音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

グループホーム調査(愛知県)と連絡会

西尾作業所 榊原豊子

愛知県心身障害者コロニー 渡辺勧持

項目 内容
発行年 1997年9月
転載元 AIGO No.488 日本精神薄弱者愛護協会発達障害と施設援助

グループホーム、生活寮の数はどんどん増えている。全国で1800カ所を越えた。人口6~7万人に1カ所の割合となる。

「地域で共に生活する」(障害者プラン)という理念を目指してグループホームは展開している。大きな施設に守られて暮らす生活(施設福祉)から、地域での小さな住まいで、ふつうの自由が得られる生活に向かう、その大きな変わり目の中でグループホームが増えている。

地域の中にグループホームを作れば安心して暮らせるか、というとそうも言えない。年金額が増え、仕事の場も増えているものの、グループホーム制度そのもの、仕事、健康、余暇あるいは相談機能についても安心して暮らせるほどの十分な制度があるわけではない。精神薄弱者福祉法も地域生活を基盤にした新しい法律に変わっていない。

グループホームを運営しながら、地域を共に暮らせる社会へ変えていく、という状況である。「知的障害があっても普通の人として暮らせるような援助を」と考える開拓者の熱意によってグループホームが展開している。

地域生活の条件が整っていないのに、こんなにグループホームが増えて大丈夫だろうか、という不安もよぎる。

このような時期であるから、世話人やバックアップ施設の職員、知的障害をもつ人々の援助に関心のある人々みんなが「グループホームで安心できる、豊かな暮らしをどうしたらいいか」ということを話し合い、考えてみることがとても必要だと思う。このことを愛知県のグループホーム調査や世話人連絡会について紹介しながら考えてみたい。

1. 愛知県のグループホーム調査

「じゆうがあるで、なかまがおるで、わたしの家だよ」という名前で愛知県のグループホームの調査報告集がでた。

調査は、愛知県精神薄弱者愛護協会の療育研究委員会(委員長、榊原豊子)のメンバーからの調査委員に加えてグループホーム世話人2人、通勤寮長1人、県の研究者5人が参加し、14人で月1回研究会を持ちながら行われた。

この療育研究委員会の成り立ちと調査へのとりかかりについては次のように述べられている。

「愛知愛護協会が結成されて35年目。その歴史をみると『愛知愛護結成の原点は研究への情熱』という見出しがありました。「わずか11ヵ所の施設で、入所児者の処遇の面でも、職員の身分保障においても極めて不十分だった時に、施設に従事する青年職員の間で自然発生的に研究会が生まれ、活発な活動が展開されました。そして、愛知愛護結成の年の秋には第1回の東海ブロックの研究大会を、2年後には第1回全国大会を主催し、その中でも共同研究の成果を発表するなど、愛知愛護の出発の時のエネルギッシュな研究・研修への情熱を感じとることができます。……」と愛知愛護30周年の節目にあたって、島崎会長が紀要6号の巻頭に書いています。

現在の『愛知愛護療育研究委員会』はこの当初からの『研究への情熱』が受け継がれています。出発当初とは制度や時代も違い、施設や職員数も比較になりませんが、療育研究委員会が研究面においては愛知愛護をリードしているという自負をもって、委員一人ひとりが取り組んでいる点は今も変わりません。

愛知愛護療育研究委員会は各種研修会を実施していますが、中心は紀要の発行です。当初は各施設の実践事例集の類でしたが、ここ数年は自閉症、重複障害をもつ人たちへの援助をテーマとし、特に『安らぎや楽しみ』を追求してきました。今回、その延長として地域生活『グループホーム』を特集としてとりあげました。県内36ヵ所のグループホーム・生活ホームの実態と、本人・保護者・世話人・施設関係者からの意見も盛りこみました。

この冊子、『じゆうがあるで、なかまがおるでわたしの家だよ』を編集・販売して思うことは、本格的に「障害をもつ人たちの安らぎや楽しみ」について多くの人たちが真剣に考える時代がやってきたということです。特に若いお母さんたちに大きな反響があったことをお伝えしておきます。」

調査の詳しい結果は、報告書(168頁)をみていただくとして、ここでは、これから調査をされる方々について参考となるかもしれないこと、と結果の一つの分析例として通諸施設がバックアップしているグループホームについて述べたい。

(1)調査の特徴:利用者本人、保護者、世話人、バックアップ施設、愛知県下の知的障害者のサービス全施設(児童通園を除く)を含めた調査

この調査の特徴は、グループホームの問題をそこにかかわる広い範囲の人々を対象として明らかにしようとしたことである。 

調査の検討を進めるにつれて、利用者本人への調査を中心に据えよう、という気持ちがでてきた。利用者の調査にあたっては、アンケートでどの程度のニーズがわかるだろうか、と討論を重ねた。結局、アンケート調査後、訪問をして聞き取りをしないと難しいだろうね、といいながら調査が実施された。しかし、アンケートからは多くの情報が得られ、短いながらも報告書が回答者向けに作成され、配布された。

