1.医療から地域へ移行の際の課題と工夫

宮嶋 利成
(千葉県千葉リハビリテーションセンター 理学療法士)

 千葉リハビリテーションセンター理学療法士の宮嶋と申します。今回このような場でお話させていただけることを大変光栄に思っています。横浜ラポールの宮地さんをはじめ、運営に携わってくださった皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。

 まず、私の自己紹介をします。私は、2003年に国立障害者リハビリテーションセンター(以下国リハ)学院リハビリテーション体育学科を卒業しました。

 私は、ここで障害がある人にスポーツを通したリハビリテーションの理念、基本的な知識や技能を学び、地元千葉のリハビリテーションセンターに就職しました。現在まで約20年間、このセンターでリハビリテーションスポーツ(以下RS)業務を担当しております。また、その間働きながら理学療法士の資格を取得しました。

 2013年より、障害者の健康づくりに関するプログラム構築および地域普及のための事業を開始しました。この事業を通して、国リハや埼玉リハ、横浜ラポールの皆様と、障害者の健康づくりやスポーツ活動に関する情報交換や連携等ができるようになり、今日のご縁があります。

 さて、本日はスポーツを通じた社会参加がテーマでありますが、私自身も地域でスポーツ活動をしております。中学、高校、大学、社会人とバレーボールをしていたこともあり、息子と一緒にできるスポーツがしたいという思いで10年前からソフトボールを始めました。これがとても面白くて、今は休みになると公園に行って練習をしています。

 ここからは、私の業務内容を紹介します。当センターは、入院施設および障害者支援施設、重症心身障害児施設等がありますが、当センターでRSの対象となっているのは、成人病棟の入院患者および外来患者、障害者支援施設の利用者となっております。本日はおもに入院患者と外来患者のRSについてご紹介させていただきます。

 ご存じの方が多いかと思いますが、まずは基本的なこととしてRSの歴史をお話しさせてもらいます。英国ストークマンデビル病院の病院長グッドマン博士は、戦争によって負傷した人達が世の中に溢れ、社会から孤立した状態にあることを憂い、彼らにスポーツを通じて自信や尊厳を回復させ、その後の社会復帰に繋げることに成功。グッドマン博士の影響を受けた中村裕先生は、太陽の家を創設し、わが国において今日のRSの礎を築いたということを押さえておきたいと思います。

 臨床にスポーツを取り入れる意義は何か。グッドマン博士によれば、

  1. 1.失った心身機能を取り戻すために有効であること。
  2. 2.意欲と自発性を取り戻し、孤立した自己中心的な心理状態から心をひらくために有用であること。
  3. 3.社会と積極的に接触しようとする意識が芽生え、社会の周りの人々と再融和が可能になること。

 以上の3つの意義があると述べています。

さて、話を私の業務に戻し、入院患者のRSについての詳細をお話しさせていただきます。対象者は主に脊髄損傷者または切断者になります。特に若年者の場合は、将来的な復学や復職、あるいは新規就労が想定されるため、移動に関してはより自由度の拡大が求められます。自動車の運転や公共交通機関の利用も必要となるでしょう。当センターのRSでは、基本的な車椅子操作からよりアクティブな応用操作に至るまで車椅子操作の訓練を担っています。まずは車椅子操作スキルを一通り習得した後、車椅子でのスポーツの導入を図っています。患者の運動、スポーツ経験を聴取した上で、車椅子であっても競技することが可能であることがわかると、失ったものを取り戻したような気持ちになるのか、目を輝かせて喜ぶ患者さんもいますね。

 一方で、入院中にスポーツの導入を図ったものの、退院後は、体を動かすところがないという理由で、家に引きこもっている方が多くいらっしゃいました。このような方たちを集めて、当センターとして何か支援できないかと思い、RS外来をスタートしました。

 RS外来は、これまで延べ40名ほどが参加していますが、これまでRS外来をきっかけに、障害者高等技術専門学校や4年制大学に進学したり、新規就労に繋がったケースもあります。また、RS参加メンバー達が結集して新たに車椅子バスケットボールチームを旗揚げしたケースもあります。このように、退院して家に引き籠っていた人が、RS外来を始めたことをきっかけに社会復帰する姿を間近で見ていて、社会復帰するためのツールとしてスポーツの可能性をとても実感しています。RS外来は同じ障害がある人たち同士の相互交流の場であり、その交流がお互いの刺激となって、各々が新たなステージに進むきっかけとなっているのだと思います。

