講演 障害者をめぐる国際動向

松井 亮輔
公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 副会長

はじめに

 障害者をめぐる国内外の動向ということで、私が国際動向、藤井さんが国内動向について、ペアで話をさせていただきます。

 ご承知のように8月22日、23日にジュネーブの国連障害者権利委員会(以下、権利委員会)で、日本における障害者権利条約(以下、条約)の実施状況に関する審査がおこなわれ、日本からも市民社会団体(CSO)関係者が傍聴団として、100人あまりでかけていきました。この8月中旬から9月上旬にかけてジュネーブで行われた権利委員会の審査の状況は、国連のYouTubeで連日放映されていましたが、この中で、YouTubeをご覧になった方、いらっしゃいますか? 8月22、23日の日本の審査の様子は、日本政府がお金を出して日本語の通訳が行われていたで、私たちもその様子がよくわかりました。

 今回は、わたしは、権利委員会がこれまでどのような役割を果たしてきたのかを中心に話をさせていただきます。

1.権利委員会とその主な役割

(1)権利委員会の構成

 権利委員会は、委員とその事務局を担当する国連人権高等弁務官事務所から構成される。同委員会はジュネーブにオフィスがありますが、条約批准国から構成される締約国会議(毎年6月に開催)を担当するのは、ニューヨークの国連本部経済社会局(DESA))といった役割分担がなされています。

① 委員の選挙

 委員の選挙は、2006年12月の国連総会で採択された権利条約が2008年5月に発効したことに伴い、同条約40条第2項の規定「批准国から構成される締約国会議は、この条約が効力を生じたあと6カ月以内に国連事務総長が招集する」に基づき、同年、つまり2008年10月31日から11月3日までニューヨークの国連本部で第1回締約国会議が開催されました。

 その主な目的は、委員の選挙。委員の任期は、4年ですが、この選挙は2年ごと、つまり、委員の半分は2年ごとに改選されることになります。最初は加盟国が少なく委員は、12名でしたが、今は18名で構成されています。任期は4年ですが、この委員会の場合2期、8年しかできない。しかし、必ずしもすべての人権委員会がそうなっているわけではなく、例えば女性差別撤廃委員会は何期にもわたって、20年近く委員をしている方もいます。その意味では、権利委員会は、ルールどおりに交代することを意図しています。

 委員は、原則として、その配分が地理的に公平に行われること、異なる文明形態、および主要な法体系が代表されること、男女が均衡に代表されること、ならびに障害のある専門家が参加することを考慮に入れて選出することが求められています。とくに委員の大半が障害当事者であることが、重視されています。委員は、自分で手を挙げたり、あるいはどこかのグループが推薦するというわけではなく、各締約国政府が推薦した人たちから選ぶという形になっています。候補者の中で投票総数(9名連記)の過半数を取った方が委員として選ばれます。

② 委員の構成

 最近の締約国会議での選挙は、2022年6月に行われていますが、そこで新たに選ばれた9名の任期は2023年1月から4年間です。非改選の9名の任期は、来年1月から2年間です。それらの委員18名の地域別構成(( )内は現委員の構成)は、アジア太平洋地域が5名(6名)、アフリカが4名(5名)、欧州が1名(4名)、中南米・カリブ海が4名(2名)、中東が3名(1名)、北米が1名(0名)。来年以降と現在のそれを比べるとかなり地域のバランスが変わっています。性別では男性が7名、女性が11名。しかし現在は男性12名、女性が6名で、男性が圧倒的に多いのですが、来年以降はむしろ女性のほうが多くなります。

 2017年1月から2020年12月まで委員を務められた石川准・内閣府政策委員会委員長は、1期だけで、2期目は辞退されたので、現在は日本人の委員はいません。

 障害別構成は、必ずしもすべての委員の障害がオープンになっているわけではないですが、分かる範囲では、視覚障害者が4名、聴覚障害者が1名、知的障害者が1名、肢体不自由者が6名で全員車いすの女性です。したがって、委員の過半数は障害当事者になっています。こうした構成から、権利委員会が開かれる会場についてはアクセシビリティが整備されていることや、様々な障害の方がいらっしゃるので情報保障や、人的支援保障、特に知的障害の方も委員に参加していますので、その方が十分理解できるような、分かりやすい言葉にするとか、補助者の配置が行われています。

