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障害者権利委員会
第11回セッション
2014年3月31 日―4月11日

一般的意見第2号(2014年)
第9条:アクセシビリティ
2014年4月11日採択

Ⅰ.序論

1.アクセシビリティは、障害のある人が自立して生活し、社会に完全かつ平等に参加するための前提条件である。物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信機器及び情報通信システムを含む。)、並びに公衆に開かれ又は提供される他の施設及びサービスへのアクセスがなければ、障害のある人が、それぞれの社会に参加する平等な機会を持つことはない。アクセシビリティが障害者権利条約の拠りどころとされる原則の1つであること(第3条(f))は、偶然ではない。歴史的には、障害者運動において、物理的環境と公共輸送機関への障害のある人のアクセスは、世界人権宣言第13条と、市民的及び政治的権利に関する国際規約第12条で保障されている、移動の自由の前提条件であると主張されてきた。同様に、情報通信へのアクセスは、世界人権宣言第19条と、市民的及び政治的権利に関する国際規約第19条第2項で保障されている、意見と表現の自由の前提条件であると考えられている。

2.市民的及び政治的権利に関する国際規約第25条(c)には、すべての市民が、一般的な平等条件の下で、自国の公務に携わる権利が正式に記されている。この条文の規定は、中核となる人権条約にアクセス権を盛り込む基礎となると言える。

3.あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約では、輸送機関、ホテル、飲食店、喫茶店、劇場、公園等一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所又はサービスを利用する権利を、すべての人に保障している(第5条(f))。このように、国際的な人権の法的枠組みにおいて、アクセスの権利を本質的な権利と見なす前例が確立されてきた。さまざまな人種集団や民族集団の構成員に対する、公衆に開かれている場所とサービスへの自由なアクセスを阻む障壁が、偏見を持った態度と、物理的にアクセシブルな場所へのアクセスを妨げる力を行使する姿勢によってもたらされたものであったことは、認めざるをえない。しかし、障害のある人は、建物の入り口にある階段や、多層階の建物にエレベーターがないこと、アクセシブルな様式による情報の欠如などの、技術的及び環境的な障壁、すなわち、多くの場合、人間によって作られた環境的な障壁に直面している。建造環境は、常に社会的・文化的開発並びに習慣と関連しており、それゆえ、人間が作った環境は、完全に社会の統制下にある。このような人工的な障壁は、多くの場合、一般公衆の使用を目的とする場所又はサービスの、障害のある人による利用を妨げる意識的な態度というよりは、むしろ、情報と技術的ノウハウの欠如が原因となっているが、障害のある人のためのよりよいアクセシビリティを実現する政策を導入するには、スティグマや差別に立ち向かうために、現在進められている教育の取り組み、意識向上、文化的キャンペーンとコミュニケーションを通じて、障害のある人に対する態度を改めることが必要である。

4.市民的及び政治的権利に関する国際規約と、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約では、国際人権法の一部としてのアクセス権が明確に規定されている。アクセシビリティは、障害特有のアクセス権の再確認又は社会的側面と見なされるべきである。障害者権利条約には、アクセシビリティが重要な基本原則(障害のある人による、さまざまな市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的権利の効果的かつ平等な享有に不可欠な前提条件)の1つとして盛り込まれている。アクセシビリティは、平等と非差別に照らして検討されなければならない。さらに、それは社会に対する投資の一環とも見ることができ、持続可能な開発課題の不可欠な部分と考えることができる。

5.情報通信技術(ICT)が何を意味するかについては、さまざまな人と機関が異なる理解を示しているが、ICTがあらゆる情報通信機器又はアプリケーション及びそのコンテンツを含む包括的な言葉であることは、誰もが認めている。このような定義は、ラジオ、テレビ、衛星、携帯電話、固定電話、コンピューター、ネットワークハードウェア及びソフトウェアなど、広くさまざまなアクセス技術を網羅している。ICTの重要性は、広範なサービスを利用できるようにし、既存のサービスを変容し、特に障害のある人のようにサービスを十分に受けていない、排除されている人々の、情報と知識へのアクセスに対するさらなる需要を生み出す、その能力にある。国際電気通信規則(ドバイ、2012年)第12条には、国際電気通信連合(ITU)による関連勧告を踏まえ、障害のある人が国際電気通信サービスにアクセスする権利が正式に定められている。この条文の規定を、締約国の国内の法的枠組みを強化する根拠とすることができる。

6.経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会は、その一般的意見第5号(1994年)において、国連障害者の機会均等化に関する基準規則を実施するという締約国の義務を想起させた。基準規則は、また、障害者の機会均等化のための、物理的環境、輸送機関、情報通信のアクセシビリティの重要性も強調している。この概念は規則5で展開され、物理的環境、情報及びコミュニケーションのアクセシビリティが、締約国の優先行動分野として目標とされた。また、アクセシビリティの重要性は、経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の一般的意見第14号(2000年)(パラグラフ12)からも引き出すことができる。子どもの権利委員会は、障害のある子どもの権利に関する一般的意見第9号(2006年)において、公共輸送機関及びその他の施設(政府の建物、ショッピングエリア及びレクリエーション施設を含む。)の物理的なアクセシビリティの欠如が、障害のある子どもの周辺化と排除の主要な要因であり、保健医療及び教育などのサービスへの、このような子どもによるアクセスを、著しく損なっているという事実を重視している。アクセシビリティの重要性は、子どもの休息、余暇、遊び、レクリエーション活動、文化的な生活及び芸術に参加する権利(第31条)に関する、同委員会による一般的意見第17号(2013年)でも繰り返された。