 しかし、長年RS外来を運営する上で新たな問題も生まれてしまいました。それは、至れり尽くせりに近いかたちで提供される体制に依存的になり、長年に渡ってRS外来に在籍するケースが多くあったことです。そのような反省を生かし、対象者を一定の期間内に自発的に地域のスポーツ活動に移行させる支援を現在進行形で進めているところです。

 地域移行に至らない理由として、地域に受け皿がないことが1つの原因だと感じます。ご存じのとおり、近年では地域リハビリテーションが拡充し、在宅での訪問リハや介護保険施設でのリハの対象者は、機能訓練を継続できる環境がすごく整ってきました。しかし、その対象ではない方は、病院でのリハが終了した後の受け皿は自分自身で探すしかない現状になっている。彼らも当然のように自分の身体機能を維持したい、健康でいたい、長生きしたいと思っているはずですが、多くの方が体を動かす場がないという現状に直面している。彼らが利用できる社会的資源として、障害者スポーツセンターは最適なのですが、当県にはない。現実的には、退院した一人の障害者が自分に合った社会的資源に主体的にアクセスすることは容易ではないと感じます。

 では、わが県のように障害者スポーツセンターがない県、あるいは、距離的にそこにアクセスできない人たちはどうすればよいのか…。私は、当事者あるいはその家族が自主的に社会資源を探して、そこで運動を継続するように動機づけされることが重要であると考えます。ここを掘り下げます。入院生活では、リハビリのメニューから食事の献立、生活リズムに至るまですべて病院から支援され、提供してもらっていた元患者が、自宅に帰ったら主体性を求められるわけですから、当然、急に何かを一人で始めるには、相当なモチベーションが必要となります。先ほど紹介したストークマンデビル病院のグッドマン博士が、障害者は孤立しがちであると述べられているとおり、退院後の世界は健常者中心であるように思え、自分自身を社会的マイノリティに感じることでしょう。人によるとは思いますが、そのような心理的状態にある中で、一人でなにかを始めることは、周りが思うほど簡単ではないと思います。参考までに、RS外来の参加者に参加の動機を伺ったアンケート結果をご覧ください。最も多かったのは「体力維持や車椅子操作訓練のため」。いわゆる訓練目的で参加したという意見がトップでした。次に多かったのは「同じ脊損の仲間が欲しかった」「患者同士の情報交換がしたかった」と、他患との交流を求める意見が第2位でした。第3位は「誘われたから」。これは受動的な動機ですね。第4位は「時間を持て余しているから」「体を動かしたかったから」となっています。病院では周りに同じ境遇の人がいる環境だったのに、地域に帰ってからは周りには健常者しかいない…という環境であることを考えると、この第2位に書かれている「同じ脊損の仲間が欲しかった」「患者同士の情報交換がしたかった」という声は、すごく切実だと思いました。

 さて、動機づけが重要という話に戻りますが、なかなか最初の一歩が踏み出せない、家から一歩踏み出せないという人に対しては、やはり誰かが一緒に行くという手助けが必要かと思います。一番は家族でしょうけれど、家族がいない方もいらっしゃいますし…。次のステップとして、一歩踏み出して運動あるいはスポーツを体験した時「やってみたけれどだめだった」と、導入で失敗してしまうケースもあると思います。これに関しては、導入時には必ず自信を持たせてあげて欲しいと思います。導入に関わったスポーツ指導員が「大丈夫だよ」「できてるよ」と自信を持たせてあげて欲しいと思います。導入で失敗すると、「自分には(スポーツが)大きな壁だった…」と壁だけを感じて終わってしまいます。反対に「ここに来れば楽しい」「なんか安心する」「おまけに色々な情報も収集できる」と思えれば、続けようという気持ちになると思います。とりわけ、その場所で形成されたコミュニティ(=仲間)との関係性が良好であり、楽しい空間であるかどうかが、スポーツの動機づけを考えるとき、すごく重要な要素であると考えます。

 その他にも存在すると思われる、障害者におけるスポーツ活動のバリアを列挙します。

 1つ目は「活動場所までの移動手段を確保することが困難」であること。車を自分で運転できる方は該当しないと思いますが、車を所有していない方、車の運転が難しい方、公共交通機関の利用が困難な方は、地域スポーツへアクセスすることが著しく困難になると思います。

 2つ目は「地域にある一般の運動施設を自力で利用することが困難」であるということです。例えば、動線上に階段があったり、リフトや入退水用のスロープがないプール等では、介助する人が必要ですし、介助する人がいなければそこは利用できないということになってしまう。

