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障害者の権利に関する条約
第5条:平等及び無差別に関する一般的意見第6号 仮訳

Ⅰ.序論

1.この一般的意見の目的は、障害者権利条約第5条に明記されている無差別及び平等に関する締約国の義務を明らかにすることである。

2.本委員会は、締約国の法律及び政策において、慈善モデル及び/又は医学モデルが本条約と相容れないにもかかわらず、これらのモデルによる障害へのアプローチが今なおなされていることを懸念する。このようなパラダイムを根強く使用し続けることにより、障害のある人を完全な権利主体かつ権利所有者として認識することができなくなる。さらに本委員会は、障害に対する態度の障壁を克服するための締約国の取り組みが、これまで不十分であったことに留意する。例として、障害のある人を社会の負担とみなす、永続的かつ屈辱的な定型化された観念、スティグマ及び偏見があげられる。これに対して、法改正及び政策改革を進めるに当たり、障害のある人が障害のある人を代表する団体を通じて中心的な役割を果たすことが重要である。

3.差別禁止法と人権枠組みの普及により、多くの締約国において、障害のある人の権利保護が拡大された。にもかかわらず、法律及び規制の枠組みは、依然として未完成で、不完全な、又は効果のない、若しくは障害の人権モデルに対する不十分な理解を反映したものであることが多い。多くの国内法及び政策において、障害のある人の排除と孤立、障害のある人に対する差別と暴力が存続している。それらの国内法及び政策は、多くの場合、複合的かつ交差的な差別又は関連差別への認識を欠き、合理的配慮の否定が差別となることを認めず、法的救済と補償の効果的な仕組みを備えていない。このような法律及び政策は、障害のある人の保護又は介護、若しくは障害のある人の最善の利益のための法律及び政策として正当化されているため、一般に障害に基づく差別とはみなされていない。

Ⅱ.国際法における障害のある人の平等及び無差別

4.平等及び無差別は、国際人権法の最も基本的な原則並びに権利の1つである。それらは人間の尊厳と相互に関連しているため、全ての人権の要である。世界人権宣言は、その第1条及び第2条において、全ての人が尊厳と権利とについて平等であると宣言し、全てを網羅しているわけではないが多数の理由に基づく差別を非難している。

5.平等及び無差別は、全ての人権条約の中核を成す。市民的及び政治的権利に関する国際規約並びに経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約では、限定されない様々な理由に基づく差別を禁止しており、そこから障害者権利条約第5条が生まれた。様々なテーマを扱った国連人権条約(注1)は全て、平等の確立と差別の撤廃を目的としており、平等と無差別に関する規定が盛り込まれている。障害者権利条約は、他の条約によってもたらされた経験を考慮に入れたものであり、その平等と無差別の原則は、国際連合の伝統とアプローチが進化したことを示している。

6.「尊厳」という用語は、本条約において他のいかなる国連人権条約よりも多く見られる。それは前文に記載されており、その中で締約国は、国際連合憲章と同憲章において宣明された原則が、人類社会の全ての構成員の固有の尊厳及び価値並びに平等のかつ奪い得ない権利が世界における自由、正義及び平和の基礎を成すものであると認めていることを想起している。

7.平等及び無差別は本条約の中心であり、全ての実質的な条文を通じて「他の者との平等を基礎として」という文言が繰り返し使用され、本条約のあらゆる実質的な権利が無差別の原則と結びつけられることにより、常に想起される。実際に機能障害がある人や機能障害があると認識されている人は、個人の尊厳、インテグリティ〔不可侵性〕〔訳注:個人がそのままの状態で尊重されること〕及び平等を否定されてきた。同意のない及び/又は強制的・組織的な不妊手術並びに医学的介入若しくはホルモン療法を基本とした介入(例えばロボトミーやアシュリー療法)、強制投薬及び強制的な電気ショック療法、監禁、「安楽死」と名付けられた組織的な殺人、強制・強要された中絶、医療を受ける機会の否定、特にアルビノの人の身体の一部の切断及び売買等、残虐な形態のものを含む差別が発生し、今も続いている。

Ⅲ.障害の人権モデルとインクルーシブな平等

8.障害の個人モデルや医学モデルでは、障害のある人に対して平等の原則は適用されない。障害の医学モデルの下では、障害のある人は権利所有者としては認められず、その代わりに自己の機能障害へと「降格」される。これらのモデルの下では、障害のある人に対する差別的な、若しくは異なる取扱いと排除が規範とみなされ、障害を無能力とする医学主導型アプローチによって正当化される。個人モデルや医学モデルは、障害という文脈に平等の概念を適用しようとする最初の試みがなされた後にも、障害に関する最も初期の国際的な法律と政策の策定に使用された。知的障害者の権利宣言(1971年)及び障害者の権利宣言(1975年)は、障害のある人に関する平等と無差別の規定が盛り込まれた最初の人権文書であった。これら初期の法的拘束力がない人権文書は、障害に対する平等なアプローチへの道を開いたが、やはり障害の医学モデルに基づいており、機能障害が権利の制限や否定の正当な理由とみなされていた。また、これらには現在では不適切又は時代遅れと考えられる用語が含まれている。1993年にはさらに一歩前進し、障害者の機会均等化に関する標準規則が採択され、「機会均等」が障害に関する政策及び法律の基本概念であることが宣言された。

9.障害の人権モデルでは、障害が社会的な構成概念であること、また、機能障害を人権の否定又は制限の正当な理由とみなしてはならないことを認めている。そして、障害がアイデンティティを構成する数層の1つであると認識している。それゆえ、障害に関する法律及び政策では、障害のある人の多様性を考慮に入れなければならない。また、人権が相互に依存し、相互に関連した、不可分のものであることも認めている。

10.第3条に基づく本条約の一般原則としての機会均等化は、形式的平等モデルから実質的平等モデルへの大きな進展を示している。形式的平等は、同じような状況にある人を同じように扱うことにより、直接差別と闘おうとするものである。それは否定的な定型化された観念及び偏見との闘いには役立つかもしれないが、人間の違いを考慮し、受け入れるものではないので、「差異のジレンマ」の解決策を示すことはできない。これに対して、実質的平等も構造的かつ間接的な差別に取り組もうとするものだが、力関係を考慮に入れる。そして、平等を達成するためには、人間の違いを無視することと認めることの両方が、「差異のジレンマ」に必然的に伴うことを認める。

11.インクルーシブな平等とは、本条約全体を通じて開発された新たな平等モデルである。これには実質的平等モデルが含まれ、(a)社会経済的不利に取り組むための公正な再分配という側面、(b)スティグマ、定型化された観念、偏見及び暴力と闘い、人間の尊厳と交差性を認める認識という側面、(c)社会集団構成員としての人の社会性を再確認し、社会への包容を通じて育まれる人間性について十分に認識する参加という側面及び(d)人間の尊厳の問題として差異を受け入れる余地を作る配慮という側面における平等の内容が拡大され、練り上げられている。本条約はインクルーシブな平等に基づいている。

Ⅳ.無差別及び平等の法的性格

12.平等及び無差別は原則であり、権利である。本条約では第3条で原則、第5条で権利として、これらに言及している。これらはまた、本条約に明記されている他の全ての原則及び権利の解釈手段でもある。平等及び無差別の原則/権利は、本条約によって保障される国際的な保護の要である。平等の促進と差別への取り組みは、即時に実現すべき分野横断的義務である。これらは漸進的な実現の対象ではない。

13.本条約第5条では、市民的及び政治的権利に関する国際規約第26条と同様、他の条項から独立した、それ自体自律的な権利を定めている。それは、公の当局によって規制され、保護されるあらゆる分野における法律上又は事実上の差別を禁止するものである。第4条(1)(e)とあわせて読めば、それが民間企業に広く適用されることも明らかである。

Ⅴ.規範的内容

A.法律の前における平等及び法律に基づく平等に関する第5条(1)

