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第5回国連障害者の権利条約特別委員会

国際障害コーカス(IDC)が提案する条約文案

国際障害コーカス(IDC)

項目 内容
翻訳 JDF(日本障害フォーラム)

第9条草案:法律の前における人としての平等の承認

1) 締約国は、障害のある人が、いかなる場所においても、法律の前で人として認められる権利を有することを再確認する。
2) 締約国は、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、あらゆる分野において法的能力を持ち、かつそれを行使し、享受する権利を持つことを認める。
3) 締約国は、
a) 障害のある人が、法的能力を行使するために必要な支援を利用する権利を持つことを保障し、かつそのような支援が、障害のある人の要求を十分に満たし、その者の法的能力や権利を損なうことが無く、その者の意思と選好を尊重し、利害の対立が無く、また不当な影響力を受けないことを保障する。
b) 意思決定支援の乱用を避ける一方で、その利用を促進する法律を制定し、かつ、適切な手続きを考案する。

第10条草案:身体の自由及び安全

1.締約国は、次のことを保障する。
a) 障害のある人が、障害を理由とする差別を受けることなく、身体の自由及び安全についての権利を享受すること。
b) 障害のある人が、その自由を違法に又は恣意的に奪われることがないこと、並びにいかなる自由の剥奪も法に従い、決して障害を理由に行われることがないこと。1
2.締約国は、国内及び国際法で認められている、自由を剥奪された人びとに対して一般に適用される権利の、障害のある人による行使並びに享受に対するすべての障壁を撤廃するための効果的な措置をとる。特に、障害のある人が自由を剥奪された場合には、次のことを保障する。
a) 障害のある人が、必要なサービス及び支援機器の利用、並びに支援ネットワークの利用を含め、人道的にかつ人間固有の尊厳を尊重して扱われること。
b) 障害のある人が、逮捕及び拘留のあらゆる段階において、訴訟手続き、コミュニケーション、言語及び施設に関して、合理的配慮を受けられること。
c) 障害のある人が、逮捕及び拘留された人びとが一般に利用することができるすべてのプログラム及びサービスを確実に利用できるようにすること。
d) 障害のある人が、自由を剥奪されたときに、その法的権利及び自由を剥奪された理由について、利用可能な形態及び言語による情報を十分に提供されること。
  • (i) 刑事上の理由で逮捕或いは拘留された場合、正当な期間内に迅速に裁判を受け、或いは釈放されること。
  • (ii) いかなる自由の剥奪についてもその合法性を裁決し、迅速な判決を得、自由の剥奪が違法である場合には釈放されるための訴訟手続きを即刻取ること。
  • (iii) そのような訴訟手続きにおいて、アクセシビリティーを確保するために必要な法的支援及びその他のサービスが利用できるようにすること。

3.締約国は、障害を理由に自由を剥奪された場合を含め、違法に自由を剥奪された障害のある人は、いかなる人も、賠償を受ける権利を有することを保障する。

第11条草案:拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い、若しくは刑罰からの自由

  1. 締約国は、障害のある人が、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い、若しくは刑罰を受けることを防止するため、すべての効果的な立法上、行政上、司法上、教育上その他の措置をとる。
  2. 特に、締約国は、障害のある人が十分な説明にもとづくその自由な同意なしに、医学的又は科学的実験を受けることを禁止し、当該実験から障害のある人を保護する。また、実際上又は認知上の機能障害を矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入又は強制的施設収容から、障害のある人を保護する。

第12条草案:暴力及び虐待からの自由

1.締約国は、障害のある人が、家庭の内外両方において、あらゆる形態の暴力及び虐待の危険により多くさらされていることを再確認する。暴力及び虐待は、嫌悪、偏見、いやがらせ、損害を与えること、暴力、傷害、身体的若しくは精神的及び情緒的若しくは性的虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い若しくは性的及び経済的搾取を含めた搾取を含むと理解される。それゆえ、締約国は、

