総合リハビリテーションのあり方 2.総合リハビリテーションのあり方検討委員会 報告 ―当面の課題と展望―

伊藤 利之
社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団 顧問

 総合リハビリテーションのあり方検討委員会の中間報告では、障害児者の総合リハビリテーションを実現するために必要な現状の課題として、①医療と教育、医療と福祉制度間の壁を越えた連携、②障害者を対象とした地域リハビリテーションの普及、③ADLの自立を前提としない就労支援の追求、などが提示された。なかでも、就学時における医療と教育との連携強化や中・重度障害や高次脳機能障害を有する若年障害者への就労支援は、総合リハセンターにおいても困難性の高い課題であり、当面の重点課題とされた。

 そこで、中間報告後に開催した2回のオンライン会議では「当面の重点課題」に絞って議論を深め、今後の展望について検討した。なお、ここに提案した「今後の対策」については、関係者が最初の一歩を踏み出すための参考に、私的意見として提案するものである。

1.医療から就学へ

【到達点】

  • ・歴史的に医療と教育との関係は、肢体不自由児については医療中心、知的障害児については教育中心で行われてきた経緯がある。
  • ・1979年に養護学校の義務制が始まり、さらには発達障害児への対応に迫られるなか、相互協力という新たなステージに入った。
  • ・その後は社会情勢の変化もあり、次第に本人/保護者の意見が尊重されるようになった。
  • ・医療情報についても、人事交流を含めて教育側が医療機関などから積極的に収集するようになり、連携の絆は明らかに強化されてきた。

【課題】

  • ・障害者権利条約に基づくインクルーシブ教育を進めるため、本人/保護者を中心とした幅広い情報共有と相談の仕組みが求められている。
  • ・具体的には、教育機関の調査員や特別支援学校の教員が情報収集し、それらを基に教育支援委員会で検討する仕組みとなっているが、実際現場においては担当者1人による放射線状の連携にとどまっていることが多い。
  • ・この連携スタイルは初歩的であり、さまざまな事項が担当者個人の力量や意欲、本人/保護者の発信力に依存せざるを得ない脆弱性を内包している。

【展望】

 就学年齢になったお子さんを保護者が安心して学校へ送り出せる環境を整備するには、本人/保護者を中心に、医療と教育担当者との間で自由に話し合える場が必要である。本人/保護者の立場に立てば、教育担当者による聞き取りや診断書・診療情報提供書だけでなく、医療と教育担当者間の直接的な情報交換の場に自分たちも同席して希望や意見を述べたいと思うのは道理である。ちなみに、その場合の医療担当者は校医ではなく、療育などを担当している主治医であることが重要である。

◇今後の対策(私的提案)

 本人/保護者と医療・教育担当者間の直接的な交流の場を保障するには、以下に示す3点の条件を満たす必要がある。

  1. 1)3者共有の会合を設けて相互に顔の見える環境を整備すること
  2. 2)3者の会合は恒常的に開かれ相互に意見交換ができること
  3. 3)当事者の希望や必要性があれば高頻度に開くこともできること

 そのためには、医療・教育・当事者間でデジタル環境を整備し、一定の時間を設けてオンライン会議を開くようにすれば具体化できるのではないか。少なくとも、医療と教育の間では、就学時に担当者間でリアルな引継ぎ会議を行うとともに、その後のオンライン会議の環境を整備することは経済的負担もほとんどなく、今後の連携強化に有効であろう。

2.医療から就労へ

【到達点】

  • ・障害者の就労問題は、近年、リハビリテーションや障害者の権利擁護の視点だけでなく、真に労働力としても期待されるようになり、社会的にも注目を集めるようになった。
  • ・障害者雇用促進法の成果もあり、身体・知的・精神障害(発達障害を含む)のいずれも、軽度障害者においては雇用率が上昇している。
  • ・一方で、国や地方自治体、公共団体などで障害者雇用の水増しが明らかになるなど、本来なら模範となるべき公共機関の不適切な状態が発覚し、厳しい批判に晒されている。
  • ・現在、総合リハセンター内の自立支援や就労支援サービスは中・重度の障害や高次脳機能障害などに移行している。