14.いくつかの国際人権条約には、法律による平等な取扱い及び法律の適用における平等な取扱いを受ける権利の付与について述べた、「法律の前における平等」という文言が、1つの項目として盛り込まれている。この権利の完全な実現のために、裁判官及び法執行官は、司法行政において障害のある人を差別してはならない。「法律に基づく平等」は本条約独自のものである。これは法的関係への関与の可能性を示している。法律の前における平等は、法律によって保護される権利を指し、法律に基づく平等は、法律を個人の利益のために利用する権利を指す。障害のある人は効果的に保護され、積極的に関与する権利を有する。法律はそれ自体が所定の管轄区域内の全ての人の実質的平等を保障するものでなければならない。したがって、障害のある全ての人は法律に基づき平等であるという認識は、障害のある人の権利の明確な否定、制限又は制約を認めるいかなる法律も存在すべきではなく、障害が全ての法令及び政策において主流に組み入れられるべきであることを意味する。

15.「法律の前における平等」及び「法律に基づく平等」という文言のこうした解釈は、本条約第4条(1)(b)及び(c)と一致しており、これにより締約国は、公の当局及び機関が本条約に従って行動すること、障害のある人に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行が修正又は廃止されること、全ての政策及び計画において障害のある人の権利の保護及び促進が考慮に入れられることを確保しなければならない。

B.法律による平等の保護及び利益に関する第5条(1)

16.「法律による平等の保護」及び「法律による平等の利益」には、平等と無差別という、関連はあるが明確に区別できる概念が含まれている。「法律による平等の保護」という文言は、国際人権条約法でよく知られており、国会に対し、法律及び政策を制定する際に、障害のある人に対する差別を継続したり、新たに設けたりしないよう要求するために使用される。本条約第1条、第3条及び第4条とあわせて第5条を読めば、障害のある人による法令の下で保障されている権利の享受を促進するために、締約国が積極的な行動をとらなければならないことは明らかである。施設及びサービス等の利用の容易さ〔訳注:以下、アクセシビリティ〕、合理的配慮及び個別支援がしばしば必要とされる。障害のある全ての人に平等の機会を保障するために、「法律による平等の利益」という文言が使用されているが、これは締約国が、法律によるあらゆる保護への、並びに権利を主張するために法律及び司法手続を利用する平等の機会を有することのあらゆる利益への、アクセス獲得を妨げる障壁を撤廃しなければならないことを意味している。

C.差別禁止及び平等かつ効果的な法的保護に関する第5条(2)

17.第5条(2)には、障害のある人及びその関係者の平等の権利を達成するための法的要件が述べられている。障害に基づくあらゆる差別を禁止する義務には、障害のある人とその関係者、例えば障害のある子どもの親が、〔訳注:差別の対象として〕含まれる。あらゆる理由に基づく差別からの平等かつ効果的な法的保護を障害のある人に保障する義務は、広範囲に及び、締約国に対して積極的な保護義務が課されている。障害に基づく差別は、第2条において「障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む」と定義されている。この定義は、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約第1条及び女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約第1条等の国際人権条約における差別の法的定義に基づいており、2つの側面において、これらの定義に勝っている。第1に、これには「合理的配慮の否定」が障害に基づく差別の一形態として含まれている。第2に、「他の者との平等を基礎として」という文言が新たな構成要素となっている。女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約には、その第1条及び第3条に同様な、しかし狭義の「男女の平等を基礎として」という文言がある。「他の者との平等を基礎として」という文言は、障害に基づく差別の定義に限定的に使われているだけではなく、障害者権利条約全体にも浸透している。それは、一方では、障害のある人が一般公衆よりも多くの権利若しくは利益、又は少ない権利若しくは利益を与えられることはないということを意味し、他方では、障害のある人が全ての人権と基本的自由を実際に享有できるようにするために、彼らの事実上の平等を達成する具体的な特別の措置をとることを締約国に義務付けるものである。

18.「あらゆる差別」を禁止する義務には、あらゆる形態の差別が含まれる。国際的な人権慣行では、差別の主な形態を4つ特定しているが、それらは単独で、あるいは同時に発生する可能性がある。

(a)「直接差別」(注3)は、同様な状況において、障害のある人が他の者と比較してより不利な取扱いを受ける場合に発生する。これは、同様な状況であっても、差別禁止事由に関連のある理由により、個人的な立場が異なるためである。直接差別には、比較可能な同様な状況が存在しない場合の、差別禁止事由に基づく有害な行為又は不作為が含まれる。(注2) 差別する側の動機や意図は、差別が発生したか否かの判定には関係ない。例えば、教育プログラムを変更しないですむように、障害のある子どもの入学を認めることを拒否している州立学校は、子どもの障害だけを理由に差別をしていることになり、これは直接差別の一例である。
(b)「間接差別」 とは、表面上は中立であるように見えても、障害のある人に不相応な悪影響を及ぼす法律、政策又は慣行を意味する。それは、アクセシブルに見える機会が、実際には特定の人を排除している場合に発生するが、これは、彼らの立場では、そうした機会そのものから利益を受けることができないという事実によるものである。例えば、ある学校が読みやすい形式の本を提供しない場合、知的障害のある人を間接的に差別することになり、知的障害のある人は、法的にはその学校に通うことを認められていても、実際には別の学校に通わなければならなくなる。同様に、移動が制限されている求職者が、エレベーターのない建物の2階のオフィスで採用面接を受ける場合、面接を受けることを認められたとはいえ、そのような状況によって不平等な立場に置かれることになる。
(c)「合理的配慮の否定」は、本条約第2条によれば、必要かつ適当な変更及び調整(「均衡を失した又は過度の負担」を課さないもの)が拒否されているが、人権又は基本的自由の平等の享有又は行使の確保のためにはそれが必要な場合に差別となる。同伴者を受け入れないことや、障害のある人に対するそれ以外の配慮を拒否することは、合理的配慮の否定の例である。
(d)「嫌がらせ(ハラスメント)」は差別の一形態であり、個人の尊厳を侵害することを目的として、又はそのような効果を上げるために、及び威圧的な、敵意に満ちた、品位を傷つける、屈辱的な又は攻撃的な環境を創造するために、障害その他の差別禁止事由に関連した望ましくない行為が発生する場合を言う。それは、障害のある人の区別や抑圧を永続させる効果を持つ行動又は言葉を通じて行われる可能性がある。居住型施設、特別支援学校又は精神病院等の隔離された場所では、この種の差別が発生しやすく、そのような差別は本質的に目に見えないため、罰せられる可能性が低いことから、このような場所で生活している障害のある人には特別な注意が払われるべきである。「いじめ」及びオンライン型のいじめであるネットいじめ並びにサイバーヘイトも、特に暴力的かつ有害な形態のヘイトクライムである。その他の例としては、レイプ、虐待及び搾取、ヘイトクライム及び殴打等、あらゆる形で発現する(障害に基づく)暴力があげられる。

19.差別には、障害やジェンダー等の単一の特徴に基づくものもあれば、複合的な特徴及び/又は交差的な特徴に基づくものもある。「交差的な差別」は、障害のある人や障害と関係のある人が、皮膚の色、性、言語、宗教、種族、ジェンダー又は他の地位に加えて、障害に基づく何らかの形態の差別に苦しむときに発生する。交差的な差別は、直接差別や間接差別、合理的配慮の否定又は嫌がらせとして発現する可能性がある。例えば、一般向けの健康関連情報がアクセシブルではない様式であるために利用できない場合、全ての人に障害に基づく影響が及ぶが、盲目の女性が家族計画サービスを利用できない場合は、ジェンダーと障害の交差に基づき、当該女性の権利が制限される。多くの事例において、こうした差別の理由を切り離すことは難しい。締約国は、障害のある人に対する複合的かつ交差的な差別に取り組まなければならない。「複合的な差別」とは、本委員会によれば、ある人が2つないし数個の理由に基づく差別を経験する可能性がある状態で、差別が複雑化あるいは増幅するという意味である。交差的な差別は、複数の差別の理由が同時に相互に影響を及ぼし、作用する状態を指し、それらを解きほぐすことができないため、当該者は独特なタイプの不利な状況や差別にさらされる。(注4)

