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障害者権利条約厚生労働省関連の項目についての意見書-2008年5月26日第3回政府意見交換会

JDF(日本障害フォーラム)

1.関連法制における障害および障害者の定義の見直し(前文(e)、第1条、第2条ほか)

(1)条約と国内法制度の関係

2008年2月14日に開催した第2回政府意見交換会において、障害及び障害者の定義につき、JDFより以下の意見を出したところである。その際に、厚生労働省の出席者から、障害者自立支援法に関しては、条約の批准やその内容には拘束されず独自の視点からの見直しを行うとも受け取れる旨の発言があった。

すでに日本政府が署名を行っている国際条約に対する国内行政機関としての姿勢、及び障害者権利条約に対応した障害者自立支援法(以下、自立支援法)をはじめ、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健福祉法、障害者雇用促進法など関連法制度の見直しの具体的内容を明らかにしていただきたい。

(2)身体障害者福祉法第4条に基づく身体障害者障害程度等級表

(1)に関連して、例えば聴覚障害の場合、身体障害者福祉法の規定はWHOの規定など、国際的な水準と大きく異なっている。身体障害者福祉法第4条に基づく身体障害者障害程度等級表(いわゆる別表)は、条約に沿って変える必要があると考えるが、見解を明らかにされたい。

【07年度第2回意見交換会への意見書(1、障害(者)の定義)】参照

【説明】

障害及び障害者については、概念が前文(e)と第1条で述べられている。第1条は、障害者には、障壁との相互作用から他の人との平等を基礎とした社会参加を妨げる機能障害をもつ人をも含むとしている。上記1(1)のとおり、権利条約での障害の概念が日本の現行法におけるそれより広いことは間違いない。現行の障害関連の福祉法制度は、デシベル、身体の可動域や欠損、臓器別等の機能障害や疾病、IQに傾斜した障害認定制度となっている。そのため、高次脳機能障害、いわゆる発達障害、難聴、難病等の場合、生活上の困難さが反映されず制度の狭間におかれてしまい、必要な諸制度が利用できない問題点がある。

上記に関連して2007年7月、北九州市では肝臓に障害をもつ方が餓死する事件がおきている。現行の日本の福祉施策は、臓器別や疾病別に規定された対象要件があるため、肝機能障害等の内部障害、慢性疾患者の継続的な体力の制限、疲れやすさは同じ内部障害でも、臓器や疾病が違うために勘案されず、様々な雇用施策の対象要件となっている障害認定も取れず、障害年金制度の対象にもなりにくい現状にある。まさに、「福祉制度の狭間」にさらされている。生存権を保障する生活保護が唯一生活を成り立たせる最後のセーフティ・ネットとなっている。このような制度上の不備は、障害者基本法の附帯決議等にあげられてから 10年以上も放置されたままとなっており、二度とこのような事件を繰り返さないためにも、早急な対策と現状を踏まえた改正を進める必要がある。これらの問題認識から、2006年12月13日の国連における政府の発言を再確認することが求められる。

2.障害のある子どもの権利(第3条(e)、第7条、第23条ほか)

条約は、成人とは区別して発達する時期にある子どもの権利を尊重することを一般原則として規定し、第7条において、基本的人権の確保、最善の利益の考慮、年齢と発達にふさわしい意見表明の権利の実現など、子どもの権利条約で示された原則が障害のある子どもに達成されることを求めている。

しかし、わが国においては、そもそも子どもを権利の主体として規定する法律は存在しない。子ども(障害のある子どもを含む)の福祉施策の基本となる児童福祉法をはじめとする条約批准にかかわる国内法の見直しにおいて、子どもの権利を明確に法律に盛り込むといった視点での検討が必要と思われるが、この点での見解をうかがいたい。

3.障害者団体との協議(第4条、第33条ほか)

厚生労働省は、今年(2008年)4月、「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応のあり方に関する研究会」を立ち上げている。ここに、 JDFとしての参加ができていない状況にある。2002年に国連における特別委員会が開始されて以来、日本障害フォーラムが、条約交渉に関わってきたという経緯がある。日本政府代表団の顧問もJDFのメンバーであった。障害者団体の参加等は、今後の条約の国内履行においても大変重要である。

そうした点から、当該研究会を始め、その他の条約に関する検討や研究・審議の場において、個別の構成団体からだけではなく、JDFとしても参画する必要があると考えるが、この点について、見解を明らかにしていただきたい。

4.地域における自立生活の権利としての保障(第3条、第19条、第20条ほか)

(1)地域で生活する権利について

第19条では、障害者が障害のない人と平等に、自分の住む地域や誰と住むかを選択し、生活権利があるとしている。また、同条(a)項では、本人の望まない特定の生活様式を義務付けられないと規定している。わが国において、入所施設や病院でなく、地域での生活を選択し、暮らす権利及びそのために必要な介護保障と所得保障は実質的に確保されているかについて、見解を明らかにしていただきたい。

