第6回国連障害者の権利条約特別委員会
短報 2005年8月4日(木)
寺島彰
浦和大学 教授
特別委員会で話合われたテーマについて、非常に簡単に報告します。本報告は、正式な報告ではありません。本報告は、国連で何をしているのかに親しんでいただきたいと思って作成しております。筆者が聞き取った範囲のものであり、正確な報告は、UNのホームページ、日本政府の発表、傍聴団の報告等を参照していただくようにお願いします。
8月4日午前1
第17条「教育(education)」についての議論(継続)
一昨日、昨日に引き続き、第17条「教育(education)」が議論された。最初は、障害者団体・市民団体からの意見表明から始まった。この部分は、公式の会議である。
国際障害コーカス・障害者ブリティッシュカウンシル、世界盲ろう連盟、オーストラリア障害者協会・コミュニティー・リーガル・センター全国協会、ナミビア身体障害者協会、インクルーシィヴ教育調査センター、エディアップインディア、ラテンアメリカ障害者団体、全ロシアろう協会の順で発言があつた。それぞれ、体験に基づく真剣な主張がおこなわれた。各国の代表者の発言以上に説得力があった。その後、議長が第17条全体をつぎのようにまとめた。
インクルーシィヴネスは条約全体のテーマの一つである。本条でも教育におけるインクルーシィヴネに関する各国の義務を明らかにしなければならない。そのことについては、共通に理解していることであり、それは、EU案に対する多くの支持が得られたことや、努力規定とする意見への反対が多かったことなどから明らかである。しかし、バランスが重要である。各国の状況に応じて、直ちに実施しなければならないことと漸進的に実施してもよいもののバランスをとらなければならないだろう。
選択(choice)の懸念に関する意見も多く出された。議論の中で確認されたことは、この選択は、決して締約国が選択するということではなく、障害者が主体であることである。しかし、この表現が十分でないならば、別の表現も検討する必要があろう。
また、パラグラフ3に対するタイの代替案は、視覚・聴覚・盲ろうに絞って一般の人々と同等の教育が受けられるようにするというものであり、それについての多くの賛意が得られた。また、感覚障害者だけではなく障害者全体にすべきであるという提案もだされた。
パラグラフ4,5については、削除してしまうという案もあったが、第17条bisにオーストラリア草案のエッセンスを入れるということも考えられるだろう。
また、人権について教師を訓練するカリキュラムを整備する必要性についていくつかの国が発言した。この教師には、障害をもつ教師も含まれる。
Assistanceという用語に対する反対が多く述べられた。例えば、Support serviceにするという案があった。関連して、家族の役割についての議論もあった。
今後は、ファシリテーターのローズマリーさんに引継ぎ、意見を集約してレポートを作成することとなった。
このように、本条は、まだ、枠組みも決定しておらず、今後もかなりの議論がされることと思われる。
8月4日午前2・午後
第18条 「政治的・公的活動への参加」についての議論
最初に、議長から、作業部会草案の第18条cは、第5回委員会までの議論の結果、第4条2に入れるとなったことが伝えられた後、各国に意見を求められた。各国とも、本条の重要性は認めており、さまざまな提案がなされた。主な主張を整理すると次のようになる。
作業部会草案の強化
まず、多くの国から指摘があったのは、作業部会草案が、国際人権規約25条や女性差別撤廃条約7条などの既存の国際人権条約を弱めるような内容になっており、むしろより強化すべきであるということである。そのために、つぎのような、さまざまな修正が求められた。
- 全体の柱書:
- discriminationの後にor intimidationを挿入する
- 被選挙権について加える
- recognizeをguaranteeにする
- aの柱書:
- activelyをensureにする
- a iii:
- assistanceの意味があいまいなので新しいパラグラフを作り明確にする。
- where necessaryは削除。
- allowはguaranteeまたはensureにする
- guaranteeには反対。
- 国会や政府、司法、地方自治体を具体的に入れる。
- 投票権を守るための行政の保護が必要
- bの柱書:
- as appropriateを削除する。
- 国際人権規約25条と米国人権規約23条を参照する
- b
- 各国の体制の違いを反映できるように「自国の法に合致した」を入れる
- b ii:
- 国際活動も加える
- 障害者が公職につく権利を保障すること。
- 公的活動への範囲が広がることを追加。
- 政党参加に関しては反対。
- c:
- 障害関係問題のみだけではなく、あらゆる意思決定過程に参画できると書く。
- その他:女性差別撤廃委員会15bisに言うように女性障害者に対する特別な規定が必要
- すべての政策決定とモニタリングに障害者が参加することを追加。
- 国際会議で障害者が発言する機会を提供することを追加。
- 国際機関を入れる。
- 選挙運動の情報を得ることも権利である。
- 政治への参画は投票だけでない。
- 命令を発することなどにも言及する。
以上のように、賛否を含むさまざまな提案がなされ、現状では、条文の整理までは至っていない。
障害のある市民か障害者かの議論
もうひとつ、多く議論されたのが、障害のある市民(Citizens with disabilities)という用語を使うかどうかである。これを障害者(Persons with disabilities)に修正すべきであるという主張する国と市民のままにすると主張する国がある。後者は、国によっては、市民のみに政治的権利を保障している場合もあり、市民ではない障害者に政治的権利を保障すると障害に基づく新たな権利を発生させることになることを危惧している。
議長は、権利法は、障害故に差別を禁止することを目的としており、新たな権利を発生されることを意図していないことは明確であり、市民という用語を用いても、「他の人との平等を基礎として」というような文言を入れれば問題保障できるのではないかと主張するが、各国の状況がまちまちで、賛同を得られていない。
assistanceと秘密保持の関係
選挙投票でのassistanceは、本人以外に投票の中身を知る人が出てくるため、この場合のassistanceは、各国が単にそれを提供するという意味ではなく、匿名性の確保のための方策が必要である。例えば、介助人であれば信頼している人にやってもらいたいし、選挙機材の工夫も必要であろう。このような点について意見が多く述べられたが、まとまりのない議論になり結論的なものは出なかった。これらに関しては、つぎのような提案があった。
- a i:
- 投票の際の資材を加える
- a ii:
- 秘密の保持を加える
- a iii:
- assistanceの意味があいまいなので新しいパラグラフを作り明確にする。
- assistance in votingはassisted votingとする
- assistanceをsupport serviceにする
- 匿名で投票できるという内容を加える
- 「障害者の希望にもとづき」を追加する
- 投票権を守るための行政の保護が必要
その他
18条の構成自体を変えるべきだという意見もあった。
会場の様子