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2.障害者施設体系

(1)施設体系の整理
① 施設の現状
・身体障害者更生援護施設については、障害種別、障害の程度、施設の目的に応じて19種類に分けられ、平成8年社会福祉施設等調査によると、施設数は1394カ所、在所者数は4.3万人となっている。施設は、社会復帰をめざす訓練の場としての更生施設、作業の場としての授産施設、常時介護を必要とする者を対象とする生活の場としての療護施設等に大きく分けられているが、療護施設の待機者が多い一方で更生施設の入所率が低く、また、施設種別が細分化しすぎていること等の問題がある。
・ 精神薄弱者援護施設については、施設の目的により7種類に分けられ、平成8年社会福祉施設等調査によると、施設数は2449カ所、在所者数は12・6万人となっているが、地域的な偏在がみられるとともに、入所率が100%に近く、施設整備の着実な推進が必要である。施設は、更生、施設、授産施設等に分けられるが、更生施設については長期滞留化が進み、待機者も増加している。
・ 障害児施設については、児童福祉施設の中で、障害種別、施設の目的等により、10種類に分けられ、平成8年社会福祉施設等調査によると、施設数は816カ所、在所者数は3.8万人となっている。少子化の影響等により、障害児施設では一般に入所率が低くなっているが、重症心身障害児施設の入所率は高く需要が多い。
・ 精神障害者社会復帰施設については、施設の目的等により5種類に分けられ、平成8年社会福祉施設等調査によれぱ、施設数285カ所、在所者数4000人となっており、利用率は高くない。施設の利用方式の特色としては、保健所の斡旋により利用者と施設とが直接利用契約を結ぶ方式をとる点で、措置として行われる身体障害者更生援護施設等の場合とは異なっている。また、精神病院への入院者数は約33万人となっている。
・ 以上のように、障害者施設は、各障害類型別、種別ごとに作られているなど制度の仕組み等が異なることから、障害種別を超えた相互利用が難しいといった問題がある。

②検討の視点
・施設の体系化は、具体的需要をどの施設が担うのかという行政施策の整理を図る上で有用であり、近年の動向も踏まえ、以下の視点からの検討が必要である。

ア. 障害者の年齢や能カに応じた施設の在り方を考えることが必要である。
・乳幼児期に障害を有するに至った者にとっては、障害児施設は乳幼児に行う早期療育により障害の軽減と能カを最大限に伸ぱす役割を担い、さらに成長に従い、保育所の障害児保育や学齢期の養護学校等が大きな役割を担い、卒業後においては障害の度合いに応じた就労・活動・生活の場としての障害者施設が重要な役割を担うことになるが、こうした流れに沿った適切な施設の在り方を検討すべきである。
・ 主として重度の中途障害者が利用する施設については、利用者の実態を勘案し、地域生活を目指した社会生活力を高めるための援助等その処遇の在り方を検討すべきである。
・ 障害者の生活の場についても、生涯の各段階において、障害の度合いや社会生活カの度合いに応じ、公営住宅や一般のバリアフリー住宅などとの役割分担も踏まえて施設体系を検討すぺきである。
・ 高齢化した障害者の処遇の在り方については、高齢者施策での対応も含め、検討すべきである。

イ. 医療の関わりがどの程度必要かという観点から施設の在り方を考えることが必要である。
・ 障害者施設には、重症心身障害児施設、肢体不自由児施設等のように医療サービスと福祉サービスを一体として提供するもののほか、入院治療は必要ないが日常生活において常時の介護を要する者を対象とする身体障害者療護施設や医療的処置に引き続く機能訓練等において医療と密接な関係を有する身体障害者更生施設があるが、障害の重度・重複化に伴う医療との関係の在り方について検討が必要である。
・ このため、身体障害者更生施設と専門的なリハビリテーション機能を有する病院との関係など障害者施設と医療機関との関わりの中でそれぞれの施設の役割、連携の在り方を考えることが必要である。