 次回の選挙がおこなわれるは、2024年6月開催の締約国会議第16会期ですが、既に日本からの立候補者が決まっています。ですから、うまくいけば、2025年1月からは日本の方が同委員会にはいることになります。

(2)委員会の役割

 主な役割は、①「事前質問事項」への回答を含む、締約国報告の審査、②日本はまだ批准していませんが、権利条約の選択議定書の「個人通報制度」に基づく審査、および③権利条約の主要な条文にかかるガイドラインと言える「一般的意見」などのとりまとめ。現在、8つ一般的意見が出ていますが、権利条約の条文を理解する上で、これらの「一般的意見」は、非常に参考になります。そんなに長いものではないので、ぜひ読んでいただきたい。

 その他としては、人道上の緊急事態の対応のための締約国会議の招集など。これはニューヨークでの締約国会議とは違い、権利委員会が招集します。たとえば2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻による、ウクライナの障害者の状況への対応にかかる締約国会合が、日本の審査があった2022年8月から9月の第27回会期で開かれ、9月9日には声明が公表されています。

① 締約国の審査

 2022年8月1日現在、権利条約を批准した締約国は、185カ国。国連の加盟国は現在、193と言っていますので、9割以上の国が批准していることになります。そのうち最初の締約国報告を提出したのは、日本を含め156カ国ですが、既に2回目、3回目の締約国報告を提出した国も約20あります。委員会は締約国報告及び障害者団体等から出たパラレルレポート、つまり国から出てくる報告と市民社会団体などから出てくるパラレルレポートなどを踏まえて審査に臨む。国からの意見を一方的に聞くのではなく、市民社会団体、特に障害当事者団体がどのように見ているかを十分踏まえた形で審査を行うということになっています。日本の審査では、各省から全体で28人の担当官が派遣され(在ジュネーブ日本政府代表部を含む)、その人達が実際の審査を受けたわけですが、日弁連関係者も含め、100人あまりの市民社会団体関係者がそれを傍聴。

 正式の審査は、政府代表と委員会がやりますが、その合間に、市民社会団体傍聴団、特に障害当事者団体の人たちから委員会のメンバーがヒアリングをするという時間を設けています。つまり、政府対委員会の建設的対話だけではなくて、市民社会サイドの意見を聞く機会を設けているということになります。

 日本にかかる総括所見は9月9日に出されましたが、その所見には日弁連を含め、市民社会団体サイドからの意見がかなり反映されていると言えます。あとで藤井さんから審査状況の紹介があると思うので、ぜひ聞いていただきたいと思います。

 8月1日現在、権利委員会から公表されている総括所見は136あります。これまでは4年ごとに出てくる締約国報告を踏まえて審査することになっていましたが、数が増えてきたこともあって2018年からは、簡略方式というか、あらかじめ権利委員会から「事前質問事項」を各国に送り、締約国から出てくるそれへの回答を審査する仕組みに変わりました。簡略方式で最初に締約国報告を出したのはスペインです。その審査は2019年4月に行われています。日本の第2回目の審査(いまのところ2028年2月を予定)は、そういう方式で行われると思われます。

 権利委員会は全体で18名ですが、審査を担当する国別報告者が任命されています。日本の場合は2名が任命されたわけですが、そのうち1名は必ず同じ地域から選ばれた委員が報告者になるということです。日本の場合は、1人は韓国の方、もう1人はラトビアの方です。

 2018年から簡略方式になったのですが、審査する国が増えたということで、通常は、権利委員会は年2回、3月~4月と8月~9月に行われますが、現在は各5週間、つまり全体で10週間かけて関係締約国の審査を行うことになっています。委員はジュネーブで審査するわけですが、出かける前に、十分準備していかなければならないので、全体の負担がかなり大きくなっています。

