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パネルディスカッション 後半

パネルディスカッションの様子

指定発言

藤井●
 先ほどはパネリストから重点課題を述べてもらいましたけれども、今日は大勢の方が参加されていますので、まず代表として、4人の方から、それぞれの団体や、個人としての考えや、批准後の当座の重点課題などについて、あらかじめ発言をお願いしました。まず、日本自閉症協会理事の柴田洋弥さん。それから今日は知的障害分野の発言が少なかったこともあって、東京都手をつなぐ親の会副会長の矢野久子さん。それから地方を代表して、被災地の宮城県から参加された、JDF宮城会長の森正義さん。最後に、日本障害者リハビリテーション協会副会長の松井亮輔さんから、ご発言をいただきます。柴田さんからお願いします。

柴田●
 発言の機会をいただき、ありがとうございます。日本自閉症協会の柴田と申します。今日、お手元に自閉症協会の提案書を配らせていただきました。この文書は、11月12日に協会の内部手続きを経て公表することになりました。そのあと17日に山本真理さんからメールをいただきました。国連障害者権利委員会が「障害者権利条約12条一般意見案」を発表したということで、その翻訳をいただいて、今日配った提案書との調整をしなければいけないなと、悩んでいるところです。
 まずは経過をお話しします。権利条約12条の問題は、我が国の中でも十分議論されてこなかったところです。私たちはこの12条が非常に重要であると思い、知的障害・発達障害の分野から発言をしています。この12条を基に、障害者基本法に「意思決定の支援に配慮すること」という文言を入れていただきました。
 権利条約12条の解釈ですが、第2項のすべての障害者が他の者と平等に、法律の行為能力を含めて、同じ権利を持っているというところが非常に重要であると思いました。また第4項は、成年後見制度の運用上の課題というふうに理解できると、私たちは考えました。1999年の欧州会議で、意思能力の不十分な人については、意思決定支援にまず全力を尽くし、それがどうしても難しい場合に限って代理決定が認められる、そういう方向が出されました。そして2005年のイギリスの意思能力法もこの考えをもとに作られました。私たちはこれらの経過を参考にしてきたわけです。
 日本成年後見法学会では、私も属していますけれども、障害者権利条約を受けて、我が国の成年後見制度をどう改革するべきかという議論がされています。成年後見の「類型」には「補助」「保佐」「後見」があります。この中で「補助」類型は基本的に本人同意を前提としています。そこで、将来的には「保佐」と「後見」類型をなくして「補助」類型に一本化する中で、個別に必要な支援を、代理決定を含めて調整をしたいという方向で話し合われています。しかしながら、成年後見制度の見直しの議論がなかなか進まないという現状がありますので、「成年後見制度利用促進法案」という名前で、まず当面の運用問題の解決を図りながら、その次に根本的な行為能力制限の問題を議論しようという、2段階のプログラム法案を作りました。それに、昨年7月に公明党が賛成をして、公明党案として公表されました。まだ国会には提案されていません。
 今年の10月30日に、日本成年後見法学会の主催で、この「成年後見制度利用促進法案」を進めようという院内集会が開かれました。これには与野党の議員も参加しまして、法案の実現を進めようという気運になってきたところです。こういう経過を基に、12日に日本自閉症協会が提案したわけです。
 しかしながら17日に、山本さんから、今日お手元に配られている資料の「権利条約12条(法の前の平等)一般意見案」の翻訳メールをいただきました。それを読んで、成年後見制度の改革の方向性について、根本的な見直しが必要ではないかと考えるようになりました。
 この「一般意見案」は、「代理決定」を全面的に否定しています。本人が決定する場合は別にして、支援が必要な人については「支援された意思決定」のみで、「代理決定」は認めない。しかも代理決定の成年後見制度を即時撤廃すべきだと書かれています
 この「一般意見案」がそのまま確定した時に、日本の中でこれから成年後見制度の見直しをどう進めるのか。民法改正というのは非常に難しい大きな問題ですから、代理決定をやがてなくすという目標を置きながら、先ほど山本さんが「代替的な改正」とおっしゃいましたが、その「代替的な仕組み」をどう整えながら進めていくのか、その見通しをこれから考えなければならないと思っているところです。
 今日、障害者権利条約の批准が承認されたのを出発点に、主に知的障害、精神障害、あるいは発達障害の人たちの問題かもしれませんが、他の障害種別の関係の方々も一緒に、この問題を考えていただければと思います。
 発言の時間をとっていただいてありがとうございました。

藤井●
 非常に大事な課題です。今日の発言者の大半は障害分野のリーダーですが、障害分野のより困難なところを、一つも取り残すことなく、全障害分野で考えていくことが必要です。今、柴田さんから提起いただいた問題は、山本さんからの提案と合わせて、今日すぐ答えが出る問題ではありませんが、一同で真摯に受け止めて持ち帰り、みんなで考えていくということになると思います。
 続きまして知的障害分野になりますけれども、矢野さん、発言いただけますか?