ウ. 就労、活動との関係の中で施設の在り方を考えることが必要である。
・ 障害者の就労、活動については、授産施設、福祉工場の果たす役割が大きいが、一般企業での雇用が可能な者については、労側行政との連携の下に適切な移行を図るとともに、「生きがい活動」的な日帰り介護・活動事業(デイサービス)や小規模作業所等との関係の中での位置付けについても考えることが必要である。
・ また、更生施設においても就労、活動といった点をどこまで担うのか考えることが必要である。

工. 地域に根ざした施設の在り方を考えることが必要である。
・ 先進諸国の例をみると、障害者が普通に地域で生活できるようにするというノーマライゼーションの観点から、地域から切り離された大規模施設ではなく、施設を小規模なものとして地域社会に根づいたものにすぺきであるとの考え方に基づき、重度の障害者施設等についてもグループホームのように小規模化してこれを身近な地域に配置し、そこから訓練施設に通所したりその他の地域の様々な資源を活用していくという流れがある。
・ 我が国においてこのような仕組みをただちに取り入れるか否かについては慎重な検討を要するが、こうした観点を踏まえ、障害者施設について一層の小規模化を図るとともに、今後、生活の場と活動の場を分離し、生活施設から訓練、作業、生きがい活動等のため他施設に通所できるような方途を検討すべきである。
・ また、障害者施設が「地域の宝」としてその資源が地域で活用されるようにするため、訪問介護事業(ホームヘルプサービス)、日帰り介護・活動事業(デイサービス)、短期入所生活介護事業(ショートステイ)、地域生活(寮育)支援センター等の様々な機能を備えることが必要である。
・ さらに、災害等の緊急時において地域の障害者の避難場所としての機能を果たすようにすぺきである。

オ.生活の質(QOL)を高めるという観点からの施設の在り方を考えることが必要である。
・ 障害者の生活の質を高めるという観点から、個室化、夫婦のための居室の設置等施設における処遇の充実、職員配置の見直し等が必要である。
・ 特に、情報化の進展等時代の変化に対応して、障害者への情報提供及ぴ障害者間の情報交換の促進、障害者の創造カの発揮や生活を豊かにすることに資する文化・芸術活動、障害者の健康・体カの維持、増強を図るスポーツの振興、レクリエーション(余暇活動)等のより積極的な社会活動を進めるという観点からの施設の在り方を考えることが必要である。
・ このため、点字図書館、聴覚障害者情報提供施設、身体障害者福祉センターの活用や、各種文化施設、スポーツ施設などを障害者が容易に使えるような条件整備を図るぺきである。

③施設類型に関する当面対応すべき課題
ア. 身体障害者更生援護施設について
・ 身体障害者療護施設については、最重度の身体障害者の生活の場として入所者が安心して、かつ、生きがいをもって生活できるよう処遇内容の充実に努めることが必要である。また、待機者が多いことを踏まえ、施設整備を進めるとともに、入所基準等の明確化を図るべきである。また、通所部門の充実等により在宅での生活の支援や地域生活への移行を促進すぺきである。
・ 訓練の場という性格と就労の場という性格を併せ持つ授産施設については、平成4年の「授産施設制度のあり方検討会」(社会・援護局、児童家庭局、保健医療局の3局長の私的懇談会)の提言、社会経済情勢の変化等を踏まえ、そのあり方を検討すぺきである。
・ また、併せて、「授産」等の名称についても見直しを検討すべきである。
・ 重度障害者への対応のため、医療機関との連携や施設における医療的な処遇の在り方についても検討が必要である。

