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幼児の思考力の基盤を育てる

愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
西村辨作

項目 内容
講演年月 1997年7月(東京成徳短大にて)

本日この研修会に講師の一人としてお招きいただき、関係者の方々に感謝いたします。私は「幼児の思考力の基を育てる」というテーマでお話をさせていただきます。

◎私はこういう仕事をしています

私は現在愛知県心身障害者コロニーというところに所属しています。

コロニーは小児専門病院、重症心身障害児の施設、職業訓練所、研究所など10の施設集まった総合施設です。約900人の職員が働いています。その中で私のいます研究所は90人ほどの研究員がおりまして、発達障害の予防と治療、教育と福祉などを遺伝、生化学、神経学、発達科学、福祉学の立場から研究しております。

私はその中で、自閉症やダウン症などの療育の研究をしております。認知、言語、コミュニケーションが私の専門です。研究論文を書くことが私の仕事ですが、ときどき翻訳の仕事もいたします。その中の1冊、「よみがえれ思考力」という書物がお目に止まり、ここに招かれたわけです。

この書物は、子どもの発達、人間の成長を脳の成熟と周りからの働きかけという視点から最近の研究の成果を引用して述べています。今日の講演は、その本に書かれていることや日頃考えていることをちりばめてまとめました。

保育のことは専門外ですが、私の講演が皆さんの考え方をレフレッシュすることの参考になればと思います。

◎長期にわたって知能の発達によい影響をおよぼす幼児期の要因の研究が数多くあります。

そこでは一貫した結果が得られています。6つあります。

  1. 世話をする人が情感豊かな反応の仕方していること、言語的な働きかけをしていること。
    子どもが声を出したときやことばを発したとき、親愛の情をこめて、心のこもった言葉で応えているか。
  2. 制限や罰を避けていること
    怒ったり、怒鳴ったり、体罰を加えたり、必要以上に子どもに制約を加えることを慎んでいるか。
  3. 周りの環境が整えられている(環境というのは、世話をする人の心の配慮が表現されている) 子どもの世界が安全な場所になっているか。大人たちといつも接しているか。テレビを見る時間が定められていて、最小限になっているか。
  4. 適切な遊び道具があること
    手で操作できるもの、目と手を使うおもちゃ、子どもが積極的に関わることができるおもちゃがあるかということ。
  5. 大人の子どもにかかわるまなざしが豊かであること
    大人は子どもがどこにいるか知っている、子どもによく目を向け、子どもたちの活動に興味を持っているか。
  6. 日常生活でさまざまなもの、あるいは体験に出会うチャンスを子どもがもっているか
    大人が子どもを外に連れだし、子どもが観察したり手で触ったりできるような何か目新しいことをさせているか。愛情を持った大人が少なくとも週に三回は物語を読んで聞かせているか。

この6つの要因を見て気がつくのは、周りの大人が如何に配慮しているかが重要な要因であるということです。子どもが周りの世界に如何に能動的、アクティブに関われるように配慮されているか、また「それでいいよ」という承認あるいは支えが与えられているかということです。

その積極性をもたらすのは根本的には「脳の力」と「周りの人間の支え」です。ですからこの2つのことをしばらくお話ししたいと思います。

◎知性を支えている脳の仕組みと特徴

1 人間の脳のしくみ

右脳、左脳という言葉があります。頭を上から見ると、人間の脳は左半球と右半球に分かれています。人間の知性を司っているのはこの左右の大脳半球です。今日の話は脳を横から眺めます。

人間の脳はしばらく前までは一つのものと考えられていましたが、実はその中にはっきりと異なる三つの仕組みをもっていることが分かってきました。その三つの仕組みとは、脳幹、大脳辺縁系、大脳皮質です。この脳の仕組みは生物の長い進化の歴史を刻み込んでいます。ある人はこれら三つの脳を、爬虫類の脳、古いほ乳類の脳、新しいほ乳類の脳と呼んでいます。しかし、それぞれ生命の脳、情緒の脳、知性の脳という言い方がもっと分かりやすいと思います。この三つの脳は、縦につながった仕組みになって働いています。脳幹はさらに延髄、脊髄へと伸びています。

