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第2回国連障害者の権利条約特別委員会

仮訳 デイリー・サマリー第2巻第2号 2003年6月17日(火)

NGO 地雷生存者ネットワーク
翻訳:長瀬修・川島聡

午前のセッション

開始時刻:午前10:08

終了時刻:午後 1:04

午前のセッションのテーマは、「障害の観点から見た非差別・平等原則:特別措置と障害に関する重要問題」であった。特別委員会議長ルイス・ガレゴス(エクアドル)が、次の優れた専門家パネルを紹介した。レアンドロ・デスポイ大使(アルゼンチン)ランギタ・デ・シルバ・デ・オーウィス(スリランカ)シャーロット・マックイーン(南アフリカ)クリシア・ワドル(アメリカ)である。

ワドルは、あらゆる生活面において障害者が効果的に参加することを確保するために、また、とりわけ雇用分野における機会(の平等)を促進するために、広範な仕方によりアクセシビリティに取り組むことが重要であると述べた。ワドルは、たとえば、車椅子、点字、同時筆記(リアルタイムキャプショニング)、ソフトウェア等を利用して、アクセス可能な環境の下で仕事をする障害者の存在について、さまざまな例を挙げて実証した。アクセシビリティの定義は、交通手段や建造物へのアクセスのみならず、携帯電話やATM(自動現金預入払出機)、投票機器、ソフトウェア、ウェッブサイト、ハードウェアのような技術的装置をも含む広範なものとなる必要がある、とワドルは強く主張した。

 ワドルは、政府の会合でコミュニケーションをとる必要があることから、あらゆる政府が、求めに応じて公的文書(条約検討過程において発行された文書を含む)を利用可能な形式に変えることを奨励した。そして次のように述べた。点字は公式の言語として認められるべきである。国家はアクセシビリティの要請を満たす手段を調達することを義務づけられるべきである。

ワドルは、アクセスについての権利を盛り込むことにより、この条約が企業の利益を生じさせ、障害者の雇用機会を増大させるであろう、と述べた。そして、アクセス可能な環境にするための追加的な費用を後から生み出させないために、初めから、アクセシブル・デザインを確保することが必要不可欠であるとした。デジタル・ディバイドとコミュニケーションの障壁について取り組まなければ、その障壁は生成し続けることになる、とワドルは強く主張して、「技術は変わっても、市民権(公民権)は変わることはない」と最後に述べた。

マックイーンは、南アフリカの憲法における障害者の権利の重要性について強調した。そして次のように述べた。この憲法は、非差別に関する規定のみならず、障害者その他の弱い立場にある人々のためのアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)をも含む。これらの規定を通して、この憲法は、平等の原則、人間の尊厳の原則、社会正義の原則を守るものとなっている。

 これらの原則は、障害を持つか否かにかかわらず、あらゆる人のための平等な社会を築きあげるであろう。また、これらの原則は、障害者の機会均等と平等を確保することにより、慈善ないし善意に基づくアプローチから権利に基づくアプローチへの模範的な転換を象徴するものとなろう。このようなアプローチは、障害者の機会均等化と平等のための法的基礎を国際的に創出するこの条約により、奨励されることになるであろう。

ランギタ・デ・オーウィス大使は、ノーベル賞受賞者アマルティア・センの言葉を引用して、女性が、たとえ障害者の最大の介護者となることがあるにせよ、社会において弱い立場に置かれている、という複合的な形態の差別と周辺化について強調した。そして以下のように話を続けた。女性と男性は等しく戦争における暴力の犠牲者であるが、女性はドメスティック・バイオレンスの犠牲をより大きく被っており、さまざまな形態の障害が生み出されている。また、戦争中のレイプも多くの国において犯罪として未だに見なされていない。女性に対する暴力は、障害の原因として見なされるべきである。この点に関して、私的生活と公的生活との区別を打ち砕くことは大いなる挑戦であるが、条約は最低限の保護を提供することができる。複合的な形態の差別と周辺化により、女性障害者はしばしば不可視の存在のままであり、さまざまな生活領域における効果的な参加を奪われている。それゆえ、政府とNGOとのネットワークを通して、NGOの主流化のために特別の努力がなされる必要がある。国内法を補足するものとして国際法を活用することは、女性の権利を実施する際に大変効果的であり、また、女性障害者の権利を実施するためにも役立たせることができる。

