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障害者権利委員会 条約12条 法の前での平等 一般意見案

委員会採択第10回セッション(2013年9月2日から13日)

山本眞理仮訳

一般意見の理由

1 法の前での平等は基本的で一般的な人権保障の原則であり、他の人権を行使するために不可欠なものである。世界人権宣言と市民的、政治的権利に関する国際規約は特に法の前での平等の権利を保障している。障害者権利条約12条は市民的権利の中身についてさらに説明を加え、障害者が伝統的に権利を否定されてきた領域に焦点を当てている。12条は障害者に権利を新たに付け加えるものではなく、単に他の者との平等を基礎として障害者に対して法の前での平等の権利を確保するために求められる特定の要素について述べている。

2 この条項の重要性に鑑み、委員会は法的能力に関する議論のための対話フォーラムをいくつか開いてきた。専門家、締約国、障害者団体、非政府組織、各条約体、国内人権機関そして国連機関、といった専門家による12条の条項についての非常に有益な議論から、委員会は一般意見においてさらなるガイダンスを提出することは必須であると自覚した。

3 今まで審査されたそれぞれの締約国の初期の報告書の審議において、委員会は12条のもとでの締約国の義務の正しい範囲について一般的な誤解があることを認識した。今にいたるまで、人権を基礎とした障害モデルは、代理決定パラダイムから支援された自己決定へのパラダイムシフトを伴うことが一般的に理解されてこなかった。この一般意見は12条のそれぞれの項目から派生する一般的義務を探求することを目的としている

4 この一般意見は3条でアウトラインが描かれている障害者権利条約の一般原則において前提とされている12条の解釈を反映している。固有の尊厳と自己決定の自由を含む個人の自立の尊重、非差別、社会への完全で有効な参加とインクルージョン、人間の多様性及び人間性の一部として、障害者の差異を尊重し障害者を受け入れること、機会の平等、アクセシビリティ、男女の平等、障害のある児童の発達しつつある能力を尊重し、障害のある児童がその同一性を保持する権利を尊重すること、が3条に含まれている。

5 世界人権宣言、市民的、政治的権利に関する国際規約そして障害者権利条約はそれぞれ、法の前での平等な認知の権利を「いたるところで」有効に作用すると規定している。いいかえれば、法の前で人として認知される権利を人が奪われるようなことあるいは制限されるようなことは国際人権法の下ではいかなる場合も許されないとしている。自由権規約の4条2項の効力により、このことは補強されている。それは社会的緊急事態においてすら、この権利の適用外とすることは許されないことを示している。障害者権利条約にはこの権利の適用外禁止についての同様の条項は含まれていないが、障害者権利条約の4条4項によって自由権規約のもととなる条項が保障されている。4条4項では障害者権利条約の条項は既存の国際法の適用外とするものではないと定めている。

6 法の前での平等の権利は他の国際的地域的な中核となる人権条約にも反映している。女子差別撤廃条約15条もまた女性に対して法の前の平等を保障し男性との平等を基礎とした女性の法的能力の認知を要求している。これには契約を結ぶこと、財産を管理すること、そして司法制度において自らの権利を行使することといった法的能力が含まれている。アフリカ人権憲章3条は法の前での平等の権利と法による平等な保護を享受する権利を明記している。米州人権条約3条は法的人格への権利を明言し法の前に人として認知される権利を誰もが持つことをもとめている。

7 他の者との不平等な根拠により障害者が、その法的能力の権利が制限されることがないことを確保するために、国家は法のあらゆる領域を全体的に検証しなければならない。代理の意思決定体制を通して歴史的に障害者は多くの領域で法的能力の権利を差別的に否定されてきた。代理の意思決定体制とは、後見人制度、種々の強制治療を容認する精神保健法その他といったものである。他の者との平等を基礎として障害者に対して完全な法的能力を取り戻すことを確保するために、これらの運用は廃止される必要がある