7.障害分野における専門家数百名の積極的な参加を得た、これまでで最大規模の協議体制の下で、世界保健機関と世界銀行によって刊行された『世界障害報告書(2011年)』は、建造環境、交通システム及び情報通信が、多くの場合、障害のある人にとってアクセシブルではないと強調している(『世界障害報告書:概要』p.10)。障害のある人は、アクセシブルな交通機関がないために、雇用を求める権利や医療を受ける権利など、基本的権利の享有を一部妨げられている。アクセシビリティに関する法律の実施水準は、多くの国において依然として低く、障害のある人はアクセシブルではない情報通信のために、表現の自由の権利を否定されていることが多い。ろう者のための手話通訳サービスが存在する国でさえ、大抵の場合、資格のある通訳者の数が少なすぎるために、また、これらの通訳者が個別に依頼者の所に赴かなければならず、あまりに費用が高くついてしまうために、増えつつあるサービス需要を満たすことができない。知的障害や精神障害のある人及び盲ろうの人も、情報通信へのアクセスを試みる際に、読みやすい様式、拡大・代替形態がないため、障壁に直面する。また、サービスにアクセスする際にも、それらのサービスを提供する職員の偏見や適切な研修の欠如が原因で、障壁に直面する。

8.インクルーシブなICTのためのグローバルイニシアティブ(G3ICT)との協力の下、国際電気通信連合によって作成された『テレビをアクセシブルにするには(Making Television Accessible)』(2011年)という報告書では、何らかの障害を持って暮らしている10億人の障害者の内、かなりの割合が、視聴覚コンテンツを利用できずにいることが強調されている。このようなアクセシビリティの欠如は、コンテンツ、情報及び/又は彼らがこれらのサービスにアクセスするために必要な機器がアクセシブルでないことが原因である。

9.アクセシビリティは、2003年の世界情報社会サミット第一段階以来、主流のICTコミュニティによって認められてきた。障害のある人のコミュニティから紹介され、背中を押される形で、このような概念がサミットの原則宣言に盛り込まれた。そのパラグラフ25には、「25.開発に関する全体的な知識の共有と強化は、ユニバーサルデザインや福祉機器の利用に加え、経済、社会、政治、健康、文化、教育及び科学的な活動のための情報への公平なアクセスに対する障壁を取り除くことによって、また、パブリックドメインの情報へのアクセスを容易にすることによって促進される。」と記されている。

10.障害者権利委員会は、本一般的意見の草案作成プロセス開始までに10回にわたり開催されてきた、締約国の最初の報告を検討するための締約国との対話のそれぞれにおいて、アクセシビリティを重要な問題の1つと考えてきた。すべての総括所見には、アクセシビリティに関する勧告が盛り込まれている。共通課題の1つとして、実地でのアクセシビリティ基準と関連法の実施を確保するための適切な監視の仕組みがないことが挙げられてきた。一部の締約国では、効果的な実施の確保に必要な専門知識と人的及び物質的資源に欠ける地方自治体が、監視の責任を担っていた。もう1つの共通課題としては、関係者に提供される研修がないことと、障害のある人及びその代表団体による、物理的環境、輸送機関、情報通信へのアクセス確保のプロセスへの関与が不十分であることが挙げられてきた。

11.障害者権利委員会は、また、アクセシビリティの問題の法的判断にも取り組んできた。Szilvia NyustiとPéter Takács及びTamás Fazekas対ハンガリー(通報No. 1/2010、2013年4月16日に採択された見解)の事例では、委員会は、公衆に開かれ又は提供されるすべてのサービスは、障害者権利条約第9条の規定に従い、アクセシブルでなければならないとの見解を示した。締約国は、盲人が現金自動預け払い機(ATM)を利用できるようにするよう求められた。委員会は特に、締約国が「視覚障害及びその他の種類の機能障害のある人々を対象とした、民間金融機関によって提供される銀行サービスの、アクセシビリティに関する最低基準」を設定し、「民間金融機関によって提供される、これまでアクセシブルではなかった銀行サービスのアクセシブルなサービスへの漸進的な変更と調整を監視し、評価するための、具体的で法的効力のある、期限を定めたベンチマークを伴う法的枠組みを創造し」、「すべての新規に調達されるATM及びその他の銀行サービスを、障害のある人にとって完全にアクセシブルなものにすることを確保する」よう勧告した(パラグラフ10.2(a))。

12.これらの前例と、障害のある人が社会に完全かつ平等に参加し、すべての人権と基本的自由を効果的に享有するために、アクセシビリティが真に不可欠な前提条件であるという事実とを考慮し、委員会は、その条約手続規則と人権条約体の慣習に従い、条約第9条アクセシビリティに関する一般的意見を採択する必要があると考える。

Ⅱ.規範的内容

13.障害者権利条約第9条は、「締約国は、障害のある人が自立して生活すること及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にするため、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、都市及び農村の双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信技術及び情報通信システムを含む。)、並びに公衆に開かれ又は提供される他の施設及びサービスにアクセスすることを確保するための適切な措置をとる」と規定している。物理的環境、輸送機関、情報通信及びサービスを網羅する、アクセシビリティのあらゆる複雑性への取り組みがなされることが重要である。その焦点となるのは、もはや建築物、輸送インフラストラクチャー、車両、情報通信及びサービスを所有する者の法的人格と、その公共性又は民間性ではない。物品、製品及びサービスは、公衆に開かれ又は提供される限り、公的機関によって所有及び/又は提供されるか、民間企業によって所有及び/又は提供されるかにかかわらず、すべての人にとってアクセシブルでなければならない。障害のある人は、すべての物品、製品及び公衆に開かれ又は提供されるサービスに対し、これらへの効果的かつ平等なアクセスを確保し、障害のある人の尊厳を尊重する方法による、平等なアクセスを持たなければならない。このアプローチは差別の禁止に由来している。アクセスの否認は、違反者が公的主体であるか民間主体であるかにかかわらず、差別行為に相当すると見なされる。アクセシビリティは、機能障害の種類を問わず、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、出生又は他の地位、法的又は社会的地位、ジェンダー又は年齢などのいかなる区別をも伴うことなく、すべての障害のある人に提供されなければならない。アクセシビリティは、障害のある人のジェンダーと年齢という視点を特に考慮したものでなければならない。

