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第2回国連障害者の権利条約特別委員会

仮訳 デイリー・サマリー第2巻第3号 2003年6月18日(水)

NGO 地雷生存者ネットワーク
翻訳:長瀬修・川島聡

午前のセッション

開始時刻:午前10:03

終了時刻:午後12:19

特別委員会議長は、条約検討過程に参加することを求める15の組織のリストが、国家代表に配布されたと述べた。国家代表からの反対がなかったので、公式の討議への上記組織の参加が確認された。

議題5についての国家代表ステートメント

日本は、社会開発委員会第41会期における条約に関する決議と、国連人権委員会第59会期における障害者の人権に関する決議の共同提案国となることを通じて、障害者の権利に関する議論において同国が果たしている活発な役割について述べた。日本代表はさらに、アジア太平洋障害者の十年(1993-2002)の終了を記念する同国の最近の地域での努力を強調した。これには、10月の大津でのアジア太平洋経済社会委員会の政府間会合、札幌の第6回DPI世界会議、大阪の第12回RI地域会議、また大阪のアジア太平洋障害者の十年を促進するキャンペーンが含まれる。12月の新「障害者基本計画」の策定、障害者雇用対策基本方針についても述べた。フィリピン代表は、アクセス可能なICT(情報コミュニケーション・テクノロジー)に関する地域間のセミナー・ワークショップへの自国の関与について述べた。また、障害者の機会の平等化を達成し、障害者が効果的な方法で自らの市民的、政治的な権利を行使するのを可能にする上でアクセシビリティが優先事項とされるので、アクセス可能な情報・技術に関連する問題に焦点を当てるよう求めた。同代表は、資源の問題、異なる発展段階、政策文書の策定における国家の責務を考慮するよう求めた。また、発展途上国が条約の目標を達成するのを支援する際には、国家としての能力構築と協力に注意を払うよう求めた。コスタリカ代表は、障害者の権利の平等に関する国内法が7年前に政府によって承認されたこと、障害者差別撤廃に関する米州条約の最初の批准国であることを述べた。さらに、今回の条約においてはアクセス、インクルージョン、資金調達を基本原則とする社会開発アプローチが取られるべきだと述べた。「障害の発生率増加の原因となる社会状況として、極貧と資源不足とを明確に関連づける取り組みを支援することが必要である」。エクアドルのキトで4月9-11日に開かれた、米州の各国政府から任命された代表による会議における勧告を引用し、同国代表は「障害者が広く直面している課題は、障害者の排除を防止し、機会の平等の下で政治、経済、社会、文化のすべての生活分野に障害者が参加することを促進するための政府の行動を必要とする構造的特性を持つ」と強調した。この目的達成のために直接的投資が必要である。特に、条約策定過程における障害者の完全な参加を保障するために、国連施設のアクセスを一層改善しなければならないことが述べられた。アメリカ代表は、1970年代以降の「アメリカ障害者法」その他の法律の成功を強調し、特別委員会の活動に建設的に加わり、技術的援助を行なうとともに、この問題に関する重要な知識と経験を共有する意思を示した。アメリカ障害者法は条約の「有用な」モデルともなり得ることが述べられた。さらに、法執行の仕組みとプログラムに関して、参加各国が「それぞれの国内での行動を継続する」必要性に触れながら、特にすでに国内法規を高度に発達させた国の中には、国際的な法的文書には加わらない国があるかもしれないと述べた。ヨルダン代表は、アラブ諸国を代表して、議題となっている問題は人道的問題であり、障害者の80%が住む途上国にとって重要な問題であると述べた。条約では、周辺化、虐待、環境上の障壁、失業、社会の態度、外国による占領などが取上げられなければならない、と述べられた。2002年と2003年のアラブ世界での会議、特に2002年10月と2003年5月のベイルートでの会議と、その過程でのNGOの「際立った」役割も強調された。モロッコ代表は、アフリカグループを代表し、国連、NGO、障害者、政府が参加したヨハネスブルグでの会議における進展と、人権の促進と保護において、開発と障害に対する認識の向上が大きな役割を果たすような方法で行なわれた、アフリカ障害者の10年の一部を構成する取り組みを中心に発言した。同代表は、条約は開発に基づくものでなければならないとし、貧困などの問題、女性・子ども、高齢者、重複障害者の特別の関心事を考慮しなければならないとした。特にアフリカの関心事である、闘争、エイズ、良い統治(グッドガバナンス)などの最近の関心事についても触れられた。