8 12条はすべての障害者は完全な法的能力があるという変わることのない確固たる推定を断言している。歴史を通して、多くのグループに対して法的能力は偏見を持って否定されてきた。その中には女性(特に結婚に際して)、そして民族的少数者を含まれている。しかし、我々の法体系の中で、法的能力がもっとも普遍的に否定されている集団として取り残されているのが障害者である。法の前で平等に認知される権利は、法的能力は普遍的属性であるということを求める。つまり法的能力は人間であるがゆえにすべての人に本来備わっているものであり、そして他の者との平等を基礎として障害者にも適用されるべきものである。法的能力は経済的、社会的文化的権利を行使するのに不可欠である。障害者に対しての法的能力否定はまた、多くの場合に様々な基本的権利剥奪を導く、それには以下のものが含まれる。投票権、結婚して家族を持つ権利、性や生殖の権利、親権、親密な関係や医療に同意する権利、そして自由権など。

9 身体的、精神的、知的あるいは感覚的損傷のあるすべての障害者は法的能力の否定の影響と代理決定による被害を受けることがある。しかし知的あるいは精神障害のある人はとりわけ不均衡なまでに代理決定体制のもとにおかれ、法的能力の否定による被害を受けたしそして今も受けている。委員会は障害者としての地位あるいは損傷(身体的あるいは感覚的損傷を含む)の存在という個人の状況は決して、法的能力の否定の根拠または12条にあるいかなる権利の否定の根拠とされてはならないことを再確認する。目的あるいは結果のいかんにかかわらず、すべての12条を侵害する行為運用は、他の者との平等を基礎として障害者に完全な法的能力を回復することを確保するために廃止されなければならない。

12条の規範的内容

12条1項

10 12条1項は障害ある個人が法の前で平等な人としてある権利を再確認している。これはすべての人が法的人格、すなわち個人の法的能力の認知のための前提である法的人格を持っているものとして尊重されることを保障している。

12条2項

11 12条2項は、障害者が生活のあらゆる分野において他の者との平等を基礎として法的能力を享受すると認めている。法的能力は権利を保持する者としてあるということと法のもとで行為することの両方の能力を含んでいる。権利を持つものとしての法的能力は、法制度によってその権利を完全に保護される資格を個人に与える。法のもとでの行為能力は法的効果のある行為ができる主体として個人を認める。法的主体として認められる権利は障害者権利条約12条5項にも反映している。そこでは国家の義務を示して「財産の所有又は相続についての、自己の財務管理についての並びに銀行貸付、抵当その他の形態の金融上の信用への平等なアクセスについての障害のある人の平等な権利を確保するためのすべての適切かつ効果的な措置をとる。」となっている。

12 法的能力と精神的能力は異なった概念である。法的能力は権利と義務を保持すること(法的地位)と、これらの権利と義務を行使すること(法的行為主体)の能力である。これは社会への意味ある参加を可能にする鍵である。精神的能力は個人の意思決定技術に関わり、当然個々人の間で違いと幅があり、そしてその人の周囲の環境や社会的要素を含む多様な因子に左右されるものであり、人によって違ってくるであろう。12条はあるとされたあるいは実際にある精神的能力の欠如が法的能力否定の正当化に使われることを認めない。

13 委員会が今まで審査してきた締約国の報告書の多くは、精神的能力と法的能力を同一視しており、それゆえに個人の意志決定技術を損なわれていると考えられた時、たいてい知的あるいは精神的障害を理由に損なわれるみなされた時には、その特定の決定をなす法的能力が奪われるという結果となる。こうしたことは単に障害の診断に基づいてなされたり(個人の状態に基づくアプローチ)、あるいは個人のくだした決定が否定的結果をもたらした考えられる時になされたり(結果に基づくアプローチ)または個人の意志決定技術がそこなわれていると考えられた時になされたり(機能に基づくアプローチ)する。これらのすべてのアプローチにおいては、個人の障害は、あるいはまた意志決定技術は、法の前での人としての地位を低くしたり、法的能力を否定したりするために適切で合法的な根拠であるとうけいれられている。12条はこの法的能力の差別的な否定を許さず、それに代わり法的能力の行使のために支援を提供することを求めている。