14.条約第9条では、障害のある人が自立して生活し、社会に完全かつ平等に参加し、そのすべての人権と基本的自由を、他の者との平等を基礎として、制限されることなく享有するための前提条件としてのアクセシビリティを、明確に謳っている。第9条は、市民的及び政治的権利に関する国際規約の、公務への平等なアクセスの権利に関する第25条(c)と、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の、一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所又はサービスを利用する権利に関する第5条(f)など、既存の人権に根差している。これらの2つの中核となる人権条約が採択されたとき、世界を劇的に変えたインターネットはまだ存在していなかった。障害者権利条約は、この点において、ICTへのアクセスに取り組む21世紀初の人権条約であり、障害のある人のみを対象とした新たな権利を創造するものではない。さらに、国際法における平等の概念は、過去数十年間で変化してきた。形式的な平等から実質的な平等への概念の移行は、締約国の義務に影響を与えている。アクセシビリティ提供の義務は、平等な権利を尊重し、保護し、達成するというこの新たな義務の、不可欠な部分である。それゆえ、アクセシビリティは、アクセス権に照らして、障害という特別な視点から検討されるべきである。障害のある人のアクセス権は、アクセシビリティ基準の厳格な実施を通じて確保される。完全なアクセシビリティの達成を目的として、公衆を対象とし又はこれに開かれた既存の事物、施設、物品、サービスにおける障壁は、組織的に、さらに重要なことには、継続的な監視の下で、漸進的に撤廃されなければならない。

15.すべての新規の物品、製品、施設、技術及びサービスへのユニバーサルデザインの厳格な適用は、障害のある人を含むあらゆる潜在的な消費者による、その固有の尊厳と多様性を十分に考慮した方法での、完全かつ平等な、制限されることのないアクセスを確保するものでなければならない。またそれは、特定の場所の中での障壁のない移動を含む、ある場所から別の場所への、個人による一連の無制限の移動の創造に貢献するものでなければならない。障害のある人とその他の利用者が、必要に応じて補助器具と人又は動物による支援を使用しながら、バリアフリーな路上を移動し、アクセシブルなノンステップ車両に乗り、情報通信を利用し、ユニバーサルデザインの建物に入り、その中を移動できるようにしなければならない。ユニバーサルデザインの適用は、補助器具のニーズを自動的に取り除くものではない。最初の設計段階から建物にユニバーサルデザインを適用することにより、建設費を大幅に減らすことができる。建物を最初の段階からアクセシブルにしても、多くの場合、総建設費はまったく増加しないが、場合によっては、費用がわずかに増加することもある。一方、建物をアクセシブルにするために後から改築する費用は、特に特別な歴史的建造物などの一部の事例で著しく増加する可能性がある。最初からユニバーサルデザインを適用した方が経済的であるが、後から障壁を撤廃するために見込まれる費用を、アクセシビリティを阻む障壁を漸進的に撤廃する義務を回避するための言い訳として利用してはならない。

16.インターネットと情報通信技術(ICT)への対応を後から行うことは費用の増加を招く可能性があるため、ICTを含む情報通信のアクセシビリティも、最初の段階で達成されるべきである。このように、ICTのアクセシビリティ機能を義務付け、設計、製造及び建設の最も早い段階から盛り込む方が経済的である。ユニバーサルデザインの適用は、障害のある人だけでなく、すべての人にとって、社会をアクセシブルにする。さらに重要なのは、第9条が締約国に対し、都市と農村の両方におけるアクセシビリティ確保の義務を明確に課していることである。広範な都市化の結果、人口の多い賑やかな都市部で、特に建造環境、輸送機関及びサービス、さらには、より洗練された情報通信サービスにおいて、障害のある人のアクセスを妨げる新たな障壁が、ときとして創造される可能性もあるが、一般にアクセシビリティは、遠隔地の開発途上の農村よりも大都市で充実していることが、エビデンスから明らかにされてきた。都市と農村の両方において、障害のある人が利用可能な、公衆が立ち入り、楽しむことができる自然と歴史・文化遺産としての物理的環境へのアクセスがなければならない。

17.第9条第1項では、締約国に対し、特に次の事項について、アクセシビリティの妨害物と障壁を明らかにし、撤廃することを義務付けている。
 (a) 建物、道路、輸送機関その他の屋内外の施設(学校、住居、医療施設及び職場を含む。)
 (b) 情報サービス、通信サービスその他のサービス(電子サービス及び緊急時サービスを含む。)
 上記の「その他の屋内外の施設」には、とりわけ、法執行機関、裁判所及び刑務所、社会機関、社会的交流、娯楽、文化的、宗教的、政治的活動及びスポーツ活動の場と、買い物施設が含まれる。「その他のサービス」には、とりわけ、郵便、銀行、電気通信及び情報サービスが含まれる。

18.第9条第2項は、締約国が、公衆に開かれ又は提供される施設及びサービスのアクセシビリティに関する国の最低基準を策定し、公表し、その実施を監視するためにとらなければならない措置を規定している。これらの基準は、障害のある人の移動の自由及び国籍(第18条)の枠組み内での自由な移動に関して、相互操作性を確保するために、他の締約国の基準と一致したものでなければならない。また、締約国は、公衆に開かれ又は提供される施設及びサービスを提供する民間主体が、障害のある人にとってのアクセシビリティのあらゆる側面を考慮に入れることを確保する措置もとらなければならない(第9条第2項(b))。

19.アクセシビリティの欠如は、多くの場合、不十分な認識と技術的ノウハウが原因で生じるため、第9条では締約国に対し、障害のある人のアクセシビリティにかかわる訓練を、すべての関係者に提供することを義務付けている(第2項(c))。第9条は、関係者を列挙することを試みるものではない。すべての完全なリストには、建築許可を発行する当局、放送及びICT管理委員会、技術者会議所、デザイナー、建築家、都市計画者、輸送当局、サービス提供者、学界人及び障害のある人とその団体(DPO)を含めなければならない。物品、サービス及び製品の設計者だけでなく、実際にそれらを製造する者に対しても、訓練を行うべきである。さらに、製品開発への障害のある人の直接参加を強化することにより、既存のニーズの理解とアクセシビリティ審査の有効性を高めることができる。最終的には、建物をアクセシブルにするのも、また、しないのも、建設現場の工事施行者なのである。アクセシビリティ基準の実地での適用を確保するために、これらすべての集団に対する訓練と監視の制度を設置することが重要である。