20.「障害に基づく」差別は、現在障害がある人、過去に障害があった人、将来障害を持つようになる素因がある人、障害があると推定される人に加えて、障害のある人の関係者に対して行われる可能性がある。後者は「関係者差別」として知られている。第5条の範囲が広い理由は、障害に関連のあるあらゆる差別的状況及び/又は差別的行為を撤廃し、これらと闘うためである。

21.「いかなる理由による差別」に対しても保護するということは、考えられるあらゆる差別の理由とそれらの交差を考慮に入れなければならないことを意味する。考えられる理由には、障害、健康状態、遺伝的易罹病性その他の易罹病性、人種、皮膚の色、世系、性、妊娠中及び父母であること、既婚か未婚か、家族又は就労の状況、ジェンダーの表明、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的な、種族的な、先住民族としての若しくは社会的な出身、移住者、難民又は亡命者であること、国内の少数派に属していること、経済的地位又は財産の状況、出生及び年齢、あるいはこれらの理由のいずれかの組み合わせ、若しくはこれらの理由のいずれかに関連のある特徴が含まれるが、これらに限定されない。

22.「差別に対する平等かつ効果的な法的保護」とは、障害のある人を差別から保護する特別の、かつ総合的な差別禁止法(anti-discrimination legislation)制定の義務を伴う積極的義務を、締約国が負っていることを意味する。障害のある人に対する障害に基づく差別及びその他の差別の、法令による明確な禁止には、民事手続、行政手続及び司法手続における、交差的な差別に関する適当かつ効果的な法的救済策並びに制裁措置の規定が伴わなければならない。差別が組織的な性質のものである場合、個人に対する補償の提供だけでは、アプローチを変更するという点で真の効果が全くない可能性がある。その場合、締約国は「前向きの、非金銭的な救済策」も自国の法令に導入すべきである。これは、民間関係者や民間機関による差別に対して、さらに効果的な保護を締約国が提供することを意味する。

D.合理的配慮に関する第5条(3)

23.合理的配慮は、障害という文脈における無差別という、即時に適用される義務の本質的な部分である。(注5) 合理的配慮の例には、均衡を失した又は過度の負担を伴わずに、既存の施設及び情報を障害のある人にとってアクセシブルなものにすること、設備の変更、活動の再編、仕事のスケジュール変更、カリキュラム、教材及び指導法の調整、医学的処置の調整又は支援員を利用できるようにすることなどがある。

24.合理的配慮の義務はアクセシビリティの義務とは異なる。どちらもアクセシビリティを保障することを目的としているが、ユニバーサルデザインや支援技術を通じてアクセシビリティを提供する義務が事前の義務であるのに対して、合理的配慮を提供する義務は今からの義務である。

(a)事前の義務としてのアクセシビリティは、障害のある特定の人物のニーズ(例えば、他の者との平等を基礎として、建物やサービス、製品を利用する機会を有すること)を考慮することなく、システムやプロセスに組み込まれなければならない。締約国は、本条約第4条(3)に従い、障害のある人の団体との協議を経て開発され、採用されたアクセシビリティ基準を設定しなければならない。アクセシビリティの義務は、事前の、全体を対象とした義務なのである。
(b)今からの義務としての合理的配慮は、障害のある人がアクセシブルではない状況若しくは環境にアクセスする必要が生じた瞬間から、あるいは自己の権利を行使したいと考えた瞬間から、提供されなければならない。合理的配慮は、アクセスを必要としている人、又は個人や集団を代表する関係者によって要求されることが多いが、必ずしもこれに限定されない。合理的配慮については、それを希望している者との交渉が行われなければならない。場合によっては、提供される合理的配慮が集団又は公共の利益となる。また、提供される合理的配慮が、それを希望する者にしか利益を与えない場合もある。合理的配慮を提供する義務は、配慮への要求が受理された瞬間から適用される、個別の、問題発生後に対応する義務なのだ。合理的配慮について、義務履行者は障害のある個人との対話を始める必要がある。合理的配慮提供の義務は、障害のある人が配慮を求めたという状況や、義務履行者とされている人が問題となっている人物に障害があることに実は気づいていたと証明できる状況に限られるわけではないことに留意することが重要である。それは、問題となっている人物に、権利行使を阻む障壁に対処するための配慮が必要となる可能性がある障害があることを、義務履行者となる可能性がある人物は理解しておくべきであった、という状況にも適用されるべきである。

25.本条約第2条及び第5条に従い合理的配慮を提供する義務は、2つの構成要素に分けられる。前半部分では、障害のある人が権利を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更又は調整であって、特定の場合において必要とされるものである合理的配慮を提供する積極的な法的義務を課している。この義務の後半部分では、それらの必要とされる配慮が、均衡を失した又は過度の負担を義務履行者に課すものではないことを確保している。

(a)「合理的配慮」は、これで1つの語で、「合理的」がただし書きと誤解されてはならない。つまり、「合理性」という概念が、この義務を明確に限定し、又は修飾するものとして機能してはならない。この概念は、配慮にかかる費用や資源の利用可能性の評価手段ではない。このような評価は、後の段階、すなわち「均衡を失した又は過度の負担」についての評価がなされる際に行われる。むしろ、配慮の合理性は、障害のある人にとっての妥当性、適当性及び効果を指す。それゆえ、配慮が提供される目的が達成され、かつ、障害のある人のニーズに合わせて配慮がなされる場合、その配慮は合理的なのである。
(b)「均衡を失した又は過度の負担」は、合理的配慮提供の義務を制限する単一の概念として理解されるべきである。どちらの語〔訳注:「均衡を失した負担」と「過度の負担」〕も同じ考え、つまり、合理的配慮の要求は、配慮する側に過度の又は不当な負担を課す可能性によって制限される、という考えを示している限りにおいて、同義語とみなされるべきである。
(c)「合理的配慮」はまた、「積極的差別是正措置」を含む「特別の措置」と混同されるべきではない。どちらの概念も事実上の平等の達成を目的としているが、合理的配慮は無差別の義務であり、特別の措置は、権利行使の利益からの歴史的及び/又は組織的/全体的な排除に取り組むために、障害のある人を他の者よりも優遇する取扱いを暗に意味する。特別の措置の例としては、民間企業に雇用されている障害のある女性の人数が少ないことに対する一時的な措置や、高等教育における障害のある学生の数を増やすための支援計画が含まれる。同様に、合理的配慮は、自立した生活を送り、地域社会に包容される権利に基づくパーソナルアシスタント等の支援の提供や、法的能力を行使するための支援と混同されるべきではない。
(d)司法手続の利用の機会という文脈における「手続上の配慮」は、合理的配慮と混同されるべきではない。後者は不均衡の概念によって制限されるが、手続上の配慮は制限されない。

26.合理的配慮提供の義務実施の指針となる重要な要素には、以下が含まれる。

(a)障害のある当事者との対話を通じて、障害のある人の人権の享有に影響を与える障壁を特定し、撤廃すること
(b)配慮が(法的に又は実際に)実現可能か否かを評価すること。法的に又は実質的に不可能な配慮は実現不可能である。
(c)配慮が妥当(必要かつ適当)であるか否か、若しくは問題となっている権利の実現を確保するに当たって効果的であるか否かを評価すること
(d)変更が義務履行者に均衡を失した又は過度の負担を課すものか否かを評価すること。合理的配慮が均衡を失した又は過度の負担であるか否かを判断するには、採用される手段とその目的、すなわち当該権利の享有との均衡関係を評価しなければならない。
(e)合理的配慮が障害のある人の平等の促進及び差別の撤廃という本質的な目的の達成に適切であることを確保すること。したがって、合理的配慮の責任を負う関係機関と当事者との協議に基づくケースバイケースのアプローチが必要である。検討すべき要素として考えられるのは、財務費用、利用可能な資源(公的補助金を含む)、配慮を提供する側(全体として)の規模、変更が組織又は企業に与える効果、第三者の利益、他者への悪影響、並びに合理的な安全衛生の要件である。締約国全体及び民間企業体に関しては、組織構造内の1つのユニット又は部門の資源だけでなく、全体の資産が検討されなければならない。
(f)障害のある人がより広範囲にわたって費用を負担することがないことを確保すること
(g)負担が均衡を失した又は過度のものとなると主張する義務履行者に立証責任があることを確保すること

