自治体における障害者手帳所持者全数調査の結果 ~次期生活のしづらさなどに関する調査のプレ調査として~

長野保健医療大学 北村弥生

はじめに

本稿では、令和4年12月に実施が予定されている次期「生活のしづらさなどに関する調査(厚生労働省)」(以下、次期調査)における調査票案を提案するために実施したプレ調査の結果の一部を紹介します。「生活のしづらさなどに関する調査」は平成23年に設計され、5年毎に実施されています。調査票には、全国在宅身体障害児者実態調査(昭和26年開始)と全国在宅知的障害児者基礎調査(昭和34年開始)の設問を中心に利用しました。身体障害および知的障害の他に、精神障害、当時の民主党のマニフェスト(平成22年)でいう「制度の谷間」にある障害(例えば、発達障害、高次脳機能障害、難病、難病指定されていないが相当する症状の疾患)を対象として、生活実態とニーズについて把握することが調査の目的とされました。障害者手帳所持者だけが対象でないことを示すために「生活のしづらさ」という言葉を調査名として使用しました。

「障害福祉データの利活用に関する研究」(厚生労働科学研究、研究代表者:岩谷力)班(以下、H26-28岩谷班)では、H23調査のデータを分析し、平成28年「生活のしづらさなどに関する調査」(以下、H28調査)に対して修正案15項目を提案し、時間をかけた吟味を必要とする3項目(自由記述、原因疾患、何によって実態を測るか)を指摘しました。この修正案15項目はH28調査の調査票に反映され、そのうち6項目では修正目的の一部を達成したことが報告されました。本調査は、残された課題を解決し、次期調査に資するために「現状の障害認定基準の課題の整理ならびに次期全国在宅障害児・者等実態調査の検討のための 調査研究(研究代表者:飛松好子)」1)により実施されました。

2.調査方法

長野県飯山市(人口約2万人)において、障害者手帳所持者1,221名(身体867名、療育154名、精神200名)を対象に、令和2年11月に郵送法でプレ調査を実施しました。飯山市は長野県北東部に位置し全国有数の豪雪地帯にあって北陸新幹線の停車駅があります。H23およびH28調査と同じ方法をとらなかったのはCOVID-19の流行により調査員による訪問は不適切と考えられたためです。対象は障害者手帳所持者に限定しました。

プレ調査の調査票は、H28調査の調査票、平成18年全国在宅身体障害児者実態調査の調査票、平成17年全国在宅知的障害児者基礎調査の調査票、「自治体の障害福祉計画に関するPDCA調査案(厚労省)(以下、PDCA調査案)」を参考にして、選択肢の変更および設問の追加をしました。回答は589名(48.2%:身体407名、療育75名、精神80名、重複19名、不明8名)から得て、3障害別に集計しました2)。

3.結果

①ワシントングループの指標

ワシントングループの指標は障害発生率を国際比較する指標として開発され、国内でも国民生活基礎調査で採用されることが決まりました。H23調査では対象者を選別する指標として短い質問群(以下、WG-SS)が利用され、H28調査では調査項目にも採用されましたが、選択肢の数が原型の4択が2択になり、結果も公表されませんでした。そこで、プレ調査では、WG-SS6項目と「不安」「憂うつ」の頻度と程度の合計10項目を原型通りに使用して、高い回答率と妥当な結果を得るかを調査しました。

WG-SS6項目と「不安」「憂うつ」の頻度の回答率は81.3~94.6%であったことから、答えにくい質問ではなかったと考えられました。しかし、WG-SS6項目のどれかで「全くできない」または「とても苦労する」を選択した比率は、多い順に、重複障害者で57.9%、3障害の全体で44.8%、身体障害者手帳のみの所持者で43.7%、身体障害者手帳(内部障害のみ)で27.1%、精神保健福祉手帳のみで22.5%、療育手帳のみで13.3%でした。