生命の脳あるいは爬虫類の脳は、われわれの身体内部と外界の状態に対する目覚めた意識を作り上げ、体を動かしています。実際には、生命脳は二つのより高次の脳の支配を受けています。

情緒の脳は大脳辺縁系といわれる領域を基盤にしています。母子、家族、社会の情緒の絆の源はすべてここに存在します。爬虫類の脳が受け持つむき出しの本能は、この情緒の脳に統合されて、より人間らしい感情の色合いを帯びることになります。

知性の脳は新皮質とよばれる新しい脳で、下位の二つの脳をあわせたものの5倍の容積を持っています。この高次の機能をもつ脳は、知能、創造的思考、計算能力を産み出し、また思いやり、共感、哀れみ、愛を育みます。

脳はこの三層の仕組みになっています。普段は高次の知性の脳に支配されている人間の心は、ひとたび防御の姿勢をとらなければならない危険な状況に陥った時には、低次の二つの脳が高次の脳を支配する逆転した形になります。その危険が消えるまで高次の知性の脳は空ふかしの状態になってしまいます。ですから高度に心配性であったり、情緒が不安定な子どもは、知的機能が正常に働かなっかたり、発達しないことがあります。

ですから知性の働きは、生命の健康や情緒の安定を基盤としてはじめて十分に発揮されるものだと言えます。

◎それぞれの知的な能力には発達の最適期があります。

最初に、縦縞の模様のない環境で育てられた仔猫の有名な実験の話をいたしましょう。

縦の線の特徴を捉える大脳皮質視覚野の一群の細胞が成熟する短い期間、仔猫を普通でない環境、横のストライプの模様の飼育箱で育てるとその細胞が活性化しないことになります。この期間、仔猫は縦のラインを見ることがありません。後になって縦の視覚刺激を与えても、他の正常な視機能にもかかわらず、仔猫は縦のラインをみることを決して習得しないのです。外に出して歩かせるといろいろな物にぶつかります。後でその猫の脳を調べると、垂直の特徴をとらえる神経細胞は、その発達の臨界期に刺激を受けていないので、発達していないことが分かっています。

人間の脳は、猫の脳よりも発達に時間がかかるのでかなり長い期間窓を開いており、そのためふつう「臨界期」ではなく「感応性の高い時期」とか「最適期」という用語が用いられる。

今日までの研究では二つのタイプの感応性の高い時期が見いだされている。それは一つは視覚や聴覚のような感覚機能に関するものであり、今一つは言語に代表される高次の精神技能に関連するものです。

感覚機能の例として視覚機能や言葉の音の聞き分けの観察があります。

子どもの目や耳の抹消の器官が正常であっても、これらの器官から信号を受け取る脳のある部位の細胞が、ある一定の時期に活動しはじめなければ、視覚や聴覚の刺激処理能力は障害されてしまいます。

そのよい例は弱視です。この異常があると、2つの目のうち、優位眼のみで全てをおこない、劣位眼は焦点を結ばないことになります。(利き手があるように、利き目というのもあります。利き耳もあります。)そのため子どもは両眼を同時に効果的に使う能力である両眼視が発達しません。脳細胞は劣位眼からも信号を受け取る仕組みになっていますが、適切な刺激を受容できないために細胞の活動が停止してしまいます。眼科医は、治療可能なものであるなら、この障害を5歳までに治療します。それは両眼視の能力の感応性の高い時期がこの年齢までに終わるからです。治療法は図式的にいえば、優位眼を一時目隠しして視機能系の全ての細胞を働かせ、生き返らせる方法です。

言語音の聞き分けの回路も同じように臨界期の刺激で作られる。発達期初期の音環境、すなわちことばの環境がそれぞれの母国語の言葉の音に反応するように創られていきます。日本語を話す子どもはrとlの発音の区別ができませんが、それは日本語にはlの発音がないためです。これに代表されることが積み重なって、最終的には日本人の脳、アメリカ人の脳といわれるような脳の知的な仕組みの違いを引き起こすことになるといわれています。

