3.地域における活動拡大の実践と課題(世田谷区)

手塚 由美
(一般社団法人輝水会 代表理事)

 輝水会(きすいかい)の手塚です。本日はこのような機会をいただき、私たちの地域での取り組みを皆様にお伝えする機会をいただきましたこと、御礼申し上げます。地域における活動拡大の実践と課題について、リハスポーツ教室と自主活動の実践を通じて東京都世田谷区の取り組みをお話します。

 私たち一般社団法人輝水会についてご説明します。私たちは運動指導者、私と脳損傷による失語症の当事者の出会いから、2012年に設立した公益活動を行う非営利型の一般社団法人です。その出会いというのは、障害がある人、支援する側という立場ではなく、関係を築いてきました。これは1つのモデルになると思います。

 基本理念としてスポーツを通じて双方向に豊かな人間性を、生きる力を養うための健康教育を行い障害のある人に対する社会のあり方を変えていく。2番目には、支援する側、される側という一方向の関係をあらため、一緒にスポーツを楽しむ場面を通じて主体的な地域活動の普及と展開を進めることで一緒にスポーツを楽しむ文化、これは権利が当たり前に地域の人たちに、多様性を認めあう共生社会を作りたいと考えています。その結、障害福祉とスポーツをバランスよく融合して、新しい障害者支援のあり方を模索していきたいと思います。

 この図は事業展開のスキームですが、今ある原点というのは、障害のある人の出会いからです。こちらの総合支援法、文科省の。あとはスポーツ基本法による、誰もが当たり前にスポーツをする権利がある根拠として、法人がございます。最終的には3本の柱、インフォーマルな制度化されていない社会資源開発ということを目的に、1番目には、社会生活自立支援に関する事業、リハスポーツ教室など、そういうことが入ってきます。福祉人材の育成、双方向に考えられる人材を育成していく。そして、地域の連携、縦割りの行政をどう結んでいくのか。それも重要な役割だと思っています。

 世田谷区というのは、現在91万7,000人を超えています。ちょっとした県規模の人口ですね。この緑が世田谷区ですが障害のある人が、もしスポーツをやりたいという、相談を行政にすると必ず、東京都に2つの障害者スポーツセンターがあります。北区、国立市。ここからはかなり遠い位置にあるということがあり、ここを聞いても多くの人が通えない場所であるということをご承知おきください。

 では、リハスポーツ教室導入のきっかけについて話します。私たちが、申し上げた立ち上げた当事者と一緒にラポールを見学したときの衝撃です。当事者から、世田谷区にもこんなのがあったらいいのにねと、そのひと言でした。こんなすばらしい施設はまったく世田谷にはございませんし、施設としては、何もないんですね。そんなところ2016年に世田谷区保健所の健康企画課というところで、世田谷区民を元気にしてほしいというプロジェクトの応募がありました。そこに何を?と思ったとき、障害者スポーツ文化センターの職員の方のアドバイスにより、リハスポーツ教室を取り入れ助成金を獲得したことができたのが一番最初のきっかけです。

 そのあと、公益財団法人世田谷保健センターと連携協定を締結して、地域の既存の会議室、箱物はなにもないので、ちょっとした会議室や体育館やプールを利用して、活動拠点を拡充していきました。コロナ渦でも感染予防を万全に、とにかく主体となるみなさんがやりたいという声を重んじて、週1回の自主活動支援を継続しております。現在では、松原、船橋、若林、九品仏、池尻という5地区の世田谷区社会福祉協議会の協力のもと、活動場所、そして活動費、保健の助成を受けながら、主体的な活動が行えるように支援しています。参加者は、コロナ禍前、年間350名ほどでしたが、施設が閉鎖しないかぎりずっと続けてきていて昨年490名と増加しました。本年は今、500名近く活動の人数が増えております。

 私たちが取り組むリハスポーツ教室の2分半ぐらいの動画をまずご覧いただきたいと思います。令和4年よりリハスポーツ教室という呼称を私たちは社会生活、自立向上のための心のもう1回再起ということを考えましてレジデンススポーツと呼ぶようになっております。

 では動画をご覧ください。

動画音声/卓球台がなくても、いくつか机を並べれば、そこはもう卓球場です。ころがし卓球から速い球のころがし卓球へと徐々に慣れていきます。今度は立ち上がり。卓球にチャレンジです。あっ、上手に立てました。ふだんは立つことが少ないといっていたまえださん、すばらしいチャレンジですね。