12条3項

14 12条3項は障害者に法的能力行使のための支援の権利を認めている。国家は法的能力否定をやめなければならず、それに代わって、締約国は法的に有効な意思決定のために必要ならば支援へのアクセス提供をしなければならない。

15 法的能力行使への支援は、障害者の権利、意志そして選好を尊重しなければならず、代理決定に至ることは決してあってはならない。12条3項は提供されねばならない支援の形態については特定していない。「支援」はインフォーマルとフォーマル両方の支援の取り組みを含み、その形態も量も多様な取り組みである、大きな範囲に広がる。例えば、障害者は1人あるいは複数の信頼できる支援者を多様な種類の決定のための、法的能力行使を支援する人として選ぶかもしれない。あるいは、ピアサポートやアドボカシー(セルフアドボカシー支援も含む)またはコミュニケーション支援といった多様な形態の支援をつかうかもしれない。障害者の法的能力のための支援はユニバーサルデザインとアクセシビリティにも広がる措置をも含むであろう。たとえば、銀行や金融機関といった私的及び公的な機関に対して、銀行口座を開くときや契約をするとき、あるいは他の社会的業務処理をするときに求められる法的行為を行えるように、障害者に対してわかりやすい情報提供をするということを課すといったことも考えられる。(支援にはまた多様で通常外のコミュニケーション方法を開発したり認知したりすることも含まれる。とりわけ自分の意志と選好の表現に言語ではないコミュニケーションを使う人のためにはこれは必要である)

16 障害者の多様性ゆえに、個々人の間で支援の形態と量の違いは非常に大きくなるであろう。これは、条約の一般原則として「差異の尊重、並びに人間の多様性の一環及び人類の一員としての障害のある人の受容」が置かれている、障害者権利条約3条のd項に従っている。危機的な状況も含みどんな時にでも、意志決定のための、障害者の個人としての自律と能力は尊重されなければならない。

17 障害者の中には12条2項にある他の者との平等を基礎とした法的能力の権利の認知のみを求め、12条3項に列挙されている支援の権利を享受しようとは思わない人もいるであろう。

12条4項

18 12条4項は法的能力行使のための支援体制におけるセーフガードが存在しなければならないとしている。12条4項は12条の他の部分そして条約全体と総合して読まれなければならない。12条4項は締約国に、法的能力行使のための適切で有効なセーフガードつくり上げることを求めている。これらのセーフガードの第一の目的は個人の権利、意志そして選好を尊重することを確保することでなければならない。これを達成するために、セーフガードは他の者との平等を基礎として支援の乱用からの保護を提供しなければならない。

12条5項

19 12条5項は締約国が法的あるいは他の(行政的司法的あるいは他の実践的措置)措置によって、障害者の財政的経済的な事柄について障害者を尊重して平等な権利を確保することを求めている。障害の医学モデルを基礎として、障害者が金融や財産にアクセすることは伝統的に否定されてきた。財政上の事柄についての法的能力否定というこのアプローチは、12条3項に従って、法的能力行使への支援に置き換えられなければならない。ちょうどジェンダーはこの分野における差別の根拠として使われないのと同じように障害もまた根拠として使われない。

締約国の義務

20 締約国はすべての障害者の法の前での平等な認知の権利を尊重し、保護しそして達成する義務を持つ。この点で委員会は、締約国は法の前でも平等な認知の権利を障害者から奪ういかなる行為もやめるべきであると勧告する。法的能力の権利も含む人権を実現し享受する障害者の能力を国家以外の機関や私人が妨害することがないよう、締約国は行動を起こさなければならない。法的能力行使に対する支援の目的の一つは、自信を持ち個人の技術を確立することであり、それにより本人が望むのであれば将来より少ない支援によって法的能力行使が可能となる。締約国は支援を受ける人への訓練を提供する義務を課せられている。そうすることで個人はいつ支援を減らすかを決めること、そしていつ、もはや法的能力の行使に支援が不要であると決めることができる。

