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国連障害者権利条約実施における課題と優れた実践に関する研究
「欧州委員会 雇用・社会問題・機会均等総局への最終報告書 2010」の要旨
抄訳

出典: Study on Challenges and Good Practices in the Implementation of the UN Convention on the Rights of Persons with Disabilities (VC/2008/1214)
http://www.study-uncrpd.eu/files/repository/20110126180647_VC20081214_FINAL_REPORT_ExSummary_EN_111010.pdf (英語)

本研究は、欧州共同体雇用と社会的連帯プログラム(European Community Programme for Employment and Social Solidarity)(2007年-2013年)の支援を受けている。

本研究に記載されている情報は、欧州委員会の公式な立場または見解を必ずしも反映するものではない。

掲載者注:報告書全文、付録は以下参照のこと。

Final Report
http://www.study-uncrpd.eu/files/repository/20110201165756_VC20081214_FINAL_REPORT_web_010211.pdf (英語)

AnnexI:Guidelines for the UN CRPD Implementation: A tool for assessing progress
http://www.study-uncrpd.eu/files/repository/20110126174854_VC20081214_FINAL_REPORT_AnnexI_UNCRPDtool_042010.pdf (英語)

AnnexII:EU instruments listed in the Council Decision 2010/48/EC and giving the Union competence for matters related to the implementation of the UN CRPD
http://www.study-uncrpd.eu/files/repository/20110201165403_VC20081214_FINAL_REPORT_AnnexII_EU_Instruments_010211.pdf (英語)


要旨

『国連障害者権利条約実施における課題と優れた実践に関する研究』(以下『研究』)は、2009年1月から2010年2月まで、契約番号VC/2008/1214にもとづき、雇用・社会問題・機会均等総局(DG EMPL)障害者統合ユニット(G3ユニット)のために、欧州人権・障害財団コンソーシアム(European Consortium of Foundations on Human Rights and Disability)を代表する欧州財団センター(EFC)によって実施された。

本研究は、障害者権利条約に定められている義務の詳細な分析、特に、EUとその加盟国による同条約実施にかかわるさまざまな実践についての情報収集を目的としていた。研究目標は、障害者権利条約の完全かつ効果的な実施を妨げる可能性のある課題と、同条約の目的の達成を促進する手段(「優れた実践」)を明らかにすることであった。本研究は、すべての障害のある人々の完全参加と機会均等に特に重点を置きつつ、現行のEU障害者行動計画の目的を支持し、国連障害者権利条約に一層明確にもとづいたEUの新たな障害戦略の策定に貢献することを意図している。

本研究の結果、国連障害者権利条約実施におけるEUレベルおよび加盟国レベルのいくつかの課題が、ともに明らかにされた。これらの課題はおもに以下の各分野に分類される。

▪ 不均等なパラダイムシフト:研究の結果、一般に、障害者権利条約で具体的に示されているパラダイムシフトは、大多数の加盟国において、まだ効果的に反映されていないことが判明した。一部の国では進展が見られるが、パラダイムシフトのおもな教訓の実践に向けた動き(障害のある人々を、管理や同情の対象である「客体」ではなく、平等な権利を持ち、同等な敬意を受けるに値する完全な「主体」として扱うこと)は均等ではない。EUは1990年代半ばにパラダイムシフトに向けた動きを主導した。国連障害者権利条約は、すべての政策部門におけるパラダイムシフトの実施に、一層緊急性を持たせるものである。欧州連合の場合、法律は明らかに障害の社会モデルにもとづいており、障害のある人々の社会への完全参加を妨げる物理的および社会的障壁の撤廃を目指している。

