シンポジウムII パネルディスカッション

パネリスト 宮嶋 利成(千葉県千葉リハビリテーションセンター 理学療法士)
奥田 真美(NPO法人共育庵そな~れ デイサービスそな~れ 介護職員)
手塚 由美(一般社団法人輝水会 代表理事)
司会進行 小田 芳幸(横浜市総合リハビリテーションセンター)

小田/では、3名の報告を受けまして、これから皆さんと少し内容を深めていきたいと思います。

 実は、ZoomのQA機能、チャットからご意見をいただきましたので、それも踏まえて、課題を整理していきたいと思います。地域への移行、リハスポーツの導入、展開に共通するテーマをシンポジストの皆さんからの話から見えてきたものを整理しました。

 1点目はリハスポーツの導入と動機づけの必要性。2点目はリハスポーツを支える人の環境を作ること。支援者の確保、支援する仕組み、関係機関との連携、技術知識のバックアップ。3点目は、活動する場所の確保、環境整備をすること。4点目、希望者、人と環境のアクセス、参加のための移動手段や必要な情報保障も入ってきます。さらには財源をどうしていくのかという課題も入ってくると思います。

 今、5点挙げましたが、シンポジストの皆さんで、気になっていくところなど、自由に発言していただきたいですが、どなたか口火をきってください。

宮嶋/奥田さん、手塚さんの発表を聞かせていただいて思ったことは、私の印象では、地域にあるスポーツ団体というと、競技志向の団体を思い浮かべます。そのような団体は、昨今、体験会やイベント等を盛んに開催しているため、存在感が大きいのでしょう。しかし、勝ち負けや記録更新に拘らない人もたくさんいらっしゃると思うので、そのような人たちの受け皿になる団体・クラブ・施設等が必要で、もっと存在感を高めていく必要があると思います。

 お二人の発表では、自分たちが体を動かす場を自ら作り上げて、そこに人が集まる仕組みを構築したという点において、「無いものは作る!」という発想ですよね。そうなると、横のつながりが大事だなと思いました。お互いの存在を知って、ご縁を作らないと人をつなげられないので、すごく横のつながりが大事だと感じました。

小田/人の観点からいきましょうか。つながりをつくっていく、様々な意味であると思います。連携することもそうですし、様々な人たちの力を借りることがあると思います。人の関係を作ることでリハビリテーション・スポーツを展開しようとなりますが、お二人の意見をきかせていただければと思います。

奥田/私は昨年の春に、西伊豆町から静岡市清水区という、都会と言いますか、そこに職場を変えたんです。今、清水にいまして、ボッチャを自分の務めているデイサービスや、地元の小学校や公民館で行われている老人大学みたいなところで、ボッチャなどをやらせていただきました。

 私は大きな都市に行けば、いろいろな施設のバリアフリーも進んでるし、人もいっぱいいてニーズも多く展開しやすいかなと思ったら、意外と逆で、大きいが故に、誰かがやってくれるだろうとか、社協がやるんじゃないのとか、何か人の、人間は多いけど、人のつながりが希薄といいますか。田舎はボッチャやってみない?というと、老人会のまとめ役みたいな人が、面白そうだね、どうするのと声をかけてくれたり。設備は涙が出ちゃうくらいひどい状況なのですが、それを上回る密な人とのつながりがあって、1つ投げかけると、それはいいじゃん、やってみようかと、話がだーっと進むところは、田舎と都市部に住んでみて、都市部だからやりやすいというものじゃないと、今まさに体感しているところです。基本となる住民同士の、ふだんからの密なつながりがベースにあるか、ないかは大きいかなと思いました。

小田/ありがとうございます。田舎と都会、変わらないかなと思うんですが。手塚さんに聞きたいのですが、いろんな人たちとの連携をうまく作っていきながら、取り組んでると思います。人との関係から言うと、関係づくりは、どんな工夫をしながら取り組まれましたか?

手塚/最初のきっかけは保健所の助成金だったので、お金の心配もなくやって、世田谷区でもとても評価されましたが、この事業をどうやって続けていこうかという時に、場所をたまたま提供してくれたのが保健センターでした。保健センターがやっていたのは、高齢者の健康づくりだったんです。

 でも、保健センターとして、公益財団法人としても障害がある人の健康づくりをしなくてはいけない、という課題がずっとありました。ただ、何をしたらいいか分からないというところに、私たちの取り組みが合致して、こういうふうに人が変わっていくんだというところに着目してもらいましたが、そこも行政からの委託事業なので、3年間でお金をいただく形での提携は終わりました。