高次の精神機能の例としてはことばの発達の例があります。

アヴェロンの野生児 ヴィクトール

1797年にフランスのラ・コーヌの森で狼と行動する12歳ぐらいの男の子が発見されました。イタールという医師が、教育が与えられず、人との交わりのない原始的な生活をしていただけで教育によって普通の子どもにできるという確信のもとに訓練をしました。しかし改善しませんでした。もともと遅れがあったという説と、臨界期を過ぎていたから教育がうまく行かなかったという説がある。適切な時期に適切な刺激を受けるということが重要です。人の環境を奪われた例です。

これは古いことで厳密な記録が残っていません。ところが1970年アメリカ、ロサンジェルスで「ジーニー」という女の子が発見されました。この例は言語発達の臨界期に環境からの刺激が剥奪された場合の影響を考える場合重要な事例ですが、特異的で悲劇的な出来事です。

この子は最初普通に育っていたが、20カ月から13歳まで精神病の父親に狭い部屋に閉じこめられてしまいました。一日中小児用の便器に縛り付けられ、ベビーフードだけ与えられて、父親に怒鳴りつけられてばかりいました。少女が音を立てると父親が体罰を加えました。

ジーニーは、文法や統語の発達の臨界期にあらゆる言語の刺激を受けることができなかったと考えられます。もちろんことばを喋ることはできませんでした。発見されたあと専門家たちからかなり指導を受けました。その時が13歳です。いくつかの単語を獲得できたが、整った文をつくり出すことはできませんでした。

これらの例から学べることは、技能の発達には最適の時期があり、順序性、タイミングがあるという原則です。子どもの脳は、完成品の大まかな形しか持たない粘土にたとえることができるかも知れません。それに環境が彫刻家のように刻みを加えます。脳に加わる環境からの刺激の形が、彫刻の形として残る細胞とスタジオの下にそぎ落とされる細胞をほぼ決定といえます。感応性の高い時期には、粘土のある部分にあたる細胞が一時的に温められ柔らかくなり、そして、環境の彫刻家のナイフの思いのままに刻まれることになります。

◎もう一つ重要な原則があります。

湧き起こる興味とアクティブな関わりが知性を発達させます。

「豊かな環境」のネズミという実験があります。

二つの飼育箱があって、片方には5匹、もう一方には1匹のネズミが入っています。全てのネズミは同じ量の食料と水を与えられています。違うところは、一方の飼育箱のネズミは「豊かな環境」で育っているが、もう一方の箱のネズミは「貧弱な環境」、ふつうの何もない飼育箱に入れられていることです。「豊かな環境」のネズミは大きなかごに住み、仲間がたくさんおり、しかももっとも重要なことであるが探索したり、押したり、回したり、登ったり、暇なく過ごせる回転車やボールのような玩具に囲まれている。要因の違いが二つあります。仲間関係と玩具の活用です。それが豊かな環境と貧弱な環境の違いです。この二つの環境の相違はネズミの大脳皮質の大きさに11%の開きをもたらしたそうです。豊かな環境で育った脳では何が起こっているのかというと、脳の全重量、大脳皮質の厚さと重さ、顕微鏡レベルの細胞密度、種類の異なる細胞の分布、一つ一つのニューロンの構造のそれぞれに顕著な変化が認められている。

動物実験から得られるもう一つの教訓は、環境へのアクティヴ、能動的なな関わりが適切な情報を取り入れるために不可欠であることです。

今度は仔猫の実験です。バランスビームに乗せられた二匹の仔猫の話をします。

一卵性の双子の仔猫の実験です。二匹の仔猫が生まれた直後に、このバランスビームのある飼育箱の中に入れられました。その飼育箱の壁は白と黒のストライプに塗られており、それが視機能の発達の臨界期の唯一の刺激であった。バランスビーム(天秤ばかり)の両端にそれぞれカゴが取り付けてあり、仔猫は一匹づつ乗せられた。一方の仔猫だけがかごから足を出して歩くことができた。その猫が歩くとビームが動き、もう一方の猫がかごに乗ったまま移動する。つまり能動猫と受動猫を創っているわけです。もちろん両方の仔猫とも受ける視覚刺激は同じ縦じまの模様です。それぞれの仔猫が同じ風景を体験したのであるが、実験後の解剖で猫の視覚受容細胞の発達が異なっていることが発見された。ただカゴに乗っていた仔猫は縦のラインについては機能的に盲といえる状態であった。