▪国内のスクリーニングの欠如:研究の結果、EU加盟国のほとんどが、国連障害者権利条約の実施に向けた最初の一歩をまだ踏み出していないことが判明した。これは、国内の法律や政策の系統立てた見直しが、いまだなされていないことを意味する。本研究では、完全な国内スクリーニングの実施をわずか4件しか確認していない。「スクリーニング」の実施義務は、加盟国だけでなく欧州連合にも同様に適用される。欧州連合では、障害者権利条約の対象となる事項に関連のある現在のEU法を確認するために、現行法を調査した。この作業の成果が権限宣言の付録で、これはEUの権限の範囲内に該当する同条約の分野を特定し、他の締約国に対し、EUとその加盟国の権限配分をよりわかりやすく示すことを目的としている。しかし、EU法の確認だけでは、現行法を検討し、必要に応じて改正する義務を伴う「スクリーニング」実施義務を果たしていることを示すには十分ではない。とはいえ、いかなるEU法の改正(または新たなEU法の採択)も、基本条約によって定められた権能配分には影響を与えられないと考えることが重要である。このためEUが実施するあらゆるスクリーニングにおいて、国連障害者権利条約の要件と照らし合わせてEU法を評価し、同条約の対象となる分野におけるEUの行為能力を検討することが必要となる。後者(EUの行為能力)の検討は、同条約の要件を満たすためにEUが取るべき措置の種類を決定するうえで重要となる 。(注1)

▪ 非差別法の不均等な適用:研究の結果、平等と非差別に関する法令は、EUレベル・加盟国レベルともに、おもに雇用の場で存在することが判明した。多くの加盟国は、非差別の原則の適用を職場以外にも拡大してきた。しかし、国連障害者権利条約実施に向けて、合理的配慮提供の義務の適用が限られていること、合理的配慮の否定が明確な差別形態と認識されていないこと、部門を越えた複数の差別に対処する法律が全体的に欠けていること、そして適用範囲が限られていることにかかわる重大な課題が残されている。

▪ アクセシビリティ全般:国連障害者権利条約第9条の実施に関して、研究の結果、EUで進展があったことが判明したが、今尚改善の余地はある。具体的には、一つ以上の関連のあるEU法で、建築環境、輸送機関、商品およびサービス、情報通信技術とアクセシビリティの問題に取り組んでいる。しかし、加盟国が国内法にアクセシビリティの原則を盛り込んでも、これらの法律の施行と、国連障害者権利条約のアクセシビリティ要件の効果的な実施を保証するには十分ではない。EU加盟国における研究からは、実施のモニタリングが効果を上げているとは考えられないことも明らかになった。さらに、一部の法令に含まれている例外規定(例えば、古い建物はアクセシビリティの原則に従う義務がない場合がある)と、専門家(建築家と技術者など)に対する障害に特化した研修の欠如が、障害のある人々の完全なアクセスと参加を阻んでいる可能性もある。

▪ 法的能力-当事者に発言権を戻す:EU加盟国における研究の結果、法的能力に関する分野で、国連障害者権利条約の実施に当たりいくつか課題があることが判明した。加盟国数ヶ国が関連のある法的措置を改正し、広範すぎる無条件の後見法から「支援付き意思決定」モデルへの断固たる移行を進める一方で、多数の加盟国は、広範囲にわたり限定的な後見法と政策を展開し続けている。また、後見制度からの移行を試みている加盟国にも課題がある。法改正により、障害のある人々の意思決定を支援する介助者の任命を定める一方で、そのような介助者と後見人との区別は十分明確ではない。また多くの場合、そのような介助者が義務の範囲を超え、介助の対象とされている人々の法的能力を代わりに行使することにならないように設けられる予防策は不十分である。一部の加盟国が提出した、あるいは提出を検討する可能性のある、国連障害者権利条約第12条に関する解釈宣言または「説明のための覚書」から、別の課題が生じることも考えられる。

▪ 自立生活-発言権を利用し、生き方を選択する:この分野に関する研究の結果、今尚障害のある人々の施設収容を許可している国内法の存在が、そのソーシャルインクルージョンと社会への完全参加を大いに阻んでいることが明らかになった。いくつかの国内政策では、施設入所者の地域社会への移行ではなく、施設における介護の改善に重点的に取り組んでいる。国内政策で障害のある人々の自立生活を促進している場合でも、障害のある人々が自分の問題を自分で処理できるようにする介助料の直接現金支給(ダイレクトペイメント)、すなわち個別資金援助制度 (Individualized funding scheme)の欠如が頻繁に見られることが、国連障害者権利条約の効果的な実施を阻む重大な課題となっている。EUでは、国連障害者権利条約の締結に関する理事会決定で、国連障害者権利条約第19条に関して、国内市場の機能(特に、間接税と国からの援助)にかかわる法律をいくつか挙げている。そのような性質を備えた法律は、障害のある人々が自立生活の権利を完全に享受できるよう、障壁(アクセシブルではない、あるいはアクセシビリティが不十分な、商品やサービス)の撤廃に積極的に貢献することができる。