 もう1つ、権利委員会の特徴は、総括所見等の作成は必ず委員自身ですることになっています。しかし、他の条約委員会、たとえば女性差別撤廃委員会の場合は、委員ではなく事務局があらかじめ案を作るという形になっています。権利委員会の場合は、委員が真面目ということもあって、より負担が大きいと言えます。委員は基本的にはボランティアです。通常、報酬はない。しかしジュネーブでの委員会中の日当、ジュネーブへの往復の旅費などは権利委員会から出ますが、それ以外はまったく手弁当です。そうした事情もあって、委員の多くは、大学教員や弁護士、あるいは当事者団体の職員など、生活ができるだけの収入がある方です。

② 選択議定書の「個人通報制度」に基づく審査

 権利条約は、前文と本文50条からなる条約本体と、選択議定書、これは本文18条からなります。権利条約そのものを批准している国は185ですが、選択議定書を批准している国は現在100カ国。日本はまだ批准していません。批准していない国については、通報制度、つまり国内で救済されない場合に権利委員会に救済を求めて通報するということは、批准していない国の関係者はできない。権利委員会としては、すべての国にその批准を求めており、日本も総括所見でその批准が求められています。

 個人通報制度には条件があって、匿名の通報は受けられない、通報提出権の乱用や条約規定と両立しない通報は認められない、権利委員会での審査済の通報、他の国際手続きで審査済み、あるいは審査中の通報は受けられない、利用可能なすべての国内的な救済措置が尽くされていない場合は、受けられない、また、明らかに根拠を欠いている場合、または十分に立証されていない場合はできない、ということになっています。

 個人通報制度の例ですが、2010年~2017年に全体で34件受理され、そのうち裁定されたのは27。2018年~2021年は39件ですが、この審査はまだ行われていない。どういう事例かというと、スウェーデンやカナダに見られるように、途上国から不法に入った人を強制送還する例が、かなりある。強制送還された人たちが、その国では救済されないので、権利委員会に通報して救済を求める。スペインの場合は、障害を明らかにした警察官の強制退職ということが通報の対象になっている。フランスの場合は、障害者が他の者と平等に裁判への効果的なアクセスができないという通報。ドイツの場合、本人の意思に反して、障害児を特別支援学校に措置したことが不当であるとか、デンマークでは、精神障害に基づく強制的精神科治療にかかる通報などがあります。

③ 「一般的意見」などのとりまとめ

 これまで権利委員会は、第1号から第8号までの「一般的意見」をとりまとめています。

 第1号は、条約第12条の「法律の前に等しく認められる権利」、第2号は条約第9条の施設及びサービス等の利用の容易さについて。一番新しいのは第8号で、これは条約第27条の障害者の労働及び雇用の権利。これについては去年10月から今年1月にかけてパブコメが実施されましたが、日本も含め88の各国機関・団体から様々な意見が寄せられています。それらの一般的意見に加え新たに、「脱施設化に関するガイドライン」が2022年9月に公表されています。このガイドラインでは、日本でも増えているグループホームも脱施設化の対象とされています。

④ その他、人道上の緊急事態への対応のための締約国会議の招集など。

 「ウクライナの障害者と、ロシアの侵略を受けて、避難した障害者の状況にかかる締約国との会合」が2022年8月17日に開催されています。その会合でのウクライナ代表の報告によれば、「障害者は避難の困難に直面しており、多くの障害者がロシアに強制連行された。ウクライナ政府は障害者を支援するプログラムを立ち上げたが、国外避難に成功したのはそのうちの約1割にすぎない。50以上の障害者施設が占領地にあり、政府は支援の手を差し伸べることができない。これまでに約3300人の入所者が避難している。2022年6月現在、3000人以上の障害者が国内避難民と分類されている」とされる。そうしたウクライナの障害者の受け入れについては、EU、欧州委員会、リトアニア、ラトビア、モルドバ、トルコなどが支援の手を差し伸べているとされます。

