CBRマトリックスの解説(CBRガイドラインより)

CBRマトリックスは、CBRガイドライン(2010,WHO,ILO他)作成の過程で作られました。横に大項目(コンポーネント)があり、それぞれの下に5つづつ小項目(エレメント)があり、それらについてCBRガイドラインに基づいて簡単に解説します。

1.保健

健康は、個人的、経済的、社会的、環境的要素の影響を受ける。インクルーシブヘルスでは、障害の

ある人や障害当事者団体がヘルス ケアやリハビリテーションサービスの計画や強化の積極的参加者となることが必要。CBRは障害のある人のためのヘルスケアの利用を促進することができる。地域社会のプライマリーヘルスケアと共に活動し、障害のある人とヘルスケアシステムの必要な結び付きを提供することができる

健康増進

・内容例:健康増進キャンペーン、市民向け健康増進講習会・セミナー、健康増進のための自助グループの結成と活動促進、保健関連職向けの啓発、すべての市民に理解しやすい医療情報提供

原因の予防

・1次予防(健康悪化の回避)、2次予防(早期発見・早期介入)、3次予防(リハビリテーション)があるが、CBRマトリックスでは1次予防を指す。

・内容例:行政や民間団体が実施する既存の予防プログラムへの参加促進、健康的な生活習慣の促進、予防接種の奨励、適切な栄養の確保、母子保健の促進、衛生的な生活の促進、家庭・地域・学校・職場での予防活動、二次的障害予防

医療

・内容例:医療関連情報の収集・提供、早期発見・早期受診の促進、慢性疾患での自己管理の促進、医療専門職を対象とする啓発・連携強化

リハビリテーション

・ここではハビリテーションも含まれる。

・内容例:リハビリテーションニーズの把握、専門的リハサービスの利用促進、自助グループなどの地域内の資源を通したリハの促進、リハに関する資料・教材の作成、リハ専門職を対象とする啓発・連携強化。

支援機器

・障害のある人たちが適切な福祉機器・補装具を手に入れるための活動

・内容例:本人・家族・NPO職員などへの福祉機器・補装具に関する情報提供、福祉機器・補装具の利用促進、家庭・地域・学校・職場におけるバリアの確認と解消

2.教育

貧困、排除、差別はインクルーシブ教育の主要な障壁である。低所得国では、障害のある子どもの90%以上は学校に通っていない(2010,CBRガイドライン)。

CBRの役割はあらゆるレベルで教育がインクルーシブになるように教育部門と協働することであり、障害のある人が教育や 生涯学習を受けられるように推進することである。

保育と幼児教育

・誕生後から小学校義務教育開始までの期間の保育・幼児教育

・内容例:保育・幼児教育のニーズ把握、家庭での早期教育支援、遊びグループや子ども会など地域での早期教育支援、インクルーシブな保育園・幼稚園の推進、医療やリハなど専門職の利用促進、年齢を超えた交流の促進、啓発や研修の提供、子どもの貧困への取組み、行政への働きかけ、防災や犯罪被害予防の取組み

小学校教育

・内容例:地域住民の小学校運営への参加促進、小学校教育への家族の参加促進、バリアフリーで地域に開かれた学校環境の推進、学習環境整備、地域資源の小学校教育への活用、子どもの貧困への取組み、ネットワーク形成・アドボカシー活動・情報共有

中等教育と高等教育

・内容例:中学校・高校・大学などの運営への地域住民の参加、家族への啓発や情報提供、インクルーシブな学習環境の推進、教育分野以外の専門職の活用促進、進学時の移行支援、

ノンフォーマル教育

・「ノンフォーマル教育」とは公的な学校システム(=「フォーマル教育」)外の教育を指す(例:ブラジル人コミュニティが独自に運営する、国内法では学校と認められていない学校など)。家庭や地域などのインフォーマルな人間関係の中での教育を指す「インフォーマル教育」とも区別する。

・内容例:既存のノンフォーマル教育プログラムのインクルーシブ化、ノンフォーマル教育におけるカリキュラムの適切化、在宅学習の支援、特別な学習グループの支援、フォーマル教育との連携促進