27.合理的配慮の否定のいかなる正当化も、客観的な基準に基づいて行われ、分析され、障害のある当事者に適時に伝えられなければならない。合理的配慮の正当性の検証は、義務履行者と権利所有者が関わりを持つ期間の長さに関連している。

E.特別の措置に関する第5条(4)

28.差別とは解されない特別の措置とは、障害のある人の事実上の平等を促進し、又は達成することを目的とした積極的措置若しくは差別是正措置である。そのような措置は、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約第4条又はあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約第1条(4)等の他の国際人権条約においても言及されており、過小評価されている集団あるいは疎外されている集団に有利な特定の利益を導入し、又は維持することを伴う。それらは通常、本質的に一時的なものであるが、特別な機能障害や社会の構造的障壁が原因である場合など、文脈と状況によっては恒久的な特別の措置が必要な場合もある。特別の措置の例には、介護者の休息のための一時的な介護〔訳注:レスパイトケア〕及び技術的援助に加えて、アウトリーチ計画及び支援計画、資源の配分及び/又は再配分、対象を絞った求人、雇用及び昇進、割当雇用制度、地位向上及び権限付与のための措置が含まれる。

29.本条約第5条(4)に基づき締約国によってとられる特別の措置は、条約の全ての原則及び規定と一致したものでなければならない。特に、それらの措置により、障害のある人の孤立、隔離、定型化された観念、スティグマ化、又は障害のある人に対するその他の差別が永続することになってはならない。したがって締約国は、特別の措置をとる際に、障害のある人を代表する団体と緊密に協議し、その積極的な関与を得なければならない。

Ⅵ.本条約に基づく無差別及び平等に関する締約国の一般的義務

30.締約国は障害のある全ての人の無差別及び平等の権利を尊重し、保護し、及び実現する義務を有する。この点において締約国は、障害のある人を差別するいかなる行動も差し控えなければならない。特に、締約国はそのような差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止すべきである。本委員会はこの点に関して、しばしば例を示してきた。例えば、法的能力についての権利を侵害する後見法その他の規則(注6) 、差別的であり廃止されなければならない強制的な施設収容及び強制治療を、合法とする精神保健法(注7) 、障害のある女性の同意なしに行われる不妊手術、アクセシブルではない住居及び施設収容政策(注8) 、分離教育に関する法律及び政策(注9) 、並びに障害のある人から選挙権を剥奪する選挙法 などである(注10)

31.平等及び無差別の権利の効果的な享有には、以下のような強制措置をとることが必要である。

(a)本条約に基づく障害のある人の権利、差別の意味及び既存の司法救済に関する全ての人の意識を高めるための措置
(b)本条約に定められている権利が家庭裁判所で起訴可能なものであることを確保し、差別を経験した全ての人に司法手続の利用の機会を提供するための措置
(c)平等規定の遵守強化を目的とした不服申立又は手続に対する、敵対的取扱い若しくは不利な結果等の報復からの保護
(d)平等の権利の実現に当たり、正当な利益を持つ協会、機関その他の法的主体を通じて訴訟を起こし、不服申立を行う法的権利
(e)障害のある人の能力に関する定型化された観念に基づく態度が原因で、差別の被害者が救済を受けられなくなることがないようにするための、エビデンスと証明に関する明確な規則
(f)平等の権利の侵害に対する、効果的で相応の、かつ抑止力を備えた制裁措置及び適切な救済策
(g)差別に関する訴訟の原告による司法手続の利用の機会を確保するための、十分かつアクセシブルな法律扶助の提供

32.締約国は、インクルーシブな平等を促進し、又は達成するための特別の措置を必要とする分野、あるいはそのような措置を必要とする、交差的な差別に直面している人を含む障害のある人のサブグループを、明らかにしなければならない。締約国はそのような集団のために特別の措置をとる義務を負う。

33.協議に関する締約国の義務について、本条約第4条(3)及び第33条(3)では、障害のある人の団体が本条約の実施及び監視において果たさなければならない重要な役割が強調されている。締約国は、子ども、自閉症の人、遺伝子疾患又は神経学的疾患のある人、希少慢性疾患のある人、アルビノの人、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーあるいはインターセックスの人、先住民族、農村在住者、高齢者、女性、武力紛争の犠牲者、少数民族又は移住者等、社会の膨大な多様性を象徴する障害のある人の団体と緊密に協議し、その積極的な関与を得ることを確保しなければならない。その時初めて、複合的かつ交差的な差別を含む全ての差別への取り組みがなされるものと期待できる。

34.締約国は、本条約第5条に関連して情報に関する義務を負い、不平等、差別的慣行と不利のパターンを明らかにするために、適当な資料及び研究情報を収集・分析し、平等を促進する措置の効果を分析しなければならない。本委員会は、多くの締約国において、障害差別に関する最新の資料がないこと、また、国内の法律及び規則で認められている場合には、機能障害、ジェンダー、性、ジェンダーアイデンティティ、種族、宗教、年齢その他のアイデンティティの階層別に資料が分類されていないことが多いことに気づいた。こうした資料とその分析は、効果的な差別禁止と平等のための措置の開発に極めて重要である。

35.締約国はまた、障害差別並びに障害のある人の平等の権利に関する適当な調査研究を実施すべきである。調査研究への障害のある人の有意義な参加を確保するために、アジェンダを設定する段階から、障害のある人を調査研究過程に組み込まなければならない。障害のある人を包容する参加型の調査研究過程は、参加者のために安全なスペースを確保し、障害のある人の実体験とニーズを中心としたものとすべきである。

Ⅶ.条約の他の特定の条文との関係

A.障害のある女子に関する第6条

36.障害のある女性は、障害のある人の集団の中でも、複合的かつ交差的な差別を最も多く経験する。(注11) 第6条は分野横断的な条文で、本条約の全ての規定と関連付けて考慮されなければならない。(注12) 「複合的な差別」という用語に言及しているのは第6条のみであるが、複合的かつ交差的な差別は、2つ又はそれ以上の理由のいかなる組み合わせによっても発生する可能性がある。第6条は、障害のある女性に対する差別を禁止し、締約国に機会と成果の両方における平等の促進を義務付ける、平等と無差別に関する法的拘束力のある条文である。さらに第6条は第7条と同様に、複合的かつ交差的な差別の2つの顕著な例に関する義務を、網羅的にではなく例示的に示したものとみなされなければならない。

B.障害のある児童に関する第7条

37.障害のある子どもは、しばしば複合的かつ交差的な差別を経験する。締約国は、子どもに特有の障害に基づくあらゆる形態の差別を禁止し、効果的かつアクセシブルな救済策を提供し、差別を防止し、撤廃するために、公衆並びに専門家の意識を向上させなければならない。例えば、多くの締約国で、「しつけ」や「安全」を口実に、子どもが合法的に暴行(拘束など)を受ける可能性がある。このような体罰は、障害のある子どもに不相応に影響を与えることが多い。締約国は、あらゆる場面における、子どもに対するあらゆる形態の体罰及び残虐な、非人道的な及び品位を傷つける取扱いを禁止し、このような禁止令を施行するために適当な措置がとられることを確保しなければならない。

