンパクを抗原とするポリクローナル抗体を用いてマウス小脳を免疫染色したところプルキンエ細胞のみが反応し、発達とともに染色部位が変化した。幼若マウスではプルキンエ細胞体の周辺がdiffuseに染色されており、成体ではプルキンエ細胞の樹状突起主幹が斑点状に染色されていた。免疫電顕を行ったところ、プルキンエ細胞樹状突起主幹の細胞膜およびhypolemmal cisternae膜に強い反応が認められた。
 次にウェスタンブロッティング法を用いてNGCのマウス小脳発達に伴う変化について調べた。幼若期小脳ではプロテオグリカン型NGCが、生後20日以降にはコンドロイチン硫酸鎖を持たない非プロテオグリカン型NGCが主に発現していた。NGCのプルキンエ細胞における発現部位が日齢とともに変化することから、幼若期小脳と成体小脳ではNGCの果たす役割が異なっていることが示唆される。
 コンドロイチン硫酸鎖の発現機構を解明する一手段として、2ヶ月齢マウス脳由来のcDNAライブラリーを用いてNGCのcDNAをクローニングしたところ、少なくとも3種類のアイソフォーム(それぞれ1、2、3型と命名)が存在することが明らかになった。ゲノム遺伝子の構造解析より、マウスNGC cDNAは少なくとも6つのエクソンよりなり、alternative splicingされる箇所が2ヶ所あるこが明らかとなった。1・3型はエクソン1、2型はエクソン1´を持ち、3型はエクソン5を特異的に持っていた。現在これらのアイソフォームとコンドロイチン硫酸鎖の有無、および小脳における分布との関連について検討中である。
 これらの基礎的研究とともに、NGCの機能を解明するために個体レベルにおける解析も試みている。個体レベルで解析するために2つの方法が考えられる。第1は人工的にNGC発現異常マウスを作成し解析すること、第2は自然発症しているミュータント動物あるいは遺伝病患者を解析することである。人工的にモデルマウスを作成するために、NGCを強制発現させたトランスジェニックマウス、NGC発現を欠失させたノックアウトマウスを作成中である。トランスジェニックマウスについては神経細胞で特異的に発現するニューロフィラメントタンパクの遺伝子を用いてベクターを作成し、培養神経細胞に導入して発現実験を行っているところである。ノックアウトマウスについてはゲノム構造の解析が終了し、ターゲッティングベクターを作成しているところである。
 ヒトあるいはマウスにおける遺伝病とNGCとの関連を調べる第一段階としてヒトおよびマウスNGCの染色体上における遺伝子座を決定した。FISHを行うためヒトおよびマウスのcDNAをクローニングしたところ、ラットNGCのcDNAとそれぞれ85%、93%のホモロジーがあった。NGCの遺伝子はヒト染色体上においては3p21.3に、マウス染色体上においては9F1にマッピングされた。マッピングされたこれらの部位はヒトとマウスで共通の遺伝子が位置する相同な染色体領域であった。現在、これらの遺伝子座近傍にマッピングされている遺伝病との関連について検討を行っている。