【課題】

  • ・就労支援の対象が合理的配慮を必要とする中・重度障害者へと移行するにつれ、医療と職業との連携は重要性を増しているが、両者の相互交流は乏しくお互いを繋ぐ社会基盤は脆弱である。
  • ・とりわけ回復期リハビリテーションのゴールは在宅生活や介護保険サービスの範囲にとどまっていることが多く、医療側からは社会・職業リハビリテーションのプロセスが見えにくい。
  • ・医療と職業を繋ぐ要となるべき相談支援事業所や相談支援専門員の存在感が薄く、介護保険制度下では十分な役割を果たしていないのではないか。
  • ・在宅生活へ移行した後も、訪問系サービスは主にADLの自立や福祉・高齢者施設への通所事業へ繋ぐことに終始していることが多く、システムの構造上からも真の社会参加を実現する道は険しい。
  • ・今日、多様な働き方が推奨されるようになってきたとはいえ、依然として就労にはADL自立が前提となっており、個々人への合理的配慮は必ずしも進んでいない。 

【展望】

 急性期リハビリテーションへの移行と介護保険制度の創設は、医療保険で行う医学的リハビリテーションの期間を大きく短縮した。一方、障害者に対する社会の受け容れは、ノーマライゼーション思想の普及を背景に、障害者権利条約の批准、障害者差別解消法や雇用促進法による合理的配慮の規定などが整備されたこともあり、軽度障害では就労やスポーツ・文化活動などへの社会参加が容易になった。

 一方、中・重度の障害や高次脳機能障害では未だ在宅生活レベルのサービスにとどまっていることが多く、今後は、彼らに対する就労や社会参加への支援が急務である。

◇今後の対策(私的提案)

 医療と職業との連携を強化する具体的な対策例を以下に示す。

  1. 1)各地の回復期リハビリテーション病棟連絡協議会などを通して、MSWやリハビリテーション専門職を対象に、職業リハビリテーションの知識や技術を実践的に広報し、障害者の就労支援への関心を高める。あわせて、個別支援計画を立てる障害者相談支援専門員との連携や支援の必要性についても認識を深めてもらう。
  2. 2)地域リハビリテーション広域支援センターが主催する研修会などで、介護保険の2号被保険者への対策として職業リハビリテーションに関するテーマを取り上げ、地域で働くCMやリハビリテーション専門職、看護・介護士などに障害者の就労支援への関心を高める。
  3. 3)当事者からの発信を基に法制度の改革を進め、必要に応じて通勤介助や労働を介助する人的サービスの拡充を図る。
  4. 4)ARなどのデジタル技術の開発と普及による就労やスポーツ・文化活動への参加を試みる事例を増やし、社会に積極的に広報する。

 以上のような活動を通して、まずは、医療と職業との相互理解を深める必要がある。そのうえで、相互に顔の見える関係構築を図り、回復期リハビリテーションの段階から就労へのアプローチができる体制を整備する必要がある。

 ちなみに、制度的保障としては、就労支援センターにOTの配置が求められているように、少なくとも地域リハビリテーション広域支援センターには職業リハビリテーションの専門職を配置するようにしてはどうか。そうなれば、地域リハビリテーションにおいても就労や社会参加への意識が強化され、その先に、この分野におけるソフト・ハードの環境整備が見通せるようになると考える。

 とはいえ、重度障害や高次脳機能障害者の就労を実現する道は険しく、医療と福祉が連携したからといって、受け手である企業の意欲・やりがいなどを含む前向きな姿勢に繋がらなければ実現は困難である。この点を補填する対策としてICT技術の開発と普及は必須であり、今後の研究課題として最も重視されるべきものと考える。

<参考>

総合リハビリテーションのあり方に関する検討会 委員一覧(五十音順)

飯塚 真理 国立障害者リハビリテーションセンター
第二自立訓練部肢体機能訓練課機能訓練専門職
家平 悟 障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会(障全恊) 事務局次長
伊藤 利之 社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団 顧問
菊地 尚久 千葉県千葉リハビリテーションセンター センター長
栗原 久 一般財団法人フィールド・サポートem. 代表理事
佐々木 貞子 DPI女性障害者ネットワーク
佐藤 弘行 千葉県立袖ケ浦特別支援学校 校長
高岡 徹 横浜市総合リハビリテーションセンター センター長
飛松 好子 国立障害者リハビリテーションセンター 顧問
渡邉 愼一 横浜市総合リハビリテーションセンター研究開発課
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