生涯学習

・内容例:学校から職業訓練・職場への移行支援、成人識字教育の機会確保、卒後教育・成人教育の機会確保、特別なニーズを持った人々の学習の促進、生活や生存のための技能習得の機会確保、地域の教育者との連携

3.生計

生計部門も他の部門と大変強いつながりがある。CBRにおける生計部門を発展させることと、保健、教育サ ービス、社会の機会へのアクセスを促進することはつながっている。

主要概念は、仕事、ディーセントワーク(ILOによると、働き甲斐のある人間らしい仕事のこと)、物理的環境、合理的配慮、個人の選択と地域の状況、フォーマルとインフォーマル経済、農村と都市、排除の費用、生涯学習、家族とコミュニティの焦点を当てること、やる気と役割モデル。

CBRの役割は、障害のある人やその家族が、技能を獲得し、生計の機会、地域生活への参加を髙め、自己実現をする権利 を促進することである。

スキル開発

・内容例:読み書き計算・問題解決等の基礎スキル、技術的・専門的スキル、ビジネススキル、生活スキル。

核は生活スキルで、障害のない人にも共通する。内容例は、社会で働くのに必要な態度、知識、個性。個人のやる気、仕事への適応、社会で活動するための態度・知識・対人スキルを含む。

所得創出(自営を含む)  

・途上国では公的でなく、インフォーマルな方法で生計を立てるのが圧倒的に多い。貧しい人は自営も難しい。

・内容例:個人かグループによる経済活動。中小企業、自助グループとグループ企業。携帯貸し、手作りの衣料・家具、マッサージなどのサービス業、日雇等を含む。

賃金雇用

・内容例:一般雇用。援助付き雇用。グループによる一般雇用の環境で仕事(清掃、庭の手入れ等)。保護雇用。

金融サービス

・内容例:貯蓄。貸付。補助金。保険。送金サービス(銀行を経由しないインフォーマルなサービス)。

・貧しいコミュニティではインフォーマルな金融支援が特徴(家族、宗教、隣人、友人、自助グループ)。 

・よりフォーマルになると、協同組合、村立銀行等がある。

社会保護

・内容例:高所得国では年金等の社会保障、健康保険、労災等。低所得国では社会保障は不十分でコミュニティを基盤とするインフォーマルな経済の中で必死に暮らす。補助具や装具は手が届かない。貧しい地域ではインフォーマルな社会保障に頼るのは障害のない人も同じ。食べ物と水・トイレの供給、住宅(シェルター)供給とアクセシビリティの保障も含まれる。

用語 (CBRガイドラインより)

*フォーマル経済:政府が規制する公共または民間での雇用。雇用契約を結び、年金や健康保険に加入。

インフォーマル経済:国の規制外。小規模農業、小規模経営のビジネス、在宅事業、零細企業、その他類似の活動。低所得国ではインフォーマル経済の労働人口が大多数。

4.社会

社会生活への参加の促進とそれに必要な支援。子どもから大人まで、障害のある女性と少女を含む。

主要概念は、社会的役割、社会参加への障壁、男女の平等、障害のある子どもであり、社会生活への参加は個々人の人間的成長にとって重要である。社会活動への参加の機会は、その人のアイデ ンティティや自尊心、生活の質、そして社会的ステータスに大きな影響を与える。しかし、障害のある人は社会 の中で様々な障壁に直面しており、社会参加の機会自体が少ない。

CBRの役割は、全ての関係者が協働して、家庭や地域といった社会生活への障害のある人の完全参加を保証することである。

パーソナル・アシスタント

・内容例:セルフケアの介助を含めた、個人的なニーズへの支援。

・主要概念:施設ケアと自立生活(障害のある人が自己選択と自己管理による生活を送ること)、介助の課題、個別性への理解、管理の重要性、支援の選択肢。コミュニケーションと自己表現の技術習得は重要。様々な環境での多様なニーズへの支援。(家庭、学校、職場、地域、緊急時等)。