P2-B 神経組織の構築過程におけるカドヘリンファミリーの役割について

鈴木信太郎、平野伸二、青木英子(発生学部)、岩本郁子(共同研究科)、竹谷茂(関西医大)、荒木正介(京都府立医大)  本年度はまず研究を遂行する上で不可欠な各種抗体の作製を行ない、培養細胞を用いた実験系の確立を試みた。また、本研究ではこれらの基礎的な実験に平行して、カドヘリンの接着機構に関する検討を行った。DLD1細胞のα-カテニン欠損株は弱い細胞接着活性を示し、ジッパーモデルから予想されるように、カドヘリンは細胞外ドメインだけでも弱いながら細胞接着活性を持ち、強い活性には細胞内ドメインが関与していることを示唆する結果が得られた。この細胞は紡錘型の形態を有し、基質にはよく接着できないことから、カドヘリンの活性は細抱-造質間の接着に影響を与える可能性のあることが示唆された。
 また、本研究ではこれらの基礎的な実験に平行して、カドヘリンの接着機構に関する検討を行った。DLD1細胞のα-カテニン欠損株は弱い細胞接着活性を示し、ジッパーモデルから予想されるように、カドヘリンは細胞外ドメインだけでも弱いながら細胞接着活性を持ち、強い活性には細胞内ドメインが関与していることを示唆する結果が得られた。この細胞は紡錘型の形態を有し、基質にはよく接着できないことから、カドヘリンの活性は細抱-造質間の接着に影響を与える可能性のあることが示唆された。
 そこで、この点についてさらに検討を加えた。定法に従いDLD1細胞の基質への接着活性を測定したところすでに知られているようにMg2+に依存した基質への接着がみられた。Ca2+にはこの効果がなかったが、Ca2+は細胞の伸展を促進した。さらに、このとき細胞間接着を阻害する抗E-カドヘリン抗体を添加すると、α-カテニン欠損株と同様細胞の伸展がおさえられた。colo201細胞はカドヘリンの接着活性を持つが、通常の培養条件下ではこの活性を示さない。またcolo201細胞ではE-カドヘリンやカテニンの局在は見られず、アクチンフィラメントもよく発達していない。しかし、蛋白質リン酸化酵素阻害剤K252aで処理をすると細胞は上皮様構造をとり細胞接着活性を示すようになった。同時にE-カドヘリン、カテニン、アクチンフィラメント等の細胞間接着部位への局在が見られるようになった。カドヘリンの細胞接着複合体は低カルシウム処理や接着阻害抗体処理などの細胞接着活性を阻害する処理を行なっても安定に存在した。しかし、アクチンフィラメントの形成はこれらの処理により阻害された。このような結果より、カドヘリンは単にアクチンフィラメント に結合しているだけでなく、カドヘリンの接着複合体はアクチンフィラメントの構築の足場を提供し、アクチンフィラメントの生成をオーガナイズしている可能性が示唆された。

P2-C 幼若ラット脳におけるニューロトロフィン-3の機能

仙波りつ子(周生期学部)、竹内郁夫(発生学部)、仙波禮治(三重大)  神経成長因子(NGF)をはじめとするNGFファミリー(ニューロトロフィン)は神経細胞の生存、分化および維持に作用するといわれている。しかしながら、これらの遺伝子欠損マウスを作製しても、脳にはまったく影響がみられなかった。このように、最新の技術を駆使してもニューロトロフィンの脳における機能は明らかでないのが現状である。本研究では、NGFファミリーの一つであるニューロトロフィン-3(NT-3)に着目し、脳における機能の解明を試みた。成獣ラットのNT-3濃度は、海馬でもっとも高いが、生後発達にともなう変化は顕著でなかった。一方、小脳および大脳皮質のNT-3は生後10日齢以降急激に減少することから、生後の比較的早い時期にこれらの部位で重要な役割を果たしていることが推定された。そこで、本年度は生後7.5日齢におけるラットの側脳室に抗NT-3抗体を投与し、脳のNT-3含量を一時的に減少させることによって小脳に観察される変化について調べた。まず、抗体投与により、成獣ラット小脳の湿重量に変化がみられるかどうかを検討した。小脳の湿重量は対照群に比べ、わずかではあるが低かった(約20mg)。抗体投与1週間後のラット小脳の湿重量も約20mg減少して いた。これらの結果は小脳のNT-3含量の低下により、明らかに基質的変化が起きていることを示している。小脳は前葉、中葉および後葉に分けられるので、抗体投与の影響がいずれの小葉にみられるかを面積の変化で調べた。前葉および後葉の面積は両者にほとんど差がなかったが、中葉の面積はわずかに減少していることが明らかとなった。これらの変化は、抗NT-3抗体投与後比較的はやい時期に起こる基質的変化に依存していると考えられる。小脳の顆粒細胞は、生後早い時期に外顆粒層で分裂し内顆粒層へ移動し、生後20日齢までにはすべての顆粒細胞が移動を終わる。したがって、小脳の湿重量の低下は、小脳の顆粒細胞の分裂阻害か、顆粒細胞の死によって起こる可能性が考えられた。これらの可能性を探るため、生後7.5日齢で抗体を脳室内投与し、24時間後にブロモデオキシウリジンを腹腔内投与した。さらに24時間後(9.5日齢)に組織切片を調製し、分裂細胞へのブロモデオキシウリジンの取り込みを免疫組織化学的に検討した。抗体投与群では、外顆粒層の顆粒細胞の染色が激減した。また、ブロモデオキシウリジンの取り込みが低下している部位で萎縮した細胞が顕著に増加した。さらに、こ れらの萎縮した細胞がアポトーシスにより死に至るのかいなかをTUNEL法により検討した。萎縮した細胞にはTUNELの反応は見られなかったが、内顆粒層でアポトーシスを起こしている顆粒細胞数が抗体投与群で増加していた。これらの所見は、小葉5から8でおもに観察されたが、小葉6でもっとも顕著であり、生後30日齢の小葉6では内顆粒層の形成の遅れが観察された。小脳のNT-3濃度は後葉で高く、免疫組織化学的にも小葉5-8が相対的に強く染色され、NT-3の欠損によって細胞死の観察される小葉と一致していた。今回のプロジェクト研究から、NT-3の小脳における機能として(1)外顆粒層の顆粒細胞の分裂を制御する、(2)内顆粒層の顆粒細胞の生存維持に関与しているの2点がはじめて明らかとなった。