21 すべての個人(障害あるいは意志決定技術とかかわりなく)は固有の法的能力を持っているとする「普遍的な法的能力」を認知するために、締約国はその目的あるいは効果において(障害者権利条約5条と共に同2条)障害を根拠とした差別である法的能力の否定を廃止しなければならない。法的能力否定のための状態を基盤とした体制は12条違反である。なぜならそれは特定の診断を個人が持っていることのみを理由として代理の意思決定者を押し付けることを認めるという意味でまさに差別的であるからだ。同様に、法的能力の否定を導く精神的能力の機能診断あるいは結果を理由としたアプローチも、もし法の前での平等という障害者の権利に差別的にあるいは不均衡に影響するのであれば、これらも12条違反である。

22 締約国は「後見人制度や信託制度を許している法律を再考しなければならず、代理決定の体制を、人の自律と、意志そして選好を尊重する支援された意志決定に置き換える法律と政策を開発する行動を起こさねばならない」と、12条について委員会は繰り返し最終見解において宣言してきた。

23 代理決定の体制はさまざまなことなった形態をとりうる。それには完全な後見人制度、司法による禁治産宣告そして部分的な後見人制度が含まれる。しかしこれらの体制にはある共通した特徴がある。代理決定の体制は以下のシステムとして定義できる。1)たとえ単に一つの決定に関してであったとしても、法的能力が個人から奪われる、2)代理決定をする人はその当該の個人ではない誰かによって指名され、その人の意志に反して指名されうる、3)当該の個人その人の意志や選好に反していても、代理決定する人による決定は、個人の客観的「最善の利益」であると信じられていることに拘束される。

24 代理決定の体制を支援された意思決定に置き換える義務は、代理決定体制の廃止と支援された意志決定というそれに代わるオルタナティブの開発の双方を求めている。代理の意志決定体制を保持するのと並行した支援された意思決定の開発は12条遵守には不十分である

25 支援された意思決定体制は、人の意志と選好を最優先し人権基準を尊重する、様々な支援の選択肢のクラスターである。それはすべての人権保障を提供しなければならない。この人権には、自立に関するもの(法的能力の権利、法の前で平等に認知される権利、どこに住むか選択する権利など)そして、虐待からの自由に関する権利(声明の権利、身体的インテグリティの権利、など)が含まれる。支援された意志決定の体制は多様な形態をとりうるが、それらは12条に従うことを確保するいくつかの鍵となる項目において同一の中身を持っていなければならない。それらの条件は以下を含んでいる

(a) 支援された意思決定はすべての人が使えなければいけない。個人が必要とする支援の水準によって(とりわけその水準が高い時)、意志決定支援が使えないことはあってはならない。

(b) 法的能力行使への支援のすべての形態(より集中的な支援形態も含め)は個人の意志と選好に基づかねばならず、推定されたあるいは客観的な個人の最善の利益に基づいてはならない。

(c) たとえ、コミュニケーションが通常とは違っていたり、あるいは極少数の人にしか理解できなかったりしても、個人のコミュニケーションのやり方は意思決定支援を得るバリアとなってはならない。

(d) 個人が正式に選んだ支援者は法的に認知されなければならず、そしてその認知は使いやすくアクセシブルでなければならない。とりわけ孤立して地域社会の中で自然に生まれる支援を使えないかもしれない人々のために、国家にはこうした支援者の創出を促進する義務がある。これには第三者に対して、支援者であることが証明されるメカニズムと同様に、支援者が個人の意志と選好に基づかずに行動していると第三者が信じたら、第三者が支援者の判断に異議申し立てできるメカニズム、双方が含まれなければならない。

(e) 12条3項の求めに従うためには、締約国は支援に向けて「アクセス提供」のための措置をとることがもとめられる。締約国は、支援の手段が極僅かあるいは無料で障害者に提供されることを確保することが求められており、貧しいということが法的能力行使のための支援を得るバリアにならないことが求められている。