(2)地域社会での生活と完全な参加を可能にする施策の拡充

1)必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会の支援サービスへのアクセス

「施設から地域へ」とのスローガンは掲げられても、未だに施設中心のサービス・財源となっているのが現実である。条約では、地域での自立生活のために、「必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービスにアクセスすること」とされている。どんなに重度の障害があっても、地域で自立して生活できるようなサービス基盤を整備していくためには、どのような法律・制度を進めていく必要があると考えているか。

また、条約に明記されている「パーソナル・アシスタンス」を確保するための、今後の居宅介護の質的量的充実及び介護者の確保に対する具体的な施策を明らかにしていただきたい。

2)「地域移行」の推進の方策について

「精神障害者退院促進事業」等が進められてはいるものの、施設や病院から地域への移行に関する現行の施策において、実質的な地域移行は進んでいないと認識しているが、見解を明らかにされたい。

(3)障害者自立支援法の見直し等

1)条約の「自律・自己決定」と地域における生活の権利規定との関係

同法1条の目的に、「障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう」となっており、条約の「自律・自己決定」と異なっている。この規定に変わる、障害者の自律・自己決定を基本におき、地域における生活を権利と定めた法律として改変することが必要だと考えられることにつき、見解を明らかにされたい。

2)障害者自立支援法の「障害者等の範囲」の見直し

障害者自立支援法の障害者等の範囲に関しては、障害者基本法の付帯決議で15年以上前から指摘されていること、障害者自立支援法の附則等を踏まえ、障害者手帳を持っていないいわゆる発達障害、難病等においても、医師の意見書、勘案事項、1週間の利用計画表等の支給決定過程でサービスニーズが必要であると認められたものも、障害者自立支援法の対象とすべきと考えるが、見解を明らかにされたい。

3)個人の移動性の確保と移動支援

第20条では、「障害のある人が選択する方法で及び時に、かつ、負担可能な費用で、障害のある人の個人の移動性を容易にすること」とされている。しかし、各種の利用制約やその費用負担により移動が困難になるなど条約に反する状態も生じていることにつき、見解を明らかにされたい。

4)アクセシビリティの確保とコミュニケーション支援

コミュニケーション支援は裁量的経費である「市町村地域生活支援事業」の中に位置づけられている。手話通訳者や要約筆記者等の派遣事業は、未実施の市町村が多く残されていて、すべての地域で必要とされるニーズに対応できていない状況がある。また、一部自治体では有料化も始まっている。

第21条では、「手話、点字、拡大代替〔補助代替〕コミュニケーション並びに自ら選択する他のすべてのアクセシブルなコミュニケーションの手段、形態及び様式を用いることを受け入れ及び容易にすること」を求めている。こうした条約の規定に反し、コミュニケーション支援の確保を困難にする事態が生じていると考えるが、見解を明らかにされたい。

5)サービス利用抑制、サービス支給量の減少の問題

各地でサービスの利用抑制、サービス支給量の減少が起こっている。第19条によれば、完全でかつ効果的な社会参加及びインクルージョンという目的のための福祉サービスなのであり、社会権的権利実施における後退措置禁止義務に明らかに違反していることについて、見解を明らかにされたい。

【説明】

障害者の地域生活に関連して、「個人の自律及び自立(自ら選択を行う自由を含む。)」「非差 別平等」(第3条)の原則のもと、「自立した生活(生活の自律)及び地域社会へのインクルージョン」(第19条)との条項が規定されている。

第19条では、「障害のあるすべての人に対し、他の者と平等の選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等の権利」を明記した上で、「障害のある人によるこの権利の完全な享有並びに地域社会への障害のある人の完全なインクルージョン及び参加を容易にするための効果的かつ適切な措置」を締約国に求めている。

さらに、「特定の生活様式で生活することを義務づけられないこと」、「必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会の支援サービス(パーソナル・アシスタンスを含む。)にアクセスすること」等が提起されている。

5.アクセシビリティ、表現の自由と情報アクセス(第2条、第9条、第21条ほか)

第9条においてはサービス等へのアクセシビリティの確保について、第21条では情報を受け取ることを含む表現の自由の権利行使を確保するための適切な措置をとると規定されている。これらは、条約上の権利行使の最も基本となる部分である。

これらの条文については、第2条で定義されている「コミュニケーション」に関する手段が適切に保障されることが、条文の実施のために必要である。現行制度においては、ライブ・アシスタンスも含め、これらが「確保」され、または「適切な措置」が十分にとられているとは考えられない、という点について、見解を明らかにされたい。

6.健康や医療(第4条、第12条、第25条、第26条ほか)

(1) 健康のための必要な法的整備

第25条(a) では「障害のある人に対し、他の者に提供されるものと同一の範囲、質及び水準の無償の又は負担可能な費用の保健サービス(性及び生殖に関する保健サービス、並びに地域社会の公衆衛生計画を含む。)を提供すること。」と規定されている。

障害のない場合よりも医療にかかる頻度は高いことから生じる医療費や通院費の費用負担、難病等への対応の遅れ、後期高齢者医療制度における「一定の障害者」に対する65歳以上の適用、など改善すべき点があると考えられることに付き、見解を明らかにされたい。

