地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-甲賀圏域(滋賀県甲賀市・湖南市)における地域生活支援拠点等整備の取り組みについて

「新ノーマライゼーション」2023年4月号

甲賀地域障害児・者サービス調整会議(甲賀地域障害者自立支援協議会)

1. 圏域および甲賀地域障害児・者サービス調整会議(甲賀地域障害者自立支援協議会)の概要

甲賀圏域は滋賀県の東南部に位置し、甲賀市・湖南市からなる人口約14万4千人(令和5年1月末)の福祉圏域です。土地面積は552.02km2で県土の13.7%を占める広大な地域です。また、圏域内に住む障がい者については、身体障害者手帳所持者5,549人、療育手帳所持者1,936人、精神障害者保健福祉手帳所持者1,442人です(令和4年3月末)。平成7年より甲賀圏域の障がい福祉に関する圏域課題を共有する場として「甲賀郡サービス調整会議」が立ち上がりました。以後約30年にわたり甲賀地域障害児・者サービス調整会議(以下、サービス調整会議)を軸に官民共同で障がいのある方々の地域生活支援の仕組みを先駆的に構築してきました。現在、甲賀市・湖南市障がい者基幹相談支援センターを中心に両市や圏域内の各サービス事業所が参加・運営に携わり運営会議・専門部会を定期的に開催し地域の障がい福祉についての協議をしています。

2. 拠点等事業整備の経過について

平成29年7月、国は第五期障害福祉計画の基本指針に「地域生活支援拠点等の整備促進」を重点施策として、市町村及び圏域に1か所整備するよう周知し、甲賀市・湖南市(甲賀福祉圏域)も共同事業として、サービス調整会議で検討を進めることとしました。甲賀地域の現状を見た時に、家族の高齢化に伴い、自宅での生活が困難になる人は相当数予測されており、自宅からの地域移行は喫緊の課題となっていました。そのため一人暮らしやグループホーム等住まいの場の確保、また自宅から次の生活に移行する際の、体験機会の保障が優先課題であることも確認されていました。地域生活支援拠点等事業は今後の地域づくりに必要不可欠であるとの認識から、平成30年10月にサービス調整会議にプロジエクト会議が設置されました。住み慣れた地域で暮らし続けるため、甲賀地域の強みを活かし実効性のある事業になるよう「甲賀ならでは」をテーマに市単独事業も盛り込み検討され、令和2年4月から運用されています。

3. 「甲賀ならでは」の取り組み内容

(1)拠点マネジャー(※1

甲賀圏域における地域生活支援拠点等事業の運営に関しては、圏域にある4つの委託相談支援事業所に各1名ずつ、拠点マネジャーを配置しており、その拠点マネジャーが中心となって、本事業における緊急時の対応や体験等の利用に関して、行政や計画相談支援事業所、サービス提供事業所等と連携しながら調整等を行っています(図1)。また、甲賀圏域では基本的には専門性を鑑み、ケースの障がい種別【身体(重心)・知的・精神(発達)】に合わせて、対応する拠点事業所(拠点マネジャー)が受け持つことになっていますが、場合によっては障がい種別にかかわらず対応することもあります。さらに、地域生活支援拠点等事業運営委員会が毎月開催され、情報交換等を行いながら、拠点マネジャー同士の連携が図れるようになっています。

図1 拠点センターを軸とした支援フロー
図1 拠点センターを軸とした支援フロー拡大図・テキスト

(2)緊急時の受け入れ・対応

利用者や介護者の緊急事態(急病や事故など)を身近な相談先(行政・相談支援・障害者施設など)がキャッチすることから動き始めます。拠点マネジャーは身近な相談先と連携し、状況整理や受け入れ先(短期入所やナイトケア事業など)の選定および利用調整など、即時的な対応のための後方支援を行います。甲賀圏域の特徴は、市単独事業で緊急時における支援者派遣機能(表1)を有しているところにあります。馴染みのない受け入れ先であれば利用者自身の不安と受け入れ先の不安が重なるような状況が想定されるため、利用者の安心と安全を確保するために馴染みのある支援機関がその受け入れ先に赴く、または受け入れ先となり対応するなどの支援を評価する仕組みです。一つの支援機関に負荷が集中することがないような体制づくりを心がけています。