38.児童の権利に関する条約第3条に定められている「児童の最善の利益」という概念は、障害のある子どもに対しては、その状況を慎重に考慮した上で適用されるべきである。締約国は、児童期・青年期に関する一般の法律及び政策において、障害を主流に組み入れることを促進すべきである。しかし、最善の利益という概念が、子ども、特に障害のある少女の、身体的なインテグリティ〔不可侵性〕〔訳注:個人がそのままの状態で尊重されること〕の権利の行使を妨げるために使用されるべきではない。それは、障害のある子どもが自己の状況に関連のあるあらゆる意思決定過程において、情報を提供され、意見を求められ、発言権を持つことを確保するために使用されるべきである。特に締約国は、差別により家庭で成長する権利を否定されている障害のある子どもに対する暴力と施設収容の問題に取り組むべきである。締約国は、子どもが自己の家族と暮らせるようにするための、若しくは地域社会において代替的な家族による監護を受けて暮らせるようにするための、脱施設化戦略を実施すべきである。締約国はまた、障害のある全ての子どもが、議会、委員会及び政治的意思決定機関における手続を含む自己に影響を及ぼす全ての手続において、自己の意見を聞き入れてもらう権利を行使できるようにするための支援措置をとるべきである。

C.意識の向上に関する第8条

39.政府及び社会の全ての部門における意識の向上なしには、差別と闘うことはできない。したがって、無差別及び平等に関するいかなる措置にも、適切な意識向上のための措置と、障害に関する複雑で軽蔑的な定型化された観念及び否定的な態度を修正し、又は廃止するための措置が伴わなければならない。さらに、暴力、有害な慣行及び偏見には、意識向上のための啓発活動によって取り組まなければならない。締約国は、とりわけ報道機関に対して、本条約の目的に適合するように障害のある人を描写すること、また、障害のある人を自他にとって危険であるとして、又は自律しておらず、社会にとって非生産的な経済的・社会的重荷であり、苦しみを抱えており、他者に依存している介護対象者であるとして、非現実的に描写する見方など、障害のある人に関する有害な見方を修正することを奨励するための措置をとるべきである。

D.施設及びサービス等の利用の容易さ〔アクセシビリティ〕に関する第9条

40.アクセシビリティは、障害のある全ての人の事実上の平等を達成するための前提条件であり、手段である。障害のある人が地域社会に効果的に参加するために、締約国は、障害のある全ての人にとって、他の者との平等を基礎として入手可能かつ使用可能でなければならない建造環境、公共輸送機関並びに情報通信サービスのアクセシビリティに取り組まなければならない。通信サービスという文脈におけるアクセシビリティには、意思疎通のための社会的支援の提供が含まれる。

41.前述のように、アクセシビリティと合理的配慮は、平等に関する法律及び政策における2つの異なる概念である。

(a)アクセシビリティの義務は集団に関するものであり、漸進的に、しかし無条件に実施されなければならない。
(b)一方、合理的配慮の義務は個別のものであり、全ての権利に即時に適用されるが、均衡を失していることを理由に制限される場合がある。

42.建造環境、公共輸送機関及び情報通信サービスにおけるアクセシビリティの漸進的な実現には時間がかかる場合があるため、個人に当面の利用の機会を提供する一手段として、即時的義務である合理的配慮が使用されることがある。本委員会は締約国に対し、本委員会によるアクセシビリティに関する一般的意見第2号(2014年)を指針とすることを要求する。

E.危険な状況及び人道上の緊急事態に関する第11条

43.危険な状況及び人道上の緊急事態においては無差別が保障されなければならず、またそれは、そのような状況に固有の障害のある人に対する差別のリスク増加に対処するために、人道的軍縮法を含む国際人道法で定められた義務に基づいたものでなければならない。

44.障害のある国外避難者及び/又は障害のある難民には、水、公衆衛生、食糧及び避難所等の基本的生活必需品を利用する平等な機会がないことが多い。例えば、仮設トイレ及びシャワー等のアクセシブルな公衆衛生施設は、多くの場合、存在しないか不十分である。

45.危険な状況及び人道上の緊急事態において、障害のある女性は、性的暴力、搾取又は虐待を含む暴力を受けるリスクが特に高く、復興・リハビリテーションサービス若しくは司法手続の利用の機会が得にくくなる。(注12)

46.締約国はそれゆえ、あらゆる計画及び行動において、無差別の原則を確保する必要がある。これは、平等を基礎として、障害のある人を国内の緊急事態プロトコルに含め、避難訓練計画に全面的に受け入れ、アクセシブルな情報通信ヘルプライン及びホットラインを提供し、人道上の緊急事態において、人道支援による救援物資が、アクセシブルで無差別的な方法により、障害のある人に配給されることを確保し、緊急避難所及び難民キャンプにおける水並びに公衆衛生施設が、障害のある人にとって利用可能かつアクセシブルであることを確保することを意味する。緊急事態後には、アクセシブルな再建が、社会における障害のある人の平等の決め手となる。これらの要素を確保するために、締約国は、緊急事態の全ての段階に関連のある法令及び政策の策定及び実施、監視並びに評価において、障害のある人を代表する団体を通じて、障害のある人と緊密に連携しなければならない。

F.法律の前にひとしく認められる権利に関する第12条

47.法的能力についての権利は、出発点としての権利である。すなわち、それは平等及び無差別の権利を含む本条約の他のほぼ全ての権利の享有に必要とされる。第5条及び第12条は根本的に結びついている。なぜなら、法律の前における平等には、障害のある全ての人による、他の者との平等を基礎とした法的能力の享有が含まれなければならないからだ。法的能力の否定による差別は、〔訳注:障害のある人の〕状況、機能及び結果に基づくアプローチ等、様々なアプローチにおいて存在する可能性がある。これらのアプローチのいずれにおいても、障害に基づき意思決定を否定することは差別的である。(注14)

48.本条約第5条に基づく合理的配慮の義務と、第12条(3)に基づく障害のある人による法的能力の行使のために提供されなければならない支援との重要な相違点は、第12条(3)に基づく義務には何の制限もないことである。能力を行使するための支援が均衡を失した又は過度の負担を課す可能性があるという事実によって、それを提供する義務が制限されることはない。

49.本条約第5条及び第12条の間の一貫性を確保するために、締約国は以下のことをすべきである。

(a)〔訳注:障害のある人の〕状況、機能又は結果に基づくモデルを前提とした法的能力の差別的な否定を禁止するべく、既存の法令を改正すること。適当な場合には、いかなる形態の差別もなしに全ての成人が持つ法的能力を考慮に入れ、それらのモデルを支援付き意思決定モデルに置き換える。
(b)障害のある人が既存の法制度をうまく利用できるよう援助する支援付き意思決定制度に対して、資源を提供すること。そのようなサービスの法制化とこれに対する資源の提供は、法律の前における平等な承認に関する一般的意見第1号(2014年)パラグラフ29に明記されている主要な規定と一致したものとすべきである。これには、いかなる支援制度も、支援を受ける者の最善の利益と認識されることではなく、その権利、意思及び選好の実現に基づいたものとすることが含まれる。本人の意思及び選好を判断することが実行可能ではない場合、成人に関連する全ての事項において、意思及び選好の最善の解釈が、最善の利益という考え方にとって変わるべきである。
(c)締約国は、アクセシブルであり、地域で利用可能な、敷居の低い、良質の無料法律相談又は法律扶助のネットワークを設立することにより、差別に対する保護を提供すべきである。このネットワークは、このような人々の意思及び選好を尊重し、彼らの手続上の権利(法的能力についての権利)を、他のタイプの法的代理人に対する保護と同レベルで保護するものでなければならない。締約国は、保護のための手段が、障害のある人の法的能力を剥奪することや、それ以外の司法手続を利用する機会を妨げることに基づいたものではないことを、一貫して確保しなければならない。

50.法的意思決定者、サービス提供者、又はその他のステークホルダー等関連機関に対して、研修及び教育が行われるべきである。締約国は、不動産又は金融関係のサービス(例えば住宅ローン)等、障害のある人が特に排除されている商品の例を示した第12条(5)に列挙されている商品及びサービスを含む、社会で提供される全ての商品及びサービスの平等な享受を確保する義務を負う。第25条(e)では、通常は障害のある人に対して開放されていない他のサービス、すなわち、生命保険及び(民間の)健康保険に言及している。締約国は、民間部門の商品及びサービスの平等な享受を確保するために、積極的・総合的なアプローチをとるべきである。それには、民間部門に適用される差別禁止法(anti-discrimination legislation)を強化することが含まれる。変化をもたらすことに意欲的なパートナーを見つけるために、労働組合その他の関係者との協力が活用されるべきである。

