学びナビ - 社会福祉士国家試験令和3年度(第34回)・令和2年度(第33回)問題解説

「新ノーマライゼーション」2022年12月号

和洋女子大学家政学部家政福祉学科 准教授/本誌編集委員長
髙木憲司(たかきけんじ)

社会福祉士国家試験

令和3年度(第34回)問題解説

問題59 事例を読んで、V相談支援事業所のF相談支援専門員(社会福祉士)によるこの段階における支援方針として、最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事例〕重症心身障害があるGさん(40歳)は、70歳代の母親と二人暮らしで、喀痰(かくたん)吸引などの医療的ケアを必要としている。家族や、Gさんが通う生活介護事業所の職員は、Gさんの表情を読み取りながら長期にわたり生活全般の介助をしてきた。Gさんは、先月、誤嚥性(ごえんせい)肺炎を起こして入院したが、状態が落ち着いてきたので退院することになった。退院先を決めるに当たり、別居している姉が、これを機に、母親の負担も考えて、医療的ケアが可能な共同生活援助(グループホーム)を利用してはどうかと母親に勧めている。一方、母親は看護師などによる自宅への訪問には消極的であるが、可能な限り自宅でGさんと一緒に生活を続けたいと考えている。そこで、母親はF相談支援専門員に相談した。

1 病状や医療的ケアの必要性を考えて、退院先は医師の方針で決定する。

2 母親の負担を考え、姉の提案する共同生活援助(グループホーム)の利用を勧める。

3 Gさんに最も身近な母親の意向に沿い、退院後は自宅で生活することを方針として決定する。

4 医療的ケアの必要性を考慮し、医師に対して病院での生活継続を依頼する。

5 Gさん参加のもと意思決定支援会議を開催し、Gさんが退院後どのような生活を望むのか検討する。

【解答のポイント】正解:5

この問題は、母親が家で重症心身障害のある子どもをみていきたいが、子どもの障害状況の重度化やケアをする親の高齢化等に伴い、母親だけの在宅介護が徐々に限界に近づいてきている、いわゆる「80・50問題(このケースでは70・40問題)」という、近年顕在化してきたケースを取り扱っている。

さらに、重症心身障害で自分の思いを言葉にできない本人の意思をどのようにくみ取っていくかという「意思決定支援」に関する考え方を受験者に問う問題となっている。

選択肢の1~4については、Gさん本人の意思を全く考慮しておらず、家族や支援者の希望に沿った支援方針となっている。自ら意思の表明が困難な方であっても「必ず意思はある」ということを前提にした支援が重要であり、選択肢5が最も適切ということになる。

ちなみに、Gさんの意思を確認するためには、今後、母親から離れて、支援者やホームの仲間と暮らす「体験」も必要となってくるだろうし、慣れるまでには時間もかかるかもしれない。70・40が、80・50になろうとしている今の時期に、Gさんに関わる人々を増やしていくことはGさんの将来にはプラスになるのではないかと思う。

令和2年度(第33回)問題解説

問題60 事例を読んで、W就労継続支援A型事業所のH生活支援員(社会福祉士)のこの段階における対応として、最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事例〕Jさん(45歳、男性)は、軽度の知的障害があり、賃貸アパートで一人暮らしをしている。W事業所に通い、そこでの作業を楽しんでいる。ただ、金銭管理が得意ではなく、賃金や年金が支給されるとすぐに使い果たし、ガスや電気を止められ、W事業所への交通費に困ることがあった。そこで、H生活支援員がJさんと面談すると、お金のやりくりに困っているが、興味のあるネットビジネスも始めたいと思っているとのことであった。一方、離れて暮らしている妹からは、将来を考え、ネットビジネスを諦めさせてほしいとの相談があった。

1 ネットビジネスの夢を諦めるように説得する。

2 後見開始の審判の申立てを妹に勧める。

3 日常生活自立支援事業の利用を提案する。

4 共同生活援助(グループホーム)への入居を調整する。

5 W事業所に通うために自治体の移動支援事業の利用を促す。

【解答のポイント】正解:3

前出の問題では、意思の表明が自ら困難な方の事例であったが、この問題の登場人物のJさんは、軽度知的障害であり意思の表明は可能であるが、その自己決定からくる行動には課題があり、本人も周囲も困っている。Jさんの自己決定は大事にしつつ、生活がままならなくなる課題についてどのような支援方針をとればよいのかを問う問題となっている。

まず、グループホームに入りたいといった発言はなく、「4」も適切ではない。また、「5」はお金の問題で通えないのであり、移動支援事業の利用はこの課題の解決にはつながらない。選択肢「4」「5」はすぐに消せるので、「1」「2」「3」に焦点化すると、Jさんの判断能力に着目する必要があることがわかる。事例の文中から、情報を集め、読み解く力が必要な問題となっている。また、「成年後見制度」と「日常生活自立支援事業」の知識も問われている。

Jさんの「判断能力」を類推すると、就労継続支援A型事業所に通っていることから、雇用契約を結んでおり、判断能力は不十分かもしれないが、一定の契約能力はあると考えられる。そのため、後見制度の説明程度はしてもよいが、現時点で後見開始の審判を妹に勧めるという選択肢「2」は消せる。一定の判断能力があるJさんに、一方的に夢を諦めさせるような説得をするというのも適切とは言えないので「1」の選択肢も消せる。「日常生活自立支援事業」は、判断能力が不十分な方で本事業の契約内容が判断できる者が利用対象となり、日常的な金銭管理の支援も受けられることから、「3」が最も適切となる。

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