WG-SS6項目のどれかで「全くできない」または「とても苦労する」を選択した比率に、「不安」と「憂うつ」の頻度2項目で「毎日」または「週に1回程度」を選択した比率は、重複障害で78.9%、3障害全体で66.5%、精神保健福祉手帳のみの所持者で57.5%、療育手帳のみの所持者で28.0%に上昇しました(表1)。以上の結果から、次期調査の設問として、WG-SS6項目に上肢2項目、不安2項目、憂うつ2項目を追加したWG-SS Enhancedを使用することを提案しました。第21回ワシントングループ会議(2021.11.8~10)で紹介された調査結果も、多くはWG-SS Enhanced(WG-SS拡張版)を使っていました。

注目されたのは、障害者手帳の等級とWG-SSの程度とが対応しない場合があったことでした1)。次期調査で対象数を増やして確認することが望まれます。

②自由記述の様式

H23調査から自由記述の記載欄は1ページ大に拡大され、回答者の3割以上が記入しました。しかし、内容を分類して集計されることはありませんでした。これに対して、H18調査では、短い自由記述欄の直前に「必要と感じる福祉サービス」を18個の選択肢から5個まで選ぶ設問がありました。プレ調査では、H23調査とH28調査の自由記述の分類を参考にして、24個の選択肢から6個まで「必要と感じている支援」を選ぶ様式を採用しました。さらに、「必要な支援についての意見・要望を具体的に記入する欄」と「調査の方法や内容の改善についての意見・要望を記入する欄」を3行ずつ追加しました。

「必要な支援」として多く選ばれた選択肢は、順に、「経済的援助の充実」44.1%、「医療費の負担軽減」29.0%、「災害時の情報提供、通信体制、避難誘導対策の充実」19.5%で、障害種別による差と性別による差が示されました(表1)。

表1 必要な支援:障害種別の比較

③災害に関する設問

PDCA調査案のうち災害に関する4問をプレ調査では使用しました。4問は「火事や地震・水害等の災害時に一人で避難できますか」、「家族が不在の場合や一人暮らしの場合、火事や地震・水害等の災害時に近所にあなた(障害者手帳所持者)を助けてくれる人はいますか」、「今まで火事や地震・水害等の災害にあったことはありますか」、「災害時に困ったこと(困ると思われること)は何ですか」でした。「困ったこと」については、PDCA調査案の選択肢10個に加えて、先行研究から指摘されている災害時に障害者が出会う困難事象4個「地域の災害リスクの情報(防災マップなど)が入手できない」「復旧に関する情報が入手できない」「家の片付けなどができない」「通常と異なる状況で、買い物などの物資の入手ができない」を追加しました。

その結果、被災経験有群では被災経験無群に比べて平時・災害発生時・復旧時の3つに時期において「情報入手に困った」の回答率が有意に低いことが示されました(表2)。また、災害時の困難は等級にあまり関係しないことが示されました(表3)。
次期調査では、災害への準備に関する調査項目を追加し、障害者の災害準備の進捗を明らかにすることを提案しました。個別避難計画作成の進捗状況を災害準備の実態から示すことができると考えるためです。

表2 災害経験と災害時の困難

表3 避難行動要支援者名簿登載の有無(障害認定の等級)と災害時の困難

④ その他

次期調査の調査票については、WG-SS 拡張版の採用、自由記述の様式の変更、災害準備の設問の追加についての上記の提案の他に、以下の提案をしました。

身体障害の中では、視覚障害、聴覚障害、上肢障害、下肢障害、内部障害の別に集計する。

  • 一部の設問については、性別で集計する。
  • 心身の具合が悪い場合の症状と原因疾患についての設問は割愛する。選択肢のレベルが多様で結果の用途が不明だったことが理由です。
  • 支出に関する設問は割愛する。回答率に改善が見られないことが理由です。
  • 余暇活動・スポーツ活動に関する設問は、他の調査で代替できるかを吟味して令和9年調査に向けて検討する。
  • 権利擁護(差別・偏見)に関する設問は、令和9年調査に向けて検討する。
  • 実態を何によって測り、施策にどのように反映させるかの議論を開始する。
  • 調査方法と集計方法についての丁寧な議論を開始する。

文献

1)令和2年度「障害認定基準および障害福祉データの今後のあり方に関する研究(研究代表者:飛松好子)」統括・分担報告書. 2021-03.(厚生労働科研成果データベース)
2)岩谷力ら. 飯山市における障害者手帳所持者の実態. 長野保健医療大学紀要(印刷中).

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