 そうやって考えたときに、持続させるために社会福祉協議会、地域にいくらでもありますよね。そこが私たちのやってるところを見に来てくれたとき、今までのコミュニティとは違う、楽しそうにみんながキャーキャー言いながら、高齢者も障害のある人も混じり、なんか楽しそうなことをやってるというのを、社協さんも国からというか、社会福祉法人ですから、地域にできるだけ障害のある人のコミュニティを作りたいというところがあり、こちらがお願いするだけではなく、ニーズが何かを知ったところが、ちょうど合致したような気がします。

小田/地域全体の課題ということ、それとリハビリテーション・スポーツをどう使っていくかうまくマッチングさせたこともあるでしょうかね。そこに助成金もついてきたのではないかと思います。それも1つのヒントになるかと思います。

 人の環境を話しましたが、皆さん共通して出てきた内容は場所の問題。大きかったと思います。やる場所がないとか、その場所にアクセスしていく方法が難しい。場所の問題とアクセスの問題、この2つについて、皆さんのご意見を聞きたいと思います。いろんな工夫をしながら取り組まれていたと思います。

 場所は、たとえば卓球台がなかったら、テーブルくっつけて卓球やればいいじゃないかというのもそうですし。ボッチャやる時に、畳の目で転がっていってもやろうじゃないかとあったじゃないですか。場所をどう作るかも大きなテーマだし、もう1つ、アクセスの問題が残されると思います。この2つの課題について何かヒントがあれば、伝えていただきたいと思います。いかがでしょうか。

宮嶋/体を動かす場が無いという問題に関しては、私も退院した患者さん達の切実な声を聞いて、「じゃあ、当センターで外来というかたちでやろうか」と思ったのがきっかけです。両先生のお話を伺っていても、無いなら誰かが作るしかないという結論に至ります。現実には、それでもなかなか外に出ることができない方もいらっしゃいますが、それでも地域に運動・スポーツの拠点が増えることで、アクセスできる機会は増えますし、いつか環境面が整って個人を取り巻くバリアが解消されれば、なんらかのかたちでスポーツを始めることができるようになるかもしれません。

 一方で、場があっても1人ではなかなかそこに行けないと思うのです。その点に関しても、両先生が参加者に主体性を持たせたコミュニティを意識して作っていらっしゃることが、私には解決の大きなヒントとなりました。当事者同士のつながりが弱い、あるいは皆が受動的態度である場合、活動を長く継続させていくことは難しいと思います。コミュニティを作り、そこに主体性を持たせていく。さらには協力してくれる人を巻き込む。簡単にできることではないですが、地域に作った拠点が長く活動を維持していくためには重要なことであろうと思います。

小田/整理しますね。

 宮嶋さんの提案で1つは、活動の場所の問題、アクセスの問題、この2つを解決するための提案として身近なところに作っちゃえばいいじゃないか。皆さんが参加できるようにしていったらいいのではないか。そうすれば、場所の確保の問題とか、そこへのアクセスの問題も軽減されるだろう。一方でそれを支えていくためのコミュニティの課題がでてきました。

 すごく大きな課題ですが、最初の話で、コミュニティの話の前に2つのテーマ、場所の設定と、アクセスの問題について、奥田さん、手塚さんのお考えを聞かせていただきたいと思います。

奥田/田舎は西伊豆地域は、バス、公共交通機関。それも1時間に1本あるかないかというようなことなので。そこの車椅子ユーザーであったり、しかも田舎なので独居とか、そういう方もけっこうな割合でいらっしゃるので、とにかくアクセスは、自分だけの力では解決できないところがあると思います。

 場所ということに関しては、様式トイレが1個しかないところで、ボッチャをやったり、トイレに行きたくなったら、プールで、和式しかないから、トイレ行きたくなったら、その人は終わりとか。場所がということは、言い訳にしたくないところがあって。私たちが動くことで社会は変わっていくんだというところを、障害者の方も、そういう力を、感じてほしいところもありましたので、結構スパルタ的ですが、そういう場所でやる中で、確実に変わっていくんだということを障害者の方も感じてくれたと思います。

 アクセスに関しては障害者でなくても、みんな買い物が困っているんですよ。地元の高齢者が買った荷物を持って家に帰ってこれないという。地域全体の問題ですので、そこは私たちが、車、社協からマイクロ車両を無料で借りて、私たちが運転して、送迎はやるということをやりましたけど、それだけで、自主性が培われないということはなく、そこに行ったら、自分たちで一生懸命やるという、そこのところは協力できればいくらでも協力するよという感じだと思います。それよりも、まず動き出すことが、最初はちょっと過保護かもしれないですが、動いていく中で変わっていくことを信じたいなと思ってやっていました。

