分科会2-4 災害とその衝撃に対して有効な“地域に根差した”応答の構築について 2023年3月15日

報告:松崎良美(東洋大学社会学部・社会学科 助教)

主に、ここでいうdisasterとは、COVID-19感染拡大のことを指し、登壇者たちもCOVID-19の最中、そして現在にわたって、どのように地域の障害者支援を経験し、対峙してきたかが中心に報告されていた。セッションには、40名ほどが入る部屋の8、9割ほどを埋める人たちが参加していた。報告タイトルは以下のとおりである。

  1. COVID-19 response porogramme: selection of beneficiaries using inclusive targeting criteria
    「COVID-19への対応プログラムとして:インクルーシブな対象尺度を用いた受益者選別」
    バングラデシュより、Mohammad Rezaul Alam氏、Zakia Rahman氏による報告
    (※porogrammeはプログラムの記載どおり)
  2. A Study of the Impact of COVID-19 pandemic on Visually Impaired People in India and the Path-Showing Role of Disability Rights Organizations
    「COVID-19感染拡大下のインドにおける視覚障害者が受けた影響と障害者権利団体がその過程で示した役割に関する研究」
    インドより、Ramdas Shivhare氏による報告
  3. COVID-19 adaptation, Harnessing health technology to provide webinars and teleconsultations to strengthen community-based
    「COVID-19への適応として、オンラインセミナー開催によるテクノロジーによる健康支援と地域に根差すありかたを強化する遠隔相談の運用」
    カンボジアより、JEGANNATHAN Bhoomikumar氏による報告
  4. Engagement of Persons with Disabilities in COVID-19 Response
    「COVID-19への対応にみられた障害者のかかわり」
    バングラデシュより、Syed Abdus Salam氏による報告

アジア諸国からの報告者は、皆、COVID-19が人々の暮らしにいかに大きな影響を与えたかという点について強調して述べていたが、特に障害のある人たちは、一層周縁化されていたことも同時に指摘されていた。我々にとっても、COVID-19の感染爆発当時は、その感染経路や予防方法などは未知であったことを思い出してほしい。アジアの国々においても状況は同様であり、そうした限られた情報資源に、障害者たちはとりわけアクセスすることが難しかった状況が指摘されていた。また、同時に経済的に厳しい状況に置かれたことも指摘されていた。社会がロックダウンされていく中、多くの人々が職を失う状況にあったが、障害のある人たちにおける状況はより厳しいものであった。

COVID-19感染拡大に応答していく中で、個人的に興味深い報告だったのは、JEGANNATHAN Bhoomikumar氏による第三報告と、Syed Abdus Salam氏による第四報告だ。第三報告では、カンボジアにおいて、COVID-19感染拡大下の障害者支援がどのように実践されていたかが、フォーカスグループディスカッションなどを通じて得られた見解などを踏まえて報告されていた。特にもともと健康・衛生状況に不安がある地域に赴く支援者/医療従事者たちは、COVID-19の予防策や感染経路が未知であったがゆえに、より不安や緊張感を招いていたことが指摘され、それゆえ支援者/医療従事者のメンタルヘルスの問題が挙げられていた。また、そのような状況を踏まえてオンラインを活用した情報提供や相談支援などが展開されていったことが報告されていた。

ある種の限界を自覚したうえでのオンライン使用であったことが言及されていたものの(地域によってはインターネットへの接続が困難で、またICT機器の取り扱いを知らない人たちも多い)、質疑の中では、インターネットを使った支援実践が、場合によっては“地域に根差した”COVID-19への応答で起爆剤的な役割を持ちえた/持ち得る可能性があるのではないか、といった点が指摘されていた。例えば、それはインターネットに接続することのできるハードウェアが限られているからこそ、地域の人々が一定の場所に集まって情報に触れ、共有し、ともに危機に対峙するような機会にもつながる可能性としても理解できよう。オンラインの活用が、場合によっては、地域の人々をつなぎ、問題対処の可能性を拡げていきうる側面も持つのではないか、といった指摘は、ICT活用といわれたときに連想する先入観(筆者は、つい、ひとりひとりがそれぞれのデバイスを通じてコミュニケーションをとっていく…関係性はどちらかというと閉じたものになっていくのではないか、と考えてしまっていた)をいい意味で砕く、大変興味深い指摘に思われた。メディアのありかたや役割を考えるとき、メディアがどのような社会環境の中で、どのようなコンテクストで用いられるのか、を考慮する必要性を痛感させられた報告であった。

