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障害者権利委員会
インクルーシブ教育を受ける権利に関する一般的意見第4号(2016年)

Ⅰ.序論

1.障害のある人は、歴史的に福祉の受益者と見なされてきたが、今では国際法の下で、差別を受けることなく機会均等に基づき教育を受ける権利を主張する権利所有者として認められている。児童の権利に関する条約(1989年)、万人のための教育に関する世界宣言(1990年)、障害者の機会均等化に関する基準規則(1993年)及びサラマンカ声明と行動の枠組み(1994年)のすべてに、障害のある人の教育を受ける権利に対する認識と理解の高まりの証となる措置が含まれている。

2.教育を受ける権利を達成する鍵としてのインクルージョンの認識は、過去30年間のうちに高まり、障害者権利条約という、質の高いインクルーシブ教育の概念への言及を含む、初の法的拘束力を持つ法律文書に正式に記されている。持続可能な開発目標4もまた、インクルーシブで質の高い、公正な教育の価値を肯定している。インクルーシブ教育は、障害のある学習者を含むすべての学習者のための、また、インクルーシブで平和かつ公正な社会の発展に向けた、質の高い教育の達成の中心である。さらに、強力な教育的、社会的及び経済的理由もある。国連人権高等弁務官事務所の障害のある人の教育を受ける権利に関するテーマの研究報告にあるように、インクルーシブ教育のみが、障害のある人に質の高い教育と社会的発達の両方をもたらし、教育を受ける権利における普遍性と無差別を保障することができるのである(注1)

3.しかし、進展はあったものの、委員会は深刻な課題が根強く残っていることを懸念している。数百万人もの障害のある人が、引き続き教育を受ける権利を否定されており、さらに多くの障害のある人が、同級生から分離された環境でしか教育を受けることができず、しかもそこで受ける教育は質が低いのである。

4.障害のある人のインクルーシブ教育を享受する機会を阻む障壁は、以下を含む複数の要因に起因すると言える。
 (a)個人の機能障害ではなく、地域社会や社会における障壁が障害のある人を排除しているとする障害の人権モデルに対する理解またはその実施の失敗。
 (b)今なお長期居住型施設で生活している障害のある人の孤立と、一般の人と同じ環境に置かれている障害のある人への低い期待が原因で悪化し、偏見と恐怖のエスカレートと放置を許してしまっている、障害のある人に対する根強い差別。
 (c)インクルーシブで質の高い教育の特性と利点、及び、すべての人のための学習における、競争力という観点を含む、多様性に関する知識の不足。すべての親への支援活動の不足、支援ニーズへの適切な対応の不足が、インクルージョンは教育の質の低下を招くか、さもなければ、他の者にマイナスの影響を与えるという誤った懸念や固定観念をもたらしている。
 (d)分類されたデータ及び調査研究(どちらもアカウンタビリティとプログラムの開発に必要)の不足。これが効果的な政策の開発とインクルーシブで質の高い教育の促進への介入を妨げている。
 (e)すべての教職員の教育不足を含む、インクルーシブ教育を受ける権利の実施における政治的意思、技術的知識及び能力の不足。
 (f)不適切かつ不十分な、障害のある生徒のインクルージョンのための報奨金及び合理的配慮を提供するための資金調達メカニズム、省庁間の連携、支援及び持続可能性。
 (g)法的救済策及び違反の是正を要求するメカニズムの欠如。

5.障害者権利条約の締約国は、インクルーシブ教育を実施するためにとられるすべての措置において、条約の基礎をなす一般原則を尊重し、インクルーシブ教育システム開発のプロセスと成果がともに第3条に従っていることを確保しなければならない。

6.この一般的意見は、事実上の障害のある人あるいは障害があると認識されている人すべてに適用可能である。 委員会は、知的障害や重複障害のある人、盲ろうの人、自閉症の人あるいは人道上の緊急事態における障害のある人など、一部の集団が他に比べて教育から排除される危険が高いことを認める(注2)

7.第4条(3)に従い、締約国は、インクルーシブ教育にかかわる政策の計画立案、実施、監視及び評価のあらゆる側面において、障害のある児童を含む障害のある人を代表する団体を通じて彼らと協議し、その積極的な関与を得なければならない。障害のある人と、場合によってはその家族は、単なる教育の受益者ではなく、パートナーとして認識されなければならない。

Ⅱ.第24条の規範的内容

8.第24条(1)に従い、締約国は、就学前、初等、中等及び高等教育、職業訓練及び生涯学習、課外及び社会活動などあらゆる段階における、障害のある人を含むすべての生徒を対象とした、差別のない、他の者との平等を基礎とした、インクルーシブ教育システムを通じて、障害のある人の教育を受ける権利の実現を確保しなければならない。

9.インクルーシブ教育を受ける権利の保障には、異なるニーズと個々の生徒のアイデンティティに配慮するための、あらゆる公式・非公式な教育環境における文化、方針及び実践の変革と、その可能性を妨げる障壁の撤廃に対する責任とが伴う。これには、すべての学習者に支援の手を差し伸べる教育システムの能力強化が含まれる。そして、すべての生徒、特に、さまざまな理由から排除される、あるいは、捨て置かれる危険のある生徒の、完全かつ効果的な参加、アクセシビリティ、就学及び学業成就に焦点が絞られる。インクルージョンには、質の高い、差別のない、公式・非公式な教育を享受する機会とそこにおける進歩が含まれる。インクルージョンは、障害のある生徒の福祉と成功を重視することにより、地域社会、制度及び組織が、有害な固定観念を含む差別と闘い、多様性を認め、参加を促進し、すべての人の学習と参加を阻む障壁を克服できるようにすることを目指す。それには、教育の資金調達、運営、計画、提供と監視に関する法律、政策及びメカニズムにおける教育システムの徹底的な変革が必要となる。

10.インクルーシブ教育は、以下のように理解される。
 (a)すべての学習者の基本的人権。特に、教育は個々の学習者の権利であり、児童の場合、親や養育者の権利ではない。この点において、親の責任は児童の権利に従属する。
 (b)すべての生徒の福祉を重視し、彼らの固有の尊厳と自律を尊重し、個人のニーズと、効果的に社会に参加し、貢献する能力を認めるという原則。
 (c)他の人権を実現する一手段。障害のある人が貧困から脱し、地域社会に完全に参加する手段を得、搾取から保護されることを可能にするために主要な手段。また、インクルーシブな社会を実現するために主要な手段。(注3)
 (d)教育を受ける権利を妨げる障壁の撤廃に対する継続的かつ積極的なコミットメントのプロセスの結果で、すべての生徒に配慮し、効果的にインクルージョンするために、通常学校の文化、方針及び実践を変革することを伴う。

11.委員会は、排除、分離、統合及びインクルージョンの違いを認識することの重要性を強調する。排除は、生徒が直接的または間接的に、何らかの形態の教育を享受する機会を妨げられたり、否定されたりするときに発生する。分離は、障害のある生徒の教育が、特定の機能障害やさまざまな機能障害に対応するために設計され、あるいは使用される別の環境で、障害のない生徒から切り離されて行われるときに発生する。統合は、障害のある人は既存の主流の教育機関の標準化された要件に適合できるという理解の下に、彼らをそのような機関に配置するプロセスである。インクルージョンには、対象となる年齢層のすべての生徒に、公正な参加型の学習体験と、彼らのニーズと選好に最も合致した環境を提供することに貢献するというビジョンを伴った、障壁を克服するための教育内容、指導方法、アプローチ、組織体制及び方略の変更と修正を具体化した制度改革のプロセスが含まれる(注4)。たとえば組織、カリキュラム及び指導・学習方略などの構造的な変更を伴わずに障害のある生徒を通常学級に配置することは、インクルージョンにならない。さらに、統合は分離からインクルージョンへの移行を自動的に保障するものではない。