カタール代表は、障害者のための保健サービス、無料の教育、支援施設(文化施設、リハビリセンター)などの施策を中心に発言した。施策には、特別なニーズを持つ子どものためのセンター、1998年1月に首長が始めた障害に関する意識向上キャンペーンが含まれている。条約は特に、失業、職業訓練、リハビリテーションなどの問題を取上げることが必要であると述べられた。南アフリカ代表は2003年5月のヨハネスブルグでの南アフリカ政府障害コンサルタント会議と、アフリカの開発のための新たなパートナーシップについて述べた。このパートナーシップは国内的レベル、地域的レベルでの障害の視点を含んだものである。国際的レベルの条約では、エイズ、エスニシティ、難民、少数民族、重度障害者、重複障害者の問題が特に取上げられなければならない。権利に基づくアプローチ、肯定的な用語の使用、社会構築に基づく障害の定義の拡大、権利が不可分で独立したものであるという認識もまた必要である。障害の経験に基づいた専門家による実効的なモニタリング・メカニズムを設けることや、政府に対して義務的な措置を課すことが必要であると述べられた。特に、条約成立の過程を遅らせることにつながる複数の草案を作成するのではなく、単一の草案を作成することが必要であると強調した。レバノン代表は、ほとんどの障害が直接的または間接的に社会それ自体から生じたものであり、そのために、無視の政策、慈善ベースの政策から、より統合されたアプローチへと転換されなければならないと述べた。こうした問題に取り組むため、レバノンは障害者問題に関して決定権を持つ国内組織を設立した。また、レバノンは、包括的かつ長期的な統合のための計画を作成し、2000年には、健康管理から移動、雇用にまでわたる障害者の権利を規定した法律を制定した。二重の差別を受ける人々(女性、子ども、高齢者、精神障害者)が孤立せず、平等な権利を持てるよう、この人たちの特別なニーズに焦点を当てた、より総合的なアプローチが求められた。ノルウエー代表は、この問題に関する欧州連合(EU)の立場を支持して、平等、参加、自由、尊厳を中心的な価値とし、社会的態度、差別、意図的または非意図的な排除に関心を向けた条約の必要性を明らかにした。いかなる条約においても、学校と職場における合理的配慮への権利と、ユニバーサルデザインに従う義務とが明示されなければならないことが述べられた。強制的な遵守規定の必要性が強調された。

キューバ代表は、この条約に関して、普遍的な発展の権利の重要性を強調し、貧困の増大と自由放任政策が目標達成のために乗り越えるべき障壁となっていると述べた。このような条約ではまた、障害の社会的定義が、アクセシビリティ、配慮、統合、インクルージョンの定義と共に含まれ、条約は既存の人権体系の上に作り上げられる必要があると述べた。さらに、態度の問題、社会保障、性的な虐待と暴力、障害者への法的支援の問題への取り組みも必要である。そのような条約の草案は、特別委員会の責任においてのみ作成されるべきであり、直ちに取り掛かる必要がある。シリア代表は、教育、保健、雇用における障害者の平等の機会へのシリアのコミットメントを示し、NGOや公的組織が関わる定期的なセミナーへのシリアの参加について述べた。また、条約においては途上国をはじめとする、すべての国のニーズに対する取り組みが必要だとも述べた。外国による占領のために障害者が増加していることが強調された。最近では5千人のシリア人が外国の占領者の行為によって障害者になったと述べた。