G.司法手続の利用の機会に関する第13条

51.第5条に概説されている平等及び無差別の権利並びに義務は、特に手続上の配慮及び年齢に適した配慮の提供を要求している第13条に関して、特別な検討を提起する。手続上の配慮は均衡を失していることを理由に制限されないという点で、これらの配慮は合理的配慮と区別することができる。手続上の配慮の実例としては、裁判にかけられた障害のある人に多様な意思疎通方法を承認することがあげられる。年齢に適した配慮としては、年齢に適した、かつ、平易な言葉を使い、不服申立のために利用可能な仕組みと司法手続の利用の機会に関する情報を普及することがあげられる。

1.第13条(1)

52.司法手続を利用する効果的な機会を確保するためには、プロセスへの参加を認め、プロセスの透明性を図らなければならない。参加を可能にする行動には以下が含まれる。

(a)理解可能かつアクセシブルな方法による情報配信
(b)意思疎通の多様な形式の承認及び配慮
(c)プロセスの全段階における物理的なアクセシビリティ
(d)法律扶助が適用可能な場合、及び法律扶助受給資格に関する法定検査の対象となった場合の財政的援助

53.支援を提供されても差別から自分自身を守ることができない人、あるいは、そのような試みがもたらす悪影響への恐れから選択肢が極めて限られている人を保護できる適切な措置は、公共の利益のための行動である(民衆訴訟)。

54.さらに、透明性を示すために、締約国の行動においては、全ての関連情報がアクセシブルかつ利用可能であること、また、関連のあるあらゆる不服申立、訴訟及び判決に関する適切な記録と報告が存在することが確保されなければならない。

2.第13条(2)

55. 権利及び義務の適切な尊重と実現を促進するには、法執行官に対する研修、権利所有者の意識向上並びに義務履行者の能力構築が必要である。適当な研修には以下を含めるべきである。
(a)交差性の複雑さと、人は機能障害のみに基づいて同定されるべきではないという事実。交差性の問題に関する意識の向上は、特定の形態の差別及び抑圧に関連したものとすべきである。
(b)障害のある人の多様性と、障害のある人が他の者との平等を基礎として、司法制度のあらゆる側面を利用する効果的な機会を得るための個別のニーズの多様性
(c)障害のある人の個人の自律と、全ての人の法的能力の重要性
(d)障害のある人の包容の成功における効果的かつ有意義な意思疎通の重要性
(e)弁護士、治安判事、裁判官、刑務所職員、手話言語通訳者及び警察官並びに刑務官を含む職員を対象とした、障害のある人の権利に関する効果的な研修を確保するためにとられる措置

H.身体の自由及び安全に関する第14条、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由に関する第15条、搾取、暴力及び虐待からの自由に関する第16条並びに個人をそのままの状態で保護することに関する第17条

56.障害のある人は、暴力、虐待及びその他の残虐な、かつ品位を傷つける刑罰の影響を不相応に受ける可能性があり、それは暴力的な攻撃だけでなく、拘束若しくは隔離といった形態をとる可能性がある。本委員会は、子どもを含む障害のある人に対する、機能障害を理由とした、定義によれば差別的である以下の行為、すなわち、障害のある子どもをその家族から分離し、施設に強制収容すること、自由の剥奪、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰、暴力並びに精神衛生施設内外における障害のある人に対する強制治療について、特に懸念する。締約国は、障害のある人に対するあらゆる形態の搾取、暴力及び虐待からの保護を提供し、これらを防止するために全ての適当な措置をとならなければならない。障害に対する強制的な矯正治療は禁止されるべきである。

I.自立した生活及び地域社会への包容に関する第19条

57.本条約第19条では、無差別について、また、障害のある人の完全な包容と参加を伴う地域社会における自立した生活のための平等な権利を認めることについて、再確認している。自立した生活及び地域社会への包容についての権利を実現するために、締約国は、障害のある人の権利の完全な享有、並びに地域社会への完全な包容及び参加を容易にするための、効果的かつ適当な措置をとらなければならない。これには、脱施設化戦略を実施することと、本委員会による自立した生活及び地域社会への包容に関する一般的意見第5号(2017年)に従い、自立生活支援サービス、アクセシブルな、かつ負担しやすい費用の住居、家族介護者のための支援サービス並びにインクルーシブ教育へのアクセスに資源を配分することが含まれる。

58.本条約第19条では、自己の障害を理由に特定の生活施設で生活する義務を負わない権利を認めている。施設収容は、地域社会における障害のある人のための支援及びサービスの創造に失敗したことを実証するものであるため差別的で、障害のある人は治療を受けるために、地域社会生活への参加をいやおうなく断念させられる。障害のある人が公的部門のメンタルヘルスサービスを利用する条件としての施設収容は、障害に基づく異なる取扱いとなり、それゆえ差別的である。

59.支援サービスを利用する機会を得るための資格基準及び手続は、人権に根ざしたアプローチに従い、無差別的な方法で定められなければならず、また、機能障害ではなく本人のニーズに焦点を絞ったものでなければならない。支援サービスの開発は、人中心の、年齢及びジェンダーに配慮した、文化的に適当なものとすべきである。

60.締約国は、例えばサービスが地域社会における自立した生活を踏まえたものであること、また、障害のある人が住宅市場において賃貸契約の可能性を否定されず、不利を被らないことを確保することにより、自立した生活と地域社会への包容を阻む慣行上又は手続上の障壁を第三者が課すことを禁止し、防止すべきである。

J.家庭及び家族の尊重に関する第23条

61.障害のある人は、差別的な法律及び政策、並びに行政措置が原因で、婚姻の権利、あるいは親の権利及び家族の権利の行使において、差別に直面することが多い。障害のある親は、しばしば、その子どもの世話をする能力が不足している、若しくは世話をすることができないとみなされる。子どもを自己の障害若しくは親の障害、又はその両方に基づき、親から分離することは差別であり、第23条の侵害に当たる。

62.子どもをその機能障害に基づき施設に収容することも、本条約第23条(5)によって禁止されている差別の一形態である。締約国は、障害のある親及び障害のある子どもの親が、地域社会において子どもの監護に必要な支援を受けることを確保しなければならない。

K.教育に関する第24条

63.一部の締約国で、障害のある生徒(目に見える障害のある生徒及び目に見えない障害のある生徒、並びに複数の形態の差別や交差的な差別を経験している生徒を含む)に、障害のある人を包容する質の高い教育を行っている普通学校への平等なアクセスが提供されていないことは差別的であり、本条約の目的に反しており、第5条及び第24条に真っ向から違反している。第5条(1)は第24条と相互に関連しており、締約国に対し、インクルーシブ教育を阻む法的障壁及び社会的障壁を含む、あらゆるタイプの差別的障壁を取り除くことを義務付けている。

64.教育の分離モデルは、普通教育及びインクルーシブ教育から、障害のある生徒を障害に基づき排除するもので、本条約の第5条(2)及び第24条(1)(a)に違反している。第5条(3)では、締約国に対し、合理的配慮が提供されることを確保するための全ての適当な措置をとることを義務付けている。この権利は、第24条(2)(b)において、障害のある人のために強化されており、同条では締約国に対し、障害のある人のために、他の者との平等を基礎とした、自己の生活する地域社会におけるインクルーシブ教育を確保することを義務付けている。この目標は、第24条(2)(c)に従い、個人のニーズに対する合理的配慮を提供すること、また、ユニバーサルデザインに基づき、障害のある人を包容する新しい場を開発することによって達成できる。直接的又は間接的に障害のある生徒を排除する入学試験を含む標準化された評価制度は差別的であり、第5条及び第24条に違反している。締約国の義務は、学校の範囲を超えて拡大していく。締約国は、社会的障壁又は経済的障壁のために交通手段の選択肢が限られている場合、障害のある全ての生徒に通学のための交通手段が提供されることを確保しなければならない。