▪ 雇用-労働市場において自由に選択し、または引き受けた労働を通じて生計を立てる:この分野における研究の結果、EU加盟国はEUの二次法、特に雇用均等一般枠組指令(2000/78/EC)の影響を強く受けて来たことが判明した。この結果加盟国は、雇用の場における障害を理由にした差別を法律によって禁止し、障害のある人々への合理的配慮に関する規定を設けてきたのである。にもかかわらず、国連障害者権利条約の効果的な実施にはいくつかの課題が残されている。研究の結果、「差別」および「合理的配慮」などの重要な概念に対するEU加盟国の解釈に一貫性がないことが明らかになった。さらに、指令2000/78/ECでは、合理的配慮の不当な否定を差別の一形態として明確に定義していないため、多くの加盟国でもそのような定義がされてこなかった。最後に、割当雇用率の達成が不十分であることと、障害のある人々の労働市場への参加率が低いことは、現行法が効果的に実施されていない可能性を示唆している。

▪ 教育-障害のある人々による、社会への効果的な参加の可能性を最大限高める:本研究のための調査の結果、EU加盟国による国連障害者権利条約第24条の効果的な実施に対するいくつかの課題が判明した。加盟国から収集された情報からは、機会均等にもとづくインクルーシブな教育の規定に向けた取り組みがほとんどないことが明らかになった。大部分の加盟国では、特別な教育的ニーズを抱える人々への教育が、一般教育制度において実施可能である一方で、障害のある子供達を特別な教育施設に入れることが容認され、ほとんどの場合そちらの方が好まれている。障害のある子供達を特別な教育施設へ入れるという選択肢を今後も利用できる限り、このような子供達のインクルーシブな教育制度への完全かつ効果的な統合は実現されない可能性があるので、これは国連障害者権利条約第24条の効果的な実施に対する重大な課題といえる。さらに、障害のある学習者へ個別化されたサービスと支援を提供するためのリソースの欠如が頻繁に見られることと、教員を対象とした、障害のある学習者を支援するための専門研修の欠如も、障害のある人々の教育制度への完全かつ効果的なインクルージョンを阻む大きな課題である。

▪ 政治的および公的活動への不均等な参加:EU加盟国における研究の結果、大部分の加盟国が、障害のある人々の選挙への参加を確保する法的規定を採択しているにもかかわらず、すべての障害のある人々の完全かつ効果的な参加の確保には十分ではないことが明らかになった。詳細な事例研究から、国が投票所のアクセシビリティを保障している一方で、投票用紙と選挙に関する一般的な情報は代替フォーマット(点字または読みやすいフォーマットなど)では提供されていないことが明らかになった。さらに、障害のある人々が秘密投票により投票する権利が、効果的に行使されていない場合もある。意思決定プロセスへの参加に関しては、本研究のための調査の結果、EU加盟国の大多数が、障害のある人々の公的活動への参加確保に諮問的役割を果たす障害フォーラムを設置していることが明らかになった。しかし、そのようなフォーラムの効果に関する情報はほとんどない。

▪ 研修の欠如:本研究のための調査から、EUとその加盟国の両方において、国連障害者権利条約で定められた義務に関する意識の向上を目的とする、すべての政策分野にかかわる裁判官、弁護士、行政官僚、建築士、技術者および公務員など、あらゆる種類の専門家に対する研修の開始という緊急のニーズがあることが明らかになった。このような研修は、障害者権利条約の実用的な導入に焦点を絞り、障害のある人々とその権利を代表する団体の代表者にとってアクセシブルかつインクルーシブなものにしなければならない。