イ. 精神薄弱者援護施設について
・ 精神薄弱者更生施設については、一定期間を限定して指導・訓練及び評価判定をすることを目的とする施設として明確に位置付けることを検討すぺきである。
・ 介護を中心とした処遇が不可欠な重度・重複の精神薄弱者、加齢により日常生活動作能カ(ADL)が低下した精神薄弱者等、一定期間を限定した訓練指導になじまない者であって、在宅福祉サービスを利用しても地域生活が困難な者については、日常生活上の生活支援及ぴ生きがい活動支援を目的とする生活施設の形態を創設し、障害者の想様に応じた処遇を確保できるよう検討すぺきである。
・ 一定時間以上継続して作業に従事できる者については、福祉的就労の場として授産施設を、また、さらに作業能カのある者については福祉工場の利用を促進することが必要である。
・ 以上の施設類型については、いずれも入所及び通所による利用が可能なものとすべきである。
・ 生活の場と活動の場を可能なものは分離していくという観点から、生活の場となる精神薄弱者の地域生活援助事業(グループホーム)の利用要件を緩和することが望ましいので、その就労要件については、障害基礎年金等の確実な収入が見込まれる場合には撒廃すぺきである。また、通勤寮、福祉ホームの就労要件を撤廃し、これらの入所者が日中の活動のため授産施設等へ通所できるようにすることについて検討する必要があるが、この場合、通勤寮等の施設の性格や公費負担の在り方を検討すぺきである。・高齢化等に伴い、様々な合併症を有する入所者が増加しているので、 入所者に対する適切な医療を確保するため、近隣の医療機関との連携を強化することが必要である。

ウ.精神障害者社会復帰施設等について
・ 精神障害者社会復帰施設については、4つの類型が相互に利用できる形態となっており、生活と活動の場の分離が図られていることから、今後もこの形態を基本とすべきである。
・ 一方で、利用者と施設の直接契約型の施設であり、保健所の役割は斡旋に留まっていることから、今後、施設の設置や社会復帰施設の利用調整に関する地方公共団体等の役割の強化についても検討すべきである。
・ さらに、介護を中心とした処置が必要な精神障害者、日常生活動作が低下した精神障害者等のため、介護機能のづいた施設形態を研究すべきである。なお、精神障害者については、長期入院患者が多数存在するが、これらの者の社会復帰の促進を図る一方で、長期間にわたる入院治療が必要な者に対しては、医療の保障された生活の場を提供するための施設の在り方にっいて、入院患者の療養上の必要なサービス、施設・人材等サーピスの提供方法等の面から検討すぺきである。精神障害者社会復帰施設の整備は、他の障害種別の施設に比ぺその 遅れが指摘されているが、精神障害者や精神疾患に対する差別と偏見が原因の一つとなっている。地域住民の反対により、社会復帰施設が 建設できない例が一部にあり、対応策を検討すぺきである。

(2)施設における障害の重度・重複化、高齢化への対応
・ 重度・重複の障害者については、地域の施設が満員のため待機を余儀なくされたり、障害の特性に応じた適切なサービスを受けられる施設が地域に存在しない等の事例が少なからず見られる。このため、身体障害者更生援護施設、精神薄弱者援護施設においては、重度・重複障害者への適確な対応が図れるよう、施設設備、人員面の配置の強化等の機能の充実を図ることが必要である。
・ 特に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等のうち入院治療は必要ないが日常生活において常時の介護を必要とする障害者については、これまで受け皿が不十分であり、今後、身体障害者療護施設において、特別に必要な施設、設備を整備する等の改善を図るなどの施策を講じるべきである。
・ また、重度施設、重度棟、重度加算については、混合処遇の長所を生かす等の観点から、重度障害者個人に着目した重度加算に一本化することも検討すぺきである。

(3)地域の中での施設の機能の発揮
①障害種別間の施設利用の弾力化と統合
・ 障害児通園施設について、当面現行の施設種別を維持しつつ、異なる障害のある児童を受け入れられるように、「相互利用」の制度化を図るぺきである。さらに、将来的には障害児通園施設(仮称)として一本化することを検討すべきである。
・ 授産施設等について、精神障害者施設と他の障害種別の施設の相互利用を進めるべきである。さらに、将来的には、共同利用を前提とした施設形態を検討すべきである。

②施設の小規模化
・ 重度身体障害者更生援護施設及び重度身体障害者授産施設の最低定員を他の入所施設並みに引き下げるなど、身近な地域に施設を設置しやすくするように検討すぺきである。
・ この場合、事業の効率性、財源の有効活用も考慮することが必要である。

