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第2回国連障害者の権利条約特別委員会

仮訳 デイリー・サマリー第2巻第1号 2003年6月16日(月)

NGO 地雷生存者ネットワーク
翻訳:長瀬修・川島聡

午前のセッション

開始時刻:午前10:30

終了時刻:午前11:05

 午前のセッションの開始は、車椅子を利用する参加者の席を整える準備のために、少し遅れた。

 議長団議長ルイ・ガレゴス(エクアドル大使)は、以下の者に特別の謝意を表した。国連総会議長代理ユング・クラーク大使、障害に関する新特別報告者シーカ・ヘッサ・ビント・アーメド・アルタニ(カタール)、特別委員会の報告者を務める南アフリカ代表・アフリカの代表としての議長団メンバー、国連経済社会局(DESA)のシュルビング氏およびバフール氏、事務局ティムール。

議題1:会期の開会

 特別委員会議長は、第2回特別委員会の初日を迎える喜びを表し、冒頭のステートメントを述べた。議長は、この会期の審議が障害者の権利と尊厳だけでなく、世界のすべての社会にも影響を与えることを強調した。私たちの社会は、何億もの障害者とその家族の実情を分析するため、「現実の鏡」に自らの姿を映し、真剣に考えなければならない。私たちが最善の努力をなすべきである6億人を越す人間がいる。専門家によれば、ある種の障害を持った人が家族にいない人はこの星にはいないと、議長は語った。議長は加盟国に「小さな違いを克服しよう。広範だが本質的なコンセンサスを達成しよう」と訴えた。議長は最後に「私たちの決定は、障害者にとってだけでなく、私たちの社会にとっても重要な結果をもたらす。障害者に課せられている、ありとあらゆる制約を私たちが克服しない限り、私たちの社会的統合を確保するために必要な変革は実現しない。国際社会においてこの変革をなすべき時が来た」と語った。

 特別委員会議長の冒頭のステートメントに続いて、クラーク大使は、国連総会議長ジャン・キャヴァンのメッセージを読み上げた。議長は、「世界には約6億人の障害者がいる。そして開発途上国にはそのうち5分の4がいる」点を強調した。障害者の権利及び尊厳の促進及び保護に関する包括的かつ総合的な国際条約は、障害と貧困、障害と社会的排除、障害と絶望それぞれの結びつきを断ち切るために必要である。対応が必要とされている問題としてではなく、社会生活と開発のすべての側面において、平等に基づく完全参加への権利を持つ主体的人間として、障害者が扱われることを確保するためには条約が必要である。各国が障害者を主流に移すための義務について、より良い理解を持つために、条約は必要である」と議長は語った。議長は、この特別委員会の審議が、「障害者が他のすべての人々と同じ権利と市民的責任を持つという世界に向けて重要なステップ」をもたらすという希望を述べ、メッセージを終えた。

 国連経済社会局のショルデン氏は、障害者の権利を促進するための国連の努力の歴史的展開を要約し、スピーチを始めた。ショルデン氏は、第56回国連総会でのメキシコ政府代表団による、障害に関する特別委員会設置というイニシアチブが「利害関係者としてのあらゆる市民の参加に基づく、公正な社会的統合の促進、社会的貧困への取り組み」という文脈のもとで行われたことを特に想起した。ショルデン氏は、2003年7月の第1回特別委員会以降に生じた主たる動向について詳しく述べた。これらの動向は、政府機関、NGOなどの国際的な公開会合に基づいている。これらのすべての動きに関する文書は、アクセスを完備したウェブサイトwww.worldenable.netにおいて参照可能である。議題5の下では、以下の4つの文書(オンラインで利用可能)が国連加盟国に提供された:

  1. 障害者の権利および尊厳の保護および促進に関する総合的で包括的な国際条約に関して提出された見解(A/AC.265/2003/4)
  2. 障害者の地位向上に関する問題と傾向の概観についての事務総長報告(A/AC.265/2003/2)
  3. 障害者の、障害者のための、障害者による機会の均等化に関する進捗状況についての事務総長報告(A/AC.265/2003/3)
  4. 障害者の地位向上に関する問題と新たな傾向についての事務総長報告(A/AC.265/2003/1)