▪ 障害分野に特化した統計およびデータの不足:本研究では、障害の社会モデルにもとづき、政策開発や政策実施のモニタリングに役立てるために適宜分類される、EU加盟国内の統計およびデータ収集関連の実践について、十分な情報を明らかにすることはできなかった。必然的に、この分野におけるさらなる研究が必要となる。EUでは、国連障害者権利条約の締結に関する理事会決定で挙げられた法律により、社会的保護とインクルージョンの分野における方法論的枠組みと、信頼のおける比較可能なデータ編集のための制度が確立された。しかし、現行法を見直し、障害者権利条約が対象としている事項に関する障害別データの編集にそれらの法律が適しているか(否か)を評価する必要があると思われる。

▪ 国際協力および開発援助の促進:開発協力における障害の主流化に関して有用な情報が一部得られたにもかかわらず、EU加盟国内で確認された、これにかかわる実践は極めて新しいため、本研究では国連障害者権利条約第32条の実施に対する課題を明示することはできなかった。EUについては、研究の結果、世界各地の多くの開発途上国との間に、いくつかの連携関係と開発プログラムが確立されたことが明らかになった。そのような連携は、国連障害者権利条約の実施にかかわる多くの分野を網羅している。したがってEUは、第三国あるいは対象国に影響を与え、支援し、それらの国々で国連障害者権利条約の目的を確実に実現することができる(国連障害者権利条約締約国として、これを行わなければならない)。この目標は、例えば、いわゆる「人権条項」の利用により達成することができる。
最後に、研究の結果、「大西洋間対話(Transatlantic Dialogue)」など、第三国との既存のコミュニケーション手段が、EUと他の障害者権利条約締約国との同様なコミュニケーションフォーラム設立のモデルとして、また、同条約の実施にかかわるさまざまなアプローチについての学びを促進するために、利用できることが明らかになった。

▪ 国内での実施とモニタリング:この分野の研究から、障害者権利条約第33条(1)で義務付けられている、指定された担当部局の大多数が、政府高官レベル(省レベル)で設置されていたことが明らかになった。しかし、調整機構の設立または指定に関する国内の情報は一般に不足しており、これは、EU加盟国がまだ調整機構を指定していないことを意味している。一部の事例では、障害者権利条約を正式に批准した時点で、そのような機構を設立する可能性を加盟国政府が検討する予定であることが明らかにされている。同様に、多くの加盟国では、障害者権利条約第33条(2)に想定されている枠組みがまだ設置されておらず、同条約が正式に批准されるまで設置されない可能性もある。

▪ EUにおける実施とモニタリング:障害者権利条約の締結に関する理事会決定第3条では、同条約で網羅されるすべての事項を扱うEU担当部局として欧州委員会を指定した。欧州委員会はEUの執行機関として、独特かつ極めて複雑な統治構造を有し、これは欧州共同体設立条約に由来している。この点に関して本研究では、委員会内のどの機関がEU担当部局としての課題を遂行できるかを検討した。具体的には(a)委員長(b)事務局長および(c)司法・基本権・市民権担当委員という選択肢が見直された。その結果は、委員長および事務局長の広範な権限が、障害者権利条約にかかわる問題を扱うEU担当部局としての最善の効果を妨げる障壁となり得ることを示唆している。司法・基本権・市民権担当委員については、その地位は一つの省に匹敵すると見なせるため、障害者権利条約にかかわるすべての事項を扱う担当部局の責務を課すことができるといえる。しかし、同委員の権限とともに、その地位が欧州委員会内の総合担当部局として指定された場合、同委員の活動に付加価値を提供する可能性があるEU法、政策およびプログラムの水平的モニタリングのための既存の方法論的枠組みを、EUが見直すことが望ましいとされている。

調整関連の問題については、研究の結果、EUレベルでいくつかのメカニズムが存在し、それらがEUによる障害者権利条約実施に関する問題の調整を促進できることが判明した。そのようなメカニズムには、例えば、欧州委員会の障害者団体間の協調を促進する、障害に関する部局間グループ(Inter-Service Group of Disability:ISGD)や、EUとその加盟国、およびEU加盟国間の協調を促進する、障害に関する高官レベルグループ(High Level Group on Disability :HLGD)が挙げられる。EUは、HLGDと同様に「開かれた政策協調手法(Open Method of Coordination :OMC)」を採用したり、あるいは、最近欧州障害フォーラムによって提案されたように、障害のある人々の平等な権利に関する欧州協定の開発を検討したりすることができる。最終的な選択肢にかかわらず、EUは既存のメカニズムを慎重に見直し、必要に応じて、あらゆるレベルにおける効果的な協調を確保するために、それらを修正しなければならない。さらに、この分野に関する研究では、委員会の障害者団体と、議会および理事会などの他のEU機関との間での効果的な協調を確保するメカニズムは確認されなかったことに注目すべきである。このため、この点に関するさらなる調査研究が必要である。