P2-D 培養大脳皮質ニューロンにおけるネットワークの機能解析

中西圭子(生理学部)、久木田文夫(岡崎生理研)、藤田佳織、加藤泰治(名古屋市大)  ラット大脳皮質ニューロンを長期培養すると、任意の2つのニューロンの膜電位活動が同調して周期的に頻回放電(以下、burst)することが観察される。この同調したburstをニューロンネットワークモデルとして確立し発達障害の機序を解明していくことを目的として、昨年度に引き続いて、同調したburstのメカニズム(ギャップ結合、液性因子、シナプス結合など)についてさらに詳しく検討を加えた。 1)ニューロン相互間のギャップ結合;ギャップ結合を通過しうるneurobiotinをburstしているニューロン(n=6)に細胞内注入して隣接細胞への移行を調べたところ、neurobiotinの移行は観察されず、また電気生理学的にも電気的連絡は認められなかった。このことから、ニューロン相互間のギャップ結合により同調したバーストがおこっている可能性は否定的であると考えられた。また、ニューロンからグリア細胞へのギャップ結合も観察されなかった。 2)グリア細胞間のギャップ結合;グリア細胞間のギャップ結合を抑制するoctanolやhalothaneによって、ニューロンのburstに随伴しておこると考えられる細胞内[Ca2+]の周期的変動が抑制された。このことから、グリア細胞間のギャップ結合が何らかの機序でニューロンネットワークに関与していることがわかった。しかし、明らかなグリア細胞からニューロンへのギャップ結合は観察されず、グリア細胞間のギャップ結合がどのようにニューロンネットワークに関与しているかについては、今後の検討課題である。 3)液性因子;注射針で細胞間連絡を断ったニューロンペアでは、同調したburstは観察されず、各々のニューロンがそれぞれ独立してburstしていた。このことから、液性因子によって同調したburstがおこっている可能性は否定的であると考えられた。 4)シナプス結合;同調してburstしている52ペアのニューロンのうち、20ペア(3ペアは両方向性、17ペアは一方向性)すなわち約40%で機能的なシナプス連絡が認められた。観察されたシナプス連絡の遅れは4.05±0.61msecで、そのヒストグラム解析から、synaptic delayは1.5-1.9msecと推測された。またニューロンペアのburstの遅れは5.87±0.47msecであり、synaptic delayよりも明らかに大きいことから、ニューロンの同調したburstは多シナプス性の要因でおこっていることが示唆された。  さらに、種々の薬剤を用いて同調したburstの特徴を解析した。Cl-濃度の低いピペット内液を用いて膜電位活動を調べたところ、burstというよりはたくさんのEPSPの同調が観察され、そのamplitudeはGABAa antagonistであるbicucullineで増大した。また、NMDA antagonistのAP5でburstのdurationは短くなり、nonNMDA antagon-istのCNQXではburstのdurationは長くなり、AP5+CNQXでは同調したburstは完全に抑制された。
 以上の結果から、興奮性ニューロンのみでなく抑制性ニューロンも同調して発火していること、同調した膜電位活動にはglutamateを介したシナプスが重要な役割をはたしていることが示唆された。これらの特徴は、in vivoの哺乳動物やスライス標本で報告されているbicuculline-inducedあるいはlow Mg2+-induced epileptiformの性質に似ていることから、我々の系はけいれんモデルとしても有用であることがわかった。