(f) 意志決定への支援を利用したことが、障害者の他の基本的権利を制限正当化に使われてはならない。これはとりわけ以下のことで重要である。投票権、婚姻する権利(あるいは他の身分関係を作る権利)、家族を作る権利、性と生殖の権利、親権、親密な関係や医学的治療について同意する権利、そして自由権など。

(g) 自分で選択したいかなる時にでも、人は支援を拒否する権利、支援関係を終了したり変更したりする権利を持たなければならない。

(h) 法的能力と法的能力行使の支援に関連したすべての過程にセーフガードがなければならない。これらのセーフガードの目的は人の意志および選好が尊重されることを確保するためでなければならない。

26 法の前での平等の権利は、自由権規約に根ざした、市民的政治的権利としての認知という長い歴史を持っている。そうしたものとして、12条にある権利は条約の瞬間についてくるものである。締約国は、法的能力行使のための支援の権利も含む12条にある権利を実現する道を即座に歩み始める義務がある。漸進的実現という理論(4条2項)は法的能力については適用されない。

条約の他の条項と12条の関係性

27 法的能力の認知はまた条約に含まれている他の多くの人権の享受に密接に結びついている。以下に述べるものに限られるわけではないが、これらの人権の中には、司法へのアクセス権(13条)、精神保健施設への非自発的拘禁や強制的精神医療からの自由権(14条)、肉体的精神的インテグリティの権利(17条)、移動と国籍の自由権(18条)どこで誰とすむかの選択権(19条)、表現の自由権(21条)婚姻と家族を持つ権利(23条)、医療への同意権(25条)、そして選挙権と被選挙権(29条)がある。個人が法の前で人として認知されることなしには、これらの人権そして他の多くの条約の人権を主張し、行使し、そして有効にする能力は決定的にゆずらざるを得ない。

5条 平等と非差別

28 法の前での平等な認知を達成するためには法的能力は差別的に否定されてはならない。条約5条は法の下および前ですべての人は平等であることそして法の平等な保護を受ける権利を持つことを保障している。また障害を理由としたいかなる差別も禁じている。2条は差別を定義して、「障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする目的又は効果を有するものをいう」としている。障害者の平等な法の前での認知の権利を妨害する目的あるいは効果のある法的能力の否定は障害者権利条約5条と12条違反である。国家は一定の条件では個人の法的能力を制限することができるであろう、例えば破産や刑確定などの場合。法の前での平等な認知と差別からの自由の権利は、国家が法的能力を奪うことが認められている時にはそれはすべての個人に同じ根拠でなされなければならないことを求めている。それ故、それは個人の特徴、つまりジェンダー、人種、あるいは障害、に基づいてなされてはならず、またそうした、人を異なって取り扱う目的や効果を持ってはならない。

29 障害者権利条約3条(a)項にしるされている原則に従い、法的能力の認知における差別からの自由は、自律を取り戻し人の人間としての尊厳を尊重する。自分自身の選択をする自由は法的能力をもっとも求めるものである。自立と自律は法的に尊重される決定をする力を含んでいる。意思決定に支援と合理的配慮が必要であることは法的能力に疑義を挟む理由として使われることはできない。違いを尊重し、障害ある人を人類の多様性と人間性の一部として受容する(条約3条(d)項)は、同化主義を前提とした法的能力の認知とは両立し得ない。

30 無差別には法的能力行使における合理的配慮の権利も含まれる(5条3項)。2条は合理的配慮を以下のように定義している。障害者が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適切な変更及び調整であって、特定の場合に必要とされるものであり、かつ、不釣合いな又は過重な負担を課さないものをいう。法的能力行使のための合理的配慮の権利は、法的能力行使への支援の権利とは別のものでありまたそれに付随したものである。国家は不釣り合いまたは過重な負担でない限り、総外車の法的能力行使を可能にするいかなる変更またはちょうせいをすることをもとめられている。これには限定はされないが以下のものが含まれる。法廷、銀行、社会福祉事務所、投票所など必須の建物へのアクセス、法的効果のある決定に関してのアクセシブルな情報、パーソナルアシスタンスなど。法的能力行使への支援の権利は不釣り合いまたは過重な負担という抗弁によって制限されない。国家は法的能力行使のための支援へのアクセス提供については絶対的な義務がある。

