デジタル改革への期待と課題

「新ノーマライゼーション」2021年5月号

兵庫頸髄損傷者連絡会
橘祐貴(たちばなゆうき)

はじめに

この数年で世の中のさまざまな場面でデジタル化が進められてきましたが、昨年からの新型コロナウイルスの流行をきっかけにその動きがさらに加速しています。この流れは私たちの生活にも大きな影響を及ぼしています。今回はこれからのデジタル改革へ私が期待していることや課題について、私の経験を交えて述べたいと思います。

移動の制約がなくなる

デジタル化の一番のメリットは、「どんな場所にいても集まることや作業することができる」ということです。今までは何かの会合に参加する時には、現地まで足を運ぶ必要がありました。私は生活全般で介助が必要なので、現地まで行くためには移動中や現地での介助者が必要となります。介助者との日程の調整や場所によっては交通機関の切符の手配等が必要でした。また天候にも影響されますし、季節によっては炎天下の中を移動せざるを得ず、体力的にしんどい時もありました。

ところが、昨年の春頃から新型コロナウイルスの影響がだんだん出始め、皆で集まることができなくなり、会合やセミナーもリモートでの開催が当たり前のようになりました。リモートならインターネット環境さえあればどんな場所からでも会合に参加することができます。また移動のための介助者を確保することも、移動にかかる時間も必要ありません。しんどい時でも自宅なのですぐに休むことができ、天候や体調面での制約はだいぶ解消されました。

介助なしでもできることが広がる

今までは、会合やセミナーで配られる資料は基本的に紙媒体でしたが、私は自分ではページをめくることができないので、常に誰かの手が必要でした。また、役所の申請書類なども紙なので誰かに代筆してもらう必要があり、書いてもらう内容によっては口頭で伝えることが難しい時もありました。最近はホームページ上で申請書類のフォーマットをダウンロードできることが多くなってきていて、PCを使って自分自身で書類を作成することができるので、誰かに書いてもらうストレスは減ってきました。ただ、書類の提出については多くがまだ郵送か役所へ持っていく必要があります。書類の提出についてもメール等でできるようになれば、もっと利便性が上がるのではと思います。

まだ解決していない課題も

デジタル化が進むことで便利になってきてはいますが、まだ解決していない課題も多くあります。例えば、障害があっても操作できる便利な機器やツールの存在を知らなかったり、持っていても使いこなすことができなければ意味がありません。自分の身体機能でも操作しやすい方法や操作環境の構築方法についてアドバイスしてくれる支援者の存在が大事になります。また、誰もが新しい機器のスキルを学べる環境整備をすることも必要です。

デジタル化が進んで介助なしでできることが増えても、姿勢を直すことや食事、トイレの介助等は人的サポートが必要です。現在は仕事等の経済活動で公的ヘルパーの利用は認められていませんが、仕事中でも日常的な介助は必要です。重度障害者が社会参加しやすくするためには制度の見直しが必要です。

さいごに

今はまだ課題はあるものの、世の中のデジタル化の動きはこれからさらに加速していくと思います。デジタルを活用することによって、誰もが活躍できるような社会になることを期待しています。

menu