中国代表は、この条約に対する継続的な支持を改めて表明した。中国は4度の5カ年計画において障害者のための特別な事業を行なってきた。また、障害者の権利の促進と保護のために、教育と貧困の軽減のための特別な規定を含む、総合的な立法措置を行なった。昨年はさまざまなNGOと政府機関が、この条約に向けた準備のために協力した。これと関連して、中国は今年、国連のアジア太平洋経済社会委員会の会議を主催することになっている。条約には障害者の権利についてのビジョンだけでなく、それを実現する手段も盛り込まれなければならない。

チリ代表は、差別の原因を中心に述べ、特に障害者の失業は健常者の3倍にのぼり、雇用されている場合でも、障害者の賃金が最低賃金を下回っていることを強調した。社会経済的な要因に基づくこうした障害のために、障害者はますます排除され周辺に追いやられることになる。障害の問題は、政治的活動と実践の分野において、多様なアプローチやさまざまな視点を持った価値を結合するという課題を我々に突きつけている。これに応えることが、可視的でない側面に注意を集中し、すべての人間、特に最も弱く影響を受けやすい人たちの権利保護を強化するための手段を補完する助けとなる。

パレスチナの代表は、パレスチナにおける障害の発生原因が主にイスラエル軍の無差別発砲にあると述べた。2000年9月以降だけでも、4万に近いパレスチナの人々が負傷し、その多くが永続的な障害を持った。新たに障害者となったパレスチナ人の大部分は若者である。25%が学齢期の子どもで、60%が18歳から34歳である。「すでに障害に苦しむ人々も占領軍の攻撃にさらされ、多くの障害者が重複した障害を持つようになっている・・・予防接種、出生前の看護、栄養指導など適切な医療を必要な時に受けることが非常に難しくなっているために、パレスチナの女性や子どもは大きな影響を受け、先天性欠陥児の発生率が増加している」ことが指摘された。そして同代表は、次のように述べた。「障害者の権利と尊厳を保護、促進しようとする条約を真剣に策定しようとするならば、あらゆる障害者の保護支援のための規定と、サービスへのアクセスへの規定が含まれなければならない。さらに、条約は、武力紛争、外国による占領という共に障害の主要な原因である非常に困難な状況下に暮らす人々の苦しみに取り組むものでなければならない」。

国連アジア太平洋経済社会委員会の代表は、バンコクで開かれた障害者の権利および尊厳の保護および促進に関する国際条約に関する専門家会合(6月2-4日)における勧告を要約した。この会合は総会決議57/229に直接応えるもので、インクルーシブでバリアフリーな権利に基づく社会を目指した、第2回アジア太平洋障害者の10年に関連して開かれた。バンコクの勧告は、この特別委員会の活動に関する各国政府の支援が強く求められた。この勧告は総合的で、人権に関する条約となるべき、今回提案されている条約の性質、構造、要素を広くカバーしている。バンコク会議での勧告には、提案されている条約の主要な構成要素として次のものが挙げられている。前文、目的、原則、範囲と定義、国家の一般的義務、平等・非差別の保障、特別な権利、モニタリング・メカニズム(監視の仕組み)である。この勧告では、各国政府が非国家主体と協力しながら、条約の規定を実施するために、立法的・実際的・政策的な行動をとる義務を負うことが強調されている。障害者の権利は「特別なニーズ」としてではなく、「人権」として理解されるべきである。

世界銀行の代表は、世界銀行障害アドバイザーであるジュディ・ヒューマンに代わって声明を読み上げた。世界銀行の取り組みを助けたノルウエー政府による支援に伴って、2002年の障害分野における世界銀行の活動は大幅に増加し、それが、障害アドバイザーの設置をもたらした。世界銀行が開催した障害と開発に関する国際セミナーからさまざまな勧告とアイディアが生まれた。障害と開発に関するアドバイザーのオフィスの行なう活動は三つの柱からなっている。(1) 障害を世界銀行の中心業務に繰り入れる。(2) 知識を共有するためのパートナーシップを作り上げ、国際、国内、地域レベルでの活動主体との調整を実施し、高め、地域の持続可能性のための長期的な能力を養成する。(3) 財源と人的資源を協働させる。最後に世界銀行のジェームズ・ウォルフェンソン総裁の声明が引用された。「インクルージョン、つまり、それまで社会の一部になっていなかった人々を社会に参加させる、それが開発のすべてである」