P3-A 重症身体障害児(者)を対象とした日常生活における自己決定支援ソフトウェアの開発

青木 久、塚原玲子、久野裕子(治療学部)、野瀬規代(こばと学園)  重度の障害児(者)にとって、衣食住で表される日常生活が円滑に営まれることは、生活の質(QOL)を向上させる重要な課題となる。愛知県コロニーこばと学園では、入園児のQOLの向上をめざして、「食事時間の工夫」「衣類の個別化」「小遣いの使用」「コロニー内の食堂・売店・喫茶店での買い物」等の取り組みを行っている。しかし、コミニュケーションの困難な運動機能障害のある場合、「自分の好みの服を着る」という日常生活の当たり前の行為を行うにも、衣類の選択から、購入、保管、金銭の管理まで多くの解決すべき課題が生じる。
 本プロジェクトでは、重度の身体障害児(者)のQOL向上の取り組みの一環として、日常生活における自己決定を支援するために、パソコン用の服装選択ソフトウェア「わたしのワードローブ」と買い物支援ソフトウェア「コロニーの売店」を開発した。開発した「わたしのワードローブ」は、パソコンの画面に表示された個人の衣類などの画像データから、着たいものを選択するソフトである。また、「コロニーの売店」は、日常的に買い物に行く店(こばと学園の入園者ではコロニー生協売店)をパソコン画面に再現し、購入希望商品を前もって選択するソフトである(図1)。「コロニーの売店」には、選択した商品の合計金額や小遣いの残金等を表示する機能を持たせて(図2)、小遣いの自己管理がシミュレーションできるようにした。いずれのソフトも、障害が最重度の場合でも使用できるように、キーボードを使用しないで一つのスイッチ操作だけで使用できるようにした。
 開発したソフトウェアを、こばと学園入園者を対象にして試用・評価したところ(図3)、衣類の選択ソフトでは、画面上で選択結果を確認できるため、服装の決定が適切かつスムーズに行われることが明らかとなった。また、お買い物ソフトでは、商品棚を見ているように買い物ができるため、実際に商店でショッピングをするような楽しさが作り出された。なお、開発したソフトウェアは、衣類画像編集ソフト等とともにCD-Rに記録して、使用を希望する施設、学校、個人等に配布するようにした。

コロニーの売店の買い物用画面の図

図1.「コロニーの売店」買い物用画面
希望のものをスイッチで選択する.

コロニーの売店の購入品リストの図

図2.「コロニーの売店」購入品リスト
選択した品の合計金額等が表示される

こばと学園における開発したソフトの試用風景写真

図3.こばと学園における開発したソフトの試用風景

P3-B コロニーでQOL向上のための作業は可能か?