矢野●
 こんにちは。私は東京都知的障害者育成会、東京都手をつなぐ親の会の矢野久子です。今日、発言の機会をいただきましてありがとうございます。
 私たち親の会は、制度も補助金も何もないときから知的障害のある子ども達のために頑張ってきた会でございます。この10年、いろいろ制度は整ってきましたけれども、地域で人間らしく暮らしていくというところにはまだまだ行き着いておりませんので、今日の条約批准の承認を大変喜んでおります。
 私が今、一番気になっているのは、やはり情報保障ということです。知的障害の障害特性ということを考えますと、どうしても難しい議論が続きまして、本人たちがなかなか参画できないという状況がまだまだ続いているように思います。
 権利条約が批准されましても、本人たちが自分たちの権利というものをどう考えるか、どう生かしていくか、まだまだ親としてもしなくてはいけないことがたくさんありますし、皆さんにも考えていただきたいと思っています。
 知的障害の人もいろいろな人がいます。言葉が出ない人もいます。また簡単であれば十分に理解をして自分の意見を言える人もたくさんいます。ただ、経験が少ないのだろうなと思います。長瀬先生が編集された「わかりやすい障害者の権利条約」の本を利用しながら、本人たちと学習会などもしておりますが、そのときに本人たちは自分たちの経験から苦しかったことや悔しかった思い出などを発言して、仲間と助け合って学んでいます。そういうことが十分できる人たちですので、どうか本人たちにもわかりやすい情報提供を心がけていただきたいと思います。
 また、親はどうしても子どもを守りたい、失敗させたくないという思いがありますが、失敗してもいいんだよ、あなたの人生を親も支援者と一緒に見守るからねという気持ちでいきたいなと思っています。
 今日はありがとうございました。

藤井●
 私たちのフォーラムもまだ成熟できていないと思うのは、ここに参加するお母さんたちの数もそう多くないし、特に知的障害者ご本人が多くいらっしゃらない。仮にいたにしても議論がわかりにくいかと思います。ここをどうするかということも、これからの大きな課題になると思います。政策上の課題だけではなくて、私たちが伝え合う努力をするという、実践的な課題も、突きつけられている感じがします。
 それでは森さん、いきましょうか。

森●
 JDF宮城の森です。所属は宮城県身体障害者福祉協会です。私は気仙沼に住んでおりますので、NHKが報道しましたが大規模火災が起きて、私はそのとき死んだとされていました。しかし何日か後に報道に映って、あ、生きていたんだと言われて現在に至っております。
 権利条約の中で、災害関係は多分ほとんど触れていない。触れているとすれば第11条の「危険な状況及び人道上の緊急事態」ということだと思います。8年前の権利条約ですから、この8年の間に東日本大震災が起こりました。今日はちょうどあの震災から1,000日目です。マスコミが随分、1,000日目、1,000日目と報道しています。先ほど、ミレニアム開発目標=MDGsの話がありましたが、ミレニアムは1,000年ですね。聖書の中に「一日は千年の如く、千年は一日の如く」という言葉がありますが、1,000日もあっという間に過ぎました。
 先日、仙台でろうあ連盟の石野理事長さんに会ってこういう手話を私は教えられました。「復旧」という手話です。「復旧」と「復興」。気仙沼に住んでいる私から見ますと、どちらもまだまだです。ただ、権利条約があったからこそ、その後の、例えば第3次障害者基本法では安全・安心ということで、防災と復興と防犯と消費者トラブルというのが入ってきました。また、先日行われたアジア太平洋障害フォーラムでもインチョン戦略の中に防災に関してはかなり入っていたように思います。権利条約があったからこそではないかと思います。
 先日10月29日に岩手の陸前高田市で国連の防災の日のセミナーがありました。テーマは「障害者と防災」ということで、国連の国際防災戦略事務局のワルストロムさんをお招きして、藤井さんもいましたし、私が住んでいる気仙沼から高田はすぐですので私も参加させていただきました。あのような国際的な機関の中で、日本からも入って活躍する方が、ぜひ若い世代であってほしいなと思いながら話を聞いていました。
 2015年3月には仙台で会議が開かれます。12月号の仙台の市政だよりにはその日程が入っていました。何ページかにわたって防災会議をしますよということがPRされていました。 障害者団体の現場にいますと、私の個人的な感想で申し訳ないんですけれども、権利条約の勉強会もいいんですけど、やはりまずは障害者基本計画辺りからしないと、なかなかピンとこないのかなと思っています。それでも宮城県身体障害者福祉協会は来年度の事業計画を間もなく立てようとしているんですが、この権利条約の勉強会をきちっとするようだという話を、先日したばかりです。
 私も六十何年生きていますけれども、あの東日本大震災は本当に忘れられない。JDFが作った「生命(いのち)のことづけ」のドキュメンタリー映画に私も2回ほど映っているのですが、どこに行ってもあれを携えて上映していただいて、その後に私がコメントをするというということを続けています。今月は仙台にあります宮城学院女子大学でも話をすることになっています。災害弱者ということで障害者のみならず高齢者や子どもたちも含めたシンポジウムをすることになっています。その聴衆は大学生、それも発達臨床学科の学生さんたちです。多分、保育士になろうとする学生や発達障害を持った子ども達の支援に当たろうとする学生が対象だと聞いています。
 映画を見ながら私は必ずその後に話すんですが、最初の映像は気仙沼から入ってくるんです。映画に登場して犠牲になった方々、2人の方を存じ上げているので。人前で話すというのはいつも淡々と話すんですが、映画を上映した後に、森さんどうぞと言われて登壇すると、もう7回も8回も語っておりますけど、感極まってしまいます。それだけの大変な被害を受けました。まだまだ復旧も復興もままならない状態です。
 気仙沼はご存じのとおり打ち上げられた大きな船が解体されました。あれがなくなったので、ほとんど誰も来なくなりました。陸前高田は一本松があるのであそこに行きますけれども。この間、ケネディ大使も南三陸町まで来て、気仙沼に寄るかなと思ったら高田の方に行ってしまいました。ああいう遺構というものがなくなることの影響も大きい。その後、風化してしまうのかなと思っています。
 安全・安心、その中に防災や復興ということがきちんと位置づけられていますので、これを機会にしっかりと皆さんで勉強していきたいと思っています。