デスポイ大使は、人権と障害者の権利との連鎖を築く必要性(20年前には認められなかった必要性)を強調した。今日では、国連が人権と障害者の権利との相互関係を明白に受け入れていることは喜ばしいとし、障害者の権利を全体としてとらえる必要を強調した。大使は、法令がしばしば実施されないがゆえに、障害者の権利に関する規定を法律で定めるのみでは十分ではないとの事実に注意を促した。障害者の権利の実施を確保するための強力なモニタリング・メカニズム(監視の仕組み)がこの条約において起草されるべきであると勧告した。

パネルの質疑応答

ウガンダは、条約の提案に関する議論を進展させる際に、障害者のニーズの多様性と、障害者が住んでいる国々の異なる発展段階とに取り組むことに関して、パネルの見解を求めた。デ・オーウィスは、その最も有益な比較が、条約の実施を平等に適用することではなく、適正な注意を払うことを締約国に対して要求する、女性差別撤廃条約の概念に見られ得るであろう、と返答した。ギリシアと欧州連合(EU)は、障害者の権利に関するアプローチとして、どのような広がりを持つ展望が最も適切であるのか――非差別・平等に関して、国家は住居や雇用のような分野においてどの程度の責任を負うのか――尋ねた。マックイーンは、その返答の中で、実質的な平等と経済的社会的権利はそれぞれ分離して存在するものではないため、それら(の権利すべて)を含めることによって、障害者の権利を尊重する積極的義務を国家に課すことが必要であると主張した。デスポイは、その返答において、法規範と法原則を現実化させる公的政策を行うことによって法規範を厳格に固守することが重要であると強調した。デスポイは、不平等ではなく、(障害者の人権に関する)理解をめぐる精神的風土を国民一般に広げていく際に、国家と社会(マス・メディア等)の両方の役割と義務とを強調した。デスポイは、宗教や信条を理由とした障害者に対する間接差別について厳格な規範が存在するときに、機会の平等を促進する法令、あるいは、それに親和的な法令は最も良い結果をもたらすと述べた。

デスポイは、国家の留保に関して、緊急事態が障害者に最も否定的な影響を及ぼすときであるため、当該事態をもって条約上の義務を保留する理由たるべきではないと警告する。条約の目的は、障害者がその完全な権利を行使することを可能にする法的規則を確立することであるため、その特性と限界が推奨された。デスポイは、社会権、住居および関連のある公的政策に関して、NGOが果たす役割は非常に重要であるとした。というのは、そのようなイニシアティブが障害者や女性のような特定の住民にまで達するのは困難であるためである。ワデルは、アメリカ障害者法の遵守を監視する聴覚障害を持つ公務員(ADA compliance officer)としての自己の経験に照らして、自分の視点が障害者と法的遵守を監視する公務員の両方を組入れている、と述べた。ワデルは、いくつかの実際的な道筋を提案したが、その一つとして、利用可能な資源の活用とそれをめぐる最良の実行とに関して、あらゆる障害者のグループが連携しネットワークを構築することが必要であると述べた。ワデルの勧告は、並々ならぬ支出を要求するものではなく、効果的な実施に対して向けられたものである。ワデルは次のように述べている。

国連加盟国の能力構築のための利用可能な資源に関する研究を要請するマニラ宣言のような規定が持つ影響は、さまざまな国において異なるであろう。それゆえ、国家は、障害者の人権に関する普遍的な定義を用いて資源を識別し、その次に、その権利を所与の資源の下で実施する際に国家を支援する最良の方法を研究する段階に移るべきである。国連加盟国の特別のニーズに関する情報を広め、そのような意識を促進する際に、障害者が果たす役割は必須のものである。デ・オーウィスは、求められた(条約の)目的と密接な関係にある法的類型に関して、恣意的ではない手法を用いることの有効性を支持した。デ・オーウィスによれば、ハーバードの割当て制度(クォータ)という類型に基づく柔軟性は、NGOセクターによる監視に沿うものであり、障害者の権利を実現するための一つの方法である。