ショルデンは、昨年の特別委員会の会合以来、国連の支援のもとで開催された一連の国内、地域協議を列挙した。これらの協議の結果は会議文書として入手可能であり、5つの地域会合の価値のある知見を含む。

  1. アクセシブルな情報コミュニケーション技術デザインに関する地域セミナー・地域デモンストレーション・ワークショップ(フィリピン・マニラ:2003年3月3日-7日)
  2. 障害者の権利と開発、健康の基準に関する米州地域セミナー・ワークショップ(キト・エクアドル:2003年4月9-11日)
  3. アフリカ地域協議会議(ヨハネスブルグ・南アフリカ:2003年5月1-6日)
  4. 障害者の権利の策定の基準に関する西アジア地域セミナー・ワークショップ(ベイルート、レバノン:2003年5月27-29日)
  5. 障害者の権利および尊厳の保護および促進に関する総合的かつ包括的な国際条約に関する専門家会合・セミナー(バンコク・タイ:2003年6月2-4日)

 ショルデンは、特別委員会の技術上、知識上の基盤を拡張するために、本会期に開催される三つの重要なパネルに留意した。最後にショルデンは、 2002年の社会開発委員会第40会期の特別報告者ベンクト・リンクビストが条約の範囲および目的に関して、以下の問題を提起したことを想起した。

  1. 将来の条約は、どのような分野に及ぶべきか。
  2. この条約は、既存の一般的な条約とどのような関係を持つべきか。
  3. この条約は、一般的な性質をもって一連の原則を表しながらも、世界中のさまざまな国内的状況に適用できるものとすべきか。
  4. 将来の条約の主たる視点は、発展途上国のニーズに基づくべきか。
  5. 将来の条約は基準規則に取って代わるべきであるか、それとも、この条約と基準規則は相互に補完すべきであるか。

議題2:議長団の新メンバーの選出

 特別委員会は、その議長団の構成を完全なものにするため、東欧グループの副議長にチェコ共和国のイヴァナ・グロノヴァ氏を満場一致で選出した。

議題3および4:議題の採択と、作業の構成

 文書A/AC.265/2003/L1とA/AC.265/2003/L2に含まれている、暫定議題と作業の構成は、それぞれ満場一致で採択された。

 このセッションは午後3:00まで休憩とされた。

午後のセッション

開始時刻:午後3:13

終了時刻:午後5:51

パネルディスカッション

 特別委員会議長は、欧州連合(EU)の議長国ギリシアが今日のパネルディスカッション「障害者の権利に関する国際条約の類型」に関するバックグランドペーパーを準備したと発表した。議長は、「国際条約の類型と、障害者の権利に関する国際条約の選択肢」について話すように依頼された、パネルのメンバーを紹介した。パネル・メンバーは、ムナ・ンドゥロ、ヴェリナ・トドォロバアンドリュー・バーンズディピカ・ウダガマだった。ドイツのパネル・メンバー(テレジア・デゲナー)は参加することができなかった。

6月16日パネルディスカッションの様子

 アンドリュー・バーンズ(オーストラリア国立大学(キャンベラ)の法学教授)は、障害者の人権を保護する条約の必要性について語った。国連人権高等弁務官事務所により委託されたクインとデゲナーの研究「障害分野の国連人権文書の現在の活用および将来の可能性」を引用して、バーンズは既存人権条約が障害者の権利を十分に保護していないと発言した。バーンズは、障害者に関する特別の人権条約の策定に先立つものとして他の人権条約の活用について述べ、その特別の条約は既存人権条約に取って代わるのではなく、補完するものであると強調した。バーンズは、国内的および国際的レベルで執行可能で、監視可能であり、締約国を拘束することを明確に保障する、人権に基づく条約を主張した。そのような条約は、市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利のすべての範囲を反映し、障害、合理的な配慮、アクセシビリティに関する最新の定義を含むものとなろう。さらに、条約の評価を行い、個人と集団からの人権侵害の申し立てを審査する、独立した監視機関が必要であると述べた。障害に関する必要な専門的知識を提供するために、監視機関が障害者を含むことを提案した。