望月 昭、渡部匡隆、野崎和子、小野 宏(能力開発部)、野田正文、佐藤真由美、渡辺浩志、森田浩正(療育部)、大野忠儀(はるひ台学園)、田中列(春日台授産所)、内田一成(東京成徳大)  当プロジェクトの目的は、QOLの拡大を行動の選択性の拡大という操作/評価可能な変化として捉えた場合、その作業が実際の居住施設においてどのように進行しうるかをコロニー内のいくつかの懸案事例を通じて検討することであった。そこでは、それぞれの施設や組織が行いうるQOL拡大のための援助と援護の方法を検討するとともに、ミッション実現の作業過程を通じて、研究所がどのような役割を持ちうるかも検討された。
 対象となった事例の第一は、「はるひ台学園」に居住し、破衣などの問題行動を持つとされる青年に対して、直接問題対処型(reacitve)の方法から、選択性の拡大を含めたproactiveな療育方針への変更について検討するものであり、第二は、授産所および職業訓練校で開始された「選択メニュー」の実施に伴い、これがもたらす各施設のproactiveなサービス促進の可能性を検討するものであった。ここでは、前者のケースについて述べる(後者については個別研究参照)。
 第一の事例について、1ミッションの共有:当該の問題行動の原因と維持要因に対する認識および解決に向けての方針の確認、2実験的な個別対応による行動レパートリーのアセスメント、3正の強化で維持される行動機会の導入、4日常的選択機会の導入、5ミッションの再確認と実現のための恒常的な生活環境とスケジュールの変更、という基本計画のもとに施設職員との共同作業が行われた。
 1については、残された記録などから、現在問題視されている行動の多くの部分が、施設環境や療育方針によって発生維持していること、従ってその対処も、環境設定の変更を中心に本人の好む行動レパートリーや選択機会を拡大する中で解決することを、研究所と施設の担当スタッフで確認した。そのようなミッションの確認は、当該の担当施設職員が提出したレポート、棟会議、業務日誌におけるproactiveな対応や方針についての言辞の出現頻度変化によって確認された。2は、研究所側で対象者の要求行動を集中的shapingを行い、非言語的ではあれ特定対象に対する要求や選択の意思表示が可能であることを証明し、ミッションの具体的な展開の根拠とした。3は、かつて実施されていた個別対応を復活し、様々な活動に参加する機会を増やすと同時に、4衣服や事物に対する選択を日常的に行う機会が職員によって導入され、その実行頻度や内容が記録された。5については、全園規模の「おやつの選択メニュー」が実施され、重度の知的障害を持つ施設利用者における選択や余暇活動参加の可能性が検討された。
 対象者の排尿等に関する問題行動は、職員の言語行動などでミッションの共有が確認された時期、および選択機会が導入された時期と、同期して軽減していく傾向がみられた。逆に、療育方針などについての言語行動が減少するとそれらの傾向もみられなくなった。諸行動の因果関係は今回の検討では明確ではないが、問題の解決には、proactiveな療育活動と、それを維持すると思われる言語行動を保証強化するagentの必要性が推測される。従来、コロニーでは新しい環境設定を要請するproactive型の療育は長続きしなかった。それはひとつには目標設定やそれを具体的な行動の形に展開するまでのミッションの確認が施設内で行いにくいこと、また実践が各施設内部にとどまり評価の機会を得られないまま、職員の交代に伴って自然消滅する、といった経緯によるものと思われる。研究所は、先のミッションの具体的な展開への援助や、評価機会となる実践発表などに有効な資源として利用されうると考えられる。

C 病理解剖

岸川正大、長浜眞人

1)病理検査  平成9年1月から平成10年1月までに中央病院各科およびこばと学園から依頼された計206症例の病理検査標本について病理組織診断を行った。また、必要な症例については凍結切片標本を作製して迅速診断を行った。標本の作製は中央病院検査室の森、安田が中心になって行い、主として長浜が鏡検診断にあたったが、1月からは岸川もこれに加わった。 2)病理解剖  平成9年1月から平成10年1月までに計11症例の剖検が行われた。長浜が執刀し、中央病院検査室の技師が交代で剖検介助を務めた。剖検室の清掃・整理、スライドを含む剖検標本の保管・整理は河村が行った。剖検診断用の光顕標本の作製は、河村が担当した。近年、病理解剖件数の減少傾向が国内・外ともに問題となっている中で、当研究所ではむしろ本年度は増加し、病理解剖の重要性が認識されていることは喜ばしいかぎりである。今後は中央病院やこばと学園の主治医と病理医のみならず、病気の原因を個々の症例から直接、遺伝子レベルで解明できるようになった今日こそ、研究所の全研究者が検体を共有し、それぞれの研究により有意義に利用出来るような一層の努力を重ねたい。