12.インクルーシブ教育の基本的な特徴は、以下のとおりである。
 (a)「全システム」的アプローチ:教育省は、あらゆる資源が、インクルーシブ教育の推進と、制度的文化、政策及び実践における必要な変更の導入と定着に投資されることを確保しなければならない。
 (b)「全教育環境」:教室での指導と人間関係、理事会、教員の監督、カウンセリングサービス及び医療、校外学習・修学旅行、予算配分、障害のある学習者及び障害のない学習者の親とのあらゆるやりとり、該当する場合は、地域社会や広く一般の人々をも含む、あらゆる段階及びあらゆる分野におけるインクルーシブ教育の実現に必要な文化、政策及び実践の導入と定着のためには、教育機関による責任あるリーダーシップが不可欠である。
 (c)「全人」的アプローチ:すべての人の学習能力を認め、障害のある学習者を含むすべての学習者への高い期待を確立する。インクルーシブ教育は、さまざまな強み、ニーズおよび学習スタイルに合わせた柔軟性のあるカリキュラムと指導・学習方法を提供する。このアプローチは、すべての学習者がその可能性を実現できるように、支援、合理的配慮及び早期介入を行うことを意味する。教育活動の計画において焦点となるのは、その内容ではなく、学習者の能力と志である。「全人」的アプローチは、適切な支援を伴うアクセシブルな学習環境におけるインクルーシブな教室指導の確保による教育現場での分離の廃止を目指している。教育システムは、生徒がシステムに適合することを期待するのではなく、個別の教育的対応を提供しなければならない。
 (d)教員支援:すべての教員及びその他の職員は、障害のある教員を含むインクルーシブな学習環境を提供する基本的価値観と能力を得るために必要な教育と研修を受ける。インクルーシブな文化は、協力、人と人との交流及び問題解決による取り組みを促進する、アクセシブルで支援を受けられる環境を提供する。
 (e)多様性の尊重と重視:学習コミュニティのすべてのメンバーは平等に歓迎され、障害、人種、皮膚の色、性別、言語、言語的文化、宗教、政治的及びその他の意見、国籍、種族的出身、先住民であること、あるいは社会的出身、財産、家柄、年齢、その他の地位にかかわらず、多様性を尊重されなければならない。すべての生徒が、高く評価され、尊重され、受け入れられ、自分の意見に耳を傾けられていると感じなければならない。また、虐待といじめを予防する効果的な措置を設ける。インクルージョンには、生徒への個別のアプローチが必要である。
 (f)学習者に優しい環境:インクルーシブな学習環境とは、誰もが安心し、サポートや刺激を受け、自分の意見を表現できると感じるとともに、前向きな学校コミュニティの構築への生徒の関与が大いに重視される、アクセシブルな環境である。学習、好ましい人間関係の構築、友情及び受容においては、ピアグループの存在が認められる。
 (g)効果的な移行:障害のある学習者は、学校での学習から職業及び高等教育、そして最終的には就労への効果的な移行を確実に行うための支援を受ける。学習者の能力と自信が育まれ、学習者は合理的配慮を受け、アセスメントと試験の手続きにおいて平等に扱われ、その能力と技能は他の者との平等を基礎として認定される。
 (h)パートナーシップの認識:教員組合、学生会及び学生連盟、障害者団体、教育委員会、PTA及びその他の機能している学校支援団体は、公式・非公式を問わず、すべて障害に対する理解と知識を増強することを奨励される。親や養育者及び地域社会の関与は、資源と強みを提供してくれる資産と見なされる。学習環境とより広範な地域社会との関係は、インクルーシブな社会への道として認識されなければならない。
 (i)監視:継続的なプロセスとして、インクルーシブ教育は、公式・非公式を問わず、分離も統合も起きていないことを確かにするために、定期的に監視され、評価されなければならない。第33条に従い、監視には、必要に応じて障害のある児童の親や養育者とともに、児童や集中的な支援を必要としている人を含む障害のある人の関与を、その代表団体を通じて得るべきである。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に合致した方法で、障害インクルーシブな指標が開発され、使用されなければならない。

13.国連教育科学文化機関(UNESCO)の教育における差別を禁止する条約に従い、また、障害者権利条約第24条(1)を実施するために、締約国は、教育を受ける権利が、差別なしに、機会の均等を基礎として保障されることを確保しなければならない。締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止し、障害のあるすべての人に、いかなる理由による差別に対しても平等かつ効果的な保護を保障しなければならない。障害のある人は障害、ジェンダー、宗教、法的地位、種族的出身、年齢、性的指向または言語に基づく交差性の差別を経験する可能性がある。さらに、親、兄弟姉妹及びその他の親類も、関係があるとされて、障害に基づく差別を経験する可能性がある。あらゆる形態の差別に対処するために必要な措置には、教育機関と地域社会における、法的、物理的、コミュニケーション及び言語的、社会的、経済的障壁及び態度に関する障壁を明らかにし、撤廃することが含まれる。差別されない権利には、分離されない権利と、合理的配慮を受ける権利が含まれ、アクセシブルな学習環境と合理的配慮の提供の義務に照らして理解されなければならない。

14.武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害といった状況は、インクルーシブ教育を受ける権利に不相応なほど過度の影響を与える。締約国は、緊急時における総合的な学校安全保障のため、障害のある学習者に配慮したインクルーシブな防災戦略を採用するべきである。このような状況における一時的な学習環境は、障害のある人、特に障害のある児童の、他の者との平等を基礎とした教育を受ける権利を保障するものでなければならない。それには、アクセシブルな教材、学校施設、カウンセリング、そして、ろうの学習者の場合は地域の手話を使用した研修を受ける機会を含めなければならない。障害者権利条約第11条に従い、また、このような状況における性的暴力の危険の高まりを考慮し、障害のある女子にとって学習環境が安全かつアクセシブルであることを保障する措置がとられなければならない。障害のある学習者は、緊急事態において彼らを避難させることが不可能であるという理由で教育機関の利用を拒否されてはならず、合理的配慮が提供されなければならない。

15.第24条(1)(a)の実現に向けて、また、世界人権宣言、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約に従い、教育は、人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識の十分な発達と、人権及び人間の多様性の尊重の強化を目的として進められなければならない。締約国は、万人のための教育に関する世界宣言(第1条)、児童の権利に関する条約(第29条(1))、ウィーン宣言及び行動計画(第I部パラグラフ33及び第II部パラグラフ80)並びに人権教育のための国連10年行動計画(パラグラフ2)に照らして解釈される、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の目的及び目標に、教育が合致することを確保しなければならない。これらの条項には、ジェンダーの平等と環境の尊重への言及などの追加要素が含まれている。教育を受ける権利の保障は、アクセスと内容の問題であり、その努力は、理解と寛容を含む広くさまざまな価値観を守ることに向けられるべきである(注5)。インクルーシブ教育は、すべての人が互いに尊重し、価値を認め合うよう促すこと、そして、学習への取り組みと教育機関の文化及びカリキュラム自体に多様性の価値が反映されている教育環境を構築することを目的としなければならない(注6)

16.第24条(1)(b)の実施に向けて、教育は、障害のある人の人格、才能及び創造力並びに精神的、身体的及びコミュニケーション能力を、その可能な最大限度まで発達させることに向けられるべきである。障害のある人の教育では、欠陥を埋めるアプローチと、実際にある機能障害や認識されている機能障害、そして、潜在能力に対する暗黙の否定的な思い込みによる機会制限が、あまりに注目されすぎている。締約国は、障害のある人それぞれの独自の強みと才能を生かす機会の創出を支援しなければならない。

17.第24条(1)(c)の実現に向けて、教育の目的は、障害のある人が自由な社会に完全かつ効果的に参加することを可能にすることに向けられなければならない。児童の権利に関する条約第23条(3) を想起し、委員会は、障害のある児童について、可能な限り社会への統合及び個人の発達を達成することに資する方法で、教育を受ける効果的な機会を確実に得ることができるよう、援助を与えられなければならないことを強調する。締約国は、個別支援と合理的配慮が優先事項であること、あらゆる義務教育段階において、それらを無償とするべきことを認識しなければならない。

18.第24条(2)(a)の実施に向けて、障害のある人の一般的な教育制度からの排除は、個人の潜在能力の程度をインクルージョンの条件とすることや、合理的配慮の提供の義務から逃れるために、均衡を失した過度の負担を主張することなど、機能障害またはその機能障害の程度に基づきインクルージョンを制限する何らかの法的または規制的条項による排除も含めて、禁止されるべきである。一般的な教育とは、すべての通常の学習環境と教育部門を意味する。直接的な排除は、特定の生徒を「教育不可能」であり、それゆえ、教育を受ける資格がないとして分類することだと言える。間接的な排除は、合理的配慮や支援なしに、入学条件として共通試験への合格という要件を課すことだと言える。

19.条約第4条(1)(b)の実施に向けて、締約国は、障害のある人に対する差別となり、第24条に違反する、既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、または廃止するための、立法を含むすべての適当な措置をとるべきである。必要に応じて、差別的な法律、規則、慣習及び慣行は、組織的な、かつ、期限を定めた方法で、廃止あるいは改正されるべきである。