 中国は、条約の形成がさまざまな歴史的背景を盛り込んだ、意味のあるグローバルな道標を含むものであることを提案し、市民的政治的権利と経済的社会的文化的権利との相関性をめぐる取り組みについて尋ねた。マックイーンは、これらの権利はすべて相互に関連し、依存しかつ連関しており、これらの権利の間に共通している一本の筋とは差別の禁止である、と返答した。最後に、ワデルは次のように述べた。これらの権利を実現する義務は国家にある。したがって、国家は、NGOその他の主体がこれらの権利を実現する際に、国家の作業を向上し、国家と連携することを可能ならしめる環境を創出する義務がある。ワデルは、漸進的な権利とは、一夜にして実現するのではなく、合理的な期間内でそれを実現する計画を策定することにより漸進的に実現することを要求するものである、と述べた。デスポイは、障害者が権利を行使することを妨げる障壁を除去する理念型に基づいて、平等の条件の下であらゆる権利を等しく含めることが一つの答えとしてあり得ることを示唆した。コロンビアは、十分なフォローアップとモニタリング・メカニズムを提供するものとして、どのモデルがグローバルであり包括的なものであるか尋ねた。デスポイは、紛争が多くの障害者を生み出しているとして、障害者のためにコロンビアが行った特別の努力を支持した。また、デスポイは、国内で適用される規範の遵守を促すメカニズム、つまり監視委員会の設置とともにホリスティック・アプローチを支持した。

ベネズエラは、障害者の非差別、非隔離および非周辺化についてのパネル・ディスカッションにおいて、「異なる範疇に入る人々」という用語を明確にすることを要求した。デスポイは、これを、用語の解釈を継続して明らかにすることの必要性を強調する適時の質問とした上で、彼独自の考察が平等権と尊厳という観点から組み立てられていることを述べた。デスポイは、平等権という用語が言外の意味を持つゆえに、それを使用する際の注意を促した。メキシコは、さまざまな国における監視を通して共通の経験を見出すための指標を開発する可能性を調査しているとした。デスポイは、アメリカの障害者法がとりわけ重要であること、障害者に関する国内計画を開発することが特に重要であることに同意した。タイは、この条約が平等の機会はもとより、平等の結果にも焦点をあてることを要求した。デ・オーウィスは、このことが重要であることを女性差別撤廃条約のモデルは示しているとして、この条約の下で直接差別と間接差別が禁止されることを勧奨した。

NGOからの質問は、この条約においてアファーマティブ・アクションの規定を設ける必要性に関する、パネリストの選択肢についてのものであった。このような質問は、国際労働機関(ILO)からもなされた。マックイーンは、南アフリカ憲法のモデルの下では、国家がその憲法上の概念を尊重し、促進しかつ充足する義務を負うものであることを念頭に置いて、積極的義務をめぐる問題を、機会の平等化を超えて積極的な結果を目指しているようなものとして捉えた。汎米保健機関は、障害者の権利の享有とその権利を保護するために、アメリカと欧州のモデルに類似した人権条約システム(すなわち、国際的および国内的な監視)を採用するとの考えについて、デスポイに尋ねた。デスポイは、米州システムもまた実際的な参照事項となり得るだろう、と述べた。というのも、米州システムは、そこで設けられた仕組みにとって役に立つ障害および差別の定義と、米州の諸国家とを結びつけながら、すでに活動してからであり、また、国家に大きな問題を課すことなく実施の可能性を実証しているからである。デスポイは、劣悪な人権侵害を監視する際に果たすNGOの貢献が正当性を持つことを認めて、理想的なシステムとはNGO報告と国家報告とを要請するものであることを示唆した。

世界心理社会リハビリテーション協会は、この条約が、ジェンダー、人種、障害、カースト、低い社会経済的地位および精神病に関する問題に焦点を当てているか疑問視した。デ・オーウィスは、この条約が、とりわけ途上国において女性障害者の種々の負担を考慮して、また、女性に影響を及ぼす他の法令におけるバイアスに着目して、エスニシティやカースト、階級といった複合的要素に焦点をあてることが重要である、と主張した。ヨーロッパ・ディスアビリティ・フォーラムは、あらゆる国が広範な差別禁止法を策定し、一般的な説明責任(アカウンタビリティ)を促進し、かつ、必要な場合には個々に合理的配慮を定めることが必要であることを示唆した。ヒューマニタリアン・オーガナイゼーションは、この条約が地方自治体レベルにおける計画の実施を要請することにより、このレベルの特性を組み込むことの可能性について述べて、国内計画が各地方に分散して障害者の真のニーズが考慮され得るようなローカル・レベルの活動を可能にさせることが必要である、と強く主張した。

特別委員会議長は、障害者により表明された見解に着意して、我々がたんに障害者のためにするべきことを求めるのではなく、我々が障害者と協力してすることができることを求めた専門家パネルの貢献を要約した。