藤井●
 それでは指定発言の最後になりますが、松井さん、お願いします。

松井●
 ご紹介いただいた日本障害者リハビリテーション協会の松井です。私は権利条約の第1回の特別委員会から藤井さんたちとご一緒しておりました。そういう意味で今日、この批准が承認されたということは非常にうれしいことだと思います。ただ、尾上さんもさっきおっしゃっていたように喜んでばかりはおられないというか、これから取り込むべきことがどれくらいあるかということを考えると、私たちのような世代はそれこそリタイアですけれども、尾上さんのような世代、中堅の方々が取り組むべき課題、国内においても国際的においても。
 今日、ヴィクトリア・リーさんがおっしゃったように、権利条約だけではダメだと。権利を実現するには一般の条約、例えば社会権規約なり人権規約なり、あるいは女性差別撤廃条約なり、そこの中にどう取り込んでいくのかということが併せて大事なことである。そういうことになると、当事者団体だけではなくて一般の人たち、NGOを含めてどう取り入れていくのか。そのためにはJDFはもっと力をつけていかなければいけない。そういう再出発の時としての決意表明を後で藤井さんがされると思います。
 これまでJDFが取り組んでこられたのは、支援していただいている財団の方々が少なくとも条約が批准されるまでは応援しましょうと、そういう理解のもとで我々はやってきました。先ほど尾上さんたちがおっしゃったように、これから取り組むべき課題のたくさんのことを覚えると、終わったからあとは自助努力でやりなさいということだと、JDFは前へ進めません。ぜひともそういう支援も併せてやっていただきたい。もちろんJDF自身が力をつけてもっともっと頑張らないといけないということもありますけれども、より多くの方々がこの活動を見守り支援するような仕組みをどうしていくかということを、先輩として期待しながら見守らせていただきたいと思います。ありがとうございました。

藤井●
 松井さん、まだまだ頑張ってくださいね。東さんや松井さんがおっしゃったように、JDFの課題、期待というのがありますのでね。

フロアからの発言と回答

藤井●
 それでは多くの時間はとれませんけれどもフロアの中から、この際、話をしておきたいという方がいたらいかがでしょうか? 挙手をしていただけますか? ではお願いします。

会場●
 個人的な問題かもしれませんけれども、私の場合、結婚しておりまして妻が公務員だものですから、重度訪問介護の自己負担が最高限度額の3万7,200円かかるわけです。子どもの教育費がどんどんかかっていくので大変な状況なんです。今後、この問題はどういうふうになっていくのでしょう? 和解したはずなんですけれども。お願いします。

藤井●
 世帯合算で奥さんの公務員としての給料が算定の基礎になると3万7,200円を月々払うんだということですね。基本合意文書の反省を含めて、恐らく権利条約などから見てもどうかという趣旨でしょう。これは後で尾上さんからコメントをもらいましょう。では次の方にまいります。

会場●
 お尋ねです。二つあります。一つは、確か条約の第2条だったと思いますが、点字と録音と拡大文字というのが条文の中に明記されていたと思います。そこで私どもは、選挙公報が発行されないことに課題を感じています。要するに、点字だと公職選挙法の中で、原文そのままでなく民間が作って、いわゆる選挙管理委員会が発行しているわけではないという部分で、情報アクセスのところでは差別があると思っています。作ってくれと言うと必ず「お金がない」と言われてしまいます。その辺は山本さんも先ほどおっしゃっていたと思いますが、こういったことを履行するために予算をどうやってつけていくのかというのが一つです。
 二つ目は自筆の署名のことです。全盲の人たちは自筆で署名をしろと言われても代理署名はどうなるかという話だとか、意思はあるのに字が書けないからといってその意思を、言葉では表現できるのに書けないから認められない書類がある、こういうこと自体も納得いっていません。その二点です。

藤井●
 これも後で東さんからコメントをもらいましょう。次にいきます。

会場●
 難病の当事者です。難病患者の多くは障害者権利条約というものがあるということをあまりご存じでなかったり、条約の重要性について認識がまだまだ広まっていないということがあります。その中で、午前中、民主党の議員の挨拶の中でもあったと思うんですが、難病対策の議論が進んでいます。難病対策を法制化して対象となる疾患を増やそうということで前向きな議論が進んでいるのかなと思いきや、大幅な自己負担を求めるという動きが出てきています。これは難病患者が病院に行ったり薬を飲むということに対して、自ら受診抑制をする、そういうレベルの負担増となっています。今、非常に危機感を持って運動をしています。また、医療費の問題だけではなくて生活支援についてもまだまだです。障害者総合支援法でようやく一部の難病が対象にはなったんですけれども、骨格提言で言うところの「制度の谷間」をなくすという、根本的な解決にはなっていません。そういったことも含めて、批准された権利条約というものを羅針盤にして、難病の当事者たちも考えていきたいと思っています。皆さんと一緒に今後とも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

藤井●
 「他の者との平等を基礎として」ということでは、一般市民との格差の問題もあるけれども、谷間と言われている方々の問題、あるいは障害間格差、これもまだ残っています。権利条約はアクセサリーではなく、今起こっている課題にどう貢献するのかが大切だという、とても切実な、また今日的なご意見でした。では次いきます。

会場●  三重県から来ております。個人的なことで申し訳ございません。本日たまたま私の誕生日でございまして、記念すべき日に参加させていただいて本当にうれしく思っています。
 それで一つお願いというか、考え方なんですけれども、20歳を過ぎたら障害者もやはり大人として認められていくべき施策を何とか確立していただきたいです。迫田さんの意見にもあったと思うのですけれども、今までの日本の施策はつぎはぎだらけで、地域格差は出るし、国はお金がないので地方へ放りつける。そういう中にあって、年金制度を含めて根本的なところで、どこに住んでいても同じように生活できる環境を実現する取り組みをぜひお願いしたいと思います。家族とは心だけの関係であって、20歳を過ぎたら大人として認め、経済的に自立することも、自己実現をするために大事です。そういう視点で根本的な取り組みをお願いしたいと思います。