20.第24条(2)(b)の実現に向けて、障害のある人は、他の者との平等を基礎として、自己の生活する地域社会において、インクルーシブで、質が高く、かつ、無償の初等・中等教育を享受することができ、両者の間の移行を円滑に行うことができなければならない。委員会はこの義務を果たすために、教育制度は利用可能性、アクセシビリティ 、受容可能性及び適合可能性という4つの相互に関連する特徴をもって構成されなければならないとする、経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の勧告を用いる(注7)

利用可能性

21.公共及び民間の教育施設及びプログラムは、十分な量と質で利用できなければならない。締約国は、地域社会全体のあらゆるレベルにおいて、障害のある学習者のための教育の場の幅広い利用可能性を保障しなければならない。

アクセシビリティ

22.条約第9条と委員会のアクセシビリティに関する一般的意見第2号(2014年)に従い、教育施設及びプログラムは、差別なく、すべての人にアクセシブルでなければならない。校舎、(環境支援システムや周波数変調支援システムから成る)情報通信ツール、カリキュラム、教材、指導方法、アセスメント及び言語・支援サービスなどを含めた教育システム全体がアクセシブルでなければならない。障害のある生徒のすべての環境は、インクルージョンを促進し、教育全体においてその平等が保障されるべく設計されなければならない。たとえば、通学のための交通機関、水道および公衆衛生施設(衛生施設とトイレを含む)、学校食堂及び娯楽スペースは、インクルーシブでアクセシブルかつ安全なものとするべきである(注8)。締約国は、ユニバーサルデザインの迅速な導入に全力で取り組まなければならない。締約国は、今後、アクセシブルではない教育インフラストラクチャーの建設をすべて禁止し、制裁措置をとり、あらゆる既存の教育環境をアクセシブルにするための効率的な監視の仕組みとスケジュールを設定するべきである。締約国はまた、教育環境における合理的配慮の提供が必要とされた場合、これに全力で取り組まなければならない。ユニバーサルデザインによるアプローチは、支援用の機器、アプリケーション及びソフトウェアが必要となる可能性がある障害のある学習者に、それらを提供しないということではない。アクセシビリティはダイナミックな概念で、その適用には定期的な規制と技術的調整が必要である。締約国は、学習の強化を目的とした革新と新たな技術の急速な開発が、障害のある生徒を含むすべての生徒にとってアクセシブルであることを確保しなければならない。

23.委員会は、手話を含むアクセシブルな様式及び言語による教科書と学習教材の不足が拡大していることに注目する。締約国は、革新的な技術の使用等を通じて、印刷または点字及びデジタル形式による資源の時宜を得た開発に投資しなければならない。また、印刷物をアクセシブルな様式及び言語に変換するための基準とガイドラインの開発、アクセシビリティを教育関連の調達において中心にすえることを検討するべきである。委員会は締約国に対し、視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称) を緊急に批准し、実施することを要求する。

24.あらゆる段階の教育を、障害のある生徒が負担しやすい費用で利用できることが、アクセシビリティの必要条件である。合理的配慮は、障害のある学習者に追加費用を課すものであってはならない。義務的な、質の高い、無償でアクセシブルな初等教育は、即時的義務である。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」 に従い、締約国は、障害のある児童を含めたすべての児童が、無償かつ公正で質の高い中等教育を修了できるようにし、障害のあるすべての男女が、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育、並びに生涯学習への平等なアクセス を得られるようにする措置を、漸進的に採用しなければならない。締約国は、障害のある人が他の者との平等を基礎として、公共及び民間の教育機関 における教育を享受することができるようにしなければならない。

受容可能性

25.受容可能性は、障害のある人のニーズ、文化、見解及び言語を十分に考慮し、尊重して、すべての教育関連施設、商品およびサービスを設計し、実施する義務である。提供される教育の形式と内容は、すべての人に受け入れられるものでなければならない。締約国は、教育がすべての人にとって質が高いものであることを確保するために、積極的差別是正措置 を採用しなければならない。 インクルージョンと質は互恵的である(注9)。インクルーシブなアプローチは、教育の質に大いに貢献することができる。

適合可能性

26.委員会は締約国に対し、学習アプローチとしてユニバーサルデザインの採用を促すが、これは、教員及びその他の職員に、適合可能な学習環境の創造と、すべての学習者の多様なニーズを満たす指導の開発のための構造を提供する一連の原則から成る。それは、それぞれの生徒が独自の方法で学習することを認め、柔軟性のある学習方法の開発、魅力ある教室環境の創造、期待に応えるためのさまざまな方法を許容しながら、すべての生徒への高い期待を維持すること、自分自身の指導について考えを改めるよう教員を力づけること、そして、障害のある人を含むすべての人の教育成果を重視することを伴う。カリキュラムは、すべての生徒のニーズを満たし、これに合わせて調整し、適切な教育的対応を行うべく考案され、設計され、実施されなければならない。標準化されたアセスメントは、柔軟性のある多様な形式のアセスメントと、別の学習経路を提供する幅広い目標に向けた個別の進歩に対する評価に置き換えられなければならない。

27.条約第24条(2)(b)に従い、障害のある人は、自己の生活する地域社会において、初等及び中等学校に通学することができなければならない。生徒は自宅から離れた学校に行かされるべきではない。教育環境は、障害のある人にとって安全で、物理的に近い所になければならず、安全かつ安心な通学手段を伴うものでなければならない。あるいは、その代替として、情報通信技術を通じてアクセシブルでなければならない。しかし、締約国は、教育環境における障害のある生徒の直接参加と、教師やロールモデルとのやりとりに代わるものとして、技術のみに依存することは避けるべきである。障害のある学習者の兄弟姉妹を含む他の生徒との積極的なかかわりは、インクルーシブ教育を受ける権利の重要な構成要素なのである。

28.第24条(2)(c)に従い、締約国は、個々の生徒が他の者との平等を基礎として教育を享受することができるように、合理的配慮を提供しなければならない。「合理的であること」は、配慮の妥当性と効果及び差別に対抗するものと期待される目標の分析を伴う、文脈依存型検証 の結果として理解される。均衡を失した負担のアセスメントの際には、資源の利用可能性と財政面への影響が評価される。合理的配慮を提供する義務は、そのような配慮への要求がなされた瞬間から生じる。合理的配慮に取り組む政策は、国、地域及び教育機関レベルで、また、あらゆる教育段階において採用されなければならない(注10)。合理的配慮の提供範囲は、インクルーシブ教育システムを開発する義務全般に照らして検討しなければならず、既存の資源を最大限活用するとともに、新たな資源の開発も進める。資源不足と財政危機の存在を、インクルーシブ教育に向けた前進の失敗を正当化するために利用することは、第24条に違反する。

29.委員会は、一般的なアクセシビリティの義務と合理的配慮を提供する義務との違いを改めて述べる。アクセシビリティは、集団に利益を与え、漸進的に実施される一連の基準に基づいている(注11)。均衡を失したまたは過度の負担を、アクセシビリティの不提供を擁護するために主張することはできない。合理的配慮は個人に関係しており、アクセシビリティの義務を補完するものである。個人は、たとえ締約国がアクセシビリティの義務を果たしていても、合理的配慮の措置を合法的に要求することができる。

30.均衡のとれた状態がどういうものかという定義は、必然的に状況によって変化する。配慮の利用可能性は、教育制度において利用可能な教育資源という、より大きな泉について検討されるべきであり、問題となっている教育機関 で利用可能な資源に限定されるべきではない。制度内での資源の移動は可能であるべきだ。同じ機能障害を持つ異なる生徒が、異なる配慮を必要とする場合があるため、合理的配慮には「フリーサイズ」の常套手段はない。配慮としては、教室の場所の変更、異なる教室内コミュニケーション形式の提供、印刷物、教材及び/または掲示物の文字の拡大、代替形式によるプリントの提供、ノートテーカーや通訳者の派遣または学習・試験における支援技術の使用許可などがあげられる。生徒に時間の延長を認めたり、背後の騒音レベルを下げたり(感覚過負荷に対する過敏症の場合)、代替評価手段を使用したり、カリキュラムの要素を別のものに差し替えたりすることなどの非物質的な配慮の提供も検討されなければならない。配慮が生徒のニーズ、意思、選好及び選択を満たしていること、また、施設提供者によって実施可能であることを確保するために、教育局及び教育提供者、教育機関 、障害のある生徒、そして生徒の年齢と能力によっては親、養育者またはその他の家族との話し合いを持たなければならない。合理的配慮の提供は、機能障害の医学的診断を条件とするのではなく、むしろ教育を阻む社会的障壁の評価に基づいて行われるべきである。

