福祉機器開発におけるニーズ・シーズのマッチングの重要性 -厚生労働省関連の福祉機器開発に関する取り組み-

「新ノーマライゼーション」2019年10月号

公益財団法人テクノエイド協会
企画部長
五島清国(ごしまきよくに)

1.はじめに

障害者や高齢者の自立を支援し、介護者の負担を軽減する福祉機器は、利用者の心身機能の維持・向上、さらには活動や参加を促すものとして、大変重要なものである。

一方、福祉機器を安全で快適に利用するためには、利用者の身体的及び心理的、精神的な状況はもちろんのこと、使用する環境や介護者の有無など、障害者の置かれている日常生活に合致した機器を選定することが大切である。

少子化が進むなか、政府の推計では、2040年のわが国の就業者数は5,060万人まで減少し、現状の医療や介護のサービスを維持するためには、約1,060万人(全体の19%程度)の人材を必要としている。

こうした背景のもと、政府は成長戦略の一環として、ロボット技術やICT(情報通信技術)、AI(人工知能)などの技術開発とその活用の促進を掲げており、新たに創出されるテクノロジーは、障害者の福祉機器の分野でも大いに活用できるものとして期待されている。

福祉機器の開発においては、適切な価格で障害者が使いやすい機器を製品化するとともにその普及を図ることが重要で、そのためには、障害者のニーズと開発者のシーズのマッチングが欠かせない。本稿では、厚生労働省が実施している障害者の福祉機器に関する取組として、「障害者自立支援機器等開発促進事業」と「シーズ・ニーズマッチング強化事業」を紹介する。

2.障害者自立支援機器等開発促進事業

障害者のニーズと開発者のシーズのマッチングを図りながら、マーケットが小さく事業化や実用的製品化がなかなか進まない支援機器について、開発企業が障害者と連携して開発する取り組みに助成を行い、各企業が適切な価格で障害者が使いやすい機器を製品化し、普及を図る事業を行っている。

本事業は、厚生労働省にて直接実施しているが、本年度は9件が採択され機器開発に取り組んでいる。開発の成果報告は、後述するシーズ・ニーズマッチング交流会(東京会場)にて行う予定である(図)。


図拡大図・テキスト

3.シーズ・ニーズマッチング強化事業

真に必要とされる支援機器を開発するためには、着想の段階からユーザーや支援者のニーズ*1と開発や研究者等のシーズ*2をマッチングすることが大切であり、シーズ志向型の開発とならないよう、各種障害者の置かれている状態はもちろんのこと、現場の課題やニーズを的確に捉えた支援機器の開発につなげる取り組みが重要である。

本事業は、ユーザー側が持つニーズと開発側が持つシーズのマッチングを目的とした支援機器に関する交流会を開催し、実用的な支援機器が開発されるよう、試作機等を用いて想定するユーザーと開発側が膝を交えて意見交換できる場を設ける企画である。

本事業は、当協会が実施団体となり行っているが、本年度は東京及び福岡、大阪以外の3地域でも「ATAサテライト」として開催する予定である。

4.最後に

以上、障害者の福祉機器開発に係る取組の一部を紹介したが、障害領域におけるテクノロジーの活用は、障害者が地域で主体的に生活(活躍)するうえで極めて重要なことであり、その目的は要介護高齢者とは若干異なり、就学から就労、自己実現や子育て、家事、訓練など多岐にわたり、また、対象となる障害領域についても、肢体不自由から視覚聴覚の障害、高次脳機能障害、発達障害、知的障害など広範囲である。

障害者福祉の現場において、真に必要とされる福祉機器の開発と普及を推進するためには、開発早期の段階から使用者側と開発者側の連携が重要であり、また、開発段階に応じて医師やセラピスト、研究者等の関与も不可欠といえる。当事者と開発者、それに医療・福祉の関係者が加わることによって、当該機器の適用範囲を明確にするとともに、適切かつ効果的な運用や機能、デザイン性を加味した製品開発に資するものである。

一方、少子化が懸念されるなか、介護する側の福祉機器に対する視点として、使い勝手や機器利用に対する不安の解消なども大変重要な要素である。こうしたことを踏まえ、テクノロジーを駆使した福祉機器がより一層開発されることに期待する。


*1 ニーズ側:障害者、家族、在宅・施設等の介護職員、医療・福祉の業務に従事し障害者の福祉や訓練に係わる者 等

*2 シーズ側:開発メーカー、地域の産業振興団体、新規参入を検討する企業・研究者、大学・研究機関 等

◆ 最新情報は、当協会のHP(http://www.techno-aids.or.jp/jiritsu/example.shtml)をご参照ください。

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