盲ろう者におけるICT活用による社会参加と自立の可能性

「新ノーマライゼーション」2021年5月号

筑波技術大学総務課広報・情報化推進係
森敦史(もりあつし)

私は視覚障害と聴覚障害を併せ有する盲ろう者です。昨年筑波技術大学の大学院を修了し、現在は盲ろう児・者の教育や就労に関する研究活動と並行して、事務補佐員として、週3回大学に勤務しています。

盲ろう者は、見えない・聞こえない状態であるため、主にコミュニケーション・情報入手・移動の困難があります。すなわちテレビを見聞きすることもできなければ、周囲の人たちの何気ない会話を聞くこともできません。そうした中で近年はICTの普及によって、盲ろう者にとってもICTは情報入手やコミュニケーションの手段として、不可欠な存在となりつつあります。

私自身も職場のみならず、日常生活において、ICTの機器はなくてはならない存在となっています。私は墨字(普通文字)を読むことができないため、点字ディスプレイを利用して、ICTを駆使しています。一口に点字ディスプレイと言っても、パソコンと接続が可能なもの、スマートフォンと接続が可能なもの、さらには点字ディスプレイとパソコンの機能(アプリ)が一体化されたブレイルセンス(※1)等さまざまな種類が存在し、使用する機能(メール、インターネット、LINE、オンライン会議、チャット等)に応じて、機器を使い分けています。普段はブレイルセンスを持ち歩いていますが、盲ろう者向けの「スマホ」に相当し、外出先からもメールの送受信やインターネットの閲覧等が可能となっています。

このような状況の中で、これまで盲ろう者にとって困難であったニュース等の情報がリアルタイムで得られるようになったことは、インターネットの普及による成果であると考えています。また手話や点字を知らない人とも通訳者を介さずにメールやチャットを活用したコミュニケーションが可能になったことは、大きな成果であるといえます。特にSNSではさりげない「つぶやき」にも触れられるようになり、これまで通訳者がいなければ入ってくることのなかった情報も自然に得られるようになったことは、私にとっては健常者の世界に近づけたような状況であり、ある意味「社会参加」の一歩となったといえます。

職場でも新型コロナウイルス感染症拡大対策として、在宅勤務に移行した時期がありました。その間はメールやチャットシステムを利用し、同僚・上司とコミュニケーションを取りながら、必要な文書を作成する等、ICTを駆使した単独での作業を行っていました。そうしたICTを活用した在宅勤務は、障害者にとって移動やコミュニケーションへの負担の軽減になることから、今後、盲ろう者や障害者における就労枠の拡大が期待できます。

現在盲ろう者が使用する機器が非常に高価であるため(※2)、実際にICTを活用する盲ろう者は少ないと思われます。しかしながら、これまで通訳者あるいは点訳された資料を介してしかできなかった情報入手やコミュニケーション、さらには移動に必要な支援(乗り換え案内、位置情報の提供等)が、ICTの活用によって可能になったことにより、教育や就労、さらには余暇活動等への参加の機会の拡大が期待できるようになりました。

今後は多くの盲ろう者がICTを活用できるよう、福祉・教育・行政・機器の開発・研究等の機関に働きかけるとともに、盲ろう者におけるICT活用に向けた支援体制の構築などに取り組みたいと思っています。


※1 ブレイルセンスシリーズは韓国製であり、日本では有限会社EXTRAがブレイルセンスシリーズの日本語版を発売している。
参考URL:http://www.extra.co.jp

※2 上記の機器のうち「ブレイルセンスシリーズ」の場合、約39万円~60万円となっている。

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