31.合理的配慮の拒否は差別となり、合理的配慮を提供する義務は即時に適用され、漸進的実現の対象ではない。締約国は、配慮の妥当性と効果を監視し、障害のある生徒と、該当する場合はその家族が、合理的配慮が適切に提供されていない、あるいは、差別を経験したと考えるとき、安全で時宜を得たアクセシブルな救済の仕組みを提供するために、独立したシステムを設けることを確保しなければならない。救済プロセスの間は、差別の犠牲者を被害から守るための措置が不可欠である。

32.第24条(2)(d)の実施に向けて、障害のある生徒には、その効果的な教育を容易にし、その潜在能力を他の者との平等を基礎として十分に発揮できるようにするために必要な支援を受ける資格を与えられるべきである。教育制度の下でのサービスと施設の一般的な利用可能性に関する支援は、障害のある生徒がその潜在能力を可能な限り最大限発揮できるようなものにするべきで、たとえば、十分に訓練され、支援を受けている教職員、学校カウンセラー、心理学者及びその他の関連のある保健及び社会サービス専門家の派遣と、奨学金及び財源の利用の機会が含まれる。

33.第24条(2)(e)の実現に向けて、適切かつ継続的な個別化された支援が直接提供される。委員会は、補助・補整具、意思疎通の代替的/アクセシブルな様式、形態及び手段による特別な学習教材、コミュニケーション支援機器及び支援情報技術の提供を含む、個々の生徒が必要とする合理的配慮と具体的な支援を明らかにすることができる個別教育計画を提供する必要性を強調する。また、支援には、生徒のニーズに応じて、生徒1人に対して複数もしくは1人で対応する、資格を持つ学習支援員も参加することができる。個別教育計画では、学習者が経験する分離型の教育環境から通常の教育環境への移行や、教育段階の中での移行に取り組まなければならない。このような計画の効果は、当該学習者の直接的な参加を得たうえで、定期的に監視され、評価されるべきである。提供される支援の性質は、生徒に加えて、適宜、親、養育者またはその他の第三者とも協力して決定されなければならない。学習者は、支援が利用不可能あるいは不十分な場合、請願の仕組みを利用することができなければならない。

34.提供されるいかなる支援措置も、インクルージョンの目標に従ったものでなければならない。よって、それらは障害のある生徒を捨て置くのではなく、彼らが教室内及び学外での活動に同級生とともに参加する機会を強化することを目的としなければならない。

35.第24条(3)に関して、多くの締約国は、障害のある人、特に自閉症スペクトラムの人、コミュニケーション機能障害のある人及び感覚器官の障害のある人が、教育と地域社会に参加するために不可欠な、生活、言語及び社会的技能を習得するための適当な措置をとることを行っていない。
 (a)全盲及び弱視の生徒は、点字、代替的な文字、意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式並びに定位及び移動のための技能を習得する機会を与えられなければならない。学習を容易にするための適切な技術及び代替意思疎通システムの利用に向けられる投資が支援されるべきである。障害のある人相互による支援及び助言のスキームが導入され、奨励されるべきである。
 (b)ろう及び難聴の生徒は、手話を習得する機会を与えられなければならず、ろう社会の言語的な同一性を認識し、促進する措置がとられなければならない。委員会は締約国に、教育における差別を禁止する条約に注目するよう促す。これは児童が自らの言語で教育を受ける権利を確立するもので、締約国に対し、障害者権利条約第30条(4)に従い、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、手話及びろう文化を含む、その独自の文化的及び言語的な同一性の承認及び支持を受ける権利を有することを想起させる。さらに、難聴の生徒も、質の高い言語療法サービス、誘導ループ技術及び字幕が利用できるようにしなければならない。
 (c)全盲、ろうまたは盲ろうの生徒は、その個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段で、かつ、人格的、学問的及び社会的な発達を最大にする、公式な学校現場内外の環境において行われる教育を提供されなければならない。委員会は、このようなインクルーシブな環境が存在するためには、締約国が、資源、支援技術並びに定位及び移動のための技能等の必要な支援を提供するべきであることを強調する。
 (d)コミュニケーション機能障害がある学習者は、自分の意見を表明し、代替的または補助的な意思疎通の使用を習得する機会を与えられなければならない。これには、手話、音声出力機能付きのタブレットのようなローテクまたはハイテクのコミュニケーション支援機器、音声出力会話補助装置あるいはコミュニケーションブックの提供が含まれるだろう。締約国は、学習を容易にする適切な技術及び代替的な意思疎通のシステムの利用を促進するために、専門知識、技術及びサービスの開発に投資するべきである。
 (e)社会コミュニケーションの困難がある学習者は、ペア活動、ピア・チュータリング、教師の近くの座席、構造化された予測可能な環境の創造を含む、学級編成の適切な調整を通じて支援されなければならない。
 (f)知的機能障害のある学習者は、生徒が自立生活と職業的文脈に向けて最善の備えをする能力を目標とする、具体的で観察可能/視覚的な、読みやすい指導・学習教材を、安全で静かな、構造化された学習環境において提供されなければならない。締約国は、代替的な指導方略とアセスメント方法が活用される、インクルーシブでインタラクティブな教室に投資するべきである。

36.第24条(4)を実現するために、締約国は、インクルーシブな教育環境において効果的な働きをする技能を持ち、手話及び/または点字並びに定位及び移動のための技能について能力を有する事務職員、教員及び教員以外の職員を雇用するための適当な措置をとる必要がある。資格を有する担当の学校職員が十分にいることが、インクルーシブ教育の導入と持続可能性の鍵である。理解と能力の不足は、インクルージョンを阻む重大な障壁であり続ける。締約国は、すべての教員がインクルーシブ教育に関する研修を受けること、そのような研修が障害の人権モデルに基づくものであることを確保しなければならない。

37.締約国は、障害のある教員の採用と継続的な教育に投資し、これを支援しなければならない。これには、候補者に特定の医学的な資格基準を満たすことを義務付けるあらゆる法律または政策上の障壁の撤廃と、彼らが教員として参加するための合理的配慮の提供が含まれる。彼らの存在は、障害のある人が教職に就く平等な権利の促進に役立ち、独自の専門知識と技能を学習環境にもたらし、障壁の撤廃に貢献し、重要なロールモデルとしての役割を果たすであろう。

38.第24条(5)を実施するために、締約国は、障害のある人が、差別なしに、かつ、他の者との平等を基礎として、一般的な高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を享受することができることを確保するべきである。これらの段階における教育に対する態度に関する障壁と、物理的、言語的、コミュニケーション的、経済的、法的及びその他の障壁は、平等な享受の機会を確保するために特定され、撤廃されなければならない。障害のある人が差別に直面しないことを確保するために、合理的配慮が提供されなければならない。締約国は、障害のある学習者のために、高等教育において積極的差別是正措置をとることを検討するべきである。

Ⅲ.締約国の義務

39.締約国は、インクルーシブ教育を受ける権利のきわめて重要な特徴、すなわち、利用可能性、アクセシビリティ、受容可能性及び適合可能性のそれぞれを尊重し、保護し、満たすべきである。尊重の義務には、特定の障害のある児童を教育から排除する法律や、アクセシビリティまたは合理的配慮の拒否など、権利の享有を妨げる措置を避けることが必要となる。保護の義務には、たとえば、障害のある娘を学校に通わせることを拒む親や、障害のある人の入学をその機能障害を理由に拒否する私立学校など、第三者が権利の享有を妨げることを防ぐ措置をとることが必要となる。充足の義務には、たとえば、教育機関がアクセシブルであること、また、教育制度が資源とサービスをもって適切に調整されることを確保するなど、障害のある人が教育を受ける権利を享有できるようにし、支援するための措置をとることが必要となる。