 毎回、教室に来るたびに、ボール投げの練習を重ね、どんどん上達していきました。だんだんとリズムよく速い球も投げられるようになりました。練習の成果もありゲームにも参加できるようになりました。

 高次脳機能障害があります。まずは呼吸の練習を繰り返します。今日は泳ぎにもチャレンジです。以前やっていたという平泳ぎを見事に泳ぎきりました。仲間と達成感を共有です。おおばさんの感動した声に周りの仲間やサポートする私たちも大喜びです。

 今回のリハスポーツ教室は、毎回笑顔が絶えませんでした。ボッチャ、卓球、プールを通じ、参加する仲間の間に自然と絆が生まれます。サポートする私達も一緒に楽しみ、感動をいっぱいもらいました。どちらかがしてあげる、してもらう関係ではなく、お互いがスポーツを楽しむ仲間です。まさしく、心と体のリハビリです。

 今の映像は、リハスポーツ教室、一番初期の映像です。主には脳血管疾患の方たちを集めたいと考えていましたが、地域にはいろんな障害の方がいまして、全介助や神経難病の方もいますし、ほぼいろんな方が参加していると思っていただければと思います。

 リハスポーツ教室で行う種目について説明します。私たちの会場は地域のちょっとした会議室なので、あまりいろいろ選択肢はないのですが、ボッチャという誰でも楽しめる、重度脳性麻痺者のためのパラリンピックの正式種目ですね。ジャックボールに白・赤のボールを近づけたら勝ちという、単純なゲームですが、杖歩行の方も車椅子の方も椅子さえ準備すれば誰でもできる。卓球台がどこでもあるわけではないので、机を並べて卓球台にします。最初は転がす卓球から徐々に速く、そして慣れていく。玉もたくさん用意して、玉を取りに行くのが一番危ないので、球拾い係と分けています。

 水中運動です。私は元々水泳選手でしたが、その後、水中のリハビリを何年もやって、脳血管疾患の方に出会ったときに、いかに障害があると普通にスポーツをする機会がないのかということで、私の人生がこちらを向きました。その中でも、水中運動というのは、障害のある方が誰でも必ず1回はプールや海に行ったことがあるんです。障害が、受傷したりすると危ないんじゃないかとなります。でも逆にそこに入れただけでも自信になる場所なので、私たちはできる限りプールは採り入れたいと思います。最後にはスポーツの要素を取り入れた泳ぎ。片麻痺でも、息を止めるところから練習して、4種目制覇している方も、今はたくさんいらっしゃいます。そういう種目を用いています。

 教室は、1回90分です。この流れは約15分で体調チェックや、物品の準備、準備体操を行います。できるだけ皆さんに参加してもらってます。60分間の体験の後、15分整理体操や、体調チェックや片付けをします。最後のグループディスカッションを大切にしていて、失語の方もいらっしゃいますが、ゆっくり間に入って、「今日はどうだった?」など、仲間意識を持てるように、その日の感想を必ず話すようにしています。

 年間のリハスポーツ教室の実施計画です。毎週1回、全部で10回というのは、2.5か月で教室は終わります。教室型なので、その10回で終わるとき、皆さんに必ず意思表示、どうしたいかを伺います。90%はこのまま続けたいと、約半年ぐらい、自主活動のサポートに入ってきます。これを年間、私たちは間を空けずに2.5か月をずっと1年間続けて、5期にわたってリハスポーツ教室を続けています。いつから入ってもいいように、計画を変えています。

 教室の種目は下にあるように、導入、オリエンテーションと、ボッチャは、導入としては誰もが楽しいと思うので、最初にボッチャを持ってきて、そして卓球をやり、最後に人間関係ができた上で水中にもっていく。プールがあればですが、こういう計画を立てています。

 教室は、開催から自主化への実施計画の例です。年間1クールから5クール開いています。それがまずそこの場所で、既存の自主グループが立ち上り、近いところに合流するとか、仲間意識が強くできたところは同じ場所を借り続けて、自主グループを作っていく。それを、保健センターと私たち運動指導員が、朝からずっといるのではなく、できるだけ問題点があれば知らせてもらいながら、つかず離れずの支援を、今5箇所で自主グループが展開しています。

