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基調報告 「障害者権利条約」批准と制度改革

森 祐司 (JDF政策委員長)

基調報告をする森祐司氏

Ⅰ.はじめに

「障害者権利条約」が採択された国際的な背景

 1980年代から現在に至る約30年間は、障害者の人権保障に関する問題が、国際的な視点から問いかけられる時代であった。
 国際障害者年(昭和56年/1981年)から始まり、国連・障害者の十年(昭和58~平成4年/1983~1992年)、それに続くアジア太平洋障害者の十年(平成5年~14年/1993~2002年)、この間に「障害者の人権意識」の高まりが全世界的に浸透して行く時期であったが、 その一方において、障害者の人権侵害が世界的に深刻になっていた。
国際障害者年のなかで、「障害者は治療や保護の客体ではなく、尊厳をもって自律的に人生を築いていく人権主体であり、障害者の平等な社会参加を妨げるバリアーを除去すべきである。」という認識が、国際社会へ広くゆきわたり、わが国においても、「ノーマライゼーション」の理念が、名実ともに日常生活の中に根ざす兆しが見えはじめるとともに、実現化も進んだ。
 このような状況のなかで、障害者運動が権利運動として活性化し、とりわけ90年代以降は、障害者団体相互における連携が急速に進み、障害者自身が、障害者団体活動を通じ、国際的に連帯し、国際政治の舞台において一層大きな影響力を持つようになった。
 国際障害者年からはじまった「障害者主体の理念」と「ノーマライゼーション」の考え方の進展は、全世界的規模での集大成が望まれる時期の到来を象徴すべく、まさに国連・障害者の十年の中から、「障害者権利条約」策定の気運が生まれてきたといえる。

Ⅱ.国際的な障害者の権利保障の歩み

1948年 世界人権宣言採択

1949年 日本・身体障害者福祉法(障害者差別禁止規定;1967年に削除)

1971年 精神薄弱者の権利宣言

1975年 障害者の権利宣言

1981年 国際障害者年「完全参加と平等」

1982年 障害者に関する世界行動計画

Ⅲ.障害者権利条約の出来た経緯

1983年 国連障害者の10年開始

1987年 障害差別撤廃条約提案(イタリア)

1989年 障害者の権利条約提案(スウエ―デン)

1990年 米国障害者法(ADA)制定

1993年 障害者の機会均等化に関する基準規則策定

Ⅳ.障害者権利条約発効に至る主な経緯

1.国連を中心とする動き

 第56回国連総会決議56/168が、平成13年(2001年12月)に採択された。メキシコ提案の「障害者の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的総合的な国際条約に関する諸提案」について検討するため、すべての国連加盟国及び国連オブザーバーに開かれた「アドホック委員会」の設置を決定する決議であった。
 第1回国連アドホック委員会(以下「特別委員会」という。)は。平成14年(2002年)7月29日~8月9日・ニューヨーク国連本部において開催され、以後第8回特別委員会(平成18年(2006年)8月14日~25日・ニューヨーク国連本部)までの間、継続して開催された。
 条約案は、第61回国連総会において、平成18年(2006年)12月13日に採択され、そして、平成19年(2007年)3月30日以降に署名が可能となることとなった。
 わが国は、平成19年(2007年)9月28日、高村正彦外務大臣(当時)が条約に署名したが、この時までに、既に114カ国が署名を済ませていた。
 平成20年(2008年)4月3日には、20カ国目としてエクアドルが批准を済ませたことによって、条約第45条の規定により、この日から30日後の5月3日に発効することとなった。平成25年(2013年)11月22日現在、138ヶ国が批准を済ませている。

2.日本国内の動き

(1)日本障害フォーラム(JDF)の動き

① 特別委員会への派遣

 平成14年(2002年)第1回特別委員会から第8回特別委員会(平成18年2006年)までの間、NGO派遣団団長(初代団長:兒玉明JDF初代代表・日本身体障害者団体連合会元会長。二代目団長:小川榮一JDF前代表・日本身体障害者団体連合会前会長。共に故人)を中心に、JDF関係者である東俊裕弁護士を国連障害者権利条約特別委員会政府代表団顧問として派遣するほか、JDF関係者、障害当事者等、約200人を派遣した。