40.第4条(2)は、締約国に対し、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、これらの権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、また、必要な場合には国際協力の枠内で、措置をとることを義務付けている。漸進的な実現とは、締約国が第24条の完全な実現に向けて、可能な限り迅速かつ効果的に移行する、明確かつ継続的な義務を有することを意味する。これは、主流の教育制度と特別支援/分離教育制度という2つの教育制度の持続とは相容れない。漸進的な実現は、当該諸権利の完全な実現に関して、締約国の明確な義務を確立するという条約の全体的な目的と併せて読まれなければならない(注12)。同様に、締約国は、一部の予算をインクルーシブ教育の開発に移すなどして、教育への予算配分を見直すことが奨励される。この点に関して、教育段階を問わず、いかなる意図的な後退的措置も、障害のある学習者を不相応なほど過度に対象としてはならない。そのような措置は、危機的時期に限定された単なる一時的な措置であり、必要かつ相応で、差別的ではなく、不平等を緩和するためのあらゆる可能な措置を含めたものでなければならない(注13),(注14)

41.漸進的な実現は、即時に適用可能な義務に影響を及ぼすものではない。経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会が締約国の義務の性格に関する一般的意見第3号(1990年)で述べているように、締約国は、最低でも、教育を受ける権利の各側面の最低限の不可欠なレベルの充足を確保する、最低限の中核的義務を有する。それゆえ、締約国は、以下の中核的権利を直ちに実施するべきである。(注15)
 (a) 教育のあらゆる側面における、すべての国際的に禁じられている差別の理由を網羅した無差別。締約国は、障害のある人の教育からの排除をなくし、障害のあるすべての人の効果的な参加と平等の実現を阻む構造的な不利を撤廃すること確保しなければならない。そして、インクルーシブ教育を享受する権利を妨げる、あらゆる法的、行政的及びその他の形態の差別を撤廃するための対策を緊急にとらなければならない。積極的差別是正措置の採用は、そのような措置が、別の集団にとって不平等な、または、別個の基準を維持することへとつながらない限り、教育に関する無差別の権利の侵害にはならない。
 (b) 障害のある人の教育からの排除をなくすことを確保するための合理的配慮。合理的配慮の不提供は、障害を理由とした差別となる。
 (c) すべての人が利用可能な、義務的な、無償の初等教育。締約国は、インクルージョンを基本として、障害のあるすべての児童及び若者に対し、当該権利を保障するためのあらゆる適当な措置をとらなければならない。委員会は締約国に対し、「教育2030行動枠組み」 に概要が述べられているように、すべての児童及び若者のための、最低12年間の、無償の、公的資金による、インクルーシブかつ公正な質の高い初等及び中等教育で、そのうち少なくとも9年間は義務教育である、質の高い教育を享受する機会とその修了、並びに、不就学の児童及び若者のための、さまざまな様式による質の高い教育を享受する機会を確保することを強く要請する。

42.締約国は、インクルージョンと機会均等を基礎とし、すべての学習者を対象とした、あらゆる段階の教育の提供を含む、国家教育戦略を採用し、実施しなければならない。第24条(1)に定められている教育の目的は、締約国に対し、これに相当する義務を課し、それゆえ、即時性を基礎としているに等しいと見なされなければならない。

43.国際協力に関して、持続可能な開発目標4及び「教育2030行動枠組み」に従い、すべての二国間及び多国間協力は、能力構築、情報共有及びベストプラクティスの交換、調査研究、技術的・経済的援助、並びにアクセシブルな支援技術の利用の支援などを含む、インクルーシブかつ公正な質の高い教育の推進と、すべての人の生涯学習の機会の促進を目指すものでなければならない。収集されるすべてのデータと教育に費やされるすべての国際援助は、機能障害別に分類されるべきである。目標4の実施とエビデンス構築のための、インクルーシブ教育に関する国際協力の仕組みを検討することは、よりよい政策対話と監視の進展に貢献するだろう。

Ⅳ.条約の他の条項との関係

44.締約国は、すべての人権の不可分性及び相互依存性を認識しなければならない。教育は、他の権利の完全かつ効果的な実現に不可欠である。逆に、インクルーシブ教育を受ける権利は、特定の他の権利が実施された場合のみ実現可能である(注16)。さらに、インクルーシブ教育を受ける権利は、社会全体におけるインクルーシブな環境の創造によって支えられなければならない。これには、障害の人権モデルの採用が必要となる。このモデルは、障害のある人を排除し、捨て置くことにつながる社会的障壁を撤廃する義務と、以下に定められている権利の実施を確保する措置を採用する必要性を認めるものである。

45.第5条は、すべての人の法律の前及び法律に基づく平等の保護の原則を定めている。締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止し、いかなる理由による差別に対しても効果的かつ平等な保護を、障害のある人に提供しなければならない。組織的及び構造的差別に取り組むために、また、「法律による平等の利益」を保障するために、締約国は、建築及びコミュニケーション上の障壁または主流の教育に対するその他の障壁の撤廃などの、積極的差別是正措置をとらなければならない。

46.第6条は、障害のある女子が複合的な差別を受けていること、また、彼女たちが権利を平等に享有することを確保するための措置を締約国がとらなければならないことを認めている。交差性の差別と排除は、障害のある女子が教育を受ける権利の実現を阻む重大な障壁をもたらす。締約国は、ジェンダーに基づく暴力や、女子教育を重視する意識の欠如を含むそれらの障壁を明らかにし、撤廃し、教育を受ける権利がジェンダー及び/または障害に基づく差別、スティグマあるいは偏見によって妨げられないことを確保するための具体的な措置を導入しなければならない。教科書やカリキュラムにおけるジェンダー及び/または障害に関する有害な固定観念は取り除かれなければならない。教育は、家父長的・温情主義的な社会的枠組みを存続させる、ジェンダーに関する伝統的な考え方に対抗するうえで、重要な役割を果たす。締約国は、障害のある女子の教育及びリハビリテーションサービスの利用と継続を、彼らの発達、前進及びエンパワメントの手段として確保しなければならない(注17)

47.第7条は、障害のある児童に関するすべての措置をとるに当たっては、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする、と主張している。最善の利益という概念は、児童によるあらゆる人権の完全かつ効果的な享有と、児童の全人的な発達を確保することを目的としている。障害のある児童の最善の利益に関するいかなる決定も、当該児童自身の意見と個人としてのアイデンティティ、家族の維持、当該児童のケア、保護及び安全、あらゆる特別な脆弱性、当該児童の健康に対する権利と教育を受ける権利を考慮したものでなければならない(注18)。児童の権利に関する条約は、児童の最善の利益が、教育に関する方針及び規定を決定する基礎とならなければならないこと認めている。第7条(3)はさらに、障害のある児童が自己の意見を表明する権利を有すること、自己に影響を及ぼすすべての事項に関する意見が、他の児童との平等を基礎として、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されること、そして、障害及び年齢に適した支援を提供されなければならないことを主張している。児童が教育に参加する権利の保障は、障害のある児童に対しても、独自の学習・個別教育計画や教室内での指導、学校評議会、学校の方針及びシステムの開発、さらには、広く教育政策の開発において、平等に適用されなければならない(注19)

48.第8条は、障害のある人に関する意識を向上させ、定型化された観念、偏見及び有害な慣行と戦うための措置を求めており、特に障害のある女子、知的障害のある人及び集中的な支援が必要な人に影響を与える慣行を対象としている。定型化された観念、偏見及び有害な慣行は、教育制度を利用する機会と教育制度の下での効果的な学習の両方を妨げる障壁となる。委員会は、一部の親が、障害の特性に対する認識と理解の不足を理由に、障害のある子どもをインクルーシブな学校から退学させる慣行に注目する。締約国は、地域生活における多様性、参加及び関与の文化を構築し、インクルーシブ教育を、障害の有無を問わずすべての生徒と、親、教師及び学校経営者、さらには地域と社会のために、質の高い教育を実現する一手段として強調するための措置をとらなければならない。締約国は、教育制度のあらゆる段階において、また、親と広く一般の人々の間で、障害のある人の権利を尊重する態度を育成するための仕組みが設けられることを確保しなければならない。市民社会、特に障害のある人を代表する団体は、すべての意識向上活動に関与するべきである。

49.第9条及び第24条は、緊密に関連し合っている。アクセシビリティ〔利用の容易さ〕 は、障害のある人の完全かつ平等な社会参加の前提条件である。障害のある人は、学校及びその他のあらゆる教育の場を含むアクセシブルな建築環境や、アクセシブルな公共交通機関、サービス、情報通信技術がなければ、インクルーシブ教育を受ける権利を効果的に享有することができない。指導の形態と手段はアクセシブルにするべきであり、指導はアクセシブルな環境で行われるべきである。障害のある生徒の学習環境全体が、インクルージョンを促す方法で設計されなければならない。また、インクルーシブ教育は、アクセシビリティとユニバーサルデザインの促進のための強力な手段でもある。

