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第8回国連障害者の権利条約特別委員会

短報 2006年8月17日(木)

(午前)JDF(日本障害フォーラム)条約委員会、

(午後)福地健太郎:筑波大学/DPI(障害者インターナショナル)日本会議

午前(JDF(日本障害フォーラム)条約委員会)

会場の様子

 マッケイ議長:前文の最後の部分、「家族」については、すでに第7回の際、数カ国が発言しており、コンサルテーションが行なわれている。
 23条(家族及び家庭の尊重)1項については、意見の相違を埋める形で話し合いたい。この部分についてはリヒテンシュタインがインフォーマル・ミーティングでまとめた。
 今日の午後は、前文と第11条(危険のある状況)について行いたい。もう最終段階にかなり近づいているという認識でいる。
 昨日の話の中でいろんな提案がでてきた。議論を進めていきたい。また提案がある時は、事前に書面で用意して配布を欲しい。似ていることや反対のことを考えている国同士が事前対話できるという観点からも、提案がある場合は事前に文章配布してほしい。
 どれくらいの国が各条文についてこれから提案するかを、非公式に確認していきたい。おおよそどれくらいの提案があるかということを確認する。ブラケット(注:ブラケットとは、ワーキングテキスト上で、各国間の意見の相違が明らかな論点や文言に付されているもので、〔 〕で表されている)の箇所以外について、挙手をして欲しい。
(マッケイ議長の提案を受けて、各条につき各国が応答)

マッケイ議長:提案がある場合や提案について対立点がある場合は、先にコンサルテーションを済ましておいて欲しい。インフォーマル・ミーティングについては、いくつかのミーティングの結果が出てきている。

カメルーン:アフリカを代表してコメントするが、各条文についてアフリカグループは、見解を一にしている。それぞれについて、コメントしていきたい。

マッケイ議長:提案については事前に簡潔な文章で配布して欲しい。

イエメン:パラグラフの削除や文章を加える場合でも、事前に文章配布が必要なのか?

マッケイ:どんな小さな提案でも、条文に大きな影響を与える可能性があるので、事前に文章の形で配布して欲しい。そうすることで、よりフェアな話し合いができるし、全体会合での話し合いで時間をかけずに、話し会うことができる。文章による提案の事前提出は時間短縮の意味もある。

シリア:議長提案も分かるが、イエメンの意見にも理解を示したい。単語の削除や加筆については、わざわざ書面での提出はいらないのではないか。

マッケイ議長:前文の最後の部分にある「家族」については、後で話し合う。23条(a)のブラケット内の「セクシャリティーを経験し(experience their sexuality)」という文言について議論が分かれている。脚注3にこの23条の趣旨が書かれているので、それも考慮して話し合って欲しい。

中国:ブラケットの中の文言は、削除してもいいと思う。また、脚注を見るようにとの議長提案があったが、中国としては、この23条の特に柱書の部分に問題があると思う。23条の柱書部分は、障害者の権利について書かれているわけではない。また、「締約国は慣習及び伝統が障害を根拠とした差別的な扱いを撤廃する」と書かれているが、この文言は締約国にとって負担が重過ぎる。また脚注には、本条が締約国の法律に影響を与えるものではないと書いてあるが、それが本文には書かれていない。

ケニア:23条(a)については、「セクシャリティーを経験し(experience their sexuality)」という部分を削除して欲しい。

スーダン:23条(a)のブラケット部分は削除すべき。「親たることを経験する(experience parenthood)」という部分は、(b)に統合すべき。この件については、他国とも協議しており、中国の意見に近い。

ブラジル:人としての発達には、セクシャリティーに関する発達も含まれるべき。障害者は、往々にしてそこから阻害されている。文言としては、セクシャリティーを「経験する」よりも、「発達させる」のほうがいいと思う。

EU:セクシャリティーを経験するということは重要である。この部分は残すべき。

バチカン:セクシャリティーについては、様々な文化の中で様々な考え方があるので、(a)は削除すべき。いろんな人に対して、尊厳が守られるような言葉使いがなされるべき。

リビア:障害を持つ人たちにとって、とても重要な条項。障害を持つ人々が社会統合されるためには、家族を基盤とした参加が必要。障害を持つ子どもに関して、障害を理由に親から捨てられるような場合もある。ブラケットについては「障害者が親たる機会を平等に持つことができる」という文言にすべき。スーダンが言うように、様々な文化があることに配慮して、セクシャリティーについても配慮がなされるべき。

カタール:このブラケットの部分は削除すべき。結婚以外の場面でセクシャリティーを経験しないことを是としている国もある。

シリア:障害のあるなしに関係無く、「平等」の問題は大事。しかしアラブ世界からすると、性的関係について、今の文言では現状にそぐわない部分もある。障害を持つ者に「親たること」を認めることが目的であり、「セクシャリティーを経験すること」が目的ではない。「セクシャリティーを経験すること」とは、「家族を持つこと」に関係することなのである。

モロッコ:(a)を23条から削除し、「親たることを経験すること」という部分をサブパラ(b)に入れるべき。

イラン:23条柱書は24条(教育)と重複している。中国のいうとおり、重複は避けるべき。サブパラ(a),(b)について、ブラケット部分は削除し、まとめたほうがいい。宗教や習慣の異なる国があるということを知ってほしい。

