ピアサポーターの活動事例~「退院支援」に特化したピア活動について~

「新ノーマライゼーション」2023年4月号

社会福祉法人はらからの家福祉会 地域生活支援センタープラッツ 地域生活支援部 部長
毛塚和英(けづかかずひで)

1. はじめに

「はらからの家福祉会」は、精神障害者の街での暮らしを総合的に支援していくことを目的に、地域生活支援センタープラッツ(地域活動支援センター)(以下、プラッツ)・さつき共同作業所(多機能型事業所)・グループホーム4か所・ネットワーク推進事業(医療連携)を運営しています。その中でプラッツは「皆が社会参加できる・あるがままに生きがいを持った生活ができる・プラッツには誰かいる」という3つのコンセプトのもと、相談支援や障害者ケアマネジメント、居場所提供等を行っています。地域移行支援(退院促進)を念頭に置き、総合的な地域生活支援を実施していることも特徴の事業所でもあります。

加えて、平成18年から令和4年までの間、東京都より精神障害者地域移行促進事業を受託し、東京都の地域移行に関する活動を行っていました。この事業は精神科病院に長期入院されている方が円滑に地域移行を図ることができ、安定した地域生活を送るための体制整備を目的としています。当事業所としては、この事業を受託当初から「当事者とともに行う退院促進」を理念に掲げ、ピアサポーターの活動を行ってきました。それは事業を受託しなくなった今でも、法人の取り組むべき自主事業として継続しています。

2. ピアサポーターの活動を始めた経緯

同じ話をしているのに、入院患者さんとピアサポーターが話をするのと、支援者や専門職が話をするのとでは、明確に伝わり方が違うと感じることが地域移行支援を行う中で多くありました。目の輝きが違うという表現が正しいかはわかりませんが、いずれにしてもその差は歴然です。それならば、入院患者さんとピアサポーターが出会う場面を数多くつくることが私たちの役割の一つではないか、と考え、地域移行の実践にピアサポーターの活動を取り入れ、協働する機会をつくることとなりました。実際に地域で暮らす生活者としての存在は入院患者さんだけではなく病院職員に与える影響も大きいです。地域移行を考えていくためには、地域の体制づくりとともに病院の中から押し出していただく動きも必要です。なかなか地域移行が進まなかった病院がピアサポーターの姿を見て、またピアサポーターが関わる中で変わっていく入院患者さんを見て、病院が徐々に開放的になっていったこともありました。

このように、ピアサポーターとともに地域移行・退院促進を行おうと考えた理由は、入院患者さんとの「共感性」がベースになる支援、まさにピアサポート(当事者支援)の力が出せる場面と捉えたからです。

3. ピアサポーターの役割とその有効性

先述の経緯から、その場面をつくることを目的として、当事業所では、ピアサポーターを『生活の伴走者』という意味合いを強める意図として「ライフパートナー(以下、LP)」と名付け、“地域から病院に迎えに行く”という基本姿勢のもと“先ゆく人”として、必要な生活情報を届ける活動を始めました。入院中に備えておくことを伝授し、「貴方の退院を待っている」というメッセージを送り続け、退院に戸惑いや不安を感じている人たちの心に希望や期待の明かりを灯し、安心・安全を提供する、まさに「ヒューマンサポート」の担い手となっています。

LPは皆、精神科病院への入院経験があり現在は地域で暮らしています。病気になり入院に至るプロセス、入院中のエピソード、退院に向けた動き、退院後の生活の変遷など、さまざまな経験を持っています。自身の経験談を病院内で行われる退院準備プログラムなどでお伝えする、同じ立場であるという深い共感を背景に入院患者さんの話を聞き気持ちに寄り添う、研修や講演会等でピアサポーターの活動についてお伝えし有用性を広める、こういったことが主な役割です。以前は入院患者さんの外出や日中活動の体験利用に付き添うこともありました。

この活動によって私自身、LPの体験話を聞き退院を決めた方や、LPとの外出同行で生の生活体験の話を直接聞き外出できるようになった方、病院スタッフにも気持ちを打ち明けなかったがLPには話をするようになり徐々に退院希望を周りに話せるようになった方など、変化の起きた入院患者さんと多く出会う機会となりました。

4. 現状と課題

ピアサポーターの方とともに行う地域移行・退院促進への働きかけは、当事業所以外にもさまざまな動きがあると思います。少しずつではありますが、ピアサポーターの活動を病院の「中」で行ってもよいと考える精神科病院が増えてきました。そういう傾向が見られた矢先、新型コロナウイルス感染症の影響により、ピアサポーターの活動を受け入れる精神科病院が少なくなってしまいました。それは感染症の対策を取り続けなければならない医療機関としては今も続いており、ピアサポーターの活躍の場が少なくなってしまい、頭を痛める状況となっています。

しかし、このコロナ禍でICTが浸透したこともあり、病院によっては、オンライン上で行う院内の新たなプログラムを一緒に検討してくださることがあります(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

各地でピアサポーターとの協働における地域移行が進む中、精神科入院の平均在院日数の減少は見られるものの、まだ多くの方が長期入院を余儀なくされています。この現状を打破するためにも、私たちのような活動が各精神科病院の「中」で行われることが有効であるはずなのですが、それでも、新型コロナウイルス感染症の影響とは関係なく、ピアサポーターの活動を院内に取り入れない病院が多いという事実があります。加えて、ICTの活用に関しても情報保護の観点からかオンラインでプログラムを行うことに消極的な病院も多い現状でもあります。そのため、現在行っている病院の好事例をさまざまな病院と共有し、ピアサポーターの活動をオンラインでも行っていく必要性や、それを行うことで地域移行が進んでいくことも伝えていくことが重要であると考えています。

5. 終わりに

ピアサポーターは「共生社会」実現に欠かせない存在です。しかし、今の日本の精神保健福祉の分野では、その考えが残念ながら浸透し切っておりません。国連からの障害者の「人権」に対しての勧告を受けた中、精神科病院での痛ましい事件の報道も続いています。こういった状況を打破するために、不要な入院を余儀なくされている方々への地域移行を促進していく必要があります。それをより高めていく存在がピアサポーターなのだと、今までの活動を通し実感しています。精神障害のある方々が過ごしやすい地域はきっと誰もが居心地のよい生活環境だと思います。その居心地のよいコミュニティの創造に向け、ぜひ、精神科病院でも支援事業所でもピアサポーターの活動を取り入れていただけると幸いです。

これからも1人でも多くの方々が地域での暮らしを取り戻せるよう、ピアサポーターとの歩みを続けていきたいと思います。

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