 ウダガマ(スリランカのコロンボの大学の法学部長)も、とりわけ、一般的な人権条約機関が障害に特有な問題について十分な関心を払っていない現状に照らして、障害者に関する特別の条約が必要であると述べた。ウダガマは、生存権、参加権、保護権、発展権を組込むハイブリッド・モデル(混成モデル)を主張した。障害の定義に関して、ウダガマは、1975年の障害者権利宣言で定められた障害の定義が、誰に「障害がある」のかという問題に関する複雑な課題を取り扱っていないため、その定義を再検討する必要があると強く主調した。また、実施の問題については、独立した監視機関の設置を提案した。さらに、ウダガマは、条約を遵守する際には、一部の政府にとって、資源配分、研修、能力形成が課題になると述べた。しかし、ウダガマは、「各国は権利の普遍性および不可分性を認める義務がある」と明確に断じ、各国内レベルで国際条約遵守の要求に応えるための専門機構・機関の設置を求めた。

 子どもの権利条約の専門家であるブルガリアのヴェリナ・トドロバは、条約の性質およびモニタリング・メカニズム(監視の仕組み)について発言した。トドロバは以下の3つの条約モデル、すなわち、(1) ホリスティック、(2) 非差別、(3) ハイブリッド(社会開発と人権の要素の結合)について述べた。どのモデルであれ活動家と政府両方の期待に沿わなければならないと説明した。トドロバは、既存の規定を強化する機会があると発言したが、異なるニーズのために、「特別の人権」というよりも、むしろ「他の人間と対立する形の特別な権利」を促進する潜在的な危険があることを強調した。トドロバは、子どもの権利条約が開いた新生面は子どもの「参加権」であると述べた。また、子どもの権利条約は、人権アプローチと社会開発アプローチとを結合させていることと、特有の状況(例えば、雇用、少年司法、自由の剥奪)に取り組んでいることに長所を持つ。だが、既存条約において既に定められている権利を再表現することは、それが一部の権利を周辺化させる恐れがあるので、不利益を生むことになり得るかもしれない。また、「一部の種類の差別に対する明確な保障がない」とウダガマは述べた。NGOコミュニティが参加し、建設的な対話を行うことの重要性は、子どもの権利条約の起草過程から学んだ教訓とされた。

 ムナ・ンドロは、条約がなければならない、また、何が条約に含まれるべきかについて一般的な合意があるという評価を行った。ンドロは、そのような条約の焦点が、権利の「保護」だけでなく、「促進」にもあることを特別委員会に想起させた。ンドロは、南アフリカの憲法裁判所の二つの最近のケースを引用した。一つはエイズ治療に関するケースであり、もう一つは住宅政策だった。これは、「最低限の基準」を越えて、保障された権利に照らして政策選択を評価する実施例である。ンドロはまた、以下の他の法的問題についても発言した。例えば、権力の分立、法的行為を起こすための地位、留保を許可するべきであるかどうか、実施機関の構成についてである。条約の策定に関して、ンドロは、いかなる条約も「利害関係者の利益を反映する」ものと見なされることが非常に重要であると述べた。さらに、条約策定過程に投入できる財源が少ない国々から専門的知識を得る方法を見つけることが必要であると強調した。

質疑応答

開始時刻:午後4:20

 特別委員会議長は、パネルとの質疑応答が、(1) 国家代表、(2) 政府間機構、(3) NGOの順序で行われると述べた。この司会はアンドリュー・バーンズが担当することになった。