小田/奥田さんからの2つの提言です。1つは、場所がなくて使い勝手が悪かったら、直せ、障害者もみんなでアクションを起こそうじゃないかという提案です。

 もう1つは、障害者が困っていることは地域全体の課題。高齢者だって買いものに行くのも大変。それも地域全体の課題として解決していくためにアクションを起こしていくことも必要ではないか。それもリハビリテーション・スポーツとくっつけながら考えていこうということもあるかと思います。厳しくなりましたが手塚さん、これを受けて何か提案してください。

手塚/現状としては、90万人もいる世田谷区にたった5つぐらいというのは、もう通いきれないというのが現状ですね。ただ、このリハ・スポーツというのが楽しい、またやりたいという意識がプラスに働くというのは、今までだったら、迎えに来てくれなかったからやらないとか、なんとかして行きたいに変わるんですね。

 最初は高次脳機能障害がひどくて、ヘルパーさんがいないと道を忘れてしまうから、行けない。それがだんだん付かず離れず、自分で乗り降りして、次の活動にいけるとか、もともと車椅子乗っていなかったが、電車は杖歩行では、リハスポーツ通うために、ハイブリッドのウィルを借りて通うとか、来るようになるとか。そこは主体性かなと。障害があるから、なんでもやってくれるのもおかしい。でも、工夫、なにか道具や人のパワーを利用して。

 世田谷区は緊急介護人制度というのがあり、満杯になってしまった自分のサービスを20時間まで緊急介護人という設定をすると、その人に送り迎えをしてもらったことに対して、世田谷区が1時間1000円入れてくれるのを利用したりというのが現状です。障害枠で世田谷区は場所を借りると、ほぼ無料だったりする制度がある。それを利用して場所を借りるのにお金がかからないようにするとか、かなり徹底して調べて使うようにしています。

小田/手塚さんからの提案、難しいですね。主体性という問題に注目します。障害当事者も自分の主体性を持って自分のアクティビティを上げていくことも大事ですし、都会というところでいうと制度、サービスがたくさんあります。これをうまく使っていくこと。これもリハビリテーション・スポーツ展開してくのに大切かなと思います。ここまでの話で会場にふりたいと思います。今、シンポジストの皆さんからのお話ありましたが、会場の皆さんから、ご意見やご質問をいただきたいと思います。なにかありませんでしょうか? 

会場/横浜市総合リハビリテーションセンターの高岡です。小田さんが言っていた5つとは違ってしまいますが、いくつか課題で出ていた、参加者を集めるというところ。場所があっても参加者が集まらないということも、課題としてあるのかなと思いました。追加になるかもしれませんが、ご提案あれば教えてください。

小田/この後、この話を少し入れようかと思っていました。当事者の方に継続的に参加いただくことが大切だと思います。宮嶋さん、これはなかなか苦しくて、病院から出ていってくれないと、ここが滞留場所になると困るというのはあると思います。

 地域で参加者を募っていく、利用者さんがいてなんぼのものだと思いますが、そのあたりの確保の課題、コマーシャルの課題など、何かありますか。

奥田/集めるときは、地区回覧をまいて、その中で、私たちと何も関係のなかった人から応募があったのが、西伊豆町、松崎町からたった一人でした。あんなに回覧を入れたのに。スポーツできるのかな、というまずそこのハードルが自分自身で想像つかないところがあり、そういうチラシをまく方法、広報の仕方が、最初はハードルがあるのかなと思います。

 でも、実際に失語症の患者会とのつながりがすでにありましたし、そこでどう?とか、自分もデイサービスの利用者さんにどうかな?と。意外とみんな発病前は毎日マラソンやってたとか、毎日プールに行って鍛えていたとか、スポーツが日常的にあった人たちが結構いらっしゃった。それだからといって、チラシを見て「申し込もう」とはならない。そこは人を介在して、こういうことがあるんだけど、私も行くからあなたも行ってみない?みたいな、そういう誘い方をしないと、動かないのかなと。参加してみれば、そこには専門の指導者がいて、適切なアドバイスをもらって、1日のうちに、「できるじゃん」と感じてもらえればいいけど、最初の一歩が、やはり顔の見える関係でくどいていくというか、そういうことなのかな、と思っています。

手塚/奥田さんがおっしゃるように、絶対に心を掴む自信はあるんです、1回でも来てくれれば。ただ、そこに足を向けるというところまで・・・。私たちの傾向にもあったように、最初にリハビリテーション医がこの取り組みを理解いただいて、そこは医者命令ですよね、ある意味。デイにもどこにも行きたくない、でもスポーツだったらという、リハビリをあきらめたような人に声をかけて、最初は渋々くる、でも、そこでハマるんですよね。その力は本当に大きいと思いました。

 医師の力、行く、行かないじゃなくて、行きなさいみたいな。リハ医にご理解いただくことが大事です。そこからケアマネさんに浸透していくとか。地域の病院で、紹介したいけど安全なのか分からないからやりに来てほしいと言われて、病院でボッチャ交流もしましたが、そういうことをまめにしていくのが大事かなと思います。

小田/宮嶋さん、リハを行っている人として、最初のリハビリテーションスポーツの導入、動機づけ、それを地域に展開していくときに、リハとしてやらなきゃいけないことがあると思うんですね。今の話だと、リハビリテーション医療から継続して、紹介していくことがあると思いますが、ご意見は?