(2)患者の権利の確立

第25条(d)では「保健の専門家に対し、他の者と同一の質の医療〔ケア〕(特に、十分な説明に基づく自由な同意に基づいた医療)を障害のある人に提供するよう要請すること。」と規定されている。精神保健福祉法の措置入院制度、心神喪失者等医療観察法における制度等、同項を始めとする条約の規定に違反すると考えられるが、今後、どのように変えていくのか、見解を明らかにされたい。

また、ハンセン病研究会では、患者の権利法が必要であるとの認識に至った旨の理解をしている。この点についての見解を明らかにされたい。

(3)ピア・サポートの活用

第26条1項では、地域における自立とインクルージョンの達成のためにピア・サポートを活用するとあるが、この条項を推進する具体的な計画があるのか、見解を明らかにされたい。

7.雇用・労働

(1)差別禁止と積極的差別是正措置(第4条、第5条、第27条など)

1)雇用・労働分野での差別禁止のための制度について

第27条の柱書きに関連して、雇用・労働の場面においても、合理的配慮を行わないことを禁止することも含む「障害に基づく差別」を禁止する法律が必要となるが、これについてどのようにお考えか、見解を明らかにしていただきたい。

2)雇用割り当て制度について

障害者雇用の推進に当たっては、身体障害者福祉法等の手帳制度を根拠としている障害の範囲及び等級の全面的な見直しを図り、現行のダブルカウントの見直しや根拠とされている障害者数の計算式の見直しが必要だと思われることについて、見解を明らかにしていただきたい。

第27条の(g)項に関連して、国及び地方自治体は、民間に率先し模範的に障害者雇用促進をおこないかつ現行の雇用率の設定の引き上げも行うべきであると考えられることについて、[0]見解を明らかにしていただきたい。

3)最低賃金法について

同法第7条において「最低賃金の減額特例」の対象になる者の中に、「精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者」があげられている。「他のものとの平等を基礎として」という条約の各所で使用されている文言のとおり、実質的な機会の均等を図ることが本条約の目的である。そこで、「精神又は身体の障害により」と明示されているのは条約の規定に反するのではないのか、見解を明らかにしていただきたい。

(2)個別事項について(主に第27条関連)

1)いわゆる福祉的就労の場における労働条件

同法第7条において「最低賃金の減額特例」の対象になる者の中に、「精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者」があげられている。「他のものとの平等を基礎として」という条約の各所で使用されている文言のとおり、実質的な機会の均等を図ることが本条約の目的である。そこで、「精神又は身体の障害により」と明示されているのは条約の規定に反するのではないのか、見解を明らかにしていただきたい。

2)特例子会社制度について

障害者と障害のない人を分離する雇用体系になっていると考えられることについて、見解を明らかにしていただきたい。

3)継続雇用及び職場復帰に関する支援をする体制の整備

日本においては、障害者が就労した後においても、その雇用の継続をはじめ、昇給、昇進、職場復帰、転職に関する支援が特に不足していると考えられることについて、見解を明らかにしていただきたい。

【説明】

本条約では、障害に基づく差別とは、不利益取り扱いにかかる直接差別と間接差別、さらに合理的配慮を行わないこととなっている。現在、わが国では、「自力通勤可能の者」や「介助者なしでの職務遂行能力が必要」といった条件が雇用の場面で課されることが多い(地方公務員など)。条約では、あらゆる形態の雇用にかかるすべての事項での差別を禁止するとした。合理的配慮義務が生じるのは当然のこととなるため、条約条文に沿った法制度の改正が望まれる。

また、わが国では、障害者の働く形態が、労働部署管轄となる「一般就労」と、福祉部署管轄となるいわゆる「福祉就労」に分かれている。同一の労働内容・作業内容でありながら、一方では一般就労、一方では福祉的就労の扱いとなり、不平等が生じている。

さらに、雇用の継続の面では、就業・労働環境の問題が非常に大きい。例えば、コミュニケーションに課題を持つ聴覚障害者の場合は、就労した後十分なコミュニケーション支援が得られず、転職・離職・昇進差別など顕在化していない多くの問題に直面している。

8.所得の保障(第19条、第28条ほか)

(1)障害者の所得保障

介護保障と並び、障害者の地域自立生活の最大の基盤として、障害者の所得保障を拡充する施策を実施することについて、障害者自立支援法の附則も鑑みて、その具体策を明らかにしていただきたい。

(2)自立支援法での利用者負担

第28条2項で、「締約国は、社会保護についての障害のある人の権利及びこの権利を障害に基づく差別なしに享有することについての障害のある人の権利を認めるものとし、この権利の実現を保障し及び促進するための適切な措置をとる。これには、次の措置を含む。」とし、その(a)では、「障害のある人が、清浄な水に平等にアクセスすることを確保するための措置、並びに障害のある人が、障害に関連する必要に係る適切かつ負担可能なサービス、器具・装具〔福祉用具〕その他の支援にアクセスすることを確保するための措置」とある。

自立支援法による利用者負担の仕組みは、福祉サービス、医療、補装具、地域生活支援事業と多岐に渡り、過大な負担となり、 (a)項に反する事態も生じていると考えられることについて、見解を明らかにしていただきたい。