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重症心身障害児・者の使用する日常生活における自己決定支援ソフトウェアの開発

愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所  青木 久、久野裕子、塚原玲子

項目 内容
発行年月 1997年8月
備考 第12回リハ工学カンファレンス講演論文集(発行:第12回リハ工学カンファレンス講演論文集)

はじめに
 生活の質(QOL)の向上には、「衣食住」で表される日常生活の基本的な環境の整備が必要となる。 しかし、重度の運動機能障害のためにコミニュケーションの困難な重症心身障害児・者にとって、「自分の好みの服を着る」という当たり前の行為を行うにも、衣類の選択、購入、保管から金銭の管理まで多くの課題が生じる。
 本研究では、コミニュケーションの困難な重症心身障害児・者の日常生活における自己決定を支援する目的で、一つのスイッチの単純な操作で、衣服などの選択が容易にできるパーソナルコンピュータ用のソフトウェアを開発したので報告する。

システムの概要
 開発したソフトウェアは、パソコンの画面上で衣類を選んでコーディネイトすることができる服装選択ソフト「わたしのワードローブ」と、新しい衣類や季節の変化に応じてワードローブのデータを更新する画像データ編集ソフト「衣替え」から成り立っている。いずれのソフトウェアも、Microsoft Visual Basic(ver.4.0)で作成した。

「わたしのワードローブ」の概要
 自分の衣類をあらかじめ画像データとしてパソコンに登録して、画面に表示された衣類から着たいものを選択するソフトウェアである。最重度の心身障害児・者を利用対象としたので、オートスキャン方式により一つのスイッチのon/off操作ですべての項目が選択できるようにした。
 使用方法は、使用者の名前を設定してソフトウェアを起動すると、図1のような画面に、あらかじめ登録した使用者個人の衣類の写真と、使用者の顔写真をはめ込んだマネキンが表示される。始めに、画面左下のきょうあすさんぽえんそくに順次枠が移動するから、これから選ぶ服装を着たい日を選択する。着たい日の選択が終わると、次に服装を選択するルーティンになり、枠が上半身、下半身、全身を囲んで順次移動する。図1のように上半身が枠に囲まれているときにスイッチを押すと、上着を選択するルーティンになり、下半身ではズボンを選択するルーティンになる。次のルーティンでは、赤い枠が画面右のワードローブに表示された衣類を順次移動するので、好みの衣類を選択する。枠で囲まれた衣類は、同時に画面左のマネキンにも着せられるので、シャツとズボンの色や形のコーディネイトを確かめながら選択できる。なお、赤い枠が全身を囲んだときにスイッチを押すと服装が決定される。
 一度、服装を決定すると再び始めに戻り、別の日の服装を選定できる。終了するときは、文字ボックスのおわりを選ぶと、図2のように、選定した服装が着たい日毎に画面に表示される。印刷を指示すると、着たい日と選択した服装の名前のリストを印刷して終了する。

図1 「わたしのワードローブ」の衣類選択画面
 図1 「わたしのワードローブ」の衣類選択画面

図2 選択した服装の例
 図2 選択した服装の例

データ編集ソフト:「衣替え」
 わたしのワードローブ」では、使用する人にあわせて一人一人の衣類のデータを入力しなければならない。また、判別できる画像の大きさを確保するために、一度に表示される衣類を12点としたので、新しく衣類を購入したり季節が変わると、衣類の入れ替えが必要になる。データ編集ソフト「衣替え」は、そのような場合に画像データを、マネキンにあわせて編集し、「わたしのワードローブ」に入力したり、入れ替えるソフトウェアである(図3)。具体的には、背景から衣類を切り取る機能、衣類の大きさをマネキンに合わせる機能、画像データの入った「ワードローブ」のデータ管理機能等を備えている。なお、「衣更え」を使用するにはマウスによる操作が必要であり、一つのスイッチ操作では使用できない。

図3 「着替え」による衣類データの入れ替え
 図3 「着替え」による衣類データの入れ替え

試用結果
 これまでに重度脳性マヒの成人女性1名の衣類データを「わたしのワードローブ」に入力し試用した。その結果、これまでに我々の開発した専用スイッチを操作することで、自分の着たい衣類の選択は可能であった。さらに、選択した衣類が、自分の顔のマネキンに着せられるので、シャツとズボンの色や形をコーディネイトして、自分に似合うかどうか確かめながら選択できる点が好評であった。問題点としては、「衣替え」が使用者本人で使用できないことや、データの作成に時間のかかる点であった。今後データ編集・登録機能の改善を図りたい。

おわりに
 現在、商品棚をいろいろ物色しながら買い物ができるような店をパソコン画面に再現する「バーチャル売店」や、毎日の散歩コースを選択する「コロニーの散歩道」などのソフトウェアを準備している。今後、衣食住の日常的な生活場面において重度身体障害者が、自ら選択し意思表示することを支援するソフトウェアを開発し、生活の質(QOL)の向上をはかる予定である。


主題・副題:
重症心身障害児・者の使用する日常生活における自己決定支援ソフトウェアの開発

著者名:
青木 久、久野裕子、塚原玲子

掲載雑誌名:
第12回リハ工学カンファレンス講演論文集

発行者:
日本リハビリテーション工学協会

巻数・頁数:
187~188頁

発行月日:
西暦 1997年8月

登録する文献の種類:
(2)報告書(学会発表)

情報の分野:
(5)工学

キーワード:
QOL、重症心身障害、Windows95、ビジュアルベーシック

文献に関する問い合わせ:
〒480-03 愛知県春日井市神屋町713-8
          愛知県コロニー研究所  青木 久
電話:0568-88-0811 FAX:0568-88-0829
E-mail:HisashiAOKI@msm.com