6条 障害のある女性

31 女子差別撤廃条約15条は、法的能力の認知は法の前での完全に平等な認知に必須であることを認め、男性と平等な基盤で女性に対して法的能力を取り戻した。第2段落は以下述べている。「女子に対し、民事に関して男子と同一の法的能力を与えるものとし、また、この能力を行使する同一の機会を与える。特に、締約国は、契約を締結し及び財産を管理することにつき女子に対して男子と平等の権利を与えるものとし、裁判所における手続のすべての段階において女子を男子と平等に取り扱う」。これは障害のある女性も含む全ての女性に適用される。障害者権利条約は6条において、障害のある女性は複合的で重なりあった、ジェンダーと障害を理由とした差別にさらされがちであることを認めている。例えば、障害のある女性は強制不妊手術を高い比率で体験しており、また性と生殖のための健康と自己決定のコントロールを否定されることがしばしばあり、それには性行為への同意能力がないとみなされることも含まれている。また女性に対しては男性よりも高い比率で代理の意思決定者を押し付ける司法組織もある。したがって、障害のある女性の法的能力は、すべての他の者との平等を基礎として認知されるべきであることを再確認することは非常に重要である。

7条 障害のある子ども

32 12条は年齢とかかわりなくすべての人に対して法の前で平等に保護する。また条約は7条(2と3)項において子どもの発達過程にある能力を認識している。それは「障害のある子どもに関するあらゆる決定において、子どもの最善の利益が主として考慮されるものとする」と認めている。12条に従って、国家は、障害のない子どもと平等な基盤で障害のある子供の意志と選好が尊重されるよう確保するために法律を精査しなければならない。

9条 アクセシビリティ

33 12条における権利と9条にあるアクセス権は緊密に結びついている、なぜなら、法の前での平等な認知の権利は、障害者が自立生活をして、生活のあらゆる側面において完全に参加して生活できるために必要だからだ。アクセス権は公衆に広く提供されている施設やサービスのバリアを特定し除去することを保障する。これらのバリアが法的能力の認知を妨げるのであれば、その意味においてアクセス権は重なり、そしてまたアクセス権は時に法的能力の権利の実現に左右される。国家は法的能力の権利とアクセス権の両方が実現することを確保するためにその法と履行を精査しなければならない。

13条 司法へのアクセス

34 締約国は、障害者に対して他の者と平等な司法へのアクセスを保障しなければならない。法的能力の権利の認知は司法へのアクセスにおいては多くの点で不可欠なものである。他の者との平等を基礎として権利を実現し義務を果たすことを求めていくためには、障害者は法の前で人として認知され法廷あるいはトライビューナルにおいて平等に当事者として参加し主張できなければならない。国家は他の者との平等を基礎として法的な当事者となることへのアクセスを確保しなければならない。このことは多くの司法体制で問題として認識されてきており、改正されなければならないことである。これには法的能力の権利を侵された体験者が(自分自身であるいは法的代理人によって)こうした侵害に対して法廷において異議申し立てし権利を守る機会の保障も含まれる。(障害者はしばしば司法体制において主要な役割、たとえば例えば弁護士、裁判官、陪審員として任務、を果たすことから排除されてきた)。

35 警官、ソーシャルワーカーそして他の障害者に最初に対応する者は、障害者は法の前で完全な人であるという認識をすること、障害者の苦情や発言を障害のないもののそれらと同じ重みを持って受け止めることができるように訓練されなければならない。このことは、これらの重要な専門職の中で訓練と啓発を伴っている。障害者はまた他の者との平等を基礎として証言する法的能力を認められなければならない。司法、行政あるいは他の審査体の手続き過程において証言する能力をも含み、12条は法的能力行使への支援を保障している。この支援には多様な形態がありうる。多様なコミュニケーション方法の認知、ある場合はビデオでの証言を許可すること、手続き上の配慮や他の支援方法などが含まれる。くわえて、司法当局は、法的な能力と地位を含め障害者を法的人格として尊重する義務を自覚し、訓練されなければならない。