宮嶋/リハビリテーションスポーツは、障害を負った当事者にとって、おそらく最初に出会うスポーツ場面になるかと思います。そう意味では、発表の中でも申し上げましたが、スポーツへの動機づけのために、まずは導入で失敗しないことを注意しています。人間も動物なので、動くこと自体の欲求を持っていると思います。潜在的に動きたい欲求はあっても、自分は動けないと思い込んでもいます。卓球を例にすると、「自分はラケットを持つことができないから、卓球はできない」となりがちだと思います。用具やルールを工夫することで、「できた」という成功体験を持たせることが導入としてすごく大事で、リハで経験したスポーツをその後も地域において継続するかどうかの鍵になると思っています。

 この点に関しては、障害がより重度であるほど、成功体験を持たせるための工夫に難渋するはずです。現実的に重度の運動機能障害がある方は、車椅子バスケはおろか、ボッチャを楽しむことすら難しい場合もあります。必然的に、移動手段の確保も大変でしょうし、コミュニティづくりも大変であると思いますが、そこを創意工夫するのが、リハとしての我々の使命かと考えます。

 私見で恐縮ですが、体を動かせなくてもその場に来てもらうだけでも、アドレナリンが出てスポーツの興奮を味わえると思っています。また、最近ではeスポーツをはじめとする映像・情報媒体の進出は目覚ましく、それらを含めた様々なツールを活用してスポーツすることを我々が提案できるように、他領域への関心を深め、つながりを模索する必要があると感じています。

小田/医療が送り出す側、地域が受け手の側かもしれませんが、送り出す側と受け手の関係は大切だと思います。そこがうまく連動していく。重たい障害の人たちも、これからどのようにリハスポーツに関わるか、これは、大きなテーマだと思います。eスポーツという話もありましたが、これらも踏まえて、地域にそういうことを作り出していかなくてはならない。一方で、リハ側では、そういうことができる人たちを見つけて、入院してる中でどう動機づけするかは大きな課題になると思います。

 最後に、シンポジストの3名から、今後、何やりたい、どうリハスポーツ展開させるか、これは宮嶋さんからで大丈夫ですか。

宮嶋/移動手段がなかったり、障害が重かったり、お金がなかったり、様々な理由でリハビリセンターや障害者スポーツセンターの利用が困難な方、本当はスポーツに興味があるけど、バリアがあってやれない方の受け皿を作りたいです。その1つとして、eスポーツなり昨今発展してきた様々な媒体を使って、「こうゆうこともできないだろうか」と、新しいやり方に変更したり、チャレンジしていく必要があると考えています。

奥田/私も西伊豆町で展開していたことと、今、清水にいるというところで、全然昔やっていたやり方では通用しないんだなと。地域でのやり方、展開の仕方があるんじゃないかなと思います。田舎とか都市ということではなく、その地区、地域の状況に応じてどう展開していくかを考えていかなきゃいけないというのが1点。

 今はコロナで集まることが非常に難しいということで、西伊豆も高齢化した町ですので、住民の方のコロナにかかったら大変だという意識が非常に強くあらわれているようですので。せっかく築き上げたボランティア、サポートボランティアの方たちもそういうところへ行くことを躊躇するというか。作り上げてきたものが、コロナが終わったときに、また再開できるのかという、それはすごく大きな不安として、スポーツに限らず住民の助け合い活動が、コロナ明けた時にどうなっているんだろう、元に戻るのかなという不安があります。それも大きな課題になってくるのかなと思います。

手塚/障害のある人たちのスポーツが、イベントだけであったり、競技ということだけに絶対偏りたくなく、私たちが当たり前にふだんスポーツ楽しむように、当たり前のことを当たり前にしたいということが私の希望です。

 そのためには、支援する側、される側という一方向だったコミュニケーションを、一緒に双方向でということが、地域の活性化になると思うので、スポーツを通じて地域コミュニティの活性化は絶対図れると思うし、図りたいと思います。

小田/もう少し時間が欲しかったですね。この話、進めたかったのですが、時間になりました。リハビリテーション・スポーツが地域で展開していくために、今お話ししていただいたハード、ソフトの両面から環境を整えることが大切だと思います。少し時間が押してしまいました。ありがとうございました。

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