午前のセッションの最後の発言者は、インドの国内人権機関・アジア太平洋人権機関フォーラムの代表であった。インドの国内人権機関は昨年、アヌラダ・モヒトを障害に関する特別報告者に任命し、それ以来、障害者、特に精神障害者の人権に関する侵害について多くの調査を行ってきた。昨年11月にデリーで開催されたアジア太平洋国内人権機関フォーラムの会議では、「障害の問題をきちんと位置付け、権威を与え、可視化するためには包括的な条約が必要であり、これは既存文書のモニタリング・メカニズムの改革によって達成することはできない・・・締約国に自らの義務を明確に理解させるには、単一の包括的な条約が望ましい」という勧告がなされた。

午後のセッション

開始時刻:午後 3:09 

休会時刻:午後 5:10

特別委員会の午後のセッションは、議題7(条約に関する提案への貢献についての討議:一般的討議)にあてられた。

EUを代表して、ギリシアのアダマンティオス・Th・ヴァシラキス大使は、人権と基本的自由は世界人権宣言に列挙されており、核となる人権は「普遍的であり、あらゆる人に差別なしに適用される」ものだと指摘した。しかし、障害者による人権の「完全な享受」には「多くの障壁」が存在し、そのために行動が必要なことも指摘された。条約の作成は障害者による人権と基本的自由の平等かつ効果的な享受のために「有用である」というのがEUの考えである。新たな条約の目的は、既存の人権規定を、障害者が「直面する特殊な状況」に適合させることでなければならない。EUは、非差別、機会の平等、自律、参加と統合という基本原則を認めた、条約の要素を記載した書面を提出するつもりであるとした。既存の人権規定との整合性は、既存の規定を弱めたり、これと重複したりすることを防ぐために「非常に重要」である。非差別モデルでは、「普遍性」と「特殊状況」を同時に認識することが可能である。条約は、差別の起こりやすい分野を明らかにすることで、人権の「障害に関する側面」を可視化させ得る。「ダイナミックで柔軟な」モニタリング・メカニズムが「最も効果的だ」というのが、EUの「確固とした考え」である。NGOが「最も重要」であるとの認識も示された。EUは「積極的な役割」を果たすことを決意し、以下の目的を掲げた決議案を配布した。

  1.  国際条約の策定を無条件に決定する。
  2.  条約に関する交渉を第3回特別委員会で開始することを決定する。
  3.  交渉の基礎として第3回特別委員会に条約の第1次案を提示するための専門家グループを設ける。
  4.  政府、国際機関、NGOその他の利害関係主体が、専門家グループに対して意見を提出するよう勧奨する。EUの決議案の採択は「効果的で、インクルーシブで、効率的な起草過程に大いに寄与し、全員の利益になる」と、大使は締めくくった。

ナミビアは、アフリカ諸国を代表してのモロッコの発言に賛同すると述べ、アクセスについての権利は障害者にとって人権問題であり、ナミビア憲法はこの問題に対応していると述べた。世界行動計画と基準規則に則った同一の権利と機会を障害者に保障することで、障害者の生活の質を改善しようとする国家政策(1997年)について、また、貧困と開発の課題に取り組む部局の総理府への設置についても述べられた。障害に関する法の制定と改正に関する取り組みについての諮問機関となる、障害に関する国内協議会が、遠からず設置されるとの発言もあった。既存の人権に関する条約は障害者に関する問題に「十分に応えて」いないとして、条約の起草に対する「全面的な支持」が述べられ、起草、モニタリング、実施過程における障害者団体の「参加に対する」支持の表明とあわせて、ナミビアの「目標達成に向けての全面的な協力」が約束された。