 3つ目は「自主的にコミュニティ、共に活動する仲間を形成することが困難」であること。例えば、車椅子バスケをやるには複数人以上いなければゲームができないとなったときに、そもそも周りに同じ障害の人がいない、同じ障害でなくても車椅子の人がいないという状況が考えられます。一般的な地域の草野球やサッカーのように地域内で声掛けして人を集めるという様にはいかないと思います。

 4つ目は、パラスポーツ=パラリンピック競技のイメージが強いことが関連しています。既存の競技スポーツや競技団体は、イベント等を開催してその認知度を拡げているところですが、最初からそこでやるには、体力的、技術的についていけない方が「自分にはスポーツは無理」と思っていることです。勝ち負けや記録更新よりも体を動かすこと自体を目的とした方々の受け皿になるスポーツ団体の地域における認知度が低く、団体数も少ない印象があります。

 5つ目は「競技用車椅子が高額なため購入が困難」であること。バスケ車にしてもレーサーにしても、高額なため、購入した上で体験や入部をしに行くのは、かなり大きな決断だと思います。経済的余裕がない方にとっては、なかなか入っていけない要因となっていると思います。

 これら5つのバリアは、障害者特有の身体的、心理的、環境的不利が背景にあるということに着目すると、行政や関係機関に積極的な対応を期待したいところです。スポーツをやってみたいと思っている人が、やれない現実があることを分かっていただけるとよいなと思います。

 以上をまとめますと、障害者が地域スポーツにスムーズに移行するための条件は以下のようになります。

 当事者側の条件としては、

  1. 1.入院中に運動やスポーツの導入がなされること。
  2. 2.自分に合った運動・スポーツを見つけること。
  3. 3.ある程度の体力と車椅子操作が習得されていること。
  4. 4.活動場所までの移動手段が確保されていること。
  5. 5.ある程度の経済的余裕があること。

 地域側の条件は、

  1. 1.障害者が利用可能な施設があること。
  2. 2.単独で利用することが困難な方にも対応ができること。
  3. 3.身体的に困難な理由があっても、やりたいスポーツをやれる方法を一緒に考えてくれる指導者が配置されていること。

 さて、今後の展望についてお話させていただきます。

 リハビリテーションスポーツは、おもに病院・施設等で機能訓練の一部として実施されています。地域スポーツに移行すると、スポーツセンターやクラブチーム等において、仲間づくりや余暇時間の充実といった個人のQOL向上のため実施されます。その後、競技スポーツを引退した後は、健康維持のために運動の必要性は続くため、それぞれのステージや目的に合わせたスポーツ支援が、我々指導者側には求められていると思います。

 当センターにおいても、対象者がそれぞれの地域において運動やスポーツ活動を継続できるように、医師やソーシャルワーカーと連携しながら個別支援を行っていく予定です。具体的には、対象者が住んでいる地域のプールや体育館などの利用体験あるいは競技団体への体験参加に同行し、対象者のスポーツ適性を評価したり、身体的あるいは環境的にバリアになっているものがあれば解決方法を模索しながら、地域スポーツへの移行支援を行うことを検討しているところです。

 最後に、私が直接関わった4名をご紹介します。今日ではパラスポーツの世界で名前も知られる方達ですが、入院中は「この先自分の人生はどうなるのだろう」と、彼らが不安に駆られながら悩んでいるところを見てきたので、今すごく活躍している記事や映像を目にすることは、とても嬉しいことですし、自分から一歩踏み出して、自分を表現できる場所を見つけることができたことを、本当によかったと思っています。

 社会復帰や社会参加というと、直ちに復職や就労を連想するかもしれませんが、実は人それぞれの社会参加の形があるのだと、彼らから学ばせてもらいました。そのような、誰かの社会参加のための支援に関わることができるこの仕事をしてきてよかったと思います。今後とも障害がある人が色々な形で社会に参加するため、少しでも役に立てるよう私自身がアクションを起こしていきたいと考えています。以上で発表を終わります。ご清聴ありがとうございました。

小田/リハビリテーション・スポーツを始めるきっかけが必ずしも治療、訓練の延長線上にあるわけではありません。しかし、医療におけるリハビリテーション・スポーツの出会いの果たす役割はとても大きくて、そこでの動機づけや導入は非常に大切になります。

 報告にありました、リハビリテーション・スポーツ外来の取り組みは注目すべき点であると考えます。体験をとおして、ひとり一人に合ったリハビリテーション・スポーツとのマッチングを図るための機会の提供の役割を果たしていきます。しかし、退院後リハビリテーション・スポーツを継承していくためには、いくつかの課題があります。この課題は引き続き深めたいと思います。

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