2.権利委員会の基本的な考え方―インクルージョンをめぐって―

 ここからは、権利委員会が重視している理念であるインクルージョンを中心にご紹介します。

 条約第3条一般原則(c)「社会への完全かつ効果的な参加およびインクルージョン」で具体的に求められるのは、つぎのようなことです。

・「施設や病院から地域社会へ」(条約第19条「自立した生活及び地域社会へのインクルージョン」)は、障害児・者の入所施設を廃止すること。

・「特別支援教育からインクルーシブ教育へ」(条約第24条教育)は、分離された特別の教育を廃止すること。

・「保護雇用(福祉的就労)から一般就労へ」(条約第27条労働及び雇用)は、日本の就労継続支援A・B型などに相当する、保護雇用(シェルタードワークショップ、以下ワークショップ)を廃止すること。

 各国・地域の締約国報告にかかる委員会の総括所見では、条約にしたがって、これらの分野での障害者の参加とインクルージョンについて、タイムスケジュール、予算、代替措置などを講じることにより迅速かつ着実にすすめるよう、勧告がなされています。

 以下では、条約第27条労働及び雇用にかかる権利委員会の「一般的意見」に示されている、労働及び雇用におけるインクルージョンをめぐる同委員会の基本的な考え方について紹介することにします。

 条約第27条では、冒頭、障害者の労働および雇用の権利について、次のように規定されています。

・「締約国は、障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認める。この権利には、障害者に対して開放され、障害者を包容し、および障害者にとって利用しやすい労働市場および労働環境において、障害者が自由に選択し、または承諾する労働によって生計を立てる機会を有する。」

・「あらゆる形態の雇用にかかるすべての事項に関し、障害に基づく差別を禁止すること」

 他の者と平等な労働及び雇用の権利実現をめざす第27号の主なポイントは、つぎのとおりです。

・「包容し(インクルーシブ)」は、一般労働者と分離された職場ではないこと、また働くことを希望する「より手厚い支援を必要とする障害者」(日本では、従来「重度障害者」とされてきたもの)が職場から排除されないよう、必要な合理的配慮や支援(パーソナルアシスタンス)が提供されること。

・「利用しやすい(アクセシブル)」は、労働市場、労働環境が、ハードウェアだけではなく、ICTなど、ソフトウェアも含め、誰もが働きやすいバリアフリーやユニバーサルデザインになっていること。

・「自由に選択し」は、働き方や仕事の内容が、自らの特性や好みなどに応じて自由に選択できるよう、様々な選択肢が用意されていること。

・「労働によって、生計を立てる」は、働いてえられる賃金で、家族も含め、人としての尊厳にふさわしい生活ができること。

 ただし、この条文では、短時間労働などにより賃金だけでは、生計を維持することが困難な場合の所得保障については、とくに言及されておらず、これについては、次の条約第28条「相当な生活水準及び社会的な保護」の中で、取り上げられています。

・「あらゆる形態の雇用」に、日本の障害者総合支援法に基づく就労移行支援や就労継続支援A・B型が含まれるかどうか、それらは国際的にはワークショップとされるわけですが、それらが、あらゆる形態の雇用に含まれるかどうかは明確には言及されていません。しかし、国連人権高等弁務官事務所が国連人権理事会に提出した、「障害者の労働及び雇用に関する主題研究」(2012年12月17日)によれば、「保護雇用(ワークショップ)は障害者が障害のない者と一緒に働けるようにするため、より開かれた雇用形態への移行の準備過程とみなされなければならない。しかし、それはまた、様々な理由で、開かれた労働市場で雇用につくことが困難な者に継続的な支援を提供するものでもある。」とされます。つまり、部分的とはいえ、継続的な支援を提供するワークショップの存在を認めている、といえます。