メキシコ代表は、国連総会決議56/168(2001年12月)にあるように、「包括的なアプローチ」が最も適当であると述べた。条約「内容の起草がすぐにも始められる」ことが望ましいとの希望が表明された。条約の規定は、「現在の国内的な基準に応じた各国の現実」を踏まえながら、障害者の生活の質を目に見えて改善するものでなくてはならない。誰もが人権を完全に享受し、差別的な障害を除去することを確認するだけでは「不十分」である。権利を包括的に確認することが、条約の最も基礎的な要素でなくてはならない。政府は「完全に利用可能でインクルーシブな物理的、社会的、文化的環境」を作るために「具体的な行動」を起こさなければならない。条約は物事を優先度に従って並べ、「普遍的な認識」を高めるために重要である。利用可能な住宅、貧困層の障害者、そして農村地域に住む障害者の問題を取上げることは「極めて重要」である。専門機関による事態の進展を含め、情報を収集し、さまざまな定義を「慎重に研究し、議論する」必要がある。メキシコ案には専門家委員会の設置が盛り込まれ、その委員会には障害者が「十分に代表される」べきであるとされている。既存のシステムは「断片的で不十分」であり、そのために「最小限の」インクルージョンという結果となっている。「強制力のある」条約が必要である。「社会の前進は、障害者のインクルージョンの程度によってしか計られない」という発言で締めくくられた。

ニュージーランド代表は、強制力のある条約の策定を「強く支持」した。「多様な見方があることは明らか」であり、各代表は混乱を避けるために具体的に述べるべきだとの発言があった。具体的な文化的文脈の中で政府がどう行動すべきかについて規定しすぎることは「望ましくも生産的でもない」が、アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)は必要である。必要なのは福祉の枠組みよりも権利の枠組みである。しかし、「新しい権利を創造したり、既存の権利を損なったりすることは必要でも望ましくもなく」、権利は「明確にされ」なければならないのである。ニュージーランドは、バンコクで行なわれたアジア太平洋地域の専門家会議(2003年6月)の勧告を支持する。既存の人権に関する条約に述べられた権利について改めて述べながらも、平等と非差別を述べるだけに留まらない条約を支持する。インペアメントは「永続的なことも、一時的なことも、時折起こることも、認識されたものである」こともあり、障害は「社会的、環境的な要素の結果」である。我々は「多数派」インペアメント(高層階のためのエレベーターなど)と「少数派」インペアメントを考えることができる。人口の多数が何らかの点でインペアメントを持っているにもかかわらず、「少数派」障害者は、「社会が適当な対応を取らず、そのためにそうした人々が障害者となる」、「その他の」インペアメントを持った人である。障害者の権利を保障する手段は、一部の集団(人種や性など)の参加機会の均等化とは区別できる。後者の手段はあるところまで来れば「もう不要」と考えられるのに対し、障害者に影響を与える手段には「環境の永続的な変化」と「継続的な支援」という要素があるからである。条約の作成にあたっては、既存の人権の枠内に「矛盾なく収まらなくなるほど広範な領域に適合するところまでその範囲を広げることは避けられるべきである」。そんなことをしなくとも、すべての障害者が権利を享受するために必要なものが既存の人権から引き出せるように、「詳細な説明」や「具体的な解釈」が可能なのである。権利に基づくアプローチでは、地域の社会インフラと「密接に関連した」手段を規定することが避けられている。条約の起草過程は「障害者とのパートナーシップ」をもって行なわれなければならない。「重要」なことは、政府とNGOによって特別委員会が検討すべきテキストが作られることである。特別委員会の会期の合間に条約案のテキストを作成する、地域代表からなる加盟国のグループ(NGO、障害者団体が自ら選んだ代表を含む)を設置するのも「検討に値する」一つの選択肢である。特別委員会議長が提案を「前向きに検討」し、「提案について考慮する機会が各国代表に与えられる」ことを求めて、発言が終わった。

