音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

特別報告(2)手話言語法、情報アクセス関連施策の動向について

石野 富志三郎 (全日本ろうあ連盟理事長)

報告をする石野富志三郎氏

 全日本ろうあ連盟の石野富志三郎と申します。

 国連の障害者権利条約には、第2条に「コミュニケーション、手話を含む言語」、第9条に「アクセシビリティ」、第21条に「情報へのアクセス」と、アクセシビリティに関する基本的な考え方が示されています。

 今現在、社会は音声言語が中心になっていますが、聴覚障害者にとっては音声ではなく視覚的な言語、視覚的な情報が必要です。それが考え方の基本となります。情報の可視化により情報保障を整える。これは聴覚障害者の権利として当然あるべきです。もう一つは、いつでもどこでも誰でも自由に情報を享受できる権利を持ち、いつでもどこでも誰においても情報発信ができる権利を持つこと。そしてコミュニケーションの手段を自らの意思で自由に選択でき、点字・要約・手話等を自由に選択できる権利を持つということ、この3つのことは基本的人権に加えられるべきものです。

 全日本ろうあ連盟では、当事者団体と支援者団体の6団体を構成団体として「情報・コミュニケーション法」を目指す運動を進めているのですが、なぜこの法律が必要なのでしょうか。憲法で定められている基本的な人権の行使のためには情報アクセス、コミュニケーションの保障が必要なのですが、そのための法律というのはまだ国内で制定されていません。ですから、この法律が必要なのです。

 二つ目は、先ほど触れましたが、障害者権利条約を批准したとしても、情報コミュニケーション関係についての法がまだまだ整っていません。2年前、障害者基本法の改正があり、言語に手話が含まれるということが明記されました。しかし具体的な取り組みは今後の課題になっています。附帯決議の中に入っている情報コミュニケーションについての検討という措置がありますが、政府ではなく私たち障害者からも積極的に政策提言をしていかなければならないと考えています。

 障害者基本法で手話が法律で認められるということはどういうことなのでしょうか。権利条約との整合性というものも図らなければなりません。現状では手話が言語として認められたことにはなりますが、手話に関しての細かい具現性のある法整備がまだまだです。聞こえる人と私たちがもっとコミュニケーションができるような「情報・コミュニケーション法」というものの制定が急がれます。

 インターネットで政府の記者会見等において、手話通訳がついていることがありますが、字幕や手話をいつでも見られる環境が必要です。例えば官房長官の横に手話通訳がついて情報保障されますが、民放やNHKの画面では、官房長官だけが画面に映って手話通訳が消えてしまいます。なぜこのような現象が起こるのでしょうか。それは法的な整備がないということに大きく起因していると思われます。例えば、ニュージーランドでは手話通訳をつけて情報保障がなされ、字幕もつきます。そういう手話言語法が制定されている国と比較すると、我が国は未整備の環境にあります。

 皆さんは既にご存じだと思いますが、今年10月8日、鳥取県におきまして日本で初めて手話言語条例が採決されました。議会において満場一致で採択されたと聞いています。聴覚障害者もたくさん傍聴したそうです。それに続くように鳥取県のみならず北海道の石狩市も間もなく12月16日の本会議において採択の見通しがついていると伺っています。もしこれが実現すれば市町村としては本当に画期的なことになります。また、北海道に新得町という所がありますが、ここも条例制定に向けて検討を始めるという動きが出ています。その他、石川県などにおきましても各市において手話言語法の制定を求める意見書の採択が広がっています。1週間前になりますが、札幌市議会も意見書を採択したということです。非常に大きな全国的な波及効果が生まれているように感じます。

 もし手話言語法が制定されたあかつきにはどのようになるでしょうか。子どもの時から手話を獲得する権利や自由に手話でコミュニケーションできる環境を始め、手話に関する様々な権利が整うことが期待されます。

 ろうあ者は戦前から手話を守り続けてきました。守り続けて、時代とともに手話を発展させてきました。そして現代に至っています。「手話言語法」の実現を誰よりも強く願っているのは私たち自身です。手話言語法はろうあ者の社会参加、自立につながる非常に大きな起爆剤となるでしょう。

 つい先だっての話ですが、全日本ろうあ連盟として初の試みとして、11月22日から24日まで3日間かけて秋葉原で情報アクセシビリティ・フォーラムを開催しました。一つは映像のエリア。ろうあ者や難聴者にかかわる以前からの映像を収集して自由に皆さんにご覧いただける環境を作りました。次に会議エリア。これは国際的な会議や国内のさまざまなテーマの会議もありました。そして展示エリア。聴覚障害者関係の機器、出版物等々の展示エリアには32社が参画しました。この3つのエリアには、3日間で延べ1万3,236名にもの来場者がありました。半分くらいは若い方です。非常に大きな成果があったと考えています。

 「情報・コミュニケーション法」と「手話言語法」の違いは何かとよく問われます。「情報・コミュニケーション法」は聴覚障害者のみならず知的障害者の方、視覚障害者の方など情報にバリアを抱える方々を対象とし、非常に幅広い範囲を想定しています。もう一方、「手話言語法」におきましては、ろうあ者の言語でもある手話に関わる法になります。この二つの違いがあるということを理解していただければ幸いです。

 ご清聴ありがとうございました。