コスタリカ:23条(a)はセンシティブな部分であり、配慮が向けられるべきであるが、(a)を削除することは問題である。またスペイン語の場合parenthoodだけでは、男性だけを指すので、女性にも配慮した表現にして欲しい。

ベネズエラ:「親たること」はとても重要。この条項に母親に関することを盛り込むことが重要。ベネズエラでは、障害者でも全ての事柄を経験する権利がある。

パレスチナ:23条柱書に関する中国提案を支持。ブラケット部分は削除すべき。

ジャマイカ:ブラケットの中を削除することには問題がある。

エチオピア:締約国が結婚以外の場面でのセクシャリティーを認めることには問題がある。

チリ:セクシュアリティーというのは、人権に大きく関わるものであるし、社会的な交流にも関わるものである。単に子どもを産むということだけに関わる問題ではない。

パナマ:セクシュアリティーというのはあらゆる人間が経験するものであり、単に結婚だけの話ではない。

カナダ:サブパラ(a)については残すべき。

ウガンダ:サブパラ(a)は残したほうがいい。

EU:サブパラ(a)全体を削除すべきとの案には反対。

サウジアラビア:(a)を削除することは非常に重要。(b)、(c)のみにすべき。

アメリカ:ブラケットの中の文言は削除すべき。

ヨルダン:障害者は国内法に基づいてセクシャリティーに関する権利を平等に享受し、適切な手段により、「親たること」を経験する権利を有するものとすべき。

リビア:できればセクシャリティーという言葉は削除されるべき。アラビア語でいうセクシャリティーは非常に狭い概念で、英語の場合は広い概念であることに注意を払うべき。

ブラジル:サブパラ(a)について全て削除すべきという意見には反対。

マッケイ議長:サブパラ(a)のブラケット部分は非常に議論の分かれるところで、この問題が重要であることについては、認識を一にできたと思う。セクシャリティーに関する部分は、障害を持つ人にとって大きな差別が存在している分野であるし、一方で非常に文化的に敏感な部分を含むところでもある。ただ、やはり、障害を持つ人たちがこの分野で差別的に扱われてはならないという認識は必要ではないだろうか。様々な提案が出たので、合意に達するためにはどこが着地点になるのか今一度話し合い、共通の結論に達することが重要である。

午後(福地健太郎)

会場の様子

○手続き条項(35条以下)

 午後の部の前半は、第7回と第8回の特別委員会の間に、リヒテンシュタインを中心にまとめられた、この条約の批准と改正といった手続きに関する最終条項が議題となった。争点の一つとなったのは、EUのような地域統合機関が条約に加盟することができるという文言であった。地域統合機関に投票権が認められると二重投票になるという懸念がいくつかの国から提起された。またタイからは、障害者への差別を禁止するというこの条約の精神にのっとり、国連における全ての公式文書がアクセシブルなフォーマットで提供されるべきことを、条約の条文に加えようという提案がなされた。ファシリテーターの、アクセシブルなフォーマットに関しては、決議文に盛り込むべきだという立場に対し、前述の発言は、条約の条文に加えることで拘束力を持たせ、この文言の存在をより明確にするという目的があるようである。タイの提案は、セルビアやアメリカなど、いくつかの国から支持が表明された。

○第11条(危険のある状態)

 午後の後半は、危険のある状態についての第11条の条文において、どのような状態を指すのかを示す具体例を、括弧内に記載するかが争点になった。
 まずアラブグループを代表してスーダン政府から、「外国からの占領」が含まれるべきであるという提案がなされた。現実に外国からの占領により、多くの障害者が命を脅かされていることから、占領と武力紛争の状態において、障害を持つ人の安全を確保することを明記する必要があるとの立場である。この提案は、アフリカグループを代表するカメルーンやパキスタンやインドネシアなどの多数の国とアラブ障害者連盟から支持を得た。しかしEUや日本、カナダ、オーストラリア、そしてアメリカなどは、具体的な状況を書かないことで、各国がそれぞれに、あらゆる危機的状況に対処できるようにすることを求めた。
 また武力紛争については、前文のS項ですでに述べられているので、あえて条文に具体的な状況を記載する必要はないとの見解もノルウェーから示された。IDCは、どの部分で国家が関わるのかを示した基準を追加することを主張し、同時にこの条約を政治的な論争の元にしないようにとの注意を呼びかけた。
 最後に議長は建設的な議論ができたことを評価し、提起された意見は、後に検討することになった。

 国連の全ての公式文書がアクセシブルなフォーマットで提供されなければならないという記述を盛り込むというタイの発言は、障害者の差別禁止と平等の確保を目指すこの条約の根本の理念だと感じた。さらに危機的状況の議論については、やはり外国による占領をより現実の脅威として実感しているアラブ・アフリカにとっては譲れない点であることが伝わってきた。しかし内戦などの状況も踏まえれば、外国からの占領というよりも、全ての紛争、武力衝突といった言葉でも良いように感じる。