分科会2−3 援助の効果とパートナーシップ 2023年3月15日

報告:稲葉久之(フリーランス教育ファシリテーター、「地域共生社会実現のための研修」アドバイザー)

参加者:35人程度

【発表】

  • サブナショナル(州)レベルにおける障害を持った人のニーズに対応するための障害者調整メカニズムの改善
  • MILE(学習とエンパワメントへの影響測定)アプローチによるデータ集計プロセスへのワシントングループ質問群の組み込み
  • OPD(障害者団体)を通じた障害者の社会的包摂の促進
  • ネパールにおける包括的で持続可能な開発のための効果的な援助にむけた教育セクターのマルチステークホルダーパートナーシップ(多分野の関係者間のパートナーシップ)

1)2009年カンボジアで制定された障害者の権利の保護と促進に関する法律に基づき設立されたDAC(Disability Action Council)は、2015年に国内25の州ごとに設置(Provincial DAC:PDAC)されたが、その役割が十分に発揮されているとは言えない。そこで2022年1月から9月の9か月間、5つのPDACに対して研修等が行われ、その効果検証を行った結果の発表が本報告である。5段階のルーブリックに基づき評価がなされたが、いずれのPDACにおいても改善が見られ、活動資金の獲得、サービスの向上、活動計画の策定などの実践例が紹介された。

2)VSO(Voluntary Service Organization)がネパールで実施しているENGAGE (Empowering a New Generation of Adolescent Girls with Education)プロジェクトは、障害を持った子を含む学校から疎外された女子に対する正規/非正規の教育や雇用を通じたエンパワメントの取り組みである。本報告では、VSOが行っているMILEアプローチにWGQ(ワシントングループ質問群)を取り入れたデータ収集を行った結果が報告された。WGQを取り入れたデータ収集によって、障害を持った児童の特定や必要な支援が明らかとなり、教員へのトレーニングやユニバーサルデザインの教材づくりなどを通じて適切な介入・支援が行われるようになり、その有効性が報告された。

3)バングラデシュにおける8つのOPDを対象にした能力評価と能力強化のためのトレーニングの取り組みについて発表された。能力評価の結果から、リーダーシップやアドボカシー、IGA(Income Generating Activity:収入創出活動)などの能力開発計画が策定され、研修が実施された。その成果として、地方自治体(Local Government)へのアドボカシー能力の向上によって予算獲得が出来るようになったり、直接的な障害者支援のサービスが向上するなどの成果を得た。OPDが地域資源として機能するためには、OPDへの能力開発プログラムが必要であることなどが提言として報告された。

4)ネパールでは子どもの教育を受ける権利は保障されているものの障害を持った児童の統計はなく、また教員のほとんど(96.6%)が児童の評価のためのトレーニングを受けていない。RFA(Reading For All)プログラムでは、10のプログラムサイトの公立学校において児童のスクリーニングを行い、障害を持った児童の特定と適切な支援ができるように取り組んだ。この取り組みでは国、州、地方の各レベルの行政やOPD、教員など幅広いステークホルダーと連携し、能力向上やガイドラインの作成などを行った。活動の持続性の観点から地方自治体とのパートナーシップは不可欠であること、教師やステークホルダーの能力開発が引き続き必要であることなどが提言された。

(議論)

各発表への質疑や全体討論では、データ収集の進め方や活動の持続発展性について意見交換がなされた。各発表者からは、地方自治体(行政)とのパートナーシップが資金面、制度面での持続性において重要であることが回答された。また行政とのパートナーシップにおいて、法律や政策についての理解、効果的なアドボカシーなど支援団体側の能力開発・向上が必要であることも語られた。

(所感)

いずれの発表においてもアセスメントやヒアリングなどでのデータ収集と分析、データに基づいた活動の実施が報告され、データ(統計)の重要性が確認できた。発表でも「データを収集することで、正確に現状把握(障害を持った児童の特定など)が出来るようになった。それが適切な支援につながった」ということが報告された。一方で、データ収集が適切に行われていない現状、教師や支援者自身のアセスメント能力の不十分さが現状課題として指摘され、能力向上の必要性も4つの発表に共通したテーマであった。今回WGQを用いた報告が2つあったが、どの指標を用いて、どのようにデータ収集を行うか?は引き続き各国の知見を持ち寄り、更なる開発・改善が進むことが期待される。

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