20.公衆に開かれている建物とその他の場所における移動と定位は、適切な表示やアクセシブルな情報通信又は支援サービスがなければ、一部の障害のある人にとって困難な課題となり得る。したがって、第9条第2項(d)及び(e)では、公衆に開かれている建物その他の施設において、点字表示及び読みやすく理解しやすい形式の表示を提供することと、アクセシビリティを促進するための人又は動物による支援及び媒介者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳者を含む。)を提供することを規定している。そのような表示やアクセシブルな情報通信及び支援サービスがなければ、建物内及び建物間の定位と移動が、多くの障害のある人(特に認知的倦怠感を体験している障害のある人)にとって不可能となる可能性がある。

21.情報通信へのアクセスがなければ、障害のある人による、思考と表現の自由及び他の多くの基本的な権利と自由の享有は、著しく損なわれ、制限される可能性がある。それゆえ、条約第9条第2項(f)及び(g)では、締約国が義務的なアクセシビリティ基準の適用を通じて、人又は動物による支援及び媒介者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳者を含む。)を促進し(セクション(e))、障害のある人が情報にアクセスすることを確保するための、他の適切な形態の援助及び支援を促進し、障害のある人が新たな情報通信技術及び情報通信システム(インターネットを含む。)にアクセスすることを促進しなければならないと規定している。情報通信は、これを利用する障害のある人にとって読みやすい様式、拡大・代替形態及び方法で、利用できるようにしなければならない。

22.新たな技術は、社会への障害のある人の完全かつ平等な参加を促進するために使用することができるが、それは、そのような技術が、アクセシビリティを確保する方法で設計され、生産される場合に限られる。新規の投資、調査研究の成果は、新たな障壁の創造ではなく、不平等の撤廃に貢献するものでなければならない。それゆえ第9条第2項(h)では締約国に対し、早い段階において、アクセシブルな情報通信技術と情報通信システムに関する設計、開発、生産及び分配を、それらを最小の費用でアクセシブルにするようにして促進することを要求している。補聴器や誘導ループの利用者を支援する環境支援システムを含む聴力改善システムの使用や、建物から緊急避難する際に障害のある人が利用できる、事前に設置された乗客用エレベーターは、アクセシビリティ提供における技術的進歩の一例にすぎない。

23.条約第19条に規定されているように、アクセシビリティは、障害のある人が自立して生活し、社会に完全かつ平等に参加するための前提条件であることから、情報通信技術を含む、物理的環境、輸送機関及び公衆に開かれている施設及びサービスへのアクセスの否認は、差別に照らして検討されなければならない。「障害のある人に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適切な措置(立法措置を含む。)」をとること」(第4条第1項(b))は、すべての締約国の重要な一般的義務となる。「締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な法的保護を障害のある人に保障する」(第5条第2項)。「締約国は、平等を促進し及び差別を撤廃するため、合理的配慮が行われることを確保するためのすべての適切な措置をとる」(第5条第3項)。

24.すべての新規に設計され、建設され、あるいは生産される事物、インフラストラクチャー、物品、製品及びサービスへのアクセスを確保する義務と、障壁を撤廃し、既存の物理的環境と既存の輸送機関、情報通信及び一般公衆に開かれているサービスへのアクセスを確保する義務とは、明確に区別されなければならない。締約国のもう1つの一般的義務は、「条約第2条に定めるユニバーサルデザインを用いた物品、サービス、備品及び施設についての研究及び開発を開始し又は促進すること。この場合において、これらの物品、サービス、備品及び施設は、障害のある個人に特有の必要を満たすため、それらの供給及び使用を促進するため並びに基準及び指針の策定の際のユニバーサルデザインの採用を促進するため、可能な限り最小の調整及び最小の費用を要するものとすべきである」(第4条第4項(f))。すべての新規の事物、インフラストラクチャー、施設、物品、製品及びサービスは、それらが障害のある人にとって完全にアクセシブルなものとなるように、ユニバーサルデザインの原則に従って設計されなければならない。締約国は、障害のある人が、既存の物理的環境と既存の輸送機関、情報通信及び一般公衆に開かれているサービスにアクセスを持つことを確保する義務がある。しかし、この義務は漸進的に実施されるため、締約国は既存の障壁の撤廃に向けて、明確な期限を設定し、適切な資源を割り当てなければならない。さらに、締約国は、アクセシビリティを確保するために遂行されなければならない、さまざまな当局(地方及び地域の自治体)と事業体(民間の事業体も含む)の義務を、明確に規定しなければならない。締約国は、また、アクセシビリティを確保する効果的な監視の仕組みと、アクセシビリティ基準の実施を怠るすべての者に対する制裁措置を規定しなければならない。

25.アクセシビリティは集団に関するものだが、合理的配慮は個人に関するものである。これは、アクセシビリティを提供する義務が「事前の」義務であるということを意味する。締約国は、それゆえ、ある場所やサービスに入りたい、あるいは利用したいという個人的な要求を受理する前に、アクセシビリティを提供する義務がある。締約国はアクセシビリティ基準を設定しなければならず、障害者団体との協議の上、これを採択しなければならない。また、これらの基準は、サービス提供者、建設業者その他の関係者別に設定されなければならない。アクセシビリティ基準は、広範な、かつ、標準化されたものでなければならない。アクセシビリティ基準開発の際に考慮されなかった稀な機能障害のある個人の場合、あるいは、アクセシビリティを達成するために提供される形態、方法あるいは手段を使用しない(たとえば、点字印刷を読まない)個人の場合、アクセシビリティ基準を適用してもアクセス確保には十分ではない可能性がある。そのような場合は、合理的配慮を適用するとよい。条約に従い、締約国が、障害のある人のためのアクセシビリティの漸進的な確保を回避する言い訳として、緊縮政策を利用することは許されない。アクセシビリティ実施の義務は、無条件である。つまり、義務を有する事業体は、障害のある人のためのアクセス提供の負担に言及し、怠慢を正当化してはならない。これに反して、合理的配慮の義務は、その実施が事業体側の過重な負担とならない場合にのみ存在する。