(1)開かれた労働市場に求められる対応

① 権利委員会が認識する、開かれた労働市場の現状

 権利委員会は、開かれた労働市場をどう見ているのか。同委員会は、ワークショップから一般雇用への迅速な移行を強調しているわけですが、同委員会は、開かれた労働市場はパラダイスと考えているわけではなく、現在の開かれた労働市場では、障害者は高い失業率、低い賃金、不安定な雇用、低水準の雇用条件、職場環境へのアクセスの欠如に直面している。そして、開かれた労働市場へのアクセスとそこからの排除は、障害者にとって依然として最大の課題である、としています。

② 権利条約で規定されるその改善策

 開かれた労働市場の現状の改善策として、条約第5条「平等と無差別」では、つぎのことが掲げられています。

・「締約国は、平等を促進し、および差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するためのすべての適当な措置をする。」つまり、合理的配慮は、そのための非常に重要なツールとされる。

・「障害者の事実上の平等を促進し、または達成するために必要な特別の措置(いわゆる積極的差別是正措置。これは日本では、雇用率制度に当たるわけですが)は、この条約に規定される差別と解してはならない。」

 つまり、この条文によれば、合理的配慮の提供と積極的差別是正措置が、労働市場の現状の改善策、ということです。

③ 委員会が求める積極的差別是正措置

 その内容としては、つぎのようなことが掲げられています。

・雇用主が、障害者を特定の業務、留保された仕事、または特定の雇用単位に制限しないこと。

 日本では雇用率制度のもとで障害者枠での採用とか、特例子会社などが設置されていますが、権利委員会としては、そういうことはやるべきではないとしています。

・この措置のもとで促進される労働が、「偽装雇用」(雇用されている障害者が、実質的な意味での仕事が与えられていないとか、他の者と平等に有意義な仕事に従事していないこと)でないようにするための監視と措置。

・障害に基づく国内最低賃金の支払いを免除する仕組み(日本の「最低賃金減額特例措置」)をなくすこと。

 アメリカでは最近、最低賃金適用除外制度の廃止が、いくつかの州などで広がっており、そこでは「リアルペイ・フォー・リアルワーク」(まともな賃金がもらえるまともな仕事)の確保が求められているわけですが、それは先程の「偽装雇用」のまさに対極にあると言えると思われます。

・昇進(キャリアアップ)の機会均等、及び同一価値の労働に対する同一報酬を促進するための措置

 最近テレビニュースで、オランダにおける同一労働・同一賃金の事例が紹介されていました。オランダの場合は、短時間労働者も正規雇用ということです。例えば週3日働き、あとは自分の好きな生き方をするという選択肢も同一労働・同一賃金では可能ということです。日本では短時間の場合は非正規雇用で、フルタイム労働者と賃金がかなり違うのは当たり前ということになっており、オランダのような選択肢は考えられ得ないわけですが。

(2)保護雇用(ワークショップ)に求められる対応

①権利委員会が認識するワークショップの状況

 権利委員会が認識しているワークショップ(日本の就労継続支援A・B型に相当)の状況は、つぎのとおりです。

・障害者を社会の他の部分から分離し、彼らだけを一緒にしている。

・障害者が遂行できそうな特定の活動を中心に組織されている。

・開かれた労働市場への移行を効果的に促進していない。

・障害者は他の者と平等な労働対価を得ていない。

・障害者は、通常、ワークショップでは雇用契約を結んでいないため、労働関係制度や社会保障制度(労災保険、医療保険、年金保険)から排除されている。

 最後が一番厳しい。B型もさまざまありますが、そこに労働法を適用するとなると何らかの財政的支援がない限りは、B型として継続していけないのではないか。これは、日本だけの問題ではなく、ほかの国でも同じですが。