② 日本政府との意見交換会等

 JDFと政府との意見交換会は、障害者権利条約の採択以前から採択以降も続けられ、平成15年(2003年)12月10日から平成25年(2013年)10月8日まで、外務省を窓口として各省庁と20回にわたる会議を緊密に継続開催している。

③ 国連障害者の権利条約推進議員連盟との意見交換会等

 平成15年(2003年)2月22日に超党派議員により設立され、議連会長には、中山太郎前衆議院議員(自民党)が就任した。条約の採択以前より、議連総会の折には関係省庁ならびにJDFとの意見交換が行われ(2012年11月6日に第13回目が開催)、相互の意見の疎通を図るとともに、障害者権利条約に関し、共通認識を持つように努めてきた。
 平成21年(2009年)9月の政権交代により、平成22年(2010年)6月8日、国連障害者の権利条約推進議員連盟の役員の交代があり、議連会長に横路孝弘氏(民主党)が、事務局長に小野寺五典氏(自民党)から谷博之氏(民主党)に交代した。
 平成24年(2012年)12月の政権交代を経て、平成25年(2013年)10月15日に総会と新役員の選任があり、会長に高村正彦氏(自民党)、事務局長に清水誠一氏(自民党)が就任した。

④ JDF地方フォーラム開催の動き

権利条約の推進、条約作りなど地域での取り組みをテーマとした地域フォーラム。

JDFの地方組織らによる「実行委員会」が主体となり、JDFと共催。

平成20年(2008年)年2月18日の「地域フォーラムin東海」以降、12地域で開催。

  1. 東海 (2008.2.16)
  2. 北海道 (2008.3.9)
  3. 岡山 (2008.11.1)
  4. 大阪 (2008.11.5)
  5. 宮城・仙台 (2009.2.6)
  6. 京都 (2009.3.28)
  7. 熊本 (2009.7.18)
  8. 富山 (2009.8.8)
  9. 沖縄 (2010.3.27)
  10. 栃木 (2010.7.31)
  11. 青森 (2010.9.18)
  12. 東京 (2012.2.25)

⑤ 「地域フォーラム実行委員会」の活動

さまざまな種別・分野の地域組織が集い「実行委員会」を結成。

地域フォーラムの企画実施[JDFと共催]。

常設的なフォーラム組織・条例作りの会の結成に発展する場合もある。

地域におけるタウンミーテイング、キャンペーン活動等の開催例あり。

⑥ 障害者制度改革推進地域フォーラムの開催

2010年以降、上記「JDF地域フォーラム」のほか、制度改革推進のための地域フォーラムが各地で開催された。(うち*印の17か所は内閣府主催)

栃木(2010/7/31)、沖縄(9/11)、愛知(9/12)、青森(9/18)、広島(9/23)、大阪(10/5)、千葉(10/10)、富山(10/10)、滋賀*(11/9)、岡山*(11/11)、埼玉*(11/14)、香川*(11/21)、熊本*(11/21)、北海道*(11/27)、栃木*(2011/1/15)、兵庫(1/22)、京都*(2/12)、福岡*(2/12)、宮城*(2/13)、愛知(2/19)、福井*(2/27)、長野(3/5)、和歌山(3/10)、奈良(3/19)、愛知(9/10)、埼玉(10/6)、富山(11/3)、大阪(11/12)、熊本(11/20)、福岡(11/30)、岡山(11/30)、広島(12/11予定)、埼玉(2012/1/20)、愛知(2/4)、富山(2/25)、広島*(10/14)、滋賀*(10/27)、栃木*(11/3)、岐阜*(11/11)、北海道*(11/24)、福岡*(12/23)