14条と25条 自由と同意

36 他の者との平等を基礎としての法的能力の権利尊重は、人としての自由と安全への障害者の権利尊重も含まれる。本人の同意を得ようとすることなく、代理の意思決定者の同意をもってあるいはそれすら顧みられることなく、障害者が法的能力を否定され意志に反して施設に拘禁されることは今現在進行中の問題である。こうした行為は恣意的自由剥奪を構成し、12条と14条を侵害している。政府はこうした行動をやめなければならない。締約国が、すべての形態の居住施設に本人の特定の同意なしに入れられている障害者の事例について再審査する機構を提供することを勧告する。

37 25条の健康への権利は自由な説明された同意を基礎とした保健医療への権利を含んでいる。これは、障害者から自由な説明された同意を得ることをすべての保健医療の専門職(精神科の専門職も含め)に求めることを締約国の義務としている。他の者との平等を基礎とした平等な法的能力に関連し、これは、また障害者の代理として代理の意思決定者が同意することを許容しないことを国家の義務としている。すべての保健医療スタッフは直接障害者と契約する適切な交渉技術を使うことを確保しなければならず、また全力を尽くして支援者が障害者の意志決定を代理したり不当な影響を及ぼしたりしないように確保しなければならない。

15条、16条、17条 個人のインテグリティの尊重と拷問、暴力、搾取そして虐待からの自由

38 多数の最終見解で確立してきたように、精神科そして他の保健医療専門職による強制医療は法の前の平等な認知の権利の侵害であり、また個人のインテグリティ(17条)、拷問からの自由(15条)、暴力、搾取そして虐待からの自由(16条)違反である。これらの行為は治療を選択する法的能力の権利を否定しており、したがって12条違反である。これらに代わり締約国精神科や他の治療についての意志決定支援へのアクセスを提供しなければならない。強制医療は精神障害者、知的障害者そして他の認知障害のある人にとってとりわけ重大な問題である。強制医療を認めあるいは行う政策や法律条項は廃止されなければならない。有効性に欠けることを示す実証可能な証拠にもかかわらす、そして同様に強制医療の結果としての重大な苦痛とトラウマを表明する精神保健体制利用者の声があるにもかかわらず、これは世界各地で現にいま進行している、精神保健法における侵害である。委員会は、人の身体的あるいは精神的インテグリティにかかわる決定は障害のある当事者の自由な説明を受けた同意によってのみなされるということを締約国は確保するべきであると勧告する。

18条 国籍

39 障害者は、いかなるところでも法の前で人として認知される権利の一部として出生と同時に姓名を持ち登録される権利を持つ(18条2項)。締約国は障害を持つ子どもが出生と同時に登録されることを確保する必要な措置を取らなければならない。この権利は子どもの権利条約7条に含まれている、しかし障害のある子どもは不均衡に登録されないことがありがちだ。このことは彼らの市民権を否定し、またこれにより保健ケアや教育へのアクセスが否定されることがよくあり、公的な存在記録がないがゆえに、親族の黙認による死亡すら導くことさえある。

19条 自立生活

40 12条の完全な履行のためには、障害者が、他の者との平等な条件で法的能力を行使するため、自らの意志と選好を開発し表明する機会を持つことは必須である。このことは障害者が地域で自立して生活する機会を持たねばならないことを意味し、そして毎日の日常生活において自らの選択とコントロールができなければならないことを意味している

41 19条の地域生活の権利にてらして12条3項を解釈するなら、法的能力行使への支援は地域に根ざしたアプローチを取らねばならない。法的能力行使のために求められる支援の形態を学習する過程において、地域社会は資産とパートナーとして国家に認知されなければならない。障害者自身の社会的ネットワークと、自然発生的な地域社会の支援(友人、家族、学校そして他の人々も含む)を支援された意志決定の鍵として、締約国は認知しなければならない。これこそ、障害者権利条約が強調する地域社会への完全なインクルージョンと参加にふさわしい。