藤井●
 ちなみに今日が誕生日の人、挙手してください。いますか? 特に賞品はありませんけれども(笑)。ではフロアからの最後のご発言をどうぞ。

会場●  誕生日ということで手を挙げてしまったんですが、字幕の時間差で間違えました。今日は誕生日ではないですけれどもとてもうれしい日です。
 二つ意見があります。昨日まで参議院を傍聴していたんですが、10人くらいのほかの傍聴者と筆記通訳でご一緒しました。それで思ったんですが、政策委員会では手話通訳と字幕を画面の中につけています。国会もインターネットで全国に生中継されていますし、後から見ることもできます。だから一番早道なのは国会のインターネット中継に字幕と手話を入れることだと思うんです。これは簡単ではないですが、ぜひ実現していきたい。皆さんの知恵を借りたいです。
 もう一つは、今ちょうど地方条例や差別事例のパブリックコメントを募集しています。これからは各地で一人ひとりから意見を出していく時代だと思うんです。今後の条約に対する意見、女性差別撤廃条約とかそういった方面も含めて意見を出していけるような仕掛けを地域から作っていく必要があると思うのです。簡単にパブリックコメントと言ってもなかなか出せないです。一人ひとりが意見を出しやすいような仕掛けをぜひ作っていきましょうという意見です。

藤井●
 とても大事なサジェスチョンだったと思います。
 では、一つ目は総合支援法関係の費用負担と家族あるいは世帯合算の問題について、尾上さん、いかがでしょうか。財政の問題がいつも言われてしまいますが、条約の批准とこの辺りをどう方向づけができるのか。もう一つは、意思決定支援の関係で、本人の意思はあるんだけれども全盲の人の直筆問題をどう考えればいいのかについて、東さんからコメントをいただきます。では尾上さんからお願いします。

尾上●
 尾上です。資料の中に、総合支援法の概要の説明図があります。その中の一番下に「検討規定」が記されています。それが今から2年後に迫っているものです。5項目、9~10テーマくらいあるわけです。特に①として、「常時介護を要する障害者などに対する支援」、「移動の支援」、「就労の支援」、「その他の障害福祉サービスのあり方」とあります。その中で、利用者負担のあり方についても検討するということが確認されてきています。
 厚労省の資料だと「その他」というところが結局わからないような説明になっていますが、もう一度、この総合支援法の検討過程の中で、「その他の障害福祉サービスのあり方」というところで利用者負担のあり方について再度議論をすることになっているということを、まず確認しておきたい。
 今現在、扶養義務者に関しては20歳までの子どもさんに対する負担と、もう一つは配偶者との合算という形になっている。20歳を過ぎたら一人の大人として独立した個人としてということを、やはり基本にしていくべきだと思います。日本はどうしても世帯単位で制度がつくられて来ました。20歳を過ぎても親や兄弟が障害者を面倒見るべしということで、結局障害児殺しやいろいろな不幸な事件も起きてきてしまったわけです。だからこそ、「障害者を大きな赤ん坊にするな!」、20歳過ぎたら一人の独立した人間として認めてほしいということを言ってきました。
 家族単位、世帯単位からシングル単位の社会保障に組み替えていく、そのトップランナーとして障害者施策は頑張らないといけないのではないかなと思っています。3年後の「その他の障害福祉サービスのあり方」というところの見直しの中で、今おっしゃられたことも含めて、しっかりと団体として言っていく必要があると思います。
 特に権利条約との関係では、先ほど難病の課題が出ましたが、ずっとこの間、厚生労働省のプログラム法案で出ているロジックというのは、公平性や均衡、あるいは他制度との整合ということなんです。でも誰と誰との公平か?要は難病患者間同士や医療を必要とする人との間のことが取り沙汰されている。何かこう、障害者同士や難病者同士をいがみ合わせるような形の公平論なんです。でも権利条約が言っているのは「他の者との平等」。障害のない人との平等です。つまり障害のない人だと使っていない支援、それを使うことで初めて平等になるということです。つまり「何との平等か」について、しっかりと障害者団体から議論を巻き起こしていかなければいけないのではないかと思います。
 改正基本法で障害者権利条約の社会モデルという考え方が取り入れられたわけです。障害者が生活しにくい、社会参加しにくい、その障壁を取り除くことが社会の責任だということをしっかりと提起していく。権利条約を物差しにする。日本で言われている公平や整合性の議論について、権利条約との整合性をとってほしいわけです。もう一度言いますが「他の者との平等」。障害のない人との平等を基本に置いた今後の制度設計に対する提案が重要ではないかと考えています。以上です。

藤井●
 それでは東さんからお願いします。

東●
 選挙のお知らせの問題提起、国会での議論の中継、特にインターネットの手話や要約筆記ができないのかという問題提起が出ています。これらはいずれも民生の最も基礎の部分と言いますか根本をなす、政治に関する知る権利という問題であるわけです。他との平等という観点から権利条約がいろいろ書いてありますけれども、一般国民に対して、特に政治に関する情報を行政が流す場合には、やはり平等ということが強く求められる、そういった課題だと思っています。これについてこれまでの議論の中では、当然それを保障していくべきだということが推進会議などで議論されてきたわけです。ただ現状としてはいろいろな課題があるということで、批准後はこれについては知る権利の平等、他と同じようにきちんと保障されるという課題として検討されていくべき問題だろうと思っています。あくまでも個人的な見解ではありますが、そういった方向で問題提起されて議論していってほしいなと思っています。

藤井●
 視覚障害者の直筆問題はコメントありますか?