施設における在宅サービス支援機能の強化
・ 障害者施設はこれまでにも述ぺたように、地域の在宅支援の拠点や危機対応の役割を担い、「地域の宝」として位置付けられるようにすることが重要であり、今後とも、在宅福祉サービス事業の機能の付加等によりその充実を図るべきである。
・ 在宅障害者及び在宅介誕者の支援のため、各施設が独自に利用者の需要に応えるぺく創意工夫をこらして実施する自主事業については、利用者との自由契約により実施できることを明確化し、その促進を図るべきである。
・ また、施設が地域の資源として活用されるためには必要な地域に計画的に整備されることが必要である。このため施設整備が円滑に行えるための条件整備についても検討すべきである。

(4)施設での処遇の充実
・ 障害者の施設における生活の質(QOL)を高める観点から、設備基準を見直し、居室の個室化等を推進すべきである。
・ 障害の特性に配慮しつつ、障害種別間の施設整備や人員配置の基準の整合性を図る観点から、特に精神障害者社会復帰施設を中心に基準を見直す べきである。また、行動障害を有するため常時監護を必要とする精神薄弱者に対しては、強度行動障害児者特別処遇事業が試行的に行われてきたが、その成果を踏まえつつ、関係機関との連携を図り、一般的な施策として普及を図るべきある。
・ 情報化への対応をも含めて、障害者施設が試行的・先進的な取組みが可能となるよう、施設職員の研修を充実するなど資質の向上を図るとともに、入所者の処遇計画を、芸術、文化、スポーツ、情報等の観点から充実することが必要である。

(5)施設のサービスの質の確保
・ 障害者施設、精神病院等のサービスの質の確保を図るため、施設・設備や人員配置などの基準を定めているが、その見直しについて検討することが必要である。
・ さらに施設におけるサービスの質の確保と向上を図るためには、サービス内容に関する情報を公開し、利用者による適切なサービスの選択を可能にすることが必要であり、施設におけるサーピスを客観的に評価する墓準及ぴ仕組みについて検討が必要である。

(6)小規模作業所の位置付け
・ 小規模作業所は授産施設や日帰り介護・活動事業等の待機者を中心に、養護学校卒業者等に活動の場を提供するとともに、病院や施設を退院・退所した障害者が地域で生活するための受け皿や障害者やポランティアの交流の接点になる等、障害者の社会参加や地域での支え合いの場としても機能している。
・ 小規模作業所は、法制度外の仕組みとして、事業主体、事業内容等多様な形態をとりながら、障害種別にかかわりなく受け入れる等創意工夫による柔軟な事業を実施しており、設置数は飛因的に増大しつつある。しかしながら、小規模作業所は、高齢化している家族が運営の中心となっているところも多いなど人的、財政的な基盤が安定しておらず、運営の安定化が課題となっている。
・ このための方策としては、まず、授産施設の分場方式の活用や日帰り介護・活動事業(デイサービス)への移行による法定施設(法定事業)化を推進することが必要であり、そのための各種の要件緩和をさらに行うべきである。その際、法定事業化の前提条件のひとつである設置運営主体の法人化が円滑にできるよう社会福祉法人の要件の緩和についても検討すべきである。
・ また、小規模作業所の中には、地域の様々な活動の場となっているものもあることから、このような機能に着目した新たな事業形態も検討すべきである。
・ さらに、これらの施策の対象となるべく準備段階にあったり、あるいは自らの判断でこれらの施策の対象とならないような小規模作業所についてもその役割を積極的に評価し、地方公共団体の自主的単独事業として地方交付税措置等により、その支援を行っていくことが必要である。


主題:
今後の障害者保健福祉施策の在り方について(中間報告)

発行者:
身体障害者福祉審議会
中央児童福祉審議会障害福祉部会
公衆衛生審議会精神保健福祉部会
合同企画分科会

発行年月日:
平成9年12月9日

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