国連障害者権利条約の実施を「促進し、保護しおよび監視」するための「枠組み」の設置に関する問題については、研究の結果、障害者権利条約第33条(2)に定められているすべての任務を効果的に実施する適切な権限を持つ単一のEU機関は存在しないことが明らかになった。このためEUは、障害者権利条約第33条(2)に関する問題を担当する各種機構、団体および機関の創造的な「混合組織」の設立を検討しなければならない。EU機関によるそのような「混合組織」を設立するために、本研究ではいくつかの選択肢(基本権機関、欧州オンブズマンおよび欧州司法裁判所)を見直し、既存の組織では独立性などの要件を満たせないため、障害者権利条約の実施を「促進し、監視しおよび保護」する義務を効果的に果たすには深刻な困難が伴うことを確認した。

国内およびEUの政策決定者に対する勧告

前述の結果と障害者権利条約に定められた義務にもとづき、本研究では、EUおよび国内の政策決定者に対し、将来における同条約の全般的な実施とその目的の効果的な達成のために、以下に挙げる優れた実践を提案する。

▪ 批准のプロセスを利用し、障害者権利条約に関する意識の向上と理解の促進をはかる。このために、同条約の文言(注2)を公用語 とアクセシブルなフォーマットにより、すべての関係者(政府各部門、障害のある人々とその代表団体、NGO、政党、裁判官、学者およびその他の人々)に広く普及しなければならない。

▪ 留保、解釈宣言または「説明のための覚書」は、障害者権利条約が提供する保護範囲を削減する可能性があるため、可能な限りこれらの使用を避ける。同条約の締約国が障害者権利条約の留保が避けられないと決定した場合は、可能であれば、その留保をできるだけ早く撤回するよう努力しなければならない 。(注3)

▪ 障害者権利条約実施のプロセスの一環として、また最優先事項として、EUと加盟国はEU法および国内法の総合的な「スクリーニング」を実施し、障害者権利条約との完全な適合性を確保するために、必要に応じて現行法の改正または撤廃を行わなければならない。そのような「スクリーニング」は、すべての法律、政策およびプログラムの見直しと評価のために、水平的でなければならず、さらに、人権の相互依存性と不可分性を認識し、同条約を条文別に検討するだけでなく、全体としても検討しなければならない。「スクリーニング」のプロセスにおいて、EUと加盟国は、障害のある人々とその代表団体の有意義な貢献を模索し、促進しなければならない。スクリーニングプロセスの成果は、アクセシブルなフォーマットで一般に公開し、普及しなければならない。

▪ 法律を障害者権利条約と合致させるために策定される法律草案、現行法の改正、または行政規則はすべて、障害のある人々とその代表団体並びにその他の利害関係者(雇用主、教師、法定事業者、技術者など)とのさらなる協議の対象とすべきである。このためEUと加盟国は、参加型の意思決定プロセスを採用しなければならない。

▪ いかなる法律草案、現行法の改正、または行政規則においても、EUと加盟国は、パラダイムシフトに由来する義務と、一般的かつ分野横断的な性質の条項(国連障害者権利条約第3条、4条、5条、6条、7条および9条)を考慮しなければならない。

▪ EUおよび加盟国は、すべての法律と政策を障害の社会モデルにもとづくものとし、法律と政策の改正または策定の指針全般にこれを反映させなければならない。EU法は明らかに権利にもとづく障害へのアプローチを基本としていることから、EUは加盟国に対し、障害へのアプローチ法に関する指針を提供し、平等な対応と機会均等の原則を効果的に実施するために模範を示して主導したり、ソフトロー(報告やガイドラインなど)を使用したりすることが望ましい。

