横浜ラポールにおけるリハビリテーション・スポーツの紹介

福田 豊
障害者スポーツ文化センター横浜ラポール 体育指導員

 横浜ラポール、スポーツ課の福田と申します。ここでは、横浜ラポールにおけるリハビリテーション・スポーツについて、ご紹介します。始める前に、私はこういった学会などで発表するのは今日が初めてです。本日、皆さまにうまくお伝えできるかわかりませんが、どうぞよろしくお願いいたします。またこのような機会を与えてくださったことに感謝いたします。

 まずは、改めて、横浜ラポールで取り組むリハビリテーション・スポーツ、以下、リハ・スポーツについてご説明します。リハ・スポーツは、日常からの開放感、心身の機能を発揮する楽しさ、技術の獲得や目標を達成することの喜び、また仲間と競い合ったり、あるいは、協力・共同する楽しさ、人や自然、地域との交流場面など、スポーツの持つ特性を最大限に活用して、障害者の自立と社会参加を支援しようという、社会リハビリテーションプログラムです。

 スポーツ活動によって、機能・体力の維持向上を図ろうとすることはもちろんですが、障害ゆえに、できないのではと諦めていたスポーツができるようになる喜びや、同じ障害があることで共感できる仲間と一緒に楽しい時間を過ごす経験が、自信や意欲に繋がるとともに、社会性を再獲得するきっかけになると考えています。

 それを導くのがリハ・スポーツであり、私たち体育指導員の役割です。言わば、医療リハから主体的な社会参加への橋渡しを担うプログラムを位置付けており、プログラム終了後、多くの人が仲間とともにスポーツ活動を継続しています。

 さて、リハ・スポーツプログラムで障害のある方に、どのようなスポーツを実施しているか、少しご紹介させていただきます。

 例えば、この表は、脳卒中片麻痺者のバランス能力の応じたスポーツの適応を示しています。プログラムの初期に簡易な体力運動能力の測定を行い、特に移動、バランスの測定を評価した上で導入しやすい種目を選択しています。バランスレベルは1~5までで、1が車椅子レベル、5が歩行が自立しているレベルです。これはあくまでもリハ・スポーツの導入期の参考例であり、その方の嗜好、使用する環境や設備、地域性によって選択肢は変わってくるでしょう。

 少し、写真が小さく、見にくいですが、脳卒中片麻痺者の活動場面です。左上はパラリンピックですっかりメジャーになった「ボッチャ」です。パラリンピックでは重度脳性麻痺者や四肢麻痺者が参加する種目となっていますが、私たちは随分前から、誰でも参加できるユニバーサルスポーツとして取り組み、片麻痺者のリハ・スポーツでも導入期に活用しています。活動量は比較的少ないですが、それでも投球するときは必ず立ち上がる、点数は全員で確認し、できる人はボールを拾うといった、ローカルルールを設定することで、できることは自分でやるという意識付けと併せて運動場面を作ります。スクワットという、足腰のトレーニングがありますが、ボッチャを楽しむ中で何度も立ったり座ったりすること、的玉を狙おうとするときの、中腰の姿勢や、ボールを拾う動作がスクワット以上のリハビリになるのだとお伝えすると、皆さん納得してくれるのです。

 左下のグラウンドゴルフも同様です。外出時に車椅子を利用していても、自宅や短い距離は、杖や手すりで歩行できるという方には、ボールを打つときには立っていただくことがあります。初めは不安そうにしていますが、いざ、クラブを握ってもらうと視線は自然とホールに向かいます。短い距離の移動はクラブを杖代わりに歩いてもらうことも、意図的にすることがありますが、だんだん歩く距離が延び、気がつくと、車椅子がクラブハウスに置いたまま、なんてこともあります。黙々と歩行訓練をしている人は多いと思いますが、グラウンドゴルフをお勧めしたいです。

 右上の写真は、車椅子の男性がゴロ卓球をしている風景です。夢中になってボールを打ち返すうちに、だんだんと台全体に腕を伸ばすようになります。一般でも注目されている体幹トレーニングですが、卓球は体幹やバランスの強化になると思います。

