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第2回国連障害者の権利条約特別委員会

仮訳 デイリー・サマリー第2巻第5号 2003年6月20日(金)

NGO 地雷生存者ネットワーク
監訳:長瀬修・川島聡

午前のセッション

開始時刻:午前10:16

終了時刻:午前10:57

議題7 (b) 検討すべき要素(続き)

欧州連合(EU)を代表して、ギリシアは、この段階では障害の定義に関する詳細な討議は避けるべきであると主張した。障害の定義は、最終的には、障害が持つ多様で複雑な性質と、誤解を招く恐れのある大まか過ぎる定義を避ける必要性とのバランスをとったものとすべきである。この条約は、非差別、機会均等、自律、参加および統合の原則に基づくべきである。この新文書では、障害者が、性、宗教、国民的出身などの複合差別により、さらなる試練に直面する可能性があることを考慮すべきである。障害者があらゆる人権(市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利)を完全に享受することを実現するには、国家が適当な措置をとることが必要である。アクセシビリティ(利用のしやすさ)とメインストリーミング(主流化)を促進することは、持続可能な方法で排除をなくし機会均等をもたらすために最も重要である。ギリシアは「今後の条約に含めるべき要素という決定的に重要な問題について、他の主体と協力すること」に期待して、その旨の文書を準備しているが、「我々は、バランスのとれた現実的で施行可能な実効性のある文書を起草することを念頭に置いている」と述べた。

オーストラリアは、いかなる文書も広範でテーマに即したものでなければならない、と述べた。特定の分野について指針を与えるが、具体的な目標または達成目標を含めるべきではない。いかなる文書も規範的ではなく、障害者のニーズの今日の達成水準を考慮して、これを満たす最高の方法を決定する柔軟性を締約国に与えるように作成すべきである。焦点は、常に、既存の6大人権条約(このうち、子ども権利条約のみが障害のある子どもを明確に含んでいる)の持続可能な改善を達成することに当てるべきである。障害者の権利に関するいかなる文書であっても、その前文において、あらゆる中核的な人権条約について明確に言及し、これらの権利の強化を確保すべきである。オーストラリアは、いかなる法的文書も以下の問題を含めるようにと提案して締めくくった。すなわち、障害者に対する差別的態度の撤廃、地域生活のあらゆる面への障害者の社会的参加の奨励、障害者の見解を代表する組織の設置の奨励、政策形成と意思決定への障害者の参加の奨励、教育、雇用、物理的環境および情報をはじめとする地域社会へのアクセス。

スイスは、最近採択した障害者の平等に関する法律(2004年1月施行)は、この特別委員会に対して示唆するものがあり得ると述べた。この法律の目的は、障害者が社会に参加する条件を創出して(すなわち、障害者が社会的接触において自律することを助け、訓練を受け、職業的活動に従事すること)、障害者が被る不平等を防止し、削減しまたは撤廃することにある。この法律の下で、障害者は「その身体的、心理的、精神的な条件により、社会的接触を持つこと、移動すること、職業的活動に従事しそこで一層発展するための訓練を受けることができない人」と定義される。この定義によると、スイスの人口の10%が障害者となる。この法律の一つの重要な特徴は、(その第2条で規定されている)障害者が直面する2種類の不平等、すなわち、一般的な不平等と特定の不平等にある。

インドは、障害者が生活する地域社会の既存のプログラム(特に、教育、衛生、雇用、貧困対策に関するプログラム)と、障害者のあらゆる開発面とを組み込んだ多部門モデル(マルチ・セクトラル・モデル)を提案した。「主流のプログラムへのアクセスは障害のない人々が利用できるものに劣るべきではないし、アクセスの平等原則は守られるべきである」。この条約には、自らの権利を主張するつもりもなく、そうすることもできない知的障害者・重度障害者・重複障害者の家族の参加も含めるべきである。とりわけ女性障害者に関して性的搾取からの保護も含めるべきである。最後に、情報への権利については、障害者自身のみならず、障害者の家族も確実に含まれるようにしたいと述べた。