▪ EU法または国内法の文言について複数の解釈が可能な場合、EUと加盟国は、国連障害者権利条約に最も合致した規定を示している解釈をできる限り支持しなければならない。したがって、裁判所(EU司法裁判所および国内裁判所)を含むすべてのEU機関および国家政府機関は、EU法および国内法を国連障害者権利条約に最も合致した方法で適用しなければならない。このためEUおよび加盟国の両方は、裁判所職員を含む公務員に対し、障害者権利条約で認められている権利とこれに由来する義務に関する適切な研修を企画・実施しなければならない 。(注4)

▪ EUおよび加盟国は、法律(EU法または国内法)により、合理的配慮を提供する義務の範囲を制限することがないようにしなければならない。合理的配慮の規定は、平等の促進に必要な手段であるため、その適用は雇用の場に限られるべきではない。したがってそれは、差別禁止の対象となる、社会的、政治的、市民的および経済的生活のすべての分野に拡大されるべきである。重要なのは、国内およびEUの両方における非差別法で、合理的配慮の不当な否定が差別の一形態であることを明確に規定しなければならないということである。

▪ 平等法では、国連障害者権利条約第5条(4)にしたがい、障害のある人々の事実上の平等を促進するために必要な積極的な措置の採用を見越して行かなければならない。

▪ EUおよび加盟国は、国連障害者権利条約の一般原則および第6条・第7条にしたがい、多重差別の問題に積極的に対処していかなければならない。多重差別は非差別の分野においては極めて新しいテーマであるため、EUおよび加盟国は、国連障害者権利条約に定められた目的の完全な達成に向けて、法律による多重差別禁止の枠組みをどのように設けるかを明らかにするために、調査研究活動に着手することが望ましい。

アクセシビリティ全般に関する問題については、アクセシビリティの原則がすべての政策部門(雇用、教育、輸送、ICT、司法など)に適用され、適切なアクセシビリティ要件と基準が設定されるよう、EUおよび加盟国が密接に協力して活動を進めて行くことが望ましい。
さらにアクセシビリティ関連の方策には、適合性の達成に向けた明確なスケジュールを盛り込み、適合性が認められない場合の介入の性質(金融制裁など)を示し、都市部と農村部の両方でこれを適用しなければならない。
また、EUおよび加盟国に対し、今後国内市場に積極的に貢献していく投資として、アクセシビリティに取り組むことも提案される。ユニバーサルデザインによる商品、サービス、機器および設備の開発を奨励する措置はすべて、アクセシビリティの問題を最初から考慮することになるので、その後の物理的な障壁の撤廃費用を削減または回避することとなる。

▪ EU加盟国は、国連障害者権利条約第12条にしたがい、限定的な後見法および政策を撤廃するために、法律を改正しなければならない。このため加盟国は、障害のある人々による支援付き意思決定へのアクセスを確保する措置も取らなければならない。さらに、国連障害者権利条約第12条にしたがい、障害のある人の意思決定を支援するために介助者を任命することを定めている加盟国は、そのような介助者が義務の範囲を超え、介助対象者の法的能力を代わりに行使することがないよう、効果的な予防策を設けなければならない。

▪ EU加盟国は、国連障害者権利条約第19条の規定により、障害のある人々が自分の問題を自分で処理できるように、介助料の直接現金支給(ダイレクトペイメント)、すなわち個別資金援助制度 (Individualized funding schemes) を実施しなければならない。そのような制度は、すべての障害のある人々にとってアクセシブルでなければならない。加盟国はまた、地域に根ざしたサービスを確立しなければならない。これには、障害のある人々の生活上のニーズと社会のあらゆる局面へのインクルージョンを支援する介助者を、必要な時間数提供するための十分な資金とリソースがなければならない。重要なのは、加盟国が施設における介護の改善から、施設入所者を地域社会へと移すことへ、焦点を移行しなければならないということである。
EUについては、商品およびサービスに対する間接税の免除、あるいは資金援助はすべて、障害のある人々の自立生活を奨励かつ促進するものでなければならないこと、また障害のある人々の自主性を制限する居住型、医療型、その他のいかなる施設をも支持するものであってはならないことを、二次法によって確実に定めなければならない。