「足を床につけていた仔猫だけが、自分がどの位置にいるか知っており、床の中での自分の位置を縦線との関係で把えており、その関係機能を発達させたのです。そして、「経験が脳を形成するといえます。しかし、それには経験への能動的な関わりが必要です。人間の視覚機能についても同じ原則があてはまるといいます。

身体を使った遊びは、子どもが経験を能動的、主体的に体得する大切な方法の一つです。ローテク環境で、体を動かし、五感を使って遊ぶ活動が重要です。読み聞かせ、手遊び歌、レトミックなどは子どもにとって大変重要な活動ではないでしょうか。

脳の仕組み、最適期、能動的な関わりということを話してきました。

この最後の能動的な、主体的な関わりということには子どもがどのような精神的雰囲気で育てられるかということが密接に関わっています。

◎周りの人の支えということを最後にお話しします。

われわれ大人の心の中には、「基本的信頼を創る能力」「自己決定を行う能力」「積極的にことを始める能力」「新しい事態に対処する能力」「自分が何であるかを見定める能力」「他者との親密な関係を創る能力」といった精神的な能力があります。これらの能力、徳性は幼いときからの周りの人々との親密な関わりを通して形成されたものです。

 

われわれはときどきハートブレイクな精神的に苦しい出来事に出会います。そのような経験をいまの言葉で言えば「心的外傷」といいます。この心的外傷の体験の中身は何かといいますと、それは、自分は無力であるという打ちのめされた気持ちと、他者からの切り離されたという孤立無援の感覚です。(対象喪失、障害児の母親) 

だから心的外傷を受けた人が回復していくのは有力化を行い、他者との新しい結びつきを創ることにあります。回復は人間関係の網の目を背景にしてはじめて起こり、孤立状態においては起こりません。心的外傷体験によって損なわれ歪められた心的能力を、他の人々との関係が新しく蘇る中で創り直していくのです。その心的能力とは、先ほどいった「基本的信頼を創る能力」「自己決定を行う能力」「積極的にことを始める能力」「新しい事態に対処する能力」などであります。

これらの能力はそもそもが他者との関係(親子関係、保母と子ども、教師と子ども、仲間)において形成されたものでありますから、その再形成も、まさに他者との関係においてなされなければならないのです。それが周りの人々の支えということです。

愛知県にはトヨタの工場がたくさんあります。その生産ラインでは工作や溶接はすべてロボットがこなし人は計器を管理しているだけだという話を聞いたことがあります。しかし保育の場がこのようにオートメ化されることはないでしょう。

20年前のSF小説には、未来の食事が錠剤一粒飲めばいいということがまことしやかに描かれていました。ところが時代は決してそういう方向には進みませんでした。むしろ人々は豪華な食材のグルメを求めたのです。それはその方が人間らしく、また心豊かな生活には必須のことだったからではないでしょうか。

技術がどんなに進歩しても、子どもにとって愛する対象や良き指導者としての親や保母という人間の存在の重要性は変わりません。むしろ増してくると思います。そこにわれわれの仕事の特色もあります。

これから一つの文章を読みます。周りの大人の関わり方がいかに子どもの心の発達に影響を与えるかということが書かれています。「子どもは親の鏡」という題です。(『こころのチキン・スープ』というダイアモンド社から出版されている本の中に載っていたものです。)

子どもは批判されて育つと、人を責めることを学びます。
憎しみの中で育つと人と、争うことを学びます。
恐怖の中で育つと、おどおどした小心者になります。
哀れみを受けて育つと、自分をかわいそうだと思うようになります。
馬鹿にされて育つと、自分を表現できなくなります。
嫉妬の中で育つと、人をねたむようになります。
引け目を感じながら育つと、罪悪感を持つようになります。
子どもは辛抱強さを見て育つと、耐えることを学びます。
正直さと公正さを見て育つと、真実と誠意を学びます。
励まされて育つと、自信を持つようになります。
ほめられて育つと、人に感謝できるようになります。
存在を認められて育つと、自分が好きになります。
努力を認められて育つと、目標を持つようになります。
皆で分け合うのを見て育つと、人に分け与えられるようになります。
静かな落ち着きの中で育つと、平和な心を持つようになります。
安心感を与えられて育つと、自分や人を信じられるようになります。
親しみに満ちた雰囲気の中で育つと、生きることは楽しいことだと感じます。
周りから受け入れられて育つと、世界中が愛であふれていることを知ります。
あなたの子どもたちは、どんな環境で育っているでしょうか。