表1 甲賀圏域で特徴的な市単独事業

「緊急時の受け入れ・対応」に関する機能
・緊急時地域支援員派遣事業
  2,000円/時間
(平日17時から翌朝8時、および土日祝事業所の休日は終日)
※地域生活支援拠点等事業運営委員会での協議が必要。
主たる介護者の事故・病気などにより本人の日常生活が困難になった際に、通常の支援時間外に受け止めを行った場合に支給。

※看護師等が医療的ケアを提供した際はさらに2,000円/時間を加算
「体験の機会・場」の提供に関する機能
・体験利用支援事業
  5,700円/日
※地域生活支援拠点等事業運営委員会での協議が必要。
入所・入院から地域生活へ移行する場合やグループホーム等を利用して親元から自立するための体験時の評価(アセスメント)を行うために関係職員を派遣するなどした際に支給。

(3)体験の機会・場

「自宅以外で生活体験してみたい」「施設(病院)から出て地域で暮らしたい」などの希望を身近な相談先(行政・相談支援・障害者施設など)がキャッチするところから支援が始まります。拠点マネジャーはその身近な相談先と連携し、利用者との面談への同席、体験先(アパートやグループホームなど)の選定や利用調整など、体験前から体験後に至るまでの後方支援を行います。また、甲賀圏域の特徴は市単独事業でアセスメント機能(表1)を付加している点で、利用者をよく知る支援機関が現に体験している場所を訪問し、生活スキルなどのアセスメントを実施することを評価する仕組みです。単に体験をこなすだけで終わるのではなく、体験を通じて利用者が持つ力を理解し、その力を最大限発揮できるような支援につなげていくことを目的としています。

(4)専門的人材の確保・育成

精神障がいにも対応した地域包括ケアシステムの構築、医療的ケアが必要な人や行動障害のある人、加齢に伴い障がいの状況が重度化した人等に対して、専門的な対応を行うことができる体制の確保や専門的な対応ができる人材の育成を行います。甲賀圏域では、令和4年度に人材育成プロジェクトを立ち上げました。経験年数の浅い従事者が学べる機会づくり、就職先として甲賀圏域を選択肢に加えてもらえるようにアプローチをしていくこと、今後のサービス調整会議の運営を担う次世代育成を視野に入れ検討しています。

(5)地域の体制づくり

サービス調整会議を中心にしてさまざまな地域課題の解決に向けて日々話し合っています。また、地域生活支援拠点等事業運営委員会を月1回開催し、事業促進に関する協議と現状課題の検証を随時行っています。

4. 今後の課題・展望について

このように、甲賀圏域の地域生活支援拠点等事業は、既存の事業、サービス、支援者をつなぐことによって「甲賀ならでは」の面的整備を実現することを目的に推進してきました。これまで、利用者に何かが起こった時に単独で対応せざるを得なかったこともありましたが、拠点マネジャーを中心とした臨時の支援チームで「一緒に考えられる」「役割分担して動ける」ようになったことは、支援者の負担の偏りを軽減し、より質の高い支援を届けることを可能にしました。

一方で、甲賀圏域においても障がい福祉を実施する事業者は多様化してきています。理念や目的の異なる団体が、障がい者の暮らしを支えるために夜間、休日問わず協働できるか、という問いかけに同じ答えを持っているとは限りません。事業開始直後には多くの事業所が登録をしましたが、年月が経過するにつれて新規登録事業所の減少が課題です。「親なき後」に蓋をすることなく、その先をみんなで考え、抱えていくことこそが、「甲賀ならでは」の地域生活支援であるという理念を堅持し、少しずつ力を寄せ、障がい者が「地域」の中で暮らし続けることができるまちづくりを、今後も進めていきたいと思います。


※1 全国的に使用されている拠点コーディネーター= 甲賀圏域では拠点マネジャーの名称を用いている。

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