65.教育現場における平等及び無差別をろうの子どもに保障するためには、ろうの同級生とろうの成人ロールモデルがいる、手話言語による学習環境が提供されなければならない。ろうの子どもの教師の手話言語技能が不足している場合、また、学校環境がアクセシブルではない場合、ろうの子どもは排除されるが、これは差別的とみなされる。本委員会は締約国に対し、第5条及び第24条に基づく義務を果たすための措置を実行する際には、本委員会によるインクルーシブ教育を受ける権利に関する一般的意見第4号(2016年)を指針とすることを要求する。

L.健康に関する第25条

66.本条約第5条及び第25条に基づき、締約国は障害のある人に対する保健サービスの差別的な拒否を禁止し、及び防止し、性及び生殖に係る健康の権利を含むジェンダーに配慮した保健サービスを提供しなければならない。締約国はまた、事情を知らされた上での自由な同意を基礎とした医療を受ける権利の侵害を通じて健康についての権利を妨げる、障害のある人の権利を侵害する差別や(注15)、施設又は情報をアクセシブルではなくする差別(注16) の形態にも取り組まなければならない。

M.労働及び雇用に関する第27条

67. 締約国は、本条約に関して事実上の平等を達成するために、障害を理由とした労働及び雇用関連の差別が存在しないことを確保しなければならない。(注17) 第5条(3)で説明されている合理的配慮を確保し、第5条(4)で明確に述べられている事実上の平等を、労働環境において達成し、又は促進するために、締約国は以下のことを行うべきである。
(a)障害のある人を分離する労働環境からの移行を促進し、障害のある人の一般労働市場への参加を支援しつつ、そのような労働現場への労働の権利の即時適用も確保すること
(b)就労支援、ジョブコーチ及び職業資格取得プログラムを含む援助付き雇用についての権利を促進し、障害のある労働者の権利を保護し、障害のある人が自由に選択した職業に就く権利を保障すること
(c)障害のある人が最低賃金以上の賃金を支払われるようにし、また、就労後、障害手当を受給できなくなることがないようにすること
(d)合理的配慮の否定を差別と明確に認め、複合的かつ交差的な差別と嫌がらせを禁止すること
(e)無差別的な方法による、障害のある人の雇用への適切な移行及び雇用からの適切な移行を確保すること。締約国は、退職手当又は失業手当等の手当並びに受給資格を利用する平等かつ効果的な機会を確保する義務を負う。そのような受給資格が、雇用からの排除によって侵害され、排除の状況をさらに悪化させることになってはならない。
(f)公的部門及び民間部門における、障害のある人を包容する、アクセシブルで、安全かつ健康的な労働環境の下での労働を促進すること
(g)総合戦略の一環として、障害のある人が自己の監督者との定期的な評価会議を通じて、また、達成すべき目的を定めることによって、昇進の機会に関する機会均等を享受することを確保すること
(h)障害のある従業員に対する職業訓練及び能力構築を含む、研修、再研修並びに教育の利用の機会を確保し、雇用主、従業員や雇用主を代表する団体、組合並びに所轄官庁を対象とした、障害のある人の雇用と合理的配慮に関する研修を実施すること
(i)無差別的で障害のある人を包容する労働安全衛生規則を含む、障害のある人のための普遍的に適用可能な労働安全衛生に関する措置に取り組むこと
(j)障害のある人が労働組合に参加する機会を有する権利を認めること

N.相当な生活水準及び社会的な保障に関する第28条

68.本委員会による一般的意見第3号パラグラフ59に記されているように、貧困は事態を複雑にする要因であり、複合的な差別の結果でもある。障害のある人が自己及びその家族の相当な生活水準についての権利を実施できないことは、本条約の目的に反する。このような事態は、極度の貧困生活又は窮乏生活を送っている障害のある人の場合、特に懸念される。他の者に匹敵する相当の生活水準に達するために、障害のある人は通常、追加費用を支払う。これは極度の貧困生活を送っている障害のある子どもや高齢女性にとって、特に不利なことである。締約国は、障害のある人が障害に関連する追加費用を賄うことができるよう、効果的な措置をとるべきである。締約国は、極度の貧困生活及び窮乏生活を送っている障害のある人に、相当な食糧、衣類及び住居に関して最低限必要なものを提供するための緊急の措置をとる中核的な義務がある。(注18)

69.社会的な保障に関して、締約国は基本的な〔訳注:社会的〕保護の床を実施することを、さらに義務付けられている。

O.政治的及び公的活動への参加に関する第29条

70. 選挙の過程及びその他の形態の政治活動への参加からの排除は、障害に基づく差別の例としてよく見られる。それらは多くの場合、法的能力の否定又は制限と密接に結びついている。締約国は以下のことを目的とすべきである。
(a)選挙における投票及び/又は候補者としての立候補から、障害のある人を組織的に排除する法律、政策及び規則を改正すること
(b)選挙前、選挙中及び選挙後も含めた選挙の過程が、障害のある全ての人にとってアクセシブルであることを確保すること
(c)障害のある人それぞれに対する合理的配慮と、障害のある人が政治的及び公的活動に参加するための個別のニーズに基づいた支援措置を提供すること
(d)国内、地域及び国際の各段階における政治参加の過程で、障害のある人を代表する団体を支援し、これらの団体と連携すること。これには、障害のある人に直接関連のある事項について、障害のある人を代表する団体と協議することが含まれる。
(e)障害のある人による、選挙から次の選挙までの期間も含めた継続的な政治参加を可能にする、情報システム及び法令を作成すること。

P.統計及び資料の収集に関する第31条

71.資料の収集及び分析は、差別を禁止する政策及び法律の監視に不可欠な手段である。締約国は資料を収集し、分析すべきであり、それらの資料は障害及び交差的なカテゴリーに基づいて分類されなければならない。収集される資料では、あらゆる形態の差別に関する情報を提供すべきである。収集される資料は、新規又は現在進行中のイニシアティブ及び政策の実施を評価し、進捗状況並びに効果を監視するための指標等、広範な統計、ナラティブ〔訳注:語り〕その他の形態の資料を網羅したものとすべきである。障害インクルーシブな指標が、持続可能な開発のための2030アジェンダと一致した方法で開発され、使用されなければならない。資料の設計、収集及び分析は、参加型とすべきであり、すなわち、子どもを含む障害のある人を代表する団体との緊密かつ有意義な協議の上、行われるべきである。施設又は精神病院等閉鎖された場所で生活している人は、資料収集のための調査及び研究の際にしばしば見過ごされてしまうので、そのような研究に組織的に組み込まれるべきである。

Q.国際協力に関する第32条

72.持続可能な開発のための2030アジェンダを含む全ての国際協力の取り組みは、障害のある人を包容し、かつ、障害のある人にとってアクセシブルなものとし、本条約を指針とすべきである。締約国は、持続可能な開発目標10と一致した人権指標並びに各指標の明確なベンチマーク及びターゲットを伴う監視の枠組みを開発しなければならない。全ての国際協力は、本条約及び持続可能な開発のための2030アジェンダ並びにその他の関連のある国際的な人権枠組みを踏まえた、完全な包容を求める、無差別に関する法令及び政策の促進を目的としなければならない。