東●
 法律上、自筆でなければならないという部分を除いて、一般的に契約というものは意思の合致があれば足りるわけで、必ずしも署名が要件とされるわけではないのです。しかし自分の紛争を防止するという観点から自署が求められることが多いわけです。そういう場合に自署でなければダメだということになると、契約する自由そのものが奪われてしまうという問題になるわけです。ですから契約をする機会の平等の保障という観点からは、自署ができなければ自署に代わる代替的な手段とか必要な配慮、合理的配慮ということになろうかと思いますけれども、そういうものをこの社会は開発して提供していくということが求められるのではないかと思っている次第です。

障害者権利条約の社会への周知

藤井●
 それでは次に進みましょう。批准を迎えた私たちですが、批准したこと自体を広く社会にどう知ってもらうのかが課題です。選択議定書まではともかく、今般批准した50カ条の本則の内容をどうやって社会に知ってもらうのか。一般社会ばかりではなく、障害分野や、我が団体にもどうやって知ってもらうのか。ここは迫田さんから口火を切ってもらいましょう。

迫田●  先ほど藤井さんから、あまり視聴率は高くないがEテレでと言われましたが、いろいろな形で番組を作ってはいるんですが・・・。国会の参考人質疑で川島聡先生が内閣府の調査をご紹介されて、障害者権利条約の中身まで知っている方は2%とおっしゃっていました。うちの番組の視聴率みたいだなと思ったりしました。
 大きく一気にワッと伝えるというのは難しいと、現場にいて思います。じわじわと本当に理解する人を増やしていくという方法しかないのかなと、こういう地味な番組を作っていて思います。ただ、一緒に番組を制作している仲間たちに若い人たちが次から次へと育っていますので、そういう人たちが自分たちの視点で番組を作り、中身を伝えていってくれると思います。合理的配慮についても番組で繰り返しやってはいるのですが、自分たちが本当に腑に落ちているかというと、まだわからないまま手さぐり状態です。障害者差別解消法施行に向けて、基本方針、ガイドライン作成まで、繰り返し考えていかなくてはならないでしょう。
 先ほどJDFの森さんから被災地のお話があって、ちょっとお伝えしておこうと思ったのですが、障害者の死亡率が2倍だったというのは、実は私どもの「福祉ネットワーク」という番組で震災半年後、被災自治体に問い合わせをした結果出てきた数字でした。座視しているだけでは、データというものは全く出てこなかったのです。私たちは各市町村の窓口にファクスをして、手帳を持っている人の何人が亡くなられたのかということを、全体の死亡率と比較するという形で計算して出したのが、2倍という数字でした。その後も政府がデータを出したとは聞いていないので、JDFが製作されたの映画のきっかけも、私どもの数字だったのではないかと思います。
 そういう意味では私たちの役割というのは、そうやって調査をし、現実を伝える、というメディアの基本以外の何者でもない、と。もちろんデータの収集というのは政府がやると権利条約にきっちり書いてあることですから、実行してもらわないといけませんが。今回の死亡率のデータもそうですけれども、伝わっていない部分をきっちり取材して伝えるという姿勢を今後も繰り返すしかないと思います。
 もう一点は、福祉の番組やニュースというと、障害を乗り越えて頑張っているドキュメンタリーみたいなのがウケるわけです。それで一時的に涙を流して感動するという形の番組は結構あります。もちろんそれは否定しませんしとても大切なことだと思うのですが、やはり福祉の番組で一緒に取材をして番組を作っている若い人たちは、「障害を乗り越える」という言葉がふさわしくないことに気づいていきます。周りの困難というものはなぜできるのかという発想を持つと、それは同じ感動のストーリーとして伝えるのでも変わってきます。内なる差別意識というか。例えば今ときどきニュースになる新型出生前検査、結果的に中絶ということを選ぶ女性たちが多くいるわけです。そういうことを伝える現場にいる若い人たちに、それは一体何を意味するかということを伝えると、だんだん考えが変わってきます。自分のこととして考えてみると変わってきます。
 そういうことを繰り返し、自分たちの内なる考え方の差別意識、優生思想みたいなものに気づいていくことを地道に続けていくということも大切だと思っています。
 メディアというのはときにやっかいな存在でもあるかもしれませんけれども、ぜひ、いい形で利用していただいて、ともに前進していくということを考えていただきたいと思います。我々も努力をいたします。いろいろな情報をお互いに共有していければ、思っています。

藤井●
 はい、頑張ってほしいですね。(拍手)
 そうは言うものの、ぜひ総合テレビにも少しチャンスがあったらお願いしたいと思いますよね。迫田さん、今日は障害者団体のリーダーたちが集まっていますが、せっかくですから、皆さんに対して、こんなふうにして条約を浸透させていったらいいという、日ごろからのお考えが、何かありますか?

迫田●
 現場の情報を、ぜひ伝えていただきたい。多分皆さんにとっては当たり前だったり、あるいは皆さんにとってはこんなことを言ったら申し訳ないかなとか、遠慮されたりしていることがあるかもしれません。けれども皆さんがお考えになっている以上に皆さんが持っていらっしゃる情報は重要で貴重です。いろんな形で伝えていただいたらいいと思います。

藤井●
 大変貴重なアドバイスでした。ヴィクトリア・リーさんからも後でコメントをいただきますのが、まず、山本さん、田畑さん、尾上さんの順番でまいります。山本さん、お願いします。