Ⅴ.障害者制度改革以降の動き

「障がい者制度改革推進本部」・「障がい者制度改革推進会議」の設置と「障害者権利条約」批准に向けて

① 平成21年(2009年)年12月8日閣議決定により障がい者制度改革推進本部(総理が本部長、官房長官と内閣府特命担当大臣が副本部長、他の全ての国務大臣が本部長] 目的は、障害者権利条約の締結に必要な国内法の整備を始めとする障害者に係る制度の集中的な改革をする

② 平成22年1月12日、「障がい者制度改革推進本部」に下に「障がい者制度改革推進会議」が設置され、第1回会合開催。

③ 平成22年6月7日「障がい者制度改革推進会議」にて「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」決定

④ 平成22年6月29日 障がい者制度改革推進会議小川議長から菅本部長に「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」を提出。

⑤ 平成22年6月29日「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」に基づき閣議決定

⑥ 平成22年(2010年)12月17日、障がい者制度改革推進会議にて、「障害者制度改革の推進のための第二次意見」(関連資料I:第二次意見と改正障害者基本法の対照表)

⑦ 平成23年(2011年)7月29日、改正障害者基本法成立。(巻末資料参照)

⑧ 平成23年8月30日、総合福祉部会にて、「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(骨格提言)。9月26日、推進会議にて了承し、小川議長から蓮舫・内閣府特命担当大臣に手交。(関連資料II)

⑨ 平成24年(2012年)6月20日、障害者総合支援法成立

⑩ 平成24年7月23日、改正基本法に基づき、第1回「障害者政策委員会」開催。(同24日に「推進会議」は廃止。同年3月12日までに全38回開催。)

⑪ 平成24年9月14日、「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」

⑫ 平成25年6月19日、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」成立

⑬ 平成24年12月17日、新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見

⑭ 平成25年9月27日、「障害者基本計画」(第3次計画 平成25年度~平成29年度)閣議決定

Ⅵ.障害者権利条約と障害者基本法の抜本的見直し

1.障害者権利条約の批准に対するJDFの考え方 (平成21年(2009年)3月)

 前述のとおり、JDFは、障害者権利条約の実現を目指して、特別委員会へNGO代表団を派遣し、国内においては政府と継続的に意見交換会を行い、さらに議員連盟と手を携えて、同条約制定に向けて協力関係を取りながら、運動を進めてきた。その一連の動きのなかで、現在、条約批准に向けて、障害当事者及びその障害関係者団体を中心に、国民的な規模で広く議論が行われている。
 また一方、JDFとしてのこれらの行動は、「障害者の人権の保障と尊厳並びに障害者差別禁止法の制定」を目指したものでもあり、その啓発活動として、全国各地において地域フォーラム等を開催し、障害当事者をはじめとする国民一般を対象に、さらに積極的な事業を展開している。
 障害者権利条約の理念は、条約の前文に述べられているように「すべての人権及び基本的自由が普遍的であり、不可分のものであり、相互に依存し、かつ、相互に関連を有すること並びに障害者がすべての人権及び基本的自由を差別なしに完全に享有すること」にある。すなわち、「障害者は権利の主体であること」、そして「障害者に対する差別は禁止されなければならないこと」の2点に、その基本的理念が集約されている。
 平成23年(2011年)7月29日、障害者権利条約の批准に向けた制度改革の最初の成果として、改正障害者基本法が成立した。JDFは、一日も早い条約の批准を願っているが、その批准においては、国内の障害者関連法制が条約の理念との整合性に配慮され、障害当事者をはじめとして、国民の意見を充分に取り入れたなかで、慎重に検討していくことを望むところである。

2.「障害者制度改革の推進ための第二次意見」 (平成22年(2010年)12月17日・障がい者制度改革推進会議)

1 障害者基本法改正の趣旨・目的

  • 個性と人格を認め合うインクルーシブ社会の構築
  • 障害概念を社会モデルへ転換、基本的人権を確認
  • 施策の実施状況を監視する機関の創設

2 総則関係

1)目的、2)定義、3)基本理念、4)差別の禁止、5)障害のある女性、6)障害のある子ども、7)国及び地方公共団体の責務、8)国民の理解・責務、9)国際的協調、10)障害者週間、11)施策の基本方針、12)その他