その調査項目は、1)ホームに入るとき説明を受けたか、入る前と比べてよかったこと、悪かったこと、などホームに入る時のこと 2)近くの人の家を訪ねるか、いつも行くお店はどこかなど、近所の人や店との関係 3)休日はどこで過ごすか、誰とどこに行くか、など休日の過ごし方 3)部屋の決まりがあるか、部屋にはなにがあるか、仲間との関係、友達や家族がくるかどうか、食事の内容など毎日の生活のこと 4)給料や年金は誰が管理しているか、お小遣いはいくら位で、どんなものを買うか、などお金の管理 5)仕事のことでの希望や職場で困ったこと、など仕事のこと 6)世話人さんと話をするか、世話人さんにしてもらいたいことなど世話人(職員)のこと 7)将来の希望 など45項目からなる。

調査後、本人へのアンケートにはいくつかの先行例があり、例えば、「とてもよい」の選択肢にはニコニコ顔や「あまりよくない」には困った顔などの絵を加えてわかりやすくしているなどの工夫があることを知った。利用者本人への調査については、今後多くの工夫を報告しあう必要があろう。

利用者の保護者へ調査には、1)グループホームを利用した理由 2)利用して気づいたこと 3)引き続きグループホームを利用したいか 4)ホームの将来について、主に自由記述による回答を中心に作成した。愛知県のグループホームには、自宅からグループホームに入居した人々が相当数いる。グループホームで自立していく子どもとその独立していく姿を見る親の気持ちが記述には表れている。調査後の会合で、「愛護の報告書が、施設の中だけで読まれるのでは仕方ない。これからは、親が買うような報告書を作るようにしよう」というある委員の言葉が印象に残った。

世話人さんへの調査は、しばしば行われている。愛知の調査の特徴は、世話人さんに自由記述を求めて、報告書がお互いの仕事についての情報交換になるようにしたことであろう。入居者の金銭管理、病気への対応、身辺介護、人間関係、地域との交流についても、「困ったことや解決のために工夫したこと」を多く書いていただいた。世話人の仕事をしていて「やっていてよかった」「もうやめたいと思った」ことを記述する欄には「生活施設ではみえなかった一人一人がよくみえてよい勉強になっている。本人達の“いきいきと生活している”“楽しい”といった気持ちが伝わってくる。出来なかったことがだんだんやれるようになる・・・など嬉しいことが多い。」「生活の中で優しさ、素直さ、一生懸命さを教えられ 再度自分自身を振り返ることが出来る。辞めたいと思ったことはないが病気(長期)で休んだとき、バックアップ施設に、また職員集団にかなり負担をかけるため、辞めた方がよいのでは、替わりの職員を捜して欲しいと思ったことがある。家庭の事情もある。健康で働き続けることが私の心情です。」など気持ちが伝わる意見が寄せられた。

バックアップ施設への調査は、これまで行われてきた調査の項目が役にたった。

全施設への調査は、グループホームを運営していない法人についての情報が多く寄せられた。グループホームの必要性については、ほとんどの施設が認めており、今後、安定した運営ができるようになればグループホームの数は飛躍的に増大するのではないか、と思われる。

(2)地方自治体の補助制度を受けているグループホームの特徴
-通所施設のバックアップと障害の重度の人々の入居-

調査結果の分析の中で、国の制度と異なる特徴がいくつかでてきている。通所施設のバックアップもその一つである。

国の制度によるグループホームの調査(1995)では、入所施設、通勤寮がバックアップするグループホームが全体の94%、愛知県のグループホーム調査では、39カ所中、19カ所(49%)が通所施設によるバックアップを受けている。

通所施設のバックアップしているグループホームの特徴を調査からみてみよう。

  1. 障害が重度の人が多い。
    通所施設がバックアップしている43%の人が重度である。
  2. 土、日の週末に帰省する人が多い。
    通所施設がバックアップしているグループホーム入居者の74%の人が毎週、土、日に帰宅している。通所施設では職員数が少ないために、土、日に職員が代替することが難しい、というのがその大きな理由であろう。
    保護者の土、日帰省への反応は家庭により様々である。「息子の帰宅を楽しみ、ウイークディは又静かな生活をゆっくり過ごしている」という状況もある。一方、利用者本人に「休日をどこで過ごしたいか」と質問するとグループホームより親の所と答えた人が多いのは、10歳代の数人のみで、20歳代をすぎるとグループホームで過ごしたいという希望が強くなっている。保護者のアンケートでも「生活がグループホームに移ったような気がする。ホームに帰るのをいやがっていたのがすぐに帰るようになった。」などの記述もある。それぞれの家庭や本人の状況に応じた援助を可能にできるグループホームの運営が求められている。
  3. 自宅からグループホームへ入居する人が多い。
    通所施設がバックアップしているグループホームの内、90%の人が入所施設や通勤寮を経過せずに自宅から直接グループホームへ移っている。グループホームへ入居は、入所施設、通勤寮からの人々と学校卒業後、通所施設に通い、そのまま直接グループホームへ入居する人々がいる。後者のグループを通所施設がバックアップするグループホームで対応している。
  4. 緊急一時保護、レスパイトサービスを実施している。
    設問に回答のあった29グループホームのうち、9グループホームがレスパイトサービスを実施しており、すべて通所施設がバックアップしている。地域生活の社会資源が少ない状況で、グループホームが地域のニーズを受け止めている。