 リハスポーツ教室の特徴と留意点です。ラポールのような職員さんがいつも在中しているところで行ってはいないので、まずは安全面の確保が必須です。ただ、どんな障害の方でも、病院から退院された後、地域に溶け込むためには、自分で責任を持って動くことも大切なので、確認書を交わしながら、自己責任の下で参加いただいています。ゼロスタートのところです。運動指導員は、目の前にできない方がいて当たり前なので、障害の有無にかかわらず、今ここから何ができるか、できるだけ考える癖をつけようと思っています。そこがとても大事なところだと思っています。

 次は、一人ひとりのできることを奪わない。これは不思議なのですが、体験会や教室に福祉職の方が参加したり、見学にいらっしゃるんですね。そうすると、何も言わないのに、福祉の方はその人が運べるボールまで運んでしまう。そんなところからできるだけ手を出しすぎないで、ボールを拾うことは杖歩行の方は達成感があることに気がついて、じゃあポッケに入れようね、あとの2つは脇に挟んでなど、工夫しながら、できるだけ手を出しすぎない、時間がかかっても車椅子の方も下のボールを拾うなど、考えていくようにしています。

 適切な配慮ということで、先ほど卓球のときにお気づきになりましたかどうか、あの方はラケットが握れなかった。それを少し包帯で固定して、そして卓球が楽しめるようにする。でもそのうちに、包帯を外しても持ててるね、ということが起きる。道具や方法の工夫が私たちの一番の役割かなと思います。

 あとは、チャレンジ精神を大切に。立ってやりたいという方に危ないからやめましょうじゃなくて、どう安全に気をつけてやっていくか、一緒に考えていきます。そして支援者、サポート者は初期の頃は後から探していました。なかなか自立、自主化にうまく運べないんですね。最近では、支援をする人やサポートする方も一緒に楽しみながら教室に最初から参加いただき、仲間づくりや対等な人間関係を大切にしながら活動していく方法をとっています。その結果、少しずつ、主体的に活動できるようになる。決して線を引いたように明日から、ではなくて、人によっては時間がかかる人もいるので、そういう気持ちで関わることがすごく大切に思っています。

 とはいえ、私たちはこういうポスターを刷り、各行政やいろんなところに参っています。障害のある人が自分の想像以上にできるを増やす。仲間に出会い、社会参加する。参加者の笑顔もある、家族の喜びもある。こういうものをたくさん配りますが、実は障害のある方がこれを持って参加する形には至っていません。

 参加者のきっかけをつくった紹介者のだいたい統計とると、在宅医が非常に多いです。筋力アップ教室のコーチなど顔の見える関係の方、障害福祉センターの職員さん、ご家族、そういう形でご本人、家族は比較的スポーツができると思っていいないということがあるんですね。今、ケアマネですとかちょくに関わっていて、信頼おける方たちに、こうやって安全に取り組んでいることをまずわかっていただいて、そこから、後押しをしていただきたいということに力を注いでいます。

 地域展開の課題です。参加者をどう募るかの課題です。潜在的な対象者は、地域にたくさんいらっしゃると感じています。障害があることでもうスポーツはできないと思っている当事者や家族が多いのも現状です。あとは信頼のおける顔の見える関係者、医療従事者や福祉の専門職に、私たちのやっていることをきちんと周知して安心できるものであるということをわかっていただいた上で後押ししていただくことが大切だと感じています。

 2番目、地域に既存の場所を利用する利点と課題。誰か職員さんがいるわけではないので本当に既存の今ある場所が、車椅子の方も入れるのか。例えばトイレの問題。安価で借りられるが、見守り体制がとれているわけではないので、そこが支援していただけるボランティアの方、連携をしっかり図ることがすごく重要だと感じています。

 3番目、コロナ禍の課題。今乗り越えてきてすごく感じるのは、コロナの前に参加していた自主活動していた方は、全く問題なく継続して参加されています。参加者の声が、もうやめないでほしい。大丈夫だ。気をつけてやるから続けてほしい。いかに安全に活動を継続させていくか。楽しいな、またきたいな。心が動くところにあって、それが継続参加につながると感じています。ただ新たな参加者はコロナ禍でいろんな活動を自粛して、動かないことが板についてしまっている方には、以前よりさらに募ることが難しい状況にあると感じています。