・世界のほとんどの地域では介助はインフォーマル(家族、隣人、友人、ボランティア)。

交友関係・結婚・家族

・すべての地域社会の核である。多様で幅広い要因の影響を受ける。

・主要概念は、人間関係、家族に属すること、家族の反応、性の問題。

・内容例:偏見・差別に立ち向かう方法として、メディアとの協働、保健の専門家に対する啓発・研修、地域のリーダーとの活動、暴力防止の促進、社会ネットワークが限られている人への支援等。

文化・芸術

・文化とはここでは、あるグループの人々の暮らし方という意味で使われている。具体的には、着るもの、食べ物、言語、価値観や信念、宗教、儀式、慣習も含まれる。

・芸術は文化と密接に関連。絵画、音楽、舞踊、文学、映像、写真等。

司法(Justice)

・司法へのアクセスは幅広い概念で、制度、手続き、情報、司法行政を行う場所へのアクセスをいう。CBRは障害者、家族が差別や排除に直面した時、司法にアクセスするための支援を行う。

・コミュニティではインフォ-マルな仕組みが効果的な解決をすることがある。例えば、宗教団体、開発組織、部族長、村長、労組、協同組合、教育・保険の専門家、ソーシャルワーカー、家長等。

5.エンパワメント

エンパワメントは、分野横断的につらぬくテーマ。他の4つ(保健、教育、生計、社会)は開発分野であるのに対し、エンパワメントは障害のある人、家族、地域の人々が分野を超えて障害の主流化を促進させ、人々をエンパワーすることに焦点をあてている。それによりつながりが生まれ、持続可能性をもたらす。主要概念には、動機付け、意識、情報、能力構築、ピア・サポート、参加、連携とパートナーシップ等が含まれる。CBRガイドラインでは、CBRの中心は障害のある人、家族、地域の人々である、としている。

CBRの役割は、障害のある人々とその家族が、自分たちの生活に影響を及ぼす問題に対して積極的にかかわっていくことを奨励、支援、促進することを通して、エンパワメントの過程に寄与することである。

アドボカシーとコミュニケーション

・アドボカシーは、CBRガイドライン全体をとおして必要な活動として言及されているが、ここではセルフ・アドボカシーのことを言う。

・内容例:自分の権利や責任を知ること。自分のために意見を述べること。そのための効果的なコミュニケーション。

コミュニティを動かすこと(Community Mobilization)

地域住民の参加はCBRプログラムの成否を分ける鍵。コミュニティの人々が理解を示し、行動してくれるようにCBRでは働きかける。低所得国のコミュニティ開発での問題解決のためによく使われる手法で、障害者と家族のニーズに応えるためにCBRでも用いられる。

・出来るだけ多くの関係者を集める(つながる)過程。コミュニティの多様な人が、共通の目的を持って集まれば、多くのことが出来る。ニーズの把握及び自分が解決策の一部になることもある。

政治への参加

政府・政治家・政党の活動。人間関係のあらゆるレベルでの力の作用も含まれる。

自助グループ

インフォーマルなグループで、お互いに助け合う相互支援を行う。途上国ではマイクロクレジット(小規模ローン)による所得創出活動を行うグループが多い。

障害当事者団体

CBRプログラムと障害当事者団体の協働により障害者権利条約の履行とコミュニティにおけるインクルーシブな開発を実現。

・CBRの役割は、障害当事者団体のあるところではその団体と協働し、ない地域では団体の設立に向けた支援を行う。

*自助グループと障害当事者団体の違い。

両者の区別は難しいが、CBRガイドラインでは、自助グループは地域で結成され、インフォーマルな形で活動し、障害のある人と家族など障害をもたない人を含む会員のニーズに対応する。一方障害当事者団体はより正式な組織で、過半数を占める障害のある人がコントロールしている団体を示す。

公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
2023,8.25

CBRマトリックス

文献:CBRガイドライン日本語訳 CBRガイドライン日本語訳 (dinf.ne.jp)

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