42 障害者の施設への隔離は、条約上の幾多の権利を侵害する、普遍的で欺瞞に満ちた問題である。他の人の同意によって障害者が施設収容されることが認める、障害者の法的能力の否定が広く行われていることによって、この問題は悪化している。また多くの場合、施設の管理者自身が収容されている人の法的能力を代理して持っていることになっている。このことにより個人に対してすべての権力と支配が施設の手に握られていることになる。障害者権利条約に従いそして障害者の人権を尊重するためには、脱施設が達成され、どこで誰と住むかの選択が可能となるべき個人に法的能力が返されなければならない(19条)。どこで誰と住むかの個人の選択は、法的能力行使の支援へのアクセス権を妨害してはならない。

22条 プライバシー

43 代理の意思決定体制は、12条に従わないことに加えて、その障害当事者の個人的そして医療上の幅広い情報に代理の意思決定者がアクセスできるということで、潜在的に障害者のプライバシーの権利侵害でもある。支援された意志決定体制を確立するにあたって、締約国は、法的能力行使への支援を提供する人が障害者のプライバシー権を完全に尊重することを確保しなければならない。

29条 政治参加

44 法的能力の否定や制限は、一定の障害者に対して、政治参加を否定することとりわけ投票権を否定するために使われてきた。生活の全分野において法的能力の平等な認知を完全に実現するためには、公的政治的生活(29条)における障害者の法的能力の認知は重要である。このことは、投票権被選挙権、陪審員を努める権利も含め政治的権利の行使から障害者をいかなる形ででも排除することを正当化するために、個人の意志決定能力が使われてはならないということを意味する。

45 したがって締約国は、秘密投票にあたって障害者の選択した支援へのアクセス権、そして全ての選挙や住民投票にいかなる種類の差別もなしに参加する障害者の権利を保護し促進しなければならない。締約国は障害者の被選挙権、有効に公職につく権利と政府の全ての段階の公的役割を遂行する権利を合理的配慮ともし求められるなら法的能力行使の支援をもって果たす権利を保障するべきことを、委員会はさらに勧告する。

国内レベルの履行と履行に見られる主な落差

46 以上に述べられた規範の内容と義務の説明の視点から、締約国は12条の完全履行を確保するにあたって以下の段階をとるべきである。

1 他の者との平等を基礎として生活の全場面で法的人格と法的能力を持つ人として法の前に障害者を認知すること。これは代理意志決定体制の廃止を求め、そして障害者を差別する目的あるいは効果を持つ法的能力剥奪のいかなる機構も廃止することをもとめる。

2 法的能力行使のための広い範囲の支援への障害者のアクセスを確立し法的に認知し、提供すること。これらの支援には障害者の権利、意志そして選好を尊重するという前提であることを確保するためにセーフガードが付けられなければならない。これらの支援は先に述べた、12条3項に従う締約国の義務の項で述べた基準に適合しなければならない。

3 12条履行のための法制度、政策そして他の意志決定過程の開発と履行においては、締約国は緊密に、代表組織を通して障害のある子どもも含まれる障害者に相談しかつ障害者を積極的に巻き込まなければならない。

47 締約国が、法的能力の平等な認知の権利の尊重そして法的能力行使のための支援について最善の事例についての調査の開発について約束しそれに資源を割くことを、委員会は奨励する


Draft General Comment on Article 12 of the Convention - Equal Recognition before the Law & Draft General Comment on Article 9 of the Convention - Accessibility(The Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights (OHCHR))
http://www.ohchr.org/EN/HRBodies/CRPD/Pages/DGCArticles12And9.aspx

Draft General Comment on Article 12 - on Equal Recognition before the Law (English)
Committee on the Rights of Persons with Disabilities
Eleventh session
30 March-11 April 2014
Item 10 of the provisional agenda
General comments and days of general discussion
http://www.ohchr.org/Documents/HRBodies/CRPD/GC/DGCArticle12.doc

なお、現在公開されている資料は、翻訳原本とは版が異なる。