ベネズエラ代表は、以下に述べる理由とその他の理由から、特に障害者に関する新たな人権文書が必要だと述べた。(1) 未だに存在する理解不足。(2) 「福祉的評価基準」のもとで社会サービスを考える多くの人の意識。(3) 障害者を「病人」として扱う医学的評価基準。(4) 国家的プログラムの欠如(保健、スポーツ、リクリエーション、教育など)。(5) 障害者に対する法的保護や社会保障が脆弱であること、または欠けていること。(6) 物理面、コミュニケーション面、輸送、労働環境におけるアクセスの欠如。(7) リハビリテーションの資源と良質なケアの欠如。(8) 障害者が経験する日常生活条件と経済的不均衡。条約が「万能薬」になるだろうとの表現はなかったが、国際的、国内的な運動の代表、特に、障害者とその家族による長年の戦いが頂点に達したことを明らかに示すことで「高度に重要な」貢献をすることになると述べられた。障害者とその家族は、国際法に鑑みて自らが享受する権利の認識を獲得してきたのである。障害者は多くの国において市民とは考えられていない。「宣言や声明」は十分ではない。条約の準備に関してこの特別委員会が今後処理しなければならない作業をリストアップすることだけでも、新たな条約の「全体的(ホリスティック)」な性質がすでに明らかにされ、この条約の内容に関する「要素や範囲」がすでに定められた。条約は検討範囲という点で総合的でなければならず、多様な概念に「必要な」つながりに関して「総合的」 でなければならない。このように、条約は「継続的な行動についての継続的な根拠を強制する」ことができ、「福祉」や「障害者擁護」のモデルとは大きく異なっている。モニタリング・メカニズムに関して、主要な活動主体(障害者とその家族)に対する配慮が必要である。この過程は協働的なものである。「メキシコ」案でも「我々の」案でもない。良質の総合的かつ重要なテキストを提示したというだけである。ベネズエラによる条約テキストの提案が、国連の公用語で来週行なわれるとの説明があって、発言が終わった。

6番目に発言したのは日本の代表だった。「どのような条約にしようとするのかについて、徹底的に議論」することが重要である。条約に対して国際社会の中で「できるだけ多くの利害関係者」の支持を得ることが「必須」である。このようにして、条約は「普遍的価値」に基づいた「指導的原理」を獲得することができる。日本は権利に基づくアプローチを「完全に支持」している。このアプローチには「将来の努力に関する重要な意味」があるからである。「独立した条約」ができるのであれば、「すでに条約の対象となっている権利はどれで、まだきちんと対象となっていない権利は何かを明らかにすることが必要になる」。「この段階で、『包括的』なものであれ、『非差別』に重点を置いたものであれ、複数の条約のタイプに対して、可能性を残しておくべきである。定義に関する問題は重要ではあっても、内容に関する議論に用いることのできる時間を割いて行なわれるべきではない。社会開発が組み込まれるべきだというアプローチを日本は受け入れない。条約の検討過程が、「[このアプローチを盛り込むことで]、挫折することになってはならないと考える」からである。どの人権条約にもモニタリング・メカニズムが「不可欠」である。実行されないような条約は「意味が無い」からである。重要なのは条約に参加する国の数だけではない。新たなモニタリング・システムは、基準規則の下でのモニタリングを行わないことの口実となってはならない。政府、国際機関、NGOは、全員でアイディアを議論しなければならず、日本の代表はこの議論に「積極的に参加する」。

