リハ協カフェ 第24回RI世界会議広告

目白大学 保健医療学部作業療法学科 助教 廣瀬里穂

2021年12月24日(金)開催の第9回「リハ協カフェ」に発表者として参加しました。第24回Rehabilitation International世界会議(2021年9月7日~9日)がデンマーク現地とオンラインのハイブリットで開催され、そこで報告した内容を発表させて頂く機会を得ました。

筆者は「生活環境を多職種で共有した自宅復帰の支援~急性期病院でクライアントの活動と環境に焦点をあてて~」を発表しました。RI世界会議では、事例から作業療法士が多職種連携に求められている役割を中心に発表しましたが、リハ協カフェでは筆者所属の大学におけるチーム医療の実践と臨床実習後の学生の多職種連携の認識に関する調査を加えて発表させていただきました。

1.はじめに

急性期病院では、治療と並行しながらリハビリテーションを提供します。この急性期で治療を受けたクライアントの多くは回復期リハビリテーション病院を経由して自宅に復帰します。しかし、高齢者は入院期間が長くなるほど認知機能が低下し、自宅復帰の阻害因子になると報告されています(相川ら,2012)。急性期病院では、医療スタッフ、クライアント本人と家族により入院リハビリテーションの継続を検討し、急性期病院から直接自宅復帰される方も多くみられます。その他、生活環境に対する支援が重要であることが報告(磯ら,2015)されており、入院直後から自宅復帰に向けた支援を開始することが大切です。そのため、急性期病院の作業療法士は疾患や障害の回復だけではなく、クライアントの自宅復帰後、つまり自宅という生活の場を想定して支援をします。作業療法士はクライアント一人一人が望む生活ができるように,多職種と連携をとりながら自宅復帰後に必要なサービスに選定や、自宅生活に適切な環境の整備を支援します。

2.事例

急性期病院に入院したクライアントに、入院早期より自宅復帰後の生活に焦点を当てた作業療法を行い、多職種連携による自宅退院に向けた支援を経て、自宅退院後の生活を円滑に再開することが出来た事例について報告しました。

事例は80代男性で、ラクナ梗塞、右不全麻痺にて入院しました。このクライアントのカンファレンスには多職種として、医師、メディカルソーシャルワーカー(以下MSW)、理学療法士、ケアマネージャー(以下ケアマネ)が参加しました。クライアントは麻痺の程度から回復期リハ病院へ転院が推奨されましたが、認知症の妻が自宅に一人でいること、また既往症の服薬に対応できる転院先が遠方の病院になってしまうことが問題でした。作業療法士は本人が必要とする生活行為を支援するために、クライアントの望む生活と自宅環境に関する情報収集を行い、運動および精神認知機能のアセスメントおよび練習を行い、その情報を多職種で共有しました。身体症状が改善に伴いクライアントの意思が「自宅退院し、妻の代わりに家事と買い物ができる」「趣味の囲碁へ行く」と明確になり、カンファレンスで退院先の再検討を行い、自宅退院を視野に入れて支援することになりました。また、作業療法士はMSW、ケアマネとともに自宅の家屋調査に出かけ、必要とされる生活動作と環境、自宅退院後に使用できる介護・医療サービスの確認を行いました。多職種と情報を共有、連携して支援することにより、チームがクライエントの意向に沿った適切な支援が可能となり、急性期病院から早期の自宅退院が実現できたと考えます。

図

3.チーム医療

細田(細田,2021)はチーム医療の4つの要素に「専門性志向」「患者志向」「職種構成志向」「協働志向」をあげています。現在この要素を意識した支援がどのくらい行われているでしょうか。看護師はリハビリテーション職から情報収集を行わないといった報告(新藤ら,2020)もあり、4つの要素の中でも「協働志向」の意識が乏しいように感じられます。この4つの要素が対立するとチーム医療はうまくいかないでしょう。私たち作業療法士は、そのクライアントの意思を聞き、必要な情報を得て、人と環境を支援します。得た情報を多職種と共有することで、より適切な支援を行うことができると考えます。

