中野区地域生活支援センターせせらぎにおける取り組み

「新ノーマライゼーション」2023年4月号

NPO法人リトルポケット 中野区地域生活支援センターせせらぎ 精神保健福祉士
林友里(はやしゆり)

1. NPO法人リトルポケット「中野区地域生活支援センターせせらぎ」について

東京都中野区は東京23区の西部に位置し、JR中央線を中核として東西に鉄道が数多く通り、新宿区、渋谷区にも隣接する地域です。人口は33.3万人(中野区住民基本台帳3月1日現在)おり、大学や企業に通学・通勤する方も多く利用されています。

1974年に中野区東中野のとある個人宅で革工芸教室を始めたのは、埼玉県を拠点に活動する公益社団法人やどかりの里のメンバーを中心とした数名の人々でした。革工芸の楽しさを伝えたい人と、精神障害を持ちながら当たり前の暮らしを望む人が手を取り合い、作業を始めました。現在は「NPO法人リトルポケット」(以下、本法人)として自分の暮らしたい街に住み続けることができる社会の実現を目指し、「こころの病」のある方へ、相談支援、グループワークによる支援・交流、日中活動の場の提供を通し活動を続けています。また、本法人は区内に数か所の事業所を持ち、就労継続支援B型、相談支援事業所、精神障害者回復者社会生活適応訓練事業(保健所デイケア)、グループホーム、地域生活支援拠点などの事業を行っています。

本法人のもう1つの事業として、中野区地域生活支援センターせせらぎ(以下、せせらぎ)があります。せせらぎは、1995年に授産施設として開設された「中野区スマイル社会復帰センター」を前身とし、2001年に地域生活支援センター事業として開始しました。その後、2008年にせせらぎが委託化し、本法人が受託することになり現在に至ります。

せせらぎの登録者は現在294名おり、1日平均25.9名の方が来所されています(令和5年2月末時点)。事業内容は、1.電話・面接による「相談」、2.講座・プログラム・オープンスペース・通所事業などのグループワークによる「日常生活の支援」、3.入居や転居に必要な連絡・調整等の支援を行う「居住サポート」、4.ピアカウンセリングのスタッフを配置しプログラムや面接等を通して支援を行う「ピアカウンセリング」、5.心の悩みを抱えている方やその家族を対象とした臨床心理士による「カウンセリング」の5つです。また、委託外事業として、地域移行支援、地域定着支援、自立生活援助、計画相談支援の事業も行っています。

2. せせらぎ「ピアグループ青空」の活動について

現在ピアグループ青空は、3つのプログラムを月1回ずつ行っています。

1)ピアcafé

分かち合いをベースにしたプログラムです。せせらぎが発行している機関紙の「せせらぎだより」に「ピア」という言葉が初めて載ったのは2008年3月号でした。民間委託決定の際に、新規事業としてピアカウンセリングが紹介され、同年4月号には「グループピア」としてピアスタッフによるプログラム(グループワーク)開催のお知らせが掲載されました。当時のせせらぎを知るメンバーの話によると「もともとピアスタッフはオープンスペースに入って、一緒に話したり、ゲームをしたりしてくれていた。それが次第に、時間を決めて集まろうとなり、せせらぎのプログラムとして精神保健福祉士の職員も一緒になって集まることになったんだ」と教えてくれました。

2)ピア学習会

学び合いをベースにしたプログラムです。当時社会福祉法人JHC板橋会のピアカウンセリングセミナーを活用したグループを行っていた三鷹市の社会福祉法人巣立ち会のセルフヘルプグループ育成講座にピアスタッフ・メンバー・精神保健福祉士職員で通い、そこで学んだことがグループに反映されています。

3)ピアミーティング

話し合いをベースとしたプログラムです。グループのルールの検討や、年1回行われている「ピアカウンセリング講座」の企画や打ち合わせを行っています。

3. ピアスタッフの役割と有効性

私は大学卒業後すぐにせせらぎへ入職し、学生時代から関心のあった「ピアサポート」を実践からより深めたいと考え、現在はピアグループの担当職員として運営のサポートをしながら学ばせてもらっています。

ピアグループ青空での活動は先に述べた3つのプログラムの他に、近隣大学の福祉や看護を学ぶ学生に向けた講演活動も行っています。また、せせらぎ職員としてピアサポートに関する会議や集まりにも参加しています。そのような活動を続ける中で、さまざまな立場の方からピアサポートについての質問をよく受けるようになりました。その中でもよく聞かれる質問をQ&A形式でお答えします。

Q1.ピアスタッフと働いてよかったことは何ですか?

A1.ピアスタッフである前に、斎藤さん(せせらぎピアスタッフ)は私の職場の先輩です。せせらぎのルールや働き方を先輩職員として教えてくれました。斎藤さんは精神疾患の当事者ですが、私は斎藤さんの生活の支援者ではないので、体調や病気について気を遣いすぎても失礼かなと思っています。出勤時は他の職員と同様、仕事の話をしています。

Q2.ピアスタッフの役割は何ですか?

A2.当事者であることが第一の役割だと思います。斎藤さんは当事者だからこそ気付くことのできる「目」を持っています。支援者はスーパーマンではありませんので、クライエントが望む生活を実現するために支援者自身が壁(妨げ)になる場合もあります。その壁に穴をあけたり、形を変えたりしてクライエントが望む生活の実現に一役買ってくれるのがピアスタッフだと感じています。

Q3.ピアスタッフと働いていて難しさはありますか?

A3.ピアスタッフだから難しいということは特にありません。ピアスタッフはあくまで専門職だと考えているので、医師や看護師等の他職種からコンサルテーションを受ける時と同じ感覚で相談をしています。

Q4.ピアスタッフやピアサポーターになりたいのですがどうしたらよいですか?

A4.精神疾患の経験があるだけで無条件に雇用の機会が与えられているとは考えにくいです。なぜなら、雇用する側は当事者なら誰でもよいわけではないからです。どの職種でも同じように、「人となり」も採用の決め手になると思います。その前に、雇用先を自由に選ぶことができない現状の課題もあります。

4. さいごに

「ピアサポート」という言葉に興味を示す人が、ここ2、3年で急増したと感じています。ですが、目の前の相談者の語りに耳を傾け、信頼関係を築き、共にできることを探し、社会に還元していくという点では、精神保健福祉士をはじめとした多くの支援者が長い歴史の中で変わらずに大切にしてきたことと何ら変わりはありません。それは本法人設立やピアグループ設立の背景からも読み取れることです。

ピアサポートやピアスタッフを「新しいこと」と構えすぎず、これまでに培った経験を活かし、新たな専門職としてピアスタッフという働き方が当たり前のものになることを期待しています。

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