午後のセッション

開始時刻:午後 3:19

終了時刻:午後 5:07

午前(ママ)のセッションの議事は、技術的問題により、予定より若干遅れて開始された。

特別委員会議長は、一般的討議の開始を告げた。それから、国連経済社会局のジョアン・チョルビン氏は、議題5について述べた。チョルビンは、第58回国連総会に提出される予定の5つの文書(A/AC/265/2003/1, A/AC/265/2003/2, A/AC/265/2003/3, A/AC/265/2003/4, A/AC/265/2003/4/add. 2003年6月16日版のディスアビリティ・ネゴシエーションズ・サマリーを参照)について強調して述べた。これらの文書は、障害者に関する世界行動計画の進捗状況、アクセス可能なICT(情報コミュニケーション・テクノロジー)、この条約論議の発展に関する地域会合(キト、ヨハネスブルグ、マドリッド、バンコクおよびベイルートで4月と5月に開催)について評価・検討するものである。これらの各会合の成果文書は、国連の障害者関連のホームページ(www.un.org/esa/)において入手可能である。

一般的討議

ニュージーランド代表は、主要人権条約が、あらゆる人々をその対象としているにも拘わらず、障害者の権利に対する侵害を未だに保障していないとして、この条約に対する全面的な支持を表明した。ニュージーランドで共通して見られる人権侵害の一つは雇用問題に関係するという。同代表は、ニュージーランドが権利に基づく国家戦略を推進していることを指摘し、そのような仕方で、いかなる形態の条約も作成される必要がある、と強く主張した。同代表は、この条約が、その中核にインクルージョン、参加、平等、パートナーシップを据えることを要請した。同代表は、この条約が、二重の差別に直面している障害者(たとえば、マイノリティ、先住民、女性、子ども、重度障害者)の権利をも強調したものとすべきであると述べた。同代表は、この条約論議を進展させる際に、バンコク会議で打ち出された勧告を検討するよう要請した。また、同代表は、この条約論議を進展させるあらゆる過程は「ダイナミックかつインクルーシヴ」なものとすべきであり、障害者が完全かつ積極的に参加して、「あらゆる見解」が考慮されるべきである、と述べた。

メキシコ代表は、多くの代表の中で初めて、社会開発委員会の障害に関する新特別報告者ヘサ・アル・ターニを歓迎した。同代表は、第58回国連総会の会期中に国際条約の作成を目的とする特別委員会を開催して、障害者の権利の保護と促進に向けてメキシコ政府が一層努力する旨を表明した、ヴィンセント・フォックス大統領のメッセージに言及した。また、条約の範囲についての議論を進める際に、政府、専門家たるNGOおよび障害者と協働することを要請した。同代表は

 セネガルは、特別委員会議長および事務局に必要なあらゆる支援を提供することを誓約した。セネガル代表は、国際条約の起草が国連のアジェンダにしばらくの間置かれていることに言及して、それが社会開発委員会の下で準備される「前途有望な案件」であるにもかかわらず、その勢いが消散しているように見えることに失意を表明した。そして、「今や、行動に移すべき時ではないのか」と特別委員会に向けて述べた。同代表は、障害者の平等に貢献するものとして、アフリカ障害者の十年と米州機構について指摘した。また、セネガルが関心を持っていることを示す証拠として、国内のイニシアティブの存在と、アフリカ・リハビリテーション協会のダカール小地域本部とについて強調した。セネガルのプログラムは、能力構築イニシアティブをとることにより、障害者の参加を優先している。同代表は、このプログラムが、セネガルの貧困との闘いの一つの様相(例えば、医療、保健および社会サービスへのアクセスを改善すること)であると述べた。同代表は、この条約の起草を託された、特別委員会の議長と作業部会に賛辞を述べて、その発言を終えた。

カナダ大使は、この討議により、条約論議の過程を前進させる最も有効な手段についてのコンセンサスが得られてほしいとの希望を宣明した。カナダの法令において最近になって効果的な進展が見られた際に、障害者が重要な役割を果たしたことを強く主張した。カナダ大使は、条約論議の過程に障害者を含めるために「必要なあらゆる用意をすること」が「最も重要」であると述べた。カナダ大使は、障害者に関するイニシアティブ(たとえば、研究、教育、雇用、税制措置など)を実施する際に、彼の同僚がカナダ国内のさまざまな統治レベルを横断して協力した経験を強調した。4月にキトで開催された地域ワークショップの期間中とその後になされた意見交換に謝意を表した。カナダ大使は、この条約が、広範な支持を得て、既存文書との一貫性を確保するものとして起草されなければならないと述べて、「実際上の違い」が生じ得る場面において調整がなされることを望んだ。同大使は、カナダが「これらの討議においてきわめて積極的な姿勢をとっている」ことを特別委員会に向けて明言して発言を終えた。