26.合理的配慮の提供の義務は、「今から」果たすべき義務であり、機能障害のある個人がある状況(職場、学校など)において、特定の文脈における平等を基本として権利を享有するためにそれを必要とする瞬間から履行義務が生じることを意味する。ここではアクセシビリティ基準が指標となり得るが、規範とはされない。合理的配慮は、特定の状況における、障害のある個人のためのアクセシビリティ確保の手段として用いることができる。合理的配慮は、個人の尊厳、自主性と選択を考慮し、無差別又は平等が保証されるという意味において、個人的な公正の実現を追求するものである。このように、稀な機能障害のある者は、あらゆるアクセシビリティ基準の範囲外の配慮を求めることができる。

Ⅲ.締約国の義務

27.物理的環境、輸送機関、情報通信及び公衆に開かれているサービスへのアクセスの確保は、多くの場合、障害のある人によるさまざまな市民的及び政治的権利の効果的な享有の前提条件であるが、締約国は、必要に応じ、漸進的な実施と国際協力の利用とを通じて、アクセスの達成を確保することができる。撤廃が必要な妨害物と障壁を明らかにするための状況分析は、効率的な方法で、短期的又は中期的枠組みで実施することができる。障壁は、継続的かつ組織的な方法により、漸進的に、しかし、着実に撤廃されなければならない。

28.締約国は、国内のアクセシビリティ基準を採択し、公表し、監視する義務がある。関連法がない場合、適切な法的枠組みの採用が第一段階となる。締約国は、法律とその実施との格差を明らかにし、監視し、これに取り組むために、アクセシビリティ関連法の包括的な見直しを行わなければならない。多くの場合、障害関連法では、アクセシビリティの定義にICTが含まれておらず、調達、雇用及び教育などの分野における非差別的なアクセスに関する障害者権利法では、ICTと、ICTを通じて提供される、現代社会の中心となっている多数の物品とサービスへのアクセスが含まれていない。このような法律と規則の見直しと採択は、障害のある人とその代表団体(第4条第3項)及び学界人、建築家専門団体、都市計画者、技術者及びデザイナーなどの、他のすべての関係者との緊密な協議の上、実施することが重要である。条約で義務付けられているように(第4条第1項(f))、法令にはユニバーサルデザインの原則を盛り込み、これを基本とする。そして、アクセシビリティ基準の強制的な適用と、適用しない者に対する罰金を含む制裁措置を規定しなければならない。

29.建設と設計に関する法律における物理的環境、公共の航空機、鉄道、道路及び水上交通に関する法律における輸送機関、情報通信及び公衆に開かれているサービスなど、アクセシブルでなければならないさまざまな分野に対して規定されるアクセシビリティ基準の主流化は有用である。しかし、アクセシビリティは、障害に基づく差別の禁止を背景として、機会均等、平等及び参加に関する一般法と特別法に含めるべきである。アクセスの否認は、禁じられている差別行為として明確に定義されなければならない。物理的環境、輸送機関、情報通信又は公衆に開かれているサービスへのアクセスを否認された障害のある人には、自由に行使できる効果的な法的救済措置がなければならない。アクセシビリティ基準を定義する際には、締約国は障害のある人の多様性を考慮し、アクセシビリティがすべてのジェンダーの、あらゆる年齢とあらゆる障害種の人々に提供されることを確保しなければならない。障害のある人の多様性をアクセシビリティの提供に含めるという課題の一部として、障害のある人の中には、完全なアクセシビリティを享有するために、人又は動物による支援(パーソナルアシスタンス、手話通訳、触手話通訳又は盲導犬など)を必要としている人がいることを認めることが挙げられる。たとえば、特定の建物やオープンスペースに盲導犬が入ることを禁止すれば、禁じられている障害に基づく差別行為となることを規定しなければならない。

30.さまざまな機能障害のある人のために、公共及び民間の企業によって提供される多様なサービスに関して、アクセシビリティの最低基準の設定が必要である。新たなICT関連基準の開発が行われる際には常に、「標準化活動のための電気通信アクセシビリティチェックリスト」(ITU-T勧告2006年)と、「高齢者と障害のある人に配慮した電気通信アクセシビリティガイドライン」(ITU-T勧告F.790)などの参照手段が主流化されなければならない。これにより、基準の開発におけるユニバーサルデザインの一般化が可能となる。締約国は、民間企業による、過去にアクセシブルではなかったサービスをアクセシブルにするための漸進的な修正及び調整を監視し、評価する、明確で強制力のある、期限を定めたベンチマークを伴う法的枠組みを設置しなければならない。さらに締約国は、すべての新規に調達される物品及びサービスが、障害のある人にとって完全にアクセシブルであることを確保しなければならない。条約第4条第3項に従い、障害のある人及びその代表団体と緊密に協議し、最低基準の開発がなされなければならない。基準は、条約第32条に従い、国際協力を通じて、他の締約国及び国際組織・機関と共同で開発することも可能である。締約国は、ITU無線通信部門、電気通信標準化部門、電気通信開発部門の研究会に参加することが奨励される。これらの研究会は、国際電気通信/ICTの基準開発におけるアクセシビリティの主流化と、障害のある人の情報通信技術へのアクセス増加のニーズに関する業界と各国政府の認識の向上に、積極的に取り組んでいる。そのような協力は、物品とサービスの相互操作性に貢献する国際基準の開発と促進に役立てられる。通信関連のサービス分野では、締約国は、パーソナルアシスタンス及び手話通訳、触手話システムなど、特に比較的新しいタイプのサービスに関して、少なくとも最低限のサービスの質を確保し、サービスの標準化を目指さなければならない。