 チュニジアベネズエラコロンビアおよびタイの代表は、障害者の人権を保護し促進する条約を支持する考えを示した。チュニジアとコロンビアは、特別委員会における障害者のアクセシビリティを改善すべき点は多く、その過程を継続すべきであるとの懸念を若干表明した。南アフリカ代表は、条約に関する諸モデルを「組み合わせること」が意味するものを練り上げることを要求した。メキシコ代表も条約の支持を表明した。その際、同代表は、ホリスティック・アプローチ(全体的アプローチ)が障害者のニーズを充足する国内計画の開発を奨励し強化し、地域計画を強化し、かつ、あらゆる主体間の対話を促進する構造を強化するものであるとして、同アプローチに対して好感を示した。

 ギリシア、EUの議長国としての立場で発言し、EUが非差別モデルの下で権利に基づくアプローチを組み込んだテーマ別条約を形成する作業を準備していると述べた。ギリシア代表は、ホリスティック・アプローチが「既存の国際人権法の下で(障害者に)提供される保護を弱める危険を孕むものであり得る」との理由から、非差別モデルが「最も建設的なアプローチ」であると述べた。また、非差別アプローチを支持する理由として、これが障害に関して福祉に基づくアプローチから人権に一層焦点を合わせたアプローチ(これは障害コミュニティから一般に賛成されている)へ「移り変わる明瞭な政治的シンボル」になる、とギリシア代表は述べた。これらの声明に対する返答の中で、パネルのメンバーであるウダガマは、非差別モデルが国家に対して消極的義務を課すにすぎないものである一方、ハイブリッド・モデルは率先して積極的措置をも奨励し要求しているという点で、非差別モデルには限界があることを強調した。バーンズもまた、ホリスティック・アプローチが他の条約によって既に保障されている権利を再表現し、かつ、障害者集団に特有のニーズと環境に関する権利を練り上げるための機会を提供すると表明した。

 国際労働機関(ILO)のバーバラ・マレーは、経済的、社会的および文化的権利に関して過去25年に我々が学んだものを練り上げることを求めた。バーンズは、即時に実現され得る権利がある一方、漸進的に実現される権利もあることを指摘しつつ、社会権規約委員会やさまざまな特別報告者、自由権規約委員会により行われた作業に言及した。バーンズは、この論題に関する討議の中心になるものとして、正当可能性の問題を強調した。

世界ろう連盟写真

NGOの発言は、ヨーロッパ・ディスアビリティ・フォーラム(EDF)障害者インターナショナル(DPI)世界ろう連盟(WDF)SHIA世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク(WNUSP)パレスチナ盲人国内議会、ならびに、香港、インド、イタリアおよびウガンダの草の根活動家によりなされた。多くのものが、ホリスティックと非差別との対立、および、本条約と既存文書との関係に注目した。EDFは、強力な法的(執行可能な/強制可能な)非差別規定を望むとしながらも、それが障害者の人権の平等かつ効果的な享有にとって十分なものとなるか疑問を呈した。WNUSPは、障害者の治療と生活場所の選択に関する諸権利(これらの権利は国際法の下で現在保障されていないものである)を認めるホリスティック・アプローチを支持した。また、ホリスティック・アプローチはパレスチナ盲人国内議会により支持された。


 ディスアビリティ・ネゴシエーションズ・デイリー・サマリーは、ランドマイン・サバイバーズ・ネットワークが発行する。このネットワークは、地雷の被害を受けた6つの途上国において手足を失った者の支援網を持った、米国に拠点を置く国際組織である。このサマリーのスタッフには、ジャグディシュ・チェンダー、マーガレット・ホールト、ジェニファー・ペリー、マーシャル・タラスター、およびキャサリン・ガーンジー(編者)が含まれる。このサマリーは、www.rightsforall.orgwww.worldenable.netのオンラインで入手可能である。スペイン語、フランス語および日本語の翻訳は、障害者インターナショナル、ハンディキャップ・インターナショナルおよび(財)日本障害者リハビリテーション協会の好意により提供する。このサマリーに関連するあらゆる質問または関心事項については、キャサリン・ガーンジー(k_Guernsey@yahoo.com)宛てに直接メールを頂きたい。