オーストラリア代表は、その「長期にわたるコミットメント」と、障害者の参加を最大化するために企画された「世界に誇る」法令、政策およびサービスとに言及した。オーストラリア代表は、その代表団の中に障害者を含めることを光栄に思うと述べた。「なされるべきことは未だに多い」としながらも、「著しい進歩」が見られたと述べた。同代表は、新しい文書に関する論議を進めるための諸提案を検討する際に、諸代表と特別委員会が想起すべき「基本的」原則として次のものを挙げた。

  1. これまでになされた努力を十分意識して、それを明確化するための努力をすること。
  2. 他の条約により現在保護されている事柄と重複されるべきでないこと。
  3. 認識上のギャップが縮められるべきであること。
  4. 上記の原則に照らして既存の人権文書を評価すること。
  5. いかなる新文書も「実効的」かつ「効率的」であるべきこと(彼は、「最も実効的」であり得るかたちとして、現行人権条約の議定書ないし付属文書を挙げた)。
  6. どのような形態であっても、報告要件の合理化/簡素化と、手続規則を改善することを組み込むべきであること。

ギリシア大使は、EUの議長国を代表する立場として、障害者の権利を保護し促進する仕組みに向けた大きな前進が見られているが、なすべき作業は未だに残されている、と述べた。そのような作業には、完全参加と平等という目標、障害への発展的アプローチの必要性、政府と社会レベルにおける姿勢の変革について、十分に認識することが含まれる。同代表は、この条約において、高齢者問題、精神保健問題、女性や少女の特別の権利、アクセシビリティと機会の平等に取り組むことの重要性を強調した。同代表は、この条約論議を進める上で、国家とNGOとの「直接的な」対話がもたれる必要があると強く主張した。また、いかなる条約であるにせよ、権利に基づくアプローチを含めることが必要であると強く主張した。同代表は、EUレベルで見られた権利に基づくアプローチとして、とくに1996年の決議と2002年の指令に言及した。また、同代表は、そのようなEUの経験を考慮に入れるとともに、EUの人権保障の経験をも活用するよう、特別委員会に向けて勧奨した。

 7番目に発言したのはタイであった。タイ代表は、自国が障害者の権利を促進し保護するために取り組んでいると述べた。同代表は、障害者の権利の保護および促進に関する国際条約を作成する考えに賛成した。同代表は、決議58/4(2002年5月22日)がアジア太平洋障害者の十年(1993年-2002年)を延長して、第2次アジア太平洋障害者の十年(2003年-2012年)を設けたことを引用し、包括的な国際条約を採択するよう各国政府に勧奨した。アジア太平洋障害者の十年の最終年に日本で行われた記念フォーラムで、「慈善」アプローチから「権利に基づく」アプローチに転換させる必要があるとの認識が見られたことに留意した。次に、2002年12月3日(国際障害者デー)に社会開発・人間の安全保障に関するタイの省庁により行われた国内セミナーと、今年1月にタイ首相・障害諮問委員会が国際条約の起草に関する「あらゆる活動」を促進したことを強調した。今年の5月26日の会合の成果がタイ政府に提示された事実も言及された。タイ代表は、「情報を普及し入手できることが決定的に重要である」と述べた。また、次のことに特別の関心が払われなければならないと述べた。それは(例えば、)女性、先住民、エスニック・グループ、精神医療サバイバー、知的障害者/認識障害者、重複障害者である。同代表は、条約論議の過程を「全面的に支援する」ことを繰り返し述べて、発言を終えた。