  • (a) 家庭の内外両方において、あらゆる形態の暴力及び虐待から障害のある人を保護するための、すべての適当な立法上、行政上、社会上、教育上その他の措置をとる。
  • (b) あらゆる形態の暴力及び虐待から保護される、子どもの平等な権利を確保する。
  • (c) 障害のある人に対する、実際上又は認知上の機能障害を矯正し、改善し又は緩和することを目的とする拉致、及び強制的介入又は強制的施設収容を禁じ、そのような拉致、及び強制的介入又は強制的施設収容から障害のある人を保護する。
  • (d) 障害のある人が自分自身の身体に就いて選択する権利を持つことを再確認し、強制的不妊手術若しくは中絶を禁止する。
  • (e) 障害のある人、その家族及び障害のある人と共に活動する人びとに対し、暴力及び虐待をどのように回避し、認識し、報告し、並びに保護を求めるかに関する情報、支援及び教育を提供する。
  • (f) 暴力及び虐待の発生を防止するため、障害のある人が生活し、若しくはサービスを受ける、官民双方の施設及びプログラムが、障害のある人を含む独立した機関によって効果的に監督されることを保障する。
  • (g) 障害のある人が何らかの形態の暴力及び虐待の犠牲者である場合、締約国は、障害のある人の身体的及び精神的回復並びに社会的再統合を促進するためのすべての適当な措置をとる。こうした回復及び再統合においては、常に当事者の個人的な自律性と尊厳が尊重される。
  • (h) 暴力及び虐待の事実の確認、報告、委託、調査、処理及びフォローアップと、保護サービスの提供、並びに必要に応じて司法が関与することを保障する。

13条については、全日本ろうあ連盟のサイトをご覧ください

http://www.jfd.or.jp/int/unconv/idc-art13-infonote.html

第14条草案:プライバシー、家庭及び家族の尊重

1. 本条約の締約国は、障害のある人のプライバシー、家庭、家族、あらゆる種類の通信及び医療記録、並びに個人的な事項について決定する選択を保護するため、効果的な措置をとる。いかなる障害のある人も、恣意的に若しくは違法にプライバシーを侵害されることはなく、そのような侵害に対して法によって保護される権利を有する。
2. 本条約の締約国は、個人的な関係に関わるすべての事項における、障害のある人に対する差別を撤廃するため、効果的かつ適切な措置をとる。特に、次のことを保障する。
(a) 障害のある人が、そのセクシャリティを経験し、性的その他の親密な関係を持ち、かつ親たることを経験する平等な機会を否定されないこと。
(b) 婚姻をすることができる年齢の障害のあるすべての男女が、将来の配偶者との自由なかつ完全な合意に基づいて婚姻し、家庭を築く権利。
(c) 障害のある人が生殖能力を保持し、効果的に生殖の権利を行使する権利、並びにこの権利を保障するために、強制的不妊手術及び中絶などの実施を禁止すること。
(d) 障害のある人が生殖及び家族計画に関する情報にアクセスできること、並びにその実施に必要な手段。
(e) 子どもの後見、監督、管財及び養子縁組、若しくはこれらに類する制度が国内法令に存在する場合はその制度に関連する障害のある人の権利。これらの権利を保障するため、締約国は、障害のある親が子どもの養育についての責任を遂行するに当たり、適当な支援を提供する。
(f) 障害を理由に、子どもがその親から分離されないこと。