3 基本的施策関係

1)地域生活、2)労働及び雇用、3)教育、4)健康、医療、5)障害原因の予防、6)精神障害者に係る地域移行の促進と医療における適正手続きの確保、7)相談等、8)住宅、9)ユニバーサルデザインと技術開発、10)公共的施設のバリアフリー化と交通・移動の確保、11)情報アクセスと言語・コミュニケーション保障、12)文化・スポーツ、13)所得保障、14)政治参加、15)司法手続き、16)国際協力

4 推進体制

1)組織、2)所掌事務

3.第二次意見から改正障害者基本法成立に至るJDFの意見(項目のみ)

○「障害者基本法の抜本改正についてのJDF統一要求書」2011年2月24日

1.前文(新設)(前文を設け、そこで改正の経過並びに趣旨を明示)

2.目的(「障害者の権利を保障する」「保護・施策の客体から権利の主体へ」)

3.障害者の定義(社会モデルとしてとらえること)

4.地域社会における共生等

5.情報アクセスと言語・コミュニケーションの保障

6.差別の禁止と合理的配慮の定義(改正・新設)

7.地域生活を支える医療、人的支援(パーソナル・アシスタンスを含む)

8.障害のある女性(新設)

9.精神障害者(新設)

10.教育

11.労働(職業相談等、雇用促進等)

12.推進体制

○「障害者基本法の改正等についての見解」2011年4月18日

Ⅰ.障害者基本法3月14日改正版についての意見

(第二次意見の内容と大きなかい離があると言わざるを得ない。
障害者基本法改正案3月14日版における問題点や課題については、今後の国会における議論等によるさらなる改正を求める)

Ⅱ.災害復興対策に関すること

1.障害者基本法に関して

(1)障害者の被害の実態の検証

(2)検証から見えてきた障害者が必要とする支援体制の確立

(3)復興において、障害者権利条約の理念に基づき、障害当事者の参画のもとでのインクルーシブ社会の「新生」などに関する緊急事態における障害者の保護と安全の確保

○「障害者基本法改正への要望」2011年5月24日

1.前文を挿入すること

2.法律の目的は権利の保護・尊重であること

3.障害者の定義はいわゆる谷間の障害者を作らない書きぶりであること

4.改正案第三条の「可能な限り」という文言を削除すること

5.合理的配慮を明記すること

6.教育条項においては、インクルーシブ教育の原則を明確にすること

7.労働条項(職業相談等)においては、労働政策と福祉政策の一体的推進を明確にすること

8.附則(三年後の見直し規定、定期的に見直す趣旨の条項)

○「障害者基本法改正案についての緊急要望」2011年7月22日

1.参議院においても一日も早く審議し、今国会において法案を成立させてください。

2.以下、5つの項目を、衆議院で採択された法案附帯決議に追加等をしてください。

(1)障害者政策委員会について、国においては法案の成立後に速やかな設置、市町村においては設置の促進

(2)障害者政策委員会の委員については、過半数を障害当事者とすることに努める

(3)女性障害者について、実態調査等を経て、具体的な施策の検討と必要な措置

(4)精神障害者について、社会的入院の解消と地域生活を可能にする社会資源の拡充

(5)震災に関連し、衆議院での附帯決議に加え、インクルーシブな社会の実現のための検討と必要な措置

Ⅶ.障害者総合福祉法の「骨格提言」と、障害者総合支援法の成立

1.「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(骨格提言)(2011/8/30)

Ⅰ.障害者総合福祉法の骨格提言

1.法の理念・目的・範囲、2.障害(者)の範囲、3.選択と決定(支給決定)、4.支援(サービス)体系、5.地域移行、6.地域生活の資源整備、7.利用者負担、8.相談支援、9.権利擁護、10.報酬と人材確保

Ⅱ. 障害者総合福祉法の制定と実施への道程

1.障害者自立支援法の事業体系への移行問題、
2.障害者総合福祉法の制定及び実施までに行うべき課題、
3.障害者総合福祉法の円滑な実施、4.財政のあり方

Ⅲ. 関連する他の法律や分野との関係

1.医療、2.障害児、3.労働と雇用、4.その他

2.総合福祉法の制定等に向けた地方議会による意見書

都道府県15、政令指定都市8、市町村201の議会で採択。

3.障害者総合支援法の成立(2012年6月20日)