中国は、包括的で総合的な法的拘束力のある条約を求めた。この条約には、障害者の市民的、政治的、文化的、経済的および社会的権利を含めるべきである。国際社会で普遍的に受入れられている人権は、障害者にも適用されるべきである。発展途上国に関して、とりわけ、特に農村で生活している障害者の生活についての権利は、この条約において特別に取り上げるべきである。貧困を根絶し、安定収入のある雇用を確保し、ソーシャル・セーフティー・ネットに貧困層の障害者を含めるためのサービスと支援を受ける権利を、農村の障害者は有するべきである。この方法をもってのみ、「経済的、文化的および社会的な発展の恩恵を分かち合いながら」、障害者の人権は現実に実施され得るのである。

コロンビアは、この条約は4つの部分に分けられるべきであると主張した。 すなわち、(1) 正当な理由を示した前文。(2) 目的と原則に関する一般的部分。(3) 障害者の権利の保護に関する条文。(4) モニタリング(監視)と監督である。加えて、自分自身では参加できない重度障害者(特に重度知的障害者)を代表する家族または組織の参加を認めるべきである。障害者に対する暴力の問題についても特に注意が払われる必要がある。

ニュージーランドは、居住、教育、移動アクセス、政治過程、セクシャリティ、家族・子育て、健康、収入など、障害者のあらゆる生活面を網羅することが重要である、と述べた。女性や先住民の場合には、複合的な形態の差別についても考慮すべきである。この条約の作成過程には障害者を含めなければならない。この条約を支える基本原則として、世界人権宣言第3条の生命、自由および身体の安全についての権利を再確認する。

国際障害コーカスは、国際法の下で保障されている市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利を含む包括的な条約への支持を再確認した。条約の中心的な柱は、「上記の分野すべてに渡る直接的および間接的な差別の分野において無条件で作用する強力な非差別規定」とすべきである。アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)の原則も含めるべきである。これは、障害の文脈では、「実効的な平等を達成するために、障害者の社会的地位を平等にすることを目指した一揃いの措置」を意味する。「・・・国の憲法、法律、規制の体系を見直して、未だに存在する形式的な法的差別の事例を明らかにし是正することも必要である。例えば、選挙権や陪審員になる権利から排除されていることや、パターナリスティックな後見法、病院や施設での拘束について定めた法律などである」。

ヨーロッパ・ディスアビリティ・フォーラムの代表は、政府その他の利害関係主体の緊密な協力の下で2002年3月に採択されたマドリード宣言に言及した。同宣言は「非差別+ポジティブ・アクション=ソーシャル・インクルージョン」と呼ばれ、今年の欧州障害者年の準備のために作成された。条約では、障害者に対するあらゆる形態の差別を非難し、差別を撤廃する措置を確保しなければならない。ポジティブ・アクション(積極的差別是正措置)は、障害者の機会均等化を確保し、その完全参加を増すために必要である。同代表は「私たちのことは、私たち抜きで決めてはならない」と言明して、この条約の規定を実施するための国家の義務と、条約起草過程への障害者の効果的参加を強調した。

ベニンの代表は、利用可能な交通機関の重要性を強調した。

午後のセッション

開始時刻:午後 3:15

終了時刻:午後 4:04

アメリカは、この条約の一般原則と要素を提供するという観点から、アメリカ障害者法(ADA)その他のアメリカの障害者権利諸法の経験を利用するよう、特別委員会に勧めた。そして、次のように述べた。障害者を主流に統合すること、障壁と不公正な固定観念を打破すること、自立を可能にすること、尊厳を高めること、基本的概念として障害者権利法の意思決定過程に障害者が参加することを、この条約には含めるべきである。また、この条約は以下の要素にも取り組むべきである。(1) 利用可能な空と陸の交通機関。(2) 雇用における機会均等と合理的配慮。(3) 障害者のニーズと個別的配慮の両方に適した教育。(4) スロープ、手話通訳、利用可能な公文書などの利用可能な政府サービス。(5) 障害者にとって利用可能な独立した秘密の守られる投票。(6) 建物の物理的な利用可能性。(7) 言語障害者や聴覚障害者が利用可能な電気通信システム。(8) 利用可能なウェブサイト。(9) 利用可能な住居。(10) 精神障害を含むあらゆる障害者による保健制度の平等な利用。同代表はまた、アメリカが各国政府代表団の利用に供するように、アメリカの障害者諸法の要約を喜んで準備すると述べた。