31.アクセシビリティ法の見直しの一環として、締約国は、障害に基づく差別を禁止している自国の法律を検討し、必要に応じて改正しなければならない。最低限のこととして、以下の状況において、障害のある人がアクセシビリティの欠如のために、公衆に開かれているサービスや施設にアクセスできなくなった場合、禁止されている障害に基づく差別行為として、これを検討しなければならない。
 (i)サービスや施設が、関連のあるアクセシビリティ基準の導入後に設けられた場合
 (ii)合理的配慮を通じて、施設やサービスへのアクセスが(発生した場合は常に)得られたはずなのに、実際には得られなかった場合

32.アクセシビリティ法の見直しの一環として、締約国は、公共調達に関する自国の法律も検討しなければならない。締約国は、公共調達の手続にアクセシビリティ要件を盛り込むことを確保しなければならない。公共の資金を、アクセシブルではないサービスや施設が原因で必然的に発生する不平等の創造や存続に利用することは受け入れられない。公共調達は、条約第5条第4項の規定に従い、アクセシビリティと、障害のある人の事実上の平等を確保するために、積極的差別是正措置の実施に利用されるべきである。

33.締約国は、既存のアクセシビリティの障壁を明らかにし、具体的な期日を定めた期限を設定し、障壁の撤廃に必要な人的及び物的資源の両方を提供するための行動計画と戦略を採用しなければならない。そのような行動計画及び戦略が採用された場合は、厳格に実施されなければならない。締約国は、また、アクセシビリティを確保するために監視の仕組みを強化し、アクセシビリティを阻む障壁を撤廃し、監視スタッフを養成するための十分な資金を提供し続けなければならない。アクセシビリティ基準は多くの場合、地域で実施されるため、基準実施の監視を担当する地方自治体の継続的な能力構築が最も重要となる。締約国は、効果的な監視の枠組みを開発し、計画、戦略及び標準化が確実に実施され、強化されるよう、十分な能力と適切な権限を持つ有効な監視団体を設立する義務を負う。

IV.他の条文との相互関係

34.物理的環境、輸送機関、情報通信及び公衆に開かれているサービスへの、障害のある人によるアクセスの確保という締約国の義務は、平等と非差別の視点から見るべきである。物理的環境、輸送機関、情報通信及び公衆に開かれているサービスへのアクセスの否認は、条約第5条で禁じられている障害に基づく差別行為となる。アクセシビリティの「将来的な」確保は、ユニバーサルデザインによる物品、サービス、備品及び施設を開発するという一般的義務の実施に照らして検討されなければならない(第4条第1項(f))。

35.意識向上は、障害者権利条約の効果的な実施に向けた前提条件の1つである。アクセシビリティはしばしば、建造環境に対するアクセシビリティとして狭い意味で検討される(これは重要であるが、障害のある人によるアクセスの一面にすぎない)が、締約国は、組織的かつ継続的に、すべての関係者のアクセシビリティに対する意識の向上に努めていかなければならない。すべてを網羅するというアクセシビリティの性質には、物理的環境、輸送機関、情報通信及びサービスへのアクセスを提供することによって取り組むべきである。また、意識向上は、アクセシビリティ基準を順守する義務が、公共部門と民間部門に平等に適用されるという事実を強調するものである。これにより、ユニバーサルデザインの適用と、最も早い段階からのアクセシブルな方法による設計と建設が費用対効果が高く経済的であるという考えが、促進されるはずである。意識向上は、障害のある人とその代表団体及び技術専門家と協力して実施されなければならない。アクセシビリティ基準の適用と、その実施の監視に関する能力構築に、特に注目するべきである。メディアは、障害のある人を対象とした自社番組とサービスのアクセシビリティを考慮するだけではなく、アクセシビリティの促進と意識向上への貢献に、積極的な役割を果たしていかなければならない。

36.物理的環境、輸送機関、情報通信及び公衆に開かれているサービスへの完全なアクセスの確保は、まさに、条約で網羅されている多くの権利の効果的な享有に不可欠な前提条件である。危険な状況、自然災害及び武力紛争の際には、緊急サービスが障害のある人にとってアクセシブルなものでなければならず、さもなければ、障害のある人の命を救うことも、その健康を守ることもできない(第11条)。アクセシビリティは、災害後の復興の取り組みにおける優先事項として盛り込まれなければならない。それゆえ、災害リスク軽減は、アクセシブルかつ障害インクルーシブでなければならない。

37.法の執行機関と司法組織が入っている建物が物理的にアクセシブルではない場合、あるいは、これらの機関や組織が提供するサービスと情報通信が、障害のある人にとってアクセシブルではない場合(第13条)、司法への効果的なアクセスはあり得ない。安全な住居、支援サービス及び手続は、障害のある人、特に女性と子どもに対する暴力、虐待及び搾取からの効果的かつ有意義な保護を提供するため、すべてアクセシブルでなければならない(第16条)。アクセシブルな環境、輸送機関、情報通信及びサービスは、障害のある人のそれぞれの地域社会へのインクルージョンと、彼らが自立した生活を送るための前提条件である(第19条)。

38.第9条と第21条には、情報通信の問題に関して共通する部分が認められる。第21条では、締約国は「障害のある人が、他の者との平等を基礎として、あらゆる形態のコミュニケーションであって自ら選択するものにより、表現及び意見の自由(情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。)についての権利を行使することができることを確保するためのすべての適切な措置をとる」と規定している。また、情報通信のアクセシビリティを実践でどのように確保できるかを、続けて詳しく説明している。そして、「障害のある人に対し、様々な種類の障害に適応したアクセシブルな様式及び技術により、一般公衆向けの情報を提供すること」を締約国に義務付けている(第21条(a))。さらに、「障害のある人が、その公的な活動において、手話、点字、拡大代替コミュニケーション並びに自ら選択する他のすべてのアクセシブルなコミュニケーションの手段、形態及び様式を用いることを容易にすること」も規定している(第21条(b))。一般公衆にサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間主体は、情報及びサービスを障害のある人にとってアクセシブルかつ使用可能な様式で提供するよう促され(第21条(c))、大衆媒体(インターネットで情報を提供する主体を含む。)は、そのサービスを障害のある人にとってアクセシブルなものとするよう奨励される(第21条(d))。第21条は、また、条約第24条、第27条、第29条及び第30条に従い、手話の使用を認め、促進することを、締約国に義務付けている。