②権利委員会が締約国政府やワークショップに求める取組み

 権利委員会が、B型等に対してつぎのような対応を求めています。

・分離された労働環境から脱却し、開かれた労働市場への障害者の参加を支援する一方、分離された労働環境への労働法の即時適用を確保すること。

 なお、ワークショップへの労働法の適用については、1955年の国際労働機関(ILO)総会で採択された「障害者の職業リハビリテーションに関する勧告」(第99号勧告)パラ35で「賃金及び雇用条件に関する法規が労働者に対して一般的に適用されている場合には、その法規は、保護雇用の下にある障害者にも適用すべきである。」とされてきました。

・ワークショップから開かれた労働市場への迅速な移行を保障する資源、時間枠、監視のメカニズムを備えた具体的な行動計画を採用することにより、B型等、ワークショップを迅速に段階的に廃止すること。

・保護雇用、あるいはB型等のベースとなる法律、政策などを見直すこと。

・移行プロセスの設計、実施および監視における優先事項として、障害者及び障害者を代表する組織と密接に協議し、積極的に関与させること。

・障害者が、ワークショップから開かれた労働市場に移行するための選択肢と支援を提供すること。

・分離された雇用環境で就労する障害者も労働組合を組織しうること。

3.権利委員会の条約第27条にかかる一般的意見草案への各国関係機関・団体の反応

 昨年10月権利委員会は、条約第27条「労働及び雇用」に関する一般的意見草案を公表し、各国の関係機関・団体から意見をもとめました。それに対して日本を含む、88の各国機関・団体が様々な意見が寄せられました。そのなかで注目されるのは、つぎのようなコメントです。

 「各国間だけではなく、同じ国内でも異なった形態を有するワークショップを1つの名称のもとで非難し、そこで提供されるさまざまなサービスから恩恵を受ける人たちの意見も聞かずに排除することは、問題をよりよくせず、むしろより悪くするものである。」まさに、日本のB型でもそうですが、多様なB型を一律にダメというのは、どうかということです。同委員会としては、こういう意見なども踏まえ、ワークショップやそこを利用している障害者の実態を的確に把握したうえで、現実的な改善策を提示すべきではないかということです。

 なお、同委員会は2022年9月9日に一般的意見第8号:第27条「障害者の労働及び雇用の権利」としてその確定版を公表していますが、ワークショップについての見解は、草案とほとんど変わっておらず、分離された労働環境に対して厳しい見解を示しています。

4.条約第27条労働及び雇用をめぐる課題

 これまで各締約国について出された条約第27条労働及び雇用にかかる総括所見をみると、他の者と平等な労働および雇用は、質・量とも実現からほど遠い状況にある。日本でも、雇用率制度の下で障害者雇用量は増えてはいますが、質という点からみると、かなり問題がある。特に、最近「雇用率ビジネス」がどんどん増えている。本来は企業本体で実質的な意味での雇用をきちんとすべきところ、そうしたビジネスに障害者雇用を丸投げしている。つまり、雇用率を充たすために雇用率ビジネスを活用するという実態が許されていること自体が極めて問題だと思います。これは、まさに権利委員会が懸念する「偽装雇用」(フェイク・エンプロイメント)にあたるのではないでしょうか。

 権利委員会は、締約国に対して保護雇用を段階的に廃止することを求めているにもかかわらず、実態としては、むしろ増えているような状況もみられます。それは、保護雇用や福祉的就労からの移行の受け皿となる一般労働市場における労働条件や労働環境が、必ずしも十分整備されていないことによると思われます。保護雇用、福祉的就労から一般労働への移行を進めるには、一般労働市場における合理的配慮提供を含む、労働条件や労働環境整備がさらに積極的に進められる必要があります。

 つまり、権利条約で求められるのは、一般労働市場、ひいては一般社会そのものを、障害者を含め、全ての人が人としての尊厳にふさわしい生き方ができる場にすること。もちろん国や地方自治体がになうべき役割が大きいと思いますが、それを構成する私達市民一人ひとりも、そうした場づくりに積極的に貢献することが求められている。誰か他の人がやってくれるというのではなくて、私たちも、責任ある一員として、インクルーシブな社会づくりに向けて、日常の中で具体的に取り組むことが求められていると思います。

 今回の報告は、これで終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

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