ドミニカ共和国は、ホリスティック(全体的)な法的な枠組みの中で提出されたメキシコの提案を支持する。障害者は自分たちに対する感受性を欠いた世界文化の中で生きているからである。ここに集うすべての国家とNGOが、この会期の中で広まっているサンフランシスコ憲章の精神をもって貢献するという逃れられない義務を負っているのはこのためであると考える。特別委員会が全員一致で、障害者の権利と尊厳を促進する広範な条約を起草することが代表の希望である。エルサルバドルの障害者関係の政府組織の中には歴史的な連帯同盟がある。この組織は真の統合、機会の平等化、障壁の除去、すべての社会セクターの自律と指導性と参加の促進を中心に取り組んでいる。その目標は、「病人に対する憐れみ」という福祉のアプローチを越えることであり、障害者が自らの運命の決定に中心的な役割を担うことである。エルサルバドルは、国内的な枠組みはあるが、一般的な国民の認識に取り組むことが必要である。同国は、この国際条約に賛成し、支持し、これを強化する。条約によって組織の国内での活動が大幅に強化されるからである。広報キャンペーンにおける障害者に対するプラスのイメージを広めながら、条約作成の過程において重要なステップになる文書をメキシコが提出したことに敬意を表するとともに、2週間の会議が終わるまでに条約に関して大きな進展が見られるようになってほしいという希望が表明された。カナダは、自国の立場が人権原則に則ったものであること、障害者の人権の核心はインクルージョンと完全参加の権利、すなわち万人に同じ扱いをするというだけではなく、違いを認めながら万人の尊厳と機会の平等を可能にする手段を取る、「実質的平等」の権利であることを説明した。カナダは、この条約が21世紀の重要な遺産になると考えている。「条約の起草に当たっては、ダイナミックで、効果的で、効率的な過程が必要であり、そのことがきちんと行なわれるようにする必要がある」と代表は述べた。

メキシコは、ニュージーランドとベネズエラの立場を支持し、特別委員会議長のリーダーシップによって、これまでに提出されたすべての提案を統合し、包含するドラフト・テキストが国連総会に提出されることになるという確信を述べた。第1次草案が必要だというEUのステートメントに関して、メキシコが配布し、当委員会において専門家とNGOによってなされた様々な提案によって深められた条約案がすでにあることを考えれば、「奇妙」であるというのがメキシコの意見であった。この提案を考慮し、できるだけ早く分析するようにしたいと特別委員会議長は述べた。

国際労働機関(ILO)は、例えば文書A/AC.265/2003/4.に述べられている非差別モデルのように、既存の国際文書を基盤にして、既存の人権条約規定を活用することを提案した。労働権、雇用と職業における機会均等、平等な給与、技術研修、職業リハビリテーション(ILO第159号条約を参照)、社会保障と雇用サービス、さらに、雇用者に対するインセンティブと助言サービスなどの関連要素に関する規定を盛り込むことも強調された。貧困と障害の間の循環的関係、貧困改善戦略、司法・効果的な紛争解決プロセスへの利用可能性などが強調された。ベニンは、国内の障害者の57%は特別なケアを受け、地域ごとに多様な貧困家庭にいると述べた。障害者が無能力者と考えられている地域もあれば、他の地域では幸運をもたらす神と考えられている。障害予防の問題が議論されることについての関心が述べられ、ホリスティック・アプローチ(全体的アプローチ)が放棄されるべきではないとしながらも、社会福祉的アプローチに対する支持が表明された。国連人権高等弁務官事務所は、障害者の人権はずっと無視されてきたが、幸いなことに、現在ではこの状況は逆転し、この問題が確認され、強調されていると述べた。障害者の地位を向上させるために十分に活用されずにきた既存の人権条約には大きな潜在的な可能性があり、同事務所は既存のメカニズムに関する情報面に関して、特別委員会を支援する。15カ国の国内人権機関を代表して、シャーロット・マクレインは、NGOが将来の特別委員会に出席するための資金を要請し、条約作成過程に関する新たな提案を行なった。提案に含まれるのは、基本的な価値、アクセシビリティ、障害、多様性を反映した人権原則に、個別の必要に応じ、詳細に説明され、全体的な焦点を当てること、また、すでに各国代表によって署名されたウイーン宣言の確認である。公的および私的領域における、直接的、間接的、体系的な、隠された、二重の、複合的差別を含む、強力な平等・非差別条項が必要である。