39.学校へのアクセシブルな輸送機関や、アクセシブルな校舎、そしてアクセシブルな情報通信がなければ、障害のある人が教育を受ける権利(条約第24条)を行使する機会を持つことはない。したがって、条約第9条第1項(a)に明確に述べられているように、学校はアクセシブルでなければならない。しかし、アクセシブルでなければならないのは、インクルーシブな教育のプロセス全体であり、校舎だけではなく、環境支援システム又はFM支援システムを含む、学校におけるすべての情報通信、支援サービスと合理的配慮もアクセシブルでなければならない。アクセシビリティを促進するには、カリキュラム内容とともに、手話、点字、代替文字及び拡大代替コミュニケーションの形態、手段及び様式並びに歩行技能の習得が、教育において促進され、これらを用いた教育が実施されなければならず(第24条第3項(a))、その際、盲、ろう又は盲ろうの生徒が使用する、適切な言語並びにコミュニケーションの形態及び手段に、特別な注意を払うものとする。指導形態及び指導方法はアクセシブルでなければならず、アクセシブルな環境で実施されなければならない。障害のある児童生徒のすべての環境は、インクルージョンを促進し、教育のプロセス全体においてその平等が保障されるべく設計されなければならない。条約第24条の完全な実施は、他の中核となる人権法並びに国際連合教育科学文化機関の教育における差別待遇の防止に関する条約の規定と併せて検討されなければならない。

40.医療と社会保護は、これらのサービスが提供される場所へのアクセスがなければ、障害のある人にとって手が届かないままであろう。医療及び社会保護サービスが提供される建物自体がアクセシブルであっても、アクセシブルな輸送機関がなければ、障害のある人はサービスが提供されている場所へ移動することができない。医療の提供に関するすべての情報通信は、手話、点字、アクセシブルな電子様式、代替文字、拡大代替コミュニケーションの形態、手段及び様式を使用した、アクセシブルなものでなければならない。産婦人科のサービスを含む医療、特に性と生殖に関する医療を、障害のある女性と少女に提供する際には、アクセシビリティにかかわるジェンダーの次元を考慮することが特に重要である。

41.障害のある人は、職場自体がアクセシブルでない場合、条約第27条に記載されている労働と雇用の権利を効果的に享有することができない。それゆえ、第9条第1項(a)に明記されているように、職場はアクセシブルでなければならない。職場の改善を拒否することは、禁じられている障害に基づく差別行為となる。職場の物理的なアクセシビリティに加えて、障害のある人には、職場にたどり着くためのアクセシブルな交通機関と支援サービスが必要である。労働に関するすべての情報、求人広告、選考のプロセスと、労働のプロセスの一部である職場でのコミュニケーションは、手話、点字、アクセシブルな電子様式、代替文字、拡大代替コミュニケーションの形態、手段及び様式を使用した、アクセシブルなものでなければならない。すべての労働組合と労働の権利、また、研修の機会と職務資格もアクセシブルでなければならない。たとえば、従業員と研修生を対象とした外国語やコンピューターの講座は、アクセシブルな環境において、アクセシブルな形式、形態、手段及び様式で実施されなければならない。

42.条約第28条は、障害のある人の適切な生活水準と社会保護を扱っている。締約国は、主流の社会保護と障害に特化した社会保護の施策とサービスを、ともにアクセシブルな方法で、アクセシブルな建物において提供し、これらに関するすべての情報通信を、手話、点字、アクセシブルな電子様式、代替文字、拡大代替コミュニケーションの形態、手段及び様式を使用したアクセシブルなものとすることを確保するために、必要な措置をとらなければならない。公的な住宅供給計画では、とりわけ、障害のある人と高齢者にとってアクセシブルな住宅を提供しなければならない。

43.条約第29条は、障害のある人が政治的及び公的活動へ参加し、公務の遂行に参加する権利を保障している。締約国が投票の手続、施設及び資料を、適切かつアクセシブルで、理解しやすく、使用しやすいものにすることを確保できなければ、障害のある人はこれらの権利を平等かつ効果的に行使することができなくなる。また、政治的な会合と、公共の選挙に参加する政党や個人の候補者によって使用され、作成される資料をアクセシブルにすることも重要である。さもなければ、障害のある人は政治的プロセスに平等に参加する権利を奪われる。公職に選出される障害のある人は、その任務を完全にアクセシブルな方法で遂行する平等な機会を持たなければならない。

44.誰もが芸術を楽しみ、スポーツに参加し、ホテル、レストラン及びバーに行く権利を持っている。しかし、車いす使用者は、コンサートホールに階段しかない場合、コンサートに行くことはできない。盲人は、美術館で聞くことができる、絵画に関する説明がなければ、絵画を鑑賞することはできない。難聴の人は、字幕がなければ映画を楽しむことはできない。ろう者は、手話通訳がなければ、舞台演劇を楽しむことはできない。知的障害のある人は、読みやすいバージョンや、拡大・代替形態がなければ、本を楽しむことはできない。条約第30条は、締約国に対し、障害のある人が他の者との平等を基礎として文化的な生活に参加する権利を認めることを義務付けている。締約国は、障害のある人について、次のことを確保するためのすべての適切な措置をとることを義務付けられている。
 (a) アクセシブルな様式を通じて、文化的作品へのアクセスを享受すること。
 (b) アクセシブルな様式を通じて、テレビ番組、映画、演劇その他の文化的な活動へのアクセスを享受すること。
 (c) 劇場、博物館、映画館、図書館、観光サービス等の文化的な公演又はサービスが行われる場所へのアクセスを享受し、また、可能な限度において国の文化的に重要な記念物及び遺跡へのアクセスを享受すること。
 国家遺産の一部である文化的及び歴史的記念物へのアクセスの提供は、まさに、状況によっては困難な課題となる可能性がある。しかし、締約国は、これらの場所へのアクセスの提供に務める義務がある。国の文化的に重要な多くの記念物及び遺跡が、その文化的及び歴史的アイデンティティと独自性を保持する方法で、アクセシブルにされてきた。