50.委員会は締約国に、法律の前にひとしく認められる権利に関する一般的意見第1号(2014年)に注目するよう求め、インクルーシブ教育において、障害のある生徒、特に心理社会的または知的機能障害のある生徒に、自己の意思及び選好を表明する機会が与えられることを強調する。締約国は、インクルーシブ教育において、あらゆる教育段階で、本人が希望すれば将来的に支援の必要性を減らすことも含めて、必要な支援を提供し、障害のある学習者が法的能力を行使するための自信を付けられるよう支援することを確保しなければならない。

51.障害のある人、特に障害のある女子は、教職員による制限や隔離の行使などを通じた体罰や屈辱的な罰や、学校内及び通学途中での他の者からのいじめ等を含む暴力と虐待の影響を、不相応なほど過度に受ける可能性がある。第16条(2)を実施するために、締約国は、障害の人に対する、性的暴力を含むあらゆる形態の搾取、暴力及び虐待からの保護を提供し、これらを防止するための、すべての適当な措置をとることを義務付けられている。そのような措置は、年齢、性別及び障害に配慮したものでなければならない。委員会は、締約国は学校を含むあらゆる環境におけるあらゆる形態の体罰及び残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いを禁止し、加害者に対する効果的な制裁措置を確保するという、児童の権利に関する委員会、自由権規約人権委員会、経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会による勧告を強く支持する。そして、学校及びその他の教育センターに対し、障害のある生徒を含む生徒を、懲戒処分及び生徒、特に児童の生活における大きな特徴になりつつあるとますます認められているネットいじめ等のいじめに対処するためのアクセシブルな保護の仕組みをはじめとする政策の開発に関与させるよう促す(注20)

52.インクルーシブ教育には、障害のある人が地域社会で生活し、地域社会へのインクルージョン〔包容〕 と参加を享受する権利の認識が必要である(第19条)。またそれは、障害のある人の家庭生活についての平等の権利や、それが不可能な場合は、地域社会の環境の中で代替的な監護を受ける平等の権利の認識を必要とする(第23条)。養護施設や介護施設等に居住している、締約国の監護を受けている児童は、インクルーシブ教育を受ける権利と、インクルーシブ教育を受ける権利を否定する締約国の決定に対して不服を申立てる権利を保障されなければならない。あまりに多くの障害のある人が、特に家庭生活、地域社会での生活、結社の自由、暴力からの保護及び司法手続の利用の機会の権利に基づく、教育を含む地域に根ざしたサービスを利用する機会を持たずに、長期にわたり介護施設で暮らしている。地域社会へのインクルーシブ教育の導入は、障害のある人の施設収容の慣行を終わらせるという戦略的なコミットメントとともに行われなければならない(下記パラグラフ66参照)。締約国は、インクルーシブ教育を受ける権利の行使が、障害のあるすべての人が地域社会を満喫し、そこから利益を得、またそれに貢献するために必要な、強み、技能及び能力を構築することに果たす役割に注目するべきである。

53.インクルーシブ教育が効果的に実現されるためには、障害のある人は自立を基礎とした個人の移動を保障されなければならない(第20条)。交通機関がすぐには利用できない場合、また、教育機関へのアクセスを支援してくれるパーソナルアシスタントがいない場合、障害のある人、特に全盲及び弱視の人は、さらなる自立を促進するために、移動のための技能に関する適切な研修を提供されなければならない。締約国はまた、障害のある人に、移動補助具及び移動支援機器を負担しやすい費用で入手する機会も提供するべきである。

54.障害のある人が差別なしに到達可能な最高水準の健康を享受する権利の実現(第25条)は、教育の恩恵を十分に受ける機会には不可欠である。教育環境に参加し、効果的に学習する能力は、健康を享受することや適切な治療及びケアを受けることができなければ、著しく損なわれる。締約国は、教育サービスに統合された、ジェンダーの視点を伴う保健、衛生及び栄養に関するプログラムを確立し、健康に関するあらゆるニーズの継続的な監視を認めるべきである。このようなプログラムはユニバーサルデザインとアクセシビリティの原則に基づいて開発され、定期的な養護教員による訪問と健康診断並びに地域社会とのパートナーシップの構築が行われるべきである。障害のある人は、他の者との平等を基礎として、年齢に適した総合的かつインクルーシブな性教育を、科学的エビデンスと人権基準に基づき、アクセシブルな様式で提供されなければならない。

55.締約国は、教育システム内で、ハビリテーション並びにリハビリテーションサービス(医療、職業的・身体的・社会的(リ)ハビリテーション、カウンセリング及びその他のサービスを含む)を提供するための効果的な措置をとらなければならない(第26条)。このようなサービスは、可能な限り初期の段階において開始し、生徒の長所に関する学際的な評価を基礎とし、最大限の自立、自律、尊厳の尊重、十分な身体的、精神的、社会的及び職業的な能力と、生活のあらゆる側面へのインクルージョンと参加を支援するものでなければならない。委員会は、早期発見に取り組み、ピアサポートを奨励する、地域に根ざしたリハビリテーションの開発を支援することの重要性を強調する。

56.質の高いインクルーシブ教育は、障害のある人に、開かれた労働市場と開かれたインクルーシブかつアクセシブルな〔障害者を包容し、及び障害者にとって利用しやすい〕 労働環境への参加に必要な知識、技能及び自信の獲得を通じて、職業生活への準備をさせるものでなければならない(第27条)。

57.政治的及び公的活動への完全な参加は、インクルーシブ教育を受ける権利の実現によって促進される。すべての生徒のカリキュラムには、市民権というテーマと、セルフアドボカシー及び自己表明の技能を、政治的及び社会的プロセスへの参加の根本となる基礎として含めなければならない。政治には、生徒会などの学生団体の結成とこれへの参加が含まれ、締約国は、障害のある人が自ら選択する意思疎通の形態と言語を通じて、このような学生団体を結成し、これに加入し、効果的かつ完全に参加することができる環境の創造を促進するべきである(第29条)。

58.締約国は、障害のある人が他の者との平等を基礎として、学校制度内及び他の教育環境で行われるものも含めた課外活動における遊び、レクリエーション及びスポーツに参加するインクルーシブな機会を阻む障壁を撤廃し、アクセシビリティと利用可能性を促進しなければならない(第30条)。教育環境内で、障害のある人が文化的生活を享受することができ、自己の利益のためのみでなく、社会を豊かにするためにも、自己の創造的、芸術的及び知的な潜在能力を開発し、及び活用する機会を確保するための適当な措置がとられなければならない。このような措置は、障害のある人が、手話及びろう文化を含む、その独自の文化的及び言語的な同一性の承認を受ける権利を有することを確保するものでなければならない(注21)

Ⅴ.国レベルでの実施

59.委員会は、第24条の実施において締約国が直面している多数の課題を明らかにしてきた。障害のあるすべての人のためのインクルーシブ教育システムを実施し、持続するには、国レベルで以下の措置に取り組む必要がある。

60.あらゆる段階における障害のある人の教育に対する責任は、他の人の教育に対する責任と同様に、教育省に課せられなければならない。多くの国では、障害のある人の教育が、現在、社会福祉省または保健省の管轄へと追いやられてしまっており、その結果、特に教育に関する一般的な法律、政策、計画と資源配分からの排除、障害のある人の教育に対する1人当たり投資額水準の低下、インクルーシブ教育を支援するための包括的で秩序だった構造の欠如、入学、在籍及び修了に関する総合的なデータ収集の欠如、インクルーシブな教員教育の開発の失敗へとつながった。締約国は、障害のある学習者の教育を教育省の管轄下に置くための措置を緊急にとらなければならない。

61.締約国は、政府全体のインクルーシブ教育に対する総合的かつ分野横断的なコミットメントを確保しなければならない。インクルーシブ教育は教育省が単独で実現できるものではない。条約の実体的な条文に対する責任を伴うすべての関係各省及び委員会は、統合的なアプローチを成功させ、共通の課題に協力して取り組むために、インクルーシブ教育システムの意義についての理解を一致させ、全力を捧げなければならない。このようなコミットメントを支えるために、関係するすべての省を対象としたアカウンタビリティ政策が導入されなければならない。また、サービス提供者、障害のある人を代表する団体、メディア、市民社会団体、地方自治体、学生会及び学生連盟、総合大学及び教員養成大学とのパートナーシップも構築されるべきである。