第四報告では、COVID-19下のバングラデュで障害者がどのような役割を果たしたか、という点が強調して報告されていた。パンデミックの最中、必要な情報にアクセスすることが極めて難しかったことが各報告者から指摘されていたというのは先述のとおりだが、第四報告で報告されたCentre For Disability in Development (CDD;開発における障害センター)によるプロジェクトでは、地域への支援提供のほか、特に障害のある人たちを対象にCOVID-19の予防のための知識提供も並行して実施したのだという。いわば、障害者を対象としたCOVID-19に対峙するための支援者養成としても捉えることができようか。結果として、周縁化されている人々のために働く存在として、障害者じしんがかかわっていくきっかけが与えられたことで、障害者たちは地域社会に貢献するだけではなく、じしんをエンパワメントすることに至ったのだという。実際に、障害に関連して生じる固有の課題を解決していくために、さまざまなステークホルダーとの間で、知識を得た障害者が架け橋となって活躍していったことも報告されていた。COVID-19下で、障害者が知識を身につけ、じしんの役割を自らに見出すことができたとき、主体的に、自らや隣人が暮らす地域に貢献していくことに至ったという今回共有された事例は、障害のある人とともに社会をどのように築いていくか、という課題を同様に抱える我々にとっても非常に示唆があるもので、大変励まされ勇気づけられるような報告であった。

なお、今回の報告内容とは逸れるが印象的な出来事があったので付記しておきたい。本セッションの第二報告を務めたRamdas Shivhare氏は視覚障害者で、単著報告であったが、印刷された点字資料を確認しながらの報告を成り立たせるために、若干の時間が割かれた(マイクを口元に添えながら、点字資料を両手で確かめることが困難な環境であった)。報告環境を整える間、司会者は報告者が視覚障害者であることに言及していた。実際の報告は、隣に座っていた他の演題報告者がマイクを持ち、口元に添えるような形で実施されることになった。報告者は用意していた点字資料を手元で読み取りながら報告を行い、スライドが切り替えられる都度、マイクを支えていた他の演題報告者が、スライドタイトルを報告者の耳元でそっと告げていた(スライドは座長席のスタッフが管理していた)。発表に際してまごつく場面が見られたのは、本当に冒頭だけで、数分の間に、いかにも、もともとそのようなスタイルで報告することが予定されていたかのような自然な流れで、報告者にとって、考えられ得る限り最良の報告体制が整えられていたように思われた。

障害のある当事者が多く参加しているこうした国際会議であったからなのか、参加者も日ごろから障害者と接する機会を多く持つような人たちであるためなのか、スムースで的確な対応には考えさせられる点も多かった。報告後、手伝いをしていた他の演題報告者は参加者にスタンディングオベーションを求めていたが、同じ場で報告を成し遂げたRamdas Shivhare氏に対する率直の賛辞のあらわれであったのだと思う。ポリティカル・コレクトネス的にどうであったか、など、場合によっては議論もあり得るのかもしれないが、報告会場で臨機応変になされた行動と、かけられた言葉は、非常に合理的で清々しいものでもあった。

これから、障害のある調査者や活動家が、より一層社会にコミットしていく場面が求められ、実際にそうした機会が増えていくことが予測されるが、本セッションの中で見られたような、参加者が果たせる役割をじしんに見出し、柔軟に対応するありようから、学ぶことができる点もあるように思われた。

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