多くの作業療法士はクライアントと共有した目標に対してアプローチを行う「患者志向」です。しかし、病院に在籍する作業療法士の多くが提供している治療プログラムには関節可動域練習、筋力強化、日常生活生活動作練習があげられ、作業療法士自身が機能的アプローチを専門性として認識している可能性があります。作業療法士の「専門性志向」はクライアント固有の作業は何かに焦点化すること、生活を中心に考えて必要な能力を評価し、その情報をチームと共有することが大切な役割と考えます。その役割を担えるために、作業療法士の養成教育が大切です。

4.チーム医療に向けた養成校の取り組み

医療系養成校では、専門職種間教育(Inter-professional education:IPE)が重視されており、教育の特色として打ち出されている養成校もみられています。筆者所属の大学においても、「チーム医療演習」という科目が3年次に配当され、理学療法・作業療法・言語聴覚療法学科合同での問題解決型授業(Problem based Larning:PBL)症例検討グループワークが実施されています。また、医師、看護師を含め、各職種を理解するための講義が行われています。それぞれの専門領域で用いられる評価方法や治療について、お互いに質疑応答を繰り返しながら他職種への理解を深め、症例の目標と治療方針、プログラムの立案を行い、教員がフィードバックを行います。今後は、学生が臨床現場でどのように多職種連携を学んでいるのかを検討することが必要であると考えます。

5.臨床実習を経験した学生の多職種連携の認識

作業療法学生が臨床実習で使用したクリニカルクラークシップチェックリストを用いて多職種連携に関する経験を調査したところ、多くの学生は多職種連携をカンファレンスなどのフォーマルなものと認識していました。また学生の臨床実習における多職種との連携は、ほとんど理学療法士、言語聴覚士との関わりのみでした。また、長期的な生活プランを検討するという項目は、見学すら出来ていませんでした。

病院・施設等における多職種の情報共有は日々様々な場面でインフォーマルに行われています。学生は臨床教育者が会話している相手の職種を認識しておらず、日々の業務の中で他職種との連携場面を見逃していると推察されます。多職種連携の経験を増やすためにも、学生と臨床教育者のどちらもインフォーマルな連携場面に対する認識を変えていくことが必要と考えています。

今後は、養成教育の中で学生に多職種連携の視点から作業療法士の役割を考える機会を作りたいと考えています。また、臨床にいる作業療法士は多職種と連携し、患者の望む生活の実現に応えていく必要があると考えます。

6.まとめ

作業療法士の多職種連携での役割は、心身および生活状況を把握してアセスメントした結果を、フォーマル、インフォーマルな機会を利用して他職種と情報共有し、支援していくことが重要と考えます。その活動は院内だけではなく、地域においても作業療法士としての広い視野を活かして、クライアントの生活を支援していくことが大切であると思います。

このような貴重な発表の機会を頂き、心より感謝申し上げます。依然としてCOVID-19の影響がありますが、国際カンファレンスが開催できること、また海外の医療職や研究者と交流できる機会があること願っております。

引用文献
相川みつ江, 他. 一般病院に入院中の高齢患者における生活機能の変化に影響する要因. 老年看護学, 16巻2号, 2012, p.47-56
磯ふみ子,他. 大学病院における急性期脳梗塞患者の退院先に関連する因子検討. 日本作業療法研究学会雑誌, 18巻1号, 2015, p.59-64
細田満和子. 「チーム医療」とは何か:患者・利用者本位のアプローチに向けて. 第2版, 日本看護協会出版会, 2021, 267p. 9784818023611
新藤裕治, 他. 急性期病院における看護師とセラピストとの脳卒中患者に関する情報共有への課題. 山梨県立大学看護学部・看護学研究科研究ジャーナル, 6巻1号, 2020, p63-70.

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