山本●
 私どもの場合、まず会員に条約のことを知ってもらうのが大変だなというのが正直なところです。
 おそらく世界的な国内の精神障害者団体で、全国「精神病」集団ほど特別委員会の情報を邦訳して流し続けたところは多分ないはずなんですが、残念ながらほとんど興味を持っていただけない。私は一体どのように伝えるかなというところで、今、悩んでおります。条約というと雲の上のようなことだというところをどう打ち破れるのかということが一つ。それにはやはり今の強制入院制度をどうするのかというところから考えていくのが必要だと思っています。
 もう一つは、広く市民の興味を持っていただくには、精神科で言えば認知症のある方、もっと一般的には高齢者の問題です。65歳以上が障害者でないというのは障害者基本法にも条約にも書いてないわけです。病棟転換、施設の問題もまた高齢者の問題でもございます。さっき言ったように、健康でお金があって障害のない壮年男性だけが人間というのはおかしいよというのをもっともっと言っていかなければいけないと思っています。
 いろんな条約に取り組むには、国連のハンドブックは必読文献です。(『市民社会向けハンドブック ――国連人権プログラムを活用する』国連 人権高等弁務官事務所(著), ヒューマンライツ・ナウ (翻訳), 阿部 浩己 (翻訳), 安孫子 理良 (翻訳), 伊藤 和子 (翻訳), 枝川 充志 (翻訳), 須田 洋平 (翻訳) 信山社(2011/10/1)」)
外に置いてありますのでお手にとってご覧ください。その他、パンフを置いてありますのでよろしくお願いします。

藤井●
 ありがとうございました。それでは田畑さん、よろしくお願いします。

田畑●
 山本さんと同じで、私も同じ障害のある人たちに条約の内容の浸透というのはもっともっと必要だと思っています。私の部分は視覚障害ですけれども、IDAでもすごくたくさん資料がありますが、私でも全部こなせないと思うので、英語から直接情報を入手しない人にはなおさら遠いのではないかと危惧しています。
 WBUの方でもそれぞれの条文に関して視覚障害の手元に引いてきた内容のものをいろいろ作っているので、それを国内の同じ障害のある人たちに持っていくのは、やはり自分が担っていかなければいけない部分だと思っています。
 それから先ほども言いましたように自分は障害と関係のない仕事、関係のないと言うとちょっと語弊がありますが、障害者が一人もいない仕事場にいるので、例えば将来的に国連の関係の仕事をしたいと思っている人でも権利条約のことは知らなかったりします。普段、障害のある人たちと関わっていない人たちの文脈でどうやって権利条約の話を皆さんにわかってもらうように伝えていくのかというのは、私の日々の課題になっています。
 それから先ほどから、例えば自筆のこともですが、合理的配慮を皆さんにやってもらうためには、その人独自のニーズに合わせたことが必要です。私は常々思っているのですが、どうも日本の社会というのは基準から外れたものを導入するのが難しい。それこそ自筆と決めてしまったらすべて自筆でなければいけなかったり、4時30分30秒に電車が出発すると決めたら4時30分30秒に必ず出発しなければいけないので1分遅れたらみんな謝り出すとか。合理的配慮を認める範囲を広げるためには、こういった窮屈ともいえる感覚ではなくて、ニーズが人によって違うのだから人によって対応が違うということを、もっと許容できる社会にしていかなければいけないと個人的には思っています。

藤井●
 わかりました。では尾上さん、お願いいたします。

尾上●
 東さんが室長になられてこの4年半、本当にご苦労さまでした。この間、国を中心にした改革の集中機関ということで、普段だったら多分今の3倍くらい、10年から15年くらいかかるような法律改正をこの3、4年の間にガッとやったという感じがしています。今までどちらかというと障害者施策というと地方自治体でいい取り組みがあって、それを国が採り上げていくみたいなのが通例でした。しかし、それとは違うパターンになっています。地域での障害者制度改革が今後重要になります。一つ着目すべきは、地域での取り組み。例えば差別解消法を受けて各地で条例づくりも進んでいますけれども、もっともっと差別解消条例、差別禁止条例を作っていく、あるいはそれに併せていろんなキャンペーンをしていくということが考えられるのではないかと思います。
 そしてこの権利条約が目指しているものは、インクルーシブな社会。障害の有無によって分け隔てられないということだと思います。日本は今までどうしても分け隔てた上で特別に何かしてあげましょうみたいなことに慣れ親しんできた社会なのかなと思います。
 そういう意味で変えていくのは一朝一夕にはいかないですが、習うより慣れろみたいなところがあります。私が地域の講演に行くと、多分、電動車いすは初めてなんだろうなという地域で、電車に乗るとワーッとみんなの目線を感じる時があります。目線が集中したかと思うと、その後目を合わせないように下を向かれるんです。あ、なつかしいなという感覚があります(笑)。以前は、障害者運動の活発な地域でも、20年、30年くらい前はそうでした。でも今、例えば東京で地下鉄に乗ったからといって、ワッと視線が集まることはあまりありません。実際に一緒に移動したり、見慣れてきているからなんだと思うんです。そういう意味で、インクルーシブ社会に向けて地域で生活をする、ともに学んだり働いたりする、それがあちこちの実践でどんどん広がっていくことが実は社会を変えていく。毎日毎日の日常の実践として大事なことなのかなと、併せて申し上げておきたいと思います。

藤井●
 4人ともとても参考になるご発言でした。ほかにもいろいろなアイデアがあると思います。まずは我が団体、それから障害分野全体、それから社会化、市民化という方向に考えなければいけないと思っています。その前に私自身がどう受け止めるか。第一人称、そこからも始まるかもしれません。ぜひ参考にして帰ってほしいと思います。

ヴィクトリア・リー氏のコメント

藤井●
 東さんから全体のコメントをいただく前に、今日、午前中お話をいただいて午後も参加いただいたヴィクトリア・リーさん、IDA=国際同盟としての観点からも、一言感想をいただけますか? お願いいたします。