第15条草案:地域社会における生活と参加

1. 締約国は、障害のある人の移動の自由及び地域社会における生活の権利、及び居所を選択する自由を再確認する。締約国は、障害のある人が、どのように、どこで並びに誰と生活するかを決定する平等な機会を持つことを保障する。
2. 締約国は、障害のある人が地域社会の一員として生活し、完全に参加できるようにするための効果的かつ適当な措置をとる。締約国は次のことを確保するための措置をとる。
(a) 障害のある人が、施設若しくは特別な生活環境のもとで生活することを強制されないこと。
(b) 公営住宅を含む、一般市民のための地域のサービス及び施設が、障害のある人にも平等に利用でき、障害のある人のニーズに対応していること。
3. 締約国は、障害のある人が、他の者と平等な選択によって、地域社会で生活し、地域社会に参加することを支援し、並びに障害のある人が地域社会から孤立、若しくは隔離されることを防ぐために必要な、個別支援を含むサービスの提供を確保するための適当な措置をとる。特に、締約国は次のことを保障する。
・ 障害のある人が、支援サービスを含む地域のサービスに関する情報にアクセスできること。
・ 障害のある人の自律性、個性及び尊厳を認める方法で、支援が提供されること。
・ 提供される支援が、移動の自由の権利及び地域で生活する権利並びに居所を選択する自由に即していること。
・ 障害のある人が、必要とする援助、機器並びにアダプテーションを利用できること。
4. 締約国は、財産の賃借、所有若しくは相続、並びに自身の財務管理、銀行ローン、抵当その他の形態による財政的信用の平等な利用を含む、障害のある人の経済発展及び経済的な自立の機会への平等な権利を保障するため、すべての適当かつ効果的な措置をとる。

脚注:

1.我々は現在の作業部会草案の文言を支持する。しかし、「だけ」或いは「のみ」という言葉を加えてb項の意味を弱める文言については、障害が自由の剥奪を正当化する理由の一つとして利用される可能性があるので、反対である。

2.2項では、自由を剥奪された障害のある人の権利を保障している。作業部会草案では、手続きの権利と、拘留の際、人道的扱いを受け、かつ尊厳を尊重される権利とを一緒にしている。我々は、手続きの権利と人道的扱いを受ける権利の両方に関連して、障壁の撤廃、アクセシビリティー及び合理的配慮を追加した。更に、いかなる拘留についても、ICCPR第9条に従い、司法機関による管理が必要であるとした。

3.この草案では、賠償に関するICCPRの文言を使用しており、1項bで禁止されている障害を理由とした自由の剥奪を含んでいる。

我々は、作業部会草案の第11条を残すことを支持する。強制的介入は長い間障害者自身によって、レイプその他の形態の拷問に匹敵する、精神及び身体に対する深刻な侵害と見なされてきた。拷問禁止条約における定義には、拷問の目的として差別を含めており、これは明らかに障害に関わる規定である。犠牲者の人格を否定したり、或いは身体的又は精神的能力を削減したりすることを目的とした措置も、米州拷問禁止条約においては拷問と見なされており、主なコメンテーターも同意見を示している。障害者に対して行われている多くの強制的介入は、望ましくないと考えられる個人の能力を減ずること、或いは障害者に障害者としてのアイデンティティーを捨て、健常者のまねをさせることを目的としているため、これに該当する。

ICCPRは、同意なしで行われる医学的及び科学的実験の乱用を拷問の一例としている。障害者にとっては、実験も医療従事者その他による強制的介入も、権利を侵害し、人間としての尊厳を損なうものである。

我々は、状況によっては強制的介入を認めることになる第11条又は第12条の修正に反対である。強制的介入に対する保護を義務づける代替案は、それが例外を認めることなく規定を維持する限り、受け入れられる。

EUは第12条の文言について以下の提案をしている。

特に、締約国は、障害のある人が十分な説明に基づき自由に同意することなく実施される、あらゆる形態の医学的又は医学に関連する介入から、障害のある人を保護する。

この文言は、ここで終わりなら受け入れられる。しかし、EUはこの規定を取り消す例外を述べた3つの項目を続けて提案している。まず、EUは障害者の意思決定能力の評価に基づき、意思決定代理人を導入することを提案している。次に、EUは、障害者本人若しくはその他の人びとに対する「差し迫った危機を避ける」ために、障害者に対する強制的介入を実行する特権を主張している。そして第3に、EUは全ての強制的介入について、「最善の利益」という基準と不特定の法的保護施策を設けることを求めている。