ギリシアは、EUを代表して、議題7c(フォローアップとモニタリング)について意見を述べた。同代表は、締約国が条約実施の責任を負うことから、モニタリング・メカニズム(監視の仕組み)は、締約国の責任の充足と義務の理解を助ける上で「有意義な役割」を果たすと強調した。同代表は、そのような監視機関について具体的に細目まで討議するのは「時期尚早」であるものの、当該機関が、「実効的な監視をもたらし」、障害者からの関与を含み、そして、効率を高めかつ重複を避けるための合理化策を考慮することは必須であると語った。

コロンビアも議題7bについて意見を述べ、モニタリング・メカニズムの中核には、参加と共同責任を据えるべきであると語った。また、そのメカニズムは、「連帯を生むことができる社会的責任の文化」を生み出すべきである。モニタリング・メカニズムには、世界保健機関(WHO)の国際生活機能分類(国際障害分類改定版:ICF)も含めるべきである。

特別委員会議長は、議題7bについて討議したい代表は他にないことを指摘した。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の代表は、議題7cについて発言した。同代表は、OHCHRの経験に基づき、一般的意見および勧告について述べた。社会権規約委員会・一般的意見5(E/1995/22(1994))が、例えば以下についての「貴重な指針」を与えるものとして言及された。1)障害の包括的な定義。2)構造的不利に取り組む必要性。3)暫定的/特別措置を含む措置をとる必要性。4)他の文書(自由権規約、拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約)による適用除外。「積極的義務」の重要性が指摘された。また、2000年に「障害児の権利(Rights of Disabled Children)」というNGOが設置されたことも強調された。

日本は、障害者の権利の促進と保護に関する自国のコミットメントを繰り返し語り、条約を作成する必要性について一般的な合意があることを「喜ばしいこととして指摘」した。あらゆる人権文書はモニタリング・メカニズムを具えており、それは「欠くことができない」と考えているとした。報告の要求は「押し付け」としてではなく、条約の実施を確保するための国家の義務の一部であると解釈するべきである。しかしながら、モニタリング・メカニズムにより「課せられる追加的な負担については注意深く吟味する必要」があることを認めた。条約を「真に実効的に監視する」ことを確保するために「徹底的な討議」が必要であると述べた。

オーストラリアは、いかなるメカニズムであっても、制度をより実効的にするためには、報告の合理化と、NGOの役割の明確化を考慮すべきと述べた。また、オーストラリアは、モニタリング・メカニズムに関してどのような決定を下すにしても、その場合には、今年後半に公表される国連人権高等弁務官の勧告を検討することを求めた。

特別委員会議長は、障害種別を越えたNGO、障害者オーストラリア・インコーポレイテッドから書面による要求を受け取った。このNGOは、今朝の国際障害コーカスのステートメントを支持すると述べ、条約の仕組みには、差別の撤廃を可能にする「確固としたアファーマティブ措置」、構造的な遵守措置、個人通報をも含めるべきであるという点に合意すると述べた。また、この仕組みでは、あらゆる障害者にとって基本的な社会的、文化的および経済的権利について包括的に取り組むべきであり、非差別アプローチに止まるべきではない。この仕組みは、国内レベルにおいて長期雇用計画その他の給付を提供すべきであり、廉価で質の高い保健サービスの提供を通じてHIV・AIDSのある人の基本的人権を定めるものであって、非差別アプローチに止まるべきではない。とりわけ発展途上国では、保健その他のプログラムは、非差別と「まったく同様の緊急性」を持つ。また、この仕組みは、ろう者に特有の文化的問題を取り扱うべきである。