ヴィクトリア・リー●
 ありがとうございます。本当に今回のパネルディスカッションは、とても興味深いものでした。条約の批准という歴史的な時に、このように皆さんと一緒できて本当にうれしく思います。コメントはいくつかあります。
 まず、日本の皆さんは、先に国内法の整備を行うために、時間をかけて批准されたと思いますが、それはとてもいい取り組みだったと思います。そうしたことを行ったことで、JDFや日本の障害者運動が一つになれたと思います。多くの国が批准したときにはそうではありません。通常、政府が批准し、それからいろいろなことに取りかかります。国内法が権利条約と一致するようにと取り組み出すわけです。ですので障害者団体の間でなかなか意見が合わなかったりすることもあります。それが権利条約を実施するうえで大きな障害になることもあります。ですので批准前に皆さまがこのようなことをされたことは本当にすばらしいと思います。そして、このたびの批准から、皆さんは最大限の恩恵を受けて、さらに次のステージに進んでいくことができるのではないかと思います。
 今日は皆さんから、権利条約の実施をいかに成功させるかについてのお話もお聞きしました。これは一つの障害分野だけの戦いではありません。例えば精神障害者だとか視覚障害者が自分たちのためにというのではなく、集合的な話です。つまり障害を超えた動きというのが必要になります。そうすることによって、お互いの問題について専門家になることができるわけです。何か一つのグループが無視されたとしたら、そのグループ全体の価値が下がってしまいます。ですので一緒に同じように協力しながらやっていくということが重要です。
 また、先ほど女性差別撤廃条約の話も出ましたように、批准されたらすべてが解決されるというわけではありません。批准されたからこそ、私たちはこれからの問題を提起して意識を向上していく必要があります。そして何をターゲットにしていくのか、戦略をちゃんと練っていかなければなりません。政府に対して、メディアに対して、市民社会に対して、この権利条約は誰のためのものなのか、みんなのためのものであるということを理解してもらわなければなりません。
 また、主流化されている市民社会というのもとても重要です。障害者団体は権利条約の批准に向けてリーダーとなって関わってきました。けれども今度はこれをさらに大きな社会に知らしめ、障害者の権利が何なのかを広めるためには、他の市民社会や団体との連携をとっていくことが重要です。私たちは個人について考えることは重要ではありません。先ほどお話に出た、中流階級だとか男性だとか、モデルとなるような人について考えるのではなく、社会の多様な人たちについて考えなければいけません。皆さんがモニタリングを続けること、そしてその後の実施を進めていくことは非常に重要です。権利条約の実施に向けてあらゆることをやっていかなければなりません。
 権利条約の8つの原則を見ていくことが重要です。例えば隔離された職場があったとしたら、やはり一般的な労働市場に戻すことは大事でしょう。けれどもそうするためには民間セクターに対して、障害者の雇用を促進するための働きかけをもっとをしていかなければいけません。
 政府というのはあまり訓練にお金をかけたくないとか、意識の向上にお金をかけたくないからといって、近道をする傾向があります。つまりただ単に名前を変えただけで、もう施設ではない、などというのはその一例です。けれども私たちは実際的なことを見なければいけません。単に名前を変えたということだけではなく、今でも実際はどうなのか。それを見ることによって、常にこの権利条約の原則と照らし合わせて、政府はただ近道しただけではないということをチェックしていかなければいけません。
 権利条約というのは全く新しいパラダイムです。全く新しい世界です。つまりコミュニティと社会が変わらなければいけないということです。それは簡単なことではありません。私たちは革新的でなければいけません。例えば後見人制度を廃止するということについてもそうです。多くの政府はそれがどういうことなのかということさえもわかりません。例えば今まで伝統的に代理で意思決定をするということが当たり前だったら、その代替案は何なのかということを考えることさえもできないでいます。ですので、そこで私たちの方から提案しなければいけません。プロジェクトだったり試験的なことだったり、障害者団体の方からどういったことが異なる形で可能なのか、そして障害者の権利を侵害しないのかということを見せていかなければいけません。
 全く何もないところから作る必要はありません。海外でどういうことがあるかということを見ればいいかと思います。例えば視覚障害者の投票に関しては、国によってはそういったことが問題にもならないところもあるわけです。既に代替案が存在し、視覚障害者が自分の選択で投票できる方法、もしくは自分自身で投票できる方法を開発しているところがあるわけです。
 次に知的障害者のことですけれども、ほとんどの政府は知的障害者に投票する能力がないと思っています。そうしたところで民主主義を侵害しているわけです。イスラエルはインクルージョン・インターナショナルのメンバーでありますけれども、彼らはさまざまな政治家の候補者のキャンペーンの際に、読みやすい言葉、簡単な言葉を用いて翻訳して、どういうことを言っているか、知的障害者に伝えることをしてきました。その結果、多くの知的障害者が自分たちで誰に投票したいか選択することができるわけです。こうした取り組みは世界の他の国でも実践することができると思います。これは国際協力という観点からできると思いますし、そのような実践の共有が重要だと思います。
 そしてメディアの役割も重要ですし、障害者団体としてもどうやってメディアを啓発することができるか考えるべきだと思います。
 例えばジェンダーの問題に関しましても、市民団体がメディアを啓発しましたし、障害に関してもそれができると思います。そしてそれは世界の他の国でも既に行われていることです。
 次に、国内のモニタリングメカニズムですけれども、障害者政策委員会がもしモニタリング機関になれるとしたらそれで十分なのでしょうか。その委員会は本当に政府から独立しきっているのでしょうか。そして十分な資源や財源があるのでしょうか。またパリ原則にちゃんと則しているのでしょうか。私たちは最初からそれを確認した上で行うべきですし、既にもうされていると思いますけれども、政府に対してアドバイスしていくことも重要かと思います。
 今日の批准は、1時38分に行われましたが、まるで子どもが生まれた瞬間を私は思い出しました。日本においては、例えて言うなら、陣痛の時間がとても長かったのだと思います。その間に、多くの人たちが権利条約について学び、そしていつ批准されるかということを、本当に子どもが生まれるのを待つかのように待っていたと思います。これから本当の仕事が始まるのだと思います。子どもが生まれたら、寝る間もないくらい忙しくなるでしょう。これは私たちが待ち望んでいたことです。この子どもについては、みんなに知ってほしいと思います。みんながこれを知って、そして愛して、支援してほしい。それを親として思うのは当然です。私たちはこの権利条約を保護するのではなく、権利条約が自分の足で立ち、社会の多くの人たちに受け入れられ支えられるようなものに育てなければいけません。親からだけではなく他の人たちからも支援されるようにしなければいけません。
 今日は本当にエキサイティングな瞬間をご一緒させていただきました。私も大きな活力を得ました。今日は私を招待してくださって本当にありがとうございました。

