海外情報-イギリスの障害者雇用支援の近年の動向

「新ノーマライゼーション」2020年2月号

公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 参与
寺島彰(てらしまあきら)

はじめに

2010年7月に、政府の福祉制度改革案を掲げた緑書「21世紀の福祉(21st Century Welfare)」の発表以降、2012年3月の「2012年福祉改革法(Welfare Reform Act 2012)」の成立など、イギリスの福祉改革は、ドラスティックに進行しています。

改革の中心は、福祉改革法に基づき既存の複数の福祉手当を統合した「ユニバーサル・クレジット(Universal credit)」の創設と「障害者生活手当(Disability Living Allowance)」に代わる新しい福祉手当として、「個人独立支援手当(Personal Independence Payment)」を導入したことですが、障害者雇用支援制度も大きく変化しています。本稿では、その動向について紹介します。

1.近年の障害者雇用支援政策の推移

2010年5月キャメロン保守党・自由民主党連立内閣が成立しました。そして、2010年10月より、「職業準備(Work Preparation)」「ワークステップ(Workstep)」「職業導入制度(Job Introduction Scheme)」が、「ワークチョイス(Work Choice)」に統合されました。

「職業準備」は、もともとリハビリテーション機関の職業準備訓練で、他の就労支援プログラムで支援しきれなかった重度障害者が対象になっていました。

「ワークステップ」は、一般雇用現場でグループ単位で働く障害者を支援する「保護産業グループ制度(Sheltered lndustrial Group Scheme)」でしたが、1973年に「一般雇用での保護グループ(Sheltered Groups in open employment)」と呼ばれるようになり、1985年には、個別の労働者を対象とする「保護職業紹介制度(Sheltered Placement Scheme(SPS))」に変わり、1994年には、「支援付き雇用プログラム(Supported Employment Progamme)」、2001年にこの制度になっています。重度障害者のための一般雇用への移行促進プログラムであり、障害者が一般企業で補助を受けながら働く制度です。

「職業導入制度」は、障害者を新たに雇用する民間事業主に対して支払われる助成金で、1977年に制度化されました。最初の6週間(最長13週間)、週75ポンドが事業主に支払われました。26週以上雇用を継続することが条件でした。

「ワークチョイス」は、「専門職による障害者雇用プログラム」(Specialist Disability Employment Programme)とも呼ばれており、障害者に対する専門的な支援を行うことで、障害者の職業選択と職業継続を可能にすることを目指すものでした。導入支援から就労後の作業支援まで2年間の長期のサポートを受けられることが特徴でした。

2011年3月には、「仕事への道(Pathways to Work)」が終了しました。これは、2003年に始まったパイロット・スキームで、就労不能により、「就労不能手当(Incapacity Benefit)」「重度障害手当(Severe Disablement Allowance)」「所得補助(Income Support)」を受けている障害者を一般就労に導こうとして幅広い支援を提供しました。

2011年6月には、「雇用ゾーン(Employment Zones)」「ニューディール(New Deal)」「フレキシブル・ニューディール(Flexible New Deal)」「フューチャー・ジョブ・ファンド(Future Jobs Fund)」に代わって「ワークプログラム(Work Programme:WP)」が導入されました。

ニューディールのうち、「障害者のためのニューディール(New Deals for Disabled People:NDDP)」は、「就労不能手当」の受給者の就労を促すためのプログラムで、1988年にパイロットプログラムとして始まりました。ジョブ・ブローカー(Job Broker)が、就業希望者の能力やスキルを分析し、適した職業を紹介するとともに、応募書類や履歴書の作成支援・アドバイス、面接試験の準備の支援、必要な職業訓練のコーディネートなどをするほか、就職してから最初の半年間のサポートや雇用主との調整などをも行うというものでした。

対象者は「就労不能手当」「重度障害者手当」「所得補助」「住宅給付金(Housing Benefit)」「自治体税給付金(Council Tax Benefit)」の障害割増、「障害者生活手当」「非就労補助(Unemployability Supplement)」、または、「就労不能国民保険控除(National Insuarance Credit for incapacity for work)」のいずれかの受給者でした。

「ワークプログラム」は、キャメロン連立政権の「福祉から労働へ(welfare to work)」の中心となる政策で、長期失業者を仕事に就かせるために、公共機関、民間機関、及び第三セクターの組織で実施されましたが、2017年4月に、「仕事と健康プログラム(Work and Health Programme)」の開始に伴い事業が終了しました。

2012年10月には、レンプロイの保護工場(sheltered workshop)が閉鎖され、67年続いた政府による保護工場の歴史が幕を閉じました。

2015年5月キャメロン保守党内閣が成立し、2015年11月に、労働年金省は、「ワークプログラム」と「ワークチョイス」を「仕事と健康プログラム」に代えることを発表し、2017年4月に始まりました。障害者や慢性病患者の就労をより積極的に支援するためであるとされています。

2018年12月には、労働年金省が2019年中に「集中的個別雇用支援プログラム(Intensive Personalised Employment Support programme:IPES)」をイングランドとウェールズで開始することを発表しました。

以上の障害者雇用制度の流れを示すと図のようになります。

図 障害者雇用施策の歴史的経過
図 障害者雇用施策の歴史的経過拡大図・テキスト

2.現在の障害者雇用支援

上でも述べたように、いろいろな制度が統合され、現状では大きく3つのプログラムがあります。

(1)アクセス・トゥー・ワーク(Access To Work scheme)

1.開始年:従来の「施設設備援助制度」や「雇用に要する特別補助機器援助制度」等を置き換えた制度として1994年に創設

2.支援内容:支援ワーカーの配置、通勤支援、福祉機器提供、施設改修 等

3.支援対象:次の条件をすべて満たす人。イギリス(北アイルランドを除く)に居住している/障害または健康上の理由で仕事をしたり仕事に行くことが困難/16歳以上/有給の仕事をしている、または、仕事を始めようとしている。

(2)仕事と健康プログラム(Work and Health Programme)

1.開始年:2017年11月にイングランド北西部とウェールズで開始。2018年1月からイギリス全土に展開

2.支援内容:雇用ニーズの評価、職業適性の判定、職業斡旋、必要な訓練の実施、仕事における健康上の配慮等の個別支援

3.対象者:障害者、失業し24か月間の失業手当(jobseeker's allowanceまたはuniversal credit)を請求している人、介護者または元介護者、ホームレス、元軍人または軍隊予備役の人、現役または元軍人のパートナー、難民、家庭内暴力の被害者、薬物やアルコール依存のため仕事に就けない人、元犯罪者で刑期を完了した人 等

(3)集中的個別雇用支援プログラム(Intensive Personalised Employment Support programme:IPES)

1.開始年:2019年中にイングランドとウェールズで開始

2.支援内容:専任のキーワーカーと協力して重度の障害者の個別のサポートを実施、6か月の就労支援を含む最大21か月の支援を提供、2027年までに100万人の障害者を雇用する

3.対象:1年以上仕事に就いていない障害者

3.まとめ

雇用率の廃止、福祉手当と職業サービスを1か所で管理するジョブセンタープラスの設置、保護工場の廃止など、これまでもドラスティックに変化してきたイギリスの障害者雇用支援制度は、近年の福祉制度改革に伴い、いろいろな制度を統合し、大きく3つのプログラムに整理されました。

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