 持続可能な取り組みのために。活動場所の確保。5箇所と申し上げましたが、地域の希望丘地域体育館、子育てステーション梅ヶ丘や若林ひだまり友遊会館、本部の地区会館、小学校の多目的室といった皆さんの地域のどこにでもある場所を利用しています。

 ここは参加者が100~300円程度の低額で場所を借りられる利点があるので、これは非常に大きいと思います。全国にも社会福祉協議会さんがありますが世田谷区の社会福祉協議会に連携を図って、地域でこういう取り組みをしたいということから、ふれあいいきいきサロンという、保険や活動費を助成してくれる取り組みと合致して障害のある人や、地域の高齢者やボランティアさんが一緒に活動しているので、そういう取り組みが少ないことを評価していただいている。それがお互い、三方良しの協力体制になっているのかなと感じます。

 あとはサポート者ですね。地域で社会福祉協議会には、地区サポーターとして登録している人が結構います。そういう方だったり、もと社会福祉協議会の職員さんだったり、ボランティア希望の方、中には引きこもりだが、なにかできないかという、最初はちょっとしたお金を集金とかそこからだったんですが、今は見事に私がいなくてもリハ・スポーツ教室を主導でやっていただける人に育ってくれたりしています。こういうサポート体制がないとなかなか難しいと常々感じています。

 今、自主活動拠点というのが5つあります。先ほどのように90万人いるなかの5箇所は全く少ない。ですが、地域活性化につながっているという話をちょっとしたいと思います。

 スポーツをツールとするから、誰もが楽しい、またやりたい。ここには障害があるなし、高齢、全く関係ないです。一緒に楽しむ仲間になれるということですね。障害のある方にとっては自信と主体性の再構築、社会参加への一歩になるということです。障害のある方は自分が一番たいへんじゃないかと、思って来られるかたも多いです。でももっと重度の障害のある方に出会ったときに、自分はやってもらうばっかりだったけれども、ちょっとしたお手伝いができる。そういう関係性が築ける、それも実感しております。

 そして、支援する側にとっては障害があることへの理解。接したことのなかった方は気を使い過ぎて何をしてよいかわからないという人も多い。でも、一緒にスポーツをするので、なんてことない、普通の仲間だという気持ちになる。そういう支援者の過剰なやってあげなきゃ感というのが併用していきます。そこも大きいと思います。

 次に、スポーツ庁が障害のある方のスポーツ参加率を上げたいとしています。これ「Sport in life」コンソーシアムにも法人として参加しているのですが、特に障害のある方のスポーツ実施率は、普通の方たちの半分以下なんですね。そういうことにも貢献できるのではないかと考えています。

 地域拠点から何が起きているかというと、地域の自主活動している周りの社協さんから、例えば、地域の小学校が障害のある方と一緒にボッチャをしたい、福祉教育の一環として来てくれませんかとか、そこの拠点で10月10日、元体育の日、その日にもやるんですが、多世代交流をやりたいのでお手伝いをしてくれないかという、そういう依頼が来ていて、拠点が地域活性化につながっている実感がすごくあります。ですので、地域共生社会を実現するというのがスポーツというツールを用いることで多様性を認め合う共生社会づくりの実現になるのではないか。スポーツを通じた地域コミュニティの活性化へと考えております。

 心が動けば体が動くということで、やらされている感ではなく、その人が心動くということが、支援する側も、される側も一体となって幸せ感を感じる活動になるのではないかと考えております。ご清聴いただきありがとうございました。

小田/世田谷区におけるリハビリテーション・スポーツの取り組みを報告していただきました。都内であってもリハビリテーション・スポーツの活動を実践し、拡大していくことは大きな労力が必要であると感じます。様々な工夫が伝わってきました。手塚さんの報告から、リハスポーツ教室から自主活動への展開というのが、実は、活動を拡大していくために、大きな取り組みであることが伝わってきます。また、報告にありましたが、スポーツを通じた地域コミュニティの活性化が挙げられています。

 先程の奥田さんの報告では、田舎ではリハ・スポーツはみんなのものとありました。リハビリテーション・スポーツを継続していくためには多くの人の参加が必要となります。そして、それを支える仕組みづくり、関係機関との連携といった、支える人の環境整備が大切であることも分かります。手塚さんの報告からは、様々な機関との活動を展開させていました。また、活動を展開していく上では、関係機関からの助成を得ていくことも必要じゃないかと思います。?

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