総括(東俊裕氏)

藤井●
 そろそろ時間ですけれども、東さんから総括的なコメントをお願いいたします。

東●
 いえいえ、総括的なコメントなんかする能力はないんですけれども。この間の制度改革のエネルギーというのはどこから来るのか。推進会議から来るのか、いろいろありますけれども、推進会議というよりも、やはり全国の障害者団体がこれに関心を向けて、本当に力強い地道な活動を地域でされてきたこと、これが本当に下支えになった、そういうことをつくづく感じてまいりました。
 実はこの4年間で私は、リクエストがあればどこでも行きますよと言ったために、結局200回くらい行きました。至るところで、どういった議論がなされているのか知りたいという要望が本当に多かったわけです。私がどれだけのことを伝えられたのか、忸怩たる思いもありますけれども、こういった議論が現場の人たちに本当に必要だなと思います。それは権利条約もそうだと思うのです。権利条約は批准されますと憲法に次いで二番目に力を持つものとして日本の法体系に編入されて、先ほど言ったようなモニタリングの仕組みも法制度としてはできていくわけですけれども、これを生かして育てていくのは誰か。やはりそれは日本の障害者当事者であると私は思います。そのためにはやはり一人ひとりの障害者が自分たちの権利は一体何なのか、現状としてどうなのかといったことをきちんと一人ひとりが認識できるような状況を運動団体としては作っていく必要があると思います。
 実はまだ僕が役人になる前の話ですけれども、権利条約のときの韓国の政府代表団の団長をしていたリー先生という人がいらっしゃいます。この方は全盲の方です。その先生とどうやって条約を広めていこうかという話をしていて、一つのアイデアなんですが、やはり「わかりやすい権利条約」というものを作って、ただ作るだけではなくて、あなたにはこういう権利があるんですよということを書いて、ではあなたの生活はどうですかというチェックリストを書いて、自分の状況がこの権利条約から見てどんな状況に置かれているのか、自己点検できるようなわかりやすいグッズを作る。単に勉強ということではなくて、自分の現実を含めて自分の権利状態がきちんと認識できるようなものを作って、それをいろいろな団体を通じて企画してもらっていけば、非常にわかりやすく、しかも現実的に自分の足もとで考えられるようなことができるのではないかなという話をしたことを思い出します。
 いろんなやり方があると思います。でもみんなにわかってもらうということは本当に地道な話なんですが、実はこういうやり方をとったからこそ、地方の差別禁止条例ができてきたのだろうと思います。差別とは何なのか、自分の足もとから具体的な事例を掘り起こして、みんなで検討していく。それが大きな声になってきた。そういうことも聞いています。
 地域でどれだけ広げていくか。これが今後、権利条約を本当に生かすかどうか、一つのポイントになるのではないかと。そんなことを個人的な感想ですけれども、思いました。ということでご挨拶にかえさせていただきます。
(拍手)

パネルディスカッション終了

藤井●
 ありがとうございました。権利条約は、今日話してきたように、あくまでも手段です。しかしかつてないベースキャンプになって、そして頂上に向かっていくことができます。尾上さんがおっしゃっていましたけれども、今日この日を見ることなく、少なくない関係者がこの世を去られました。JDFの関係者では小川代表をはじめ、三澤副代表、勝又さん、板山顧問などですが、他にも日本中にそういう方がたくさんおられると思います。謝意を表したいと思います。
 2009年3月5日に政府はいったん批准をしようとしました。政府はまじめに当時の現行法でも権利条約をクリアすると思っていたのです。その考えは今でも変わっていないんですね。恐らくこれから先もその考えは変わらないと思うのです。しかし人権や差別問題に松竹梅ってないんですよね。国は「梅」で何とかクリアしたいと思っている。私たちは絶えず人権問題や差別に関しては「松」しかないのです。お寿司は竹とか梅でもいいですよ。人権問題や差別問題は「松」しかないんですよ。ですから今リーさんがおっしゃいましたけれども、解釈でもってぎりぎりクリアするのではなくて、本当のクリアをということだと思います。
 今日はJDFのメンバーからも多くのことが述べられました。JDFの幹部メンバーも多く参加していますので、これを真摯に持ち帰って考えていきたいと思います。山本さんが言われたように、この権利条約は、もしかしたら社会の標準値を変えるための設計図かもしれません。こんな気持ちで、東さんが言われたように、一人ひとりが暮らしの中に、どうやってこの条約を活かせるかという工夫をすることも考えていきましょう。こんなことを確認し合いながら、パネルディスカッションを終わりたいと思います。
 東さんを含めて5人の壇上にいるメンバーと、リーさんに拍手を贈りましょう。どうもありがとうございました。
(拍手)