45.「締約国は、障害のある人が、創造的、芸術的及び知的な潜在能力を開発し及び活用する機会を有することを可能とするための適切な措置をとる」(第30条第2項)。「締約国は、国際法に従い、知的財産権を保護する法令が文化的作品への障害のある人のアクセスを妨げる不合理な又は差別的な障壁とならないことを確保するためのすべての適切な措置をとる」(第30条第3項)。2013年6月に採択された、世界知的所有権機関の、全盲の人々、視覚障害のある人々、あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々のために、出版物へのアクセスを改善するマラケシュ条約では、国外に住み、すなわち、他国で少数派の一員として暮らしている、同一の言語又はコミュニケーション手段を使用している人を含む障害のある人、特に伝統的な印刷物の利用において困難な課題に直面している人の、文化的作品への不合理な又は差別的な障壁のないアクセスを確保しなければならない。障害者権利条約は、障害のある人は、他の者との平等を基礎として、その独自の文化的及び言語的なアイデンティティの承認及び支持を受ける権利を有すると規定している。第30条第4項は、手話とろう文化の承認と支持を強調している。

46.条約第30条第5項は、締約国は、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、レクリエーション、余暇及びスポーツの活動に参加することを可能とするため、次のことのための適切な措置をとる、と規定している。
 (a)障害のある人が、あらゆる段階における主流のスポーツ活動に可能な最大限の範囲内で参加することを奨励し及び促進すること。
 (b)障害のある人が、障害に特有のスポーツ及びレクリエーションの活動を組織し、発展させ及びこれに参加する機会を有することを確保すること。また、このため、適切な指導、訓練及び資源が他の者との平等を基礎として提供されるよう奨励すること。  (c)障害のある人が、スポーツ及びレクリエーションの開催地並びに観光地にアクセスすることを確保すること。
 (d)障害のある子どもが、他の子どもとの平等を基礎として、遊び、レクリエーション、余暇及びスポーツの活動(学校制度におけるこれらの活動を含む。)に参加することができることを確保すること。
 (e)障害のある人が、レクリエーション、観光、余暇及びスポーツの活動の企画に責任を負う者及び団体によるサービスにアクセスすることを確保すること。

47.条約第32条に記載されている国際協力は、アクセシビリティとユニバーサルデザインの促進における重要な手段とされるべきである。委員会は、国際開発機関に対し、ICT及びその他のアクセス関連のインフラストラクチャーを改善する支援プロジェクトの重要性を認めるよう勧告する。国際協力の枠組み内で行われるすべての新規の投資は、既存の障壁の撤廃を奨励し、新たな障壁の創造を防止するために使用されなければならない。公共の資金を新たな格差の存続に利用することは受け入れられない。あらゆる新規の事物、インフラストラクチャー、施設、物品、製品及びサービスは、すべての障害のある人にとって完全にアクセシブルでなければならない。国際協力は、アクセシブルな物品、製品及びサービスへの投資にのみ使用されるべきではなく、世界中の何百万人もの障害のある人の生活を改善できる具体的な変化を生み出す方法によりアクセシビリティを達成するグッドプラクティスに関するノウハウと情報の交換を促進することにも使用されなければならない。標準化に関する国際協力も重要であるが、これに加えて、障害者団体がアクセシビリティ基準を開発し、実施し、監視する国内外のプロセスに参加できるように支援しなければならないという事実も重要である。アクセシビリティを、あらゆる持続可能な開発の取り組み、特に2015年以降の課題における、不可欠な部分としなければならない。

48.アクセシビリティの監視は、条約に対する国内外の監視に欠かせない側面である。第33条では締約国に対し、その制度に従い、条約の実施に関連する事項を取り扱う1又は2以上の担当部局(フォーカルポイント)と、1又は2以上の独立した仕組みを含む国内の枠組みを政府内に設けることを義務付けている。市民社会もまた、監視の過程に全面的に関与し、かつ、参加する。第9条の適切な実施のための手段が検討される際に、これらの第33条主文について、十分な協議がなされることが極めて重要である。市民社会には、とりわけ、国内のアクセシビリティ基準の策定に参加し、既存の法律と法案に関してコメントし、法案と政策規則案を提出し、意識向上と啓蒙活動に完全に参加する有意義な機会が与えられなければならない。条約実施に対する国内外の監視の過程は、障害のある人とその代表団体の効果的な参加を促進し、確保する、アクセシブルな方法で進められなければならない。条約第49条では、条約の本文を、アクセシブルな様式で利用できるようにすることを義務付けている。これは、国際人権条約における革新であり、障害者権利条約はこの点に関して、将来のすべての条約に対し、前例を示していると見なされるべきである。


原文:
United Nations
CRPD/C/GC/2
Convention on the Rights of Persons with Disabilities
Distr.: General
11 April 2014
ADVANCE UNEDITED VERSION
Original: English
Committee on the Rights of Persons with Disabilities
Eleventh session
31 March -11 April 2014
General comment No. 2 (2014)
Article 9: Accessibility
http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CRPD/C/GC/2&Lang=en
Office of the High Commissioner for Human Rights.United Nations Human Rights.
http://www.ohchr.org/EN/HRBodies/CRPD/Pages/CRPDIndex.aspx

仮訳:日本障害者リハビリテーション協会