社会リハビリテーションと社会生活力プログラム

日本リハビリテーション連携科学学会・社会リハビリテーション研究会顧問
元筑波大学大学院教授 奥野 英子

2020年10月30日に開催された第2回「リハ協カフェ」において、「社会リハビリテーションと社会生活力プログラム」について、話をさせていただきました。

当日の話の柱立ては以下の通りでした。

  1. リハビリテーション
  2. 社会リハビリテーションの発展の経過
  3. 社会リハビリテーション
  4. 社会生活力
  5. 社会リハビリテーションの実施主体
  6. 社会リハビリテーションの支援方法
  7. 社会リハビリテーションのプログラム
  8. 社会生活力プログラムの開発と主な実践状況
  9. 社会生活力プログラムの基本理念
  10. 社会生活力プログラムの実施方法
  11. 具体的な実施方法 
  12. 『障害のある人のための社会生活力プログラム・マニュアル:自分らしく生きるために』の構成
  13. 「障害者総合支援法」における社会リハビリテーション

本稿では、上記の項目から全体的な概要をまとめさせていただきます。

リハビリテーションには様々な定義がありますが、国連が1982年に発表した「障害者世界行動計画」において、次のように定義されました。

「リハビリテーションとは、身体的、精神的、かつまた社会的に最も適した機能水準の達成を可能とすることによって、各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していくことを目指し、かつ、時間を限定したプロセスである。」

この定義が意味する「リハビリテーション」のポイントは、以下の通りです。

①自分の人生を実現するための手段である。
②どのような人生を実現したいかは自分で決める。
③時間を限定して行う。

リハビリテーションは、①医学的リハビリテーション、②教育リハビリテーション、③職業リハビリテーション、④社会リハビリテーション、⑤リハビリテーション工学の5つの分野から構成されています。

社会リハビリテーションについて、国際リハビリテーション協会(RI)は1986年に以下のような定義を採択しました。

「社会リハビリテーションとは、社会生活力(social functioning ability,SFA)を身につけることを目的としたプロセスである。社会生活力とは、さまざまな社会的な状況の中で、自分のニーズを満たし、最も豊かな社会参加を実現する権利を行使する力を(ちから)を意味する。」
社会リハビリテーションは、障害のある方々が活用できる諸サービスを自ら活用して社会参加し、自らの人生を自立的、主体的に、楽しく生きていくために、権利を行使する力である「社会生活力」を高めることをめざす援助技術の体系と方法です。「社会生活力」を身につけるためのプログラムを実施するとともに、ソーシャルワーカーは福祉サービスの活用、対象者と環境との調整、サービス間の調整等も行います。

「社会生活力」は社会リハビリテーションのキーワードであり、「権利を行使する力」であると定義されていますが、わかりやすくするために、その構成要素を奥野は以下のようにまとめています。

社会生活力とは
① 自分の障害を正しく理解する。
② リハビリテーションサービスにより、できることを増やす(自立度を高める。)
③ 様々なサービスを権利として活用する。
④ 足りないサービスの整備・拡充や社会的障壁をなくすことを訴える。
⑤ ボランティアなどの支援(サポート)を依頼できる。
⑥ 地域や職場の人たちとよい人間関係を築ける。
⑦ 主体的、自立的に、楽しく充実した生活ができる。
⑧ 障害について、周りの人たちの理解を高める。

社会リハビリテーションの主体者は、「障害のある本人自身」です。また、本人の一番身近にいて本人の生き方等に大きな影響をおよぼす家族、そして、様々な専門職であるソーシャルワーカー(社会福祉士、精神保健福祉士等)、心理士(臨床心理士、認定心理師、カウンセラー等)などの専門職がいます。

「社会生活力プログラム」は、1999年以来、①身体障害、②知的障害、③精神障害等、障害別に3つのプログラムを開発・発行し、全国の障害者更生施設等で実施されてきました。これらの統合版として2020年3月に、肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、知的障害、発達障害、高次脳機能障害、精神障害、言語障害、内部障害、難病、「生きづらさ」を抱える方々も対象とするプログラムとして、『障害のある人のための社会生活力プログラム・マニュアル:自分らしく生きるために』(中央法規、2020年)が発行されました。

『障害のある人のための社会生活力プログラム・マニュアル:自分らしく生きるために』における社会生活力プログラムは5分野24モジュールで構成されています。その構成は以下の通りです。

社会生活力プログラム・マニュアルの構成
〇5つの部と24のモジュールで構成
第1部 生活の基礎を作る
 1.健康管理 2.食生活 3.セルフケア 4.生活リズム 5.安全・危機管理
第2部 自分の生活を作る
 6.金銭管理 7.すまい 8.掃除・整理 9.買い物 10.服装
第3部 自分と障害を理解する
 11.自分の理解 12.障害の理解 13.人間関係 14.コミュニケーション
第4部 地域生活を充実する
 15.教育と学習 16.就労生活 17.恋愛・結婚・子育て 18.外出・余暇活動 19.地域生活・社会参加
第5部 自分の権利を生かす
 20.社会保障制度 21.障害福祉制度・サービス 22.介護保険制度・サービス 23.支援の活用 24.権利の行使と擁護

社会生活力プログラムの実施方法は、①グループ討議、②グループ学習、③演習、④体験学習、⑤ロールプレイ、⑥モデリング、⑦アセスメントであり、実施するときの対象人数は、1対1や数人の少人数から、10名から15名程度のグループでも実施が可能です。最も効果が大きいのは6名から8名程度の人数です。このようなグループで実施することにより、お互いに意見の交換ができ、お互いの経験を分かち合えるというメリットがあります。また、グループで学ぶことにより、社会性の向上も期待されます。

本プログラムにおいてはプログラムを実施する側を「ファシリテーター」といい、プログラムに参加する人を「参加者」といいます。本プログラムは参加者の主体性・自立性・選択性を尊重し、また、それらを引き出すことを大切にしていますので、「訓練」とか「指導」という用語をできるだけ使用しないようにしています。

ファシリテーターは、具体的には、「障害者総合支援法」における様々な事業の職員のほか、地域生活支援事業等において相談支援を担当している職員や当事者相談員などを想定しています。障害関係団体や障害当事者団体などにおいても、本マニュアルを活用することにより、社会生活力を高める支援を実施することができます。

本プログラムを実施するときには、特別な部屋を必要としません。参加者が入って座れるスペースがあれば実施可能であり、そこに机・いすやホワイトボードなど、最低限必要な機材が置ければ十分です。特別支援学校などにおいて、高等部卒業後の社会生活準備プログラムとしての活用も効果的です。

「障害者総合支援法」における社会リハビリテーションは、自立支援給付における訓練等給付にある自立訓練(機能訓練・生活訓練)などにおいて実施できます。

障害者総合支援法の給付・事業

まとめ

社会リハビリテーションの目的である「社会生活力」を高めるプログラムは、様々な障害や生きづらさをもって地域で生活していく方々の自主性、自立性を高め、楽しく、充実した生活を実現するために有効なプログラムです。プログラムを実施する方法を伝達する研修会をこれまで、筑波大学東京キャンパスにて開催してきました。しかし、現在はコロナ禍のため開催できませんが、今後、研修会を開催できたときには沢山の方々に参加していただきたいと思っています。

参考文献

  1. 奥野英子『社会リハビリテーションの理論と実際』誠信書房、2007
  2. 奥野英子監修『DVD見て学ぶ社会生活力プログラム:効果的に進めるためのノウハウ』中央法規、2012
  3. 奥野英子編著『障害のある人のための社会生活力プログラム・マニュアル:自分らしく生きるために』中央法規、2020
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