最初に述べた知能の発達のところで、周りの大人がいかに配慮しているかが強く関連していることを述べました。それはどういう意味か、子どもに何を与えているかというと、「自分が愛されており、価値があり、かけがえのない存在であると感じられる温もり」です。それがすべての成長の原動力であり、第一に優先されるべきことです。

(ここで切ってもよい。)

最後に、子どもがそのように感じられる保母の接し方の指針を述べておきたいと思います。キーワードは、信頼、共感、受容という心のエネルギーです。

  1. 子どもとの信頼関係をより早く確立すること
    子どもとの間にできるだけ早くよい信頼関係をつくるよう努めてください。暖かい親密な人間関係を形成します。すべての指導は、この信頼関係の上に築かれます。
  2. 子どもを完全に受容すること
    子どもの気持ちをあるがままに受け入れるという基本的な態度で接することが重要です。しかし受け入れるということは、子どもの行動すべてを是認するということではありません。子どもが内ないし外に向かって攻撃的な行動をしているとき、それを非難したり禁止したりせず、その行動をやわらげ、子どもの気持ちを受け止めてやることが大切です。子どもをいったん完全に受け入れることが、指導をうまく展開するためには重要です。
  3. おおらかな雰囲気をつくること
    子どもが自分の気持ちを完全に表現でき、自由な感じを味わえるようおおらかな保育や教育の雰囲気をつくりだすことが大切です。おおらかさが子どもを受け入れる重要な条件です。自由感は自己規律と表裏一体のことがらであり、自由を味わうことなしに指導がうまく展開することはありません。
  4. 感情の受けとめと投げ返し
    子ども自身が自分の行動について洞察が得られるよう、子どもが表現している意思や感情を指導者が敏感かつ正確にとらえ、子どもの気持ちをどのように理解したかを投げ返してやることが大切です。この場合、保母の立場からの解釈は最小限にとどめます。子どもの意図していることが分かったという表示を一旦おこない、子どもの気持ちを受け止めてやることが重要です。
  5. 子どもに対し敬う心をもつこと
    子どもは誰もが向上心をもっており、機会と経験を積み重ねていけば自分の能力を最大限に発揮できるようになることを信じ、自己実現に取り組んでいる人間として尊敬の念をもつことをいつも心に留めておいてください。
  6. 指導の長期的展望をもち、指導の展開を焦らないこと
    子どもの行動のリズムはゆっくりとしたペースをもっているはずであるのに、集団生活ではいつも急き立てられて生活しています。いつも自分の気持ちを表現する準備ができていない段階で、ものごとを聞かれたり、指示を与えられたりしています。指導を、その場においても、長期的な内容においても、ゆっくりと展開し、子ども自身から自主的に動き始めるよう仕向ける配慮が大切です。
  7. 行動の制限
    子どもの行動のなかには、人間の行動として、また保育の集団生活上の理由から、制限しなければならないことがたびたび生じます。子どもの気持ちを傷つけない、圧迫しないためには、子どもとの信頼の上に立った行動の制限、自由な気持ちの表現がかって受け入れてもらえた関係の間での制限であることが大切です。制限は、その指導が中途半端でないこと、一貫性のあること、公平であることが重要です。社会一般に普通のことであるか、保育園のなかで是認されているかといった規準で、認められることと認められないことをめりはりをつけて表現し伝えることが肝要です。
  8. 観察する目と思いやる心
    指導者自身が、子どもの行動を正確に捉える観察する目を、常に向上させることが重要です。そして表にだされた行動、表情、しぐさなどから子どもの心の状態をやさしく思いやれる慈愛に満ちた感性を養うことが大切ではないでしょうか。

長い時間、ご静聴 ありがとうございました。


文献情報

講演者:西村辨作
題目:幼児の思考力の基盤を育てる 講演年月:1997年7月(東京成徳短大にて)

文献に関する問い合わせ先:
愛知県春日井市神屋町713-8
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所治療学部
西村辨作
TEL:0568-88-0811