海外への支援活動-日本キリスト教海外医療協力会における海外の障がい者支援活動

「新ノーマライゼーション」2020年12月号

公益社団法人日本キリスト教海外医療協力会 事務局
小池宏美(こいけひろみ)

1.公益社団法人日本キリスト教海外医療協力会活動内容

公益社団法人日本キリスト教海外医療協力会(Japan Overseas Christian Medical Cooperative Service:JOCS)は、「医療を通じて、愛を世界へ。」のスローガンのもと、困難の中にある人々の健康といのちをまもり、人々と苦悩・喜びを分かち合うことを使命として保健医療協力を行っています。具体的には、海外への保健医療従事者の派遣、奨学金支給を通しての現地の保健医療人材育成、現地のニーズに沿って行う協働プロジェクトを実施しています。国や宗教の違いをこえて共に生きる働きを通じて、「平和を実現するもの」であり続けたい、と願っています。

2.バングラデシュでの活動

今回はその中の一つ、バングラデシュで行っている障がい分野の活動を紹介いたします。

バングラデシュの北部にあるマイメンシン県にある施設に、JOCSは理学療法士と看護師を派遣してきました。バングラデシュは、首都では急速に経済が発展する一方で、開発から取り残されていく地域や人々も少なくありません。とりわけ障がいのある人々は大変な困難の中を歩んでいます。

(1)理学療法士の派遣

2007年7月から2017年12月までマイメンシン県のPCC(Protibondhi Community Centre:障がい者コミュニティセンター)に理学療法士を派遣しました。PCCは、他のNGOが支援をしていない所で活動を展開しています。対象としているのは、弱い立場に置かれた人たちです。

派遣後に最初に働きかけたのは、理学療法の基本的な考え方の改善でした。当時、理学療法場面では、スタッフが泣き叫ぶ子どもを押さえつけて2人がかりで理学療法をしていました。その方法は子どもに負担をかけると伝えても、初めの頃はスタッフたちはそれを受容する気になりませんでした。皆をその気にさせて子どもの理学療法が変わるまで2年近くかかりました。

バングラデシュでは、資格を持つ理学療法士の数は2,000人くらいと言われています。理学療法を医療系専門教育課程に導入する検討がされていますが、まだ実現していません。

都市部では近年、有資格者によるセラピーが普及しつつありますが、マイメンシンのような地方では、まだ理学療法技術者(公的資格はないが、理学療法の基礎を学んだ者)に頼らざるをえません。こうした中で、JOCSから派遣した理学療法士が理学療法技術者の人材育成に大いに貢献しました。

初級理学療法研修を行い、研修を終了してからも継続して理学療法業務をしてきた人を対象に、中級コースも実施しました。PCCを含め、5団体で人材育成等の協力を行いました。現在はJOCSからPCCへの理学療法士派遣は終了しておりますが、育った現地スタッフたちが実力をつけ、活動を担っています。

(2)看護師の派遣 1993年7月~

1993年から、マイメンシン県にあるラルシュ・コミュニティに看護師を派遣しています。ラルシュとはフランス語で「方舟」を意味しています。知的な障がいのある人(コア・メンバー)と障がいのない人(アシスタント)が共に暮らす共同体です。現在、世界38か国に約150のラルシュがあります。

マイメンシンにあるラルシュ・コミュニティ(以下、ラルシュ・マイメンシン)は知的障がいの他、身体障がいや精神障がいを併せもつメンバーが多く、また異なる宗教の人々が共に暮らしているという点で、世界各国にあるラルシュの中でもユニークなものになっています。ラルシュ・マイメンシンには3つのグループホームがあり、コア・メンバーとアシスタントたちが暮らしています。

JOCSから派遣している看護師は、現在、ラルシュ・マイメンシンのコミュニティリーダーとして活動しています。ラルシュ・マイメンシンを地域に根付かせ、現地の人による運営を可能にするために次期コミュニティリーダーの育成と、支援の輪づくりをしています。内部での会計や意思決定等のマネジメントの強化、行政との関係づくり、法的文書の整備なども行いました。ラルシュ・マイメンシンの適切な法的地位の確立は、バングラデシュで税法上の優遇措置を受けたり、財産を保護するために必要なだけでなく、将来にわたるコア・メンバーの生活の安定のためにも重要なことです。

公的支援の受給についても働きかけを行い、2019年には、家族のいない障がいのあるメンバー全員の障がい者手帳を取得しました。これにより、1人当たり月約600円の手当を受給できるようになりました。

これからも、メンバーが自分たちの権利を守られながら安心して暮らしていくことができるよう、サポートを続けていきます。

3.バングラデシュ以外での障がい分野活動の広がり

2016年4月から5年間の計画で、ケニア キアンブ地方行政区のンデンデル地区にあるコイノニアミニストリーの「シロアムの園」への協力を始めました。1の活動内容に記した協働プロジェクトです。シロアムの園では、登録された身体・知的・精神・認知などの発達の問題を抱えた子どもたち(2020年2月時点で登録時数87名、うち40名が定期的に通所)に療育を行っています。JOCSは理学療法士等専門家の派遣や活動費の支援を通じてスタッフの育成、療育カリキュラムや教材づくり、子どもたちのアセスメントや記録、評価の改善に協力しています。

この新型コロナの時代にあって、海外への渡航が制限されております。短期専門家の派遣もできずにいます。一日も早く自由に活動できる日が来ることを祈っております。

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