伊藤 利之
社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団 顧問
総合リハビリテーションのあり方検討委員会の中間報告では、障害児者の総合リハビリテーションを実現するために必要な現状の課題として、①医療と教育、医療と福祉制度間の壁を越えた連携、②障害者を対象とした地域リハビリテーションの普及、③ADLの自立を前提としない就労支援の追求、などが提示された。なかでも、就学時における医療と教育との連携強化や中・重度障害や高次脳機能障害を有する若年障害者への就労支援は、総合リハセンターにおいても困難性の高い課題であり、当面の重点課題とされた。
そこで、中間報告後に開催した2回のオンライン会議では「当面の重点課題」に絞って議論を深め、今後の展望について検討した。なお、ここに提案した「今後の対策」については、関係者が最初の一歩を踏み出すための参考に、私的意見として提案するものである。
就学年齢になったお子さんを保護者が安心して学校へ送り出せる環境を整備するには、本人/保護者を中心に、医療と教育担当者との間で自由に話し合える場が必要である。本人/保護者の立場に立てば、教育担当者による聞き取りや診断書・診療情報提供書だけでなく、医療と教育担当者間の直接的な情報交換の場に自分たちも同席して希望や意見を述べたいと思うのは道理である。ちなみに、その場合の医療担当者は校医ではなく、療育などを担当している主治医であることが重要である。
本人/保護者と医療・教育担当者間の直接的な交流の場を保障するには、以下に示す3点の条件を満たす必要がある。
そのためには、医療・教育・当事者間でデジタル環境を整備し、一定の時間を設けてオンライン会議を開くようにすれば具体化できるのではないか。少なくとも、医療と教育の間では、就学時に担当者間でリアルな引継ぎ会議を行うとともに、その後のオンライン会議の環境を整備することは経済的負担もほとんどなく、今後の連携強化に有効であろう。
急性期リハビリテーションへの移行と介護保険制度の創設は、医療保険で行う医学的リハビリテーションの期間を大きく短縮した。一方、障害者に対する社会の受け容れは、ノーマライゼーション思想の普及を背景に、障害者権利条約の批准、障害者差別解消法や雇用促進法による合理的配慮の規定などが整備されたこともあり、軽度障害では就労やスポーツ・文化活動などへの社会参加が容易になった。
一方、中・重度の障害や高次脳機能障害では未だ在宅生活レベルのサービスにとどまっていることが多く、今後は、彼らに対する就労や社会参加への支援が急務である。
医療と職業との連携を強化する具体的な対策例を以下に示す。
以上のような活動を通して、まずは、医療と職業との相互理解を深める必要がある。そのうえで、相互に顔の見える関係構築を図り、回復期リハビリテーションの段階から就労へのアプローチができる体制を整備する必要がある。
ちなみに、制度的保障としては、就労支援センターにOTの配置が求められているように、少なくとも地域リハビリテーション広域支援センターには職業リハビリテーションの専門職を配置するようにしてはどうか。そうなれば、地域リハビリテーションにおいても就労や社会参加への意識が強化され、その先に、この分野におけるソフト・ハードの環境整備が見通せるようになると考える。
とはいえ、重度障害や高次脳機能障害者の就労を実現する道は険しく、医療と福祉が連携したからといって、受け手である企業の意欲・やりがいなどを含む前向きな姿勢に繋がらなければ実現は困難である。この点を補填する対策としてICT技術の開発と普及は必須であり、今後の研究課題として最も重視されるべきものと考える。
総合リハビリテーションのあり方に関する検討会 委員一覧(五十音順)
飯塚 真理 | 国立障害者リハビリテーションセンター 第二自立訓練部肢体機能訓練課機能訓練専門職 |
家平 悟 | 障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会(障全恊) 事務局次長 |
伊藤 利之 | 社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団 顧問 |
菊地 尚久 | 千葉県千葉リハビリテーションセンター センター長 |
栗原 久 | 一般財団法人フィールド・サポートem. 代表理事 |
佐々木 貞子 | DPI女性障害者ネットワーク |
佐藤 弘行 | 千葉県立袖ケ浦特別支援学校 校長 |
高岡 徹 | 横浜市総合リハビリテーションセンター センター長 |
飛松 好子 | 国立障害者リハビリテーションセンター 顧問 |
渡邉 愼一 | 横浜市総合リハビリテーションセンター研究開発課 |