(正式名称:地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律)

附則第3条および同条第2項の検討規定(*)をはじめとする、今後の対応が求められる。

(*)「この法律の施行後三年を目途として・・・常時介護を要する障害者等に対する支援、障害者等の移動の支援、障害者の就労の支援その他の障害福祉サービスの在り方、障害支援区分の認定を含めた支給決定の在り方、障害者の意思決定支援の在り方、障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制度の利用促進の在り方、手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他の障害のための意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方、精神障害者及び高齢の障害者に対する支援の在り方等についての検討を加え、その結果に基づいて、所要の措置を講ずるものとする」「障害者等及びその家族その他の関係者の意見を反映」

Ⅷ.障害者差別禁止法の制定に向けて

1.「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」(2012/9/14)

法律の必要性

第1部 総則

「理念」として重要な視点、目的規定に明記すべき視点、
国等の責務、「障害に基づく差別」とは何か

第2部 各則(特に重要と思われる10分野)

公共的施設・交通機関、情報・コミュニケーション、商品・役務・不動産、医療、教育、雇用、国家資格等、家族形成、政治参加(選挙等)、司法手続

第3部 紛争の解決

求められる機能、簡易迅速な紛争解決の仕組みと司法判断

2.JDFによる「差別禁止部会の意見」へのコメント(2012年11月7日 民主党差別禁止法PTヒアリング)

【コメントのポイント】

1.障害に基づく差別を禁止する単独法(差別禁止法)を必ず制定すること。

2.行為規範および裁判規範となりうるように、部会意見に即して、障害に基づく差別の定義を明らかにすること。

3.部会意見で整理されている「総則」、少なくとも10の分野の「各則」、「紛争解決のしくみ」をすべて網羅した法律にすること。

Ⅸ.心身障害者用低料第三種郵便物制度について

 障害者団体の情報発信・伝達や社会啓発等の手段として、永年、心身障害者用低料第三種郵便制度を活用してきたなかで、平成20年に発覚した不正利用以来、各地で同制度利用にさまざまな問題が生じている。この問題を解決するために、総務省・厚生労働省・郵便事業会社との協議を重ねてきたが、いっこうに解決への見通しが見えない状況にある。障害者権利条約並びに障害者基本法で規定している情報保障の確保が求められる。新たな郵便制度の創設を含め、引き続き、全国障害者団体定期刊行物協会連合会と連携し、関係省・事業者と協議を行っていく。

Ⅹ. 東日本大震災とJDFの活動

 2011年3月11日に発生した東日本大震災を受けて、JDFは「東日本大震災被災障害者総合支援本部」を発足し(3月18日)、国に対して9次にわたる要望書を提出するとともに、宮城県、福島県、岩手県に支援拠点を設けて活動を続けている。
 2013年3月には、これまでの支援活動と今後の課題に関する「第3次報告会」を開催し、ドキュメンタリー映画「生命のことづけ -死亡率2倍 障害のある人たちの3.11-」を初上映した。また、震災から2年を期に「支援活動報告書」を作成した。
 震災に関する関心が次第に薄れつつある中、被災障害者の課題はなお山積し、今後とも息の長い支援活動が求められる。
 また今後の復興にあたっては、障害当事者の参加を基本として、障害者権利条約の精神に基づくインクルーシブな社会の実現を目指す取り組みが必要である。
 2015年3月に国連防災世界会議が宮城県仙台市で開催されるが、同会議で策定予定の、新たな防災に関する国際的な枠組みの中に、「障害」を位置づけるよう、国際的な発信も行っている。