これらの特徴は、国のグループホームの制度を受けているグループホームではみられない特徴である。他の地方自治体の補助を受けているグループホームでも同じようなことがみられるのだろうか。ぜひ知りたいと思う。

2. グループホーム連絡会について

グループホームは、国の制度にみられるように社会福祉法人等が運営する施設のバックアップがあって運営されているものと、横浜市、川崎市あるいは群馬県のように特別なバックアップ施設がなくてもグループホームをつなぐ組織や個人に委託されて運営している場合がある。

後者の場合には、連絡会が組織され、情報誌ができたり、会合を持ったりする動きがでやすい。

バックアップ施設がある場合でも、愛護協会の中に通勤寮部会がグループホームの世話人やバックアップ施設職員と一緒に会合を持ったり、グループホーム部会を独自に展開する県がでてきている。

これらのグループホームの連絡会を作ることは以下の点で非常に重要と思われる。

  1. 世話人さんの研修、交流の機会が少ない。研修は、全国的な研修よりもむしろ身近な人々と援助の方法や地域参加について情報交換をすることが必要と思われる。
  2. 大きな社会福祉法人の場合には、特にグループホームを数カ所持っている場合には、情報も多く、相談もできる。しかし、グループホームが1800カ所に増えた現在、法人が1施設だけを運営していたり、事業を持たない親の会や個人で委託されているホームも多くなり、その場合には世話人さんは情報が少なく、相談する人も限られてくる。
  3. 同じ地域にグループホームがあっても補助制度の違いや所属団体の違いのために情報が届きにくい場合がある。援助団体側のバリアフリーが考えられねばならない。
  4. 今後の地域生活援助の展開は、グループホームの世話人や関係者の中からのいろいろ発想、方法によって生まれてくるのであり、そのような情報の貴重な発信源としても連絡会の成長が望まれる。

愛知県の世話人連絡会は、今回の調査活動を通して通勤寮部会が中心となり設立された。通勤寮部会がまとめ役になり年4回会合を持つ。2回はグループホームの世話人のみ、2回はバックアップ施設の関係者と一緒の会合である。世話人のみの会合では、午前中はグループホームの運営経験者、世話人経験者の話を聞くほか、最近は精神科医から「もえつきずに元気で仕事をするために」という話を聞いた。昼食後は、いつも小グループで多くの現実の問題について語りあっている。

世話人の研修を1泊2日で行っているところや県内をいくつかのブロックに分けて各ブロックで世話人さんの会合を進めている連絡会もある。また、横浜市のように連絡会が利用者本人の会を作り、本人へのニュースレターと連絡会へのニュースレターを積極的に出している所もある。

セミナーの終わりに

「20世紀後半に、大規模の収容施設から地域へという大きな変化が生じた。この変化は○○○○年まで続き、人類の歴史の中で、知的障害者がふつうの市民として生活できる大きな契機となったのである。」と2050年の知的障害者の教科書では書かれるかもしれない。

日本もそのような流れの中に参列し、グループホーム数も1800カ所となった。

しかし、今、グループホーム・生活寮で障害が重度の人がどの位いるのか、世話人さんはやめたりしているのか、グループホームから自立した人や施設に戻った人がどの位いるのか・・・グループホーム・生活寮が何カ所あるのかすらわからないのが現実である。

グループホーム、生活寮の全国の状況を把握し、そこで暮らす人々の生活が少しでもよくなるような制度の改善や質的向上に向けて世話人を援助できる情報のネットワークと発信基地が必要である。これには、愛護協会、育成会、厚生省などの協力が必要だろう。

バックアップ施設が多くのグループホームを支えている。施設から地域へと手を伸ばしていく事業(グループホームもその一つである)を一つの足がかりとして地域に参画し、グループホーム連絡会等を積極的に県や町で推進し、「地域で共に生活する」理念を市町村障害者計画の中で実現していく時代が一歩一歩、来ていると信じたい。

注:愛知県のグループホーム調査報告書の申し込みは、
〒445 西尾市家武町深篠96 西尾作業所内 榊原豊子
TEL&FAX 0563-52-2565
まで。
一部1500円。

文献情報

著者:榊原豊子、渡辺勧持
題目:グループホーム調査(愛知県)と連絡会
掲載雑誌:AIGO No.488 日本精神薄弱者愛護協会発達障害と施設援助
  発行年:1997年9月

文献に関する問い合わせ先:
春日井市神屋町713-8
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所社会福祉学部
TEL:0568-88-0811 (内線3507~9)