 右下は水泳・水中運動の風景です。プールに入るというだけで、無理だと決めつけたり、大きな不安を感じる人が少なくありません。更衣室での更衣、プールサイドの移動、安全な入水方法など、プールに入るまでの過程にもショートゴールを設定し、ご本人と安心安全を確かめながら進めます。実際にプールに入っただけで、感動のあまり涙を浮かべた人もいました。プールの経験は大きな自信や意欲をもたらせると感じています。

 このスライドではボッチャを例に脳性麻痺者に対する障害状況別の工夫を示しています。右上の写真のように、車椅子が自走でき、ルール理解にも課題がなければ、車椅子のまま、通常のルールでボッチャを楽しみます。右下の写真では、自身での投球が困難な人は、ランプと呼ばれるスロープを使用します。また、左上の写真のように、通常のボッチャルール、駆け引きが難しい場合には、視覚的にもわかりやすい的を作り、的当てゲーム的な遊びから導入しています。

 このように、どのようなスポーツでも正規のルールや道具にとらわれることなく、その種目の楽しさ、特性を損ねない範囲で参加する障害者の状況にあわせて、ルール・道具・体の動かし方などを工夫することがリハ・スポーツの特徴です。リハ・スポーツでは一定期間の教室終了後も主体的な活動が継続できるように仲間づくりを進めてきました。多くのサークルが誕生し、今では新規参加者を積極的に受け入れる存在になって活動を継続しています。

 ちなみに左上の写真は毎週、グラウンドを予約し、グラウンドゴルフを楽しむ片麻痺者のグループ。右上は、もう20年以上にわたり毎週金曜日に卓球を楽しむ高次脳機能障害者とその家族のグループ。下は高校卒業後の主に脳性麻痺者を対象としたレクリエーションサークルの活動風景です。

 さて、これは発達障害児者のスポーツ適正を表しています。行動障害と知的な課題の理解度を軸にしていて、いずれも、軽度の場合では、サッカーやバスケットボールなど、ルール、戦略が複雑で構造化しにくい種目でも取り組めそうです。一方、中重度では、ルールや運動の手続きが理解しやすい対人種目や個人種目のほうが取り組みやすいことを示しています。

 取り組みやすい個人種目の例を挙げてみます。右上は、フライングディスクのアキュラシーという種目で、直径1m弱の円形ゴールにディスクを通過させた枚数を競い合います。左上のボーリングとともに秋に行われる全国障害者スポーツ大会の正式種目でもあり、全国から多くの知的障害者が参加します。こうした大会を目標にもできるという点で取り組みやすく人気のある種目といえます。

 ボーリングは特殊な環境ですが、逆に、いつでもボーリング場はボーリングしかできないという点でわかりやすい。視覚的なわかりやすさに加え、ボールが転がる音、ピンが弾ける音、ストライクが出たときの達成感が人気の秘密でしょうか。ちょっと分かりづらいですが、写真の男性の足もとには足形のシールが貼ってあるのがおわかりいただけるでしょうか。これを手がかりに足の踏み出し方や投球のタイミングなどを伝えようとしています。右下はトレーニングの風景ですが、実際に踏み越えたり飛び越さなければいけないものを視覚的にわかりやすく配置し、いろいろな体の動かし方や運動方法を身に着けようという工夫です。

 さて、このようにノウハウを蓄積してきたリハ・スポーツですが、ここ数年は身体の障害と発達や精神の障害を合併しているケースや行動障害などでより個別的な配慮、長期的に渡る支援が必要なケースが増えてきました。ここからはそうした事例のうち私の関わった2例についてご紹介します。

 1例目は四肢体幹機能障害2級です。49歳、男性。当初コミュニケーションは一方的で他者の助言には耳を傾けようとしなかった人ですが、中学時代に活躍した野球の話題がきっかけで少しずつ関係を築きスポーツへのチャレンジやそれを通じた他社との関わりを持つようになり、生活への変化が現れた事例です。