Ⅺ.障害者権利条約の批准と実施に向けての今後のJDFの取組み

 障害者制度改革を経た現在、JDFは残された課題を認識しつつも、障害者権利条約の一日も早い批准を望んでいる。批准をテコに今後とも国内法制度の向上を図る取り組みを続けていく。具体的には、批准以降の、国連に対する締約国としての報告や、条約体である障害者権利委員会への日本からの委員の推薦といったことも目指して活動を行っていく。
 JDF内部で学習や意見を深め合うとともに、政府や議員連盟との意見交換等を継続して行い、また、並行して各政党との意見交換も行う。その上で、JDFだけでなく、他の障害関連の団体や他の市民団体との連携も図り、特に国民への普及啓発活動も積極的に展開する。
 さらに、千葉県、北海道、岩手県、さいたま市、熊本県、八王子市、長崎県、沖縄県に続き、各自治体における差別禁止条例制定への動きに対して、地域の団体等と連携・協力を図っていく。
 そして、現行の障害者関連法制が、障害者権利条約の精神を反映し、その実施状況が、ひいては世界各国の模範となるよう、JDFの取り組みとして努めていく。

Ⅻ.障害者権利条約条文について

 障害者権利条約は、前文、本文50ケ条及び末文から成る。なお、この条約と同時に採択された、個人通報制度等に関する障害者権利条約選択議定書(Optional Protocol to the Convention on the Rights of Persons with Disabilities)は、前文、本文18ケ条及び末文から成る。
 この条約の特徴は、"Nothing about us without us"のスローガンに象徴されるように、その制定過程に障害当事者を始めとする障害関連団体が参画したことである。さらに、非差別・平等を基調とし自由権と社会権を包括していることである。
 この条約の目指すところは、障害者の実質的な権利享有上の格差を埋め、保護の客体でしかなかった障害者を権利の主体へとその地位の転換を図り、インクルーシブな共生社会を創造することである。
 日本は、平成19年(2007年)9月に条約に署名したが、締結に向けて、前述したように、障がい者制度改革推進本部並びに障害者政策委員会を中心に、同条約の締結に必要な国内法の整備を始めとする障害者に係る制度の集中的な改革に取り組んできたところである。そして、同条約の締結に際し策定される日本語の正式な訳文においては、この条約の趣旨・目的に照らし、条約で示された障害者の人権とその確保のための締約国の義務が明確に表現されるものとすべきである。(第一次意見より)

本条約は全50条からなっている。

  • 1条-9条は、総則にあたる一般規定(基本的理念原則)。
  • 10条-30条は、実体規定。
  • 31条-40条は、モニタリング等実施規定。
  • 41条-50条は、条約の効力発生・批准手続き等の規定。

第1条 条約の目的

第2条 定義

第3条 一般原則

第4条 一般的義務

第5条 平等及び無差別

第6条 障害のある女子

第7条 障害のある児童

第8条 意識の向上

第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ

第10条 生命に対する権利

第11条 危険な状況及び人道上の緊急事態

第12条 法律の前にひとしく認められる権利

第13条 司法手続きの利用の機会

第14条 身体の自由及び安全

第15条 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由

第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由

第17条 個人をそのままの状態で保護すること

第18条 移動の自由及び国籍についての権利

第19条 自立した生活及び地域社会への包容

第20条 個人の移動を容易にすること

第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

第22条 プライバシーの尊重

第23条 家庭及び家族の尊重

第24条 教育

第25条 健康

第26条 ハビリテーション(適応のための技能の習得)及びリハビリテーション

第27条 労働及び雇用

第28条 相当な生活水準及び社会的な保障

第29条 政治的及び公的活動への参加

第30条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加

第31条 統計及び資料の収集

第32条 国際協力

第33条 国内における実施及び監視

第34条 障害者の権利に関する委員会

第35条 締約国による報告

第36条 報告の検討

第37条 締約国と委員会との間の協力

第38条 委員会と他の機関との関係

第39条 委員会の報告

第40条 契約国会議

第41条 寄託者

第42条 署名

第43条 拘束されることについての同意

第44条 地域的な統合のための機関

第45条 効力発生

第46条 留保

第47条 改正

第48条 廃棄

第49条 利用しやすい様式

第50条 正文

(公定訳案より)

以上