我々は意思決定代理人の導入によって受ける損害について第9条に関する協議の中で検討した。能力の測定が可能だとする考え方は、様々な種類の知能を識別することになり、感情や直感よりも認知の方が重要視される。全ての障害者に対し、人権の平等かつ効果的な享受を保障するというこの条約の目的を実現するためにはこの点について根本から考え直さなければならない。

防止策としての強制的介入の正当化を試みることは、深刻な警告を発する。他者に対して危険があるからといって、ある人への医学的(或いは医学に関連する)介入の実行が正当化されるわけではない。医学的介入は正当な法の施行手段ではなく、このようなやり方は医学倫理を侵害し、拷問となってしまう。混乱や恐怖をもたらし、権威に反抗する力を削減することになった、囚人への不妊手術或いは向精神薬の規制について考えてみるとよい。自分自身への危険もまた同様に同意なしでの医学的介入を正当化することはできない。医学的介入に関連する危険も含め、様々な危険を受け入れるか否かを、各個人が決定しなければならない。

EUが例外として挙げた第3項は曖昧で温情主義的であり、「最善の利益」という言葉の重要性は低い。他の人の利益のためにある人に対して医学的介入が実行された場合、介入を受けた人の最善の利益はどうなるのだろうか?個人の価値と尊厳を軽んじている点で、このような修正案は人権制度全般から大きく外れている。

ニュージーランドの修正案は拷問及び残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰の禁止を、暴力と虐待に関する第12条に入れ、「介入に対する自由なかつ十分な説明に基づく同意」という新たな見出しをつけて第11条を残すものである。ニュージーランドは、拷問に関する条文から強制的介入を削除した理由として、拷問にはいかなる例外も認められないということを挙げた。

我々はニュージーランドの文言の一部を、作業部会草案の代替案として受け入れる。

介入に対する自由なかつ十分な説明に基づく同意

  • * 締約国は、実際上又は認知上の機能障害を矯正し、改善し又は緩和することを目的とする、矯正手術を含む医学的又は科学的実験又は介入が、十分な説明に基づく障害のある人の自由な同意により実行されることを保障するために必要な措置をとる。
  • * そのような措置には、障害のある人及びその家族に対する、適切かつ利用可能な情報の提供が含まれる。
  • * 締約国は、障害を理由にした障害のある人の強制的施設収容は違法であるという原則を受け入れる。

これに続く項で、ニュージーランドは各国政府が「非自発的治療(どうやら強制的介入と強制的施設収容の両方について言及していると思われる)」を廃止していない場合、より低い基準を達成することでよしとする文言を提案している。「非自発的治療」は「最も例外的な状況においてのみ」利用され、「代替案の積極的な促進を通じて、最小限に抑えられなければならない。」更に、いかなる「非自発的治療」も、有る特定の条件を満たさなければならない。

この文言はEUの修正案ほど負担を強いるものではない。なぜなら、これは常に例外を設けるという意味ではなく、達成が難しい基準を政府がまだ受け入れていない場合には、それよりも低い基準を満たせばよいとしているだけからである。しかし、我々は強制的介入がそのような基準によって減らされ、有意義な結果を生むことはないのではないかと懸念している。なぜなら、そのような基準は、個人の意志と自己決定を否定する「最善の利益」に基づくアプローチとあいまって、障害者に恐怖と不信をもたらすからである。

特別委員会は条約に、障害者の権利を制限する文言や、草案第2条で述べられている原則に相反する文言を入れることを拒否しなければならない。この条約によって達成すべき社会改革の課題は、条約の内部で矛盾があったり、或いは条約に障害者の利益に反する内容が採用されたりしていたら、達成できないであろう。我々は条約の施行時期については柔軟性をもって受け入れることができるが、権利の享受を平等ではなくむしろ不平等にしてしまう文言については、受け入れることはできない。


原文へのリンク:http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/idc05.htm

13条については、全日本ろうあ連盟のサイトをご覧ください
http://www.jfd.or.jp/int/unconv/idc-art13-infonote.html