雇用関連の問題については、平等の原則の適用以外に、EUと加盟国が障害のある人々の平等な機会を促進し、その失業問題に取り組む共通の戦略を開発することが望ましい。

▪ 教育関連の問題については、EU加盟国は、すべての障害のある人々が、障害のない人々と同じ学習環境を保証するインクルーシブな教育制度のもとで教育を受ける権利を、法律と政策により尊重することを、確実に行わなければならない。

▪ 障害のある人々が政治的および公的活動のすべての局面に完全に参加する権利にかかわる問題については、EU加盟国は、アクセシビリティの一般原則を考慮し、すべての障害のある人々のニーズに、法律と政策により取り組むことを、確実に行わなければならない。

▪ EUおよび加盟国は、国連障害者権利条約の実施にかかわる政策の開発とモニタリングを支援するために、障害に特化したデータと統計を適宜編集し、分類することを、確実に行わなければならない。この点において、同条約の対象となる事項に関して妥当性を確保するために、既存の方法論的ツールを検証し、必要であればこれを修正しなければならない。

▪ EUおよび加盟国は、国連障害者権利条約第32条で義務付けられているように、国際開発プログラムにおいて、国連障害者権利条約に定められた原則を尊重し、すべての障害のある人々の権利を促進することを、確実に行わなければならない。

▪ EUおよび加盟国は、障害者権利条約と国連障害者権利条約第33条(1)の実施にかかわるすべての事項を扱う一つ(またはそれ以上)の担当部局を政府内に指定しなければならない。担当部局は、その活動が主流に与える影響とその勧告の重要性を保証し、その一方で、政府のあらゆる分野で障害のある人々の権利を尊重する必要があることを常に想起させるために、最高執行部の最も高いレベルに設置されなければならない。

▪ EUおよび加盟国は、国連障害者権利条約第33条(1)にしたがい、さまざまな部門およびレベルにおける関連のある行動の一貫性を促進するため、政府レベルでの調整機構の設立あるいは指定を検討しなければならない。
国連障害者権利条約は、EUとその加盟国がともに締約権限を持つ「混合協定」であるため、加盟国は、加盟国自身とEU間の誠実協力義務を負う(欧州連合条約(TEU)第4条3項)。つまり、国連障害者権利条約の対象分野は、EUの権限の範囲内に該当する部分もあれば、加盟国の権限の範囲内に該当する部分もあり、また、EUと加盟国とで権限を共有している部分もあるということになる。したがって、EUと加盟国が同条約に由来する法律を首尾一貫した方法で実施し、国際的な場での欧州連合の結束を確保するためには、両者の密接な協力が不可欠である。このため、今後EUおよび加盟国によって設立されるいかなる調整機構も、国内レベルおよびEUレベル間で活動の調整が必要であることを考慮しなければならない。

▪ EUおよび加盟国は、その法制度と行政制度にしたがい、国連障害者権利条約関連のすべての事項を対象とする「枠組み」を指定または設立しなければならない。その枠組みの任務は、国連障害者権利条約の実施を「促進し、保護し、監視する」ことでなければならない。そのような枠組みには、パリ原則にしたがい、一つまたはそれ以上の独立機構を含めなければならない。


注:

  1. この件に関するさらに詳しい情報は、『国連障害者権利条約実施における課題と優れた実践に関する研究 VC/2008/1214』最終報告書セクション3.2参照。
  2. 注目すべきは、UN CRPDの文言が、欧州委員会による同条約の締結に関する理事会決定2010/48/ECに添付され、同委員会によりすべてのEU言語に翻訳されており、http://eur-lex.europa.eu/JOHtml.do?uri=OJ:L:2010:023:SOM:EN:HTML(英語) で入手できることである。
  3. 留保に関するさらに詳しい情報は、『国連障害者権利条約実施における課題と優れた実践に関する研究 VC/2008/1214』最終報告書セクション1.1.3参照。
  4. 注目すべきは、2009年に欧州委員会が、PROGRESSプログラムの下、国連障害者権利条約に関する弁護士・政策実務家向け研修セミナーへの資金提供を公約したことである。この研修は2011年末までに実現されるものと期待されている。
    さらに詳しい情報は、http://ec.europa.eu/social/main.jsp?catId=658&langId=en (英語)で入手可能。