62.締約国は、あらゆるレベルにおいて、第24条と完全に一致する、障害の人権モデルに基づいた法律を実施し、あるいは、法案を提出しなければならない。委員会は第4条(5)が、連邦国家に対し、制限または例外なしに、締約国のすべての地域で第24条の実施を確保することを義務付けていることを想起する。

63.インクルーシブ教育に関する総合的かつ分野を超えた法的及び政策的枠組みが、明確かつ適切な実施期限並びに違反に対する制裁措置とともに導入されなければならない。このような枠組みは、すべての学習者のためのあらゆる教育機関における柔軟性、多様性及び平等の問題に取り組み、政府のあらゆるレベルにおける責任を明らかにするものでなければならない。重要な要素として、以下があげられる。
 (a)国際人権基準とのコンプライアンス。
 (b)インクルージョンの明確な定義と、インクルージョンがあらゆる教育段階において達成しようとしている具体的な目的。インクルージョンの原則と実践は、単なる追加プログラムではなく、改革に不可欠なものと見なされなければならない。
 (c)法的枠組みの重要な要素としての、インクルーシブ教育を受ける実体的権利。たとえば、特定のカテゴリーの生徒を「教育不可能」と定義した規定は撤廃しなければならない。
 (d)障害のある生徒と障害のない生徒で同一の、一般的な教育制度の中でインクルーシブな学習機会を享受する権利、及び個々の学習者があらゆる段階において必要な支援サービスを享受する権利の保障。
 (e)委員会の一般的意見第2号 に従い、既存の学校を適合させる期限を示すとともに、すべての新規の学校の、ユニバーサルデザインの原則とアクセシビリティ基準に従った設計と建築を義務付けること。この要素を実施するために公共調達の活用が奨励される。
 (f)あらゆる段階における実施の進捗状況を追跡し、政策及びプログラムの実施と、必要な投資による支援を確保するための、インクルーシブ教育及び障害インクルーシブな監視の仕組みに関する総合的で質の高い基準の導入。
 (g)政策の実施と必要な投資の提供を確保するためのアクセシブルな監視の仕組みの導入。
 (h)資源の効率的な使用ではなく人権基準に基づいた、インクルージョンを支援するための合理的配慮のニーズの認識と、合理的配慮の不提供に対する制裁措置。
 (i)インクルーシブ教育に影響を与える可能性のあるあらゆる法律における、インクルージョンは具体的な目的だという明確なステートメント。
 (j)障害のある人がインクルーシブな学習環境で活躍できるようにするために必要な、早期発見、アセスメント及び支援のための首尾一貫した枠組み。
 (k)地方自治体が、障害のある人を含むすべての学習者のために、インクルーシブな環境と教室において、最も適当な言語によるものを含む、意思疎通のアクセシブルな様式、形態及び手段を計画し、提供する義務。
 (l)障害のある児童を含む障害のあるすべての人に対し、学校評議会、理事会、地方及び中央政府、並びに教育に関する異議申立や上訴を行う仕組みを含む教育制度内で、意見を聴かれ、自己の意見を相応に考慮される権利を保障する法律。
 (m)障害のある人を代表する団体、各種機関、開発組織、非政府組織及び親や養育者など、障害のある人を含むすべてのステークホルダー間のパートナーシップと連携の構築。

64.法律は、障害のある児童を含む障害のある人の団体との協議の下に策定され、インクルーシブ教育システムの実施に関するプロセスを詳細に定めた、教育部門の計画によって支えられなければならない。それには、一貫性を確保するための措置を含む、期限と評価可能な目標を盛り込むべきである。また、計画に当たっては、前進へのベースラインを得るために、たとえば現在の予算配分、データ収集方法の質、不就学の障害のある児童の数、課題と障壁、既存の法律及び政策、障害のある人、家族及び締約国の重要な懸念に関するデータを含む、インクルーシブ教育の現状についての総合分析による情報を参考にするべきである。

65.締約国は、教育を受ける権利の侵害に備えて、独立した、効果的で、アクセシブルな、透明性のある、安全で法的拘束力を持つ不服申立の仕組みと法的救済策を導入しなければならない。障害のある人は、障害のある人への配慮の仕方を理解し、障害に基づく申立に対処できる司法手続を利用できなければならない。また、締約国は、教育を受ける権利に関する情報と、当該権利の否定または侵害に異議を申立てる方法についての情報が、障害のある人の代表団体の関与を得て、障害のある人に広く拡散され、公表されることを確保しなければならない。

66.インクルーシブ教育は施設収容と相容れない。締約国は、十分に計画され、組織化された、障害のある人の脱施設化のプロセスに取り組まなければならない。このようなプロセスでは、移行に向けて明確な期限を定めた管理された移行、地域に根ざした規定を策定する法的義務の導入、資金提供先の変更と地域に根ざしたサービスを支援し、強化するための学際的な枠組みの導入、家族への支援の提供、障害のある児童と親や養育者を含む障害のある人を代表する団体との協力及び協議に取り組まなければならない。脱施設化を進める間、施設でケアを受けている人には、地域社会におけるインクルーシブな教育機関 への紹介により、インクルーシブ教育を享受する機会が直ちに与えられるべきである。

67.幼年期の介入は、障害のある児童にとって特に重要となる可能性があり、教育の恩恵を受ける能力の強化に貢献し、入学と出席を促進する。このような介入はすべて、当該児童の尊厳と自律の尊重を保障するものでなければならない。持続可能な開発目標4を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に従い、締約国には、質の高い幼年期の発達、ケア及び就学前教育を享受する機会を、障害のある幼い児童の親及び養育者への支援と研修の提供とともに確保することが強く求められる。障害のある幼い児童は、早期に発見され、支援を受ければ、インクルーシブな環境の就学前及び初等教育へ、円滑に移行する可能性が高い。締約国は、すべての関係各省、当局及び機関と、障害のある人の団体及びその他の非政府系パートナーとの連携を確保しなければならない。

68.第31条に従い、締約国は、第24条の下での義務を果たすために、政策、計画及びプログラムの立案に向けて、適当な分類されたデータを収集しなければならない。そして、さまざまな機能障害のある人の数に関する正確なデータの不足と、教育を享受する機会、教育の永続性、教育における進歩、合理的配慮の提供とそれに関連した成果に関する、十分な質の高い調査研究及びデータの不足に取り組むための措置を導入しなければならない。国勢調査や、教育管理情報システムのデータを含む調査及び行政データでは、今なお施設で生活している者も含めた障害のある生徒の情報を入手しなければならない。締約国はまた、障害のある人がインクルーシブで質の高い教育を享受し、継続し、進歩することを阻む障壁を取り除くための効果的な措置の採択を可能にするために、このような障壁に関する分類されたデータとエビデンスを集めるべきである。また、親が障害のある子どもの存在を認めたがらないことや、出生登録がないこと、施設の中で目に見えない存在になっていることなどから起こる、標準的な定量的・定性的データ収集の仕組みからの障害のある人の排除を克服するための方略が採用されなければならない。

69.締約国は、漸進的実現の原則に従い、インクルーシブ教育の実施を支援するために、十分な経済的及び人的資源を、教育部門の計画と分野横断的計画の策定全般に捧げなければならない。締約国は、障害のあるすべての人の教育を受ける権利を確保するために、自国のガバナンスシステムと資金調達の仕組みを改革しなければならない。また、公共調達プロセス及び民間部門とのパートナーシップの下で利用可能な仕組みを使用して予算を配分するべきである。このような予算配分では特に、既存の教育環境を、期限を定めてアクセシブルにしたり、インクルーシブな教員教育に投資したり、合理的配慮を利用できるようにしたり、アクセシブルな通学手段を提供したり、適切かつアクセシブルな教科書や指導及び学習教材を利用できるようにしたり、支援技術と手話を提供したり、スティグマと差別及び特に教育現場におけるいじめに取り組む意識向上イニシアティブを実施したりするための、十分な資源の確保を優先しなければならない。

70.委員会は締約国に対し、分離型の環境からインクルーシブな環境へ、資源を移行することを強く求める。締約国は、障害のある人に必要な支援を提供するために、インクルーシブな教育環境に資源とインセンティブを割り当てる資金調達モデルを開発するべきである。資金調達への最適なアプローチの決定においては、既存の教育環境と、その影響を受ける可能性がある障害のある学習者のニーズが大いに参考になるだろう。