剖検番号 年齢 性別 臨床診断(出所) 病理学的診断名 主剖検者
592 4ヶ月 気管無形成
(新生児外科)
多発奇形(気管無形成、右肺の分葉異常、左腎の異形成性腎嚢胞、大動脈起始部狭窄、鎖肛)1.高度な気管支肺炎(93g;68g)2.脾腫(11g) 長浜
593 28日 左横隔膜ヘルニア
(新生児外科)
左横隔膜ヘルニア術後の状態 1.両肺の高度な気管支肺炎(11.2g;52.6g)2.肝硬変症(85.4g)3.脾腫 4.心嚢膜欠損 5.心外膜炎(心臓:24.13g) 長浜
594 17日 左横隔膜ヘルニア
(新生児外科)
両側横隔膜ヘルニア(無嚢症;脱出臓器:胃、小腸、大腸、脾臓)1.左肺の低形成 2.原発性肺高血圧症(4.3g;15.9g)3.無気肺 4.動脈管開存 長浜
595 17歳 急性心不全
(内科)
拡張型心筋症(306.3g)1.鬱血性肝硬変(700g)2.両肺の高度な気管支肺炎(457g;455)3.脾腫(106.6g)4.多発性胃潰瘍 5.前頚部皮下膿瘍 長浜
596 3ヶ月 腹壁破裂
(新生児外科)
腹壁破裂術後の状態 1.腹腔内出血(凝血塊150ml)2.両肺の真菌性肺炎(15.95g;26.0g)3.散在性肺胞内出血 4.肝硬変(133g)5.脾腫(15.2g) 長浜
597 1歳 短小腸
(新生児外科)
小腸壊死術後の状態 1.尿毒症性肺炎(37.5g;38.3g)2.肝線維症(95.5g)3.全身の著明な黄疸 4.胆汁性腎症(17.2g;15.4g)5.諸臓器で小膿瘍形成 長浜
598 18歳 DRPLA疑い
(こばと学園)
歯状核赤核淡蒼球Luys体萎縮症(脳:943.4g)1.肝硬変(803g)2.全身性黄疸 3.胆汁性腎症 4.大量の腹水(黄色透明、2000ml)5.両側の胸水 長浜
599 17日 胎児循環遺残症
(新生児内科)
胎児循環遺残症(動脈管・卵円孔の大きな開存)1.右心室壁の肥厚、右心室腔の拡張(12.6g)2.両側性間室性肺炎 3.副腎の低形成(1.2g;1.3g) 長浜
600 20日 Floppy infant
(新生児内科)
先天性筋緊張性ジステロフィー(全身の骨格筋の極端な低形成;筋線維が細く、特にMyotubeの構造を示すものが目立った)1.両側の無気肺 長浜
601 2ヶ月 左横隔膜ヘルニア術後
(新生児外科)
多発奇形(大動脈肺動脈の右室起始、肺動脈狭窄、左心室の低形成、心室中隔欠損、卵円孔開存、心外膜の一部欠損、左横隔膜ヘルニア術後、食道欠損) 長浜
602 31日 左横隔膜ヘルニア術後
(新生児外科)
左横隔膜ヘルニア術後 1.左肺の低形成・無気肺(8.1g;22.5g)2.左腎臓の新鮮で広範囲な出血性梗塞・右腎臓の新鮮実質内出血 3.急性壊死性膵炎 長浜

主題:
愛知県心身障害者コロニー  発達障害研究所年報 第26号 平成9年度 No.3
30頁~87頁

発行者:
愛知県心身障害者コロニー 発達障害研究所

発行年月:
1998年9月

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