国際障害コーカスは、障害者のニーズを全体として満たしながら、策定過程を速く、効果的に進める将来の方法の決定を支持した。具体的には、どのような起草委員会であれ、国際障害コーカスから指名された委員によって、障害種別が多様であり、地理的にも多様であることが提案された。また、次回の特別委員会前に利害関係者全員がリアクションペーパーを準備できるよう、2004年3月1日までに草案が準備されるために必要な財政的・人的資源が十分に提供されるよう要請された。135カ国の障害者の人権を促進する国内組織から構成されている障害者インターナショナル(DPI)は障害者の視点を盛り込むことは、起草過程の核心部分であるしてこれを支持した。世界ろう連盟(WFD)国際障害同盟(IDA)は、EUの視点とは異なるメキシコのプロセスの詳細な説明を支持したが、メキシコのプロセスは、法的強制力のある文書とするためには不十分であるとの感想を述べた。IDAは、検討されるべき第2次草案を国連加盟国がまだ手にしていないので、その草案を支持することができないと述べた。世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク(WNUSP)は障害者の人権を主張した。精神保健サービスを利用する障害者もいれば、精神医療による拘禁から生還した障害者もいるし、精神障害者もいる。国連経済社会局は、財産、住宅へのアクセス、雇用、家族の扶養、投票、拘留・監禁からの自由に関する問題についてのポジションペーパーが、そのウェブサイトにあることに注意を促した。

メキシコは、その提案を説明し、同国と特別委員会議長団が、NGO や政府から条約に関する諸提案を受け取ったと述べた。このことから、メキシコの提案は、全ての意見をまとめて、第1次草案に盛り込み、国連加盟国による秩序だった議論と交渉を促進するためになされた。その意図は、どのような文書も拒絶しないが、それぞれの見解を明らかにし、討論の機会を持つことにあるとされた。諸提案をまとめた一つの文書がない限り、議論のまとめ役である特別委員会議長の下で、9月の国連総会が開かれる前に意見をまとめ、協議を終えるのは難しいと思われる。ベネズエラは、すでに提出されているワーキングペーパーが用いられるために、各地域会合からの具体的な貢献を明確に求めている第2回特別委員会の議題7への注意を喚起し、メキシコの発言を支持した。ベネズエラは、事務局を通して、口頭で表明された見解と現存する提案とを整理するよう、特別委員会議長団に対して要求し、最後に、あらゆる関係者により再検討され修正され得る文書を、本会期中に提示すると述べて締めくくった。コスタリカは、特別委員会における討議のたたき台としての、従前のドラフト・テキストの提案を支持し、すでに作業を開始する意思があると述べた。エルサルバドルは、メキシコ提案があらゆる国連加盟国のニーズと国連の提案をまとめたものであるため、この提案を是認して支持した。


ディスアビリティ・ネゴシエーションズ・デイリー・サマリーは、ランドマイン・サバイバーズ・ネットワークが発行する。このネットワークは、地雷の被害を受けた6つの途上国において手足を失った者の支援網を持った、米国に拠点を置く国際組織である。このサマリーのスタッフには、ジャグディシュ・チェンダー、マーガレット・ホールト、ジェニファー・ペリー、マーシャル・タラスター、およびキャサリン・ガーンジー(編者)が含まれる。このサマリーは、www.rightsforall.orgwww.worldenable.netのオンラインで入手可能である。スペイン語、フランス語および日本語の翻訳は、障害者インターナショナル、ハンディキャップ・インターナショナルおよび(財)日本障害者リハビリテーション協会の好意により提供する。このサマリーに関連するあらゆる質問または関心事項については、キャサリン・ガーンジー宛て(k_Guernsey@yahoo.com)に直接メールを頂きたい。

第2巻第2号(2003年6月17日)についての訂正

ハンディキャップ・インターナショナルはヒューマニタリアン・オーガニゼーションと間違って記述されている。