デジタル化により視覚障害者も取り残されない社会の実現に期待

「新ノーマライゼーション」2021年5月号

社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 組織部長
三宅隆(みやけたかし)

デジタル化された機器やサービスは、私たちの生活の中に急速に入ってきており、その利便性や効率性の恩恵を受けている人も増えています。視覚障害者も例外ではなく、デジタル化の進展により、今まで課題となっていたことが解消され、生活が向上し社会参加が一層進んでいく可能性があることから、その恩恵を享受できることを大いに期待しているところです。

昨年より続くコロナ禍において、このデジタル化は一層進展している感があり、視覚障害者の社会参加にも影響を及ぼしています。

外出の自粛が促され、いわゆる3密を避ける「新しい生活様式」の中で、視覚障害者もオンライン会議ツールを活用したイベントへの参加や仲間同士の交流、各種会議への参加などを行っています。いろいろなオンライン会議ツールがありますが、各機能のショートカットキーがきちんと割り当てられていて、スクリーンリーダーとの併用でも使いやすいZoomが視覚障害者の中で多く利用されています。

確実に自分の声が届いているかを呼びかけることで確認したり、自分や周りの映像がどのように移っているかを教えてもらうことでカメラとの距離や位置合わせができるようになるなど、より便利に使うための工夫を模索し、その使い方を他の人と共有することで、視覚障害者も便利にオンライン会議ツールを活用できるようになってきています。また、このツールを活用することで会場に移動することなく参加できるため、移動に伴う困難を感じていた視覚障害者にとって受け入れやすいものとなっています。

視覚障害者の読書方法も多様化してきています。従来の紙による点字や拡大文字、カセットテープによる音声録音図書に加え、点字データやテキストデータ、DAISY形式による音声録音図書、アクセシブルなPDF、スクリーンリーダーで利用できる電子出版書籍等があります。特にスクリーンリーダーに対応するアクセシブルな電子出版書籍は、市販とほぼ同じタイミングで内容を知ることができるため、今後に期待が寄せられています。

図書館から点字や音声録音の図書を利用する方法も、今も多く利用されている、図書館に直接申し込み郵送貸し出しによる方法に加え、点字や音声録音の図書データが蓄積されている電子図書館(サピエ図書館や国立国会図書館視覚障害者等用データ送信サービスなど)に直接アクセスし、利用できるようになっています。

しかし、デジタル化の進展は、必ずしも視覚障害者に恩恵を与えているとは限りません。

行政手続き、レジでの支払い、飲食店での食券購入や注文、ロッカーなどはタッチパネルによる操作を必要とするものが増えていますが、視覚障害者が操作できるようにはなっていないものばかりが設置されているため、その利便性の恩恵を受けられず、取り残されている状況にあります。さらに、このようなアクセシブルになっていない端末のみが置かれた無人店舗も出てきており、デジタル化によるこのような状況が視覚障害者の生活を脅かすものとなってきています。

また、職場においても、デジタル化により、視覚障害者が取り残されている状況が散見されます。社内ネットワークや専用システムがスクリーンリーダーに対応していないことで、同じように職務を遂行できないといったことがあります。このような問題についてアドバイスできる人材も不足しており、職場における視覚障害者が働きやすい環境の整備と、環境整備に当たる人材の育成と派遣ができる仕組みを充実させるための公的な補助が必要不可欠だと考えます。

国は誰一人取り残さないデジタル社会を実現するべく、デジタル庁を設置します。今後は障害当事者を抜きにした議論で進めていくのではなく、同庁内に専門的に取り組む部署をICTに精通した障害当事者を採用することも含めて設置し、デジタル化により取り残されている視覚障害者がいなくなるよう、強く求めます。

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