認定NPO法人さわおとの森 地域拠点センターふきのとう センター長
佐野篤(さのあつし)
私たちの地域は、宮城県仙台市の東側に隣接する2市3町(塩竈市・多賀城市・松島町・七ヶ浜町・利府町)です。当地域では共同で「宮城東部地域自立支援協議会」(以下、協議会)を設置し、一つの障害福祉圏域として、課題を共有しながら地域づくりを推進してきました。地域の総人口は約18万人です。
厚生労働省からの「地域生活支援拠点等事業の整備」に関する発信を受け、協議会が主催し、平成27年に研修会を開催しました。この研修会を通じ、厚生労働省がすべての地域で整えるよう掲げる「5つの機能」(1.相談、2.緊急時の対応、3.体験の機会・場、4.専門的人材の確保・養成、5.地域の体制づくり)のすべてを十分に整えていくことは並大抵ではないと恐れも抱きましたが、同時に「地域の強みを生かしてできることから取り組む」という視点もいただきました。まず走り出し、その後も少しずつ機能を強化していく考え方で整備に向けた取り組みを始めました。
整備にあたっては、協議会に「地域生活支援拠点等整備プロジェクト」(以下、プロジェクト)を設置し、圏域を構成する各市町の障害福祉担当者、多種多数の障害福祉サービス事業所、当事者家族、精神科医療機関、相談支援機関が参画しました。
障害者自立支援法施行以後、当圏域にも多くの事業所が参入し、身近な地域で必要なサービスを利用できる状況は整いつつありましたが、協議に参画した当事者家族からは、「家族に緊急事態が起こった時に当事者を預けられるところがない」との訴えがありました。この声を受けとめ、地域の短期入所事業所を活用した「緊急受け入れ」の仕組みづくりを中心に、本事業整備への協議を進めました。
表1 宮城東部地域における「緊急短期入所」のデザイン
(拡大図・テキスト)
図1 宮城東部地域における拠点等事業のイメージ
(拡大図・テキスト)
「緊急」という言葉が示す内容が、個別の感覚によっても大きく異なることに着目し、まずは本事業における「緊急事態」を定義するために話し合いを重ね、「急病・急用等のやむを得ない事情により通常の在宅生活が支えられなくなること」と申し合わせました。また、医療による対応が必要な方は地域の短期入所事業所で対応できないことから、受け入れ対象としないことを確認しました。
さまざまな状況を想定し、曜日や時間帯に応じた相談開始から受け入れまでのプロセスをデザインしました。
短期入所事業所で安心かつ安全に受け入れを行う上で当事者の詳細なアセスメント情報は欠かせないことから、原則を登録制として、登録時にアセスメント情報を取得することとしました。ただし、未登録の方であっても、関係機関が協力して詳細なアセスメント情報を受け入れ事業所に提供することを条件に受け入れの対象としました。
先述したとおり、私たちの取り組みは完成されたわけではなく、「安心して暮らすことができる地域」の実現に向けて、解決すべきたくさんの課題があります。例えば、当圏域に「医療型短期入所」は無いため、医療的ケアが必要な方を緊急短期入所の対象にはできていません。緊急受け入れできる人数も確保できている枠はミニマムで、対応できなかった事例もすでに発生していることから、複数の短期入所事業所と協定を結び、緊急時における選択肢を拡大する取り組みを協議中です。
また、現状「5つの機能」それぞれは発展途上にあります。一つ一つの機能を強化することも必要です。
どなたであれちょっとしたアクシデントが突然緊急事態へと発展する可能性があります。理想はすべての方についてさまざまな緊急リスクが想定され、その時に慌てなくて済む手立てが講じられていることでしょう。その実現のためには、緊急時のあらゆるリスクを想定して当事者家族と話し合い、日常の生活の中で備えを講じていくことだと、この事業に関わる中で強く感じています。そのためには「相談支援の充実がカギである」といえるでしょう。
令和2年度末、同時に2名の方の緊急要請がありましたが、短期入所の空き状況から1名のみを受け入れ、1名は行政機関の職員が付き添い、対応しました。この経験から、委託先の短期入所が埋まった場合の受け皿について予め協定等を締結し、緊急利用の相談に応じていただける事業所を確保すべく、協議を始めています。
厚生労働省の掲げる「地域共生社会」の実現への道のりを考えた時、地域生活支援拠点等の整備は重要なファクターであり、必要なステップであるといえるでしょう。大きな目標を見据えて、今後も「機能強化」への取り組みを推進していかなくてはなりません。