ウガンダ代表は、障害者の権利が「危うい状態に」置かれたままなので、この条約が「[障害者]の権利に関する既存の保護と促進を危険にさらすことなく・・・その適切な条件を確実なものにするために大いに役立つべきである」と述べた。 この条約は市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利を認めるべきであり、障害者の地位向上を阻害する環境にあるすべての障壁を除去することを支援するべきであると語った。 子どもの権利条約と女性差別撤廃条約を法的に有効なものとして認めて、新たな条約の規定が後戻りするものであってはならないとし、権利は人種、国籍、民族性、皮膚の色、性別、年齢、言語、宗教、社会的身分に関係なく、万人のためのものであると強く述べ、社会的差別が今日の世界における人権侵害の大多数を構成すると述べた。インクルーシブネス、平等、非差別、機会均等、エンパワーメントおよび参加は、この条約に「盛り込まれる」べき原則として数えあげられた。 権利に基づくアプローチは、「問題をかかえた者」として長い間、障害者を見なしてきた障害に関する言説と対立することを認めた。権利を列挙する場合には、各種のハンディキャップについて明確に言及するとともに、さまざまなタイプの「インペアメント」「ハンディキャップ[ス]」を識別する必要があるとも述べた。障害者の経済手段と能力を増加させるために、その過程における公平な配分の重要性が強調された。この条約は(障害者を)エンパワーメントするべきである。完全雇用のための平等な機会、アクセス、および「不平等に関する構造的基礎」の改善に着手する必要性が、重要なものとして強調された。ある種の障害は保健や薬物を常に必要とする、というジレンマがあると述べられた。

また、ウガンダ代表は次のようにも述べた。「信頼できる」計画を実施するために、障害に関する包括的なデータを保有することを条約が政府に義務づけることは望ましい。 国際的な援助と協力が果たす役割は「非常に重要である」。 国内的レベルにおいて、国家が新たな国際文書の規範を遵守することを確保するために、この条約が国際的な仕組みと構造を設けることが「決定的に重要」である。 ウガンダ代表はさらに、専門家委員会が伝統的なモニタリングの報告要件の一部を「省く」ことが可能であるだろうと指摘した。

次に発言したのはベネズエラ代表であった。 排除や差別なしに、あらゆる人の権利を保障するために、1999年の憲法に関してベネズエラが取った措置を強調した。障害者の権利の完全な保護と促進を実現するために、ラテンアメリカ諸国間の協力を強化することを求めた。また、法的保護、地域生活への完全参加、十分な労働条件、および手話を含むすべての面での言論の自由をすべての障害者が享有するための普遍的権利を確立することを求めた。 次に、これらの権利が条約を通じて国内レベルにおいて実現し保障されることができるような方法をいくつか示した。その方法には、学校教育のプログラムや障害者の職業訓練が含まれていた。以上のように、ベネズエラ代表は、広範で包括的な条約と、あらゆる不可欠な問題に取り組むための前進とに対して全面的な支持を表明した。

ILOのステートメント

特別委員会議長は、ILO代表に発言するよう求めた。バーバラ・マレーは、あらゆる国家が、すべての障害者の社会へのインクルージョンを促進するための手段としてのこの条約に対する自身のコミットメントを表明した。 ILOのあらゆる条約で反映されている雇用機会均等、社会的対話の重要性を強調した。 ILO代表は、すべての会合、専門家グループにおいて、関係者一同、先進国、開発途上国、移行期にある国家、NGO、公的セクターによる意味のある参加を求めた。 そのような共同作業が政府の最高レベルで調整されるべきであると付け加えた。この条約は、既存の(人権条約)体に基礎を置くべきであり、重複障害、HIV/AIDSの人をはじめ、ジェンダー、年齢にかかわらず、あらゆる障害者のニーズに取り組まなければならないと述べた。 最後に、ワーキングペーパー(現在入手可能であるのは英語版とスペイン語版)や地域会合など障害者の働く権利を保護するためにILOが行ってきた作業を概説し、職業リハビリテーションと職業訓練に関する諸会合を必要に応じて調整するとの希望を述べた。

NGOおよび事務局のステートメント

特別委員会議長は、NGOに発言を許可した。発言したNGO代表はいなかった。 事務局は、2003年6月18日に開催されるILOおよびEU代表の公開ブリーフィングについて発表した。

* 第2巻第1号(2003年6月16日)についての訂正

ディーピカ・ウダガマは、専門家パネルでの自らの発言について、次のような説明を行った。 自分が提案したハイブリッド・モデル(混成モデル)の条約とは、子どもの権利条約に盛り込まれているような生存権、保護権、発達権、参加権などの実体的権利と、強力な非差別条項とを結合したものである。

  国連経済社会局(DESA)のディレクターの正しい名前は、ジョアン・シュルビングではなく、ショルデンである。