Ⅷ.国レベルでの実施

73. 前述の規範的内容及び義務に照らし、締約国は本条約第5条の完全な実施を確保するために、以下の措置をとるべきである。
(a)国内法令及び慣行と本条約との調和に関する研究を実施し、本条約と矛盾する差別的な法律及び規則を撤廃し、障害のある人に対して差別的な慣習及び慣行を変更し、又は廃止すること
(b)差別禁止法(anti-discrimination laws)が存在しない場合はこれを策定し、対象となる個人及び状況を幅広く設定した障害インクルーシブな差別禁止法を制定し、効果的な法的救済策を提供すること。このような法律は、長期にわたる、心理社会的機能障害を含む身体機能障害、知的機能障害又は感覚機能障害のある者を含めた障害の定義を基にしたものである場合にのみ、効果を上げることができ、過去、現在、将来の障害及び障害があるという推定に加えて、障害のある人の関係者も含めるべきである。法的救済を求めている、障害に基づく差別の被害者は、法律の保護による利益を受けるために、自分には「十分障害がある」ことを証明する負担を課されるべきではない。障害インクルーシブな差別禁止法は、定義された保護対象集団をターゲットとするのではなく、差別的行為を違法とし、防止することを目指すものである。その点において、障害に関する広範な機能障害関連の定義は、本条約と一致している。
(c)無差別法(non-discrimination legislation)を民間領域及び公的領域へと拡大し、教育、雇用、商品及びサービス等の各分野を網羅し、分離教育、施設収容、法的能力の否定又は制限、強制的なメンタルヘルス治療、手話言語の指導及び専門の手話言語通訳の提供の拒否、並びに点字又はその他の代替的及び補助的な意思疎通の形態、手段及び様式の否定等、障害特有の差別に取り組むことを確保すること
(d)起業家精神を促進し、協同組合及びその他の形態の社会的経済の設立を支援するものを含む一般の雇用サービス及び職業訓練サービスにおける完全な包容を促進すること
(e)障害のある人に対する差別からの保護が、他の社会集団に対する差別からの保護と同一の基準で行われることを確保すること
(f)本条約との整合性を確保するために、公の当局及び非公式経済における研修を含む、知識及び能力構築計画を策定し、実行すること。意識向上及び能力構築は、障害のある人及び多様な障害のある人を代表する団体の有意義な参加を得ながら進め、実施すべきであり、これらは差別を禁止する法律及び政策の根幹たる寛容と多様性の文化の確立に不可欠な要素である。
(g)性別、年齢別、特定された障壁別、申し立てられた差別の発生部門別に分類された、障害に基づく差別申立件数の全ての差別申立件数に占める割合を監視し、示談となった事例、裁判となり判決が下された事例、及び補償若しくは制裁措置へとつながった判決の件数に関する情報を提供すること
(h)障害に基づく差別の被害者のための、アクセシブルかつ効果的な救済の仕組みを設置し、他の者との平等を基礎とした司法手続の利用の機会を確保すること。これには、障害のある全ての人による効果的かつアクセシブルな不服申立の仕組みを含む効果的な司法手続及び/又は行政手続、並びに法律扶助が適用可能な場合及び法律扶助受給資格に関する法定検査の対象となった場合には、適当な、かつ負担しやすい費用の、質の高い法律扶助の利用の機会が含まれる。市民的及び政治的権利と経済的、社会的及び文化的権利の両方に関して、公的主体及び民間主体による、障害のある個人及び障害のある人の集団の平等及び無差別の権利を侵害する行為又は不作為が発生した場合、締約国は効果的な方法で、かつ適時に介入すべきである。集団的性格を持つ司法救済や集団訴訟を認めることで、障害のある人の集団に影響が及んでいる状況下での司法手続の利用の機会の効果的な保障に大いに貢献できる。
(i)国内の差別禁止法に、不服申立若しくは平等に関する規定の遵守強化を目的とした手続への反応としての有害な取扱い又は有害な影響からの個人の保護を含めること。また、差別禁止法では、差別の被害者が、救済を受けることを不当に妨げられたり、再び被害を受けたりすることがないことを確保すべきである。特に、手続規則に関して、差別があったと推定できる根拠となる事実が存在する場合は、民事訴訟における立証責任を原告から被告へと移行すべきである。
(j)障害のある人の団体、国内人権機関、平等機関等その他の関連ステークホルダーとの緊密な協議の上、障害のある全ての人を包容するアクセシブルな平等政策及び戦略を開発すること
(k)社会のあらゆる部門において、障害のある全ての人の無差別及び平等の権利の対象範囲、内容並びにその実際の影響に関する知識を増強すること。これには、政府の全ての部局の国家公務員の間での知識の増強及び民間企業内での知識の増強が含まれる。
(l)インクルーシブな平等を定期的かつ総合的に監視するための適当な措置をとること。これには、障害のある人の状況に関する分類された資料の収集及び分析が含まれる。
(m)本条約第33条に基づく国内における監視のための仕組みが、独立したものであり、障害のある人を代表する団体の効果的な関与を伴う、障害のある人に対する差別に取り組むための十分な資源を持つものであることを確保すること
(n)障害のある人が独自に、又は不相応に経験する暴力、搾取及び虐待、並びに身体的なインテグリティ〔不可侵性〕〔訳注:個人がそのままの状態で尊重されること〕の侵害の事例を防止し、救済するために、特別の保護策を提供し、適切な注意を払うこと
(o)障害のある女性、少女、子ども、高齢者及び先住民族等、特に交差的な差別を経験している障害のある人について、インクルーシブな平等の達成を目的とした特別の措置をとること
(p)多数の亡命希望者、難民又は移民を受け入れている締約国は、障害のある女性と子ども及び心理社会的障害や知的障害のある人を含む障害のある人の、アクセシビリティを確保するための公式な法定手続を、受け入れ施設その他の現場で導入すべきである。締約国は、心理社会的カウンセリング及び法律相談、支援及びリハビリテーションが、障害のある人に提供されること、また、保護サービスが障害、年齢及びジェンダーに配慮した、かつ、文化的に適当なものであることを確保しなければならない。

(注1)あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約、児童の権利に関する条約、全ての移住労働者及びその家族の構成員の権利の保護に関する国際条約及び強制失踪からの全ての者の保護に関する国際条約

(注2)経済的、社会的及び文化的権利における無差別に関する経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会による一般的意見第20号(2009年)パラグラフ10参照

(注3)同書

(注4)障害者権利委員会による障害のある女子に関する一般的意見第3号(2016年)パラグラフ4(c)及び16参照

(注5)経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会による障害のある人に関する一般的意見第5号(1994年)パラグラフ15参照

(注6)障害者権利委員会による法律の前における平等な承認に関する一般的意見第1号(2014年)参照

(注7)障害者権利委員会による第14条に関するガイドライン、パラグラフ6及び14参照。同委員会のウェブサイト(www.ohchr.org/EN/HRBodies/CRPD/Pages/CRPDIndex.aspx)から入手可能

(注8) 例えば、自立した生活及び地域社会への包容に関する一般的意見第5号(2017年)パラグラフ46参照

(注9)インクルーシブ教育を受ける権利に関する一般的意見第4号(2016年)パラグラフ24参照

(注10) Bujdoso et al v. Hungary(CRPD/C/10/D/4/2011)参照

(注11)女子差別撤廃委員会による女子差別撤廃条約第2条に基づく締約国の主要義務に関する一般勧告第28号(2010年)パラグラフ31参照

(注12)障害者権利委員会による一般的意見第3号パラグラフ12参照

(注13) 一般的意見第3号パラグラフ49-50参照

(注14) 一般的意見第1号パラグラフ15参照

(注15) 一般的意見第1号パラグラフ41参照

(注16) 一般的意見第2号パラグラフ40参照

(注17) 国際労働機関 雇用及び職業についての差別待遇に関する条約1958年(第111号)、並びに障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約1983年(第159号)参照

(注18) 経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会による締約国の義務の性格に関する一般的意見第3号(1990年)パラグラフ10参照


原文:
United Nations
CRPD/C/GC/6
Convention on the Rights of Persons with Disabilities
Distr.: General
26 April 2018
Original: English
Committee on the Rights of Persons with Disabilities
General comment No. 6 (2018) on equality and non-discrimination
Office of the High Commissioner for Human Rights.United Nations Human Rights.
https://www.ohchr.org/EN/HRBodies/CRPD/Pages/gc.aspx

日本障害フォーラム仮訳

訳者:石川ミカ