 写真のとおり、およそ1年半前、館内の移動は杖と手すりを使っていました。当初の利用目的は、転びやすくなったので下肢筋力を向上させることでした。しかし、コミュニケーションは一方的でトレーニングに対する指導員の助言には全く耳を傾けようとせず、本人が決めたトレーニング方法を変えようとはしませんでした。館内移動時の車椅子利用を勧めたものの当然のごとく拒否でした。

 来館時には、さりげなく声をかけながらトレーニングの様子を見守りました。あるとき、自転車エルゴから降りる際、バランスを崩して転倒しかけました。そこで以前から勧めたかったプールでの水中トレーニングの話をしたところ興味を示し、トライすることになりました。これが指導員の助言を受け入れた初めてのことであり、その後の個別にかかわる指導のきっかけとなりました。そして、プールの水中トレーニングに付き添いながらコミュニケーションを取り続ける中で、中学時代に熱中していた野球の話題になり、それでは今度はキャッチボールをやってみませんかと誘ったところ、これにも乗ってきたのです。

 キャッチボールでは投球時の転倒リスクを避けるため、まずは座ってやりましょうとさりげなく車椅子を用意するとこれもすんなり受け入れてくれました。5mほどの距離でのキャッチボールでしたが、久々のグローブの感触を楽しみ、昔を懐かしみながら終始笑顔でありました。

 このキャッチボールが来館時の運動メニューとして定着したころ、どうせやるなら目標持ちたいという相談がありました。やはり、スポーツが好きだったんですね。そこで全国障害者スポーツ大会の種目であるフライングディスクを紹介したところ、この種目にも取り組むようになり、横浜市の予選会を目標に練習を始めるようになったのです。そして、週1回の取り組みを約3ヶ月継続し、11月、車椅子に乗ってフライングディスクの記録会に初参加してくれました。

 こうした関係ができてくると指導員から紹介される第三者ともつながれるようになります。下肢の筋力強化と同時に運動の目的であった減量について栄養士や保健師を紹介したところ、食生活も徐々に改善され、運動との相乗効果で1年半で、なんと30キロもの減量に成功したのです。

 当初、人との関わりを避け、助言にも耳を傾けようとしなかったケースですが、様子を見守り、根気強く声をかけることで、少しずつ双方向のコミュニケーションが取れるようになりました。その過程では小さなきっかけを見逃さず、タイミングよく新たな課題につなげられたのが、よかったのだと思います。結果、彼は生活の中に新たな目標を見つけ生活習慣を見直すことができました。何より大切なのは、その人との関係性をどう築くかだということを改めて教わったケースです。

 今回の事例は体育指導員だけでなく、保健師や栄養士の関わりがあったからこそ、それぞれの役割でコミュニケーションを繰り返したことで共感を生み、信頼関係を作り上げることができたのだと考えます。1対1の関わりから1対多数の関わりに広がり、少しずつコミュニティが広がり始めました。

 2例目は、20歳ダウン症の女性です。知的障害は最重度です。言語理解は限定的で発語はなく、日常的なコミュニケーションは学校で習った手話を使っています。数字理解は難しく、場面の切り替えが苦手です。当初の母親からの相談内容は、学校卒業後、日中は作業所に通っているけど、コロナ禍もあって太ってきて、何か運動をやらせたいとのことでしたが、その時に適当と思われる教室がなかったことから、個別対応を実施することとなりました。

 この事例は、本人に内発的な動機づけがない状態から、少しでも楽しく、主体的に運動をするための興味、関心を見つけ出せないか、悪戦苦闘する試行錯誤の報告です。

 当初、減量を目的としたトレーニングルームでの運動を希望されたので、自転車エルゴやいくつかのトレーニングマシーン等を試行しましたが、単調な運動は楽しさに欠け、気が向かないとつばを吐いたり、頑固に座り込んだりしました。そもそも運動継続のためには本人が楽しいと思えることが重要で、トレーニングルーム以外の施設で楽しめることを見つけたいと、試行錯誤を始めました。