国際労働機関(ILO)を代表して、バーバラ・マレーも議題7c について語り、いかなるモニタリング・メカニズムも、「既存の人権メカニズムの合理化を目指した」措置に基づく必要があり、かかる措置を考慮に入れるという点に合意した。権利が障害者にとって「可視性と利用可能性」の両方を持つこと、特別なグループがこの過程に自ら参加することができるような法的扶助と特別支援を提供することを必要とすべきである。

地雷生存者プレメンコ・プリガニカは、ランドマイン・サバイバーズ・ネットワーク(LSN)を代表して発言した。LSNのボスニア局長である同氏は、対人地雷禁止条約(オタワ条約)のプロセスの成功と、とりわけ監視の実施に関して、政府と市民社会と被害地域の「パートナーシップ」の重要性とに言及した(ここでは「地雷モニター」が例に挙げられた。これは、地雷に限定した国家報告をまとめた詳細な報告書であり、広範なNGOのネットワークが作成したものである)。障害者団体には「明確な役割」が与えられるべきである。「私たちのことは、私たち抜きで決めてはならない」。

特別委員会議長がさらに発言を求めた後、国際障害コーカスの代表、ビーナス・イラガンが発言し、この条約は現在行われている最善の例にならった監視機関を持たなければならず、当該機関は多数の障害者から構成されなければならないと繰り返した。個人およびNGOが苦情申立てを行う権限も含めるべきである。イラガンは、構築された環境の利用可能性に関する指針、紛争後の社会におけるアクセス、人道援助に関する指針について取り組む技術諮問機関を設置することを求めた。実施「の大部分は、国内的制度の強さに常に左右される」。イラガンは、障害者の「不可欠な役割」がこの条約の「指導原理」になるべきであると「主張した」。「私たちのことは、私たち抜きで決めてはならない」。

事務局は、ステートメントは以下のURLでアクセスできると述べた。http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/statements.htm . また、部屋の後ろで、このURLを書面でも通知していると説明した。

特別委員会議長が休会しようとしたとき、タイが発言した。タイは「きわめて強力な国際監視文書を支持する」との自国の立場を再び述べた。代表組織を通して障害者が参加することの重要性が強調された。タイは、「我々の条約をまとめる方向に結実させ得るためには、この過程を加速させ」て、共通の目標に向けて作業するよう「あらゆる国家」に対して求めた。タイは「できるだけ早い時期に、あらゆる利害関係者に受け入れられる方法」をもって、「近い将来に目に見える」具体的な「前進」がなされることを望んだ。

エルサルバドルは、特別委員会で以前に討議されたような「統一文書」を代表団がいつ入手できるのか問うた。特別委員会議長は、この点については、その事務局も交えて解決していない事案であるとしつつも、当該文書が入手可能になり次第すぐに諸代表に通知すると述べた。


ディスアビリティ・ネゴシエーションズ・デイリー・サマリーは、ランドマイン・サバイバーズ・ネットワークが発行する。このネットワークは、地雷の被害を受けた6つの途上国において手足を失った者の支援網を持った、米国に拠点を置く国際組織である。このサマリーのスタッフには、ジャグディシュ・チェンダー、マーガレット・ホールト、ジェニファー・ペリー、マーシャル・タラスター、およびザハビア・アダマリー(編者)が含まれる。このサマリーは、翌日の正午までにwww.rightsforall.orgwww.worldenable.netのオンラインに掲載される。翻訳は、障害者インターナショナル(スペイン語)、ハンディキャップ・インターナショナル(フランス語)および(財)日本障害者リハビリテーション協会の好意により提供する。質問については、ザハビア・アダマリー宛て(Zahabiaadamaly@hotmail.com)に直接メールを頂きたい。