71.就学前、初等、中等、高等及び職業教育レベルのすべての教員に対する教育のプロセスでは、インクルーシブな教育環境で働くために必要な中核的能力と価値観の提供を開始しなければならない。このようなプロセスでは、インクルーシブ教育システムへの移行を容易にするために、可能な限り最短の時間で適切な技能水準を達成する就職前及び在職者研修への適応が必要となる。すべての教員は、インクルーシブな環境で働く準備をするための専門の単元/モジュールと、多様なインクルージョンの課題を通じて問題解決の技能を磨き、自信を付けることができる実践的な体験学習の場を提供されなければならない。教員教育の中核となる内容は、人間の多様性、成長と発達、障害の人権モデルと、インクルーシブな教育環境への生徒の参加を確保するために教員が生徒の機能的能力(強み、能力及び学習スタイル)を特定できるようなインクルーシブな指導法に対する基本的な理解に取り組むものでなければならない。教員教育には、点字、大活字、アクセシブルなマルチメディア、読みやすく、やさしい言語、手話やろう文化など、適当な意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式の使用と、障害のある人を支援する教育技術と教材に関する学習を含めるべきである。さらに、教員は特に、個別指導の提供、それぞれの学習スタイルと独自の能力に対応するためにさまざまな指導方法を用いて行われる同一内容の指導、特定の学習ニーズを支援するための個別教育計画の策定とその使用、生徒の教育目的に重点を置いた指導方法の導入について、実践的なガイダンスと支援を必要としている。

72.インクルーシブ教育は、あらゆる段階の教育機関における教員への支援と資源のシステムを必要とする。このようなシステムには、チームティーチング、研究会、共同学習到達度調査、ピアサポート及び相互訪問などの共同実践活動を促進する、大学を含む近隣の教育機関とのパートナーシップと、市民社会とのパートナーシップが含まれるだろう。障害のある生徒の親と養育者は、適宜、個別教育計画を含む学習プログラムの開発と実施におけるパートナーとなることができる。そして、個々の生徒への支援提供において、教員に助言とサポートを行うという重要な役割を果たすことができるが、決してこれを教育機関への入学の前提条件としてはならない。締約国は、障害のある人を代表する団体、障害のある学習者、ピアによるメンタリング、パートナー活動及び問題解決という形で大いに貢献できる地域社会のメンバーなど、教員のサポート源を可能な限りすべて活用するべきである。このようなサポート源の関与は、教室に新たな資源をもたらし、地域社会とのつながりを築く役割を果たして、障壁を取り除き、障害のある生徒の強みとニーズに対する教員の対応性と感受性を高める。

73.あらゆるレベルの当局は、インクルーシブ教育を支援するための法律、政策及びプログラムを実施する能力、責任及び資源を持たなければならない。締約国は、すべての関係当局に法の下での責任を知らせ、障害のある人の権利への理解を高めるための研修の開発と提供を確保しなければならない。インクルーシブ教育の政策及び実践の実施に必要な技能、知識及び理解には、インクルーシブ教育を受ける権利とその目的についての考え方への理解、関連のある国内外の法律と政策に関する知識、地域のインクルーシブ教育計画の策定、協力とパートナーシップ、地域の教育機関の支援、ガイダンスと監督、監視と評価が含まれる。

74.質の高いインクルーシブ教育には、障害のある生徒が直面する障壁を考慮に入れて生徒の進歩を評価し監視する方法が必要となる。従来のアセスメントシステムは、標準化された到達度テストの得点を、生徒と学校双方の唯一の成功指標として用いており、障害のある生徒にとって不利となる可能性がある。幅広い目標に向けた個人の進歩が重視されるべきである。適切な指導方法、支援及び配慮により、あらゆるカリキュラムは、障害のある生徒を含むすべての生徒のニーズを満たすべく適合可能である。インクルーシブな学力検査システムは、個別支援制度により強化することができる。

75.第33条に従い、インクルーシブ教育システムの確立を通じた教育を受ける権利の実現に関する進捗状況を評価するために、締約国は、持続可能な開発目標4に従い、構造、プロセス及び成果に関する指標と、それぞれの指標の具体的なベンチマークとターゲットを伴う、監視の枠組みを開発しなければならない。障害のある人は、彼らを代表する団体を通じて、指標の決定とデータ収集及び統計の両方に関与するべきである。構造指標は、単に機能障害別のデータ収集に限定されるものではなく、インクルーシブ教育を阻む障壁を測定するものとするべきである(注22)。物理的環境のアクセシビリティの変更、カリキュラムの改定または教員研修における変更などに関するプロセス指標は、変革の進捗状況の監視を可能にするだろう。インクルーシブな学習環境における最終的な公式の証明書すなわち卒業証書を取得した障害のある生徒の割合や、中等教育への入学を許可された障害のある生徒の割合などの成果指標も設定されなければならない。締約国はまた、たとえばUNESCOが推奨する5つの側面、すなわち、権利尊重、公正、妥当性、適切性、効率性及び有効性に基づく、教育の質の測定も検討するべきである。割り当て入学やインセンティブなどの積極的差別是正措置の監視の検討も考えられる。

76.委員会は、多くの国における民間教育の成長に注目する。締約国は、インクルーシブ教育を受ける権利が、公的機関によって提供される教育だけでなく、すべての教育の提供に及ぶことを認識しなければならない。締約国は、企業部門を含む第三者による権利の侵害に対する保護措置をとらなければならない。教育を受ける権利に関して、このような措置は、インクルーシブ教育の提供を保障する義務に取り組むものでなければならず、また、必要に応じて、企業が障害のある人の権利の効果的な享有と行使にどのような影響を与えうるかを枠付けた法律や規制、監視、監督、施行と政策の採用を伴うものでなければならない。民間教育機関及び企業を含む教育機関は、アクセシビリティ及び/または合理的配慮を取り入れるに当たり、追加料金を課すべきではない。

(注1)A/HRC/25/29及び訂正版1、パラグラフ3及び68を参照。

(注2)障害者権利条約第1条(2)

(注3)経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会、教育を受ける権利に関する一般的意見第13号(1999年)

(注4)A/HRC/25/29 訂正版1, パラグラフ4及び国連児童基金(UNICEF)『障害のある児童の教育を受ける権利:インクルーシブ教育への、権利に基づくアプローチ』(ジュネーブ、2012年)参照

(注5)経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会、一般的意見第13号

(注6)児童の権利に関する委員会、教育の目的に関する一般的意見第1号(2001年)

(注7)経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会、一般的意見第13号

(注8)障害者権利委員会、一般的意見第2号

(注9)経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会、一般的意見第13号

(注10)障害者権利委員会、一般的意見第2号

(注11)同書

(注12)経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会、締約国の義務の性格に関する一般的意見第3号(1990年)、パラグラフ9

(注13)同書

(注14)2012年5月16日付けの経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会委員長から経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の締約国に宛てられた手紙

(注15)経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会、一般的意見第3号

(注16)同委員会、初等教育のための行動計画に関する一般的意見第11号(1999年)及び一般的意見第13号

(注17)女子差別撤廃委員会、「女子の教育を受ける権利に関する一般勧告草案コンセプトノート」(2014年)

(注18)児童の権利に関する委員会、自己の最善の利益を主として考慮される児童の権利に関する一般的意見第14号(2013年)

(注19)同委員会、意見を聴かれる児童の権利に関する一般的意見第12号(2009年)

(注20)同委員会、体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰から保護される児童の権利に関する一般的意見第8号(2006年)

(注21)同委員会、休息、余暇、遊び、レクリエーション活動、文化的生活および芸術に対する 児童の権利に関する一般的意見第17号(2013年)

(注22)国連人権高等弁務官事務所、『人権指標:測定・実施ガイド』(ニューヨーク及びジュネーブ、2012年)


原文:
United Nations
CRPD/C/GC/4
Convention on the Rights of Persons with Disabilities
Distr.: General
25 November 2016
Original: English
Committee on the Rights of Persons with Disabilities
General comment No. 4 (2016) on the right to inclusive education
http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CRPD/C/GC/4&Lang=en
Office of the High Commissioner for Human Rights.United Nations Human Rights.
http://www.ohchr.org/EN/HRBodies/CRPD/Pages/CRPDIndex.aspx

仮訳:石川ミカ、日本障害者リハビリテーション協会

監訳:長瀬修