 ある日、体育館を利用する車椅子バスケットボールチームの練習を食い入るようにながめていたので、興味があるならと思い、バスケ用の車椅子を準備すると、自ら両手でこぎ始め、ラポールの館内を動き回り始めたのです。これは大きな発見でした。そこで、ラポールの職員で車いすバスケットをやっている体育指導員にも協力してもらいながら、写真のようにボールでキャッチボールをしたり、車椅子同士で館内を移動しながらフライングディスクをしたり、様々な取り組みを一緒に行いました。プログラムとしての定着というところまではいかないものの、興味のある車椅子に乗れるということがラポールに通うきっかけになったようです。

 付添いのご両親からお話を伺う中で、ご両親が音楽関係の仕事をしており、本人も音楽が好きなこと、特にアニメの楽曲などは好きでよく聴いているといった情報を得ることができました。そこで本人に馴染みのあるアニメソングを選択し、それに簡単な振り付けをしたところ、指導員と一緒に楽しく体を動かすことができました。写真のように、初めは私が指導していたのですが、若手女性職員にも協力してもらいながら、曲数を増やし、活動量を増やしていきました。好きな曲と運動、それと同年代の指導員と一緒に楽しむことで、活動の雰囲気もよくなってきました。

 同様に、母親から学校のときにトランポリンが好きだったという話を聞き、さっそく試してみると、部屋に入って、それを見た途端に飛び乗り、父親と手をつなぎながら疲れるまで、楽しそうに跳び跳ねていました。体育館でバスケットボールやサッカーボールでの遊びを試した際には、難しさを感じたのか、興味を持ってくれませんでしたが、大きなバランスボールを使ってみると、転がしたり、両手でかかえて投げてみたり、そのボールを追い掛けてみたり、とても楽しそうな様子でした。

 また、風船を使ってみると、自ら手にとって、一人でバレーボールを始めました。いずれも、初めは短時間で飽きてしまうようでしたが、この風船バレーは、現在では家族と一緒に20分ほど笑顔で継続できるようになっています。継続して運動ができるようになったのは今月9月のことなので、ここまでくるのに1年半くらいかかりました。先日、お母様も「学校の活動でも慣れるまでには数年単位の時間がかかる」とおっしゃっていました。

 取り組んだ種目を整理してみると、今回の対象では、感覚的な遊びがカギとなっていることが分かります。事前の聞き取りで「身体を動かすのが好き」との情報があったので、スポーツ導入も比較的容たやすく、何回か個別指導すれば、個人利用につながるだろうと、安易に考えていました。ですが、障害特性はもとより、本人の性格や趣向、これまでの経験などを考慮すると、種目を選択すること、安心して課題に取り組める環境を整備することの大切さに改めて気づかされました。こうして、いろいろな種目にチャレンジしながら、本人が主体的に楽しめること、モノを探し、それを組み合わせることで、活動量も増やすこともでき、ラポール利用が定着できつつあります。

 母親の報告ですが、「ラポールに行く日は朝から準備をして楽しみにしています」とのことでした。何より、ラポールに行くことを拒まず、楽しみにしていることがこの1年間、大きな成果だと思います。今後も遊びを通して、楽しさを感じてもらい、自然に体を動かす機会を一緒に考えていきたいと思っています。また、運動だけでなく、様々な余暇活動の選択肢を増やし、社会参加の機会が広がっていってほしいと考えています。

 まとめです。横浜ラポールが隣接する、横浜市総合リハビリテーションセンターとともに培ってきたリハビリテーション・スポーツは、単に身体機能、体力を向上させる体育プログラムではなく、スポーツをツールとした障害者の社会参加支援プログラムです。当初、集団活動の特性を活かした手法に重点を置いていましたが、その一方で、より個別な配慮が必要な方や長期的な関わりが必要な方が増えています。障害者スポーツへの支援が広がりを見せるなかで、こうした配慮が必要な人への支援こそが今後のリハ・スポーツの課題、使命であると考えています。ご清聴ありがとうございました。

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